或る冬の日、吐き出した息は白く濁って消えていく。
色褪せた鈍色の和紙に青を透かしたような空を仰ぎ、櫻・一徹(高校生ダンピール・dn0025)は消えゆく白息を眼で追っていた。
彼の足元に霊犬のいと。いとは主の目線を追って空を仰ぐも、直ぐにまた彼の足元に寄り添い歩き出す。
霜花を知っているかと、一徹は問いた。
それは凛と冴ゆる冬の日に、窓や樹々、或いは水面に霜が降り、花のように見取れることを言う。
樹枝に宿るものは樹氷と呼ぶ方が解りよいだろうか。水辺を揺蕩うものは、場所によっては氷花とも呼ぶかもしれない。
樹の細枝や足元の草、落ち葉にすら宿る霜は鮮やかで、一面の雪景色のようにも見えるのだと一徹は言葉を添えた。
「別に、何がしたいってわけでもねえんだけどさ」
霜華咲く水辺へ行ってみないかと、それが彼の用件だった。
お伴はダウンジャケットとマフラー、耳当てに手袋、暖かい飲み物。連れと寄り添い、冷えた掌を摺り合わせながら、朝陽に照らされる水辺の花を見るのだ。
ふらりと訪れるには少々遠く、寒さも随分と厳しいに違いない。それでも咲き誇る花々はきっと綺麗だと思うから。
「まあ、考えといてよ」
そう言って、一徹は薄く笑みを零した。
淡い紫がかった青を薄花桜と呼ぶという。
それを花と称えるのなら、白む藍空も透の片も、冴ゆるを彩る全てが花だ。
真名は愛に、笑み諾えば物事は円滑に進むのだと言った。唯の霜が花を形取るだけで綺麗と謂わしめる様に。
然れども、後に残るものも綺麗だといい、そう思う。
恐怖すら覚える真白を揺蕩い、視界から消えぬ黒を認め、眼目は双眸を緩めた。閏が言う樹々や花の唄は聴こえずともそれは美しく、閏の声音は心地良い。
一方の閏はくるりとしながら眼目を視た。
「眼目様、眼目様」
あのお花、とってもきれい、ね。
花の儚くも強かに綻ぶ様が好きだと、そう告げた謡の足許、さくりと霜の花が啼く。傍ら、樹氷を観察していた歌菜は、花は興味の対象だと告げた。
「謡のことも、とても好きだわ。謎が多いんだもの」
「謎、か」
謡にとっては有りの侭で在る、唯それだけだ。
イコは掌を握り返しながら、この冬が温かいのはきっとゆずるちゃんのお陰ね、と微笑んだ。
遠く離れた場所に在りながら同じ様に冬を好み、今は一緒に揺蕩う花々を指差すふたり。揃いの笑みを綻ばせれば、ゆずるの脳裏を過り巡る、大切な冬の記憶がもうひとつ。
「きれいだねぇ、ちいさいおとーさん」
裾銜える霊犬に笑み、さちこは眼を輝かせた。
然し不意に過る落莫。
ぱきりと、足許で花が砕ける音がした。
生前の名残を喪った掌と手招く揺籃を見遣り、烏芥は苦笑した。
己のみの足跡を標し、彼は問う。何が美しく、楽しいか、教えてくれないかと。
菫が思い返すのは、誰かの笑顔、確かに大切であった人の顔。
けれど、何も思い出せない。
菫は軈て振り切る様に皆の方へ眼を向けた。
遠い故郷に想いを馳せる鵺白の向こう、已鶴が想うのは恋焦がれて咲かせた真白の花だ。或る刻、届かないままに消え失せた花。
頬を伝う一筋を喰われぬよう背けた彼に踵を返し、鵺白はぽつりと言葉を落とす。
儚い君も嫌いよ。
彼を追いかける自分も、嫌い。
「──ごめん、付き合わせてしまって」
それは在処が、闘いのない静夜も悪くないと、珈琲を手に息を零した時だった。想像通りの哀歌の台詞に、そういう約束だろうと彼は言う。
謝罪を許す事も、赦す事もない。そういうものだ。此れは陽が射せば溶けゆく氷花の様な、家族ごっこ。
もう、戻れないのだ。
アギは自身の容貌を視て呟くも、軈て覚悟と共に立ち上がった。
自分が戦えば誰かが救われる。それは唯一の救いであり、癒しだ。
互いに緊張と照れを抱え、寄り添い座る白夜と空(d11206)。ふたりは綺麗だと笑み合い、ポケットに忍び込む空の掌に白夜が叫声を響かせ、また笑う。
空は今宵の感謝を込め、白夜の頬に唇を寄せた。
白夜も笑み返しながら空に告ぐ。──こちらこそ、ありがとうございます。大好きです、と。
「今日は写真を撮るのかい?」
