雪だるま幻想曲

    作者:春風わかな

     東京都東部。海に程近い街でも珍しく雪が積もった朝のことだった。
    「なぁ、今日は学校から帰ったらみんなで一緒に雪だるま作らねー?」
    「いいぜ! こんだけ雪があったらすっげー大きな雪だるま作れそうだし!!」
    「オレもオレも! みんなで協力してさ、ちょーカッコイイ雪だるま作ろうぜ!」
     慣れぬ雪道を慎重に歩きながら『カッコイイ雪だるま』について語る3人の少年達。
     ちょうど話題が途切れたところでそういえば、と一人の少年がとある噂話を口にした。
    「つーかさ、公園に作った雪だるまが深夜になると動き出すって話、知ってる?」
    「もちろん! でも赤いマフラーと手袋をつけた雪だるまじゃないと動かないんだぜ?」
    「うっそ、オマエらそんな噂信じてるの!? 雪だるまが動くわけねーじゃん!」
    「オ、オレだって信じてるわけじゃねーよ? ただの『噂』だよなっ」
     話を振られた少年も慌てて頷く。
    「おはよー、オマエら何の話してるの?」
    「なぁなぁ、コイツら雪だるまが動くとか言ってるんですけどー!」
    「ばっか、だからそれは『噂』だって言ってるだろ!!」
     小学校へ近づきクラスメイトと話す彼らの話題は次第に宿題の話へと変わり、そんな雪だるまの噂など本人達の記憶からも抜け落ちていったのだった。

     教室に集まった灼滅者達を物憂げに見遣り久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)はゆっくりと口を開いた。
    「新しい、都市伝説の出現を予知した――」
     小学校の近くにある公園で作られた雪だるまが深夜0時を過ぎると動き出す。その雪だるまは必ず赤いマフラーと揃いの手袋をつけている。
     近所の小学生達の間で『噂』になっている話なのだが、この噂話には誰も語っていない続きがある。この雪だるまが動く理由は作り主を探し出して殺すため――。
    「近所の小学生達が、雪だるまを、作ってしまう」
     公園で雪だるまを作っていた小学生の一人が冗談半分に妹の赤いマフラーと手袋を雪だるまにつけてしまった。このままでは罪もない少年が都市伝説の犠牲になってしまうので阻止してほしいと來未は告げる。
     都市伝説が出現するまで時間があるので雪遊びをして時間を潰すと良いだろう。雪合戦やそり遊び、童心にかえって楽しんでみてはどうだろうか。もちろん雪だるまを作っても良い。ちなみに条件を満たした雪だるまが複数あった場合『一番カッコイイ雪だるま』が動き出すそうだ。
     都市伝説は3メートルほどの巨大な雪だるまで、配下に1メートル弱の小雪だるまを2体連れている。見た目はちょっと可愛いがその戦闘能力は侮れない。
    「雪玉を飛ばしたり、巨大な身体で敵を押し潰そうとするから、気を付けて」
     他にもマフラーを器用に操り複数の敵の行動を邪魔することも出来るようだ。
     戦闘時は巨大雪だるまが前に立ち、小雪だるまは少し離れた場所に位置どる。小雪だるまは冷気のつららを飛ばして攻撃をする他に2種類の回復で巨大雪だるまの支援をする。
     説明を終えた後、言い忘れてたと來未は顔をあげて灼滅者達をじっと見つめた後ぽつりと呟いた。
    「寒いと思うから、防寒対策、忘れないで」
     來未に見送られ、灼滅者達は夜の公園へ向かうのだった。


    参加者
    睦月・恵理(北の魔女・d00531)
    佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597)
    茅薙・優衣(宵闇の鬼姫・d01930)
    月宮・白兎(月兎・d02081)
    安曇野・乃亜(ノアールネージュ・d02186)
    硲・響斗(波風を立てない蒼水・d03343)
    神堂・律(悔恨のアルゴリズム・d09731)
    迅魏・辺(自由こそ正義にして救い・d11761)

