鶴見岳の激突～力の天秤

■リプレイ

●敵の後背へと
　鶴見岳に攻め寄せるソロモンの悪魔の軍勢を後背から攻撃することに決め、鶴見岳に入ったのは、夕方には届かない時間。
「長い戦いになるのかしらねぇ……」
　陽は長くなってきたとは言え、出来れば闇に閉ざされない前に終えられればと野和泉・不律（サイコスピーカー・d12235）は小さく溜め息をつきながら思う。
　一度、戦場となってイフリート達に接触しているが、ここは自分達の知り尽くした場所とは言えないだろう。
　移動がし易くなればと不律が隠された森の小路を使い、葉の鳴る音を軽減する。
　登山道ではなく、山道のほうを使っていた。
　この辺りに詳しい高嶺・由布（小学生神薙使い・d04486）が、提案したのだ。
　後を、仲間が続く。
　とこどころ雪があるが、思っていたよりは少ない。
　イフリート達が活動しているからだろう。
　雪化粧された鶴見岳の景色も見所のひとつであるから、風物詩を見られないのは、少し残念だった。
「そろそろ、慎重に進めた方が良いかな」
　現在位置を把握しているのは、シャルトリア・アルフィエル（生命の歌を奏でし白椿姫・d10307）。
　緩やかに波打つ柔らかな蜂蜜色の長い髪をそっと背へと流し、スーパーＧＰＳで、威鷹・玖狼（鬼哭魔刃・d02396）の持つ地図に現在地点を表示して、自分達の居場所を時折確かめる。
　書き込まれているものは、先の報告にて知り得た地点の情報など。
　ソロモンの軍勢が侵攻する大まかのルートに目星をつけてあった。
「この状態で見つかるのは不味いから、少し迂回するか」
　髪色の違う一房が漆黒の髪の中、揺れる。
「この辺りなら、いけそうだね」
　シャルトリアが、指で示す。
「じゃぁ、方向の指示お願いねぇ」
　先頭の不律が立ち止まる。
　移動は困難ではないので、第六感的なものを感じて、多少移動ルートを変更し、再び歩き出す。
　空飛ぶ箒に乗った瓜生・コウ（森の魔女・d05210）が降り立つ。
「このまま進むので大丈夫そうだ」
　完全に闇に落ちていないのもあり、早めに仲間と合流したほうがいいと判断したらしい。
「イフリートの姿は目立ちそうだよね。燃えているし」
　アナスタシア・ケレンスキー（チェレステの瞳・d00044）は、軽い足取りで歩きながら、山頂の方へと視線を向ける。
「一般人を強化してデモノイドっていう戦力にして戦う、人でなしのソロモンの悪魔が巨大な力を手に入れたら、どんな悪事をするか分からないよね」
　悠が頷く。
　どちらかと言えば、力押しっぽいイフリートに、頭を使うタイプっぽいソロモンの悪魔。
（「そんな企みは天が許しても、アナたち灼滅者が許さないぞ！　今はまだ一人一人じゃ小さな力だけど、これだけ多くのみんなと戦うなら、ゼッタイ大丈夫だよね！」）
　一緒に行動している仲間達以外にも、離れた場所で同じように作戦に参加している仲間がいる。
　そう思うと、とても力強く思えた。
「戦場で出会うことってあるかも知れないね」
　月見里・都々（どんどん・d01729）は、周囲に視線を走らせる。
　山頂へと歩を進めながら、ふと由布は振り返る。
　広がる別府の風景を目にして、由布は決意を固くした。
（「イフリートだろうとソロモンの悪魔だろうと、鶴見山を蹂躙させるわけには行かない。別府は僕の大切な故郷。そして鶴見の山は僕にとって……」）
　大切な場所を護る、と。
（「イフリートの戦いでは後れをとったからな……。今度こそは……って思ったら、ソロモンの悪魔か。ダークネス組織の力を削ぐ絶好のチャンスではあるな」）
　穂邑・悠（火武人・d00038）は、先日のことを思い出し、胸の内で熱い思いを滾らせる。
（「この機会、活かさなきゃな」）
　勿論、その通りになるよう、力を尽くすつもりだった。

