鶴見岳の激突~搦め手の兵法

    作者:志稲愛海

    「イフリート事件の解決、お疲れ様! 日本各地で事件を起こした鶴見岳のイフリート達は、みんなの大活躍のおかげでほぼ灼滅する事ができたよー」
     ありがとー! と、飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は皆に先日の事件解決の礼を改めて言ってから。
     ふとミルクティー色の髪をかき上げ、モーブの瞳を細めると、こう続ける。

    「それでね、鶴見岳の調査とその原因解決を行うべく準備を進めてたんだけどさ……ここで想定外の横槍が入ってしまったんだ。横槍を入れてきたのは、ソロモンの悪魔の一派だよ」
     現在、作戦を失敗した鶴見岳のイフリート達は、灼滅者達の活躍のおかげでその戦力を減らしているのだというが。
     ソロモンの悪魔の一派が率いる軍勢が、そのイフリート達を攻め滅ぼそうと、鶴見岳周辺で準備を整えているというのだ。
     そんなソロモンの悪魔の目的は、イフリート達が集めた力を横取りし、自分達の邪悪な目的の為に使用する事であるだろうと予想されている。
    「その集結しているソロモンの悪魔の軍勢なんだけどさ。今までとは比較にならない程に強化された一般人の姿もあるみたいなんだよね。ダークネスに匹敵する程の力を持つ彼らは、ソロモンの悪魔から『デモノイド』と呼ばれてて、軍勢の主力となっているみたいだよ」
     強力な強化を施された、『デモノイド』。
     武蔵坂学園がもし介入しなかった場合、この戦いは、『デモイド』を主力としたソロモンの悪魔の軍勢の勝利に終わり、鶴見岳の力を得て更に強大な勢力になっていくだろう。
     そして敗北したイフリート達は一点突破で包囲を破り、鶴見岳から姿を消すのだという。
     ソロモンの悪魔の軍勢の目的は、あくまで鶴見岳に集められた力。
     それさえ奪うことができれば、逃走するイフリートに対してはほとんど攻撃を仕掛けないようであるので、イフリート側もかなりの戦力を残す事になるようなのだ。
    「だから、これを放置しちゃったらさ……ソロモンの悪魔の一派が強大な力を得る上に、イフリート勢力もその戦力を殆ど失わずに逃走しちゃうっていう、最悪の結果になってしまうんだよね。でも2つのダークネス組織と正面から戦っても、勝算は殆どないから……2つのダークネス組織の争いを利用しつつ、最善の結果を引き出せるように、みんなに介入をお願いしたいんだ」
     
     では、どのように2つのダークネス組織の戦いに介入すべきか。
     選択する作戦は、3つ。
    「1つ目は、鶴見岳に攻め寄せるソロモンの悪魔の軍勢を後背から攻撃する事、だよー」
     まず1つ目は、鶴見岳を守るイフリートと共に、ソロモンの悪魔の軍勢を挟撃する作戦。
     灼滅者とイフリートでソロモンの悪魔の軍勢を挟み撃ちにする事になるので、有利に戦う事が可能だ。
     ソロモンの軍勢を壊滅させる事ができれば、ソロモンの悪魔達に鶴見岳の力を奪われる事を阻止できる。
     そしてソロモンの悪魔の軍勢を壊滅させた場合、イフリート達は新たな敵である灼滅者達との連戦を避け、鶴見岳からの脱出を行うのだという。
     だが……イフリートにとっては、灼滅者達もまた、作戦を阻んだ憎むべき敵。
     イフリートと戦場で出会ってしまうと、三つ巴の戦いになってしまうだろう。
    「2つ目はね、鶴見岳のふもとにある『ソロモンの悪魔の司令部』を急襲する事、だよ」
     鶴見岳のふもとにある司令部には、ソロモンの悪魔の姿が多数あるのだという。
     よって、戦力はかなり高いと想定されるが、普段は表に出てこないソロモンの悪魔と直接戦うチャンスになるかもしれない。
     ただ、1つ目の作戦さえ成功させれば、司令部のソロモンの悪魔達は戦わずに撤退する為、無理に戦う必要は無いだろう。
     司令部を壊滅しても、鶴見岳をソロモンの悪魔の軍勢が制圧した場合、鶴見岳の力の一部はソロモンの悪魔に奪われてしまうのだから。
     とはいえ勿論、多くのソロモンの悪魔を討ち取っていれば、ソロモンの悪魔の組織を弱体化させることができるので、どちらが良いという事は無いと思われる。
    「それで3つ目は、イフリートの脱出を阻止して灼滅する事、だね」
     鶴見岳から敗走したイフリートは、各地で事件を起こすだろう事は想像に難くない。
     その事件を未然に阻止する為にも、イフリートの脱出阻止は重要な仕事になる。
     イフリート達はソロモンの悪魔の軍勢との戦いで疲弊しているため、千載一遇のチャンスともいえるかもしれない。

