鶴見岳の激突~吠え猛る炎

    作者:池田コント

    「先日のイフリート騒動におけるお前たちの活躍、見事だった……実際に作戦に参加していない者もいるだろうが、そいつらも学園のみんながここで待っているからこそ、思い切って戦えるんだ。そういう意味も含めて、ありがとうと言わざるをえない!」
     と、ヤマトのお礼を受けた後でその後の状況である。
     先日の別府温泉は鶴見岳のイフリート達の同時多発襲撃事件は、灼滅者達の活躍によって成功したと言っていい。
     その結果を受けて、鶴見岳の調査と、原因解決を行うべく準備を進めていた。
     だが、ここで想定外の横槍が入ってしまった。
     ソロモンの悪魔である。
     現在、鶴見岳周辺には、ソロモンの悪魔の一派が率いる軍勢が集結しており、作戦の失敗により戦力を減らした、イフリート達を攻め滅ぼそうと準備を整えているのだ。
     ソロモンの悪魔の目的は、イフリート達が集めた力、サイキックエナジーだ。それを横取りし、自分達の邪悪な目的の為に使用するのだろう。
     ソロモンの悪魔の軍勢には、今までとは比較にならない程に強化された一般人の姿もあるらしい。
     ダークネスに匹敵する程の力を持つ彼らは、ソロモンの悪魔から『デモノイド』と呼ばれており、その軍勢の主力となっている。
     武蔵坂学園が介入しなかった場合、この戦いは、ソロモンの悪魔の軍勢の勝利に終わり、鶴見岳の力を得て更に強大な勢力になっていくだろう。
     敗北したイフリート達は、一点突破で包囲を破り、鶴見岳から姿を消す事になる。
     ソロモンの悪魔の軍勢は、鶴見岳の力さえ奪えればここでこのイフリートの集団を潰す必要はないと判断するのか、逃走するイフリートに対して、ほとんど攻撃を仕掛けないようで、イフリートもかなりの戦力を残す事になる。
    「そこで、お前たちには大きく分けて三つの選択肢が与えられる!」

     一つ目の選択肢は、鶴見岳に攻め寄せるソロモンの悪魔の軍勢を後背から攻撃する事。
     鶴見岳を守るイフリート達と共に、ソロモンの悪魔の軍勢を挟撃するかたちになるので、有利に戦う事が可能だ。
     ただ、別府温泉のイフリートを灼滅してきた灼滅者も、イフリートにとっては憎むべき敵である為、イフリートと戦場で出会ってしまうと、三つ巴の戦いになってしまうだろう。
     ソロモンの悪魔の軍勢を壊滅させた場合も、イフリート達は新たな敵である灼滅者との連戦を避けて、鶴見岳からの脱出を行います。
     鶴見岳のソロモンの軍勢を壊滅させる事ができれば、ソロモンの悪魔に鶴見岳の力を奪われるのを阻止する事が出来る。

     二つ目の選択肢は、鶴見岳のふもとにある『ソロモンの悪魔の司令部』を急襲する事。
     司令部には、ソロモンの悪魔の姿が多数あるため、戦力はかなり高いと想定される。
     普段は、表に出てこないソロモンの悪魔と直接戦うチャンスになるかも知れない。
     ただ、鶴見岳の作戦さえ成功させれば、司令部のソロモンの悪魔達は戦わずに撤退する為、無理に戦う必要は無いだろう。
     司令部を壊滅しても、鶴見岳をソロモンの悪魔の軍勢が制圧した場合、鶴見岳の力の一部はソロモンの悪魔に奪われてしまう。
     勿論、多くのソロモンの悪魔を討ち取っていれば、ソロモンの悪魔の組織を弱体化させることができるので、どちらが良いという事は無い。

     三つ目の選択肢は、イフリートの脱出を阻止して灼滅する事。
     鶴見岳から敗走したイフリートは、各地で事件を起こすだろう事は想像に難くない。疲弊した力を取り戻そうと活発に動き出す可能性すらある。
     その事件を未然に阻止する為にも、イフリートの脱出阻止は重要な仕事になるだろう。
     イフリート達は、ソロモンの悪魔の軍勢との戦いで疲弊しているため、千載一遇のチャンスとも言えるかも知れない。
     
