罵られたい殺したい

    作者:泰月

    ●ストーカー?
     冬のとある午後。
     公園の中を、下校途中らしい女子高生2人が後ろを気にしながらヒソヒソ会話していた。
    「……やっぱり、まだいるよ……」
    「あれね。ストーカーかな?」
    「うん……さっきからずっとだよ」
     2人の視線の先に、いた。木の陰から顔を半分覗かせてるスーツ姿の男が。2人と目が合うと、にまりと笑った。
    「ひっ!」
    「うっわー……」
     その笑い方に、ロングヘアの子が本気で怯え、もう1人ショートの気が強そうな子が本気でドン引き。
    「ねぇ、どうしよう……怖い」
    「あー。ガツンと言ってくるわ」
    「だ、大丈夫……?」
    「あたし空手部だよ。あんな陰気な奴に負けないって」
     怯える友人に笑顔を見せ、電柱の陰で笑う男に近づく女子高生。
    「そこのド変態! いつまでも付きまとってんじゃないわよウザったい!」
     男まで2mほどまで近づくと、宣言通りにガツンと言い放った。その大声に、公園にいた他の人間の視線も集まる。
    「はぁぁっ……ふぅ。やっと来てくれたかぁ。ずっと待ってたんだよ」
     対して男は動じるどころか、どこか恍惚とした表情を一瞬浮かべた後、トボけた口調で目の前の女子校生を見て。
    「うん、やっぱり罵倒されるのはイイねぇ。とても心地良かったよぉ……さて、それじゃ殺してあげよう」
     男がそう言って、いつの間にか手にした斧を無造作に振り下ろす。血飛沫が上がった。広がる赤の中に倒れる女子高生。ややあって、上がる悲鳴。
    「罵倒じゃないと喧しいだけだなぁ……まぁ、適当に殺すか」
     男が適当に投げた斧が、遠くで見ていた別の人間の頭を割る。
     一瞬にして、公園が惨劇の舞台となった。

    ●いいえ、殺人鬼です
    「今日も俺がサイキックアブソーバーが俺を呼ぶ……事件だぜ、お前達」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は今日もアレな感じだった。
    「今回の敵は六六六人衆が1人、序列六六〇の血飛沫・罵楽(ちしぶき・ばらく)だ」
     六六六人衆。その名の通り、666人を常に保つダークネスの殺人集団である。
     戦闘能力も高くやることが基本殺人なので、事件の被害も大きい。
    「奴が、とある女子高の生徒にストーカー的行為をする事を予知した」
    「ストーカー? 殺すんじゃなく?」
     一人の灼滅者が疑問の声を上げたのも無理はない。
    「続きがある。どうも罵られてから殺す為にストーカーをしているみたいだぜ」
     血飛沫・罵楽。
     殺人と同じくらい、自分が罵倒される事にも喜びを見出す狂人である。
    「自分が罵倒される状況を作ってから殺戮を始める。それが今回はストーカー行為って訳だ」
     殺戮もストーカーもおまわりさんこっちですレベルで碌でもないことなのだが、ダークネスである以上そうはいかない。
     ダークネスの凶行を止めるのは、灼滅者にしか出来ない事だ。
    「既に俺の全能計算域(エクスマトリックス)で、お前たちが仕掛けるベストな場所を割り出してある。この公園だ」
     ヤマトが指したのは広げた地図にある公園。
    「ストーカーに気づいた女子高生達は、本当に自分たちをつけているのか確かめる為、絶対にこの公園に入る」
     罵楽の狙いは罵倒されることなので、わざと見つかるような尾行しかしないと言う。
    「その時間帯、公園にいるのは女子校生を含めて10人。なんとか犠牲を半数までに抑えて欲しい」
     多くはないが、少ないとも言えない人数である。
    「注意して欲しいのは、女子高生の一人が『罵楽にガツンと言うよりも早く動かない』事だ。六六六人衆は用心深い。企みを邪魔するのはぎりぎりじゃないと、感づかれてどう動くかわからない」
     ガツンと言うより前に動いた方が、女子高生の安全は確保しやすい。だが、エクスブレインの予知から外れた場合、どうなるか予測は不可能。公園内の人数が増える分には気にされないが、公園に入る前から嗅ぎ回ったり、先に公園の人払いをすると気づかれる可能性が高い。
    「戦闘になれば罵楽は殺人鬼と同じサイキックに加えて、片手サイズの斧を使う。投げて離れた相手も攻撃出来るから注意してくれ」
     罵倒されて喜ぶ性質を利用すれば、ある程度狙いを操作する事も可能だろう。
    「六六六人衆は序列が低くても強い。一般人の対処もある。きつい状況になっちまうが……お前達ならきっと大丈夫だろう」
     ヤマトは灼滅者達の顔を見回す。
    「出来る限りの予知はした。後は頼んだぜ」


