南国死者のホテル

    作者:小茄

     沖縄には多くのビーチが存在する。
     中でも本島の一角に存在するこのビーチは、屈指の美しさと水の透明度、海岸線の長さで地元民から観光客まで広く愛されていた。
     そんな場所なのだから、観光業者も目を付けないわけが無い。
     リゾート開発を試みたのだが、資金繰りの悪化から結局途中で断念。ホテルの残骸を残して撤退してしまったと言う。
    「で、そのホテルにゾンビどもが棲み着いたってわけだ」
     今回、その情報をいち早く掴んだのは白・彰二(虹色頭の反抗期・d00942)。
    「彰二の情報は確かな様ですわ。今はシーズンオフですけれど、解決出来るうちに解決しておくのが吉ですわね」
     彰二より報告を受けた有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)は、詳細な情報を灼滅者達に伝える。
     
    「敵の数は全部で10体。ただしそのうちの1体は、強力な個体の様ですわ」
     彼らは全て廃墟と化したホテルに棲み着いており、最も強力な1体はその最上階に居ると言う。
    「RPGよろしく、1階からゾンビを倒しながら登っていき、最上階のボスを倒せば任務完了と言った所か」
     と、相づちを打つのは三笠・舞以(中学生魔法使い・dn0074)。
    「アンデッド……ゾンビ達に知性は無く、本能のままにあなた方に襲いかかってくるでしょう。攻撃方法も、引掻く、噛みつくと言った原始的な近接攻撃だけですわね」
     ただし、建設途中のビル内には機材等の死角も多く、アンデッド達の攻撃には毒のバッドステータス効果がある。油断は禁物だろう。
    「この時期なので泳ぐわけには行かないでしょうけれど……天気が良ければ、ビーチで少しゆったりしてから帰るのも、良いかも知れませんわね」
     1月は沖縄も冬。だが、本土に比べれば断然暖かい。季節外れのビーチも悪くは無いだろう。
    「いずれにしても、まずはアンデッドの灼滅ですわね。それでは、いってらっしゃい」


    参加者
    遉・太一(名に反し祀られぬ闇の力・d00866)
    仲村渠・弥勒(世果報は寝て待てない・d00917)
    白・彰二(虹色頭の反抗期・d00942)
    神凪・陽和(天照・d02848)
    光苑寺・華鏡(高校生エクソシスト・d03976)
    茶之木・百花(巴旦杏のつぼみ・d09772)
    中・アルカ(色褪せた黒・d10412)
    イヴリア・アイファンズ(小学生ファイアブラッド・d13625)

