一位に魅入られた献身さ

    作者:奏蛍

    ●不穏な少女
    「ねぇ、私のこと知ってるかな?」
     斎藤・宏太(さいとう・こうた)は最初、夢だと思っていた。なぜなら今は夜中で、自分は布団に入って寝ていたからだ。目の前には同じ学校の制服を着た少女がいる。
     状況が状況なのだが、自分を少女が起こすという夢に内心どきどきしてしまう。しかも顔が近い。にっこりと微笑む少女はなかなか可愛い気がして来る。
    「ねぇ、私のこと知ってるかな?」
     少女がまた同じ質問をする。宏太は何も考えずに首を振った。もしかするとすれ違ったことのある少女なのかもしれない。けれど自分の記憶の中には少女が存在していなかった。
    「私、和田・花音(わだ・かのん)」
     花音ちゃんって言うのか……可愛いなぁ。頭が小さい花音にはショートボブの髪型が良く似合う。
    「でも覚えなくていいよ……」
     今までで一番可愛らしい笑顔で笑った花音が宏太の心臓の上に手を置く。そして一度その手を心臓から放すと、詠唱圧縮した魔法の矢を放った。
     心臓は綺麗に貫かれ、夢の中にいると思ったまま宏太は二度と目覚めなかった。
    「最下位の私のことなんて名前も覚えてないんだもん。あと何人殺したら一番かな? ふふ、あはははははははは」
     少女の笑い声が静かな家の中に響き渡った。その瞳はすでに花音のものではなくなっていた。
    ●大量殺人を止めろ!
    「花音ちゃんという少女が闇堕ちしかけているみたいなんです」
     天月・一葉(自称萌えの探求者見習い二号・d06508)が仲間である灼滅者(スレイヤー)たちに、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)からの情報を説明する。
     ダークネスの持つバベルの鎖の力による予知をかいくぐるには、まりんたちエクスブレインの未来予測が必要になる。
     花音がおかしくなり始めてしまったきっかけは、献身的な心だ。家族が多いが、両親は共働き。幼い弟や妹の面倒を見るのは花音の役目だった。献身的で健気な花音は嫌な顔ひとつせず、進んで面倒を見ていた。
     しかしそのせいで成績はいいとは言えなかった。勉強する時間がほとんどないせいで、高校に入ってからは万年最下位という結果に陥ってた。そのことで教師たちに責められ、勉強する時間が取れない原因を作っている両親にまで責められる。
     だったら、自分よりも上の順位の人がいなくなればいい。だんだんと花音の中で何かが壊れ始める。
     そして万年最下位の人とネットなどで話をするようになった。この頃には弟や妹の面倒もそっちのけになっていた。
    「このネットで知り合った万年最下位の方たちが花音ちゃんに賛同してしまったようなんです」
     そして事件が起きる。花音が通う学校の万年一位の宏太が一番最初の標的となる。花音は闇堕ちしかけているが、まだ元の人間としての意志を残している。
     灼滅者になれる素質があるのなら、助け出してもらいたい。しかし完全にダークネスになってしまうのならば、その前に灼滅して欲しい。
     花音とその配下5人の万年最下位とは、宏太の家の途中にある人気のない高架下で会える。そこなら夜中ということもあって一般人を巻き込む心配がない。
     花音は魔法と契約の指輪で攻撃して来る。配下はマテリアルロッドを持つ者が3人、契約の指輪を持つ者が2人だ。
    「花音ちゃんに本当に大切なことを思い出させてあげれば、闇堕ちから救えるらしいです」
     献身的な純粋な心はもちろんだが、順位だけが大切ではないことを思い出させてもらいたい。
     その状態で灼滅することが出来れば、ダークネスだけを灼滅することが出来る。配下5人も灼滅することで一般人に戻れるので、遠慮なく灼滅してもらいたい。
     花音を止めなければ、彼女たちが一位になるまで殺人が起こることになってしまう。
     全員を見渡した一葉がひとつ呼吸を置いてから告げた。
    「花音ちゃんを助けてもらえないでしょうか?」


