怪人サルシマーの守るもの

    作者:篁みゆ

    ●怪人サルシマー
     神奈川県横須賀市には、東京湾で唯一の自然島がある。その名を「猿島」といい、昔は本当に猿が住んでいたというが今は海水浴場も整備され、観光地となっている。特撮ものの舞台として数話、使われたりすることもあった場所だ。
     記念艦「三笠」のある三笠公園から船で10分ほど。最寄り駅から徒歩と船で30分ほどで海水浴、釣り、バーベキュー、散策などが楽しめるこの島は、地元の人達にも愛されている。
     その愛が募るゆえに、暴走してしまう者が出てしまうのも致し方ない……のか?
    「フランス積の美しいレンガのトンネルを汚す悪党め! このサルシマーが許しはしない! タアッ!」
    「ぐあっ……な、何すんだこのガキ……ぐふ……」
     見るからにガラの悪そうな青年が、少年のキックを食らって倒れ伏す。先程まで青年が手にしていたスプレー缶がコロコロとトンネルの中を転がっていった。
    「落書きを見過ごせるか! サルシマーパンチ!」
    「ごふっ……」
     連れの青年もたて続けにやっつけ、サルシマーはトンネルの外に出て、手作りのマントをなびかせて空を見上げた。
    「今日もまた、猿島の平和は守ったぜ!」

    「……『サルシマン』としてヒーローに目覚めればよかったんだけどね」
    「なにかいいました?」
    「いや」
     教室にて、神童・瀞真(高校生エクスブレイン・dn0069)の口にした言葉を拾った向坂・ユリア(中学生サウンドソルジャー・dn0041)が首を傾げたが、瀞真は首を振って集まった灼滅者達を見回した。
    「ご当地怪人に闇堕ち仕掛けている少年がいるよ。向かってくれるかな?」
     通常ならば闇堕ちしたダークネスからはすぐさま人間の意識は掻き消える。しかし彼は元の人間としての意識を残したままで、ダークネスの力を持ちながらダークネスには成りきっていないのだ。
    「彼が灼滅者の素質を持つならば、闇堕ちから救い出してくれ。だが、完全なダークネスとなってしまうようならば……わかっているね?」
     その場合は、灼滅するしかない。
    「彼の名は怪人サルシマー……いや、本名は浅野・天春(あさの・まはる)、中学二年生だ。子供の頃からよく猿島に遊びに来ていて、猿島が大好きなようだね」
     猿島大好きな少年が怪人となってしまったのは、観光客も減り、船の運行が減る冬の間、人目が少ないのをいいことにレンガ造りのトンネルにスプレーで落書きをしたり、広場にゴミを捨てたり、ダブの木を傷つけたりする不届き者達が出たかららしい。
    「最初は本当にその悪い事をしている人達を退治していたようなんだが……徐々にエスカレートしていってしまってね。今となっては素敵なレンガのトンネルを見上げている人がいればそれだけで即悪者だと判断するし、砂浜で偶然ゴミを落としてしまった――それだけでたとえ落とし主に拾う意志があってもそれを無視して悪者だと決めつけてしまうとか……ちょっと困った状態なんだよ」
     確かに、彼自身が観光の障害となってしまっていては問題だ。島を訪れる者が減れば、それだけ島が綺麗なまま保たれる? 極論すぎる。
    「だから、なんとかしてほしいんだ」
     今の時期、船は基本的に土日祝日しか出ていない。団体客があれば平日でも船はでるが、彼が島に行くのは土曜の一番最初の便でだ。
    「平日島に行けないフラストレーションが溜まった彼が、観光客を傷つける前になんとかしてほしいんだよ」
     瀞真によれば、良いタイミングで接触するには天春の乗った次の船で島へと趣き、そのまま真っすぐ一番近いレンガのトンネルへ向かえばいいという。トンネルのレンガの積み方を眺めているだけで勘違いして攻撃を仕掛けてくるというが、落書きをするふりをしても良いだろう。勿論本当に落書きをしてはいけない。
    「彼の、猿島を愛する心を否定しないような説得が大事になりますよね……」
    「ああ、彼の猿島への愛を否定してしまうと、説得は難しくなるだろうね。だが間違っている部分は間違っていると伝えなければならないよ」
     考えこむように視線を落としたユリアに、瀞真はアドバイスするように告げて。
    「他の観光客が巻き込まれないように、注意もお願いするね」
     すっと、灼滅者達に視線を向けて、頷いた。


