レモン牛乳って知ってる?

    作者:本山創助

    ●学校帰りのコンビニ
     次郎は激怒した。
    「おま……何してんだよ……」
     ピュアな男子中学生にとって、親友の背信行為は深刻な問題である。
    「え? 何って?」
    「お前が手に持ってるそのイチゴ牛乳は何だって聞いてんだよ……」
    「嫌いか?」
    「いや嫌いじゃねーけど、よく見ろコラ。隣にレモン牛乳が売ってっぺな」
    「それ昨日飲んだから」
    「何コノー!」
     次郎は親友の首を絞めた。
    「レモン牛乳が買えるときはレモン牛乳を買えコノー! 毎日飲めコノー!」
     言うまでもないことだが、レモン牛乳を買い支えるのは宇都宮市民の使命である。嫌いだとか昨日飲んだとか、そんな身勝手な理由でこの使命を放棄することは許されない。心の友だと信じていたのに、このような問題行動を平然とやってのける奴だとは思わなかった。残念だが、制裁は免れまい。
     次郎は親友を突き飛ばした。
     怒りに震える次郎の体から闇のオーラが噴出する。
    「グアァーッ!」
     親友は黄色いビームを体中に食らって吹っ飛んだ。いや、それはビームではない。ものすごい勢いで射出されたレモン牛乳だ。親友の口の中は、レモン牛乳で満たされていた。
    「レモンレモン……」
     いつの間にか、次郎はライフルを構えていた。その背には巨大なレモン牛乳の瓶が――。

    ●教室
    「あ、これ美味しい」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、ストローから口を離すと、頬に手を当てて幸せそうに笑った。手には宇都宮名物であるレモン牛乳のパックが握られている。
    「今回はね、このレモン牛乳を愛するあまりに闇堕ちしかけている子をなんとかして欲しいんだ」
     と言ってもうひとくちレモン牛乳を飲む。
    「この子の名前は松沢次郎。中学一年生の男の子だよ。次郎君はこのあと、道行く人の口にレモン牛乳を撃ち込んで強制的に飲ませようとするの」
     謎の信念によっておかしな事をする人は沢山いる。次郎君も同様だ、と言いたい所だが、迷惑だし危険なので止めなければならない。
    「みんなには、次郎君が闇の力に目覚めた直後から割り込んで欲しいんだ」
     つまり、親友が突き飛ばされたあたりである。
    「二人は、レジの向かい側にある、飲み物が並んでる冷蔵棚の前にいるよ。親友の子は本棚側、次郎君は奥のデザートコーナー側にいて、窓ガラス越しに外から見えるよ」
     コンビニのレイアウトはどこも似たようなものである。入り口から左回りに、本棚、ドリンク棚、デザート・弁当棚、レジ、と並び、中央には棚が二列並んでいる。大きなコンビニなので、棚と棚の間は人が楽にすれ違えるくらいの広さがある。
    「お店の前はアスファルトの駐車場になっていて、後ろは砂利の駐車場になってるよ。そこでは中高生が学校帰りにカップラーメンとか食べてたむろってるんだ」
     冬の学校帰りに食べるカップラーメンは格別である。
    「お店は国道の交差点にあって、そばには大きな陸橋もあるよ。学校帰りの中高生が行き来してるから、気をつけた方がいいかも。国道は車も沢山通ってるよ」
     戦場がどう移り変わるのかは成り行き次第だが、歩行者などを戦闘に巻き込めば怪我人も出るだろう。
    「次郎君は、ご当地ヒーローとバスターライフル相当のサイキックを使ってくるから気をつけてね」
     ちなみに、ライフルから発射されるのはレモン牛乳なので、当たると濡れる。『ずぶ濡れ』になるのは覚悟しておいた方が良い。
    「次郎君は、完全には闇墜ちしてないから、人の心に訴える事でその力を削ぐことができるかもしれないよ。説得材料があるなら、試してみるのも手だね」
     上手くすれば、店の被害などを抑えられるかもしれない。
    「次郎君に灼滅者としての素質があるなら、学園に連れてくることも出来るよ。でも、素質がなかったときは……」
     素質がなかったときは、KOした時点で灼滅が始まるだろう。仕方のないことだ。
    「戦いにくい場所だけど、みんななら上手く解決してくれるって信じてる。頑張ってね!」
     そう言って微笑むと、まりんは皆にレモン牛乳を配ってまわった。


