迷える骸骨

    作者:天木一

     北海道札幌市。北国の冬は白く大地を閉ざす。
     一台の車が除雪されたアスファルトの上を走る。横手には大きな公園が見える。昼間には積もった雪の上を子供達が滑って遊ぶ姿が見られるが、既に日の落ちたこの時間には人影も無い。
     車は明かりの点いていない雑居ビルの前に停まる。車を降りたスーツ姿の30代の男が、鋭く周囲に視線をやりながら、手にスーツケースと懐中電灯を持ってビルに入る。
     古びた4階建ての小さなビル。既に築30年は経っているだろう。人が出入りしている気配も無い、廃ビルだった。
     男は階段を登り、一室の前でドアをノックする。内側から鍵が開けられる。中から現れたのは20代の若い男。
    「ブツは?」
     男の言葉に若い男は奥に置いてあった、男と全く同じスーツケースを開ける。そこには白い粉が袋詰めされていた。
    「……確かに」
     男が中を確認すると、自分のスーツケースを開ける。中には札束が詰まっていた。
    「そんじゃ、これで商談成立だ」
     若い男は札束を確認すると、そのスーツケースを手にした。
    「ああ、また頼むぞ」
     男も粉の入ったケースを持ち部屋を出ようとする。だがその時、異音に気付く。
     ――カタカタカタカタカタカタ。
     何か硬質なものがぶつかるような音が聞こえる。
    「おい」
     二人は息を呑む。誰かいるのかと用心してドアを開けようと――。
     赤い液体が男の胸からとめどなく流れ落ちる。そのまま男は崩れ落ちた。
    「な、なん……が、がいこつ?」
     若い男が入り口を電灯で照らすと、そこにいたのは白い人骨。まるで今まで雪に埋もれていたかのように、全身に雪が積もっている。その身には戦士のように剣と盾、そして鎧を纏い武装していた。
    「ひっ!」
     吸い込まれるように赤く濡れた鋭い剣先が、若い男の首筋に振り下ろされた。
     ――カタカタカタカタカタカタ。
     まるで笑うように、骸骨は骨を揺らし音を立てた。
     
    「札幌にノーライフキングの眷属であるアンデッドが現れました」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が用意した資料を灼滅者達に回す。
    「どこから迷い出たのか、主からはぐれたスケルトンが一体、廃ビルに居ついてしまっているようです」
     スケルトンは侵入する者を排除する為に動くようだ。既に犠牲者が二人。自発的に外に出ることは無いという。
    「剣と盾、鎧まで着て、完全武装しています。通常のスケルトンより強いと思って間違いないと思います」
     戦士としての技能があるのだろう、一体といえども油断は出来ない。
    「今は能動的に動いていませんが、今後どうなるかは分かりません。今も誰かが侵入すれば殺されてしまいます。街中にそんな場所があっては危険です。ですから皆さんに灼滅してもらいたいんです」
     戦うために生み出されたスケルトンだ。一度戦闘になれば死ぬか殺すかしなければ戦いを止めないだろう。
    「これ以上被害者が出ないよう、よろしくお願いします。札幌はきっと寒いでしょうから体調にはお気をつけて」
     姫子は頭を下げ、灼滅者達を見送った。


    参加者
    月代・沙雪(月華之雫・d00742)
    熊城・勝魅(壁となり弾となる肉・d00912)
    御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)
    刀牙・龍輝(蒼穹の剣闘志・d04546)
    西洞院・レオン(菫青石・d08240)
    西室・透也(灰色少年・d08311)
    青和・イチ(布団と湿気と仄明かり・d08927)
    ステラ・ビュート(広域型制圧士・d11914)

