復讐は血に染めて

    作者:天木一

    「そうだ、君は選ばれたんだよ」
    「僕が選ばれた……」
     杖をついた白髪の老人の言葉に少年は頷く。
    「君の行なう事は正義だ。悪を倒す正当な行いだ」
    「僕が……正義」
     こつこつと杖でリズムを取りながら、老人はゆったりと低く響く声で少年に語る。
    「このナイフは悪魔を倒す為の聖者のナイフ。これで刺し殺せるのは悪魔だけだよ」
    「このナイフで……悪魔を」
     老人にナイフを手渡され、その言葉をオウム返しのように少年は呟く。
    「さあ、倒すべき悪魔を刺すのだ。大丈夫、そいつらは死んで当然なんだ。なにせ悪魔なんだからね」
    「そう、あいつらは死ぬべき……悪魔」
     少年の顔に狂気が宿る。老人はそれを見てほくそ笑む。
    「さあ、行ってきなさい。君の正義を執行するのだ」
     老人は少年の背を押した。少年は深く頷くと一歩を踏み出した。
    「はい、行ってきます。ありがとうございました先生」
     そう言うと少年は、美術準備室から飛び出した。
     その日、学校が血に染まる。教師、生徒合わせて10名が死傷することになる。
    「ふふふ……ふふ、はははははっ! 僕が! お前等にやられてきた苦痛をやり返してやったんだ。こんなに簡単なことだったんだ! 僕は選ばれたんだ!」
     狂気じみた高らかな少年の笑い声が学校に響いた。
     その顔は返り血に赤く染まっていた。
     
    「皆さん、新学期が始まりましたね。学園生活を楽しんでいますか?」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は教室にやってきた灼滅者達を出迎える。
    「でも、学校が辛いと思う人も居るみたいです。今回の事件は、そんな子にソロモンの悪魔の眷属が魔の手を伸ばしています」
     標的にされるのは中学二年生の宗田・陸という名の少年。
    「彼は学校でいじめに遭っているようなんです」
     目に見えないところへの暴行などが日常的に行なわれている。恐喝もされているようだ。
     そこをソロモンの悪魔に目をつけられてしまう。
    「いじめを行なっている子達を、ナイフで刺すように唆されてしまうんです」
     心の弱った少年は、悪魔の囁きに耳を傾け、多くの犠牲者を出してしまう。
    「皆さんには事件が起きないよう、彼を唆す人物を灼滅して欲しいんです。その人物とは美術の臨時講師の男性です」
     名前は小島・重三。年齢は50代、白髪の小柄な男性だ。この学校に来て半年になる。
    「他にも、既にこの人物に唆されて、殺人を犯した少年たち4人が配下となっています」
     小島はダークネスの力を与えられていてる。灼滅者よりも高い能力を持っている。
     配下の少年たちも強化されていて、灼滅者並の戦闘能力になっている。
    「このままでは彼も、そして犠牲者の方も救われません。どうか皆さんの力で助けてあげてください」
     姫子は目を伏せ、少しでも救いがある未来を願った。


    参加者
    比嘉・アレクセイ(主よ憐れみたまえ・d00365)
    狗川・結理(よだかの星・d00949)
    貢贄・七生(影裂き魔女・d04377)
    アンナ・ローレンス(悪魔のりんご・d05959)
    エミーリエ・ヴァレンシュタイン(破壊的シスター・d09136)
    乃木・聖太(影を継ぐ者・d10870)
    ジンジャー・ノックス(十戒・d11800)
    八百一・乙女(腐った掛け算はオトメの嗜み・d12847)