    参加者
    志倉・桜(魔を滅ぼす者・d01539)
    各務・樹(白磁氷輪・d02313)
    波多野・師将(いのぐるみすと・d04343)
    秋野・紅葉(名乗る気は無い・d07662)
    照宮・与壱(農耕騎士マロニエパッション・d08239)
    両河内・政宗(深緑の嵐・d10209)
    森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)

    ■リプレイ

    ●序
     次郎は激怒した。
    「おま……何してんだよ……」
    「え? 何って?」
    「お前が手に持ってるそのイチゴ牛乳は何だって聞いてんだよ……」
    「嫌いか?」
    「いや嫌いじゃねーけど、よく見ろコラ」
    「ん? うわあっ」
     次郎が親指で示した方を向いて、親友はビクッと身をすくめた。
     そこに立っていたのは、黒い帽子に外套を纏ったガイスト・インビジビリティ(亡霊・d02915)である。一九〇センチ近い身長で、顔は包帯でぐるぐる巻きになっている。こんなにも目立って仕方が無いカッコをしているにもかかわらず、一切の気配を消して、いつの間にか次郎達の間に立って冷蔵棚を眺めていた。
    「あの……ちょっとすいません」
     次郎につつかれて振り向くガイスト。包帯の隙間から覗く感情の読めない眼差しが、次郎を射貫く。
    「失礼」
     そう呟くと、すっとその場を離れた。
    「……なんだありゃあ、薄気味悪い人だったなあ次郎」
    「ちょっとビビったわ俺……って、待てコラ。今深刻な話をしてんだよ。ほら、隣にレモン牛乳が――」
    「おい次郎! おもしれー人が沢山いるぞ」
    「ああん?!」
     イラッとしつつも辺りを見回してみれば、居るわ居るわ。中央の棚の間にはイノシシの着ぐるみを着た可愛らしい少年に、三蔵法師みたいなカッコをした白人ぽい美少女。本棚で立ち読みしている着流しの少年、ガラス越しに見える駐車場にはサングラスをかけた和服の少女、デザート棚には僧服を纏った高校生。一方、さっきまでいた包帯ぐるぐる巻きの人はどこにも見当たらない。
    「コスプレのイベントでもあったんけ?」
     首をかしげる親友の首を、次郎は両手で絞めて揺さぶった。
    「コスプレの話じゃなくてレモン牛乳の話をしろコノー!」
    「お前はどうしてそう……レモン牛乳レモン牛乳うるせえんだ……」
     悶える親友を、次郎は突き飛ばした。
     親友が尻餅をついて倒れた。と同時に、店内が騒がしくなった。店員も客も、酷く怯えてうろたえている。
     三蔵法師みたいなカッコをしたクオーターの美少女、各務・樹(白磁氷輪・d02313)が、棚にあったマヨネーズを指さして叫んだ。
    「こ、こんなところに危険な半固形ドレッシングがあるわ! みんな、逃げて!」
     樹の辞書にマヨネーズの文字はない。かどうかは定かではないが、とにかく、樹はマヨネーズが大嫌いなのだった。
     その圧倒的嫌悪感を伴った叫びに、恐慌状態の人々は、まるで爆発寸前の時限爆弾から逃げ出すかのように、われ先にと店を出た。そしてすぐに我に返った。危険な半固形ドレッシングってなんだ?
     そんなふうにハテナマークを浮かべる人々に、今度は異様な殺気が襲いかかった。
     裾と袖がモミジの様にカットされた着物を着た少女、秋野・紅葉(名乗る気は無い・d07662)がサングラスをちょいと下げて、人々をちらりと見た。人々は無意識のうちに目をそらし、そそくさとコンビニから遠ざかっていった。
