欠陥品救済セミナー

    作者:相原あきと

     深夜、都内某所の一室で行われる啓蒙セミナー。
     人伝えに聞いたセミナー名は。
     『欠陥品救済セミナー』。
    「ぼ、僕はエリートなんだから、って、お、お母様に言われて……で、でも、僕はエリートなんかじゃ、ない!」
     薄暗い部屋の壇上に上がった男が、つっかえながらも今も自分を苦しめ続ける思いを吐露する。
     彼が言うには、子供の頃から親の過剰な期待を背負わされ、子供らしく遊ぶ事もなく勉強だけをし続け、一流中学、一流高校、一流大学と進学したと言う。
     しかし最後の最後、就職活動においてはダメだった。
     一昨年、大学を卒業してよりずっと、今も彼は就職活動を続けている。
    「一流企業に入れなければ価値は無いと、僕なら絶対に入れるからと、だけど、だけど……」
     その男は親の過度な期待によって子供時代の人生を狂わされた1人だった。
     もっとも、ここで立ち直ってこれからの人生を自分で歩いて行ければ、彼は自分を取り戻せただろう。
     しかし――。
    「人生を奪われた哀れな子よ……あなたには新しい人生が待っています」
     セミナー主催者の女性が男が前に立ち優しく語りかける。
    「人生は誰かに言われて歩むものではなく、自分で切り開くもの。私も昔、それに気が付きました」
     すっと男の前に主催が差し出したのは何の変哲もないナイフだった。
    「あなたの人生にレールを敷き続ける者を消しましょう。そうすれば、あなたの人生のレールは、あなた自身で敷く事ができるようになる」

    「親の過度の期待に潰れた人に、新しい人生を歩む為には親を殺す必要がある……とか、そう誘導しているセミナーがあるって噂を聞いたんだよね」
     教室に集まった皆に話すのは杜羽子・殊(偽色・d03083)だった。
    「それで、ボクがエクスブレインに予知をお願いしたら……」
    「ダークネスの関わっている事件でした」
     殊の言葉にエクスブレインたる鈴懸・珠希(小学生エクスブレイン・dn0064)が同意する。
     そのセミナーは都内某所にあるぼろビルの4階で行われる。
     そこで参加者に主催の女がナイフを渡し、自身の親を殺しなさいと誘導するらしい。
     この主催の女がソロモンの悪魔の配下、強化された一般人だと言う。
     セミナーが行われるのは深夜、そのビルは4階以外に人気は無く出入りは廊下の南端にあるエレベーターと、廊下の北端にある非常階段があるだけだ。
     深夜の24時~2時の間に4階へ突入する事が敵のバベルの鎖を無効化する条件となる。
     敵は幹部である主催の女と、主催の女の側近であるスーツ姿の男が2名。
     あとのセミナー参加者は一般人だ。
     主催の女は魔法使いと護符揃えのサイキック相当の物を使用し、戦闘では回復役となり。
     側近の2名がWOKシールドのサイキック相当の物を使用しつつガード役となる。
     主催も側近も救いようの無いレベルまで強化されており元に戻す事は不可能だと言う。
     部屋内にいる際に戦闘をしかけた場合、主催の女は一般人を人質に取って逃走を図る。
     もしくは深夜1時30頃、セミナーが終了し参加者10名全員をエレベーターの前まで彼女は側近と共に見送る事になる。
     このタイミングで仕掛ければ一般人に被害は出にくいだろう。
     もちろんそのタイミングで戦闘をしかけても、彼女は側近を使って逃走を図るだろう。
     もっとも、逃走が不可能と判断すれば彼女は回復役でなく相手の弱点を狙い撃つような戦い方に変えるらしい。
     珠希が一応と灼滅者達に釘を刺す。
    「今回の敵はダークネス本体ではないけど、皆であたれば負けないと思う。ただ、戦力を分散させる場合は気を付けてね。それじゃあ、みんな、宜しくね!」


    参加者
    乾・舞夢(スターダストガール・d01269)
    橘・彩希(殲鈴・d01890)
    朝間・春翔(プルガトリオ・d02994)
    杜羽子・殊(偽色・d03083)
    安曇・結良(ローズマジック・d03672)
    アレクサンダー・ガーシュウィン(ヒーローだった何か・d07392)
    月原・煌介(月暈の焔・d07908)
    椎名・亮(イノセントフレイム・d08779)

