聖・生クリーム

    作者:海あゆめ

     ある日の街中で、ニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)は妙な光景を目にした。
     そこは、駅前にある人気のたい焼き屋さんで、その日も店先には沢山の人で賑わっていた。
    「それじゃ、餡子を五つで……あ、一つは食べ歩き用にして下さい」
     そんな注文をしていた一人の女性が、会計を終えた後、ほくほくの笑顔で出来たてのたい焼きを頬張りながら歩き出したその時である。
    「すみません! ちょっと待って!」
     慌てた様子でその女性を呼び止める、他の女性。
    「いけないわ! その餡子からは邪悪なオーラを感じる……!」
     畳み掛けるように、もう一人の女性が現れて、たい焼きを頬張っていた女性を左右からがっちりと挟んで捕らえた。
    「えっ、ちょ、ちょっと何ですかあなた達は……!?」
     突然のことに狼狽する、たい焼きを頬張っていた女性。
    「早く、浄化を……!」
    「生クリーム様の浄化を……!」
     お構いなしに、慌てた様子の二人の女性は、意味不明なことを呟きながら、たい焼きの女性をどこかへと連れ去っていく。

    「……何だ、あれ……?」
     去っていった女性達を目で追いながら、ニコは怪訝な顔つきで首を傾げた。
     

     数日後、武蔵坂学園の空き教室にて。
    「ニコが見たアレね、やっぱダークネス絡みだったみたい~」
    「やはりそうか……」
     ふむ、と納得したように頷くニコの横で、斑目・スイ子(高校生エクスブレイン・dn0062)は、へなへなと力なく席に着き、へたれ込んだ。
    「これはソロモンの悪魔の仕業だね~。洋菓子……特に生クリームを崇拝する邪教が事件を起こしてるの……うっぷ……」
     何やら真っ青な顔で、口を押さえながらよろよろとしたスイ子が言うにはこうだ。

     生クリーム教団という妙な集団が、最近、女性を連れ去っていくという事件を起こしているらしい。
     生クリーム教団はすべて女性で構成されている小さな集まりで、ソロモンの悪魔に力を授けられた幹部が1名、強化された一般人が4名、そして、教団の目指すものに共感を抱いてしまった普通の一般人が10名ほどが集まっているとのことだ。
    「生クリーム教団には、ニコが見た駅前のたい焼き屋さんで会えるよ。んで、連れ去られる条件は三つ。女性だってことと、餡子のたい焼きを5個以上買うこと、それから、餡子のたい焼きを食べながら歩くことだね~」
     それらの条件を満たせば、どこからともなく生クリーム教団の女性達が現れて、教団本部へと連れて行かれるらしい。
     この方法で接触するのが手っ取り早い、と、スイ子は灼滅者達に告げた。
     事前に生クリーム教団の女性達を探そうにも、彼女達は一般人なので、他の一般人と見分けもつかない。
     危険かもしれないが、ここは囮を立てて、教団本部への道案内をしてもらうのが一番苦労のない方法だろうし、バベルの鎖に察知される危険性もないはずだ。
    「えっと……囮になる人は、女性に見えればいいだけだから、もし男の子が囮やるって場合は、女装すればいいよ。うん。すればいいよ、女装」
     いつもなら面白がって笑うような事にも、スイ子はぐったりとしな垂れながら説明を続けた。
     と、いうのも、生クリーム教団に捕まった女性がされてしまう事を知って、スイ子はひどい胸焼けを起こしているのだ。
     生クリーム教団は、捕まえた女性を三日三晩閉じ込めて、朝昼晩、生クリームたっぷりの洋菓子だけをたっぷりと食べさせ、生クリーム漬けにしてから解放するという暴挙を繰り返している。
     そこで、生クリームに目覚めてしまった女性は、晴れて生クリーム教団の仲間入りをし、そうでなかった女性は、スイ子のように胸焼けを起こしながらお家へ帰り、涙で枕を濡らしつつ、体重計の電池をそっと抜く作業に取り掛かるという……。
    「そこで~、みんなには生クリーム教団を壊滅に追いやって欲しいの~……うぇっぷ……」
     生クリーム教団幹部の女性は、もはや重度の生クリーム至上主義で救いようはないようだが、他の教団の女性達はまだ救える可能性はある。
     囮捜査で教団本部の場所を突き止め、片っ端から教団の女性達を倒せば、生クリーム教団を壊滅させることができるだろう。
    「一歩間違えば、生クリーム漬けになっちゃう危険な任務だけど……みんな、頑張ってね! ……うっぷ……ニ、ニコ……あたし、もしかしたら、できちゃっ……」
    「妙な冗談はよせ」
     性質の悪い冗談を口走りかけたスイ子を、ニコは光の速さで遮った。

