大鳳、舞う

     日が落ちてしばらくもすれば参詣の賑わいは静まる。
     人気のない神社の境内は、神が支配する世界たる静けさと神聖さに満ちる。
     その静寂を破る者がいた。
    「……おおとりさま、おおとりさま……」
     寒さからかかすかに震える声で口にし、拝殿の脇をすり抜けるように早足で進む。小柄な姿は闇にまぎれ、さながら影が揺れるかに見えた。
     参道を外れたまま石像の前を過ぎ木々の間にある獣道とも呼べない道を進み、一際闇の深いその場所へと辿り着く。
     闇の中にうずくまるようにして佇むは小さな末社。禍々しく黒々としたその社に、恐る恐る差し出したのは鳳凰が描かれた絵馬だった。
    「……おおとりさま、どうか願いを叶えてください。あいつに不幸が起きますように。できれば、……死にますように」
     神に願うには物騒なことを熱心に祈り、社に絵馬を置く。
     ――災いを求むか。
     ――災いを招くか。
     不意に声が聞こえざわりと木々が揺れる。
     怯えて身を強張らせ、恐る恐ると顔を上げると、そこにいたのは。
    「……おおとりさま……」
     黒い鳥たちを無数に従えた、一対の、燃える翼を持つ鳳凰だった。
     
    「神社でのお祈りって、本当は『願いが叶うのを見守ってください』って意味なんだってね」
     言いながら須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が集まった灼滅者たちを見回す。
    「今回みんなに倒してほしいのは、とある山奥の神社に現れる都市伝説だよ。『おおとりさま』って言って、悪いお願いを叶えてくれる神様」
    「神様?」
    「うん。って言っても、ほんとの神様じゃないから倒すことは可能だからね」
     神様じゃなくて、神様の都市伝説だもん。安心させるようにまりんは笑い、
    「夜、神社の裏にある真っ黒な末社……えっと、神社の御神体とは別に他の神様を祀っている小さなお社があって、そこに願い事を言いながら鳳凰の絵馬を置くと『おおとりさま』が現れて願いを叶えてくれるんだって」
     昼間にその『おおとりさま』の末社を探しても見つけられず、夜にだけ見つけることができるという。
     『おおとりさま』は一対の鳳凰。一方は名を瑞鳳と言い、真紅の翼を持つ。もう一方の名は祥凰、真蒼の翼を持つ。
    「そんな神様が見返りもなしに願いをほいほい叶えてくれるとは思えないけどな」
     疑問を口にしたひとりに、まりんも真摯な表情でこくりと頷く。
    「うん……お願いした人も不幸な目に遭うって言われているんだ。それも、かなり悲惨な……」
     人を呪わば穴二つということか。
    「『おおとりさま』は2体ともファイアブラッドのレーヴァテインに似た能力を持っているよ。それから、瑞鳳は炎を散らして傷を回復するみたい。祥凰は燃える羽根を飛ばしての攻撃。そうそう、小さな真っ黒の鳥をたくさん呼んでけしかけてもくるんだ。この鳥はそんなに強くないし、特殊な能力も持っていないよ」
     さほど強くないとはいえ数がいるのであれば、早く片付けるに越したことはないだろう。
    「鳥だし空を飛ぶのか?」
    「普段は地面にいるよ。でもある程度ダメージを受けると飛ぶみたい」
     飛べないわけではないようだ。とすると、飛行状態にさせない、或いは飛行状態でも攻撃が届くような手を打たなければならない。
    「お社のあるところはちょっとした広い空間になっていて、戦うのに工夫したりする必要はないからね」
     そう付け足した。
    「もともとこの神社には、天から鳳凰が降りてきて人々の願いを叶えてあげたって伝承があるの。悪い都市伝説の神様を倒しちゃってほんとの神様にお祈りしたら、何かご利益があるかもね?」
      ぱちりと両手を合わせてまりんは笑って、灼滅者たちにお祈りするように頷いてみせた。


    参加者
    九条・龍也(梟雄・d01065)