    ■リプレイ


     深夜、都内某所。
     あるセミナーの行われるビル四階、外にある非常階段で灼滅者4名はじっと息を殺していた。
    「ねえ、私はこっちの班で良かった?」
     乾・舞夢(スターダストガール・d01269)が一緒にいる仲間達に確認する。
     それに対して橘・彩希(殲鈴・d01890)が、こちらの方が人数少なかったから良いんじゃないかしら、と頷く。
     そっか、と納得する舞夢だが、わふぅと欠伸が思わずもれる。最近夜の依頼が多すぎるのだ。
    「ま、眠いのは解るけど頑張ろうぜ? 参加者達を闇から救えるのは俺達だけなんだしな」
     椎名・亮(イノセントフレイム・d08779)に言われ、舞夢も眠い目を擦って拳を握り気合を入れる。
     微笑みつつも亮は思う。普通の家庭に育った自分にはセミナー参加者の辛さは解らない。それでも――。
    「親を殺して血に濡れた手で掴み取った未来のレールなんて、幸せであるもんか」
    「その通りね」
     亮の言葉に彩希が同意する。
    「殺したってレールは消えない…… レールに乗ると決めるのは自分自身、敷く人がいるかいないかなんて関係ないのよ」
     彩希の言葉ある種の凄みがあり、亮は思わずごくりと唾を飲み込んだ。
    「そろそろ時間だ」
     じっと腕を組んだまま黙っていたアレクサンダー・ガーシュウィン(ヒーローだった何か・d07392)が呟く。耳を澄ませばガヤガヤと一般人の話声が聞こえ、少しずつ遠ざかって行く。教室から出てエレベーターへ向ったのだろう。
     通話状態のままにしておいた携帯から、エレベーター班の仲間からランプが3階へ移動したとの連絡が入る。
     4人は頷き合うと非常階段の扉を開け迅速に廊下を駆け抜ける。十秒もかからずエレベーターの前へと到着。そこには、側近2人と二品恵美がいた。
    「何、あなた達?」
     冷たい視線を向けてくる二品に、鰹をモチーフにしたライドキャリバーに乗ったアレクサンダーが言い放つ。
    「ただの道に迷える子羊だ。少し相談に乗ってもらおうかと思ってな」


     月原・煌介(月暈の焔・d07908)は携帯をしまうと降りてくるエレベーターのランプを見つめつつ思う。
     何かにすがれば楽だが、それは違う。苦しみながら迷いながら進む事こそ……。
    「親に期待されて潰れて……誰が悪いのか、ボクには分からないよ。でも、誰にも欠陥品なんて言う権利はない」
     無表情の煌介の感情を読んだわけではない、杜羽子・殊(偽色・d03083)の呟きはエレベーターに乗っている一般人達への問いか、それともかつて戦った少年ダークネスへの想いか。
     殊は思うのだ。生きる為には立ち向かう必要があり、時に手段を選べない場合がある事も……身を持って知っている。だが、越えてはならない一線もある。それを越えたら本当に壊れてしまうから。
     エレベーターのランプが2階へ移り、そして1階に光が灯る。
    「やろう!って思えば人生は切り開けるんだよね。彼らだって人を殺す覚悟があるんなら、思い切って一歩踏み出せると思う。それで素適になっちゃえば誰も口なんて出せなくなっちゃんだから!」
     安曇・結良(ローズマジック・d03672)が言いながらもその服装を最終決戦モードに切り替えた。
     そしてエレベーターの扉が開く。
     降りてくるセミナー参加者十人に対し、スッとその進路を塞ぐように進み出たのは朝間・春翔(プルガトリオ・d02994)だ。
     立ち塞がられた一般人達は訝しげな表情だったが、プラチナチケットの効果により「セミナー関係者っぽい」との空気が流れる。
     そして春翔が講師然としてナイフを取りだす。
    「皆さんの中で、誰かこのナイフを落としませんでしたか?」
     参加者の1人がポケットを確認する素振りを見せ、それを春翔は確認すると。
    「失礼、此れは別の方の様ですね」
     と、素知らぬままナイフを仕舞う。
    「申し訳ございませんが、実は追加授業があります。今から準備をするので私たちが来るまで4階には上がらないようお願い申し上げます」
     結良が丁寧に頭を下げ説明し、その堂々たる態度に参加者が妙なプレッシャーを感じて頷いてしまう。
     春翔は目星をつけたナイフ所持者に「授業の間、ナイフは一度回収させてもらいます」と告げ近寄る。ナイフを持っていた参加者はポケットからそのナイフを取り出し渡すことにした。
     とりあえず1本。
     春翔は念のため、他に渡された者がいないか確認しようと声をかけようとする。
     その時だ。

