古時計が告げる刻

    作者:佐和

     月明かりを反射する白い大地。
     誰もいない場所をまっさらに覆うその雪が、不意にぼこっと盛り上がった。
     続くようにその周辺で雪がうごめく。
     ぼこっ。ぼこぼこっ。
     雪を押し上げ現れたのは、いくつもの手。
     右手が。左手が。数えてるのも大変なほどに次々と現れる。
     ……闇夜では分からなかったかもしれない。だが、煌々と月が照らす中でははっきりと分かる。
     それが、生者の手ではないことが……
     手はすぐに腕となり。頭と肩も雪をかき分け。
     ゾンビの群れは、雪覆う大地を踏みしめると、ふらふらと歩き出した。
     何かを伺うように。もしくは、探すかのように。
     辺りを見回しながら、滑らかな雪を踏み荒らして進む。
     そこに。
     ボーン、ボーン……
     小さく聞こえた低い音。
     気付いた1体がそちらへ足を向ければ、他のゾンビもそれに続いて。
     群れが辿り着いたのは、空き地の中にぽつんとある、荒れた建物だった…… 
     
    「北海道のとある場所に、ゾンビの群れが現れたんです」
     灼滅者達が集まった教室で。
     おずおずと躊躇いがちに園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)は口を開いた。
    「人通りの少ない場所に現れて廃墟へと向かったため、まだ被害は出ていません。
     ですが、誰かが廃墟に近づいてしまったら……」
     槙奈はぎゅっと目をつぶり、描いてしまった想像を打ち消すように、ふるふると首を左右に振った。
     そして、再び開いた瞳で灼滅者達を見上げるように顔を上げ、依頼をする。
    「そうなる前に、ゾンビの群れを倒してください」
     揺れる瞳は、灼滅者とはいえ学園の仲間を、危険な場所へと送りだすことへの逡巡か。
    「ゾンビは全部で12体とかなり多いです。
     ですが、廃墟の周辺を巡回しているので、それを利用すれば倒せると思います」
     だから少しでも灼滅者達が有利に戦えるよう、得た情報を漏らさず告げる。
    「廃墟には、古い柱時計が残されていたようで、その時計が時間を告げると巡回が始まります」
     巡回ゾンビは廃墟を出ると、周辺の広い空き地をぐるりと回り、10分ほどかけて廃墟に戻る。
     2体1組で巡回を行い、毎時0分ちょうどに1組目が、それから3分ずつ間隔を置いてあと2組が出てくると言う。
    「巡回しているゾンビに出会うと必ず襲われてしまいます。
     逃げても追いかけてきますので、気をつけてください」
     3組の巡回ゾンビが通る道はどれも同じ。
     1組目を追いかけるように2組目が、さらに追いかけるように3組目が通っていく形になる。
     そして、巡回に出たゾンビのうち1組でも戻ってこないと、次の時間以降の巡回はなくなる。
    「ゾンビは巡回以外で廃墟の外には出てきません。
     巡回から戻ってきたゾンビも、次の巡回の時間までは外に出ません。
     ですが、廃墟の中に入ってきた者は容赦なく襲われます」
     廃墟や空き地に近づく一般人はまだ予知されていない。
     今のうちに倒してしまえば、戦いに巻き込まれる者もいないだろう。
     巡回しているゾンビは解体ナイフを、廃墟に残るゾンビは半数が妖の槍、残りが咎人の大鎌を持っている。使用するのは武器のサイキックのみだ。
    「寒い中大変なお願いですが……よろしくお願いします」
     自分に出来ることはここまでと、槙奈は灼滅者達へと深く頭を下げた。
     
     しんしんと降り積もる雪の中。
     古い柱時計を回る長針が、何周目か分からない周回を終え、12の文字へと戻ってくる。
     ボーン、ボーン……
     響き始めた低い音に、2体のゾンビがのそりと廃屋の出口へと向かって歩き出した。


    参加者
    私市・奏(機械仕掛けの旋律・d00405)
    水鏡・蒼桜(真綿の呪縛・d00494)
    幡谷・真九郎(迦楼羅・d01329)
    江楠・マキナ(トーチカ・d01597)
    水綴・梢(銀髪銀糸の殺人鬼・d01607)
    水葉・楓(秋の導・d05047)
    刻漣・紡(宵虚・d08568)
    渡世・侑緒(ソムニウム・d09184)