    参加者
    漣・宗一(炎虎・d00547)
    アンカー・バールフリット(宮廷道化師・d01153)
    綾神・湊(銀鬼・d05782)
    天月・一葉(自称萌えの探求者見習い二号・d06508)
    イワン・ミハイロフ(クラヴァーヴィルナー・d07787)
    イリヤ・ミハイロフ(ホロードヌィルナー・d07788)
    南波・柚葉(偽心坦懐・d08773)
    穂都伽・菫(泣き虫花・d12259)

    ■リプレイ

    ●思いの行方
     真夜中の高架下で協力を引き受けてくれた灼滅者達に、天月・一葉(自称萌えの探求者見習い二号・d06508)がお礼を告げた。そんな一葉の頭に、少し前に依頼で出会った少年のことが浮かぶ。
     満君はお元気ですかねぇ。なんて思いながら、今回のターゲットにされた宏太と仲良く出来ているか気にもなってもいた。けれどそんな様子は微塵も見せず、常に笑顔の表情を風で揺れた白い髪が隠す。
     同じ風に不精そうなくせ毛を揺らされて、南波・柚葉(偽心坦懐・d08773)が左サイドに纏めた髪をおさえる。
    「柚葉ちゃんもありがとうございます」
     どこかゆったりとした様子で一葉の顔を見た柚葉が微かに微笑む。一葉と柚葉は同じ寮生であり、先輩後輩の長い付き合いだったりする。
    「でも、もし上の人を殺してのし上がれたとして……ホントに満足するのかな」
     あたしはヤだな、一人中一位なんてさ、と呟く柚葉にイワン・ミハイロフ(クラヴァーヴィルナー・d07787)が同意する。
    「あぁ、虚しいと思うぜ」
     うなじから伸びたひと房の髪が揺れた。横にいた瓜二つの顔をしたイリヤ・ミハイロフ(ホロードヌィルナー・d07788)が静かに頷いて眼鏡の縁を指で押し上げた。二人の見た目の違うところはイリヤのかけている伊達眼鏡だけだ。外見と違って、内面は違うところがたくさんあったりする。
    「花音さんは本当は優しい方なんですよね……何としても救い出してあげたいです」
     勉強はこつこつと、毎日教科書を読むだけで充分だと思っている穂都伽・菫(泣き虫花・d12259)が悲しうにそ目を伏せた。それすら花音に出来る時間がなかったとしたら、どれだけ辛かったのだろうかと……。
     皆の話を聞いていたアンカー・バールフリット(宮廷道化師・d01153)が眉を寄せた。花音個人の問題なら別だが、今回はそうじゃない。周辺環境を含む連鎖が引き起こしたと言える事件だ。
     その只中に放り込まれて戸惑い闇に堕ちてしまいそうな花音にかける言葉が見つからない。取り繕いの言葉しか思いつかないのだ。ならば花音の敵になろうと思う。
     物事を決めるのは善悪ではなく、強弱が世の習いとしたら飾りはいらない。自分は自分の力で自分の正義を花音に示そうと思う。高架下に近づく足音を聞きながら、アンカーは身を引き締めた。
     高架下に現れた六人の目の前に、イリヤが飛び出す。
    「君達にはここで留まってもらう」
     目の前に現れた姿に、六人の足が止まった。
    「宏太君を殺しても、君の順位は上がりはしないよ」
     アンカーの言葉に、花音の瞳が微かに開く。
    「どうしてそれを?」
     花音の言葉に、一緒にいた五人から声が上がる。何でこんなところにいるんだ? と疑問の声に、アンカーが答える。
    「これから君達が何をするかを考えるといい」
     そうそうと開いた口から八重歯を覗かせて、漣・宗一(炎虎・d00547)が前に出る。
    「傷舐め合うんが友達ちゃうやろ。友達は選ばんとな?」
     今何時だと思ってんねん、弟やら妹に悪影響やでと赤い瞳が花音を見つめる。軽く首を振る花音のショートボブの髪が緩やかに揺れた。薄い反応しか見せない花音に綾神・湊(銀鬼・d05782)が元気よく挨拶をする。
    「君が花音ちゃんだね♪ 俺、綾神湊っす! 初めまして♪」
    「そうですね、挨拶って大事ですよね」
     同じクラスの湊に習って、笑顔で挨拶をする一葉にも花音は冷たく首を振った。

