「鶴見岳から日本各地へと散ったイフリート達の目論見は皆さんの活躍により防がれたようです。お疲れ様でした」
やわらかな頬笑みを浮かべ、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は灼滅者達をねぎらった。
とはいえ、こうして灼滅者を呼び出したのだ。話はそれだけではない。
「今回の事態を受けて、鶴見岳の調査をしようと準備を進めていたのですが……」
想定外の未来予測を得たのだと姫子はノートを開いた。
「現在、鶴見岳周辺にはソロモンの悪魔の一派が率いる軍勢が集結しています。作戦の失敗により戦力を減らしたイフリート達を攻め滅ぼす準備を整えているみたいですね」
ソロモンの悪魔の目的は、イフリート達が集めた力を横取りすることだろう。
集結した軍勢は、ダークネスに匹敵するほどに強化された一般人――ソロモンの悪魔から『デモノイド』と呼ばれている――が主力となっているようだ。
「放っておけば、この戦いはソロモンの悪魔側の勝利に終わります」
その結果、ソロモンの悪魔の軍勢は鶴見岳の力を得てさらに強大な勢力になる。
また、敗北したイフリート達は一点突破で包囲を破り、鶴見岳から姿を消す。ソロモンの悪魔の軍勢は鶴見岳の力さえ奪えればいいと判断したのか、逃走するイフリートに対してはほとんど攻撃をしかけない。つまりイフリートもかなりの戦力を残すことになる。
このままだとソロモンの悪魔の一派が強力な力を得る上にイフリートの戦力もさして削れないという事態が待っているのだ。
「さすがにそれは困った事になりそうですから、皆さんの出番というわけです」
顔を上げた姫子がにこりと笑んだ。
現在の武蔵坂学園に2つのダークネス組織と正面から戦う力はない。
2つの組織の争いを利用しつつ、最善の結果を引き出せるように介入する必要があった。
「そこで今回の作戦です。介入ポイントは3つ。この中からどこに向かうかは皆さんが決めてください」
ひとつ。鶴見岳に攻めるソロモンの悪魔の軍勢を後ろから攻撃する。
イフリート達と灼滅者とで挟撃する形になるので有利に戦う事が出来る。
ただし、別府温泉のイフリートを灼滅してきた灼滅者もイフリートにとっては憎むべき敵であるため、イフリートと戦場で出会ってしまうと三つ巴の戦いになるだろう。
ソロモンの悪魔の軍勢を壊滅させた場合はイフリート達は灼滅者との連戦を避けて脱出する。
「この軍勢を壊滅させることが出来れば、鶴見岳の力を奪われるのを阻止することが出来ます」
ふたつめは、鶴見岳のふもとにある『ソロモンの悪魔の司令部』を急襲する選択だ。
司令部にはソロモンの悪魔の姿が多数あり、戦力はかなり高いと想定される。普段は表に出てこないソロモンの悪魔と直接戦うチャンスと言えるかもしれない。
「ただ、鶴見岳の作戦さえ成功させれば司令部は戦わずに撤退します」
無理に戦う必要はないかもしれないと姫子は首を傾けた。
司令部を壊滅しても、鶴見岳を制圧されてしまえば鶴見岳の力の一部はソロモンの悪魔に奪われてしまう。
とはいえ、多くのソロモンの悪魔を灼滅できれば組織を弱体化させられる。どちらがいいというものでもないだろう。
そして最後の選択肢は、イフリートの脱出を阻止して灼滅すること。
鶴見岳から敗走したイフリートが各地で事件を起こすだろうことは想像に難くない。それを未然に防ぐためにも、イフリートの脱出阻止は重要な仕事になるだろう。
イフリート達はソロモンの悪魔の軍勢との戦いで疲弊しているため、千載一遇のチャンスと言える。
右手の指を1本ずつ立てて説明を終えると、姫子はノートを閉じた。
「ダークネス同士の大規模な争いに介入するのですから、どこへ向かうにしても危険は多いと思われます。どうぞお気をつけて」
穏やかに浮かべた笑みの中、わずかに緊張をにじませて姫子は一同を見渡した。