    ■リプレイ

    ●雪上で待つは其の刻
     そこは他に人の気配のない、小さな雪原。
     雪の感触を確かめるように歩いていた水鏡・蒼桜(真綿の呪縛・d00494)は、ふと足を止めて、懐中時計を取り出した。
     長針がまた1つ、12の文字へと向かってかちりと動く。
    「鐘の音に靡き歩くとは、また風情がありますね」
     懐中時計から顔を上げたその先にあるのは、辺りに人が居ない理由を体現するかのように佇む、寂れた廃墟。ゾンビの群れが居ついているという場所だ。
    「時計の鐘よか、この廃墟自体が『風情』やな。
     いかにもっちゅうか……これ、ゾンビくらいは出ん方が不自然やっていう雰囲気や」
     蒼桜の隣に並ぶように歩み寄ってきた幡谷・真九郎(迦楼羅・d01329)は、改めて廃墟を見やって頷いて。
    「雪降る地に徘徊するゾンビ達……」
     ぽつりと聞こえた声に振り向くと、同じように廃墟を見つめる刻漣・紡(宵虚・d08568)がいた。
    「既に終えた時。在るべき場所へ帰ってね……」
     語りかけるような、でもどこか独り言のような。
     思わず真九郎は紡をまじまじと見てしまう。
     紡もその視線に気付いて、真九郎と目が合って。
     と思ったとたんに、紡は戸惑ったように目を反らすと、逃げるように歩き出す。
     そんな人見知り全開の紡に、真九郎が反応するより早く。
    「てやー!」
     ぼっす!
    「……っ冷たっ!?」
     顔で受け止めたのは、真っ白な雪玉。
     飛んで来た方向では、水葉・楓(秋の導・d05047)が大成功とばかりに楽しそうに笑っていた。
     じっと待つのは大嫌いだと公言していた楓だが、遊び相手を見つけたらしい。
     お返しとばかりに真九郎も足元の雪で手早く雪玉を作ると楓に投げ返した。
     互いに投げては避けの雪合戦が展開される。
    「遊ぶには良さそうな場所だから、誰かが見つけてゾンビに襲われる前に何とかしないと」
     その光景を見てくすくす笑いながら、渡世・侑緒(ソムニウム・d09184)は言う。
     私市・奏(機械仕掛けの旋律・d00405)も、顔を上げて微笑んで、
    「でも、雪がそう多くなくてよかった」
     その感想に、一緒に足元を均していた江楠・マキナ(トーチカ・d01597)も頷く。
    「試される大地の雪は、関東とは比べ物にならないからね」
     それでも油断せず、気休めかもしれないと言いながらもしっかり戦いの準備をする。
     そんなマキナにも、奏は微笑を向けた。
     雪原は、東京でこれだけ積もったら大ニュースだが、楓と真九郎が走り回れる程度のもの。
     これなら足が埋もれて動けない、といった心配もない。
     マキナと奏で足元を均し、障害物が雪に隠れているといったことがないことも確認済だ。
     場所は問題ない。
     あとは……
     と、下を向いていたマキナの視界に、突然、ずいっと手が差し出される。
     握られているのは、携帯カイロ。
     顔を上げれば、そこにいたのは水綴・梢(銀髪銀糸の殺人鬼・d01607)。
    「手がかじかんで攻撃外すとか最悪だからなー!」
     片目をつぶっておどけた感で。梢はカイロをマキナに渡して笑う。
     傍らにいた奏にも手渡し、他の仲間にも次々と配っていく。
     手の中にあるカイロは、小さいけどとても温かかった。
    「58分か。さて、そろそろ時間やな……」
     雪合戦の最中でもちゃんと時計を確認していたらしい真九郎が、そう言って足を止めた。
     楓も、再戦をふっかけることもなくその横に並んで。
    「ゾンビが現れたらみんなで闇討ち♪ だよね?」
    「それ、どっちが悪役か分からないよ」
     梢にカイロと同時につっこみももらって、楓が確信犯のような笑みを浮かべる。
     その横で、マキナのスレイヤーカードから、キャリバーのダートが現れた。
    「狩衣解呪」
     懐中時計を閉じて呟く蒼桜。
    「Zauberlied,anfang」
     奏も解除コードを口にする。
     侑緒の傍らには影業が、クマのぬいぐるみのようなその姿を形作った。
     各々が戦いの準備を整え、周囲を警戒する中で。
     ボーン、ボーン……
     古時計の音が響き渡った。