     パリンっ!

     何かが割れる甲高い音が上、ビルの4階から響いた。
     続いて落ちてくるのはガラスの欠片だ。
     4人の背筋に悪寒が走る。
     結良が一般人達に「1階の空き部屋で待ってて下さい」と一言説明し、4人でエレベーターへ乗り込む。
     エレベーターが上階へ勝手に戻らないようボタンを押し続けた殊が、閉ボタンを押して扉を閉めた。


     時間は少し巻き戻る。
    「どうも先生、悩みがあって相談しに来たんだがお願いできるかな?」
     アレクサンダーが丁寧に言うと、黒服の側近2人が二品を守るように立ち塞がり、二品はすっと下がるとエレベーターのボタンを押す。
    「残念ながら今日のセミナーはお終いよ。どうしても相談したいのなら、次の機会にまたどうぞ?」
     余裕の笑みを浮かべつつ、その眼にバベルの鎖を集める二品。
    「悪いが今日しか時間がなくてな」
     ライドキャリバーに乗ったまま側近2人の間を抜けるアレクサンダーがそのまま日本刀を振るう。
     間一髪避ける二品だが、その刃は瞳に集めたバベルの鎖を斬り散らした。
    「ふ、ふふふ、いいわ、聞いてあげる」
    「信念を捨てたヒーローは何をもって敵の前に立ち何と名乗ればいい?」
    「簡単よ? ヒーローなんて自ら名乗るものじゃない、以上よ」
     答えつつチラリとエレベーターを見る二品、光は一階から動いておらず「まだ降りきって無いの!?」と吐き捨てる。
     一方、側近二人は彩希と亮へ突っ込んで行く。
     だが同時に反応したのは彩希だ。
     自身を狙って駆けてくる側近にぶつかる勢いで急接近。
     激突すると判断した側近が、大きく踏み出した足を軸に慣性に合わせて拳を振り――だが、彩希は跳躍して回避、そのままクルリと天井に着地をするとそこを足場に急降下、亮を狙って走る側近の前へと降り立つとその攻撃をナイフで受けきったのだ。
     たった1人に攻撃を受けきられた側近達の顔に苛立ちが浮かぶ。
     彩希はその隙を見逃さず、2人の脇をすり抜けると二品へと接近。
    「肉親を殺したって何も変わらないわ」
     自問するように二品へ語る彩希。
    「そう? 勝手に決めるのは良くないわよ?」
     余裕で答える二品に、穏やかな笑みを浮かべる彩希。
    「決めつけじゃないわ。だって私も兄さんを殺したけど殺す前と大して何も変わらなかったもの」
     二品の顔が僅かに引きつった。
     彩希は目の前に迫っていた。その左手に解体ナイフの花逝が光る。
    「どうせなら私は貴方達みたいなのを殺して、殺しのエリートになりたいわ」
     二品の首元へとナイフが迫る。だが、堅い物にぶつかる音がしてナイフが弾かれる。
     先ほど脇をすり抜けたはずの側近の1人が、彩希の目の前で二品を庇っていた。
    「そういう台詞は……私を倒してから言う事ね」 
     バックステップで仲間の下に彩希が戻ると。
    「みんなをまもるよっ」
     舞夢が歌い傷を癒す、少女の被る帽子の口も歌に合わせてケタケタと上下していた。
     彩希と入れ替わるように飛び込んだのは、手に持つ武器に炎を纏わせた亮だ。
     側近の2人がシールドを展開したまま亮に……向かわず、そのままお互いすれ違う。
     しまった! とは思うが狙いは元々二品が優先。
     他の仲間を信じ燃えるシールドごと二品に拳を叩き込む。
     ドカッと言う重たい音と共に二品の顔にジャストヒットするも、彼女は不気味な程冷静に亮を見つめる。
     その見透かすような視線に亮の心がざわめき立つ。
     彼女は何か言う気だ……そしてそれを、俺は聞いたら……。
    「あなた、私の生徒と同じ瞳をしているわ」
     一瞬、身体が硬直して追撃の機会を失う亮。
     二品は殴られた顎を元の位置に戻すようにゴキっとさせつつ。
    「周囲に歪められた哀れな存在」
    「……う」
     絞り出す声は言葉にならず。
    「あなたは……家族を恨んでいるんでしょう?」
    「!?」
    「椎名っ!」
     亮が脳内で響く声に自失した瞬間、ほぼ同時にアレクサンダーの怒声が数瞬のロスで亮の意識を取り戻させる。
     戦いはまだ始まったばかり。