参加者 | |
---|---|
十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576) |
錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730) |
中島・陽(ハートフルメカニック・d03774) |
六連・光(リヴォルヴァー・d04322) |
加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786) |
雨積・熾(白馬の王子様・d06187) |
天王寺・司(龍装闘士ドラグレイカー・d08234) |
黒崎・白(黒くて白い女・d11436) |
●選んだ先
空は薄灰の雲に覆われ、葉を落とした木々は霧氷を装う。色彩を失ったかのような景色の中では吐く息さえも白かった。雪と湿った土でまだらな地面が靴音を吸収する。
前方、ソロモンの悪魔の軍勢がいるだろう方角からはなるべく陰になる場所を選んで斜面を登る。まだ戦いの音は聞こえない。
「イフリート退治したと思ったら次はソロモンの悪魔かよ!」
「漁夫の利狙おうとは何て卑怯な! おいたをする子にはお仕置きが必要っすね」
嘆息した雨積・熾(白馬の王子様・d06187)に十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)が軽い口調で頷いた。
おいたと評するにはあまりに相手の力は強大だったが、こっちが苦労した後になっておいしいとこだけ持って行かれてはたまったものではない。
中島・陽(ハートフルメカニック・d03774)が双眼鏡を握る手に力を込める。
「まぁどのダークネスが力つけるのも厄介だしもう一頑張りさせて貰おうじゃない!」
確かな足取りで進む灼滅者達の中、後ろを歩く加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786)はそっと傍らを歩く霊犬の頭を撫でた。やわらかな毛並が震える指を温めてくれる。
「さっちゃん……ありがとう」
細く息を吐けば、くるりと狭霧が振り向いた。
「こーんな綺麗な場所、ソロモンの悪魔には勿体無いっしょ?」
両腕を広げて周囲を示す。
霧氷に覆われて白い枝を伸ばす木々は、青空の下ならばさぞや美しく輝いたことだろう。
空を見上げ、錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)は口元を緩めた。
「そうだね。恐いけど頑張るんだよ。ね、加賀谷ちゃん」
「はい。さゆも、さっちゃんと一緒に頑張る……です」
頷きあって零れた笑み。
斜面についた足跡を追うことしばし。
やがて木々の向こうに見えた人影に、六連・光(リヴォルヴァー・d04322)が腰を落とした。
「あれですか」
「前ばかり向いて、登山にでも来たんですかね」
警戒行動をとることもしていないのか。黒崎・白(黒くて白い女・d11436)は微笑を浮かべたまま鼻を鳴らした。
こちらに背を向けている集団は目につく範囲で10人程。灼滅者達の接近に気付いた様子はない。
山頂付近ではもう戦闘が始まっているようだった。ここからではイフリートと交戦している前線までは窺えない。
このまま木陰に潜み、イフリートが劣勢になるのを待ってからしかける――そのつもりであったが。
鶴見岳に集まった灼滅者の半数以上がこの作戦に名乗りを上げた。ここにいる8人だけではなく、同様に軍勢の背後に迫っている仲間がいる。ゆえに、攻撃のタイミングは合わせる必要があった。
異なる意見を総合した結果、イフリートが消耗するまでは待たず、ソロモンの悪魔の軍勢が攻撃を仕掛けた頃合いを狙うことで合意した。
つまり、今。