     ともかく、この生クリーム教団を壊滅させなければ、生クリームに溺れる女性や涙する女性が次々と出てしまうだけでなく、ソロモンの悪魔の力も増幅してしまうだろう。
     灼滅者として、一刻も早く何とかしなければ……!


    参加者
    周防・雛(少女グランギニョル・d00356)
    色射・緋頼(兵器として育てられた少女・d01617)
    古城・けい(ルスキニアの誓い・d02042)
    アルファリア・ラングリス(蒼光の槍・d02715)
    ニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)
    樹・瀬護(生命を盾に飛ぶ・d03713)
    御手洗・流空(はぐれ紅・d06024)
    小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)

    ■リプレイ


     とある駅前のたい焼き屋は人気のお店で、今日もたくさんの人で賑わっている。
     列を作って並んでいる人々の中に、ふわふわの、いわゆるロリータファッションに身を包んだ少女が二人。
    「うふふ、ニコ、お似合いですのよ」
    「…………嬉しくないぞ」
     とってもいい笑顔で小首を傾げる、周防・雛(少女グランギニョル・d00356)に、ニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)は、ため息混じりにゆるゆると首を横に振った。
     とっておきのドレスにばっちりメイク。少女二人というのは実は語弊で、正確には少女一人と青年一人であった。
     なぜ、こんなことになったのかと言えば、事の発端は十数分ほど遡る。
     今回の事件解決には、女性か女性に見える囮が必要だった。集まったメンバーの中には女性も多くいたが、事件を直接持ち込んだという責任感からか、はたまた回りからの強い推しに負けたのか、何故かニコが囮役を任されてしまった。
     同じく囮役を買って出た雛に、ニコが用意してきた女装の道具を見せた時、それは起こった。
    「ニコ? そんなお遊びの女装でよいですの?」
    「女に見えれば大丈夫だって言っていただろう、そんなに本気にするな……!」
    「いけないわ。どうせ女装するなら徹底的にやってみた方が楽しくってよ? オベロン、ティタニア、取り押さえるの!」
     シンプルな長髪のウィッグとパンツスーツの入った袋が、ドサリと床に落ちた。
     そうして、雛の手によりフランス人形のようなニコが完成したのだった。
     二人で並んで、作戦通り餡子のたい焼きを五個買う。一つは食べ歩き用にと注文すると、店のおじさんが、お嬢ちゃん達可愛いからサービスしちゃう、などと言って一つずつ多くたい焼きをつけてくれた。
     ほくほく上機嫌な雛と、げんなりするニコ。歩きながら餡子のたい焼きをぱくついていたその時、事態は急変する。
    「ちょっと待って下さい!」
    「その餡子は危険です!」
     血相を変えて駆けつけてくる女性が二人。ニコと雛の腕をがっちり掴んで走り出す。
    「早く、生クリーム様の浄化を!」
    「急いで! 手遅れになる前に!」
    「……来たか」
     間違いない。この女性達が、噂の生クリーム教団だ。このまま拠点まで連れて行って貰えれば作戦通り。ニコは無抵抗なまま女性達に歩調を合わせる。
    「オ・スクール! おたすけー、ですのー!」
     一方、雛は一応ちょっとだけそれっぽく抵抗しつつ、そっとアリアドネの糸を伸ばした。


