アイスチャペルの眠り姫~日と氷とターリア~

    作者:那珂川未来

     北海道の内陸。
     風のない凍える朝に、きらきらと輝く光の中現れる。
     それは氷でできた教会。
     太陽の光を受けて黄金に輝いている。
     その中に、ドレスを着た女の人が氷の中で眠っていて。
     いつまでも、いつまでも、この教会から連れ出してくれる人を待っている――。
     
     
    「北海道の内陸に、都市伝説を見つけました。アイスチャペルの眠り姫というものだそうです。氷でできた教会が、ダイヤモンドダストのふる朝現れるという都市伝説です」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が灼滅者が集まるなりそう告げて。
    「アイスチャペルなら僕も見たことがあるよ。夜にライトアップされると凄い綺麗だったの覚えてる」
     女の子なら、こんな教会で式を挙げるのもいいなって思うかもとレキ・アヌン(冥府の髭・dn0073)。意外に中はかまくらみたいでそんなに寒くないんだよねと体験談。
    「そうですね。アイスチャペル自体は、北海道のリゾート地でも見られるものですけれど、タイトル通り、中には氷漬けになっている美女が眠っている……というものなんですよね。氷でできているという物珍しさと、季節限定という儚さについつい中へと足を運んでしまう人が多く、すでに何人もの一般の方がその氷漬けの美女に命を奪われているのです」
     どうやらその氷漬けの美女は、ずっと自分を氷の中から出してくれる王子様を待っているのだとか。
     だから求めるのだという。
     自身を凍りつかせるものを上回る愛で、氷を溶かしてくれる王子様を。
    「だから、皆さんには、都市伝説の望み通り、氷の中から助け出してください」
     その力を以て、灼滅という物語の終わりを――。
     姫子は地図を取り出すと、
    「ダイヤモンドダストが輝く朝、それはこの場所に現れます」
     そこは北海道でも有数の、ダイヤモンドダストの絶景ポイントだとか。姫子の解析の結果、ダイヤモンドダストが次に起る日、つまり次の出現日も特定できているので問題ない。
    「朝日と共に輝くダイヤモンドダストの中、アイスチャペルは現れます。扉は開け放たれてありますので、皆さんは準備ができ次第突入してください」
     中には、氷漬けにされた美女と、氷でできた蝶が舞っている。
    「氷漬けにされた美女、眠り姫は、神秘と術式に耐性のある都市伝説です。そのため、気魄系の攻撃以外はほとんどその力を発揮できないでしよう。蝶のほうも、神秘に強い耐性があるようです」
     レキは首をかしげながら、「ふーん……。これは攻撃サイキックの調整と、見切り対策をどのようにするかがポイントかな?」
     自身のサイキックをどうしようか悩み中。
    「眠り姫は、妖冷弾、フリージングデス、祭霊光 、ディーヴァズメロディに酷似したものを使用します。そして氷の蝶ですが全部で四体。妖冷弾、シールドリング、百億の星に酷似したものを使用します」
     眠り姫はキャスターポジション。蝶はクラッシャーとディフェンダーで半数ずつ。
    「油断しなければ大丈夫だと思いますが、くれぐれもサイキックの調整等怠らぬよう」
    「うん。わかったよ。僕たちに任せてね!」
     初依頼にちょっぴり緊張気味のレキだけど、元気に返事をして。
     姫子に見送られながら教室を出る灼滅者たちは、一路北海道へと向かうのであった。


    参加者
    六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103)
    ユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758)
    シャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984)