●奇襲作戦
　シャルトリアは時折振り返り、逆の状況にならないよう用心する。
　自分達が背後を取られないよう。
　だんだんと陽が陰って来た頃、肌がざわりと撫でた。
　見つからないように木陰に潜んでいる中、煌々と燃えるイフリートへとソロモンの悪魔の軍勢が攻撃を仕掛け始めた。
　距離はかなり離れている。
（「これ以上、人々を悪魔達の兵器にはさせない」）
　悲しげにシャルトリアが強化一般人を見る。
　此方へとやってくる様子はないが、それはきっと奥へと攻めている仲間が対処してくれると信じて、自分達の目の前に出来事を処理しようと意識を向けた。
　戦端が開かれたが、両者がぶつかっていくらか消耗するまで、このまま戦局を見守る。
　先日戦ったばかりのイフリートには強化一般人と灼滅者の区別などつかないだろうから。
　とはいえ、戦場と出来る場所にいる敵は、汚れた服を身につけた強化一般人ばかりのようだ。
　戦端が開かれても、この辺りにいる強化一般人は、警戒はあまりしていないよう。
　逃げてきたソロモンの悪魔の軍勢を仕留める予定だったが、この場に留まって無傷の強化一般人をそのまま放置するわけにはいかないだろうと判断する。
　数にして１０体ほどの強化一般人のいる方を対処しようと、各人が目線で合図をした。
　仕掛けようと。
　一斉に飛び出し、戦闘での立ち位置を確保する。
　ダメージ重視の前衛は、悠とアナスタシア、玖狼と由布。
　回復手を守れるよう、堅い守りを担当するのは都々とコウのサーヴァントであるライドキャリバー。
　ダメージと回復の両方を兼ねる中衛の位置には、コウ。
　回復を担当し、後衛にいるのはシャルトリアと不律。
　思っていたよりは数が多いが、ひとかたまりで行動する単位がこの数なのかも知れない。
　戦力を分散させる方法ではなく、ダメージを集中させて、数を減らしていく方法を取る。
　パワータイプが４人いるのだから、大丈夫だと踏んでいた。
「来やがれ、俺の炎！」
　悠がスレイヤーカードを顔前に翳し、力強い声音と共に燃え盛る炎のような無敵斬艦刀を引き抜いた。
　アナスタシアは、愛用のロケットハンマー、ベールクトを握りしめる。
「ベールクト行くよ！」
　由布は、嫋やかな面に真剣な光を宿し、
「僕の名にかけて、この地を護る」
　静かな決意を口にする。
　玖狼はチョーカーと首の間に指を挟んで取り去ると、刻まれた傷が露わになった。
「では、正々堂々、卑怯な戦いをしようじゃないか」
　不敵さを感じさせる笑みを刻み、鋭い眼光を敵へと向けた。
「がんがん戦力を削っていこう！」
　都々が元気な声で皆を元気づける。
「さぁ、生命の歌を奏でましょうか？」
　シャルトリアが、澄んだ声音で語りかける。
　強化一般人の装備している武器は、皆同じようだ。
　バトルオーラだと判断すると、後方へと攻撃を食らわないよう、注意を払わなければと思う。
　コウは、空飛ぶ箒で上方からの攻撃を考えるが、今はこのままでいこうと考える。
「我が征く道を照らせ」
　不律は凛とした眼差しを向け、封印解除した。