    ■リプレイ

    ●美術室の悪魔
     グラウンドからは学生達の元気な声が響き、教室からは教師の声が聞こえる。そんな、どこにでもある学校。そこに灼滅者達は侵入していた。
    「ええと、ちょっと校内見学の最中でして。美術室はどこですか?」
    「ああ、それなら東校舎一階の一番奥ですよ」
     関係者を装い乃木・聖太(影を継ぐ者・d10870)が尋ねると、快く通りすがりの用務員が場所を教えてくれる。
    「ありがとうございます!」
     緊張した様子で、比嘉・アレクセイ(主よ憐れみたまえ・d00365)が丁寧に頭を下げて礼を述べる。学校に入る時に、童顔から迷子の子供と間違えられたが、今はそのショックから立ち直っていた。
    「御同輩がまた、悪い事をしてる……のね」
     とんがり帽子とマントを身につけ、いかにも魔女という格好の貢贄・七生(影裂き魔女・d04377)が呟く。
    「……また、か。『こういう問題』は本当にお前達好みみたいだな」
     闇を纏い、姿を隠して歩む狗川・結理(よだかの星・d00949)は、先日の事件を思い出す。それもまた、いじめの問題が原因となっていた。やり口は良く解っている。ならばやる事は変わらない。その瞳に強い意志の光を宿らせる。
    「いじめはよくないっつーか、昔っからあるねェ。しっかし、まァ、ソロモンの悪魔ねェ……」
     アンナ・ローレンス(悪魔のりんご・d05959)は今回の事件から連想して弟のことを思い出す。息を吐き、頭を振り気持ちを入れ替える。弱い者は取り込まれてしまう、それだけのこと。
    「そうね、いじめられた彼の気持ちはわからなくもないけれど。聖者のナイフだなんて馬鹿馬鹿しいにも程があるわ」
     修道服に身を包んだ、エミーリエ・ヴァレンシュタイン(破壊的シスター・d09136)は厳しい表情でそう断言する。
     同じく修道服姿のジンジャー・ノックス(十戒・d11800)は、エミーリエの言葉に頷き口を開く。
    「悪魔が聖者ののナイフだなんて、皮肉にも程があるわね」
     そう言って莫迦にするように薄く笑う。
    「アソコが美術室みたいデスね」
     八百一・乙女(腐った掛け算はオトメの嗜み・d12847)が指差す。一般教室よりも大きい部屋が東校舎奥にあった。
     灼滅者達が部屋を見張り始めると、チャイムが鳴り響き、子供達が一斉に教室から吐き出される。
     中を覗けば、3名の生徒が残って談笑していた。そこに、廊下を俯き誰とも視線を合わさずに歩いてくる少年の姿。その生徒が宗田少年だった。
    「……来たわね」
     七生の言葉に皆が視線をやり確認する。その少年は俯いたまま美術室へ消える。暫くすると廊下を4人の少年グループが部屋に入っていく。これで室内には8人の生徒が居ることになる。
    「それでは、行きましょう」
     聖太は鈍く輝く短刀を手に、教室へと入る。皆もその後に続く。