    参加者
    長門・海(魔女で戦う魔法少女・d00191)
    小圷・くるみ(星型の賽・d01697)
    帆波・優陽(深き森に差す一条の木漏れ日・d01872)
    炎導・淼(炎の韋駄天・d04945)
    野々上・アキラ(レッサーイエロー・d05895)
    ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)
    亜麻宮・花火(もみじ饅頭・d12462)
    吉野・由希子(桜のあしおと・d12901)

    ■リプレイ

    ●いざ猿島
     船の先がかき分ける波音が心地いい。三笠公園から2便目の船に乗った灼滅者達は、猿島へと向かっていた。海を挟んだ向かいに見えていた島が、段々と近づいてくる。
    (「舞台は元要塞の無人島、そんなホラーゲームも有りましたっけ」)
     ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)は段々と視界を占める割合が大きくなる無人島を見てそんなことを思い出した。
    「横須賀、基地があって軍艦一杯いるし楽しい町だね。終わったら色々見に行こう~」
     ウキウキしているのは軍艦好きの長門・海(魔女で戦う魔法少女・d00191)。もしかして彼女は猿島より、ヴェルニー公園から基地を眺めたかったのだろうか。
    「典型的な力に溺れました野郎だな。正義ってのも愛が無ければ悪と変わらねぇ」
    「いくらご当地愛が強いからといっても、行き過ぎた愛は誰にとっても不幸な結果を招くだけだよ!」
     炎導・淼(炎の韋駄天・d04945)の呟きに、亜麻宮・花火(もみじ饅頭・d12462)が悲しげに答える。県は違えどご当地ヒーローである花火には、ご当地愛は痛いほど分かる。それが行き過ぎると良くないことも。今回はまさにご当地愛が行き過ぎて、良くない結果を導いている典型だ。
    「あの、今は、トンネルよりこっちの方が見どころ、みたいですよ」
    「トンネル周辺を迂回するような外回りのルートがお勧めみたいですよ」
     同乗している観光客らしき人に声をかけるのは吉野・由希子(桜のあしおと・d12901)と帆波・優陽(深き森に差す一条の木漏れ日・d01872)。そこに遅れて花火も加わって。事前にトンネルを避ける経路を知っていて貰えれば、安心だからだ。中には「えー、フランストンネル……『愛のトンネル』行けないのー?」とがっかりした様子の観光客もいたが、何もずっとトンネルに近寄るなというわけではない。天春をなんとかするまでの間であるからして、映画撮影はそんなに時間がかかりませんから後で寄っていただければと用意していた口実を告げれば、観光客も納得してくれたようだった。
    「そろそろ着くぜ!」
     野々上・アキラ(レッサーイエロー・d05895)が声を上げると、その通り桟橋は目の前だった。間もなく停泊する船から降りるため、小圷・くるみ(星型の賽・d01697)はロープとボードを持ち上げた。向坂・ユリア(中学生サウンドソルジャー・dn0041)が半分受け取って、持ち運びを手伝う。
     いざ、東京湾の要塞島へ。

