新世界の到来

     山岸・山桜桃(ヘマトフィリアの魔女・d06622)は、こんな噂を耳にした。
     『マヤの予言によって旧世界は終わりを告げ、新世界の到来を示す化身があらわれた』と……。
     念のため、エクスブレインに確認を取ってみたところ、裏で都市伝説が絡んでいるらしい。
     都市伝説は陽気なサンバのリズムと共に登場し、周囲の者達を巻き込むようにしてダンスを踊り続ける。
     しかも、笑顔で、むっちゃ笑顔で、踊って踊って踊りまくる!
     この時点で『マヤとダンスって何の関係もありませんよね? ……というか、このノリって、どちらかといえばインドですよね? マハラジャ的なアレですよね? そもそも、この噂を流した人って、マヤ文明があったのはインドだと勘違いしてますよね?』というツッコミを入れたくなるほどの胡散臭さが漂っていたのだが、おそらく噂を広げた者達も『確かマヤ文明があった場所って、インドじゃねえ?』、『うん、何だかそれっぽい!』、『そういや、マヤとヨガって似ているもんな!』的なノリで、関係者が聞いたら確実にブチ切れて、勢いをつけて殴りかかってくるほどの空気が読めない勢いで噂を広めていったのだろう。
     都市伝説が現れると、とにかく踊る、踊りまくる。
     ただ、それだけ……。
     だが、都市伝説がいる限り、まわりの者達は踊る事をやめられない。
     自らの肉体が終わりを告げる、その時まで……。
     都市伝説と一緒に踊りながら、移動し続けるようである。
     このコミカルかつ凶悪な都市伝説を倒すのが今回の目的だ。


    参加者
    佐々・名草(無個性派男子(希望)・d01385)
    エレイナ・ビッシュフォン(シャドウバスター・d03385)
    シルフィーゼ・フォルトゥーナ(小学生ダンピール・d03461)
    ファム・フォーディア(武神獣姫・d05723)
    山岸・山桜桃(ヘマトフィリアの魔女・d06622)
    埋火・咲耶(赤にして緋色・d10664)
    砕牙・誠(阿剛さん家のヘタレ忍者・d12673)