    ■リプレイ

    ●凍える街の夜
     日の落ちた時刻。冬の札幌の夜は全てが凍えるような寒さだった。
     もう使用されていないビルの中は、暗闇に閉ざされている。まるで人の侵入を拒むように。
     そんな暗闇の静寂を打ち破るように、明かりが闇を照らし、足音が響く。
    「前の仕事も札幌だったけど、札幌の異変は収まる気配が無いわね」
     熊城・勝魅(壁となり弾となる肉・d00912)は首から提げたライトで前を照らしながら、ビルに足を踏み入れる。
    「野良スケルトンですか、迷子になったんですね。1体だけでも油断せずに行かないとです」
     懐中電灯を照らし、月代・沙雪(月華之雫・d00742)が慎重に周囲を見渡す。
    「こ、この階は狭いけぇ、戦いには向かんと」
     寒いのが苦手なのをやせ我慢して、西洞院・レオン(菫青石・d08240)はランタンを手にフロアの確認をする。
     1階は雑然と放置された荷物が置かれ、大勢が動きまわれるスペースは無さそうだった。
    「とても真っ暗だね……こんなに不便な処で暮らしにくくないのかな……?」
     そんな緊張感のない言葉を、刀牙・龍輝(蒼穹の剣闘志・d04546)が足元を照らしながら呟く。
     その横を、ドレスに身を包んだステラ・ビュート(広域型制圧士・d11914)が、西洋人形のような容姿とは裏腹に裾を翻し、大股で埃を被った床を平然と歩む。
    「きっと暗いところが好きなんだよ! この階なら戦いやすそうだね!」
    「そうじゃのぅ……ここなら問題なさそうじゃのう」
     2階は壁が取り除かれ、吹き抜けのフロアとなっていた。探検隊の如く頭に括りつけた照明で照らし、ステラは射線が通ることを確認する。
     レオンも同じようにフロアを見て確認すると、同意した。
    「では、ここに誘い込みましょう」
     沙雪の言葉に皆が頷いた。
    「寒い寒い寒い寒い……」
     ぶつぶつとまるで呪詛のように呟くのは西室・透也(灰色少年・d08311)だった。マフラーなどの防寒をしても、刺さるような冷気が浸透する。何故自分は家に引き籠っていないのだろう、こんな寒いところに来てしまった理由、アンデッドに対する怒りが沸いて来る。
    「こんなに寒い所に、一人で居るのは……ちょっと、かわいそうだね」
     3階を緊張気味に調べながら、青和・イチ(布団と湿気と仄明かり・d08927)は理科室の骨格標本を可愛いと思う独自の感性で、同情気味に言った。
     このフロアは、4つの部屋に分かれている。そして漂う臭い。血と腐敗した何かの混じった異臭だった。
    「どうやら二人の犠牲者はここでやられたようだな……」
    「そうみたいね、酷い臭いだわ」
     注意深く御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)が辺りを調べる。血痕の後が部屋から階段へと続いている。
     勝魅も、鼻が曲がりそうな異臭に耐えながら照明を向けると、ドアに大きな刃の痕が残っているのを見つけた。
     ――カタカタカタカタカタカタ。
     不気味な異音。硬質なものがぶつかる音が聞こえる。
    「伏せろ!」
     力生の鋭い声。取り出したガトリングガンの銃口を仲間に向ける。咄嗟に屈む灼滅者達。発砲。
     弾丸が無数に撃ち出される。その先、階段前に現れたのは剣と盾、そして鎧を着込んだスケルトンだった。