    ●愛の深さを
     エクスブレインからの指示通り、フランス積のトンネル(別名・愛のトンネル)へと向かいながら、用意したロープと「こちらからお通りください」と迂回路を示すボードを取り付けていくくるみとユリア。ジンザは持参したトラバサミとゴミ袋を手に、ゴミを拾いながらロープを張るのを手伝う。同行した嘉夜が観光客の誘導を手伝ってくれるという。
    「映画の撮影なんだ。……あれ? 役場の人に言ったはずなんだけど。でも、すぐ終わるから。他のヤツにも言っといてくれよ!」
     道中で出逢った観光客や地元民と思われる人たちにはアキラが持ち前の明るさで説明をし、暫くの間トンネルに近寄らないようにお願いをしていた。
    「学校の映画製作の一環で少し場所を借りているので、危ないですからあまり近寄られませんように」
     ロープとボードを張っているのを不審に思った新たな観光客に声を掛けられれば、優陽が丁寧にそう応えた。数々の撮影現場に使われたことがある場所だからして、そう言われれば「映画製作頑張ってね」と理解して応援してくれる人が多かった。
    「こんなに……理解のある人達ばかり、なのに……浅野くんも、思い直してくれるといいですね」
     由希子の言うとおり、今は極端な思考に走ってしまっている天春だけれど、島を思う心は他の人と同じかそれ以上のはずだ。その気持が正しい方向へと向かえばいい、そう思う。
    「着いたわね」
     そっと、くるみがトンネルへと足を踏み入れると、冬の寒さが更に増したようなひんやり感が肌を包む。次々と足を踏み入れる灼滅者達を迎えるのは、昼でも薄暗い視界。しかし僅かな光で見えるそのレンガは、積み方からして美しい。
     日本ではイギリス積は沢山作られており、今でも多く残っているが、フランス積は作られた時期が早かったことから殆どが壊されてしまい、日本でも一桁しか確認されていないという。建築史上とても貴重な建築物でもあるトンネルを壊したり汚す者は許せない、そんな天春の気持ちも分かる気がした。
    「これだけ立派なモノを独り占めは良くねぇな。目的の為なら手段を選ばないって正しく悪の怪人って気がしねぇーか?」
     レンガを見上げながら淼。ある意味天春の行動は淼の言う悪の怪人である。
    「おー。レキシを感じる手触りだぜ!」
    「このレンガ、なかなか趣があっていいと思うよ!」
     ペタペタペタ。ペタペタペタ。掌でレンガを触るのはアキラと花火だ。勿論、天春をおびき寄せるためにわざとペタペタ触っているのである。
    「なーなー、コレで名前刻んで行こうぜ!」
     アキラが拾い上げたのは落ちていた小石。それでレンガを傷つけるふりをするのだ。そう、あくまでもマナーの悪い観光客のふり。
     石を握ったアキラの手が、レンガへ近づいたその時。
    「ちょっとまったぁぁぁぁぁぁ!」
     どこからか発せられた大声がトンネルの中へと吸収されて響き渡る。中にいた灼滅者達は思わず耳を塞いだ。
     シュタッ!
     華麗にトンネル前に着地したのは、手作りのマントを海風になびかせる少年。動きやすさを重視しているのか、有名スポーツメーカーのジャージの上下を身に着けている。愛はあっても寒さには勝てないようだ。
    「フランス積のレンガを、猿島を汚す奴は、このサルシマーが許さん!!」
     シュピーン! という効果音が入りそうな決めポーズ。普通ならいぶかしがりそうなものだが、灼滅者達は顔を見合わせて無言で「かかったな」と頷き合った。
    「出たなサルショッカ……サルシマー!」
     低い渋目の声で告げるジンザはまるで特撮もののワンシーンを演じているようだ。
    「少し俺達の話を聞いてけよ」
    「悪人の話なんか聞けるか!」
     淼の呼びかけを頭っから拒否する天春。完全に灼滅者達を悪人だと決めつけてしまったようだ。こんな調子で真実を確かめもせずに観光客を襲っていたのだろう。
    「えっと、一ついいかな? 貴方が悪だと思う基準ってなにかしら? 中にはマナーの悪い方もいるし、ふざけ半分で悪い事をするような方をきちんと叱れる貴方はとても凄いと思うわ」
    「でもおめーが殴りつけた中に、ゴミ拾いのボランティアさんとか、調査に来たセンセーとか、いなかったって言えるのか?」
     優陽の言葉に続けてアキラが訴える。
    「オレだって、こんなクールな島を荒らす奴らは許せねぇ。だけど、問答無用で殴りかかるなんて、話が通じないってところ、そんな許せない奴らと同じじゃないか!」
     ご当地を愛するヒーローとして、伝えておきたい思いはたくさんある。間違っている愛を押し付けられたままじゃ、ご当地がかわいそうだ。
    「天春、ここが好きなのは分かるけど、こんなことしてたら誰も来なくなるよ。そして、この島殆ど気にされなくなって忘れ去られるとか、寂しすぎるよ」
    「キミがこの猿島を愛しているのはわたし達にも伝わってくるよ……。でも、キミのやり方は間違ってるよ! このままだと猿島をキライになる人が増えて、観光客が減っちゃうよ!」
    「観光客が来なくなったら、船も運航しなくなっちゃうわ」
     海と花火、くるみの悲しげな訴えに、う、と言葉に詰まる天春。猿島が忘れ去られ、船も運行しなくなってしまったら、誰よりも悲しむのは天春自身だろう。
    「大好きな物を守りたい気持ちは、とても素敵だと思います。でも、浅野くんの今の方法だと、せっかく素敵な気持ちを、みんなが怖がってしまうと思います」
     ちょっと方法を変えるだけで素敵な結果に変わりますよ、由希子の言葉にぎゅっと拳を握りしめた天春。
    「少しだけ思い返してみて欲しいの。猿島を大切に想うあまり観光に来た方々の行為に対して少しだけ過敏になっていなかった? 自分の過失に気づいて償おうとする人やこの島のいい所にみとれていただけの人達もいなかった?」
    「う、うるさいっ! 俺は、猿島を……猿島を……」
     天春が頭を抱えるようにしてふらつく。そして顔を上げた彼の表情は、先程までとは打って変わって殺気に満ちた醜悪なものに成り果てていた。