素早く視線を交わすと、灼滅者達は一気に駆け出した。
「……行くぜ!」
天王寺・司(龍装闘士ドラグレイカー・d08234)が武器を握る手に力を込める。フェンリルと名付けられたライドキャリバーが唸りを上げて機銃から火を噴いた。
「武蔵坂学園所属、六連・光……この宴、我々も混ぜて頂きます」
「はっじめましょーっと」
ばらまかれる銃弾の援護を受けて、光と狭霧が前に出る。
敵はろくな隊列も組んでいない。背を向けていた手近な位置にいる男を漆黒の穂先と白い刃が捉えた。
「ぎゃあああぁっ!?」
薄汚れたスーツが切り裂かれ、鮮血と悲鳴が溢れだす。
戦端は切って落とされた。
●幕開け
泥が跳ね、悲鳴が上がる。
背後からの奇襲は功を奏し、早々に2人までを地に伏せた。
予想以上にあっけない。ざわめきながら振り向く敵を見渡し、琴弓はステップを踏んで攻撃の態勢を整える。
「この人たち、ただの強化一般人なんだよ」
「デモノイドとやらはこのあたりにはいないみたいだな」
目の前の奴らにダークネスに匹敵すると言われる程の力はない。
熾がWOKシールドで殴りかかってきた男の拳をいなし、視線を山頂に滑らせた。ところどころ木々が本来の色を取り戻しているのはイフリートの熱に煽られてか。
デモノイドは彼らにとっての最前線でイフリートと戦っているのだろう。
「だったらこんなところでもたもたしてられないね!」
陽が眉をつりあげた。鋭く振りぬいた右手の先で輝くスペード。放たれた光がヤクザめいたサングラスの男にヒットした。
右手を懐に入れた男の横へ狭霧が回り込む。腕を引き抜くよりも早く走る刃。白刃散華が脇腹から背中を切り裂いた。
「1体ずつ減らしていくっすよ!」
頷いた彩雪が小さな手に繊細なロッドを握りこむ。水晶の六花がきらめき、先端から雷が放たれた。
「さっちゃん……おねがい、ね」
「わう!」
守るように四足を踏ん張っていたさっちゃんが同じ敵に向かって刃を一閃する。
「ぐぁっ」
「くそ、なんだこいつら!?」
強化一般人たちは戸惑いながらやみくもに反撃するばかり。その一撃もひとつひとつは脅威と呼べるほどの威力を持たない。
「この程度ですか」
眉間にしわを寄せ、光が黒塗りの槍を振るう。束ねた黒髪が背中に跳ねた。
白がにこりと微笑む。
「痛くても泣かないでくださいね」
「がっ!」
繰り出された腕の下から懐へと潜り込み、鋼の如く固めた拳を叩きこむ。男の体がくの字に折れた。
たたらを踏んだ男に放たれる一条の雷。
「テメエの為に閻魔様が首をながーくして待ってるぜ?」
司の人差し指がまっすぐにつきつけられる。冷えた空気が震え、かわしきれなかった男が黒ずんだ地面に倒れた。
隣に立っていた女が息を飲む。
だが、容赦するわけにはいかない。
琴弓は足を開いて地面を踏みしめ、黒玉の瞳を細めた。
「お願い、力を貸して」
足元でうねる影が牙をむき、一度大きく跳ねてから一歩退こうとした女を絡め取った。濁った悲鳴が響く。
1人、2人。いくらかの傷は負えども灼滅者の優位は揺るがず、ソロモンの悪魔に力を与えられた強化一般人は着実にその数を減らした。
「こん、な……っ」
熾の放った紅の逆十字が最後の敵を引き裂いた。
息を整えて顔を上げる。
光が山頂に向けて一歩踏み出した。生臭い空気の中、木立の向こうからはまだ戦いの音が聞こえてくる。
「行きましょう……此処はまだ戦場です」
「そうだね。本番はこの先だ」
頷き、陽が拳を握る。
ソロモンの悪魔が鶴見岳の力を奪うために差し向けた軍勢の主力はおそらくまだイフリートと交戦中のはず。
怪我が浅いことを確かめると、一行は山頂目指して駆け出した。
●悪魔に生みだされし者
溶けた雪。山頂に近付きまばらになった木々は焦げ茶の枝を伸ばす。
こころなしか風さえも暖かく、イフリートの存在をいやがおうにも意識した。だが、今倒すべき相手は幻獣ではない。