それとも、と問うた皓は、途端悪戯めいた瞳と不意の音に瞬いた。
名の通り樹枝を彩る真白にも似た彼女が微笑むから、九の口許も笑み綻ぶ。
清冽な空気も花の煌めきも、忘れない、と約束をひとつ。夫々の胸に密かな願いと仄かな熱を抱きながら。
「なんか……誰かの曲の歌詞みたいで照れるね」
緊張が滲む真一の傍ら、波琉那は呟きを零した。
闇に囚われれば此の記憶も消えるだろうかと、寂しさを抱く彼女の掌を、真一の掌とポケットの温もりが包み込む。
深玖が頬に掌を添えれば、桜子(d00952)は頬の紅を一層深めて俯いた。桜花は冬に弱そうだからと囁く彼の掌を、小さな指先が確りと握る。
この花が離れてしまったら、そう思えば寂しさが過る深玖の傍ら、桜子が紡ぐのは密やかな願い。
ずっとこうして、隣にいられたら良いな、と。
「俺、ニーナが好きだよ」
由燠の眼がスヴェンニーナへ向けられた。只の友達でしかないと知りながら、募り続けた由燠の想い。それを聴いた、彼女の眼が瞠目する。
「ただのじゃなく、由燠は大切なともだち」
けれど、これでは違うのだ。
スヴェンニーナが返すのは、指先へ尊敬と感謝のキス。由燠は彼女の掌を握り、安堵が滲む笑みを零した。
ありがとう。
好きになって、良かった。
黒一色の姿で独り物思いに耽る黒。無数の空缶に成り代わった、伴の珈琲には溜め息をひとつ。そして彼は欠伸混じりに歩き出す。
ひふみにとって冬暁は自分を冷暗に浸す大切な時だ。静閑な水面を記憶に刻み、無音の会釈。それから彼女は、帰ったら二度寝ですよ、とよいつに囁いた。
濁る息さえ疎ましい程の氷の彩を、燐音の指先が綴る、綴る。
此の模様は何時かの創作に活かすのだ。唯消え往くには、勿体ない姿だから。
華凜の細指が触れれば、直ぐ様に溶ける霜の花。雫痕を残すだけの花は儚く、何処か切なく、けれど此れ程凛と咲けるなら、ほんの少し憧れる。
好きなんですよねぇ、こういうの、と円蔵の呟きが零れ落ちた。瞬く星、移ろい始める空の色。彼の口許が懐かしさの有る歌を密やかに紡ぐ。
由乃(d09414)の指が耳に煌めく淡碧に触れた。兄を喪ったのは誕生日直前の事。酷い兄だと、然し柔らかな表情で、由乃は彼の記憶を巡らせる。
じんちゃん、と刃兵衛を呼ぶ葵の声。
ふたりの繋がりは葵の母の頼み事から始まった。当時何より武術に懸命だったと称される刃兵衛には、それは不本意で、彼方此方へ連れ出す葵が有難迷惑に思えた時もあったけれど。
此れからも共に在る事は変わらない。一緒ならきっと心強く在れるから。
寒冷な世界は辛いばかりと思ってたと、さくらえが呟き落とせば勇弥の口許が綻ぶ。確かに此の世は素敵なもので溢れている、如何様な時であろうとも。
捨てたものではないと思えた白彩に、一層の幸を添えるのはカイザーメランジェ。年始めの挨拶と共に、ふたりのカップが重なった。
一瞬でも誰かが心底焦がれてくれる、花の様で在れたら、と。
颯音は言い、然し直ぐに明快な笑みを零す。ぷちお茶会を薦める彼の頭に、一徹の掌が幽かに触れた。
目付き悪、の一言から八重華達の話は始まった。花綻ぶのも冬だけと思えば寒さも幾分心地良い──が、矢張り寒い。彼の掌が一度は断った茶に伸びる。
デエトの前に、まず家族から。ともすれば不思議な順序を目指す縁絲の傍ら、由乃(d12219)は全力の草ウォッチング。
草への愛が迸り止まらぬ由乃が縁絲に命じたのは家族的踏み台だ。あっ、ダメ、此脚に凄く来る、とふらつく度に叱咤を受けつつ縁絲は思う。然して肩車は、凄く家族っぽい。
足裏でさくりと、心地良い音を響かせる花。その音を愉しむイヅルへ、程々にと、彼に付き添う臣は笑った。
「ちゃんと見てますか有馬先輩」
「ええ、ちゃんと見ていますよ」
綺麗だと、ふたりから言葉が零れ、白息が溢れる。同時に記念を切り残す、シャッターの音が耳に響いた。
陽射しを浴びた霜の樹々は、温度差で軋む音を響かせるという。氷花の変化が楽しみだと笑う灯倭の傍ら、空(d05690)はなるほどと首肯する。