     自分達は、どの作戦を選択し遂行するか。
     よく仲間達と話し合い作戦を練って、ことに当たって欲しい。
     
    「強力なダークネス同士の大規模戦闘に介入する作戦だから、かなり危険が伴う今回の任務だけど……どの作戦を選ぶか、そしてどう動くか、慎重に戦略を立てて臨んでね」
     そしてみんなちゃんと此処に帰ってきてね、と。
     遥河はその細くて長い小指を立てつつ、灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    風間・海砂斗(おさかなうぃざーど・d00581)
    クロエ・マトーショリカ(夜と朝の境界・d02168)
    月森・世羅(虧月・d02528)
    久賀・伊吹(野良烏・d02961)
    藤堂・丞(弦操舞踏・d03660)
    藤原・広樹(過ぎる窮月来たる麗月・d05445)
    大野・良太(野良犬・d05969)
    志島・樹梨花(祈り人・d09232)

    ■リプレイ

    ●焔に迫る悪魔
     冬の鶴見岳に咲き乱れるは、細い枝々を真白に覆う霧氷の華。
     だが……あれ程びっしりと咲いていた霧氷の華も、ざくりと踏みしめてきた雪も。
     頂上に辿り着いた頃には、薄らと積もるかどうかという程度の存在感になっていた。
     他でもない、鶴見岳山頂の雪を溶かすのは――頂に集結した、炎獣達の猛き焔。
     そしてその群れを追い詰めんと、じりじり侵攻する軍勢がそこには在った。
    「あれぜんぶイフリートとソロモンの悪魔軍かあ」
     風間・海砂斗(おさかなうぃざーど・d00581)は、状況を隠れて見遣りながら、敵情視察しつつも。
     その数に、思わずそう呟く。
     これまで対峙したダークネスや配下の数は、せいぜい数えられるほどであったが。
     眼前に広がる光景は、まさに戦争と言ってもいい様相を呈している。
    「ここで食い止めなきゃ大変ね……」
     クロエ・マトーショリカ(夜と朝の境界・d02168)も両勢力の動きを見つめて。
     交戦の始まるタイミングを静かに待っていた。
     鶴見岳に封じられた強大な存在を呼び起こさんとしたイフリートの作戦。
     だが灼滅者達の活躍で作戦に失敗し戦力を減らした炎獣達を攻め滅ぼそうと横槍を入れてきたのが、ソロモンの悪魔の一派であったのだ。
     そして未来予測に従い再び鶴見岳へと赴いた灼滅者達が今回取った作戦は、全部で3つ。
     その中のひとつ、攻め寄せるソロモンの悪魔の軍勢を後背から攻撃する事を選択した班が、今此処で、突入の機会を窺っているのだ。
    「元々一般人を多数従えているとは聞いていたが、また一段と嫌な真似をしてくれたものだな」
     忌まわしき宿敵……と眉顰める月森・世羅(虧月・d02528)の、月色を湛える瞳に映る姿は、ソロモンの悪魔軍の大多数を占める強化一般人の姿。
     そして最前線に立ちイフリートに迫るのは――おそらく、『デモノイド』という存在。
    (「この戦い……宿敵を滅するまでの通過点に過ぎない。故に、負けるわけにはいかない……」)
     藤原・広樹(過ぎる窮月来たる麗月・d05445)も敵に見つからぬよう息を潜めながら。
     贈られた勝利の石――朱色の組紐に結ばれし黒の柘榴石の御守をぐっと握り締めて。戦いに臨むべく前を見据えている。
     その間にも、イフリートの群れの元に果敢に迫る、悪魔の軍勢。
    「三つ巴になるのが一番厄介なんだよね?」
     志島・樹梨花(祈り人・d09232)は小さく首を傾けつつ改めて確認した後、そうならないようにする事が第一優先! と。
    「ソロモン陣営の後ろを着いていく感じでイフリートとサンドイッチさ! 悪魔のサンドイッチなんて、くそ不味そうだけど!」
     皆と一緒に隠れながらも、くひひと笑む。
     真っ向からでは歯が立たないだろう強敵との戦い。
     だが、ピリピリと全身で感じる、強大な圧力や緊張感に。
    「厳しい状態だけど、だからこそ、だよな!」
     どこか愉しげに、そう藤堂・丞(弦操舞踏・d03660)は微かな笑みを宿して。
     大野・良太(野良犬・d05969)も、血が滾り燃える戦いの時を、今か今かと待ち侘びていた。
     そして――そう待たずに、その瞬間は訪れる。
     始まった焔と魔力の激突に鶴見岳が大きく揺れた、瞬間。
    「……みんなと一緒だもんね、きっとだいじょうぶ!」
    「気を引き締めて頑張るわ、守りはアタシに任せて頂戴ね?」
     慎重にタイミングをはかった海砂斗やクロエの合図にあわせ、潜伏場所から飛び出していく8人の灼滅者達。
     やはり同じく攻め時だと一斉に動きをみせた他の班とも、できるだけ足並みを揃えるよう心がけつつ。
    (「今は高みの見物をしている奴らにも、何れきっと――」)
     兄の泉と並び戦火広がる戦場へと赴く世羅は、ぐっと得物を握る手に一層力を込めて。
    「無事皆で帰れるよーに、気合入れてこーか」
     育ち柄、この手の戦法は一番得意とする所、と。
     颯爽と隣を駆けながらもちらりと向けられた久賀・伊吹(野良烏・d02961)の赤の瞳に、ふと一瞬視線を返してから。
    「さぁ、目に物を見せてやろうか」
     こくりと瞳を細め微かに頷いた後、ただ前だけを見据える。
     裏で糸を引いている宿敵をいずれ引き摺り出せる様に……まずはその目論見をひとつ、打破する為に。