    ●少年の手には
     美術室には7人の生徒。宗田少年の姿は見当たらない。喋っていた生徒達は一斉にこちらを注視する。
    「誰だ?」
     一人の少年が椅子から立ち上がり、質問の声をあげる。
    「見て分からない?」
    「ただのシスターよ」
     エミーリエとジンジャーの二人はそう言うと、巨大なライフルと、無骨な斧を構えた。
    「うわぁ!」
     エミーリアが放つ殺気に3人の生徒が逃げ出す。椅子を倒し、机を蹴飛ばすが、その音は外には漏れていなかった。
    「既に……隔離済み、よ」
     七生が室内の音を遮断していた。そのまま逃げる少年達を庇うように、マントを翻し入り口に立ち塞がる。
    「サイキックに反応しなかったこの4人が敵、ということですね」
     アレクセイは杖を構え、油断無く少年達を窺う。
     残った4人の少年はそれぞれエネルギーの剣、オーラ、ナイフ、影と獲物を見せる。
    「どうやら、闖入者が来たようだね」
     こつこつと、杖の立てる音と共に、奥の準備室から初老の男と、目を虚ろにした少年が現れる。
    「今ちょうど良いところだったんだがね」
    「……僕は選ばれた……僕は正義……僕は」
     深い笑みを刻む老人横で、少年は一人ぶつぶつと呟く。その手には銀のナイフがあった。
    「何がいいところだよ、ただの洗脳じゃないかッ」
     その少年の様子に、アンナは憤慨して声を荒げる。
    「おやおや、彼は自ら進んで行なっているんだがね。さあ、目の前に現れた彼らは君をいじめに来た奴らだ。君はどうする?」
    「僕は……僕は……」
     宗田少年はよろよろと手にナイフを持ったまま、こちらに一歩踏み出す。
    「いけない! 最後まで正義でいたいならその手を汚しちゃ駄目だ。誰かを踏みにじったら君まで『同じ』になってしまう」
     結理の真摯な言葉に、踏み出した足が止まる。それでも少年は前へ前へと進もうと、もどかしく足を出す。
    「逃げ出したくなる時もあるよなァ。力だけが解決方法じゃねェってアタシは思うケド」
     アンナは軽い口調ながらも、どこか重みを感じる言葉を続ける。それは誰にかけたい言葉だっただろうか。
    「いじめたヤツを見返す方法なんか、たくさんあるだろうにッ! 絵とかさ、人に自分を見せる為のもんだろッ」
     少年はナイフを下げた。その目には光が戻っているように見える。
    「いいデスか? 憎いヤツがいるなら、ソイツがトイレの個室で脂汗浮かべながら踏ん張ってる姿を想像してやるんデス。ね、笑えるデショ? 恨みとかどうでもよくなりません?」
     そんな軽口をまくし立て、乙女が優しい笑顔で少年の気を引く。その言葉に少年も薄っすらと笑ったようだった。手にしていたナイフを落とす。甲高い音を立ててナイフは転がる。
     そのまま気を失い、倒れる少年を聖太が抱きかかえる。
    「気を失ったか。もう大丈夫、俺達が守ってみせる」

    ●老魔法使い
    「ふむ、まだ術が甘かったということかな。やれやれ、やり直しか」
     まるで実験の結果を見届ける研究者のように、冷徹な老人の声。
    「まあいい、君達を始末した後にまた続けるとしよう。やれ、一人も逃がして帰すな」
     老人の命令に、4人の少年達は嬉々として襲い掛かって来る。
     宗田少年を担いで後ろに下がる聖太が影使いに狙われる。影の刃が襲い掛かる。だがその刃は届かない。
    「下部風情が同じ武器を使うの……生意気です」
     止めたのは七生の影。瞳にはぼんやりと光が灯る。影使いを仕留めると、七生の目が獲物を狙う獣のように鋭く研ぎ澄まされる。
     接近するエネルギーの剣を振るう少年と、オーラを身に纏った少年が同時に攻撃しようとした瞬間、苦悶の表情と共に動きを止める。
    「邪悪なる者よ、ここは汝らが在る場所にあらず……」
     アレクセイの不可視の魔術により足の体温が奪われ、凍り付く。その隙を突き、結理とジンジャーが仕掛ける。
    「そぉら!」
     ジンジャーは全力で突っ込むと、その勢いのまま斧を振るう。2人の少年はその一撃で吹き飛ばされた。
     そこにオーラの少年を狙って結理が魔法の矢を撃ち込む。転がって避けようとする少年に魔法の矢は曲がって正確に貫いた。
    「逃がさないのはこちらのほうだ」
     向かってくるナイフ使いの少年を前に、結理もまたナイフを抜く。それはメスの形状をしていた。ただ切るための鋭い刃が冷たく光る。
     ナイフを突こうとする少年にオーラの塊が襲い掛かる。乙女の放ったオーラに被弾し、少年はナイフを僅かにずれて突き出してしまう。結理は容易く避けると、刃を赤く染める。少年の脇腹が赤く染まっていた。
     オーラの少年が起き上がり、乙女に殴り掛かってくる。そこに素早く割り込む影。
    「後は貴様達を倒せばクリアだ」
     宗田少年を後方に寝かせ、聖太が前衛に戻っていた。逆手に持った短刀でオーラの拳を受ける。少年は更にオーラの力を高め、次々と連打してくる。聖太は被弾しながらも、一歩も引くことなく、全てを受け止める。
    「どうした、その程度か?」
     ダメージを受けながらも平然とした顔を崩さない聖太に、オーラの少年は逆上して拳を放つ。そこに大きな隙が生まれた。
     ナノナノがしゃぼん玉を放つ。その透明の球に少年は閉じ込められる。
    「貫け流星ッ!」
     アンナの弓から幾筋も放たれた矢は天に飛び、大きな放物線を描くと、流星雨の如くしゃぼん玉の敵を頭上から貫いた。
     その少年を助けようとするエネルギー剣の少年を、纏めて円盤状の光が襲う。2人は吹き飛ばされ、オーラの少年は動かなくなった。
    「ふ、隙だらけね」
     エミーリエは笑みを噛み殺し、次の標的に向けてライフルを構える。
     吹き飛ばされた剣の少年に乙女が追い討ちを掛けようとした時、凄まじい速度で魔法の矢が襲い掛かる。避けられないと乙女は目を閉じる。だが衝撃は届かない。見ればビハインドの毛塚部長が体を傷つけながらも、その攻撃を受け止めていた。
    「まあ! ありがとうございマス!」
     目をきらきらと輝かせ、乙女は毛塚部長に礼を述べる。
    「大丈夫ですか」
     すぐさまアレクセイが光の力を放ち、傷を癒す。
    「本当に可哀想な子達、そんな物騒な武器、子供が持つんじゃないわ」
    「そんなもん持ってる奴が言うセリフかよ!」
     斧を手にしたジンジャーの言葉に、ナイフの少年が言い返す。
    「私? 私はいいのよ。今は貴方達の話を、してるんだから!」
     その言葉と共に、斧を振り下ろす。防ごうとしたナイフを叩き割り、刃は体に喰い込む。
     激痛と悲鳴に、少年は声をあげ、転がり逃げようとする。だがその体は何かにぶつかり停止する。
    「終わりだ」
     聖太は刃を振り下ろし、その無防備な胸を貫いた。