    ●骸骨の戦士
     ――カタカタカタカタカタカタ。
     無数の銃弾を円型の盾で防ぎながらスケルトンが向かってる。
    「此処で戦うのは不利だ!! さっき見た場所に移動しよう!!」
    「ここは不味いから、さっき決めた所に行くんだよ~~!」
     狭い通路を龍輝とステラが階段に向けて駆け出す。そこにスケルトンが剣を向けようとするが、力生が弾幕を張り、動きを止める。
    「2階まで後退だ!」
     その隙に龍輝とステラは素早くスケルトンの横を通り抜ける。
    「……寒い……このクッソ寒い時に余計に寒いところに出てくるとか……バラバラ決定、だね」
     死角から、フードを頭に被った透也はスケルトンに近づく。この寒い場所までやってきた原因のスケルトンへ、八つ当たりとばかりにナイフを輝かせ、足を斬る。
    「通してもらうわよ」
     バランスを崩したスケルトンの側面から人影、駆け寄る勝魅の手の甲には、遊園地の記念メダルのようなものが張り付いている。そこからエネルギーの盾が発生し、体当たりのようにスケルトンにぶつかる。
    「今よ!」
     よろめき後退するスケルトンが道を開ける。灼滅者達は一斉に階段に向かい駆け出した。
     次々と通り抜ける灼滅者達に向かい、スケルトンは剣を横薙ぎに振るう。その先には沙雪とイチの姿が。
    「問題ない、速く行け!」
     刃は途中で止まっていた。受け止めたのは力生のガトリングガン。沙雪とイチは頷き、階段へと姿を消す。力生は力いっぱい押し返し、殿となって弾幕を張りながら後退する。
     力生が階段を降りようとした時、スケルトンが全速力で突撃してきた。弾幕を潜り抜け、盾ごと体当たりでぶつかる。激しい衝撃。力生とスケルトンはもつれ合うように階段を落ちた。
     2階まで落ちた力生の上に、スケルトンが馬乗りになり刃を突き立てようとする。そこに横から豪快な一振り。野球のバットを振るうように魔力の篭もった杖が振り抜かれ、スケルトンは仰向けに吹き飛ばされる。
    「大丈夫かいのぅ」
     振り抜いた姿勢のまま、レオンが心配して尋ねる。
    「平気だ。頑丈さには自信がある」
     埃を叩きながら、力生は起き上がる。先に下りていた仲間達は展開し、既に戦闘の準備を整えていた。
     ――カタカタカタカタカタカタ。
     スケルトンも起き上がり、武器を構える。