     一方、店内では、床に尻餅をついたままの親友に次郎が説教していた。
    「……そんなふうにレモン牛乳をないがしろにして、またレモン牛乳が無くなったらどうすんだコノー!」
     レモン牛乳は、一時、市場から姿を消したことがあった。その暗黒時代の再来に怯える次郎の体から、闇のオーラが噴出した。闇のオーラは次郎の背中で巨大なレモン牛乳のビンとして、手の中でライフルとして実体化する。
    「レモンレモン!」
     親友めがけ、ライフルからレモン牛乳がものすごい勢いで射出された。
     その黄色い液体を一身に浴びたのは、間に割って入った着流しの少年、森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)だ。
    「げほ、変なものを飲んでしまいました」
     心太はレモン牛乳まみれの顔を手の甲で拭って、次郎を睨んだ。
    「馬鹿、次郎、人様になんてこと……! ってお前、いったいどうしたんだ?」
    「彼なら大丈夫です。こちらへ」
     憤りつつも次郎を心配する親友の手を引いたのは、志倉・桜(魔を滅ぼす者・d01539)だ。長い黒髪のポニーテールがよく似合う。その清楚な雰囲気に、親友はあっという間に一目惚れした。
    「もしかして、俺がイチゴ牛乳を買おうとしたせいで……」
    「飲む物は好きに決めてもいいと思いますよ」
     桜は親友を励ましつつ、店外へと連れ出した。
    「さて、がんばっていきましょうか」
     そう呟くと、くるりと振り返ってまた店に入った。
     冷蔵棚を見ると、体中から黒いオーラを放出する次郎が心太を睨んでいた。
    「いま、なんつった」
    「変なものを飲んでしまいました、と言ったんです。口直しが必要ですね」
     心太は着流しの懐に手を突っ込んでレモン牛乳のパックを取り出すと、ストローをさして、ちーっ、と飲んだ。
    「あ、美味しい」
    「馬鹿かオメーは! どっちも同じレモン牛乳だんべな!」
     核心をついたかのように勝ち誇る次郎。そのとき、心太の目がキラーンと光った。
    「あんなに無理矢理では、味なんて分かりませんよ。それに、あんな飲まされ方二度とされたくありません」
    「……ぐっ。何コノー! どんな飲み方だろうと、レモン牛乳が一番美味しいことには変わりねーべ!」
    「いいや! 一番は静岡茶ッス!」
     ライフルを構えなおした次郎の背後から、僧服を着た高校生、両河内・政宗(深緑の嵐・d10209)が叫んだ。もともと言うつもりはなかったのに、つい反射的に叫んでしまった。が、今更後には退けない。
    「そんな世迷い言は、これを飲んでから言えコノー!」
     さっと振り返って政宗に狙いを定めた次郎の腕を、イノシシの着ぐるみを着た少年、波多野・師将(いのぐるみすと・d04343)がつかんだ。
    「こんなところで暴れたらレモン牛乳にも被害がでてしまいますです」
     ハッと冷蔵棚を見る次郎。
    「それに、お店がメチャメチャになったらレモン牛乳を買いたい人も買えなくなってしまいますです」
    「それはお前も本意ではないだろう!」
     師将にかぶせるように畳みかけたのは、政宗の隣で農業フォークを担いでいる照宮・与壱(農耕騎士マロニエパッション・d08239)だ。
     次郎は言葉に詰まった。
    「こんな所でいじやいてても(イライラしてても)仕方ない。裏の駐車場で勝負だ!」
    「よォォーし。静岡茶! こっちだァー!」
     次郎は政宗をカモンと手招きすると、たったったったっと走って店を出た。