    ●説得しながらの戦い
    「学園順位、下から数えて三十三番目の俺参上!」
     冷たい空気が流れる中、イワンの声が響く。一位って一人しか取れねぇんだろ。勉強だけじゃなくね、色々あるじゃん? と言うと花音以外から不満な声が聞こえてくる。最下位じゃない人にはわからないと。
     ただ、花音だけは一言も喋らず虚ろな瞳でイワンを見ただけだった。さらに宗一が説得しようとする。
    「まぁ、出来が悪いって言われる気持ちは判らんでもないで」
     自分も成績は良くなく、喧嘩ばっかりしていたと。学校の順位なんて今だけであり、大事なものは他にあると。
    「どいてくれる気、ないのね?」
     冷ややかな花音の声が響き、高純度に詠唱圧縮された魔法の矢が宗一を貫く。苦痛に顔を歪めた宗一が痛みを飛ばすように首を振って構えた。
    「さて……まずは、悪い虫から退治せなあかんか」
    「チッ、やっぱ戦うんっすかっ!!」
     同時に、湊が武器を構えた。そして花音が攻撃したのを受けて、五人がそれぞれ武器を手にした。
    「それじゃ、やろうか」
     片方のつま先で地面とトンと鳴らしたイリヤがどす黒い殺気を無尽蔵に放出した。攻撃を受けた賛同者から悲鳴が上がる。
    「悪いけど早々に倒させてもらうよ」
     まりんから遠慮する必要はないと言われているため、イリヤの攻撃に迷いはない。何より問題は花音をどう説得するかだった。
    「花音さん、このままじゃ自分ですらなくなってしまいます!」
     傷を負った宗一に護符を飛ばして回復しながら菫が必死に伝えようとする。今、花音がどういう状況になってしまっているのかを……。
    「黙れ! 花音さまに間違いはない! 花音さまがこうすればいいと言うならそれが正しいんだ!」
     菫の声をかき消すように、声を荒げた賛同者が攻撃して来る。殴りつけられ、同時に魔力を流し込まれた菫の体が微かに揺れる。しかし代わりに攻撃を受けたのは菫のビハインドであるリーアだった。
     味方が攻撃したのと同時に傷を負った賛同者を二人の仲間が回復する。回復されなかった一人に、螺旋の如き捻りを加えた槍が穿つ。
    「余程追い詰められて居たんですね、誰かに自分の辛さを告げることも出来ずに」
     でももう大丈夫ですと一葉が語りかける。全部吐き出して構わないと、不満も不安も全部自分たちが聞くからと。
    「今回だけじゃなく、貴女が望むならこれからも!」
     一葉に穿たれた賛同者の一人が、崩れ落ちる。そして、倒れたまま動かなくなった。
    「いいこと言うっすね!」
     そう言いながら、影で作った触手で湊が賛同者を絡め取る。それにイワンが追撃する。鍛え抜かれた超硬度な拳で撃ち抜いた後、歯を見せてニヤリと笑う。
     さっと鋼糸を巻き付けさせた柚葉が耳を傾けてくれる様、言葉を紡ぐ。
    「先月のテスト、あたしも一応クラス最下位だったんだ」
     花音とは違って特別な理由もなく、責められたりもしない。そのため全ての気持ちがわかるとは言えない。
    「でも、勉強に拘らなくていいと思うんだ。上位の人を手にかけて、大事な家族もほっぽらかして掴んでも……」
     きっと大事なものを失う。その言葉に微かに反応を見せた花音だったが、賛同者の声に首を振る。自分は一位にならなければいけないのだと。花音を惑わせようとする柚葉に魔術の雷が襲う。
    「んっ……」
     痛みに顔を歪める柚葉を横目にアンカーが構える。
    「堕ちてなお弟や妹に責任転嫁しなかった優しは評価に値する」
     けれど自分は自分の正義を貫くと言うように、魔法の矢が敵をとらえ貫く。膝をついた賛同者はそのまま倒れ、動かなくなった。
     残りは花音と賛同者三人。マテリアルロッドがひとつ、そして契約の指輪が二つきらめいた。