    ■リプレイ

    ●夜の公園
     夜の闇に包まれた公園の広場に佇む1体の雪だるま。広場に響く少年少女の楽しげな声に黙って耳を傾けている。びゅぅと吹き抜ける風に雪だるまの赤いマフラーがひらりと揺れた。
    「久し振りに雪遊びが出来るなあ♪」
    「本当に。雪が積もっても遊ぶのなんて久しぶりです」
     迅魏・辺(自由こそ正義にして救い・d11761)と月宮・白兎(月兎・d02081)がコロコロと雪玉を転がしながら笑顔で言葉を交わす。
     この広場にいるのは8人の灼滅者達。ばっちりと寒さ対策をした彼らは現在『カッコイイ』雪だるま制作の真っ最中だった。
    「うーん、これ位の積雪だと、そんなに大きくはならないかなぁ」
     硲・響斗(波風を立てない蒼水・d03343)が広場に積もった雪を見て残念そうに呟く。だが大きな雪だるまを作ることを諦めたくはない。少し迷ったが見た目を気にせず大きさを重視すると決め、彼もまた熱心に雪玉を転がし始めた。
    「一番かっけぇー雪だるまー……まー……」
     雪玉を転がしている間も佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597)は一生懸命考えていた。どうやったらカッコイイ雪だるまが作れるだろうか。
    (「あ、そうだ。アレでもつけてみっかな……」)
     まずは雪だるまを完成させよう。司は再び雪玉作りに没頭するのだった。
     『動く雪だるま』と言われて絵本で読んだ雪だるまを思い出した茅薙・優衣(宵闇の鬼姫・d01930)。しかし、妖精譚だった絵本とは違いこちらは物騒な話だ。
    (「何にせよ、子供が犠牲にならないようにしましょうね」)
     二つの雪玉を重ねた優衣は持参した松ぼっくりや松の葉で丁寧に顔を仕上げていく。
    「よし、出来た」
     一番に雪だるまを完成させたのは神堂・律(悔恨のアルゴリズム・d09731)だった。
     ぱっぱと手際よく作り上げた雪だるまを見てふと疑問が頭をよぎる。
    (「てか、何でまた雪だるまみたいにほのぼのしてるモンが都市伝説なんかに……」)
     残念ながら理由は雪だるま本人に聞いてみないとわからないだろうが、都市伝説の灼滅は子供達のためだ。
    「私も完成です」
     最後に赤いマフラーを巻き白兎の雪だるまが完成した。カッコイイと言われて真っ先に思い付いたものは愛用しているゴーグル。今だけは雪だるまに貸してあげることにする。
     安曇野・乃亜(ノアールネージュ・d02186)は完成した雪だるまをじっと見つめていた。何かが足りない気がする……。
    「大事なものを忘れていた」
     用意しておいた角を付けてやり、今度こそ完成だ。
    (「指揮官専用機には角がついているものだろう?」)
     乃亜は満足そうに雪だるまを見遣り何度も頷いた。
     大きな雪玉を作ったのはいいが、どうやって重ねればいいか。
     頭用の雪玉を前に悩む響斗に睦月・恵理(北の魔女・d00531)が救いの手を差し伸べる。
    「私に任せてください。今、頭を乗せてきますね」
     響斗が作った雪玉を抱えた恵理の身体がふわりと浮き無事に胴体の上に頭が乗った。
    「こんな感じでいかがでしょうか」
     『空飛ぶ箒』を使った恵理のおかげで響斗の雪だるまも完成した。
     灼滅者達は続々と雪だるまを完成させていく。
     松ぼっくりは目。黒い折り紙で鼻を作り、松の葉のひげを刺して出来上がり。
     優衣が作ったのは長い耳を持ったウサギ雪だるま。
     雪だるま作りを終えた優衣は休む間もなく鍋の準備に取り掛かる。
     辺が作った雪玉は表面のでこぼこも削られ見た目も綺麗だった。満足のいく頭を作ることが出来た辺は異形巨大化させた片腕を使ってひょいと雪玉を合体させる。完成した雪だるまは辺を見下ろす程の大きなもの。
    「それにしても寒いねー……北海道とかに比べるとまだ暖かいんだろうけど」
     喋るたびに零れる白い息。響斗が手袋をはめた手をこすり合わせる。
    「そうだ、ホットチョコレートを作ってきた。いかがかな?」
     乃亜が差し出したホットチョコレートを響斗達が大喜びで受け取った。
     そして。
    「……む。マフラーつけんのに邪魔だ、この砲台!」
     まるでロボットのような雪だるまにマフラーを必死に巻いている司が最後まで雪だるまと格闘していたのだった。