    ●愛するゆえに
    「サルシマーパン……」
    「quiet、ここで戦えばトンネル汚れますけど。それは貴方の望む事で?」
    「くっ……出て来い!」
     ジンザの言葉で繰り出そうとした拳を止める天春。さすがにトンネルが傷つくとわかっては、攻撃をためらってしまうのがご当地愛なのだろう。トンネルから灼滅者達が出るのを見て、再び構えをとる。
    「今度こそ、サルシマーキック!!」
     ガッ……そのキックを受けたのはくるみだ。しかし。
    「建物に当たったらどうするんですか! お願い、守りたいなら傷付けるような事をしないで」
     怒りの剣幕にまたもやぐっと言葉を詰まらせる天春。
    「野々上、いくぞ! いいか、これがヒーローって奴だ!」
     淼がオーラを雷に変換した拳を振り上げる。合わせるようにアキラがサイキックソードを振るう。
    「船長さんとか、バーベキュー場の人とかも。みんな猿島が好きなんだ。おめーにはたくさん仲間がいるじゃないか。一人で頑張りすぎなくていいんだよ!」
    「マナーが悪い方を注意するのも大事だけど、猿島の魅力を伝えて、汚す気を起こさせないようにした方が素敵よ」
     炎を宿した武器を振るいつつアドバイスをするくるみ。何とか愛の向かう方向性を直して貰いたい。ジンザは先ほど拾ってきたゴミの入った袋を天春に見せる。
    「島を守ろうとするのは貴方ひとりではないのですよ」
    「なにぃっ!?」
    「でも、デートに行くなら八景島の方が良くないです? ねぇ向坂さん?」
    「え、そう、ですねぇ……乱暴な人が、いないほうが……」
     話を振られたユリアは打ち合わせ通りに天春のご当地愛を挑発するようなセリフを吐く。ジンザは満足そうに魔法の矢を作り出し、射る。
    「ほら! 聞きましたか少年? ちゃんとメモ取らないと!」
     ジンザの言葉に慌てた様子を見せるのは、やはり青少年として、開発された島への対抗意識も手伝って気になるのか。
    「天春さんは、本当はこんなことするの望んでなんていないよ。天春さんの希望の為、サルシマー、その願いを絶望で終わらせる!」
     ビシイッ! 天春の中のダークネスに対してかっこ良く決めたのは海。
    「皇国の興廃この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ」
     続けてビシっと決めた海は、中衛を包む霧を呼び出す。
    「罪を憎んで人を憎まずというわ。猿島を守ろうとする貴方の心はとても尊いと思う。でもこの島を訪れた方には猿島のいい所を沢山知って帰って欲しいとも思うの」
     優陽は続けて優しく語りながらもしっかりと符を飛ばして。
    「これがわたしのご当地魂だよ!」
     花火はもみじ饅頭ガールとしてのご当地愛を込めた必殺ビームを放った。あふれるご当地愛に、天春がぐわぁっとよろめく。
    「目を覚ましてください……!」
     由希子が放った影が天春を包み込む。ユリアが天使の歌声でくるみの傷を癒し、ユリアを守るように参戦していた夜桜とウルルが力を振るう。
    「俺は……俺はっ……! くっ、サルシマーダイナミック!」
     天春は海の身体を持ち上げて地面へと叩きつける。そしてご当地パワーを爆発させた。だが説得が効いているのかそれほど威力は高く感じられなかった。
    「いいかげんにしろっ!」
     淼がすかさず威力を手加減してゲンコツを振り下ろした。
    「がふっ……」
     ふらり、よろめいて。天春はそのまま2.3歩よろけてぱたりと倒れた。