    ●花音よ、瞳を開け
     花音が魔術によって引き起こした竜巻が灼滅者たちを襲う。アンカーと菫以外を巻き込み、傷を負わせて行く。さらに花音に合わせて賛同者が引き起こした竜巻が追撃して行く。
     ふらついた湊に向かって菫が急いで護符を飛ばす。
    「本当にその方法で一位になって、貴方の大切な人たちは喜びますか?」
     泣きそうな声で菫が訴える。オーラを癒しの力に転換したアンカーがさらに湊の傷を癒す。礼を言う湊の声と同時に賛同者から石化をもたらす呪いが宗一にかかる。
     宗一に怒りを付与されたからか、他は目に入っていない様子だ。傷を負いながらも、宗一はもうひとりの契約の指輪をつけた賛同者をシールドで殴りつける。
    「あんまし上手い事言える気はせんけど、全員いなくなればええっちゅーのは間違ってるやろ」
     大事なものを思い出せと言うように声を上げる宗一。
    「勉強時間を犠牲にしても、家族の為に頑張ってたんやろ?」
     その今までを否定しないで欲しいと……。微かに揺れる花音の瞳とは裏腹に、賛同者は怒りを現わにする。
    「その家族のせいで苦しんでるってわからないの!?」
     さらに宗一を痛めつけるように、もう一人の契約の指輪から石化の呪いが襲う。自分の傷くらいなら気にせず攻撃を優先しがちの一葉だが、仲間のためならそれも変わる。オーラを癒しに変換させて、宗一を癒していく。
    「貴女が本当に大事な物はなんですか?」
     弟と妹の、家族の元気な笑顔だったんじゃないですか? 静かに告げる一葉に、花音がびくっと震える。弟と妹。そう言えば、最後に会話したのはいつだろう? 最後に声を聞いたのは?
     花音がはっと顔を上げたのは、イリヤの手で賛同者がまた一人倒れたからだった。いつの間にか死角にに回り込み、斬り裂かれた賛同者は動かなくなっていた。
    「君は家族に献身的な少女だと聞いた」
     献身とは、我が身を犠牲にして尽くすこと。元々そういう心があった花音に対して、何が大切だったかを思い出させようとする。
    「これまで勉強よりも弟と妹を優先し面倒を見てきたのはそれ程大切だったからだろう」
     イリヤの言葉を振り切るように、花音は必死に首を振る。ダメだ、ダメなんだ! 螺旋の如き捻りを加えた湊の槍が賛同者を穿つ。
    「君は親が悲しくなるのが嫌だったんすね……」
     湊の言葉に花音の瞳が開かれる。もしかすると、万年最下位しか取れない自分のことを見る顔を思い出したのかもしれない。でもそんな花音に湊は悪くないと伝える。
     花音の動揺と、倒れた仲間を見て残りの賛同者が声を上げる。
    「花音さま、あなたがそれじゃあ困ります!」
     責めるような言葉ではなく、すがるように花音に声をかけている。自分で救いの道を見いだせなかった賛同者は、花音に救いを求めていた。その言葉を消すように、光の刃が撃ち出される。
     賛同者がまた一人倒れ、動かなくなった。
    「……どうしても一位がいいの?」
     柚葉が言葉を紡ぎながら一葉を一目見る。
    「かわいいんだし、誰かにとっての一番とかになれるんじゃないかな」
     一葉を見たことで、柚葉の中で何かが変わったのか言葉に熱が入る。
    「あぁ……というかもうなってるじゃん」
     柚葉が微かに微笑んで花音を見る。何を言いたいのかわからない花音の瞳に戸惑いが浮かぶ。
    「面倒見の良さ第一位」
     弟と妹にとっても一番のお姉ちゃん。花音の瞳が見開かれて、ポタリと一滴だけ涙が溢れた。口を開こうとしたたった一人残った賛同者に、闘気を雷に変換して宿された拳のアッパーカットが決まる。
    「ちょっと、黙ってな!」
     イワンに続いてリーアが霊擊を決める。花音を惑わせる賛同者は一人もいなくなった。