    遠野・守(我がままにワガママを・d03853)
    鏑木・カンナ(疾駆者・d04682)
    鳳来・夏目(鳳蝶・d06046)
    天壌・契(闇斬屋・d10607)
    九十九折・羽織(はぐれ坊主・d12412)

    ■リプレイ

     澄み渡った夜空は透明で、星の微かな光が淀みなく零れ落ち、どこまでも続く雪原は、天鵞絨のように淡く艶やかな光を放っている。
     肌を刺すような寒さの中、ダイヤモンドダストが発生するまで、陣幕でのサポートに来てくれた想司からの差し入れに、かじかむ指先とお腹の中を温めていた。
    「レキは依頼初めてですっけ」
     鏑木・カンナ(疾駆者・d04682)は、初依頼に緊張気味のレキ・アヌン(冥府の髭・dn0073)を気遣うように、和やかに話しかけながら隣に座って。
    「あ、はいっ。そうなんです」
     上手く立ちまわれなかったらどうしようと心配しているレキ。
    「大丈夫。私たちはチームなんだから」
     互いのミスは補いあうことができるからと、カンナは微笑んで。
     そんなレキへ、鳳来・夏目(鳳蝶・d06046)もにこにこしながら、
    「実はうちも初依頼」
    「え、本当?」
     お互いリラックスせぇへんとなと言ってくれたもののまったく緊張しているように見えない夏目に、レキは尊敬の眼差し。
    「良い報告出来るよう、お互い頑張ろね」
    「回復役、頼りにしてるわよ」
    「はいっ」
     お姉さん二人に頼りにされて、ぐっとヤル気の上がるレキ。
     ユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758)は溶けてゆくように薄青が伸びている空を見つめ、
    「絵本の中なら、とても綺麗なお話なるだろ……けど」
     サイキックエナジーと結びついて生まれた物語は、残念ながら何処へ向かおうとも美しい終わりへ辿り着くことはない。季節が巡るごとに、この純白に屍を重ねてゆくだけ。
    「誰かが泣くのをこれ以上止められるならそれでいいんだ。起こったことは巻き戻せないからな……」
     遠野・守(我がままにワガママを・d03853)は星空を見上げ、独りごちた。都市伝説にその命の灯を消されてしまったであろう家族の悲しみは、全てこの拳で昇華してあげようと心も滾る。
     黄金色の光が、遥か向こうの防風林の頂きを染め始める。同時に、微かに届く光が、大気中に姿を隠していた結晶に輝きを与えて。
     輝石の様な光。夏目は、初めて見る景色に暫し見惚れていたけれど、溢れんばかりのダイヤモンドダストの中に現れた教会を見るなり、直ぐに表情引き締めて。
    「こんな静謐で綺麗な場所を、これ以上穢す訳にはいかへん」
    「……行きましょう。眠り姫さんの哀しい物語はここで終わらせます」
     先程まで顔を伏せて隅で静かに体を温めていたシャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984)だけれども、都市伝説の出現で、潜めていた強さを表面に表し、歩きだす。
     肌にふれては消え去る光のなか、六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103)は徐々に近づくアイスチャペルの荘厳な佇まいに溜息を漏らす。
    「本当に……此処で祈れば、願いは叶うと思う程……」
     遠く蘇る、あの出来事に心を彷徨わせるけれど。その最奥、巨大な氷柱の中、儚げな雰囲気の美女が眠っている。その周りをひらひらと舞う氷の蝶に意識を引き戻して。
     美しく神秘的な姿。だが、この眠り姫にも、呪いをかけた魔女がいるのだとしたら、近づき触れるものを排除する存在といえた。
     天壌・契(闇斬屋・d10607)は煙るほどの冷気を纏う蝶の威嚇にすら動じることなく、眠る姫の顔を見つめた。