     伸びてきたアリアドネの糸を確認しつつ、できるだけ見失わないように、女性達に連れて行かれるニコと雛を追う。
    「ニコくん、かわいいね」
    「これはさすがにクラブの皆さんにお知らせしませんと」
     尾行しながらも、あまりのニコの変身っぷりに、小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)は無邪気に顔を赤らめて感心し、アルファリア・ラングリス(蒼光の槍・d02715)は思わずカメラのシャッターを切る。
    (「俺だって女装なんか好んでしたくはないもんなぁ。ごめん、ニコさん」)
     そんな仲間達を横目に、つい面白がって女装を推してしまったことを少し反省しつつ、御手洗・流空(はぐれ紅・d06024)は合掌した。
     いやいや、本人達はいたって真面目に任務に当たっている。面白い事になっているように見えるのは、きっと気のせいだ。
     不審に思われない程度の距離を保って、人ごみに紛れながら慎重に尾行を続ける。
     そのうち、女性達はビルとビルの間の細い路地へと入っていった。ビルの裏路地には表から見える新しくて綺麗なビルとは裏腹に、昔からそこにあったと思われる古くて今にも崩れそうな小さなビルがいくつも隠れていた。
     その中のひとつに、女性達がいそいそと入っていく。
    「どうやら、あそこがそうみたいだね」
     ビルの陰にそっと身を潜めて、古城・けい(ルスキニアの誓い・d02042)が様子を窺った。裏路地には人気もなく、これ以上の深追いは不審がられるかもしれない。だが、ビルの中のどの部屋が教団本部なのかまで、きちんと確認をしておきたい。色射・緋頼(兵器として育てられた少女・d01617)と亜樹が、顔を見合わせて頷いた。
    「ここはわたし達に任せて下さい……5分以内には戻ります」
    「がんばってくるよ」
     二人は、するりと猫変身で猫に姿を変え、女性達が入っていったビルに向かって走っていく。
    「よし……俺達はこの辺りで少し待とう」
     樹・瀬護(生命を盾に飛ぶ・d03713)が、物陰に皆を促した。
     焦ってはいけない。今はまだ、待つ時。
     生クリーム教団の全貌が、明らかになるその時まで……。


     古びたビルに入っていった女性達は、地下へと続く狭い階段を降りていく。猫になった緋頼と亜樹は、足音を立てずにその後を追った。
     女性達は階段を降りきった所にあった小さな扉を開け、雛とニコを連れて入っていった。バタン、と音を立てて閉まった扉には、生クリームを絞ったような形のシンボルが描かれている。
     これはもう、決定的だ。
     場所は抑えた。中の様子も確認したいところだが、囮の二人から合図があるか、待機から五分経過で突入する手筈になっており、もう時間にあまり余裕もなかった。
     とりあえず、急いで待機している仲間達にこのことを知らせなければ。
    「あら、可愛い猫ちゃん達」
    「おいで、君達も生クリーム様の洗礼を受ける?」
    「ニャー」
    「にゃー。ごろごろ……」
     階段の途中で会った、教団関係者と思わしき女性達を適当にあしらって、緋頼と亜樹は何とかビルの外まで辿り着く。
     二人は物陰で変身を解いて、ビルを振り返った。
    「……思った以上に、ここは危険な場所かもしれません」
    「え、どういうこと……?」
     ビルを見つめながら言う緋頼を、亜樹は心配そうに見上げた。そして、彼女と同じようにしてビルを見やる。
     不穏な空気が、渦巻いているような気がした。
    「とっ、とにかく! 急いでみんなに知らせないとっ!」
     ぶるりと身震いをして、亜樹は慌てて走り出す。
    「そうですね、行きましょう」
     小さく頷いて、緋頼もその後を追った。