    ●横須賀よいとこ
    「目が覚めたみたいね。めでたしめでたし」
     気絶から天春が目覚めたことを確認して、くるみはカードに力を封印し直す。天春は顔色もよく、すっきりしたようだが不思議そうに目をぱちぱちさせていた。
    「おめー、強いな。その力、みんなのために使わないか?」
    「皆のために?」
     アキラの答えに淼が学園の説明を付け足す。すると天春の瞳が段々と輝いていく。
    「それってマジでヒーロー!?」
    「だからといって調子に乗り過ぎらダメよ。本当に悪い事をした人は叱り反省されるなら笑って許す、私は貴方にこの島のように愛される心の広い英雄になってもらいたいかな」
     年上のお姉さん、優陽に諭され、彼は顔を赤らめて「お、おう」と俯く。
    「今が新ヒーロー……えーと、サルシマックス誕生の瞬間なのです」
     彼が今後なんと名乗るかは分からないが、ここで名前がないと締まらない。ジンザはとりあえず命名してみた。由希子は無事に解決してよかったと胸を撫で下ろしながら、周囲を見回す。
    「……森も海も、トンネルもすごく綺麗、です。こんど、夏に遊びに来てみようかな……
    「それなら今から軍艦見に行こう~」
    「海軍カレーも食べたいですね。天野さんも一緒に」
     海とジンザが誘いの声を投げる。花火もユリアに近づいて。
    「ユリア先輩も海軍カレー食べにいきませんか?」
    「ふふ……いいですね」
    「猿島わかめを使ったうどんも食べてほしいな!」
     微笑んだユリアに、案内にと同行したお隣の市のご当地ヒーロー真琴が笑顔で告げる。すると勿論天春が反応してみせた。
    「猿島わかめはうまいんだぜ! スナック菓子にもなってるんだ」
    「それはうまそうだな。案内をたの……ん?」
     その時淼の視界に入ってきたのはセーラー服。といっても着ているのは人間の女子ではない。かもめのマスコットの着ぐるみだ。そういえば、行きの船から一緒だったような……。
    「横須賀の海軍カレーでスカレー」
    「あ、ありがとうございます」
     その着ぐるみはユリアにレトルトカレーを差し出すと「灼滅者ご一行様」と書かれたプラカードを手に、桟橋へと向かおうとする。どうやら案内してくれるようだ。中に入っているのは地元のご当地ヒーロー霧緒である。地元には詳しいだろう。
    「お腹すいちゃいました。行きましょう?」
     花火がたたたっと着ぐるみの後をついていく。
    「お腹いっぱいになったら、軍艦見に行こう~。横須賀に来たなら見ないと損だよ~」
     一緒に行く人がいれば、海は艦の名前や色々と説明してあげる気満々だ。
    「浅野さんも、早く。一緒に行きましょう?」
     くるみが天春の袖を引く。驚いたような恥ずかしいような微妙な顔をして、少年は桟橋へと向かう。その様子を年長者達は微笑ましく見守りながら後をついていくのだった。

     冬を超えれば船便も増え、観光客も増える。
     だがもう、サルシマーは間違った力の使い方をしないだろう。
     島は綺麗で気持ちよく、訪れる客達を出迎える――。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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