    「初めまして、お姫様。僕達は――そうね、王子様の代役よ。貴女を此処から解放しに来たの」
    「女の子同士で、王子様希望だとしたら不満もあって申し訳ないですけれど……私の熱と信仰は、貴女を救うと誓います」
     静香は、すらりと血染刀・散華を抜くと、言葉の通り誓いを立てるように剣を真っ直ぐと構え。
     そんな中、九十九折・羽織(はぐれ坊主・d12412)が透視でも行っているのではないかと思うくらい目を細め、氷柱の眠り姫をは見上げていたら、
    「わっ!」
     前衛陣を縫うように駆け抜けていった凍気。当たっちゃいないが、突然の妨害に驚く羽織。そして右腕と日本刀が完全に霜に覆われてしまうほどの威力に夏目は顔をしかめて。
    「綺麗な花には何とやら……とはよう言うけど、こりゃとんだ茨姫やね……!」
     刺さるかのような冷気は、まさに茨の棘のようだ。とはいえ、彼女が解放を願っているというならば、氷そのものが完全なる悪意と言えよう。
    「私は王子様にはなれませんが……その氷獄からは救い出します!」
    「だからどうか、大人しくしててくれないかしらね……!」
     まずは氷の蝶を倒しますよと、シャルリーナは俊足を生かし肉薄。カンナのガトリング連射に、縫いつけられるように瞬間的に動きが止まったすきを見逃さず、シャルリーナは全身に青白きオーラを纏わせると、左足を軸に華麗なる弧を描く。
     契と眠り姫を挟み込むようにして、その動きの牽制を狙う静香。
    「初太刀――曙光の閃光と共に」
     己が刀に込められた祈りをぶつけるがごとく、中段より燕の如く翻る一閃。間髪いれず、契の刀と扇がひらりと踊る。雲耀剣の重い振動に冷気が鈍り、ティアーズリッパーが、分厚い氷獄に亀裂を入る。
     透明な羽に弾けるユエファの抗雷撃。夏目の縛霊撃による戒めに、蝶の動きも鈍くなる。
     女の子たちが頑張っているというのに、煩悩まみれになっている場合ではないと活を入れながら、解き放たれた妖冷弾を上手く交わし、羽織はデッドブラスター。サポートに駆けつけてくれた夜桜がガンガン回復に勤しんでくれたおかげで、レキも前衛陣を苛む氷の解除も的確に行えたようだ。
    「見せてやるぜ。俺たちの戦いって奴をよ!」
     その拳に熱き炎を纏わせて、守はレーヴアテイン。紅蓮の獣のように突き出される一撃に、蝶はその羽の殆んどを砕かれたに見えたものの、すぐに別の蝶のフォローが入る。強固な冷気の膜を生み出し、乱れかけた隊列を整えようと。
    「厄介ね」
     盾なる力の二重の付与。あと一歩を押し通せず奥歯を噛むカンナ。眠り姫より広域を奔る凍気にぶつかりながらも、ユエファは表情を変えぬまま、
    「……なら、その守り、崩すするね……」
     蝶の一撃にも構わず、白銀の稲妻を纏い果敢に攻め入ってゆくユエファ。仲間を守るため、自らが注意を引くことによって、少しでも攻撃に晒されぬようにと。
     冷気の膜がユエファの攻撃を妨害するけれど。鋼鉄拳の重い一撃は一枚ガードを貫いた。
    「今やね……!」
     ユエファが開けてくれた穴へと、夏目し炎纏う刀身を一直線に突き出して。
    「うちの炎は強烈よ」
     一点に集約された炎は、一気に穴を押し広げ、蝶の本体へと到達する。
     吹き上がる炎に瞬滅するひとひら。
    「この調子でガンガン行くぜ」
     残り火をかき消すほどの勢いで切り込んで、継続ダメージで突き崩すのを狙う守のレーヴァテイン。次いで撃ち放たれる羽織のオーラキャノンが確実に体力を削ぎ落す。
    『……誰か……助け……』
     眠り姫は氷の中に閉じ込められたままであるにもかかわらず、顔をしかめ、うわ言のように唇を動かす。
    「くっ……」
     最前線で攻撃を繰り返していたユエファに、鈍いリズムが脳内に響いた。眠り姫の気を強く引いてしまったのだろう。催眠によって、右手が意思とは反対の方へ動こうとしている。そう、その喉笛をかき切ろうと――。