    ●そして其の刻は来る
     鐘の音が聞こえなくなってしばし。
     待ち構える灼滅者達の前に、2体のゾンビがふらりと姿を現した。
     互いに存在に気付いたのは恐らく同時。だが、構えていた灼滅者達の方が初動は早い。
     合図も何も必要なく、梢が一気に間合いを詰めると、バトルオーラを拳に集中させ連撃を繰り出す。
     攻撃を終え、離れたところに、マキナのガトリングガンがそのゾンビの体に無数の穴を開け、
    「行け、ダート」
     命に従い、キャリバーが穴あきゾンビを跳ね飛ばすように突撃。
    「雪の下から目覚めたけど……貴方達の時間は尽きた」
     紡の静かな言葉に、飛ばされたゾンビへと向かって、足元から影が伸び行き、
    「ごめんね」
     その影が、立ち上がったゾンビを絡め取った。
     紡の横を飛び出した真九郎が、動きの止まったゾンビの襟首を取りつつそれを飛び越えて。
     着地までの間に首を捻っておいて、頭から地面に叩きつけるように落とす。
    「おぅ、スプラッタ……うぁ、掴んだ手ぇヌルヌルやし」
     気持ち悪そうに顔を歪める真九郎。
     その足元へと飛んだ蒼桜のバスターライフルの弾丸は、狙い違わず命中し、動かなくなったゾンビは静かに消滅していった。
     8人中6人、そしてキャリバーをもクラッシャーにするという思い切った布陣は、目論み通りの結果を生み出していた。
     計算外なのは、前衛ばかりで列回復が効きにくいことか。BS耐性付与を狙った侑緒のワイドガードは、思ったほどの効果を出せずにいた。
     だがそれも、短期決戦となればさほどの影響はない。
    「厚着をするゾンビが居たら面白そうだなって思ったけど、そんなのは流石にいないか」
     楓はそんな感想を口に出しながら、薄着ゾンビへとトラウナックルを叩き込む。
     戦いを楽しむ性格もさることながら、相手の数が減ったことによる余裕もあるのだろう。
    「薄着が正装、というわけでもないのでしょうけどね」
     契約の指輪から魔法弾を放ちながら、奏にも応える余裕が見える。
     回復役になれるようキャスターとなっていた奏だが、これなら万一のこともなく、そういった活躍の場はなさそうだ。
     残る1体にも、次々に攻撃が叩き込まれていき……
     侑緒の紅蓮斬がゾンビを消滅させた時点で、楓が腕時計を確認すると、ゾンビ遭遇から2分と経っていなかった。
    「この程度ならお茶の子さいさいね!」
    「楽勝やな」
     意気揚々と言う梢に、真九郎も笑顔を見せて。
     しかし油断しきってはいない灼滅者達は、次の敵が現れるまでに出来た時間を、僅かな負傷の回復や自己強化に当てる。
     そしてまた、ふらりと現れる2体のゾンビ。
    「2巡目、いっくよー!」
     楓の元気な声と共に始まる2回戦。
     そして続く3回戦も。
     灼滅者達は、難なく圧勝した。