    ●心に残ったものは
     影使い同士の戦いは均衡が崩れようとしていた。
    「しっかり、防がないと服が無くなるよ?」
     七生の攻撃に影使いの服はぼろぼろになり、全身から血を滲ませていた。対する七生はマントが斬られただけ。
     少年は反撃しようと襲い掛かる。だがそれは七生の予想通りの動き。幾重にも仕掛けていた影の糸に捕らわれ、身動きを封じられる。
    「蜘蛛の巣に捕まった羽虫みたい、ね。……地に落ちなさい、もいであげるわ」
     影の刃が襲う。刃は盾となった影を斬り、そのまま少年を裂いた。
    「残念だったね、貴方はここまで。さようなら、身の程を知らない子」
     七生は倒れた少年から視線を外し、他の敵へと向かう。
     剣を持った少年は光の刃を放つ。
     ジンジャーは斧でその攻撃を受け止める。アンナとエミーリエがすぐさま反撃を行なう。だがその横合いから、凄まじい風が渦を巻いて辺り全てを飲み込む。
    「嵐よ、全ての愚か者を飲み込め」
     その竜巻はアンナ、エミーリア、七生、アレクセイ、ナノナノを巻き込み、四方へ全員を吹き飛ばした。
     好機と少年は倒れたアンナに刃を向ける。だがその手は振り下ろされる事はなかった。
     結理の影が少年を飲み込んでいた。闇に捕らわれた少年の首にメスが滑る。紙でも切るように切り裂かれた肌から鮮血が咲く。血に溺れ、少年は倒れた。
    「残るは一人、油断せず行くぞ」
     聖太はナイフを構え直し、仲間と連携して駆け出す。
    「役に立たぬ駒ばかりか、次からはもう少し改良せねばな」
     侮蔑の顔で、老人は杖をこつこつと突く。
     突然の悪寒。聖太、ジンジャー、結理は寒気を感じると、すぐさま飛び退く、だが冷気が体から体温を奪い蝕む。
    「聖書の蛇でもないのに、他人を唆すなんて!」
    「乙女ちっく☆ミサーイル!」
     援護射撃をアレクセイと乙女が行なう。杖から放たれる雷と魔法の矢は老人に向かって飛ぶが、老人の放つ魔法の矢に相殺される。
     その一瞬の硬直に、狙い済ました一撃が放たれる。
    「さあ、避けてみなさい魔法使い」
     老人の動きを予測して、エミーリエの巨大なライフルから放たれる光線は違うことなく、胸へと吸い込まれた。
     咄嗟に魔力で受ける老人も、無傷とはいかずに胸に大きな焼け後を残す。
    「……見えたッ!」
     そこにアンナが追撃をする。弓から放たれた矢は、一直線に彗星の如く撃ち出される。老人の魔力を打ち砕き、目を貫く。老人の苦悶の声。
     ここが勝負所と皆が一斉に動く。七生が魔法の矢を、アレクセイが光を放ち老人の動きを止める。
     老人は魔法の矢を放ち、距離を取ろうとする。だがその矢を受けながらも、聖太とジンジャーは怯むことなく突き進む。
    「ぬぅ!」
     その特攻を前に、老人の血に染まった顔に驚愕が浮かぶ。逡巡。次の魔法を放つ僅かな間が生まれる。
     ジンジャーが拳を放つ。鋼の如き拳が老人の腹にめり込む。続けて聖太が符を飛ばし、それに意識を奪われた老人の背後から短刀を突き立てる。
     老人は苦痛に呻き、杖を振り回す。そこに乙女と毛塚部長が、魔法の矢と衝撃波で撃つ。
    「この私が負けるはずが……っ」
    「お前の存在も、僕の中の悪魔も、全て否定してやる!」
     老人の背後から声。結理のメスが煌く。首から血が吹き出る。血塗れたメスを振るい、血潮を払う。
    「ヒューヒュー……ば、かな」
     老人は有り得ないと、驚愕の表情のまま息絶えた。