    穂群坂・結斗(雪月封火・d01524)
    綾瀬・栞(空見て歩こう・d01777)
    黒部・咲耶(春陽麗和・d03038)
    リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから!・d04213)
    フーリエ・フォルゴーレ(讐雷乃戦乙女・d06767)
    虹子・マドゥライ(有毒・d09159)
    輝鳳院・焔竜胆(死哭・d11271)

    ■リプレイ


     望月から欠け始めた月光が照らす神域は薄ら寒いほどの静寂が下りている。
     玉砂利を鳴らして静けさを打ち払い、灼滅者たちは境内を進んでいた。
    「鳳凰ねぇ。伝説上の鳥だがそいつをモチーフにするとは」
     拝殿の脇を通りながら、気がなさそうに九条・龍也(梟雄・d01065)が口にする。
    「そういや鳳凰と朱雀って同じなんだっけ?」
    「うーん……ちょっと違いますね」
     霊犬の桜樹を足元に従え拝殿に軽く頭を下げつつ黒部・咲耶(春陽麗和・d03038)がやんわりと否定した。
     彼は神社を実家に持つ母に倣い本社・摂末社の区別なく無視できない性格だった。
    「鳳凰は四霊と言って霊獣のひとつで、朱雀は四神と言って神様なんです」
    「そっか、違うんだな。まぁ、どっちでもいいか」
     何であれ、敵は斬って捨てるだけだ。笑う龍也に綾瀬・栞(空見て歩こう・d01777)はどこか寂しげな表情を浮かべる。
    「毒蛇を食べる朱鷺は、体の中に蛇の毒を溜めてゆき、その身から生まれる卵は、凝縮された毒に侵されて異形を産む……ってのは、バジリスクの生まれだけど、この神社で祭られていた鳳凰さんも、いろんな願いを聞いているうちに毒に侵されていったのかな?」
     願いと欲望はかなり近いものだし、と目を伏せる栞のそばで、リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから!・d04213)も表情を暗くする。
     囮になるため件の末社へと奉納する絵馬に願いを書いたのは彼女だった。その願いは――
    「まぁ、私には縁無き話ですよ」
     不意にフーリエ・フォルゴーレ(讐雷乃戦乙女・d06767)の言葉にリュシールはびくりとする。
     横を歩く彼女へと視線を向けると、フーリエは強い意志をたたえた瑠璃の瞳をまっすぐに前へと向けていた。
    「願って叶うほどの安易な願いなど私にはありませんから」
    「……そうね」
     表情は晴れなかったがリュシールは頷き、彼女と同じく前を見つめる。
     目印のように立つ石像の前を過ぎて木々の間を通り、不自然に開けた場所へと辿り着く。
     切妻造の小さな社は闇よりなお暗く、月光すら飲み込んでしまうかのようにそこに存在した。
     取り出した懐中電灯でフーリエが周囲を照らす。土が剥き出しになっているが、どうやら人の往来があるらしく踏み固められていた。
     即ち、呪詛を願う人々によって。
    「(こんな都市伝説が生まれるのは人の不幸を望む人が多いからでしょうか? ……だとしたら、悲しいですね)」
    「誘い出すための奉納は任せるよ」
     寂しげに眉をひそめた咲耶をかばうように前へ出て低く落とした声で穂群坂・結斗(雪月封火・d01524)が言うと、こくりと頷きリュシールが進み出る。
     取り出した絵馬を一度胸に当て、込められた自身の願いの重さを確かめた。
    「(書いて形にする事がこんなにも嫌な気持ちを呼び起こすなんて)」
     胸の奥、しかし決して深くないところにある黒い澱みにぞくりと身を震わせ、絵馬を離す。
    「済みません、内容はちょっと内緒で……」
    「わかった、中身を聞くことはしない。安心して奉納してくれ。後始末は皆でつけよう」
     末社にひざまずき再び表情を暗くするリュシールと彼女をなだめるように優しく微笑む結斗の後方に控え、虹子・マドゥライ(有毒・d09159)は絵馬を見ないようにしながら彼女を見守る。