    ●其処に残りし者達
     巡回ゾンビ計6体を倒して、廃墟へ乗り込む前にちょっと休憩。
     侑緒は皆の様子を見回して、助けの手が必要ないことにほっとする。
     最悪、心霊手術も考えていたが、それは杞憂だったようだ。
    「あとは廃墟のゾンビを倒せば終わるし、頑張りましょう」
     にっこり笑って言う侑緒に、紡が胸元の指輪握り締めながらこくりと頷いた。
     そこに、ふらっと姿を消していたマキナが戻ってくる。
    「中の様子が、外からちょっとでも窺えないかって思ったんだけど……」
     大きな窓は塞がれ、採光用の小さい窓では中がよく見えず。
     裏口らしき扉もあったが閉鎖されており、侵入口は巡回のゾンビが使っていた出入口のみ。
    「では、廃墟の中は暗いのですね」
    「真っ暗じゃないけど……薄暗い、くらい?」
     確認する奏に、マキナが首肯する。
     これからの戦いを思い、奏がわずかに顔を曇らせ……
    「こんなこともあろうかと!」
     と、梢が取り出したのは、ハンズフリーライト。手首につける簡易照明だ。
     合わせるように紡も、コートの下から、持参した照明を取り出す。
     用意のいい仲間に、奏に微笑が戻る。
    「っし! じゃぁ、ぱぱっと残りも片付けるか。いくぞ!」
     真九郎の声に応えて、灼滅者達は廃墟の中へと足を踏み入れる。
     ……探すほどもなく、ゾンビ6体を発見した。
     事前の情報通り、問答無用で襲い掛かってくるゾンビに、灼滅者達のほとんどは自己や仲間の強化を初手とする。
     短期決戦で攻撃一辺倒だった巡回ゾンビ戦とは違い、長期戦に備えた構えだ。
     ポジションの入れ替えもしっかり行って、バランスのいい布陣で挑んでいた。
     だからこそ。
     攻撃の手数が少ないのをカバーするように、ダートが機銃を敵前列に向け、
    「煌きよ、その意を示せ!」
     蒼桜もバスターライフルで列攻撃。
     梢は光の刃を打ち出し、ジャマーとしてBS付与を狙って。
     変わらず攻撃重視な真九郎は、廃墟の床を蹴り、壁を足場に天井まで走るように跳ぶと、
    「はっ、ゾンビっちゅうのはノロマなもんやな!」
     その動きを見失ったゾンビへと刃を振るう。
     強化を施した仲間も、次々と攻撃に加わって。
    「廃墟を不法に占拠するゾンビが現れたとの通報があってね。大人しくお縄につきなさ~い!」
     楽しそうに言い放ちながら楓がゾンビを殴りつけると、霊力の網が言葉通りにゾンビを縛り上げた。
    「なんや、それ」
    「何か廃墟侵入ってガサ入れっぽくない?」
     首を傾げた真九郎に、楓は楽しそうに答えて、警官を示すためか手で拳銃の形を作って見せる。
    「ゾンビさん、こっちですよ」
     侑緒がシールドでゾンビを殴り、その注意をひきつけると、その隙にダートが突撃をかけ、直後に大量の弾丸が爆炎を伴って襲い掛かった。
    「ゾンビっていったら、燃やすのがセオリーだよねぇ?」
     燃え上がるゾンビを見ながら、静かに言ったのはマキナ。その口元には楽し気な笑みがあった。
     メディックとして回復役に回った奏は、1人ずつ確実に的確に傷を癒していく。
     敵のENは、ブレイクを狙って振るう梢のチェーンソー剣が片っ端から解除して。
     攻守のバランスの良さと、巡回ゾンビを先に倒したことで生まれた数の利で、戦いは灼滅者達に有利に進んでいった。
     1体、また1体と確実にゾンビの数は減っていく。
     順調に見えた戦いだった、が……
     攻撃をバク宙で回避した真九郎は、着地と同時にゾンビへ向かって床を蹴り、刃を振るう。
     だがゾンビは後ろに下がってその間合いを外した。
    「……んなっ!?」
     見切られたことに驚きを隠せない真九郎の隙を、他のゾンビが見て取って、鎌を振り上げる。
     真九郎が気付いた時には、振り下ろされた鎌は、とっさにカバーに入った侑緒を切り裂いていた。
     ふらつく侑緒を慌てて支える真九郎。
     だが、侑緒は敵を見据えたまま、
    「次はこちらから行きますね」
     緋色のオーラを纏った影の刃が、お返しと言わんばかりにゾンビを切り裂く。
     そこに新たに紡から伸びた影が、ゾンビを絡め取って動きを封じる。
     その間に真九郎は侑緒を抱えて一度下がり、
    「アンチヒールは厄介だから、解除しとくね」
     奏の回復サイキックが侑緒を包んだ。
    「……ありがと、な」
    「いいえ。お気をつけて」
     気まずそうに礼を言う真九郎に、侑緒はくすりと微笑んで。
    「攻撃が見切られているようだから……」
    「おう。分かってる。ありがとう」
     かけられた声に振り向いて、奏にもお礼を言いつつ。
     同じ能力のサイキック攻撃しか持たない真九郎は、シャウトを使い、気合いを入れ直す。
     と、もう1人、助けてくれた相手を思い出して苦笑して。
    「紡もな。ありがとう」
    「……いえ」
     紡は照れたように少し顔を背け、でも今回は逃げ出さなかった。
     そこに、梢の声が響く。
    「さあ、あと少し。ラストスパートっ!」
     言いながら振るったサイキックソードはゾンビを切り裂いて、
    「聖なる意思よ、我が仇なす敵を討て!」
     蒼桜の放った裁きの光が、続けてゾンビを貫く。
    「闇夜に復活したところ悪いけど……土に還ってもらうよ!」
     そこへ駆け寄った楓の縛霊手がゾンビを床へと沈め、消滅させた。
     その隣のゾンビへは、侑緒の影業が伸び、捕縛。
    「捕まえましたよ」
    「オーケイ、侑緒」
     マキナがロングスカートを翻してガトリングガンを構え、連射。
     最後なら回復役も不要と、奏も魔法弾を放ち。
     侑緒の影に重なってさらに生まれた影が、ゾンビを取り囲んで、
    「朽ちた体はおやすみの時間よ」
     紡の言葉に合わせてゾンビを飲み込んだ。
    「良い夢をね」
     残る1体には、汚名挽回と言わんばかりに真九郎が駆け寄って、
    「これで終いや!」
     直前で月面宙返りを見せ背後に回り込むと、死角からその刃を突き出し、確実にゾンビを仕留めた。
     全てのゾンビの姿が消滅したのを見て。
    「封呪」
     蒼桜が指輪に手を触れながら呟いた言葉を合図にするように、灼滅者達は戦いの終わりを認めて、警戒を解いた。