     息の詰まるような密閉空間。暗闇を照らすのは、ゆらゆら揺らめくロウソクの灯火。そして、むせ返るほどの甘い匂いが空気を支配する。
    「生クリーム教団へようこそ、お嬢様方」
     まるでトドのようにでっぷりと太った女性が、ふわふわの飾りがついた扇子で顔を扇ぎながらニコと雛を見て目を細めた。
     どこか狂気に満ちた眼差し。彼女が生クリーム教団の教祖、つまり、ソロモンの悪魔に力を授けられた哀れな一般人なのだろう。
     教祖の女性が、信者らしい女性に何かを指示する。
     しばらくして、信者の女性が運んできたのは、大きな業務用の絞り袋に入った生クリームと、ちょうど口に入るくらいのサイズの上戸に拘束用のベルトがついた不気味な器具。その禍々しさに、せっかくだから少しの間生クリームを堪能しようと楽しみにしていた雛も、思わず顔を引きつらせてしまう。
    「な、何ですの……!?」
    「どうするつもりだ」
     咄嗟に、ニコは雛を庇うように自分の後ろに押し込み、教祖の女性を睨んだ。
    「ふふ、怖がらなくてもいいわ。まずは貴女達のその餡子で汚れた口の中を生クリーム様のお力で浄化するのよ……お楽しみの晩餐は、その後で、ね……?」
     にやりと笑って、教祖の女性は折りたたんだ扇子をピシリと向けてくる。
    「さあ、生クリーム様の浄化を!!」
    「お待ちなさい!!」
     と、その時、扉が大きな音を立てて開き、高らかとアルファリアの声が上がった。何事かと信者の女性達が警戒する前に、殺気に満ちた結界とパニックに陥る混乱が広がっていく。
    「きゃあぁぁっ!!」
    「いやぁっ! 何、何なのっ!?」
    「死にたくなければここから逃げろ!」
     逃げ惑う女性達の中、瀬護が叫ぶ。
     十数人の女性達でひしめき合っていた狭い部屋。教団に興味を持ってしまっただけの一般人の女性達は、アルファリアと瀬護が発動させた殺界形成やパニックテレパスで一目散に逃げていく。
     彼女達については、このまま逃がしてしまっても問題ないだろう。放っておけばそのうち生クリームの悪夢から目を覚ましてくれるはずだ。
     問題は、この場に残った、強化された四名の女性信者と、ソロモンの悪魔に直接力を授けられた幹部、生クリーム教教祖の女性。
     ガラリと広くなった部屋の中、女性達は突然乱入してきた灼滅者達を睨みつける。
    「な、なんと無礼な!」
    「生クリーム様の御前であるぞ!!」
    「ま、待って! いきなり入ってきた事は謝るよ、ごめんなさい」
     慌ててぺこりとお辞儀をして、流空は信者の女性達を見上げた。
    「けど、そんなに生クリームばかり食べてたら美容と健康に響くよ。お姉さん達は今が花の時期、なんでしょ? 勿体無いよ」
     普段から天然年上キラー的な要素のある流空。まだ救う余地のある信者の女性達が、うっ、と言葉を詰まらせている中、教祖の女性は救いようのない笑みでニタリと笑ってみせた。
    「ふふふ、面白い事を言う坊やだこと……いいわ、特別に貴方にも生クリームの洗礼を受けさせてあげましょう。少し、お待ちになって? まずは……」
     教祖の女性が、パン、パン、と手を叩く。
    「餡子に汚された乙女達の浄化を急ぎなさい」
    「はっ、はい!!」
     命令に肩を震わせて、信者の女性達は四人がかりでニコと雛を押さえつけ始めた。
    「浄化が完了するまで、大人しく見ていて頂戴……怖がる必要はないわ、貴方達もすぐ、生クリーム様の虜になる……!」
     ギラリと、狂気じみた目が光を放った。