    ●献身的な心
     攻撃していいのか、花音の中で葛藤が生まれていた。
    「なんで一位じゃないとダメなんだ?」
     イワンに聞かれてすぐに答えられなくなっていた。
    「だ、だって……」
    「弟と妹の面倒見てたお前はカッコいいと思うぜ」
     もー少しわがままに自分のことを俺みたいにやってみろと提案するイワンに花音の体が震える。
    「別にすぐ一位にならなくともいいんです」
     ひとりじゃないから私たちとでもいい、考え直そうと言う菫に花音は耳を塞いで首を振る。
    「お願いです、貴女が今まで全てを投げ打ってでも守ってきたものを見失わないで下さい」
     一葉の言葉に振っていた首が止まる。
    「うあぁあああああああ!」
     急に悲鳴を上げた花音ががくりと首を落として、顔を上げると灼滅すべきダークネスになっていた。魔術によって引き起こした花音の雷がイリヤを襲う。
    「くっ……」
     しかし、代わりに傷を負ったのは瓜二つの双子のイワンだった。無愛想に照れたイリヤがロシア語でありがとうと言うと、同じように言わんがロシア語でどういたしましてと返事をする。
     兄として当然と言うように得意げにニヤリと笑うイワン。
    「僕の邪魔しないでね」
     そんなイワンに照れ隠しなのか、イリヤがツンと付け足す。弟妹を思う気持ちは理解出来るし、家族は特別だと思う。でもときどき悪態をついてしまうイリヤだった。
     そんな二人のやりとりと同時に一葉が高速の動きで死角に回り込み、花音を斬り裂く。すかさず湊が影で作った触手を放ち絡め取る。そして宗一が花音を斬り裂く。
     花音がふらつき、ショートボブの髪が揺れる。しかし、そこから覗く瞳は花音のものではない。
     本当の花音に戻すために、柚葉が鮮血の如き緋色のオーラを武器に宿し攻撃する。間髪開けずに、イリヤが赤きオーラの逆十字を出現させ切り裂く。
    「うぅ……」
     今にも倒れそうな花音に、アンカーと菫に傷を癒してもらったイワンが止めを刺す。
    「目ェ覚ましてやンぜ!」
     超硬度の拳が花音を撃ち抜いた。どさっと言う音と共に花音が倒れる。高架下は静まり返った。
     全員で賛同者と花音の生存を確認していると、花音が目を覚ました。倒れた花音のことを支えていた湊がそのままそっと花音を抱きしめて頭を撫でる。
    「一緒に頑張ろうな」
     その言葉に花音の瞳からポロポロと涙が溢れた。そんな花音に宗一が話しかける。
    「胸張ってたらええねん。俺らは和田の今までを否定したりせんで?」
     そして、笑顔で付け足す。大事な弟と妹が待ってるから早く帰らないとなと。何度も頷きながらも、花音の涙は止まらなかった。
    「ね、花音先輩。大事なことに気つけばいいコトずくめだ」
     微かに微笑む柚葉に一葉が賛同する。
    「柚葉ちゃん、いいこといいますね」
     嬉しそうに笑う一葉に柚葉がゆったりとこくんと頷く。菫も嬉しそうに花音を救い出せたことに笑顔を見せる。
    「武蔵坂学園という所があるのだが、もしやり直す気があるなら歓迎する」
     笑顔のアンカーの言葉にイリヤも賛同する。瞳を瞬かせながら、涙を拭った花音が無言で頷く。口を開いたらまた涙が溢れてしまうようだった。
    「俺は帰ったら補習と宿題か……」
     帰るときになって思わずイワンが肩を落として呟く。一瞬の間が空いて皆から笑い声が上がる。微かに笑顔を覗かせた花音に一葉はほっとする。
     満君と宏太君のことを聞くのは今すぐじゃなくてもいい。花音は救われた。これから機会は何度でもある。
     真夜中の高架下に笑い声が響いていた。

    作者:奏蛍 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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