    ●搦め手の兵法
     遂にイフリートに攻撃を仕掛け始めた、ソロモンの悪魔の軍勢。
     その最前線には、明らかに普通の人間と区別できる見目の『デモノイド』の姿がある。
     そしてデモノイドたちの後ろに、ソロモンの悪魔から力を与えられたと思われる大勢の強化一般人が、10人程の集団を形成し、イフリートを倒さんと攻め込んでいる。
     そんなイフリートとの交戦に完全に意識が向いているソロモンの悪魔の軍勢の後背から、人員の薄い強化一般人のみで形成された集団を見極め狙って。
     タイミングを合わせ、一気に仕掛ける灼滅者達。
    「破邪伏滅! 槍よ抉れ!」
    「さあ、戦いの歌を唄いましょ……アタシが相手してあげる」
    「すげーわっくわくするな、いっくぞ!」
     丞とクロエが同時に放った螺旋の如く捻り穿つ槍の一撃が、まずは手近な強化一般人を深く刺し貫いて。
     丞の動きに合わせ、感覚のまま地を蹴った良太の縛霊手が大きく振り上げられた刹那、同じ相手を思い切り殴り飛ばせば。
    「盛り上がってるトコ悪いが、邪魔するぜ」
    「悪魔の思惑通りにはいかない。同じく失礼するよ」
     普段の緩さは鳴りを潜め、真剣な赤の眼差しに敵を捉えた伊吹の死角からの斬撃が、素早く相手の急所を絶ち、容赦なき紅き飛沫の華を咲かせた刹那。
     雷鳴が轟き、世羅の生み出した魔術の雷光と泉の放った雷撃が、敵へと直撃する。
    「!? な……ぐはぁっ!」
     そんな灼滅者達の息の合った怒涛の奇襲に、何が起こったか分からないという表情を浮かべながら。
     まずは1体、幸先良く強化一般人を血の海に沈めて。
    「え!? ぐぅッ!」
     振り返る隙すら与えずに、海砂斗の解き放った魔法の矢が、また別の強化一般人を射抜き貫く。
     そして予想もしていなかった展開に。
    「な、なんなんだ、新手か!?」
    「でも俺らが戦うのはイフリートだって……」
    「ばか、それどころじゃないだろ!」
    「悪魔様からの指示はないのか!?」
     途端に慌て始める、ソロモン軍の強化一般人。
    「くひひ。悪魔だってさ」
     そんな様子に、樹梨花は狂信者の如く笑った後。
    「そんな訳のわかんないヤツらは僕の女神が成敗しちゃうよ。平伏して、闇に還るがいいよ!!」
     自ら創造し崇拝する女神が宿っているという縛霊手で、海砂斗がダメージを与えた同じ強化一般人をぶん殴る。
     さらに揺らいだ敵へと狙い澄まし、すかさず叩きつけられたのは、広樹の両手から放たれたオーラの塊。
     突然の状況に対応できず、その衝撃をモロに貰い、また1体の強化一般人が崩れ落ちて。
     仲間同士声を掛け合い連携し、初手から攻勢に出た灼滅者達の作戦が上手く嵌る。
     そして相手の態勢が万全でないうちに同じ標的に効率良く集中砲火を浴びせ、まず2体の敵を打ち倒すことに成功するのだった。
    「と、とりあえずこいつら倒さなきゃじゃね!?」
    「でも命令がないけど……」