    ■リプレイ


    「んー、沖縄って、土地柄なのか幽霊とかの話はよく聞くけど、ゾンビは珍しいわなーホント、夏じゃなくて良かったねー……」
     仲村渠・弥勒(世果報は寝て待てない・d00917)はシャトルバスから外の景色を眺めつつつぶやく。
     沖縄出身の彼は、照りつける夏の日差しや暑さを、痛いほど体験してきたのだ。
    「確かに……ゾンビ向きじゃない気候な気がするなぁ。いろんな意味で危険だし、さっさと倒しちまおう」
     うなずきつつ応えたのは、遉・太一(名に反し祀られぬ闇の力・d00866)。
     今は沖縄の短い冬。那覇市内にはコートを着た人の姿も見受けられた。これから戦わねばならないアンデッド達のコンディションを考えると、暖かくなる前に倒して置いた方が良いかもしれない。
    「北海道の次は沖縄でゾンビ退治かぁ、日本列島北から南までゾンビだらけだな……! 大丈夫か日本!」
     さて、今回アンデッド達の情報を入手した当人である白・彰二(虹色頭の反抗期・d00942)。
     彼もつい先日は、雪の降り積もる札幌でアンデッドを退治してきた所。北へ南へと大忙しだ。
    「沖縄でもやはり出ましたか……大量のゾンビ」
     神凪・陽和(天照・d02848)の眺める車窓からの景色も、市街地を離れるにつれ、本州とは一線を画すものへ変わりつつある。
     古くは琉球王国が栄え、数十年前までは訪れるのにビザが必要であった沖縄。日本にありながら、異文化を感じられる場所と言えるだろう。
    (「この世界にゾンビは無用です。穢れし魂を祓うのが神凪の者が役目」)
     神凪家の灼滅者として、倒すべき相手が居るのであればどこへなりと赴き、必ず使命を果たすのが彼女だ。
    「どこにでも湧くものかな、ゾンビというものは。困ったものだがここはしっかりと殲滅しておかないと面倒そうではあるな」
     光苑寺・華鏡(高校生エクソシスト・d03976)は若干揺れる車中で、眼鏡の弦を指で押し上げる。
     夏、シーズンともなれば沖縄を訪れる人間の数は相当な物となる。そうなれば、被害も拡大しかねないし、灼滅するにも不都合が増えるだろうから。
    「……ようやく到着ですか」
     目的地に到着しシャトルバスが停車すると、中・アルカ(色褪せた黒・d10412)は表情を変えぬまま車を降りる。
     ビーチ利用者の為の駐車場、売店などがあるが、車は停まって居らず売店にも人は居ない。
    「観光場所なんだしこういった廃墟とか、景観とかどうなんだろね」
     イヴリア・アイファンズ(小学生ファイアブラッド・d13625)の視線の先には、コバルトブルーの海……ではなく、建築途中で放棄された廃墟ビル。
     そして事実、観光客、現地の人々、双方から「せっかくの景観が台無しだ」と不評を買っているそうだ。
    「ゾンビもバカンスしたかったのかなぁ、冬だけど! でもせっかくの沖縄なんだから、わざわざ廃墟に住まなくたっていいのにね!」
     と、無邪気な感想を口にしているのは茶之木・百花(巴旦杏のつぼみ・d09772)。
    「うむ。奴らにとってはきっと快適な環境なのだろうな」
     冬の沖縄にしては珍しい晴天の日差しに目を細めつつ、相づちを打つ三笠・舞以(中学生魔法使い・dn0074)。
     昼に近づいて太陽が昇り、気温もじわじわと上がりつつある様だ。
     灼滅者達は早速、アンデッドの巣食うビルへと足を踏み入れてゆく。


    「完成してたら結構大きなホテルになったんだろうねー」
     封鎖されていた扉を開き、エントランスへと入った一行。周囲をきょろきょろと見回して警戒する弥勒。
     観光地化は地元を潤すが、一方で珊瑚礁や海の生物に悪影響を与えるとして反対の声も大きかったと言う。いずれにしても、建築中止によって今は夢の跡だ。
    「……トントン」
    「っ?! な、何ですか」
    「いや、何となく緊張してそうに見えたからな」
     唐突にイヴリアの肩を叩いたのは舞以。
    「してませんよ、全然」
     務めて平静を装うイヴリアだが、実は今回が初陣の彼女。隠しきれない緊張感を漂わせている。
    「しっ……何か聞こえませんか?」
     ふと、華鏡が皆へ呼びかける。耳を澄ます一同。
     ――がたんっ。
     先ほど灼滅者達が入ってきた扉が再び開かれる。
    「……イブ?! 何でいんの!?」
    「ちょっと先輩をストーキングしてついてきちゃいました」
     驚く彰二達の視界に入ってきたのは、イブ。
    「死んでも良え思いしたかってんやろか。夢の跡言うんはどうにも寂しいねぇ」
    「ちょっと前に北海道でゾンビの相手をしてきたばっかりだというのに、今度は沖縄に、ですか……」
     そしてナイン、十三、一浄、蓮璽の5名。
     二台目のシャトルバスでやってきた応援部隊である。
    「すっかり大所帯に――皆さん、敵です」
     援軍の到着で少し表情を緩めた陽和だが、すぐさま別の気配を感じ取って身構える。
     彼女の視線の先には、腐敗の進んだアンデッドが3体。
    「来やがったな。やれ、アラタカ!」
     待ってましたとばかり、霊犬のアラタカに援護を命じる太一。自身は日本刀を振るい、紅の逆十字をゾンビの身体に刻む。
    「先は長いし、サクサク片付けてこーぜ。第二陣の皆は援護を頼む」
    「それじゃ、いくよー」
     弥勒のガトリングが火を噴くのに合わせ、彰二は先ほど太一が攻撃したアンデッドに追撃を掛ける。
     ――ザシュッ。
    「ォァァァァアー……」
     脚の腱を切断され、ぐらりと傾くアンデッド。腕を振り上げ、必死の反撃を試みてくる。
    「お役目、果たさせていただきます」
     ――ドッ!
     が、陽和は日華を振るってその腕を切断すると、燃えさかる金烏を心臓に突き立てる。
    「歯ごたえが無いな」
    「まだ小手調べと言った所だろう」
     魔法の矢を放ちつつ軽口を叩く舞以と、バベルの鎖を瞳に集中させつつ、応える華鏡。
    「これがゾンビ……! 生で見るのは初めてだよ!」
     同様に風の刃を放ちながらも、相手をまじまじと観察する余裕の百花。
    「何事も経験です」
     いざ敵が現れれば、イヴリアもれっきとした灼滅者。死の力を宿した断罪の刃によって、アンデッドの首を狩り落とす。
    「オォォァァァー……」
     仲間をやられた怒り――などと言う感情はあるまいが、生者達に憎しみの咆吼を上げてにじり寄るアンデッド。
    「この階は貴方で最後ですか」
     そこへロケットハンマーを振り上げたアルカが立ちふさがり、アンデッドの脳天へと渾身の一撃を見舞う。


