クラウィス・カルブンクルス(朔月に狂える夜羽の眷属・d04879)は、こんな噂を耳にした。
『とある事件で助けた娘が、父親の命を狙っている』と……。
最初は娘自身が父親の命を狙っているのではないかと思ったのだが、本人は完全に心が壊れて病院から外に出た形跡がない。
そのため、都市伝説の仕業である可能性が濃厚になってきた。
一応、エクスブレインにも確認を取ってみたが情報は正しく、都市伝説が絡んでいる事は間違いない。
都市伝説は娘とまったく同じ姿をしており、影に紛れて移動する事が出来るらしく、父親の命を狙っている事は確実。
おそらく、その事実を父親本人に伝えたとしても、ボディガードは不要と言われるだけである。
何故なら、父親自身も心が壊れかけており、自ら死を望んでいるのだから……。
それでも、父親を助けなければ、都市伝説の暴走を食い止める事は出来ないだろう。
参加者 | |
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皇・ゆい(血の伯爵夫人・d00532) |
犬塚・沙雪(炎剣・d02462) |
クラウィス・カルブンクルス(高校生ダンピール・d04879) |
水無瀬・楸(黒の片翼・d05569) |
一・威司(鉛時雨・d08891) |
加瀬・玲司(月鏡で遊ぶ銀狐・d09974) |
黒夷・黒(妖門の番人其之壱・d10402) |
桜塚・貴明(櫻ノ森ノ満開ノ下・d10681) |
●当然の報い
「ふーん、自分が正しいと勝手な思い込みで人の命を奪ったのか。これこそ自業自得ってやつだね。つまり、この子も身勝手な父親の被害者、か」
事件の報告書を読みながら、水無瀬・楸(黒の片翼・d05569)が都市伝説の確認された場所にむかう。
都市伝説は以前の事件で被害者となった女性と酷似しており、彼女の父親を殺すため夜な夜な街を彷徨っているらしい。
「この都市伝説の行動……、何故かしら? 少し違和感があるわ」
事前に渡された資料に目を通し、皇・ゆい(血の伯爵夫人・d00532)が口を開く。
現在、都市伝説のモデルになった女性は、心が壊れて病院から外に出る事が出来ない。
「確かに、都市伝説の発生経緯は気になるな」
険しい表情を浮かべながら、一・威司(鉛時雨・d08891)が答えを返す。
だが、そのキッカケを作ったのは、彼女の父親。
故に彼女と全く同じ姿をした都市伝説が、父親の命を狙っているのだろう。
自分を不幸に追いやった父親に復讐をするために……。
「今回の都市伝説は標的である父親自身が呼び出した可能性が大きいですね。なので、唐突に父親の傍に現れる可能性が高いと思います」
クラウィス・カルブンクルス(高校生ダンピール・d04879)から都市伝説のモデルとなった女性の話を聞き、桜塚・貴明(櫻ノ森ノ満開ノ下・d10681)が自分なりに分析をする。
どちらにしても、都市伝説の狙いは、父親のみ。
意表をついて他の場所に現れ、無関係の人を襲うような事はないだろう。
「うーむ、娘さんに瓜二つとか性質が悪い。……とは言え、都市伝説が狙っているのは、破滅型というか何というか……なるべくベストな形をとれるよう気合を入れて行きますかね」
複雑な気持ちになりながら、犬塚・沙雪(炎剣・d02462)が都市伝説のターゲットにされた父親の屋敷を眺める。
父親は少し前までとある会社の社長をしており、屋敷は日本がバブル景気に浮かれていた頃に建てられたものらしい。
それまでは家族以外の人間をゴミ同然に扱い、他人を蹴落とし不幸のどん底に陥れていた父親も、娘が壊れてしまってからは人が変わったように弱気になり、自ら死を望むようになってしまったようである。
「まあ、死にたいならご勝手に、と言いたいところですが、都市伝説が関わってくるならそういうわけにもいきませんねぇ」
ターゲットになった父親が救いようのないほど酷い人間だと知り、加瀬・玲司(月鏡で遊ぶ銀狐・d09974)がむりやり自分を納得させた。
どう考えても自業自得なので、命を狙われても当然なように思えるが、それでも……そうであったとしても、助けなければならない。