    参加者
    榎本・哲(狂い星・d01221)
    前田・光明(中学生神薙使い・d03420)
    土方・士騎(隠斬り・d03473)
    五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)
    物部・虎丸(夜行性・d05807)
    樹宮・鈴(奏哭・d06617)
    南波・柚葉(偽心坦懐・d08773)
    リタ・エルシャラーナ(タンピン・d09755)

    ■リプレイ

    ●響く非日常
     公園内を2人の女子高生が何やら会話をしながら歩いている。他に公園にいるのは20名弱。これだけなら良くある日常の風景だ。
    「そこのド変態! いつまでも付きまとってんじゃないわよウザったい!」
     だが、女子高生の一人が踵を返し、後ろにいたスーツ姿の男性にこんな台詞を突きつけるのは、良くある日常ではない。その声は公園ほぼ全体に響き、何事かと注目を集める。
     そして、その声が響くのを今か今かと待ち構えていた者たちがいた。
    「はぁぁっ……ふぅ。やっと来てく――」
    「待ちやがれそこの特殊性癖野郎ッ!」
    「待てよ、そこの豚」
     どこか恍惚とした表情を浮かべたスーツ姿の男性の声を遮って響いた2つの声。
     まさにその能力に付けられた名前の通り、周囲のどんな些細な物音にも邪魔されることなく2人の間に割り込んだ樹宮・鈴(奏哭・d06617)と前田・光明(中学生神薙使い・d03420)の罵声。
     それは女子高生もスーツの男にも予想外のものだった。2人の動きが僅かに止まる。
     同時に8人が動き出した。女子高生もスーツの男の2人へと向かう者と、周囲に散らばる者とで別れる。
    「行くよ相方、出番だ」
     封印を解除したリタ・エルシャラーナ(タンピン・d09755)の横に現れる相方、高崎。
    「末期の精神的被虐趣味、及び変態的殺戮衝動、万死に値する! て言うか気持ち悪いッ! 反吐が出ンんだよこのくされドM!」
     さらに鈴の罵倒が続く。
    「え? 今の誰の声?」
     聞こえる自分以外の声に、女子高生は先ほど周囲の人間がしたのと同じ動きを見せた。声の主を探して視線を目の前の男から逸らし、向かってくる数人を見つけて何事かと硬直する。
     同じ動きをスーツの男もしていた。していたが、思考が異なる。
    (「今の罵倒も良かったなぁ。あぁ、でもやっぱりこの子も殺そう」)
     声の主を探しながらも、斧を握ったその男の手が動き出す。遂に本性をあらわにした六六六人衆が一人、血飛沫・罵楽。
     殺人鬼にとってこの距離は、他所見をしていても殺せる距離だ。
    「やらせるかよ!」
     しかし物部・虎丸(夜行性・d05807)が一直線に女子高生の元へ走り寄り、有無を言わさず抱きかかえて駆け抜ける。
     何をしてでも守る。そんな決意を据えた虎丸の迷いのない動き。
     そして、全員がエクスブレインの予測に従いぎりぎりまで待って動き出したことで罵楽の動きが僅かな時間止まり、女子高生の身に起こる筈だった結果を変えた。
    「あれぇ?」
     手応えが浅い。首を傾げた罵楽が振り向けば、誰かに抱えられ離れていく女子高生の姿。女子高生の頭蓋を割る筈だった一撃は、虎丸の背を浅く斬るに留まっていた。
    「逃がさないよぉ」
    「何処を見ている? この屑蟲が。身の程を弁えろ」
     殺し直そう、と罵楽が斧を手に走り出すより早く、割って入った土方・士騎(隠斬り・d03473)が、手甲に展開した力場の盾で罵楽の頬を打つ。
    「外道の相手、仕る」
     視線で追わせることすらさせじと、罵楽の前に士騎が立つ。
    「通り魔だ! 早く逃げろ!」
     五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)が大声を張り上げた。
    「え、通り魔?」
    「おい、あいつ斧持ってるぞ」
     香の声に俄かにざわつき始める公園。同時に香の体から放たれた殺気が、公園内にいる人達の危機感を煽る。ここにいない方がいい。この場から逃げる方向へ人々の意識が傾き始める。