    ●戦いの場
    「ここなら大丈夫です。では……参ります!」
     沙雪の手から呪力の宿った符が舞い、自らを守るように周囲に展開する。そのうちの一枚が力生の元に飛び、傷を癒して護身の呪を与える。
    「ひとを殺すのは……そのひとの周りも、悲しませる、事だから……やめさせなきゃ、ね」
     イチは一つ息を吐き。緊張を解すと、その身から魔力を宿した霧が生まれ広がる。それは仲間に宿り破壊の力を与える。
    「リ・エルタ」
     ステラの手に身長以上に大きい武器が現れる。一つはバズーカ。もう一つはガトリング。どちらもその可憐な外見には似合わぬ無骨な武器だった。
    「それじゃあ、景気良くじゃんじゃん撃ちまくるんだよ~!」
     聖なる光がステラから放たれ、スケルトンを焼く。まばゆい光に思わず足を止めるスケルトン。そこに龍輝が接近する。
     龍輝は戦闘が始まると、普段の緊張感の無い時とは打って変わって、鋭く戦士の表情になっていた。
    「ぶっつぶれろ!」
     雷を纏った拳が放たれる。拳は鎧の上から叩き付けられた。電撃が鎧を伝わり骨に届く。
     スケルトンは盾で龍輝を弾き倒すと、剣を振りかぶる。その間に高速で割って入る人影。
     勝魅が障壁を張りながら左腕で剣を受ける。剣は障壁を斬り裂き、腕に刃が食い込む。だが勝魅は怯むことなく、右手に持った斧を振り抜く。その赤みがかった斧は柄がしなり、速度を上げてスケルトンに叩き込まれる。
    「そんな細腕じゃ、この肉の壁は切り崩せないわ」
     腕から血を流しながらも、勝魅は不敵な笑みを浮べて挑発する。
     ――カタカタカタカタカタカタ。
     スケルトンはその言葉に乗るように、剣を大きく振るい勝魅を襲う。
    「させんよ」
     力生は光輝く十字架を生み出す。無数の光が辺りを差す。それはスケルトンの持つ剣を包み、鋭さを鈍らせる。
     その剣を勝魅は障壁で受け止めた。先ほどとは違い障壁を通さない。
    「……ハッ、動いてたら少し温まってきたかな。もっと楽しませてよ」
     口を歪ませるとナイフを逆手に持ち、透也は駆ける。フードの奥から鋭い眼光が敵を睨む。地を這うような低い姿勢で駆け寄る。吹き飛ばそうとするスケルトンの盾の一撃を掻い潜り、ナイフの小さな刃がすっと滑らかに鎧を切り裂き、肋骨を一本切断した。
    「後ろはもらった……砕け散れ!」
     敵の意識が透也に向かった瞬間、背後からレオンは接近すると、跳躍して真っ直ぐに杖を振り下ろした。ぐしゃりと確かな感触が手に伝わる。頭部を砕き、首まで杖が陥没する。
    「どうじゃけぇ!」
     普通の生命体ならその一撃は致命傷だろう。だがその一撃はスケルトンにとっては唯の一撃だった。意にも返さず、そのまま剣を振り抜く。
     剣は正確に心臓を狙う……肉を裂き、血が溢れる。だが斬り裂いたのは肩、それも力生の左肩だった。
    「大丈夫です。治癒は任せてください」
     その肩をすぐさま沙雪が符で治療を施す。しかし、スケルトンは治療させぬと、すぐさま力生に追撃を加えようと剣を構える。
    「行くよ、……くろ丸」
     タイミングを見計らい、イチと霊犬のくろ丸が挟撃を仕掛ける。イチの足元から伸びた影がスケルトンを包み込む。影を盾で払おうとしたところを、くろ丸が口に咥えた刀で盾を弾く。スケルトンは影に飲まれた。
     ――カタカタ、カタカタ。
     スケルトンは幻を斬る。その隙に治療を終えた力生は、剣の間合いから離れた。
    「助かった、感謝する」
     沙雪とイチ達に向け礼を言うと、ガトリングガンを構え弾丸をばら撒く。盾でガードするスケルトン。だが、さらに横方向から弾丸が降り注ぐ。
    「こっちからも行くよ!」
     ステラがバズーカとガトリングを撃ちまくる。十字砲火にスケルトンの鎧が蜂の巣のように穴だらけになっていく。
     耐え切れなくなったのか、スケルトンが身を低く構える。潰れた頭部が睨んだような気がした。
    「何かくるわよ!」
     勝魅の警告に身構えたのも束の間、スケルトンは刃を振るう。衝撃が奔る。それは距離も関係なく、全てを断ち切るかのように後ろに居たステラ、沙雪、イチ、くろ丸に襲い掛かる。
    「ピンチかも!」
     避ける間もなく、ステラは迫る刃に目を瞑る。だが衝撃は来ない。目を開けると前には大きな背中。
    「任せておきなさい、この壁は針の一本だって決して通さないわ」
     傷を負いながらも、勝魅は自信に溢れた笑みを浮べて、ステラに振り向いた。
     周囲に展開した護符が刃の威力を多少は減衰させるが、それでも勢いを持って刃は沙雪に届く。そこに、壁が現れた。小さな沙雪から見れば、力生の背中はまさに鉄壁だろう。刃はそこで止まっていた。
    「ふみゅ! あ、ありがとうございます」
    「なに、さっきのお返しだ」
     頑丈な体の力生は傷を負っても苦痛の表情を洩らさない。
     イチは咄嗟に大地に転がる。刃がさっきまで顔のあった場所を通り過ぎていく。だが隣に居たくろ丸は刃を避けきれず、直撃を喰らい吹き飛ばされる。衝撃の余波で壁が砕け、窓ガラスが割れる。
    「くろ丸!」
     駆け寄るイチ。深い斬り口。すぐに小さな光輪を放ち、治療を施す。くろ丸は傷が癒え始めるとゆっくりと起き上がる。
    「何度も今の攻撃を受けると拙いけぇ」
    「なら、一気に仕留めればいいよね」
     レオンの言葉に透也が当たり前のように返答する。
    「それは良い案だ」
     龍輝も巨大な剣を構えて頷く。3人はにやりと不敵に笑うと、一気に駆け出す。