綺麗な花々を作る寒さには感謝を、とは気取り過ぎかと照れ笑いを零した彼の姿に、灯倭の口許が緩んだ。
何より、ふたり一緒なら、寒くても心は温かい。
幼馴染みでも今では随分と疎遠。だから偶には付き合うのだと、藺生は彼の背に思う。
一方の壱里は彼女のカメラに不満げだ。すぐ消えてしまうけれど、だからこそ儚く──と説明するも、はてなが浮かぶ藺生に彼は結局唯嘆息した。
手許には暖かなミルクティー、緩やかな静寂がふたりを包む。
本当に花みてえだなと、皐臣は告げた。雪は好きだ。それに似た此の景色も悪くない。
物語を辿るよう、凛と綴るきすいに感嘆する皐臣。その彼を見詰め、きすいは平生より静かな微笑を紡ぐ。
けれど、暖かなスープを手にすれば彼女は平生通り。傍ら、皐臣は静かに口端を緩めた。
霖は見透かしたような暁(d03770)の表情が気に喰わなくて、顔を背けたその眼に絢爛な白花達が映り込む。きれい、と魅入る霖の耳許に暁の口許が寄せられて、
「誕生日、おめでと」
此の景色が贈り物だと微笑む暁に、霖の瞼が開かれた。
有難うすら侭ならない。奥底から込み上げる想いの名は、未だ。
しずかにしずかに。千佳の人差し指が唇に触れれば、光流の眼は瞬き、笑みの形に綻んだ。
鳥の啼き声、氷花の唄。漸くして朝告げの囀りが響くと、ふたりは重ねた掌を一層に握る。
「おはよう、チカさん」
「みつるさん、おはようございます!」
くすり、仄かな笑み声も、一緒に。
いつもありがとね、と笑った茉莉の足許で漸くの後、タローの尻尾がふさり。
途端茉莉は嬉しさ溢れ、その首許に顔を埋める。──大好き!
「冬の空って結構好きなの! 全部が空色のお水の中にあるみたいな、気持ち」
「桜子ちゃん、それ素敵」
ぴー助にぎゅっと寄り添いながら、桜子(d01901)と愛は揃って笑み綻んだ。
同じやな、と采が言う。氷花彩る此処の様に、人が一切関わらない世界が好きだと続け、采は一徹と次の約束をひとつ。
彼の霊犬はてとてと、いと達に近付き尻尾を揺らす。丸い眼を見開き、すんすんと鼻を寄せるのは庵胡。瞳は鼻唄を止め、同士の子達が気になる様子の庵胡に笑った。此れも屹度、花が繋いでくれた縁。
「可愛いですね」
呉羽は戯れる霊犬達を見詰め、羨ましげな双眸を緩める。一徹の傍らに座った彼女は唯、静かに花を見返した。
確かに可愛い、可愛いと霊犬談義を交わす悠花と一徹。ふと彼らの前を過ったのは咲哉だった。
霊犬達に鯛焼きを差し出す彼。愛情が頬に滲んでいる彼。犬、好きらしい。
「たい焼き? コセイ食べ……てるし」
「……あ」
気付いた時には既に遅し。誤魔化す彼の傍ら、鯛焼きもぐもぐコセイの眼が悠花に向く。──わふっ。
同じく霊犬達に眼を奪われ、ちょいデレの供助に苦笑しながら、依子はいい朝ですねと皆に笑む。
冬暁の冴えた空気は好きだった。
透の花々を見詰め、満足げな白息を零す依子の傍ら、供助はまぁ悪くねぇと双眸を細め、口許を緩める。依子もまた、表情を緩めた。付き合ってくれてありがとう、と礼を添えて。
「ごめんね、初対面の人は苦手なんだ」
「いとと真逆だな」
紗の背へ隠れるヴァニラに傾げるいと。ともあれアップルティーをお伴に、紗と一徹達は初顔合わせに一息を。
「……きれいだなあ、みんなにも見せてあげたいなあ……」
「ねー」
此方も紅茶や蜂蜜檸檬を掌に、ふわりと笑み合う由希子と愛。傍らの緋織もいとを撫でながら、冬景色に眼を向けた。
「……世界って、本当に色んな景色があるのね」
そう思える程、陽に煌めく世界は美しい。
──人々の 絆温め 花冴ゆる。
皆の姿を眺めていた流希は、軈て良い句が出来たと沁み沁み呟きながら帰路に着く。その足許で、小さく奏でる花の音。
霜花の音を愉しみ、撮影に四苦八苦していた軍と涼花は、ふと溢れ始めた陽射しに気付いて顔を上げた。
「すず。日が出てきた」
「うん……すごく綺麗……」
幸せ一杯の笑みを綻ばせる涼花。傍ら、軍は一層掌を握る。今日隣に在る温もりを明日も離さぬよう、誓いながら。