     教室から老人と4人の少年の姿が消える。
     残ったのは、宗田少年ただ一人。
    「これで灼滅完了。ミッションクリアだ」
     聖太が一つ息を吐いて、武装を解く。
    「あっ……」
     宗田少年が目を覚ます。周囲を見て、ゆっくりと思い出しているようだ。その顔に浮かぶのは、未練とも後悔とも取れる、複雑な表情だった。
    「復讐しても、残るものなんて何も無いわ……。そんな虚しい人生つまらないじゃない? 世の中はね、面白いものが沢山あるの。楽しまなきゃ損よ」
     エミーリアは微笑み少年を勇気付けようと言葉を掛けた。
    「あなたの苦しみは僕にはわかりません。僕らは正義とも言いません。辛いなら逃げてもいいです。しかし、他人を傷つけるときっと逃げることもできなくなります」
     アレクセイは少年を落ち着かせるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
    「さっき言ったみたいに、自分なりに見返すことをすればいいと思うよッ」
    「自分のペースで……進むといい」
     アンナは明るく、七生は淡々と、少年の為に背を押す言葉を放つ。
    「自分を信じることから始めてみるのね」
    「そうデス! 自分を信じれば大体の事は実現可能デス!」
     己のみを信じるジンジャーの言葉に、乙女も妄想力を信じる身として賛同する。
    「生きているなら、チャンスはある」
     聖太も視線を合わせて、力強く頷く。
    「僕が助けられたみたいに、君を助けられただろうか……」
     結理はそう少年に尋ねる。
     その言葉に少年は俯き、そして顔を上げた。
    「ありがとうございました。僕、何ができるかまだ分からないけど、できることをやってみようと思います」
     虚ろだった顔に生気が戻っている。瞳の輝き。まだ小さくはあるが、それは生きようとする人間の意思の力。
     灼滅者達は少年に別れを告げる。この大きな試練を乗り越えた事で、少年はきっと強さを手に入れた。
     たとえこの事が記憶から薄れようとも、宿ったその意思は少年の背中を押して前へと進むだろう。
     チャイムが鳴った。少年は自分の足で立ち上がり歩き出す。自分の戦場へと。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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