    「(……プライバシーの侵害は良くないからな……仕事と云えど)」
     まして人に言うことのはばかられる願い。好奇心に駆られても、見るほうも見られるほうも嫌な思いをするだけだ。
     恐る恐るリュシールは絵馬を社に置く。
     ことりと立つ音はやけに大きく聞こえた。
    「…………」
     一同が固唾を呑んで見守る中、ざわりと木々が揺れる。そよ風すら吹いていないというのにその揺れは徐々に大きくなり――
     ――祥凰よ、災いを求む者あり。
     ――瑞鳳よ、災いを招く者あり。
     ぴたりと揺れは止み、どこからともなく男とも女とも取れぬ対の声が降る。
     無意識に見上げると、半ば近くまで欠けた月を背に降り来るは対の鳳凰。
     ――汝等仇敵を打ち滅さんと欲すか。
     ――汝等戦敵を打ち倒さんと欲すか。
     燃える真紅と真蒼の翼を持つ都市伝説は、すべてを見透かすかの如く灼滅者たちへと問うた。
    「確かに私が願うのは復讐。凶鳥に願うに足る昏き願いですが……己の手で成さぬ復讐に何の意味が在りましょう?」
     『硬キ雷』の名を持つ天星弓を構え、フーリエが挑む。
    「故に凶鳥よ……私の復讐の糧と成れ」
     突き刺す視線に大鳳どもは翼を打ち振るう。
    「『鳳』が相手とは、中々奇妙な縁じゃあないか。折角の縁だ。存分に楽しませてもらおう」
     天を焦がす炎のように赤い髪を背に流し輝鳳院・焔竜胆(死哭・d11271)がにっと笑みを浮かべ、
    「守り給い、幸え給え」
    「C'est ma chanson!」
     咲耶とリュシールがスレイヤーカードをそれぞれに掲げ、封ぜられた殲術道具をその手にする。
    「汚れた鳳凰は、ここで倒そう。悪い願いの塊をここで禊いでしまえば、ちょっとは綺麗な神社になるだろうし♪」
     弓の弦をきゅんと鳴らして微笑む栞の前で龍也が刀を構えた。
     都市伝説が翼を震わせると闇色の鳥たちが無数に現れ、マドゥライはクリソプレーズの瞳を細める。
    「……さ、はじめようか」


     戦端を開いたのは灼滅者たちの嵐の如き攻撃だった。
     大鳳を護るように展開した黒い鳥たちが容赦なく波状に打ち倒され、真紅と真蒼の鳳凰は戦慄く。
     ――深山の護りよ。
     ――深山の黒刃よ。
     呼べども応えることもなくそれらは闇に混じり消えてしまう。
    「何だ、存外に弱いものだな」
     龍砕斧の龍因子を解き放ち自らの守りとしながら、文字通り瞬殺された鳥たちを一瞥し焔竜胆がつまらなさそうに言った。
     元よりさほど強くない集団だ。そこへ全員が畳み掛けるように攻撃したのだから、弱いも何もないのだろうが。
     すと真紅の瑞鳳が後ろに下がり、真蒼の祥凰が翼を強く羽ばたかせると燃えあがる羽根が咲耶へと舞い襲う。
    「うわ……」
    「咲耶さん! ……きゃっ!」
     羽根の嵐は、自身を狙う攻撃に身構えた咲耶の前に立ちはだかったリュシールの小柄な体のあちこちに傷をつけた。大した傷ではないが、瞬間的な痛みにリュシールは眉を寄せる。
    「リュシールさん、大丈夫!?」
    「ええ……」
     桜樹の優しい癒しを受けながら、鮮やかな翡翠の瞳で対の都市伝説をまっすぐに見つめた。
    「(仇は討ちたいわ……でも、こんな酷い気持ちで戦ったら、それこそあいつの望み通りになるじゃない! そんなの絶対嫌よ!)」
     この災いは彼女の願い。だからこそこの願いを叶えてはいけない。
     忌わしき災いが叶えるのは、灼滅者たちの内に潜む闇でもあるのだ。
    「どんな相手だろうと、斬って捨てるのみ!」
     叫ぶ龍也の刀が滑り瑞鳳へと白刃を叩き下ろす。
     覇龍と銘打たれた直刀の切っ先はわずかに炎を掠め、ひらと地を蹴りリュシールが構えたWOKシールドを振り込む。