    ■リプレイ

    ●新世界
    「俺達、陽気なSLAYOR! 新年HAPPY NEW YEAR!」
     女性用露出型のサンバ衣装に身を包み、砕牙・誠(阿剛さん家のヘタレ忍者・d12673)が仲間達の後方から陽気なリズムと共に参上した。
     その途端、近隣住民達から送られた冷やかな視線。
     キッカケはシルフィーゼ・フォルトゥーナ(小学生ダンピール・d03461)の一言。
     『誠が着るならサンバ衣装着用を考える』。
     その一言に乗せられ、文字通り一肌脱いだのである。
     だが、スネ毛が丸見え。
     それを見た子供達が異世界の生物でも見たかのように目を丸くさせていた。
     おそらく、このまま誠が踊り続ければ、都市伝説よりも早く、警察の方が駆けつけてしまうほどのクオリティ。
     両手にワッパアクセサリーがはめられてしまうのも、ある意味で時間の問題である。
    「ううっ……、どうしてこうなった」
     ビキニの水着のような形状のサンバ衣装でタイツを穿き、シルフィーゼが恥ずかしそうに頬を染めた。
     自分で蒔いた種とは言え、この寒い時期にサンバ衣装を着る事など、正気の沙汰ではない。
     しかも、無駄に露出度が高いせいで、周囲の目が気になって仕方がなかった。
    「……」
     それを見たエレイナ・ビッシュフォン(シャドウバスター・d03385)がスマホで文字を入力し、手持ちの木製風電光掲示板に出力して、『運命』という言葉をシルフィーゼに見せる。
     エレイナ自身もエイティーン化して、サンバ衣装を身に纏っているが、まったく恥ずかしがっていない。
    「うぅ、寒いけど踊れば暖かくなるかなぁ……」
     自分自身に言い聞かせながら、埋火・咲耶(赤にして緋色・d10664)がサンバ衣装姿でお菓子を咥えた。
     その間も近隣住民達が何とも言えない表情を浮かべているが、気にしたら負けである。
     それ以上に気にしたら、恥ずかしい!
    「もう、期待されたら仕方ないよねっ」
     そうライドキャリバーの轟天に言われたような気持ちになりながら、佐々・名草(無個性派男子(希望)・d01385)が女物のサンバ衣装に身を包み、騎乗状態でノリノリに踊る。
    「ぐふふ……、まだまだ発育途上な子達ばっかりだが、素晴らしい眺めだぜ♪ 山岸の衣装も露出は少なめだが良いモノだし、エイティーンで変身して踊るファムとエレイナも、ボリューム満点で地球滅亡レベルだぜ!?」
     ふたりの胸を眺めながら、誠が幸せそうにした。
     このまま都市伝説が現れなければ、どれほど幸せな事か。
     そう思いながら、踊ること数十分。
     まわりの者達もそういうものだと認識したのか、まるで何も見えていないような態度である。
    「それにしても、とんでもない新世界の訪れが予見されてましたね。噂を広めた方々は、本当にこんな新世界が訪れると思っていたのでしょうか……? しかし、肉体の終わりまで踊り続ける事になるとは……、地味に恐ろしい都市伝説ですね」
     改めて都市伝説の恐ろしさを実感しつつ、山岸・山桜桃(ヘマトフィリアの魔女・d06622)が何かに気づく。
     それは沢山のダンサー(注:一般人)を従え、ねぶたスタイルで踊り狂う都市伝説であった。
     都市伝説のまわりにはサラリーマンや主婦、米屋から宅配業者まで様々な職種が入り混じっており、それを見た者達もCMのワンシーンであるかのように錯覚するようなノリで列に加わっている。
    「マヤ文明も、インドも。そんなに、興味は、ない、けれど。踊るのは、楽しそう、なの。……無理矢理は、どうかと、思う、けれど」
     都市伝説に視線を送り、シロナ・エンティミスタ(幽刻・d08554)がスレイヤーカードを構えた。
     その途端、心の中で『踊りたい』と言う衝動が湧き上がり、危うく飲み込まれそうになる。
     それをギリギリのところで抑え込んではいるものの、まるで水が溢れたダムの如くもやもやとした気持ちが膨れ上がった。
    「た、楽しそうだけど、人の迷惑になるなら退治するしかないね」
     自分自身に言い聞かせながら、ファム・フォーディア(武神獣姫・d05723)が都市伝説の行く手を阻む。
     それと同時に都市伝説がニンマリ笑い、『みんなで踊ればハッピーネ!』と叫んでファム達を手招きした。

    ●踊る世界
    「ファムも負けないよ! どっちが上手く踊れるか勝負だ!!」
     自らの気持ちを解放するようにして、ファムがイティーンを使用してサンバダンサーの衣装に着替え、激しくダンスを踊って都市伝説達に対抗する。
     それに気づいた都市伝説も、体を激しく揺らしてファムに対抗。
     ……二人の間で飛び散る火花!
     双方とも負けるつもりがないため、ダンスバトルが白熱する。
    「とりあえず、踊ればいいのかな?」
     色々な意味で高レベルな戦いになってきたため、咲耶が気まずい様子で汗を流す。
     何か違う、絶対に違う、と心の中で思っていても、それを言う事が出来ないほどに熱い空気。
    「それじゃ、踊りながら、近づく、の」
     見よう見まねでダンスを踊り、シロナが都市伝説に近づいていく。
     それと同時に心の中が満たされ、他の事が考えられなくなってきた。
     おそらく、これが都市伝説の力なのだろう。
     都市伝説を倒す事よりも、踊る事の方が重要に思えてきた。
    「ええいっ、これも作戦じゃ作戦!」
     半ばやけくそになりながら、シルフィーゼがシロナ達の後に続く。
     その途端、自分の心が満たされたような気持ちになり、シルフィーゼがハッと気づいて首を振る。
     おそらく、このまま流れに身を任せれば、変態街道まっしぐら。
     それだけは何としても、阻止せねばならない!
    「……」
     警戒した様子で間合いを取りながら、エレイナが都市伝説に視線を送る。
     都市伝説自身はまったく疲れた様子はないが、まわりにいる者達が真冬であるにもかかわらず、全身汗だくで笑顔を浮かべていた。
    「お前ら、ノってるかーい?」
     まわりで踊る者達に声を掛けながら、誠が鏖殺領域を展開する。
     しかし、まわりにいる者達は踊るのに精いっぱいで答える余裕はない。
    「なんだかのんびりしている暇はなさそうだね」
     轟天に括り付けられた和傘の上を転がる勢いで、名草が殺界形成でまわりにいる者達を追い払おうとする。
     だが、都市伝説の力が強いせいか、まわりにいる者達は踊り続けたまま。
     その代わり、物凄く嫌そうな表情を浮かべて踊っている。
    「いい加減にしないと怒りますよ」
     一気に間合いを詰めながら、山桜桃がフォースブレイクを叩き込む。
     次の瞬間、都市伝説がバランスを崩し、その拍子に催眠効果が切れたため、まわりにいた者達が悲鳴を上げて逃げ出した。