    「イフリートとソロモンの悪魔、どっちを見ても危険な連中だが、そいつらより鋭い刃がこの俺たちにはあるのだと、思い知らせてやろう! だが、くれぐれも無理はするなよ!」


    参加者
    大松・歩夏(影使い・d01405)
    イトセ・アクタガワ(春咲く魔法・d06953)
    閃光院・クリスティーナ(閃光淑女メイデンフラッシュ・d07122)
    フランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509)
    天外・飛鳥(囚われの蒼い鳥・d08035)
    千凪・志命(生物兵器のなりそこない・d09306)
    白姫・雛菊(サウンドオブマジック・d09779)
    彩風・凪紗(不壊金剛・d10542)

    ■リプレイ


     山が騒いでいた。
     ソロモンの悪魔の軍勢と鶴見岳のイフリート達は今頃サイキックの飛び交う激しい戦闘を繰り広げていることだろう。
    「さながら『禿山の一夜』の様相ですね」
     フランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509)は戦場を思い浮かべ、つぶやく。
     今彼女達八人がいるのは、そこからは離れた場所。
     ソロモンの悪魔達が本陣を置いているのは金鉄別府ロープウェイ別府高原駅付近であるということなので、その反対側になる。
     あくまで狙いはイフリート達であるので、奴らが逃走経路に選ぶであろう場所に待機しているのである。
    「ソロモンの悪魔ですか……」
     イトセ・アクタガワ(春咲く魔法・d06953)達魔法使いにとって、ソロモンの悪魔は宿敵である。けれど、イトセ自身は対峙したことはない。気にはなるが、巡り会わないということは結局その程度の縁ということなのだろう。いつか時がくれば嫌でも対面せねばならないときもあるかも知れないが。
     イフリートの逃亡を阻止しようと動いたのは自分達を含めて九組。
     大多数はソロモンの悪魔の主力を叩くために動員されている。
     全体の六分の一にも満たない手勢では、多くのイフリートを逃すことになるだろう。だが、
    (「……それでも、あいつだけは」)
     千凪・志命(生物兵器のなりそこない・d09306)は使い慣れた日本刀を握りしめる。
     少し前のイフリートによる襲撃事件のとき、志命達は手酷い敗北を喫した。その時の傷は癒えたが、志命の心は未だ囚われたままでいた。
    「試合に完敗することはあっても、生死を賭けた勝負は必ず勝ってきた……死ぬのは怖くないが、これ以上の敗北は」
     許されない。なにより自分自身が許すことができない。
     彩風・凪紗(不壊金剛・d10542)もまた屈辱を味わった一人である。
     必ずや今度こそ灼滅せしめる。
     凪紗の心は決まっていた。
     そのイフリート、魔光狼と必ず出会えるわけではない。そもそも生き残っていない可能性もある。けれど、自分達をあれだけ苦しめた狼が、そう簡単に死ぬはずがないと閃光院・クリスティーナ(閃光淑女メイデンフラッシュ・d07122)達は思っていた。そうでなくてはならない。あの悪辣な狼を灼滅するのは、自分達でなければならない。
    (「ご当地ヒーローたるわたくしの名誉は地元の名誉、このままでは許されません。失敗の汚名は必ず、働きによって雪いでみせましてよ!」)
     これはもはや個人の復讐ではすまない。クリスティーナにとって、地元の誇りを賭けた戦いなのであった。
    「彼らの企みを挫く為、戦うべき場所で果たすべき務めを。征きましょう」
     フランキスカを先頭に索敵に入る。クリスティーナの持つ地図には現在位置が表示されている。
    (「別府の時みたいに観光できたらよかったんだけど……そんなことも言ってられないか」)
     大松・歩夏(影使い・d01405)はリベンジを誓う飛鳥達四人を見て思う。せめて帰りにゆっくり湯治でもしていければいいが、どうも悪い予感が頭から離れない。少なくとも安心して仮眠できるのは学園に帰ってからになりそうだ。
    (「どうか無事にみんなで帰ってこれますように」)
     森の小路、今回最年少の白姫・雛菊(サウンドオブマジック・d09779)は列の後ろを歩きながら、イフリートさんをもふもふしたいって言い出せる雰囲気じゃないよう、と思っていた。凪紗達の会ったのは大きな狼だというからとても気にはなっているのだが。
    (「犬さんのもふもふに似ているのですかねー?」)
     突然、凪紗達の様子が変わった。
    「どうしました?」
     問いかけるイトセに、答えたのかはわからないが、志命の声が届く。
    「……バベルの鎖だ」
     駆けだしたのは天外・飛鳥(囚われの蒼い鳥・d08035)、凪紗、志命、クリスティーナ。一度縁がつながった者には、運命が働くのだろうか。やがて、雛菊が追いつくと、仲間達の視線の先には山道を駆け降りてくる三体のイフリートの姿があった。
    (「わ、もふもふがいっぱいです~」)
    (「間違いない、あいつだ!」)
     飛鳥は心の中で喝采を上げた。音楽を愛し愛される飛鳥は、戦闘という演奏を中断させられたことに怒りを覚えていた。怒りの原因はそれだけではなかったが、
    (「今度こそ最後まで聴かせてもらうよ、君の音……俺の仲で永遠にしてやるからさぁ!」)
     飛鳥は魔光狼が壊れる音をなにがなんでも聴く気でいた。
    「仲間と一緒か……」
     魔光狼達は手負いの様子だが、正直三体を相手にするのは分が悪い。だが、だからといって逃がすわけにはいかない。