     実質、仲間を二人拘束され、行く手を阻まれるという陣形。こうなってしまってはやるしかない。
    「クロステス・フリノット・カティバ・ガリノス」
    「スレイヤーカード……解放!」
     力を解放させ、亜樹と瀬護は取り出した武器を構えてみせる。
    「浄化の邪魔はさせないわ……!」
     立ち塞がる、教祖の女性のふくよかな巨体。
    「やれやれ、困った人だ」
     すっ、と素早く前に出たけいが、奥にいる信者の女性達に目を向けた。
    「そこのお嬢さん方、少しだけ手を止めて、良く考えてみてくれ」
     言いながら、手の中で槍をくるりと回して低く構える。
    「例えばだ。間の前にボクとむさ苦しい中年が居るとしよう。ボクらの指先に生クリームがたっぷりついていたなら、どちらを舐める?」
    「……っ、それは……」
    「……越えられない壁があるんだよ。そんなものが万能かい?」
    「だ、黙りなさい! 生クリーム様への侮辱! 許さないわよ!」
     ニコを取り押さえていた女性が一人、けいに向かって床を蹴った。
    「助ける為とはいえ、お嬢さん方に手荒い事をしなければいけないとは、実に悲しいよ……」
     ふと眉を寄せながら、けいは赤く煌く一撃を放つ。
    「だから別にニコを見て笑ってなどいないのだよ?」
     そして、倒れる女性をふわりと抱き止め、床にそっと横たえながら奥にいるニコを見て笑った。
    「……っ、餡子だ生クリームだいい加減にしろ! 俺は宗教の勧誘はもれなくお断りしているんだ!」
     手薄になった拘束。ニコが口に突っ込まれていたベルト付きの上戸を剥ぎ取り、叫ぶと、魔法の弾丸が激しく音を立て、撃ち込まれた。
    「な……っ!?」
     響いた男性の声。何かの間違いかと目を剥く信者の女性。今がチャンスと、雛も女性達の拘束をなんとか振り切り、指に絡めた鋼糸を振りかざした。
    「全く、太ってお洋服が着られなくなったら、どうしてくれますの」
     空を切り裂く、鋭い風音。
    「きゃあっ!?」
    「いいわ、その動き! さぁ、踊って!」
     雛が張り詰めた鋼糸に、ギリ、と力を込めたその瞬間、短く悲鳴を上げた女性がその場に倒れ込む。
    「あ、貴方達は一体……!?」
    「うぅ、ごめんね!」
     間の前で次々と倒されていく仲間達。驚いて目を見開く最後に残った信者の女性に、亜樹は魔法の弾丸を撃ち込んだ。
    「く……こんな事をして、天罰が下るわよ……!」
     肩で息をし、なおも立ち上がろうとしてくる信者の女性達を、灼滅者達は加減した力で捻じ伏せる。
    「きょ、教祖様……お逃げくださ……」
    「くっ……」
     巨体を揺らし、教祖の女性は出口に向かい、走った。
    「逃がさないよ!」
    「ここは、通しません!」
     その行く手を、流空とアルファリアが塞ぐ。
    「なぜ……なぜ分かってくれないの、生クリーム様の素晴らしさを……!」
    「無理矢理食べさせるのは、クリームにも失礼です」
     指輪から繋がった鋼糸を振るいながら、緋頼は教祖の女性に一歩近づいた。
    「それに、お菓子は楽しく食べるから美味しいのです」
    「……っ、お黙りなさい! 生クリーム様を受け入れられぬ者は悪なのよ!!」
     太い腕を振り上げながら、教祖の女性はなりふり構わず向かってくる。
    「お相手いたしましょう。覚悟して下さい……!」
    「……行くぞ!」
     アルファリアと瀬護は、それぞれの武器の柄を固く握って構えを低く落とした。


     ソロモンの悪魔から力を授けられているとはいえ、所詮は一般人。その力はダークネスとは比べるまでもなく、勝負はあっけなく決した。
    「きょ、教祖様……」
    「教祖様ぁぁ……!」
     床を這いながら、泣き崩れる女性信者達。
    「これは夢だ。クリームのおばけに連れ去られる童話のような悪夢。今は安心して、もう一度眠っていてくれ……」
     目を薄く閉じ、瀬護は魂鎮めの風を起こした。力なく倒れ込んだ女性信者達が、眠りに落ちていく。
    「ボンヌ・ニュイ……生クリームより甘い夢を……」
     倒れ込む女性達にそっと囁いて、雛は薄く微笑んだ。
     ソロモンの悪魔に力を授けられた、生クリーム教団の教祖は死んだ。これで教団は壊滅。生クリーム主義に囚われていたこの女性達も、近いうちに正気を取り戻してくれるはずである。
    「……生クリーム、ですか」
    「残ってるおかし、食べちゃだめかな?」
     部屋の置くに山積みになっている生クリームと洋菓子を見つめた緋頼と亜樹の物欲しそうな顔。
    「……止めた方がいいと思うぞ」
     そっと、ニコがそれを制した。
     少しの間だが、生クリームを口にねじ込まれていたニコ。どうやら、その味が殺人的に甘かったらしい。ある程度甘い物に耐性のあるつもりだった彼も、少し青ざめた顔で胸の辺りをさすっていた。
    「大丈夫ですか? 初めは、生クリームまみれをご堪能いただければ、なんて思っていたのですが……」
    「早めに助けに入って正解だったね」
     心配そうに言うアルファリアに続いて、流空も、うんうんと頷いてみせる。
     思いのほか、生クリーム教団は恐ろしい存在だった。
    「さて、口直しにどこかに寄って帰ろうか。甘味処の和菓子も偶にはいいね。確か、この近くに生クリーム大福の美味しい店が……」
    「……今は勘弁してくれ」
     けいの提案に、ニコはげっそりとうな垂れて首を横に振る。

     どんなに素敵なものでも、やりすぎは良くないもの。
     まさに、今回の事件はそんな事件だった。

    作者:海あゆめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 12/キャラが大事にされていた 2
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