    ●破
     真っ赤な夕日が、次郎と八人の灼滅者達を照らしていた。
     コンビニの裏は砂利敷きの広い駐車場になっていて、金網の向こうには延々と田畑が広がっている。異様な殺気のせいか、いつもたむろっている中高生の姿は無い。
    「次郎さん……自分がそんなに好きでないモノをしつこく勧められたことはないのですか?」
     桜が問いかけた。
    「レモンレモン……俺はついに、レモン牛乳宣教師としての力を得た。この力を使って、真理にくらい愚民を啓蒙して何が悪い!」
     その一言が、桜の闘士に火を点けた。
    「人に迷惑をかけないで布教せんかい!」
     さっきまで清楚な女の子だった桜が、関西弁女子に変身した瞬間である。いや、変身ではなく、こちらが本性なのかもしれない。が、それは些細なことだ。鋭い踏み込みから一気に間合いを詰めた桜の手が、無数の残像と共に次郎の胸を滅多打ちにした。
     ぼぎゃーっ、と悲鳴を上げて吹っ飛ぶ次郎。
     宙を舞う次郎に、紅葉が鋭く飛びかかる。
    「そもそも……本当に愛しているのなら、こんな無駄遣いをしてる場合じゃないわよ?」
     紅葉のアッパーカットが炸裂し、ぼぎゃぎゃーっ、と悲鳴を上げてもう一度吹っ飛ぶ次郎。
     だが次郎とてやられっぱなしではない。空中でくるんと姿勢を立て直し、ライフルを紅葉に向けた。
    「無駄かどうかは、飲んでから言えコノー!」
     上空から、散弾めいたレモン牛乳のシャワーが降り注いだ。
     それを食らって、紅葉、師将、そして主人を庇ったガイストのビハインド、ピリオドが膝を付いた。
     紅葉の着物からレモン牛乳がしたたり落ちた。着物が肌にはりついて気持ち悪い!
    「レモンレモン……」
     次郎はレモン型になった両の目を垂らしつつ、鼻の下をでれーんと伸ばして頬を赤く染めた。
    「……変な所を見たら、殴るわよ?」
     不機嫌そうな紅葉の言葉は、おそらく、次郎に対しては手遅れであった。次郎の表情から察するに、低身長の割に豊かに発育した紅葉の胸元は、けなげに隠そうとする本人の努力もむなしく、ずぶ濡れ効果によってその輪郭を露わにしているに違いなかった。だが、我々はそれを直に確認することは出来ない。紅葉に殴られてしまうからだ。
     紅葉を見つめる次郎の脳裏で、何かが高速に演算された。
    「レモンレモォォーン!」
     次郎は元気になった! 次郎の『狙い』がアップした!
    「レモンレモォォーンではないッ! これ以上の無理強いは許さんッ!」
     歓喜する次郎をがっしりつかむ政宗。その口調はいつの間にか正義の味方っぽくなっていた。もがく次郎を高々と持ち上げ、渾身の力で地面に叩きつけた。
     じゃりっ! と砂利にめり込む次郎。その衝撃で、どこからともなくブワワーンと舞いあがる茶葉の嵐。これぞ静岡清水が誇る必殺技、茶葉ダイナミックだッ!
    「この……静岡茶野郎……!」
     せっかくの喜びを台無しにされ、次郎の『狙い』アップはかき消された。
    「紅葉さんが風邪を引いてしまいますです! ナノナノさん!」
    「ナノっ!」
     さっと吹いた温かい風が再び茶葉を舞い上げた。さらに、ナノナノのふわふわハートが紅葉をほんわかと包み込む。紅葉の着物はすっかり乾いて元通りになった。とっても快適だ!
    「静岡茶なんかに負けられるかァァーッ!」
     次郎は灼滅者達たちに突撃した。
     夕日をバックに、九人の影が乱舞する。
     そして――。