    「……俺達は、イフリートを灼滅するために、ここにいる!」
     三体のイフリートが駆け下りてくる、その眼前へと躍り出た。
    「止まれッ!」
     ガァッ!
     歩夏達に気づいた狼が一声鳴くと、残り二体のイフリートがそれぞれ別の方角へと散開した。
    (「どうする?」)
     相手は一体でも手に余るイフリート。
     ソロモンの悪魔の軍勢と交戦して疲弊しているとはいえ、戦力を分散させて追いかけて勝てる相手ではない。
     と、躊躇ったのは一瞬のこと。
     正面より突っこんできた狼を囲むように、展開する。
    (「あっちの羊さんみたいなイフリートさんの方がもふもふ気持ちよさそうでした」)
     雛菊だけちょっと残念。
    「……わざわざ来てやったぞ」
     狼は人語を発さない為確信は持てないが、凪紗達を見る狼の目に侮蔑の色が浮かび、どうにか逃げだそうという仕草を見せないところを見ると、いくらかは察しているようだった。
    「自分一人で十分というわけか、なめやがって」
    「その余裕、後悔しましてよ」
    「でも、こちらにしてみればラッキーですね」
     イトセは言う。ダークネス三体はさすがに厳しいと言わざるを得ない。他が逃げてくれたことで一体に専念できる。もっともソロモンの悪魔から敗走中のイフリート達にしてみれば灼滅者に構わずさっさと逃げるのはが必然かも知れないが。
    「響かせて!」
     解除ワードを唱え、力を解放する。
     クリスティーナはまばゆい光を放ち、イトセは花とリボンで飾ったマテリアルロッドを構える。
     雛菊はスカートをなびかせ、フランキスカとその手に持つ剣には雪氷を溶かさんばかりの炎が立ち上った。
    「手負いの身に宿すその炎、もはや風前の灯火と識れ……祓魔の騎士ハルベルトの名に於いて、汝を討つ!」
    「リベンジってのも格好つかないが、ま、あの時撤退を許したあんたが悪いってことで堪えてくれ、魔光狼」
     盾を生成しながら、凪紗が言う。
     狼は威嚇するように牙を見せ、低く唸った。
     今回の作戦は短期決着。
     以前の経験から長引くのは危険だと知っている。
     歩夏は真っ先に狼へと突っ込んでいく。
     狼は迎え打った。鋭い牙を歩夏に突き立てる。
     と、思ったそこに歩夏はおらず、残像を切り裂くのみ。
    「油断しすぎだぜ、狼ちゃんよ!」
     衝撃は、狼の右側面から訪れた。
     閃光のように拳が降り注ぐのを、狼は不可思議な思いで受け取るしかなかった。
     歩夏の動きは早いが、決して早すぎる訳ではない。けれど、たやすく先手を取られてしまった。まるで自分の影を追いかけるような動きに。
     狼が虚を取られている間に、飛鳥が尋常でない殺気を膨らます。
     飛鳥は前回魔光狼と対峙した時、想い人と一緒だった。
     大切な人を傷つけられ怒りを覚える。だがそれと同時に、大切な人が痛めつけられる音に心地よさを感じてしまった。
     好きで好きで守りたいのに壊したくて辛い……。
     矛盾する心。
    「こんな気持ちになったのはてめえらのせいだ!」
     ドス黒い殺気が狼を飲み込む。その殺気を吹き飛ばすように、突如として光が放たれた。魔光狼の光弾。これには以前痛い思いをさせられた。
     光弾は速く。クリスティーナを直撃した。
    「Ms.閃光院!」
     フランキスカはとっさに癒しの矢を構えるが、心配はいらないようだった。クリスティーナは大きくのけぞりながらも、足腰の力で耐えきって見せた。
    「今度は決して倒れませんわ!」
     怪訝な反応の狼に、鋼の糸が絡みつく。皮を破き肉を戒める強固な糸は、志命のもの。
     それに動きを束縛されている隙にクリスティーナの光速の拳が狼の胸部をとらえる。
    「私の魔法を見せてあげます」
     イトセの言霊によって形を与えられた魔法の矢が彗星のごとく山道を流れ、狼の首筋を貫いた。その激痛に狼は身の毛もよだつような叫びを上げる。
    (「イフリートさん、もふもふしたいのです~……」)
     と隙あらばその機会を狙っていた雛菊だったが、実物を前にして考えを改める。
    (「こんな凶暴だと、とても無理なのですよ~!」)
     とはいいつつ、雛菊もマジックミサイル。ラッキーヒットでイトセの矢が命中したのと寸分違わぬところへ。
     ぐるうううぁあああ!
    「きゃー!?」
    「子供を驚かすんじゃないよ」
     歩夏の妖の槍がいつの間にか突き刺さっていた。歩夏は肉を抉るようにねじ込む。
     まただ。また、避けられるはずの一撃を食らってしまっている……。
     狼はそう思ったようだが、そう思っているような時間は与えられていない。
     凪紗が与えない。
     電光迸る一撃を狼の頭にたたき込んだ。
    「うわっ!」
     めちゃくちゃに振るわれた爪に打たれ、凪紗は吹き飛ばされるが、受け身をとって即座に立ち上がる。痛みはない。
     続けざまに攻撃を受けて、狼も考えを改めたようだ。
     いつしか狼の目には侮りの色が消えていた。
    「ようやくわかったか」
     目の前にいるのは、もはや敗北した者達でないことを。
    「思い知ったろ?」
     灼滅者達の成長の早さを。
    「馬鹿にできないでしょう?」
     結びついた仲間の力を。
     狼にはもう、油断はない。完全に調子を取り戻し、凶悪な牙を灼滅者達へと向ける。
    「手負いの獣は危険だというですよ」
    「……ここからが、本番だな」
     志命は血が炎のようにたぎるのを感じた。