    ●たまには雪合戦
     8体の個性豊かな雪だるまが並ぶ姿は壮観だった。この中のどれが動き出すのか楽しみではあるが都市伝説が出現する時間まではまだ時間がある。
     そんなわけで白兎の提案で雪合戦をすることにした灼滅者達。
     『司・響斗・白兎・辺』チーム対『恵理・優衣・乃亜・律』チームの戦いが始まる!
    「雪だるまと戦う前の準備運動としては丁度良い」
     クールに振る舞う乃亜だったが雪合戦も全力で楽しむ所存。振りかぶって投げた雪玉が響斗に命中してパァンっと弾ける。
    「むぅ、やったなー!」
     言葉とは裏腹に笑顔の響斗は執拗に律を狙う。茂みを利用して長身を隠しながら応戦する辺と一緒に容赦なく雪玉の雨を降らせる。
    「手加減なしでいくぜ」
     力いっぱい投げた司の雪玉は場外ホームラン。投げた主も飛ぶなーと笑顔で見送った。女子や年下らに本気の玉は投げられない。
     一方、白兎はせっせと雪玉を作り仲間をサポートしていた。司から貰った予備手袋のおかげで効率もアップ。後はひたすら投げるだけ。
    「楽しすぎてヘトヘトにならないように気を付けないとですね」
     口にした白兎自身もわかっているのだが、これって実はすごく難しいことかもしれない。
     同チームの女子に良いところを見せたい律だが思わぬ集中攻撃に苦戦を強いられていた。
    (「もしかしてお嬢さん方の方が強かったり……」)
     ちらりと女子を見ると雪玉を抱え果敢に攻めている。
     いやいや、俺もイイトコを見せねば! と必殺技のタイミングを伺っていた。
     ――チャンス!
    「食らえ! 俺のトルネードスノーボールアターック!」
     律の渾身の一球はちょうど弾を投げようと振り向いた辺の顔面をとらえた。決まった! と内心満足している律と対照的にちょっと悔しそうな辺。
    「さあ、最後にボス戦なんていかがです?」
     ……なぜか頭上から恵理の声がする。
     司が慌てて見上げれば恵理がばら撒いた大量の雪玉が降り注いできた。
    「なんだよ、ひっでー!」
     雪玉まみれになりつつも司の顔から笑顔が消えることはない。

     そろそろ時計の針も重なる頃。
    「どうせ遅くまで待機ならこれを作らないわけにはいきません!」
     空き時間を利用して鍋の準備を進めていた優衣は味見の真っ最中。
     牛すじ、大根、がんもどき……。響斗が提供した玉子や巾着等も追加されたおでんは味噌仕立て。ぐつぐつと煮えるお鍋からは食欲をそそる美味しそうな匂いが漂ってきた。
    「優衣君の鍋もそろそろ完成か。楽しみだ」
     恵理が差し入れたホットミルクティーを飲みながら乃亜が鍋を覗き込む。
    (「やっぱり、こんな時間も大切だと思いますよ」)
     温かいのはミルクティーのおかげか、それとも……。
     ほっと一息をついた白兎は視線を時計に落とす。
     針が重なるまで、後10秒……5、4、3……。