「いっけぇー！」
　悠の声と共に、重量のある無敵斬艦刀を振り抜き、叩きつける。
　圧縮した風圧が生まれた。
　混乱した強化一般人達は、背後を強襲され、直ぐに対処出来ずに連携というにはつたない動きをさせながらも、一撃では流石に倒れない。
「逃がさないからね！」
　アナスタシアは、強化一般人の見えない角度から攻撃を仕掛け、足取りを鈍らせる。
　由布は、自身にカミの力を降ろし、激しく渦巻く風の力を刃とし、切り裂く。
「僕に宿る力よ……！」
　纏う雰囲気が、静から動へと変化する。
　１体が崩れ落ちると、次へと攻撃を集中させていく。
「趣味じゃないが、ばら撒くのは楽しいから良しとするか」
　普段は装備しないガトリングガンを手に、玖狼がやや扱い慣れない様子で連射し、敵を蜂の巣にする。
「眠ってくれるといいけれど」
　都々は、透明感のある歌声で強化一般人を眠りへと誘う。
「私の影、牙を向きなさい」
　シャルトリアが、自らの影の先端を鋭い刃へと変化させ、敵を斬り裂く。
　コウは、僅かに目を閉じ、集中する。
　予言者の瞳を使い、戦闘中の短期的な行動予測力を向上させたのだ。
　ライドキャリバーは、突撃を食らわせて、ダメージの総量を上げる力添えをする。
「私のメロディを聴きなさい」
　不律が、バイオレンスギターを掻き鳴らし、その音色で攻撃をする。
　２体目がどさりと頽れて動かなくなった。
　順調にいけば、苦戦することなく、役割を果たせそうだ。
　自分達と同じ数にしたことで、数の優劣は無くなった。
　あとは、どれだけ相手を圧倒して、短時間で数を減らすことができるかだろう。
　強化一般人が、オーラを拳に込めて、連打で繰り出してくる。
　前衛にいる悠とアナスタシア、玖狼と由布には各１体が。
　２体の攻撃を受けることになったのは、都々とライドキャリバー。
　守りの堅い２人は、大きなダメージは負うことはなかったが、悠達は同じように２度、３度と受ければ、流石に回復が必要になるだろう。
　だが、まだ攻撃に比率を傾けて居た方が良い時だと、そのまま攻撃を継続し、傷を癒すのは回復手として担当してくれているシャルトリアと不律に任せた方が良い。
「……あー、いてぇ。やってくれたなぁ？　そっちがバトルオーラで殴ってくるのなら、こっちも同じように殴ってやるぜ」
　悠が、オーラを拳に込めて、お返しとばかりに連打を叩き込む。
「えいっ！」
　アナスタシアは、眼前の敵ではなく、悠の方へと移動する。
　ダメージを集中させて、数を減らすためだ。
　各自の前に居るものが移動して、自分に攻撃を仕掛けて来たとしても、それは予想の範囲内。
　素早く動き、敵を翻弄しながら、切り裂く。
「星の如き煌めきを！」
　由布の手にある天星弓から、放たれた矢が流星のように、強化一般人の頭上へと激しく降り注ぐ。
　玖狼は強化一般人の死角から、日本刀を繰り出し、急所へとダメージを与える。
「鍔目返し、なんてな」
　３体目が倒れると、次！　と視線を送り、都々の眼前にいる敵に狙いを定めた。
「か弱そうに見えてもその通りとは限らないんだよ……！」
　都々は、自身の片腕を異形巨大化させ、その質量から繰り出される重さのある打撃を叩き込んだ。
　コウは、マテリアルロッドを眼前に突き出し、高純度の圧縮された魔法の力を撃ち出す。
「森はオレのパワースポット、『森の魔女』の結界だ」
　自然のある場所は、力を与えてくる場所。穢され、乱されるのは許せない。
　ライドキャリバーは、回転率を上げ、機能を回復させる。
「清き風よ、皆を癒し清めて」
　シャルトリアが、浄化と癒しを孕む優しい風を招き、前衛にいる仲間達の傷を癒す。
「このメロディで元気になってね」
　不律の奏でるメロディに力づけられていく。
　ペース良く数を減らすことは出来なかったが、全員が立っているいれば、手数も増える。
　幾度か回復することを挟んだとしても、数の逆転が起こるのは目に見えている。
　現に今では今、強化一般人の数の方が少ない。
　４体目の強化一般人もかなりダメージを受けている。
　何も焦ることはない。
　着実に数を減らそうと、力押しのように殴ってくる強化一般人達の攻撃を受けながら、攻撃集中させていくことで、徐々に数を減らしていくのだった。

●刃を振るって
「力押し一辺倒だったな」
　悠が倒した強化一般人達を見下ろし、呟く。
「個々に状況判断出来ないタイプなのだろう」
　玖狼は彼らの攻撃の仕方を思い出す。
「この辺りにいるのは、僕たちだけでは無いとは思いますが、もし、討ちもらした敵が居てはいけません。場所を移動しましょう」
　由布は、周囲から聞こえる剣戟の音に耳を澄ませながら、口にする。
「このぶんなら、まだまだいけるよ」
　アナスタシアは、自身の状態をみる。
「ちょっとお腹すいてきたけど、いけるよ」
　食いしん坊な都々が、くぅと鳴るお腹の辺りを押さえて同意する。
「次の敵はオレが見つけてこよう」
　コウが、空飛ぶ箒に乗って上昇していく。
「このペースなら、何戦かいけそうです」
　シャルトリアは、内心皆が無事であることに感謝しつつ、皆が次の戦場へと移動するのならと、こくりと頷いた。
「だったら、行くしかないわね」
　ふふっと、不律は笑みを浮かべ、コウの降りてくる姿を捉え、移動を始めた。

作者：東城エリ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年2月5日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 13／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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