    「痛いの痛いの飛んでくですよー」
     魔法のステッキを振るいながら紡がれる、雛菊の天使の声が志命を癒す。
     志命の鋼糸が縦横無尽に駆け巡り、狼の毛皮を切り裂いていった。
    「チャンス!」
     飛鳥は好機と見て狼の懐へ飛び込む。新調したナイフを突き立てれば、どれだけいい音がするだろうと想いを馳せながら。
     しかし、狼は予期していたかのごとく、飛鳥へと口を開き光弾を放った。
     直撃する!?
     と思った瞬間、目の前に人影が立った。
     凪紗だ。
     凪紗が日本刀で光弾を正面から受け止めている。
    「この程度、任せておけ!」
     凪紗が右腕を灼かれつつも光弾を退け、飛鳥は目的を達した。深々と肉を引き裂き、狼の壊れる音を楽しむ。
     そこへ、クリスティーナは低空タックルをかける。足を取り、すかさずジャイアントスイング。
    「プロレスなんですか!?」
     その通り、クリスティーナは古くは華族の家柄の淑女でありレスラーなのである。
     力任せに放り投げた狼を追いかけるようにオーラキャノン!
    「私も!」
     かぶせるように、イトセもマジックミサイルを放ち、狼の横っ腹を撃ち抜いた。
    「やった!」
     というイトセの声が終わらぬうちに、唐突に狼のものではない、動物の叫びが耳に届き、とっさに振り向いた。
    「増援!?」
     新たに現れた狩猟犬に似たイフリートに驚く。ソロモンの悪魔の軍勢と戦って余力のないイフリート達に増援などできるものだろうか。
     いや、違うかと歩夏は思い直す。
     まだ逃げ遅れたイフリートがいたというわけだ。
     志命のサウンドシャッターでこの辺りの音は外部から遮断してある。でなければより多くのイフリートに気づかれていたかも知れない。
     犬は仲間を救うべく跳びかかってくる。
    「……邪魔を、するなぁ!」
     しかし、志命は日本刀の柄の一撃で犬を黙らせ、狼へと迫る。志命めがけ、狼は渾身の魔力を込めて光弾を放つ。触れるものすべてを灼き尽くす恐るべき威力を秘めた光を、受け止めたのは志命ではなく、フランキスカの持つ剣オスト=ブリッツだった。
    「この身は盾、この身は剣。害するも護り退くも能わぬと心得よ!」
    「……フランキスカ」
    「躊躇うことはない! 務めを果たされよ」
     ルーンの刻まれた刀身が軋みを上げ、フランキスカが遂に耐えきれず吹き飛ばされる。
     けれど、志命は振り返らない。狼の爪で胸を裂かれながら、日本刀を逆さに持ち替え、狼の首筋に突き立てた。
    「今だ!」
     志命の叫びに応え、飛鳥のナイフが小気味いい音をたてて狼の後ろ足を斬り飛ばし、凪紗の導眠符が狼の頭部で激しい魔力の迸りを見せた。
     そして、全身を光輝かせクリスティーナが蹴りを放つ。
     自然エネルギー自給率トップの大分県、その地熱発電エネルギーがどうやってか彼女に集まる。
    「ジオサーマルキーック!」
     激しい放電現象にも似た演出の後。
     そこに身動きを止めた狼の姿があった。
    「やった……?」
     そう、やった。
     凪紗達は魔光狼を討ち取ったのだった。