    ●巨大雪だるま(+小雪だるま)V.S.灼滅者
    『ユッキー・ダ・ルーマー!』
     時計の針が0時を指した瞬間、司が作った雪だるまがむくむくと膨れ上がっていく。うまく巻けていなかった赤いマフラーが風に煽られる。
     思わず成り行きを見守ってしまう灼滅者達。そして砲台付の雪だるまだったものは雪でできたロボットのようになった。さっきまでと比べてちょっと悪そうな顔になった気がしないこともない。
    「うーわー……巨悪な雪だるま出現だよ……悪夢だよ……」
     ガキ見たら泣くよ……と呟く律の頭の片隅を赤いウェーブヘアの少女が泣きながら駆け抜けていく。
    「雪だるまでもこれだけ大きいと、可愛げも何もないよねー?」
     響斗の意見はもっともだ。だからこの大人げない都市伝説から子供達を守るために遠慮なく戦おう。
    「ほな、行こか!」
     雪だるまから返してもらったゴーグルを装備した白兎の声で戦闘が始まった。
    「おわっ!?」
     大雪だるまから放たれた雪玉に最初に狙われたのは司。
    「てめー……作り主への感謝の気持ちってのはねーのか!」
     怒りで我を忘れた司が激しくギターをかき鳴らし音波で大雪だるまを攻撃する。
    「司さん、落ち着いてください!」
     慌てて白兎が魂の奥底に眠るダークネスの力を司に注ぎ込みその怒りを鎮めることに成功した。
     その間に乃亜はブラックフォームで自身の力を高め、恵理のソニックビートが奏でる音の波で妨害し、優衣のオーラキャノンが小雪だるまの額を貫いた。
    「君の相手はこっちだよ!」
     声をかけるや否や響斗が全力で大雪だるまを殴りつけた。大雪だるまの目の色が変わり怒りを込めた眼差しで響斗を睨み付けている。
     律が炎を宿した日本刀を振り上げ、辺の影業が大雪だるまを切り裂かんと襲い掛かるが大雪だるまはどこ吹く風といった様子で余裕を見せている。その背後では小雪だるまが必死に大雪だるまの傷の回復に励んでいる。
    『アタァァック!』
     その巨大な体を持ち上げ、大雪だるまは響斗目がけて全力でダイブ!
     WOKシールドで咄嗟に顔を庇いなんとか致命傷は避けたがその巨大な身体から繰り出される一撃はやはり強力。急いで白兎が指輪の力を借りて傷を癒すが、響斗自身もまたシールド展開して護りを固める。
     怒り状態から解放された司は除霊結界で、恵理もまた制約の弾丸を撃ち込んで大雪だるまの動きを封じようと攻撃の手は休まることはない。
    「これで、終わりですっ!」
     優衣が放った赤い逆十字のオーラに切り裂かれ、小雪だるまが1体消滅した。
     残った小雪だるまに漆黒の弾丸を撃ち込む乃亜の隣に立つ律もオーラキャノンを撃つ。
     辺が狙った矢は大雪だるまを捕えたが、小雪だるまが最後の力を振り絞って傷を癒してしまう。
     小雪だるまを倒すことと並行して雪だるまの行動を封じることは少々骨が折れた。だが白兎のギルティクロスに続いて乃亜が飛ばしたリングスラッシャーが小雪だるまに命中すると声をあげる間もなく粉々に砕けて消滅する。
     ――後は大雪だるまを全力で倒すのみ。
    「小さい頃は自分の作った雪だるまを壊してくるやつとか信じられなかったんだけど……今回は盛大にぶっ壊すぜ!」
     高速演算モードを使用した辺は脳の演算能力を高速化・最適化して周辺環境や弾道計算を行い今一度気を引き締めるのだった。