白藍の空に温もり溢れる陽色が射していく。登はその、色彩溢れる世界を見詰め、暫し言葉を失った。
未だ知らないものは沢山有る。 もっと色々な事を知れたら大人になれるのかもしれない──そう思い、登は独り諾った。
「はー、聞くのと見るのじゃ大違いだよねえ……」
伊介のお伴は折り畳み椅子と暖かなココア。彼の指先が、思わず感嘆を零す程の世界を、手許のカメラに映し出す。
転寝は煌めく冬暁をお伽話の世界に喩え、お姫様は此処にいたと微笑んだ。それなら転寝さんは王子様ですかと、利亜は愉しげに笑ってみせる。
「利亜くん、大好き」
「ありがとう転寝さん、大好きです」
表情を綻ばせる彼と肯いを交わして、利亜は目一杯の幸せと感謝を胸に宿した。
花々に感嘆を零す雷の首許には、それと同じ名を持つ硝子細工のネックレス。似合うか問えば、似合うに決まってんだろ、と哲から言葉が返ってくる。
似合う様に選んだのだ、当たり前だと返す哲。雷は思わず頬を染め、彼の身体に寄り掛かった。
きっと、一際に花が美しく見えるのは、傍らに居る彼のお陰だ。
朱梨は、好きなもので溢れた此処を訪れるなら、椿と一緒が良いと思っていた。彼は、一番大好きな人だから。
けれど想いは口に出来ず、代わりに朱梨は忘却を問う。
椿は無理に思い出す事はないんじゃないかと答えを返した。忘却には恐らく相応の理由が在る。何方が正しいかは知る由もない。
陽に透く芙蓉はまるで一枚絵。全て一緒に溶けてしまえれば良いのにと、独白を零す姿を認め、暁(d11253)は双眸を緩めた。
全ては心の有り様とも解っていると微笑む彼女は、何処か消えてしまいそうな程。
ふたり、湯気に口許を添える。重ならなかった掌にジンジャーティの温もりが伝った。
凍つ風が肌を刺す夜さに、式が決まって思い出すのはあの日のことだ。必ず見つけだすと、握り締めた髪飾りの鈴音が響く。
「今度は、三人で見に来ようね」
心配そうな声に応え、式は表情を綻ばせた。
風邪を引いては大変だと、装いを確かめる藤乃を見詰め、お姉ちゃんみたいと希沙が笑う。
希沙にとって、脆く儚い花の世界は少し恐くもあるけれど、傍らに藤乃が居るなら綺麗だと、胸を張ってそう言えた。
明けない夜はないのだ。
掌を確りと握り合いながら、ふたりは笑みを綻ばせた。
身を震えわせた千鳥に、仁奈が悪戯っこの笑みで差し出すのはブランケット。生意気な、と平生通りに返しながら、千鳥は仁奈を後ろからぎゅっと包み込む。
宝石の様に煌めく花と身体を伝う穏やかな熱。
然し眠気に襲われ、ふるりと首を振る仁奈の姿に、帰りは荷物が増えそうだと、千鳥から白息が零れた。
夜気の名残が残る朝も、一緒ならば愉しさの方が溢れ出す。
硝子細工の様な花々を、壊さぬようにと声を潜める利津と永久。小鞠も心得たを言わんばかりに背筋を伸ばすから、ふたり、小さな笑みが零れ落ちた。
手袋を纏っても冷える指先に抱えるのは、暖かな想い出と感謝の気持ち。
「──何で世界はこんなに素敵に出来ているのか。私が、魔法使いとして一番知りたい知識はそれなんです」
七彩に煌めく世界を見詰め、ふと呟いたのは恵理だった。
「わたしもいっしょにがんばりたいなー!」
暖かなミルクティーを口に含み、幸せ気分一杯の志歩乃は、軈て恵理の言葉に、うんと元気良く首肯った。
彼女に続き、美波もまた首肯う。
寒いのに、何処か暖かい。自分が救われたのは多分こういう気持ちのお陰だと、美波はそう思うのだ。
恵理の鞄に仕舞われた小さな水晶の瓶の中、透の水にゆるりと揺蕩う霜の花。花は三人娘を見守る様に、優しい陽色を煌めかせた。
作者:小藤みわ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年1月31日
難度:簡単
参加:87人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 23/キャラが大事にされていた 6
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