    ●其はただ刻を告げる
     戦いが終わってしばしの時が過ぎ。
     廃墟の入口で微笑みながら外を眺めていた奏は、近づく足音に気付いて振り返った。
    「どうでしたか?」
    「何もありませんでした」
     問う奏に、侑緒が首を振って答える。
     ゾンビが集まった理由が何かこの廃墟にあるかもしれない、と灼滅者の半数は戦闘後に廃墟の探索へと向かっていた。
     だが、目ぼしい物は何も見つからなかったようで。
    「巡回して見張るくらいだから何かあるかと思ったけど……」
     紡の呟きに頷きながら、真九郎も探索結果を続ける。
    「古時計がゾンビが湧いて出た原因……っちゅうわけでもなさそうやったしな」
    「誰かが隠れていた形跡とかもありませんでしたね」
     そやなぁ? と同意を求めて向けられた真九郎の目を、紡は少しぎこちなく、だが反らすことなく受け止めて頷く。
     最後に廃墟から出てきたマキナが、ふと足を止め、中を振り返り、
    「あの柱時計は、一体誰の為に刻を告げ続けてるんだろうね」
     その問いに誰も答えることはできず。
     5人は廃墟の中を、暗闇の向こうに佇む古い柱時計を思い出す。
     時計の長針は、今も、12に向かって進み続けている……
    「あ、終わったー?」
     声に再び外を見れば、雪の上に佇む大きな雪だるまの姿。
     その傍らには、制作者の楓がぶんぶんと手を振っていた。
     大雪だるまの横では、梢と蒼桜が作ったらしい、小さな雪だるまがずらっと並ぶ。
     先ほどまで眺めていたその景色に、再び奏の口元に微笑が浮かぶ。
     廃墟探索組からも、くすくすと笑い声が漏れた。
     そんな仲間に楓は駆け寄ってきて、
    「みんなも遊ぼう?」
     楓は真九郎の手を引っ張る。
     梢のように時折カイロで暖を取ることもなく、蒼桜と違って寒冷適応のESPも使っていないのに、楓は元気いっぱいだ。
    「……それより私は温かいもの食べに行きたいよー」
    「それもいい!」
     マキナの提案に、楓を筆頭に賛成の声が次々に挙がって。
     灼滅者達は雪を踏みしめ、誰もいない廃墟を後にした。
     
     ボーン、ボーン、ボーン……
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 11
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