    ●ダンス・ダンス・ダンス
    「これでようやく楽……って、まだ踊るの!?」
     再び都市伝説が踊り出したため、咲耶が驚いた様子で大声をあげる。
     そのせいで咲耶が放った居合斬りは、豪快に空振り!
     そのまま勢いあまって転びそうになった。
    「ううう……、恥ずかしすぎて、ゆすら闇堕ちしちゃうよぉ……」
     恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、山桜桃が涙目になって踊り狂う。
     気のせいか、先ほどよりも都市伝説の力が強くなっている。
    「まあ、今は楽しもう。後で凹むかも知れないけどね」
     ライドキャリバーに乗ったまま都市伝説に突撃し、名草が苦笑いを浮かべてノリノリで周囲に弾丸をばら撒く。
     次の瞬間、都市伝説が慌てた様子で、悲鳴を上げて跳ね踊る。
    (「……敵は踊ってない、ただの動く魔物」)
     心の中で呪文を唱えるようにして呟きながら、エレイナがライドキャリバーと連携を取りつつ、デッドブラスターを放つ。
     その一撃を食らった都市伝説がバランスを崩し、倒れる事を全力で回避するため、意味もなくブレイクダンスを踊る。
    「それじゃ、本日のゲスト! 都市伝説にスポットライトを当てるぜ☆ 盛り上がって行こうぜ!」
     一気にテンションをあげ、誠がオーラキャノンを撃ち込んだ。
     それと同時に都市伝説が『お、おい。ちょっと、待て。待てよ、ぎゃああああ!』と悲鳴をあげ、踊る事さえ忘れて逃げようとした。
    「……待て。かようなはずかしめを受けた恨み、全て貴様にたたきちゅけてくれりゅっ!」
     思い出した様子でヒラヒラしたロリータドレス姿になった後、シルフィーゼが都市伝説めがけて居合斬りを仕掛ける。
    「い、いや、誤解だ。すまん。もう帰るから」
     薄らと涙を浮かべ、都市伝説がすっかり逃げ腰になった。
    「久しぶりに、使うの」
     そこに追い打ちをかけるようにして、シロナがブラックフォームを使う。
     都市伝説はそこで自分のやった事がいかに愚かであった事なのか、ようやく気づく。
     だが、既に手遅れ、後の祭り。
     都市伝説がオロオロしている間に迫るファム。
    「斬っちゃうよ!!」
     勢いをつけて飛び上がり、ファムがサイキック斬りを炸裂させる。
     それと同時に都市伝説が断末魔を響かせ、苦しみ悶えながら消滅した。
    「終わったね。何だか妙に疲れたけど……」
     都市伝説が消滅した事を確認し、名草がホッとした様子で座り込む。
     どうやら、今まで踊り続けていた反動が今になって来たらしい。
     この様子ではしばらく立ち上がる事は出来ないだろう。
     そう思いつつ、名草がどこか遠くを眺めていた。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 10
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