     したたかに打ち据えられた瑞鳳が、けぇ、と呻き声のように啼いた。
     星の力を秘めた矢をつがえ栞が真紅の鳳凰を狙い撃ち、フーリエの出現させたギルティクロスがその身を引き裂かんとするもするりと避けられる。
     ――災いを求むか。
     ――災いを招くか。
    「そんなもの、願いじゃない!」
     心迷わす問いを咲耶が導くように手を掲げると荒ぶる風刃が生まれ都市伝説を切り裂く。
     その前で、焔色の翼がぱっと散った。
    「ああ、本当にな。……全力を出させてもらう」
     否定に頷き結斗が広げたフェニックスドライブの翼は、灼滅者たちに清浄の炎で破魔の力を与える。
     迅雷と化したマドゥライが拳を瑞鳳へ打ち込むが真紅の翼により打ち払われた。このままでは反撃を食らってしまう。
     だが。
    「受けてみせろ!」
     ざぐん! と力任せに叩き斬る龍砕斧の一撃に、瑞鳳は翼を震わせ怪鳥の悲鳴を上げた。
     身じろぎ喘ぐ都市伝説に、焔竜胆は高らかに哄笑する。
    「ハハッ! やはりこれだ! 肉を断つ感触、血で塗れる感覚!」
     舞う炎は鳳凰の血だとするならば、穿たれた傷からちらちらと炎が散った。
     瑞鳳は翼をふるり震わせまとう炎を一際燃え上がらせ、見る間に抉られた体を癒す。だが、撒き散らす炎は治まっておらず、完治というほど回復していないようだ。
     炎を散らすその姿を捉え、一声吼え桜樹が跳び馳せるが神風の如き神力の刃は炎翼に防がれてしまう。
     ――汝等こそが災いか!
     ぞわりと祥凰が翼を振り払い、炎を散らして焔竜胆へと急襲。自らも『鳳』の名を持つ少女は無敵斬艦刀を振るい弾く。
    「力に善も悪もねぇ、勝ったほうが正義ってやつだ」
     龍也はにっと笑うと白刃を一息に振り抜いた。
     ――きぃぃぃああああああああああああ!!!
     その一撃に高く、高く悲鳴がつんざく。
     深く刻まれた斬痕からだらだらと炎をしたたらせ、苦しげに真紅の鳳凰が身を捩じらせる。どうやら致命傷を与えることができたようだ。
     ――瑞鳳!
     対の鳳凰の叫びを遮り黄金の雷撃が走る。
     ふっと短く息を吐いて身構えたリュシールの撃ち込んだ抗雷撃は、確実にダメージを与えていた。
     怒りに満ちた殺意が小さな少女へと向けられる。
    「よそ見は駄目だよ」
     旋律を紡ぐように差し向けた栞に導かれた魔法の矢が撃ち抜く。
     血色に染まる紅の鏃をつがえフーリエがきっと瑞鳳を見据えた。
    「……天を往く鳥を落とせ、紅の雷よ!」
     一気呵成と放った矢は、真紅の鳳凰を貫いた。
     ――災いを求む汝等自ら災いを為すか……
     どこか悲しげにすら聞こえる言葉を残し、紅い炎が月下に散る。
    「僕たちは、災いを望むわけじゃないんだ」
     がつんと重い音をさせ、咲耶のガトリングガンが祥凰に狙いを定める。絶対に外さない。
    「災いを滅ぼすために戦っている、それだけさ。……燃え散れ!」
     ふっと笑みを浮かべて結斗が炎をまとった得物を振るう。
     弾丸の雨を縫って襲う斬撃に真蒼の鳳凰が大きく翼を羽ばたかせて身を守ろうとするが防ぎきれない。
     その隙を突いて、白雷が駆けた。
     するりと祥凰の懐に滑り込み、マドゥライの拳が青い炎を撃ち散らす。
    「なに、慣れればクセになる。……その前に墜ちるかもしれないが」
     抑揚なく告げる少女に、禍津鳥は舌打ちするかのようにひとつ翼を震わせた。
     ――まがつひを望むは汝等ぞ。
    「知ったことか!」
     一喝し闘志をまとって焔竜胆が連撃を叩き込む。だが、すと身を引き祥凰は攻撃を逃れる。
     桜樹がうぁんと吼え神器を振るって一撃を加えようとするが、やはり身を翻して避けられた。かなりのダメージを負っているはずなのになんと俊敏なことか。
     ――汝等やそのまがつひを払うか!