     辺の予想通り大雪だるまの体力は高く灼滅者達は長期戦を強いられることとなった。
    『ビィィィーム!!』
     大雪だるまの砲台から噴射される雪玉が狙いを定めたのは後衛の白兎。慌てて響斗は雪玉の軌道に割り込み身を挺して白兎を庇う。
    「そんなに強くないけど……皆は僕が守るよ……!」
     大雪だるまに睨み付ける響斗を護られた白兎が懸命に癒す。
    「お前でかい雪だるまだけどさ、何か炎のが強そうだろ?」
     イキイキとした表情で『藤娘』に炎を纏わせ司が大雪だるまを殴りつける。
     炎で雪は溶けなかったが大雪だるまは不愉快そうに顔をしかめた気がした。
    「……何で殺すになっちゃったのかしら」
     雪だるまならパーティに行く方がいいのにね……。
     幼い頃に読んだ絵本を思い出し、恵理が残念そうに呟きをもらす。
     そんな主の呟き反応するが如く足元の影がゆらりと動きその尖った先端で大雪だるまを貫いた。
     チャンスと判断した辺も恵理に続いて攻撃をする。
     大雪だるまの一撃は厳しいが自身の体力に気を配っていれば倒れることはないだろう。灼滅者達の繰り出す攻撃によって少しずつだが確実に大雪だるまは疲弊していた。
    「スピード不足だな。少しダイエットしたらどうかね?」
     大雪だるまの背後に回った乃亜の斬撃は大雪だるまの胴体を切り裂いた。バランスを崩した大雪だるまの動きが目に見えて鈍る。
    『ユキダルマー! ビーム!!!』
     不自然な態勢から攻撃を繰り出すがその先に灼滅者はいなかった。しかし雪玉の軌道の先にあったもの――それは優衣が作っていたおでん。
    「あぁーっ!?」
     おでんは雪煙に包まれ、鍋を楽しみにしていた者に衝撃が走った。
    「ふふふ……せっかく作りましたのに……」
     明らかに先程までの優衣と雰囲気が違う。
    「みんなで食べようと思ってましたのに……この恨み、100倍にして返してやらァっ!」
     おでんの恨みを晴らさんと優衣が『朱鎧鬼面拵縛霊手』を振り上げ渾身の一撃を放つ。
    「てか、お前さー作ってもらって感謝こそすれ、作ってくれた相手探して殺すって、逆恨みの極みじゃん」
     高速の動きで律が大雪だるまの死角に入り込む。
    「そーゆー恩仇くんにはお仕置きですよー」
     軽い口調とは裏腹に強烈な一撃が大雪だるまを切り裂いた。
    『……!!』
     ぼろぼろと崩れ落ちていく大雪だるまの身体。
     そして律が日本刀を鞘に納めると同時にその身は爆ぜるように砕け散った。

    ●寒さが染みる身体には……
    「みなさーん、おでんが煮えてますよー」
     大雪だるまの攻撃でダメになったと一度は諦めたおでんだったが間一髪無事だった。嬉しそうに優衣が皆におでんを取り分ける。
     早速、ゴーグルを外して眼鏡姿に戻った白兎が大根をパクリ。じっくりと柔らかく煮込まれた大根は一口齧れば味噌の味が口いっぱいに広がった。
     一方、猫舌の辺はふーふーと息をふきかけ冷ますことに余念がない様子。おそるおそる食べてみるがまだ熱かったのか顔をしかめる。
    「雪だるまが動いたら、って考えた事はあるけど……やっぱり見守ってくれるだけで十分なのかもね」
     おでんをパクつきながらしみじみと響斗が呟いた。
    「おでんを食べ終えたら銭湯にでも行きましょうか」
    「銭湯? 行ったことがないので興味があるな。ぜひ行こう」
     優衣の提案に思わず箸を止め、興味深そうに反応をする乃亜。
     おでんをぺろりとたいらげた律は早速にでも銭湯へ行こうと皆を急かす。
    「さむさむ……早いとこ銭湯行こーぜー」
    「銭湯かー冷えきってんから湯船に入ったらチリチリしそうだな」
     鍋を食べ終えた司がごちそうさまと手を合わせて箸を置いた。
    「せっかくしっかり出来てたのに……残念だったな……」
     食べ終えた辺がゆっくりと周りを見回すと子供達が作った雪だるまの側に立つ恵理と目が合った。
    「伝説が残っていると、いつかまた怖い雪だるまが出るかも知れないでしょう?」
     赤い手袋を付け直しマフラーは近くの枝にひっかける。これを翌朝見た子供達は風でマフラーが飛ばされたと思うだろう。
    『なーんだ、ひと晩赤いマフラーと手袋をつけてたのに結局動かなかったじゃん』
     ちょっと残念そうに話す子供達の姿が目に浮かび、恵理はくすりと笑みを零し仲間達の後を追おうと辺を誘う。
    「今度は一緒に遊んでくれるような都市伝説でも現れないかねぇ」
     去り際の辺の小さな呟きを聞いたのは6体の雪だるまだけ。
     一番大きな雪だるまの手袋が風にはためく。
     ――またね。
     辺には雪だるまがそう呟いたような気がした。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 5
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