「今回は二の次です」
「次会ったら容赦しないぜ!」
目を細める光に、熾は奥歯を噛んで頷いた。ゆっくりと息を吐きだして左右に視線を走らせる。
「……!!」
小枝の折れる音。
一斉に視線を向けた灼滅者達は目を見開いた。
「こいつが、デモノイド……?」
強化された一般人。その説明からは予想もしない異形の姿が目の前にあった。
上半身ばかりが異常に発達した獣じみた体躯。鮫のように口に並ぶ牙。皮膚を失ったかのようにグロテスクな体表は青く、首や腕に防具にしてはさしたる用をなさない金属がはまっていた。
杭のような爪跡を地面に残しながらデモノイドは前方を斜めに進む。彼もまたひとつの戦闘を終えて移動中だったのか。今いるのは目の前の1体だけだ。
迷う余地はない。
こちらを意に介せず通り過ぎようとするデモノイドの腕を白刃散華が切り裂いた。
「ワンちゃんとじゃなくて、俺らと遊びません?」
瞳に悪戯めいた輝きを宿す狭霧。
デモノイドの足元に無数の銃弾が跳ねる。大きく裂けた口ばかりが目立つ顔がこちらを向いた。
「龍装闘士ドラグレイカー……参上っ!!」
しかと大地を踏みしめて構えを取る司。フェンリルがタイヤをきしませて敵の前方に回り込んだ。
「ここで会ったが百年目だ。ヒーローとしちゃあ見逃すわけにはいかないぜ」
「グゥ……」
イフリートだけを敵と認識していたのか。正確なところは知る由もないが、攻撃のチャンスを見逃す理由はない。
足元で暴れる影をなだめるかのように、琴弓の足がリズムを刻む。爪先にまで張り巡らされる意識。
「今のうちなんだよ!」
「穿て」
琴弓は影もとろもに踊りこみ、光は抉るように鴉の槍を繰り出した。
悪魔に力を与えられた存在の異様な姿に細い声を震わせつつも、彩雪は六花の聖杖を強く握る。
「あなたたちには、絶対に負けない……です!」
力強い鳴き声はさっちゃん。四足を踏ん張り、デモノイドの行く手をふさぐ。
陽がトランプを1枚手挟んだ。眼前に構えたケイト・オブ・スペード。漆黒の一撃は敵を蝕む毒となる。
白が拳にオーラを纏わせ、熾は視線を引き付けるべくWOKシールドで殴りかかった。
「ヴ、ヴゥ……!」
デモノイドが緩慢に首を巡らせた。
牙の隙間から零れた呻きすら獣じみて。
丸太ほどある腕が脈打った。盛り上がった肉が嫌な音を立てる。
「来るっすよ!」
「ヴアアァッ」
腰を落とし、狭霧が叫んだ。
左腕全体を覆うように生みだされたアームブレードが前衛に襲いかかる。とっさに熾は近くにいた光の前に立ち、両腕を交差した。重量の乗った斬撃は叩き斬ると言うにふさわしく骨をきしませる。舞い散る赤。
「……ッ」
「ソロモンの悪魔の配下にしては力押しなんですね」
詰まった息を吐きだして唇の端を持ち上げる白。シールドを眼前に掲げる。仲間ごと守るように大きく障壁が広がった。
白の発言は皮肉であると同時に本心からの言葉でもあった。
その剛腕から繰り出される一撃の重さはたった今、嫌という程味わわされた。
「だからこそ、戦う……意味があるというものだ!」
滴る血をものともせず、光が駆ける。黒髪が踊る。繰り出した連打に対する手ごたえは浅い。オーラを膨らませ、槍を握りしめる表情はいっそ歓喜すら感じさせた。
簡単には当たってくれない。なるほどダークネスに匹敵するというだけのことはある。
司が腰を落とし、両腕を力強く突き出した。双眸はまっすぐ敵に狙いを定め、輝き溢れるガイアパワーを解き放つ。
「喰らえドラゴンビーム!!」
「グァ……ッ!」
盛り上がった肩にビームが炸裂。
できそこないの翼のように背中に伸びた繊維質の一部が千切れた。
デモノイドに迫る仲間の背を見つめ、彩雪も細い眉をつりあげた。杖から手早く弓に持ち替え、癒しの矢を放つ。
「後ろは任せて、です。さゆたちが回復するです」
「守って、ファミリアっ!」