    「任せろ!」
     咄嗟に動けた守が清めの風を巻き起こし、サポートのさくらと共に援護を。
    「ユエファさん」
    「……大丈夫、心配ない……ね……」
     静香に冷静な声を返し、浄化の礼を伝えると、ギルティクロスの一撃を蝶へと押しこんで。
     眠り姫が自分に戒めを重ねようとする二人を吹き飛ばそうと、凍気を解き放とうとしたけれど。かすり傷にも等しい攻撃。静香の殺戮領域が展開し、契の日本刀が氷柱へと突き刺さる。
    『ああっ……』
     鈴のような音と共に、飛び散る破片。びしりと縦に入る亀裂に眠り姫は喘いだ。さすがに能力の殆んどを沈黙させられては、姫も身を清める以外手はなく。
     羽織は経を唱えながら邪魔な蝶を排除すべく、デッドブラスター。守のレーヴァテインで弱った蝶へと完璧なる照準。狙いは羽織の意思を組んだかのように、クリティカルで炸裂。ぱっと羽根が散るかのように、六花の欠片は硝子のような音と共に飛散して。
     目の前がクリアーになる。
    「見え――」
     羽織がくわっと目を見開いたその刹那、最後の蝶が無数の氷の鏃を振り落とす。
    「ハヤテ!」
     後衛を守りなさい。矢の行く先を読んだカンナの思いに素早く反応し、ライドキャリバーのハヤテは、勢いよく飛びあがると、レキに降り注ぐ氷の鏃を全身で受け止めて。そしてさらに着地するなり、鏃を振り落としながら主との連携へと一気にシフト。
    「逃がさないわよ」
     カンナが放つガトリング連射に羽に風穴をあけられながら身を躍らせる蝶へと、とどめの突撃。
    「大丈夫?」
     砕け散り、仄かな光にすら溶け消える泡雪を見送ったあと、心配の声を投げるカンナ。
    「は、はい! 僕は大丈夫ですっ――それより羽織さん!」
     地面に突っ伏してぷるぷるしている羽織へ、僕だけかばってもらってすいませんとレキは謝りつつヒーリングライト。煩悩にまみれた人に起こるお約束に漏れなく当てはまった羽織。
     残る蝶も一匹。生存が長い分、やはりシールドリングの効果が大きく重なっている。
    「……その守りを、破ります!」
    「そこをどけぇー!」
     シャルリーナの回し蹴りがしたたかに一枚の防御を崩し、そしてその砕けた破片にまたの妨害を余儀なくされた羽織の鬼神変が、更に一枚を砕く。
     ユエファのギルディクロスが、蝶の精神に衝撃を与え、その暴走させる。
     自らに打ち込む氷の弾丸。それは大きな傷ではなきにしろ、防御の重ねを封じたことは大きく。
    「これで消えてけっ!! 鮮血の炎が手向けだと思ってな」
     守のレーヴァテインが、最後の蝶へと噛みついた。
     全ての蝶が散り、少しだけ高くなった日の光にその背を照らされて、まるで光背のマリアのように神秘的だけれども。
     永遠の物語に眠る美女は、目覚めを願うあまり犠牲者を重ねてゆくだけの、悲しいヒロイン。
    『助けて……』
     ぴくりと動いたその手を目聡く見つけ、夏目は声張る。
    「来るで!」
     言い終わる間もなく地面を走る、極寒の息。足元から湧く鋭い氷を、夏目とシャルリーナは鮮やかにかわしながら眠り姫へと間合いを詰める。
     眠り姫の二倍もの大きさを誇る氷柱。
     シャルリーナはまるでステンドグラスのように、光陰の趣に揺らぐ氷の壁を駆けあがると、一気に背面へと飛んだ。
     鐘楼からきらきらと落ちてくる輝きを受けながら、青白く輝くオーラを足に集約させ、眠り姫の頭上へ。
    「その悲しみの因果……ここで終わらせます」
     翻ると、その足を振り下ろす。
     それはまるで流星の如き速さで、一直線に氷柱を斬り裂いて。
     アサルトで決まるティアーズリッパーに、ぱっくりと割れたその場所へと、静香は刀に炎を纏わせた。
    「愛ではないですが、この身体を流れる鮮血の願いは、お姫様、貴女を包む氷に負けない熱を持っているんですよ?」