    「通り魔だ。ここは危ねぇ、早く逃げろ」
     離れた所にいる人々の元には榎本・哲(狂い星・d01221)が向かう。へらりとした笑みを浮かべつつも、彼が纏うは王者の威風。既に殺気に気圧された人は、逆らうことなく公園の外へ足を向ける。
    「逃げて」
     罵楽に近い別の場所では、南波・柚葉(偽心坦懐・d08773)がもう1人の女子高生に逃げるよう促していた。
    「え、でも――」
    「いいから、逃げて」
     見知らぬ男に抱えられて行った友人を気にしてか、混乱した素振りを見せる相手に柚葉も王者の威風を使う。脅すより宥めたいが、時間がない。告げる言葉はどこか無機質だが、柚葉も必死だ。
    「これは、どういうことだい?」
     罵楽の周囲から人が離れていく。罵楽にとって、周囲の人達を逃がして回る灼滅者達の動きは完全に予想外だ。
    「お前の向けるその不快指数100の視線、それだけで公害レベルだね。お前にストーキングされるくらいならストッキングを被った方がマシだよ」
     驚きを隠せないでいる罵楽を真顔で罵るリタの言葉の中にボケが混ざるのは、芸人志望の性か。
    「私は何故こんなに罵られてるんだろうねぇ。あぁ、楽しいぃ」
     振り下ろされたリタのハンマーを肩に受け、高崎が放つ霊障を受けても、罵楽のニヤついた笑顔は変わらない。
     そこに薄笑いを浮かべた光明も続けて罵る言葉を紡ぐ。
    「おい、今何歳だ? 殺人鬼何年目? で、660番? その程度とは情けなくならないか?」
    「ふぅん? 私の序列を知っているんだ」
     光明の放つ風の刃に斬られながらも、彼の言葉で罵楽の表情が少し変わった。
    「知ってて罵るんだぁ? 殺されたいのかなぁ?」
     状況を理解したのだ。彼らが自分を六六六人衆と知りながら来た者、つまり罵楽の敵であると。
    「死の奏者は手前と私達。さ、スタートだ」
    「やだよぉ。私は戦いに来たんじゃないからねぇ」
     罵楽の死角から利き腕を狙って放たれた鈴の斬撃は、罵楽の手にした斧に弾かれる。
    「殺しに来たんだよぉ」
     その言葉と共に、罵楽の手から斧が飛ぶ。状況を理解した罵楽の放った斧は、しかし灼滅者の誰も狙っていなかった。
     公園にいる10人の一般人は、見事にバラけていた。その中でも罵楽の最も近くにいて、最も死の危険に近かった女子高生を助けたのは見事な連携だったが、そのため罵楽へと向かった人数の方が多かった。
     他の人々の避難に当たる香と哲と柚葉の3人。いざとなれば狙われた人を庇う覚悟もしているが、3人で公園内に散らばっている全ての人をカバーはしきれない。
     ざぐんっ。
     罵楽が投げた斧は狙い違わず、避難に当たる3人から最も遠くに背を向けて逃げていた一般人の頭を直撃する。声すら上げられずに一人倒れて、もう動かない。
    「ちっ。間に合わないか」
     哲が小さく舌打ちをする。癒しの気を飛ばした所で助けられないのは地面に広がる赤の量からも明らかだった。
     目の前で起きてしまった惨劇だが、哲が動揺することはない。
     まだ助けられる人がいるのだ。彼らを助ける事を優先する。悲鳴をあげかけた人を纏う威風で脅して逃がす。
    「はい、ひとりっと。あぁ、でもさっきの子は大分離れちゃったなぁ。残念」
     上がってしまった血飛沫。それと同じ名を持つ殺人鬼は嗤う。

    ●届いた距離
    「ちょっと、離してよ!」
     抱えられたままの女子高生がじたばたもがく。突然見知らぬ男に抱きかかえられれば、当然の反応だろう。
    「これだけ離れればもういいか」
     女子高生を地面に下ろし、虎丸は彼女に背を向ける。
    「ねぇ、何がどうなっ――」
    「今すぐ逃げろ。俺の前で、お前が倒れるのは許可しねえっ!」
     荒っぽい指示とともに、虎丸の体から殺気が放たれる。説明できる事情でもなく、そんな時間もない。彼女達を逃がす為に手段は選らばない。
     殺気に気圧されて公園から去る女子校生に、万が一にも罵楽の斧が届かぬようしばしその場に立ちはだかる。
     背後に聞こえる足音が充分に遠ざかってから、来た道を全力で駆け戻る。その先の敵の元へ。