     二品達との戦いは苦戦の一言につきる。
     戦力で言うなら側近2人で灼滅者4人分なのは最初から解っていた。
     その時点で互角、さらに回復役とはいえ側近より強い二品もいるのだ。
     もし、戦術を持久戦仕様で固め、他の仲間が来るまで耐えるのなら可能だったかもしれないが……。
     側近2人が前衛2人をシールドで殴りつけ冷静さを奪う。
     すでに魂が凌駕したまま戦う2人に倒れる選択肢は無い。
     だが――。
    「さぁ、仲間を攻撃なさい」
     同時に二品が投げた誘惑のサイキックが彩希の意識を混濁させる、が。
     ガシャン!
     彩希は廊下の窓を叩き割ると、ガラスで切れた腕の痛みと共に二品を睨み付け、腕から血を流したまま1歩、2歩と足を進める。
    「ね、壊しちゃっても……いいよね」
     狂気の波動が威圧感となって敵味方を包む。
     だが、それは一瞬のことだった。
     彩希はそのままバタリと倒れ込む。
     限界だった。
    「お、おどかすんじゃないわよ!」
     二品が冷や汗を垂らしながら吐き捨てる。
     側近のサイキックを直接受けはしない後衛2人も、決して楽ではなかった。
     舞夢は常に回復しか行えず、アレクサンダーもライドキャリバーはすでに動きを停止し、自身も気合で立っている状態だ。
     だが、仲間が倒れるのを見て放っておけるほど人ができてはいない。
    「例えば誰かを見捨てたヒーローが救いを求める者にどうやって信用してもらえばいい?」
     危険を顧みず、ずんずんと真正面から近づくアレクサンダー。
    「例えば情けを請う敵に私はヒーローとして何と言えばいい?」
     側近2人が攻撃しようとするも、亮に邪魔され届かない。
     ずん。
     二品の前へと立ち、男は問う。
    「なあ先生、答えてくれよ」
     言葉と同時、影が鋭利な刃物となって二品を襲う。
     二品も男を見上げたまま微動だにせず影の攻撃をくらう。
    「言ったじゃない。自分からヒーロー等と名乗るものじゃないわ。まして、強くも無いくせに、ね」
     ドウッ!
     アレクサンダーの身体吹き飛ばされ反対側の柱へとめり込んだ。
     その胸には何本もの魔法の矢が突き刺さっていた。
    「あと2人のようね?」
     二品が艶然と残った2人に笑みを浮かべる。
     だが、それに答えたのは舞夢でも亮でもなく。
    「ふっ……」
     気を失う寸前のアレクサンダーだった。
    「何がおかしいの?」
    「……仲間が、来た」
     アレクサンダーの言葉と同時、廊下の窓ガラスが外側から割られ、先ほど二品が放ったものより耀きの強い魔法の矢が幾本も二品へと打ち込まれる。
     咄嗟に回避しきれなかった矢を肩口から抜き捨てる二品。
     魔法の矢の雨が止んだ時、アレクサンダーの前に2人の人物が立っていた。
     結良と煌介だ。
     煌介は箒を捨ててアレクサンダーに駆け寄り。
    「ごめん」
    「あとは……任せる」
     安心したかのようにガクリと頭を落す男に「了解」と呟くも、その瞳には一期一会の、だが、だからこそ心通わせた大切な仲間の為、鋭い決意が宿る。
    「……まったく、ソロモンの悪魔なんて、ロクなことしないね」
     結良の言葉に反応するかのように足元の影が波打つ。
     二品は咄嗟の乱入者に後ろを……エレベーターを振り返る。
     彼女の最優先事項は殺戮では無い、そしてエレベーターが遂に4階へとランプが灯った事に思わず笑みが漏れ、そのままエレベーターへと走りだす。
    「ボクがボクであるために」
     その声はどこから聞こえたのだろう?
     エレベーターがゆっくりとその扉を開く。
     振り返って乱入者達に警戒しつつエレベーターへ走り込もうとする二品。
     だが――。
    「奪い尽くすは、死色の紅」
     完全に開いた扉、そこには得物を持った手を額にあて、祈るように目を閉じていた殊がいた。
     慌てて足を止めようとする二品だが、殊の目が開くと共に、その手にある大振りのナイフが紅い耀きを纏って一閃する。
    「俺の使命を果たす為の力を」
     殊の後ろから春翔が日本刀を手に現れる。
     二品の表情から余裕が消えた。