    「もういい、殺っちまおうぜ!」
     だが強化一般人達も、そうようやく少し気を取り直して。 
    「くっ……!」
     前衛を担う灼滅者達へと、得物の解体ナイフやバトルオーラで襲い掛かってくる。
     一般人とはいえ、ダークネスに強化された相手。
     向けられた斬撃は鋭く真っ赤な鮮血が走り、放たれた拳が容赦なくねじ込まれる。
     しかし先手を取った灼滅者達が状況的に有利なのは、揺るがなかった。
     戦場となっている山頂全体が、各班ごとに仕掛けられた灼滅者達の奇襲により、かなり混乱していて。
     この場所でソロモン軍と戦う灼滅者の数は、鶴見岳に赴いた灼滅者全体の半数を超えており、戦力的に十分だ。
     そして極力イフリートと出会わぬよう突出せず、手の薄いところを狙い集中砲火で落としていくことで。
     イフリートと灼滅者に挟まれた状態のソロモン軍を、次第に追い詰めていく。
    「回復アリガトね、助かるわ!」
     皆の盾になるように位置取るクロエに集中して向けられた、閃くナイフの衝撃も。
    「女神よ僕に力を!」
     樹梨花が祈りを捧げ、海砂斗が癒しの力を宿す一矢を放ち、世羅も味方を守護する護符を飛ばして傷を塞いでいって。
     灼滅の意志を込めた丞の螺穿槍がまた1体、敵を貫き、息の根を止めれば。
    「……死人が避けたりするかよっ!!!」
     強化一般人の拳の連打を避けることすらせず全てその身に浴びて、腹部に強烈な一撃を突き上げられるも。
     自分の体が傷つくことに躊躇いがない『死人(しびと)』であるという良太は、熱く燃える闘争本能のままに、斬撃を見舞い返す。
     前衛や中衛の皆が攻撃に専念できるのも、潤沢な後衛陣の回復のおかげ。
     そして逆に、回復手がその役割をきっちりと果たせるのも、ただ闇雲に突っ込んでくる強化一般人の攻撃の壁となり、衝撃を受け続けている前に立つ皆のおかげだ。
     そんな互いが支え合う戦況下で。
     後衛から相手の動きを注意深く探ることも抜かりない、海砂斗や世羅。
    「この人たち、ソロモンの悪魔の命令が無ければまともに作戦もたてられないみたいだね」
    「恐らく、状況を判断して命令をするためにソロモンの悪魔の本陣があるのだな」
     強化されている分、力任せの一撃はモロに貰うと重いものの。
     全く統率の取れていない戦い方をする強化一般人達を終始圧倒し、1体また1体と、相手を薙ぎ倒していく灼滅者達。
     そして広樹の爆炎の魔力を宿す弾丸が唸りを上げ連射され、最後の強化一般人へと雨霰と撃ち込まれた刹那。
     積み重ねてきたエフェクトが効果的に発動したクロエの凄まじい連打が、大きく敵の身を揺るがせば。
     生じた一瞬の隙を、決して見逃さずに。
    「!! が、はあぁっ!」
     死角に回りこんだ伊吹の、返る赤に塗れることも厭わぬ迷い無き鋭利な斬撃が、身を纏うものごと相手を引き裂いて。
     ソロモン軍の強化一般人の部隊をひとつ、壊滅させたのだった。