     炎を散らし、翼を打ち振るいざわりと風を起こして空へと飛ぶ。
     ――ならば払うてみせよ、其が願いなれば!
    「おう、やってやろう!」
     応じて放つ龍也の剣閃から放たれた衝撃はあっさりと羽ばたきに打ち落とされてしまう。
    「ち、やはり寄らなければ話にならんか」
     刀を構えなおして舌打ちし、ふと旋律に気付く。
    「Les lilas sont fleuris……♪」
     軽快なシャンソンの音色が真蒼の鳳凰を捕らえる。
     その音色に力強く羽ばたく祥凰の動きが戸惑うようにわずかに鈍る。それが自らを狙う射撃から逃れるのに遅れる事となった。
    「油断大敵だよ!」
     星の力を宿した矢を2人の射手が放つ。
     彗星の如く尾を引いて飛ぶ矢は、狙い違わず敵を撃ち抜く。
     ――汝等の願いは……
    「叶った、よ」
     ふいと手を振るうと咲耶が神の刃を撃ち放った。
     つんざくような甲高い悲鳴を放ち、真蒼の羽根が散る。
     あたりは静寂に包まれた。


     せっかく神社に来たのだからお参りしていこう、と誰からともなく言い出すのは自然のことだったのかもしれない。
     拝礼の順は、二礼二拍一礼。
     拝殿の前でそう説明しやってみせる咲耶の足元で、桜樹がちょこんと座っていた。
    「(神域を騒がせてしまいすみませんでした)」
     そう詫び、それから自身と大切な人たちの息災を願う。
     彼に倣い頭を下げていたフーリエが顔を上げ、
    「……そう言えば、あの凶鳥どもは何か言っていましたね。まがつ……?」
    「まがつひ、ですね。もしかしたら禍津日神のことかもしれないです」
     こくりと首を傾げる。
     禍津日神とは災厄を司る神。転じて、厄除けを司る神ともされる。
     あの都市伝説も、元は厄除けとして祀られていたものがいつかその役目を転じたのだろうか。
     だとすれば、栞の考えはそう的外れではないのかもしれない。
    「人を救う神様が人を襲ってりゃ世話ないな」
     呆れて龍也が言い、それからふと思い出す。
    「ついでだし、絵馬も書いていこうぜ。何かご利益があるかもな」
    「あ、うん。まだ絵馬はありますしね」
     頷いてリュシールが差し出した絵馬を各々に受け取り、決して災いを望むのではない願いを記す。
    「(……絵馬。奇妙だが味のある形の板だな……此れに願いを書くのだな……? ふむ……)」
     しげしげと眺めてから書き込むマドゥライの手元を何となしに焔竜胆が覗き込む。
     そこに記されていたのは、『アメリカンポリスのコス一式 空から降ってきますように』。
    「それは何やら違う気がするがな」
    「……そうなのか?」
    「うーん……まあ、こういうお願いもいいんじゃないかな?」
     きょとんとするマドゥライに苦笑して、栞も自分の記した絵馬を見つめた。
     もしも願いが叶うなら、と考え、けれどふるりと首を振る。彼女の願いは、彼女自身の力で叶えるものだ。
    「(だから、少しずつでも自分の力で頑張っていこう。きっと、本物の鳳凰も見守っていてくれるだろうし)」
     そっと微笑み絵馬を胸に当てる。そのそばで、結斗も笑みを浮かべて絵馬を見る。
    「(……いつか私も……いや、ありえないな。これが僕の行き方、願うだけ無意味な話さ)」
     浮かべていたのは、苦笑。
     けれど願うのは、いつか私も自分を偽らなくてもいい日が来ますように、と。
    「そう言えば……本来の神様も都市伝説になってたりしないんでしょうか。都市伝説は悪いものとは限らないそうですし」
     おっとりと問いを口にするリュシールは、ふと天を見上げる。
     ひらり舞い落ちくるのは、燃えるように紅い羽根――
     すと手を差し出して受け止めようとするが、触れるより先に消えてしまう。
     灼滅者たちを、煌々と月光が照らしていた。

    作者:鈴木リョウジ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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