     与壱から食らった炎をくすぶらせながら、次郎は砂利に這いつくばっていた。
     茶葉の振り積もった砂利を、両手でじゃりっと握りしめる。乾いた砂利に、水滴がぽたぽたとしたたり落ちた。
     これはレモン牛乳ではない。
     次郎の涙だった。

    ●急
    「クソッ……なんで俺は、こんなによえーんだ……」
     実際、次郎の闇の力は最低限のものでしかなかった。
     それは、一番最初に見せつけられた心太のパフォーマンスが脳裏にこびりついて離れなかったからだ。さらに、どこからともなく浴びせ続けられていたガイストの殺気のせいで、次郎は気付かないうちにずいぶんと消耗していた。
    「こんなにも、レモン牛乳を愛しているのに……」
    「お前のレモン牛乳を愛する気持ち、痛いほどわかる!」
     与壱が農業フォークをカードに戻しながら言った。
    「俺だってお前と同じように、ご当地怪人になりかけたことがある。だから、お前が今なにを感じているのかもわかる!」
     与壱は膝をついて次郎の肩に手をやった。
    「お前はレモン牛乳を愛するあまりに、恐れているんだ。それを失うことをな」
     与壱は栃木の人間だ。レモン牛乳が市場から姿を消した歴史は知っている。無理強いが良くないことは仲間達が諭してくれた。だから与壱は、自身の経験から、次郎に共感を示した。
    「だが、恐れにまかせて暴走すれば、もっと多くのモノを失うことになる。現に今、お前は大切な親友を失いかけている」
     次郎は頭を抱えた。
    「あんな奴……友達じゃあ――」
     パンッ! と音がした。
     次郎の頬を、樹が叩いたのだ。その台詞を、最後まで言わせるわけにはいかなかった。
    「お友達は、次郎くんのことを心配しているわ」
     次郎は、コンビニの影から様子をうかがっている親友の姿を見た。紅葉の殺界形成に負けない意思の力で、この場にとどまっていたのだ。
    「レモン牛乳の魅力を誰よりも知る次郎くんがきちんと話してくれたら伝わるわよ、きっと」
    「ウッ……俺は、なんてことを……」
     うなだれる次郎の体から、黒い煤の様なものが立ち昇り始めた。
    「うそ、灼滅……?」
     心太が次郎に駆け寄った。
    「松沢さん、れもん牛乳で戦うのではなく、れもん牛乳を愛する心で戦うのです。それが出来ないと、松沢さんは消えてしまいます」
     次郎はぎゅっと目を閉じた。
    「頑張って、次郎くん。わたし、次郎くんと話したいことがあるの」
     樹が次郎の手を取って励ました。
    「……俺は、レモン牛乳を疑っていたのかもしれない。放っておけば、また消えてしまうと」
     コンビニ袋が、包帯でぐるぐる巻きの手によって、次郎の前に置かれた。中にはレモン牛乳がたくさん入っている。
    「檸檬牛乳、美味。故に、不滅」
     いつの間にか、ガイストはレモン牛乳の購入を済ませていたらしい。いつ戦場を抜け出していつ帰ってきたのか、誰にも分からないほどの神出鬼没っぷりであった。
    「僕はこれ好きなんですけれどねー」
     ちー、と音を立てながら、師将がいつも通りの雰囲気でレモン牛乳を飲んだ。そのマイペースぶりは、見る者を安心させる。
    「そうか少年、少年もレモン牛乳が好きか!」
     次郎にぎゅーっと抱きしめられて、師将はジタバタした。
     ちなみに、次郎と師将は同じ中学一年生である。だが、師将は中一には見えないほど可愛らしかったのであった。いのぐるみだし。
    「自分もレモン牛乳は二番目くらいに好きッス」
     ガイストのコンビニ袋から取り出したレモン牛乳を飲みつつ、政宗も次郎に微笑んだ。
    「静岡茶野郎……」
     次郎は政宗の優しさを素直に受け取った。静岡茶が一番だという信念も、今の次郎には共感できるものだった。次郎と政宗は同類ではないか。
    「知っとる? 最近はレモン牛乳の名前が少しは有名になっとるんよ?」
     桜が次郎に微笑んだ。
     次郎は目を輝かせた。関西方面にまでその名を轟かせていたとは!
    「私はレモン牛乳に感謝してるわよ? おかげで広島がレモン生産量一位だって知ることができたし」
     紅葉のご当地愛は、レモン牛乳によってさらに深まっていたのだ。
     次郎は、自分が思っていたよりもずっとレモン牛乳が愛されていることを灼滅者達に教えられた。
    「失うことを恐れるよりも、愛するモノを信じることだ! 強くなれ!」
     与壱が叫んだ。闇堕ちしかけた自分だから分かる。心の闇とは、心の弱さとは何かを。
     次郎の体から噴出した大量の煤が、夕焼けの空に昇っていく。
    「俺が弱かったのは、俺の心が弱かったからだ……」
     ライフルと瓶が、煤となって消滅していた。
    「うおおぉぉーッ!」
     次郎の体から、レモン牛乳色のオーラが湧き上がった。
    「もう怖がるのはヤメだ! 俺は、レモン牛乳を、信じるッ!」
     レモン牛乳を愛し、信じる心が、バトルオーラとなって次郎を包んだ。
     そこに、負の感情はどこにもない。
     次郎は、灼滅を免れたのだ!
    「よかった。ご当地ひーろーの誕生ですね!」
     心太の祝福に、次郎は笑顔で頷いた。

     親友が次郎の元へ駆け寄った。二人はしばし見つめ合い、がしっと抱き合った。二人の友情はこれからも続くだろう。
     こうして、松沢次郎は、灼滅者としての第一歩を踏み出したのだった。

    作者:本山創助 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 3/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 10
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