    「まだやるか?」
     魔光狼が倒れたことで、一体となった犬のイフリートに歩夏は問いかける。
     正直連戦はきついが、こちらはまだ誰も倒れていない。今もイトセと雛菊がフランキスカの傷を癒している。
     犬は脅え、きびすを返した。イフリートとしては魔光狼より格下の小物であるのだろう。臆病だが、けれど賢明だ。ここで意地を張っても、何も得るものはないのだから。
    「まぁ、逃がさないんだけどな」
     クリスティーナのビハインド、グロウと凪紗がとおせんぼ。
    「君はどんな音がするかな?」
     背中から聞こえる飛鳥の言葉は死刑宣告のようで、事実その通りになったのだった。


     結局ニ体のイフリートを仕留めることに成功した。
     イトセの心霊手術を受けながら、リベンジを果たした四人の顔は晴れやかだった。
     武の道。ご当地の誇り。破壊衝動。役に立てなかったという自責。
     あの日課せられた重い枷がようやく外せた気がする。もちろん、本当の道は、まだまだこれからだけれども。本当につらいことはまだまだいくらもあるだろうけども。
     日暮れが近づいてきたことを知らせる、湿り気を帯びてきた空気。
    「結局全然もふもふできませんでしたー」
     不満そうな雛菊の声が仲間達に笑みを浮かべさせたのだった。

    作者:池田コント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月5日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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