     好きだった人から貰った、この胸の血と熱と鼓動の力が、悲しみを灼滅する力を生むならば。
     紅蓮が踊る。その炎と共に舞うように 契は漆黒と金の髪を揺らしながら繰り出されたティアーズリッパー。
     両脇に、クレバスのよう深く刻まれたに亀裂。それは確実に、眠り姫の本体に届くほどの。
    「ハヤテ、行くわよ」
     その左の裂け目へ向けて、カンナがガトリングガンの照準を合わせると、もう一方の裂け目へと突撃を仕掛けるハヤテ。
     突き抜ける残影、交差する火花。
    「今その氷溶かして、全部鎮めたげる」
     網目のように広がってゆく亀裂。夏目の刀に吹き上がる紅蓮。
    「これがうちの炎や!」
     迷いなく振り下ろす斬撃。逆巻く力は、飛び散る六花すら巻き込んで。
     強打と化したその一撃は、完全に左上部を粉砕する。
     連携を止めどなく繋ぐ五人。そのリズムを崩さないよう、彼女らを守る様に、ユエファが眠り姫の眼前に飛び込んで矢面に立つ。
    『たす……け……』
     狙い通り放たれた弾丸のような氷の塊。ユエファの腹にめり込むものの。身を苛む力を、抗雷撃の帯電にかき消して。
     羽織の鬼神変に穿たれ崩れる足元。頼りなくなった氷柱へ捧げる、最後の一撃。
    「終わりにする……よ」
     思いっきり振りかぶる銀雷。繊細な細工が零れた太陽を弾きながら、幻想を溶かす一撃を落とす。
     まっすぐ走った銀色。
     二つに割れた氷の柱は、きらきらと輝く光の粒となって消えてゆく。
     アイスチャペルも鐘楼からゆっくりと粉雪へと変じ、天頂に広がるのは冬の青空。
    「……お早うお姫様、目は覚めた?」
     横たわる姫にそっと近づいて、カンナは静かに尋ねた。
     微かに頷いた姫。そしてその真上に広がる、明るい、とても澄み渡った青空があることを知って、見てふるふると震わせて。
    『……ああ、青い……空……』
     暗黒の氷塊に閉じ込められていた眠り姫にとって、それはどれほど待ち焦がれたものだったのか――。
    「知ってる? お姫様はね、笑顔で物語の結末を迎えるのよ」
     契は傍らに膝をつくと、そのかじかんだ手を取り、優しく微笑みかけた。
     感動と共に姫の目尻から零れる一筋の涙。契の膝へと滑り落ちて。
     都市伝説という幻の存在でありながらも、その涙にぬくもりを感じたのは、この世界が極寒の地だからだったのか。
    「嘆きなんて似合わないわ。貴女は消える訳じゃない」
    『助けて下さって……ありが……』
     僕が覚えているから。その言葉聞いて、きらきらと舞うダイヤモンドダストの中、消えゆく眠り姫の亡骸は牡丹雪となって、鳥が舞い上がる様に辺りに散った。
     星の光が日のもとでは見られないように、この煌めきも一瞬の朝日の中でしか見ることはできない。
     そしてこの物語も、見えないけれど確かにそこに在ったもの。
     物語の中の姫の台詞が決して変化しないように、眠り姫も決まった言葉しか話せなかったけれど。
     でもきっと、一瞬だけでも芽吹いた心に、何かが繋がったと信じて。
    「祈りましょう」
     静香は手を組むと、消えゆく教会の中、瞑目して祈る。
     眠り姫の安息を。
     初恋の人の行方を。そして姫のように闇から解き放てますようにと――。
     カンナと夏目も、姫に黙祷をささげて。
    「雪の降る日は、必ず貴女を想い出す……」
     幻のように消えてゆくダイヤモンドダストの欠片を見送りながら、契は綺麗な水色の空へと言霊を送った。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 13/キャラが大事にされていた 0
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