「……何事もなく終われば良いけどな、後味悪い結末は勘弁だぜ」
最近のマイブームであるサングラスを掛けたまま、黒夷・黒(妖門の番人其之壱・d10402)が小さく首を横に振る。
どう考えても、悪い結末しか浮かばない。
おそらく、都市伝説を倒す事は容易だが、父親の心を救う事は出来ないだろう。
それが分かっているせいか、なかなか気乗りしない。
「どんな相手でも死なせるわけにはいかない、と以前に言っておいたのですが、何とも本当に世話が焼ける方ですね」
少し苛立った様子で、クラウィス・カルブンクルス(高校生ダンピール・d04879)がこめかみを押さえる。
以前に会った時も父親のあまりの身勝手さに腹を立ててしまったが、今回はそれ以上に腹を立てていた。
それからしばらくして……。
●屋敷
クラウィス達は屋敷の中にいた。
愛する娘が入院してから、父親は屋敷で働いていた者達をクビにしたらしく、最初はボディガードは不要と言ってたのだが、その相手が娘であると知って一変。
クラウィス達を屋敷の中に招き入れ、詳しい話を聞いていた。
おそらく、参加者の中にクラウィスがいたためだろう。
自分の落ちぶれた姿を見せつけ、その反応を見たかったのかも知れない。
お前は誰も助ける事など出来はしないというメッセージを込めて……。
「……まったく、自分の過ちに目を背けて死に逃げようとする姿は、無責任にもほどがある。娘や日常を壊したのは『他人が悪い』と逃げ続けた結果であると言うのに、まだ逃げるのか?」
不機嫌な表情を浮かべながら、クラウィスが都市伝説の標的となった父親に語り掛ける。
しかし、父親はまるで他人事のように呆けた表情を浮かべていた。
気のせいか、以前に会った時と比べて、だいぶ老けてしまったように見える。
それでも、クラウィスは再度きちんと自分の罪を認めた上で、生きて罪を償う様に勧告したいようだった。
ほとんど心が壊れてしまっているとはいえ、まだ正気の部分はあるのだから今度こそ人の親としてきちんと真っ当に生きて欲しいと願っている。
「……逃げる。ああ、そうかもな。だから、どうした。自業自得だと言いたいんだろ。ああ、その通りさ。まわりの奴らも言っていた。あの一件以来、みんな手のひらを返しやがった。畜生、畜生、畜生っ!」
悔しそうな表情を浮かべ、父親が拳を震わせた。
おそらく、あの一件で生活が一変してしまったのだろう。
それは父親の顔を見ているだけで、何となく想像する事が出来た。
「まあ、そんな事はどうでもいい。ほら、お迎えが来た」
ホッとした表情を浮かべ、父親がニコリと微笑んだ。
その視線の先には、娘の姿をした都市伝説が立っていた。
だが、本物の娘と比べて目が虚ろで、髪の毛はボサボサ。
それでも、父親には愛する娘のように見えていた。
「悪趣味ここに極まれり、ってか。……邪魔させてもらうぜ。まあ、お前さんが『本物』なら、俺も止めなかったかも知れないが、こいつを楽にしてやる気は更々ないんでね」
都市伝説の行く手を阻み、楸が父親の身を守る。
しかし、父親の方は死ぬ気満々。
「早く殺してくれ。一思いに! いや、お前の気が済むように!」
もはや祈りであった。
楸を押しのける勢いで、父親が大声を上げている。
「殺す、殺す、殺すゥ!」
まるで呪文を唱えるようにして、都市伝説が迫ってきた。
「お前は一体何物で、何故この男を狙うのか。何故娘の姿で襲ってくる」
都市伝説に語り掛けながら、威司が攻撃を受け止めていく。
「退……け、退け……、退けぃ!!」
殺気立った様子で、都市伝説が奇声をあげる。
都市伝説は何も答えない。
だが、都市伝説にとって、父親を殺す事が存在理由。
そういうに出来ているのだから、それに疑問すら感じていないのだろう。
「悪いけど、やらせないわよ」
巧みに鋼糸を操って都市伝説の動きを封じ、ゆいが警告混じりに呟いた。
「何故、邪魔をするっ!」
ケモノの如く後ろに飛びのき、都市伝説が恨めしそうにする。
それは人というよりも、まるで血に飢えた狼のように見えた。