     怒りの叫びと同時に亮がガトリングを乱れ撃ち、側近の1人を倒す。
     だが、その仲間の身体を盾に飛び出したもう1人に殴られ亮の視界が暗転。
     最前線で戦い続けたのだ、十分過ぎる程の活躍だった。
     灼滅者は5人、敵は二品と側近1人。
     春翔が結良に目配せし、解ったと結良が頷く。
     そして2人は駆ける。目標は……側近。
     今までは作戦通り二品から狙っていたが、亮が倒した事でもう1人も限界なのが解った。優先順位を変えてでも倒すべきだ。
     春翔が側面に回りつつ側近の足を斬り裂き、バランスが崩れた所で真正面から結良が光を放つ。
    「誰であれ、ぶっ潰すまで、かな」
     正義の光が側近を貫き、黒服の男はそのまま倒れて動かなくなった。
     残るは1人。
     だが、冷静に戦場を見つつ煌介は思う。
     回復力やHPが高い二品ではなく、最初から側近を各個撃破していれば……と。
    「ずいぶんと冷めた目をしているわね」
     二品が語りかけてくる。
     奴らは悪魔、言葉によって人を惑わせ、自由を奪い、堕落させし者達。
    「お前達は何時でも、そうだ」
     二品が首を傾げる。もっとも次の一言で眉間に皺を寄せたが……。
    「……吐気がする」
     だが、二品の反応は間違えだ、なぜなら煌介は心の中でこう繋げたからだ――悪魔は自分だから――と。
     二品恵美もまた、煌介と同じく冷静に戦場を分析していた。そしてその視線が一点で止まる。
    「逃げる気だよ」
     二品の思考を読むかのように殊が仲間に警告する。


     二品が走りだしたのは殊の警告と同時だった。
     その向かう先は――。
    「残念、お帰りはこっちじゃないよ!」
     魔力を込めた杖で殴りかかるも、二品は避けずに左手一本で払いのける。
     爆発と共に二品を衝撃が襲うも、付きだされた腕から魔力の矢が解き放たれ、カウンター気味に舞夢の胸に突き刺さる。
    「う……」
     倒れる舞夢。
     だが、二品は直撃した左腕をだらりと下げたまま走り続ける。
    「非常階段か」
     春翔が言うと共に、残りの3人の仲間が横一列に並び各々武器を、手を突きだす。
     一斉に解き放たれる魔法の矢は、幾本の多弾ミサイルとなって背を向け走る二品へと迫り……大爆発。
     だが爆炎の中、彼女はまだ立っていた。
    「さようなら出来そこないの皆さん」
     言い放つと、そのまま二品は非常階段のある扉から飛び出して行った。
     残った4人の脳裏に、自分達を送り出してくれたエクスブレインの最後の言葉が……苦い味と共に蘇っていた。

    作者:相原あきと 重傷:乾・舞夢(スターダストあざらし・d01269) 橘・彩希(殲鈴・d01890) アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392) 椎名・亮(イノセントフレイム・d08779) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:失敗…
    得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 15
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