     1階のアンデッドを苦も無く片付けた灼滅者達は、2階へやってきた。ここは本来客間が並ぶ予定であった様だが、まだまだ工事が進んでいなかったらしく建築資材などが所々に積まれている。
    「物陰には注意だぜ」
    「お約束だしねー」
     太一、弥勒を初め、周囲を警戒しながらゆっくりと進む一同。
     そんな彼らが木材の山の前を通りかかった刹那――
    「危ない!」
     ――ガラガラッ!
     唐突に崩れる木材を、アルカがシールドで受け止める。
    「ウガァァァ!」
     その騒動に便乗する様に、姿を現したアンデッド達。
    「これでも喰らいやがれ!」
     しかし灼滅者達もさるもの、太一は浮き足立つ様子も見せずにすぐさま日本刀を振るってアンデッドを斬り付ける。
    「メディックの皆、回復は任せるよー」
    「援護を要請するまでもないぜ」
     同一の標的目掛け弥勒、彰二も波状攻撃を仕掛けてゆく。
    「消毒は任せてー!」
     回復を受け持つのは百花とアラタカ。アンデッドの持つ毒攻撃も、彼女らの迅速な回復によってほぼ無効化されている。
    「……殲滅する」
    「行きます」
     華鏡のフリージングデスがアンデッドの体温を奪い、氷漬けにしたその直後――陽和の掌から放たれた炎の奔流が敵を一呑みにする。
    「……これで片付けます」
    「これなら休憩も要らないかな」
     瀕死のアンデッドに引導を渡すアルカとイヴリア。戦いはほぼワンサイドのまま、最終局面を迎えようとしていた。


    「雑魚から片付けるぞ」
     太一の言葉に頷く一同。
     3階に到達した灼滅者達の前に、これまでのアンデッドとは佇まいからして異質な、大柄の個体が堂々と立ちはだかる。その傍らには、2体のアンデッドが付き従っており、ボスと見て間違いないだろう。
    「今までが危なげなくいけた分、問題はコイツですね」
     緊張も大分解れた様子のイヴリアだが、最後の大物を前にもう一度気を引き締め直す。
    「先手必勝ー」
     太一のリングスラッシャーが宙を舞い、弥勒のガトリングが激しく火を噴く。
    「ウォァァァァ……!」
     燃えさかるアンデッドが、続いてボスともう1体が、負けじと襲いかかって来る。
    「ちょい待ち! てめーの相手はこのオレだっ!」
     ――ガキィッ!
     どす黒い殺気を放ちながら、ボスゾンビの一撃をチェーンソー剣で受け止める彰二。
    「ここは通しません」
     更には陽和が、炎を纏った日華でボスゾンビへ斬り付ける。
    「今のうちに数を減らしましょう」
    「うむ」
     アルカ、舞以も集中砲火に参加し、手負いのゾンビを屠りに懸かる。