「我がいる限りそうやすやすと通ると思うな。しばし、こちらに付き合ってもらうぞ」
すぐさま闇纏いを解除し、沙雪がシールドバッシュを使う。
「……断る! お前達に用はない! 用があるのは、そいつだけだ!」
ボサボサの髪を振り乱し、都市伝説が父親を指差した。
「こ、殺せ! お前に殺されるのなら、本望だ」
父親もそれを望んでいるのか、ボロボロと涙を流して両手を開く。
「少し眠っていて下さいまし」
首の後ろに手刀を落とし、沙雪が父親の意識を奪う。
「目を覚ました時には、すべてが終わっているはずです。そう……、すべてが……」
気絶した父親を抱きかかえ、貴明が安全な場所まで下がっていく。
その途端、貴明の背後で何かが割れる音がした。
「オ、オレのグラサンが……。これオーダーメイドで作ったから、かなり高かったんだぞッ!!」
都市伝説の攻撃によってサングラスを壊され、黒がその場に崩れ落ちる。
しかし、都市伝説はそんな事など気にせず、サングラスを踏み潰す勢いで黒達に迫ってきた。
●娘
「……よほど父親の命が欲しいようですね」
少しずつ間合いを取りながら、貴明が影喰らいを放つ。
それと同時に都市伝説が飛びのき、威嚇するようにして唸り声を響かせた。
「まあ、それが存在理由だからな」
都市伝説の死角に回り込み、威司がソニックビートを発動させる。
その一撃を食らって都市伝説が、派手にバランスを崩す。
「……弁償しろ!」
都市伝説を上回るほど恨めしそうな雰囲気を漂わせ、黒がホーミングバレットを撃ち込んだ。
「うるさい、黙れ!」
だが、都市伝説は弁償する気などない。金もない。
「切り刻んであげるわ」
そのまま都市伝説を迎え撃ち、ゆいが斬弦糸を仕掛ける。
それでも、都市伝説は父親の命を奪うべく、ゆい達に飛びかかってきた。
「我が剣に断てぬもの無し」
一気に間合いを詰めながら、沙雪がレーヴァテインを放つ。
それと同時に都市伝説の体が紅蓮の炎に包まれ、『お父さん!!』と叫んで跡形もなく消滅した。
「な、何故だ! 何故、助けた。死なせてくれ」
娘の声に驚いて飛び起き、父親が沙雪達に抗議する。
都市伝説が最後に残した言葉が……、父を呼ぶ悲痛な叫びが……その心に届いたのだろう。
それは父親にとって、特別な言葉。
その言葉がどういった状況で発せられるのか分かっていた父親だからこそ、都市伝説の痛みが……そして苦しみが分かったのかも知れない。
そのため、娘を二度殺してしまったという後悔が父親の心に宿る。
それが間違った考えである事にさえ気づかぬまま……。
「死なせてくれ、だと? 2人の人生狂わせた奴が、ふざけんなよ? どんなに苦しかろうが、生きて償いやがれっ! 死んで楽になろうなんざ許せんな」
父親の胸倉を掴み上げ、楸が吐き捨てる。
だが、父親は既に生きる気力を失っており、まるで抜け殻のようだった。
「そうやって、今度は娘に罪を負わせるつもりか。少しでもまだ正常な心が残るのならば、今度こそ自分の罪を認めて生きて償うべきだ」
父親に冷たい視線を送り、クラウィスが言い放つ。
その言葉が父親の胸に響いたのか、崩れ落ちるようにして座り込み、娘に謝るようにして泣き崩れた。
あまりにも変わり果てた娘を見て、封印した記憶。
あの時、娘は死んだのだ。あれは……、あんなものは娘でないと、自分自身に思い込ませ……。
すべてを否定したかったのかもしれない。何も認めたくなかったのかも知れない。
だが、娘は生きている。いまもなお……。
「全く、誰かに死を願う暇があったら娘さんに会いに行ったらどうです?」
深い溜息をつきながら、玲司が皮肉めいた言葉を吐く。
その途端、父親が『わ……、分かった』と答え、まるで子供のようにワンワンと泣き出した。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年1月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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