     公園内の人数は着実に減っていた。既に罵楽の周囲には、灼滅者の姿しかない。
     だが、元々罵楽の近くにいた6人は、まだ公園から逃げ切っていない。彼らが逃げ切るまでもう少し時間がかかる。
     全員を助けると言う目標は既に叶わぬものとなってしまったが、それでも1人でも多く生かす為、灼滅者達はそれぞれの役割を為さんと動く。
    「んー。次は誰を殺そうかなぁ」
     怒りを与えられても、罵楽の目は周囲の灼滅者達に向かいきらず、彼らより殺しやすい存在――逃げる一般人を物色することに向けられている。
    「余所見すんな豚」
     戦闘位置周辺からの一般人の退避が完了したことで、香も戦列に加わって罵りながら罵楽を殴る。未だ殺戮に傾いている罵楽の意識を、自分たちへの攻撃に引きつけようと。
    「あはっ。いいね、もっと罵倒しておくれ」
    「罵って下さいだと? あさましい屑め。その気味の悪いニヤけ面、どうにかしてから言え」
     士騎が手甲から広がる障壁に影と罵った意思を乗せ、罵楽の顔を打つ。
    「手前の迷惑行為のせいでどれだけの一般ピープルが生理的嫌悪感によるストレス性精神疾患及び情操教育歪曲被害に苦しんでる思ってんだ」
     息も吐かずに罵る言葉を吐いたと思えば、直後に歌姫を思わせる鈴の澄んだ歌声が罵楽の脳髄に響き渡る。
    「お前の母親はどう思ってるだろうな。人間としても六六六人衆としても中途半端なお前を」
     罵楽が灼滅者を攻撃しない内は、光明も攻撃に移れる。罵る言葉と同時に、鬼神のそれに変じた腕で罵楽を殴る。
    「そうだ。お前は中途半端過ぎる。罵られたいならもっと奇抜な格好して出直しておいで」
     無表情なまま、罵倒と共にリタが放つのは、赤いオーラの逆十字。
     連続で罵られながら攻撃を叩き込まれれば、如何に六六六人衆とは言え全ての攻撃を捌ききることは出来ない。だが。
     にまり。攻撃を受けてなお、どうにかしろと言われた笑みをさらに濃くする。
    「くはっ! イイねぇ……まとめて殺そうとすれば、もっと罵倒してくれるよね。そうしよう。殺せるし罵られる!」
     自分たちを攻撃させる為に灼滅者達が行った罵倒だが、その内容から意図が罵楽に知れた。故に、至った思考。
     罵楽の体から、どす黒い殺気が逃げる一般人へ放出される。それは、飲み込んだものを鏖殺する殺意が形となった黒の領域。
    「しまった!」
     それは光明が警戒していた罵楽の攻撃でもあった。挙動や目線に注意を払っても、罵られて喜ぶ罵楽の表情から初見で読み取ることは難しい。罵楽を一箇所に釘付けにする為に罵りまくった副作用とも言える。
    「させねえよ!」
    「相方、そっちも頼んだ」
     だが、香とリタ、高崎がその身を盾として広がる殺気の一部を押さえ込む。
     残る殺気も一般人を飲み込む前に、柚葉と哲がその身を挺して逃げる人々を守る。代わりに罵楽の殺気に庇った者達が飲まれるが、それは覚悟の上だ。
     届かず助けられなかった人がまた1人出てしまったが、それでも身を挺して庇った5人は何が起きたのかも理解しないまま、公園の外に脱出していく。
     一般人を逃がすことに専念していた柚葉と哲が同時に小さく息を付く。犠牲は出てしまったが、それでも8人を助けられた。
    「欲しがってんじゃねえぞ、ガキが。てめえのエゴに付き合うつもりはねえんだよ」
     そこに戻って来た虎丸が戦列に飛び込みざま、鉄パイプを回転させて罵楽を打つ。
     全員の視線が、罵楽へと集中する。