    「ウゴォォァァァッ!」
     ――ドカッ!
    「ぐっ……!」
     ボスの渾身の一撃を、剣の腹で受け止めた彰二。痛烈な衝撃を受け、辛うじて踏みとどまる。
    「さすがに……」
     陽和のレーヴァテインをも次第に見切り初め、直撃を与えられなくなりつつあった。
    「頑張って、もうちょっとだよ!」
     清めの風で前衛を援護する百花。アラタカも浄霊眼によって彰二の傷を癒やす。
    「俺たちもフォローさせて貰いますよ!」
    「ほな、妨害に徹しましょか」「任せて下さい」
     清めの風を重ねる蓮璽に、ギルティクロスを放つ一浄。イブはバスタービームをゾンビに照射する。
     これまでは楽勝すぎて出る幕の無かった援軍組も、ここぞとばかりに支援を開始。
    「今のうちに雑魚にトドメを」
    「それが居なくなれば、あとはボスだけね」
     シールドリングを展開しつつ、十三。ナインはマジックミサイルを放つ。
    「オォォォァァ……」
     灼滅者達の間断無い攻撃に晒され、手負いのゾンビは一層に体力を削られてゆく。
    「朽ち果てろ」
     ――ゴォッ。
     華鏡の足下より伸びた黒い影は、瀕死のゾンビを一呑みに飲み込む。
    「もう一体も瀕死だ」
    「お任せを。アイファンズさん」「はい、行きますよ」
     舞以のマジックミサイルが残った雑魚ゾンビの腕を貫く。これに呼応し、アルカとイヴリアの同時攻撃がゾンビを跡形も無く粉砕してゆく。
    「よし、最後の一体だ」
     紅蓮の闘気を纏わせ、日本刀を振るう太一。アラタカも攻撃へと転じる。
     いかに強力なボスゾンビといえど、この状況から戦況を覆すことなど出来ようはずも無い。
    「さぁ、とどめを!」
     激しい集中砲火に、影喰らいで力添えしつつ百花。
    「任せておけっ。いくぞ神凪!」「解りました。穢れし魂を……祓います」
     高速で死角へと回り込んだ彰二は、ゾンビの腹部へと剣を突き立てる。とほぼ同時、一旦刀を鞘に収めた陽和が、居合抜き一閃。
     ――ドシュッ!
    「オ……ァァァ……」
     ゾンビの頭部が床に転がり落ち、次いでその身体も崩れ落ちた。


    「いい天気だなー」
     ビーチに敷かれたシートの上、波音を聴きながら横たわる太一。
     風が無く天気も良いこんな日は、長袖も暑く感じられる陽気だ。
    「なるほど、これが沖縄そばか」
    「これを使うのが地元流だよー♪」
     こちらでは、鉄板を使って弥勒が焼きそばの準備を進めている。
     沖縄でそばと言えば小麦粉を用いて作られるやや太めの麺を指す。蕎麦粉を使う本州のそばは、日本そば、ヤマトそば、或いは黒いそばと呼んで区別するのだと言う。
    「さっきの線香も、本州のとは違ったな」
    「うん、沖縄の線香は黒くて平べったいんだよー」
     廃ホテルに備えられたのも、弥勒の持参した沖縄の線香。食事や死者の弔いなど、色々な所で本州との差異を実感する一同。
    「そうだ、今こちらは桜のシーズンと聞きましたし、食事が終わったら見に行きましょうか」
    「うんうん、観光案内なら任せて」
    「へえ、一月に桜が咲くのですか」
     イヴリアの提案に笑顔で応える弥勒。陽和も興味ありげな様子。
    「ガイドブックに載っていないような、穴場が魅力ですね」
     蓮璽はいずれ彼女と来訪する時の為に、下調べをするつもりの様だ。
    「しかし、春を先取りしたみたいで得した気分! 隙ありっ!」
     一方こちらでは、彰二が食べ頃に焼けた肉をアルカの眼前からかすめ取る。
    「失敬っ!」
     それを見て、便乗する百花。
    「……弱肉強食、ですか」
     次々に肉を奪われていくが、達観したアルカは、無表情ながらもどことなく楽しげな雰囲気で呟くばかり。
    「光苑寺、どうやら船を出してくれるらしいぞ。ただ、本当に乗るのかと念を押されたが……」
    「そうか……折角の沖縄だ、体験しておくのも良いだろう」
     バナナボートと、それを引っ張ってくれる船のチャーターに成功した舞以。クールなイメージの華鏡だが、意外と乗り気のようだ。
    「良し、ならば死なばもろとも。皆で乗る事にしよう。14人分でお願いする」
     食事を終え、一足早い花見を満喫する一同。このまま行くと、寒中バナナボートも体験する事になりそうだが……それはまた別のお話。

     ともかくも、灼滅者達の活躍によって廃ホテルに巣食うアンデッドの群れは灼滅された。
     静かな美ら海のビーチに、平穏が戻ったのである。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 11
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