    ●帰る処
     ――カタ、カタカタ。
     操り人形のようにぎこちない動きで、スケルトンが迎撃の刃を向ける。
     透也はその突き出された剣を紙一重で避ける。
    「……アンデッドっていいよねぇ……バラバラにしようが切り刻もうが、文句言わないもんね」
     笑いながら、ジグザグに変形させたナイフで骨を削る。傷口は歪な形となって残る。
     透也に反撃しようとしたスケルトンに、レオンが杖から雷を放つ。閃光は敵を打ち、動きを止めたところに杖の強振で吹き飛ばす。肋骨が数本砕ける。
    「油断禁物じゃけぇ、粉々に砕くのじゃ」
     そこに銃弾の追撃。先程攻撃を受けた後衛からの援護が入る。
    「油断せずに行くんだよ!」
     ステラはガトリングで弾丸をばら撒き、蜂の巣にしたところにバズーカから砲弾を撃ち込む。スケルトンの盾がへこみ、鎧は砕かれる。
     その攻撃から逃れよとするスケルトンに、更に弾丸が嵐のように撃ち込まれる。
    「逃さん」
     それは敵の動きを読んだ力生からの援護射撃だった。
     盾を構え防ぐスケルトンに肉薄する勝魅は、大きく斧を振りかぶった。しなりを上げ、斧が盾に叩き込まれる。鈍い金属音。盾が真っ二つに割れ、破片が飛び散る。
    「私の攻撃を防ぐには薄すぎたわね」
    「これで、どうですか!」
     守りを失ったところに沙雪の符が飛来し張り付く。その符はスケルトンの精神を惑わせ、動きを鈍らせる。
     スケルトンは屈み、先の一撃と同じ構えをとった。だが動きが鈍い。そこに飛び込んだのはイチとくろ丸。
    「これ以上はさせない……もう、眠るといい」
     赤いオーラが逆十字を描き、スケルトンを切り裂く。そこにくろ丸が魔を断つ刃を突き立てた。
     それでも動きを止めないスケルトンは、最後の力を振り絞り剣を振るう。
     そこにライドキャリバーに乗った龍輝が突撃する。
    「行くぞ! このまま断ち切る!! はあぁーーーあ!!」
     刃と刃が交差する。龍輝の大剣はスケルトンの剣を断ち切り、そのまま体を両断した。
     体が崩れ落ちると、そのまま末端から骨が風化していく。それはまるで元より存在しなかったようにこの世から消えていく。
    「屍王の迷宮から放逐されたのか? この近くに屍王がいるのか!?」
     返事は無いと分かっていながらも、崩れ落ちるスケルトンに力生は問いかける。
     ――カタ……カタ。
     スケルトンは砕けた顔をどこかに向けるように、そのまま地に顔を突っ込み倒れた。そして全てが幻のように消え去った。

    「これで終りね」
    「無事に倒せて良かったです」
     勝魅は武器を収めて息を吐く。豊かな体が大きく揺れた。
     沙雪は傷ついた仲間の癒しに忙しく動き回る。
    「ふむ、気に入ってたんだがな……」
     力生は戦闘で破れぼろぼろになったダウンジャケットを見て呟く。
    「何故こいつはこんな所にいたんだろうね?」
    「待機して侵入者を殺す……何かを守っているのか、それともいたのか……」
     レオンの疑問に透也は思考を巡らせる。
    「眷属ということは親玉がおるということじゃけぇ。この北の大地におるのかもしれん」
     目を閉じ、スケルトンに殺められた犠牲者二人を弔っていたレオンが、思いついた事を口に出す。
     もしそうだとすれば、札幌での戦いはまだまだ続くことになるだろう。想像した皆は口を閉ざす。
    「とにかく、今日は終わりだよ。吾は眠くなったかも、帰って休むんだよ」
     ステラの言葉に皆の緊張が解ける。そう、今は一つの事件を終わらせたのだ。今後の事はまた考えればいい。灼滅者達は廃ビルを後にする。
    「お休みなさい……」
     イチは去り際に手を合わせ、二度と魂が迷い出ぬよう、安らかな眠りを願い祈る。
     廃ビルに静寂が戻る。それは死者の眠りを包み込む。
     夜の街に雪が降る。割れた窓から吹き込むそれは、墓地に手向けられる白い花のようだった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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