    ●非日常の終結
    「生憎だな。もうお前が殺せるやつはいないぜ」
    「まだいるじゃないかぁ。君たちがさぁ」
     一般人を助ける目的は達した。この場でこれ以上罵楽と戦う必要性は灼滅者達にはない。
     哲の指輪から放たれた罵楽の体の動きに制約を与える魔法弾は、撤退のための布石にもなる一撃。
    「殺せたのは2人だけかぁ。じゃ、君たちも殺そう」
     だが、罵楽にしてみればそんなことは知ったことではない。
     満たされない欲求を埋めるべく、殺人鬼の刃は灼滅者達に向けられる。
    「ひとつ問う」
     そんな罵楽の前に立ち、見据え。士騎が静かに問う。
    「殺しと、罵り蔑まれるのと、どちらが好みだ?」
    「勿論、両方だねぇ」
    「悪趣味なことだな。噴水がないのが残念だ。貴様の腐った性根を洗う場所がない」
     抉るつもりで放つは言葉のみにあらず。士騎の想念が集い、漆黒の弾丸となり精神まで届けと罵楽を撃つ。
    「お前の母親はどう思ってるだろうな。人間としても六六六人衆としても中途半端なお前を」
     浄化を伴う風を味方に吹かせ、癒しながら、風の優しさとは裏腹な言葉が光明の口から発せられる。
    「罵られて喜ぶとかないわ。この――野郎が」
     香も自らのドS心を燃え上がらせ、冷たい目で思いつく限りの罵声を浴びせ、7つに分裂した光輪で罵楽を斬る。
    「三枚卸になる覚悟せぇオルァ!」
     激しい罵りの言葉と共に、鞘走った鈴の太刀。刃鳴りの後に、刃と刃がぶつかる金属音。
    「私は殺したいのだよぉ。殺されるのはごめんだねぇ」
    「気取って自分のエゴに陶酔してんじゃねぇよ」
     ばちり。闘気の雷が弾ける拳が鈴の刃を止めた直後の罵楽の顎をカチ上げる。
    「俺は痛みをすべて受け入れる。てめえみたいな、エセ変態とは格が違うんだよっ!」
     拳に伝わる確かな手応え。
    「じゃぁ、これも受け入れてみせてよぉ」
     しかし、その声は虎丸の背後から聞こえた。
    「くは……っ」
     直後、腹部に感じる衝撃。
     残像すら残さない速さで背後に回り込んだ罵楽の斧が、虎丸の腹部を赤く染める。
    「あは。肋骨砕けたね。いーい手応え」
    「逃げる人を狙ったり。ホントはドSじゃないの?」
     手応えに笑みを浮かべる罵楽の横から淡々とした声。間合いに飛び込んだ柚葉が高速で手繰るは鋼の糸。咄嗟に飛び退いた罵楽の額を裂き、血飛沫が上がる。
    「……好きなんでしょ、血飛沫。自分が出す羽目になって、どう?」
     柚葉の人生で初めてのダークネスとの相対。冷静に、と頭の中のスイッチを切り替え放った一撃は、愉悦に浸った罵楽の僅かな隙を的確に捉えた。
    「やっぱ喋んなくていいや、声も耳障り。喧しいだけ。取り敢えずここから居なくなって。切実に、見るだけでもキツいから」
    「っ……やるねぇ、君たち」
    「もう笑えないのか? お前は一方的、独善的すぎる。罵倒してやる値打ちが無い」
     額を押さえ俯く罵楽の様子に、光明が仲間の傷を癒しながら薄笑いを浮かべて言葉で抉る。
    「芸人もMの人も、逆境で輝くものさ。頼むよ、相方」
     リタの要請に応えて、灼滅者の撤退の殿となるべく罵楽の前に進む高崎。
     その直後、罵楽の手から斧が消える。
    「はーぁ。簡単に殺せないなぁ君たちは。この場は去るとするよぉ」
    「逃げるなんて、勿体無えよ?」
     抜き身の刃を手に、鈴が半歩踏み込む。だが、突如膨れ上がった罵楽のドス黒い殺気の領域が、その足を止めさせた。少し前に逃げる人々を殺そうとした時とは、段違いのドス黒さ。
    「焦らなくていいよぉ――次は」
     にまり。血まみれの顔に変わらぬ笑みを張り付かせ、罵楽はその場から消えていった。
     その気配が完全に消えた所で、士騎が構えを解いて息を吐く。
    「……本気でなかった、と言う事か」
     この場で雌雄を決するつもりがなかったのは、灼滅者も罵楽も同じだったようだ。
     次は、殺してあげるからさ。
     罵楽の残したその言葉がいつになるにせよ、今日この場は、灼滅者達の勝利に終わったのだった。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月29日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 18/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