    ●デモノイド
     奇襲が嵌り、最初に相対した強化一般人の部隊を打ち倒してから。
     8人は引き続き、ソロモンの悪魔の軍勢を相手に、攻撃を仕掛けていかんと地を蹴って。
     移動中の新たな部隊を発見し、本能的に身構えた――瞬間であった。
    「!」
     全員の視線が、一斉に1体の敵へと向けられる。
     移動中であるその部隊は、強化一般人と思われる者が3体と……明らかに見た目から、人間とは既にかけ離れた存在が1体。
    「デモノイド、な……」
     そう、まさに『デモノイド』であったのだ。
    「目を覚ませ――と言っても、もう届かないだろうか」
     思わず顔を顰めた伊吹に、世羅も小さく首を振りつつも呟くが。
     ただソロモンの悪魔の指示通りイフリートを倒さんと地を踏みしめるその姿に、理性が残っているとは到底思えない。
     それに強化一般人に行く先を指示されている様を見ると、思考力も極めて低そうであるが。
     最前線で戦うその姿を見遣れば、力だけでいえばあのイフリートと同等に戦えるほどの強敵。
     纏う威圧感だけでも、その強さが生半可なものではないと分かるほどだ。
     だが、そんな強敵だからこそ――真性バトルジャンキーの血が騒ぐというもの。
     血が、魂が燃えるのならば、それだけで何もいらない、と。
    「こんな強ぇ奴と闘りあえるなんて、ノラすげー幸せだ!」
     これまでの作戦の様に先手必勝といわんばかりに一気に地を蹴り、デモノイド目掛け、全力で戦艦斬りを振り下ろす良太。
     だが……そんな強烈な良太の一撃を、デモノイドは巨大な拳と化した腕で容易く受け止めた後。
    「! 危ないっ」
    「!!」
     お返しといわんばかりに、握り締めた硬い拳で良太の身を無慈悲にも打ち抜く。
     そして最初の戦闘から敵の攻撃を避けることなく受け続け、癒せぬ殺傷のダメージが蓄積していたその身には、あまりにもその衝撃は大きすぎて。
    「ぐ……ふぅっ!」
     バッと口から血を吐きながら、地に崩れ落ちる良太。
     その圧倒的な強さに、灼滅者達は一瞬瞳を見開くも。
    「これ以上被害出さねー為にも、此処を譲る訳にゃいかねえ」
     幸い先程と同じように、突然の灼滅者達の攻撃に慌てふためく強化一般人を見遣って。
     デモノイドに指示を出している彼等の判断力が一瞬なくなっているこの機会を逃すまいと、攻撃を仕掛けていく灼滅者達。
    「はっ! こっちだよ!」
     仲間達が取り巻きを倒す間、丞は少し嬉しげに笑みを浮かべつつも、巧みな糸捌きでデモノイドを翻弄して。
     その名の通り、一切の不浄を悉く斬滅すべく鍛え上げられた呪いのこもった糸を張り巡らせ、螺穿槍の衝撃をお見舞いする。
     そして強化一般人達のフリージングデスが、後衛目掛けバラ撒かれるも。
    「大丈夫? ……此処はアタシに任せて頂戴!」
     すかさず樹梨花を庇いつつ、衝撃を受けた他の仲間達にもクロエは声を掛け、立ち塞がるように位置を取って。
    「平気……だいじょーぶだよ」
    「別に、大した事はない」
     心配させまいと強がる海砂斗と、戦神降臨を展開し自ら傷を癒す広樹。
     樹梨花は庇ってくれたクロエに、ありがと! と礼を言った後。
    「祈るよ! 僕祈るよぉお!!」
     くふ、と笑んで狂心的な祈りを捧げ、裁きの光条で仲間の傷を癒すことに専念する。
     そしてデモノイドを抑えていた泉が、強烈な一撃から仲間を庇い消滅して。
    「く……!」
     次に標的となった丞が、一度はその拳の直撃を受けて地に崩れ落ちるも。
    「……象徴発現」
     気力で立ち上がり、呟きと共に浮かぶクラブのスートの力で体勢をもう一度立て直して。
     すぐさま世羅の防護符が彼へと投じられ、フォローに入るべく伊吹が地を蹴って前線に立つ。
     そして灼滅者達は、これまで通り1体ずつ攻撃を重ね、元々手負いであった強化一般人を全て打ち倒してから。
     最後の力を振り絞り、豪腕をふるい暴れ狂うデモノイドへと、全力で攻撃を仕掛ける。
    「女神さまのお出ましだぁ! 沈んで眠れぇえ!」
    「さァお休み頂こーか」
     ヒートアップして叫ぶ樹梨花の紅き逆さ十字が巨体を切り裂き、伊吹の黒死斬りが急所へと見舞われて。
     広樹のブレイジングバーストの炎が燃え盛り、デモノイドがぐらりとバランスを崩した、次の瞬間。
    「……コレでフィナーレ。さようなら、ね?」
    『ガ……! ぐアアアぁあぁッ!!!』
     素早く懐へと入ったクロエの閃光百裂拳の連打が、巨体へと炸裂する。
     そして止めとなった衝撃を受けたその体はグズグズに溶けて。
     跡形なく、消滅したのだった。

     残党イフリートの逃亡こそ阻止できなかったが。
     十分な戦力をこの作戦に割り当てていた灼滅者の手によって、次々と壊滅するソロモンの悪魔の軍勢。
     そして――鶴見岳の強大な力を横取りしようと目論んだ、悪魔の計画を。
     この激しい戦いを制した灼滅者達が、打ち破ったのだった。

    作者:志稲愛海 重傷:大野・良太(ドロボウ野良犬・d05969) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月5日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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