陽の指がデッキからカードを引き抜く。ハートの9。四醒星トランプ・ファミリアーが展開した。
あたたかな矢と輝きを受けて、狭霧と熾の怪我が和らいだ。軽く掲げた手で感謝を伝え、瞳はデモノイドの動きを観察し続ける。
守りを任せた灼滅者は吠え猛る青い異形を取り囲んだ。同時に、あるいはわざとタイミングをずらし、攻撃を重ねていく。
強烈な一撃をしのいださっちゃんが口にくわえた退魔神器で斬りかかった。
「さっちゃんの傷も……すぐ治すからね」
「さあ、かかってこい!」
シールドを展開した熾が牽制の一撃を放つ。デモノイドが首を巡らせたその隙に回り込んだ狭霧の右手が白刃を閃かせる。
「余所見してると痛い目見ますよ、と! ここっす、琴弓センパイ!」
「わかった、合わせるんだよ!」
自分の腕を抱きしめる指先に力を込め、琴弓は額に汗を浮かべる。影が膨れ上がった。デモノイドのものに勝るとも劣らぬ爪を備えた腕へと形を変える。
「お願いだから、言う事聞いて」
風に紛れる程の囁き。影の腕がぐんと伸びて、青い剛腕に絡みついた。
僅かにデモノイドの動きが鈍る。
ぎこちなく振りまわした腕は空を切り、対峙する者の髪を揺らすのみ。白の唇が弧を描く。
「羽虫かと思いました。山中ですもんね」
すかさず固めた拳を振り上げる。
腕に備えた刃の腹で受け止められた。鈍い音がこだまする。見えた脇腹めがけて繰り出されるのは鴉の槍。手首の返しで螺旋を描く穂先が肉をえぐった。
「来なさい悪魔……この程度ではないでしょう?」
鋭い牙をむき、咆哮を上げるデモノイド。
空気を震わせる声にエンジン音が重なった。歪んだハンドル、へこんだマフラー。傷だらけのボディで宙に飛んだフェンリルがデモノイドの背に突撃する。回転するタイヤが傷口を広げた。
「ヴ、グオオォ……!」
「フェンリルッ!」
デモノイドの巨大な刃が一閃。タイヤをきしませたライドキャリバーはさっちゃんの前に躍り出て、そのままパーツを弾けさせた。
司の眉がつりあがる。
「くっ」
陽の手にハートが閃き、ファミリアーが動いた。血の止まった腕でナイフを振るう狭霧。
「お願い、あと少し……!」
「ここまでだ!!」
琴弓と白、彩雪に名を呼ばれたさっちゃんも後に続き、司の掌に溢れたガイアパワーが熱く輝く。
前後左右。視界では捉えきれぬ角度から影が爪を伸ばし、拳が唸り、刃が閃き、一条の光線は狙い過たずデモノイドの胸を貫いた。
「グ、ウ、ウアアアアアアアァッ!!」
響き渡る悲鳴。
すでに人ならざる体躯が大きく傾いだ。同時に青い体は支える力を失ったかのごとくどろりと崩れはじめる。息を飲む間にその姿は形を保つことなく完全に溶けて消えうせた。
●静かなる勝鬨
「溶けちゃった、です」
ぱちりと彩雪の瞳が瞬いた。巨大な爪跡だけが残る地面を見つめる。小さく震える肩を熾が叩いた。
「大丈夫か?」
「はいです。それより……」
「皆、怪我は大丈夫かい?」
台詞を引き継いだ陽が一同を見渡した。
さすがに無傷とはいかず、必死に酸素を取り込む喉がゼイゼイと音を立てた。声を出す代わりに首肯する琴弓。
「まだ敵がいるかもしれません。いけますか?」
「ああ。ヒーローとしちゃあ立ち止まるわけにゃいかないぜ」
深呼吸ひとつで声を落ち着ける光。司の視線が山頂に向けられる。いつの間にか雲の向こうで太陽は沈んでいたらしく、遠くの景色は見晴かせない。
同時に作戦に当たった仲間たちがどうなったのか。戦況はどうなっているのか。
首を巡らせた狭霧が笑顔を向けた。
「少なくともこっちが劣勢ってことはなさそうっすけどねー」
「ダメージがたまっていますから、先へ進むにしても慎重に行きましょう」
白の言葉に頷いて、全員で歩き出した。
雲に覆われた空は暗灰色へと変わり、山の景色も夜の色を浮かべている。静かな風が火照った頬をやさしく撫でて通り過ぎた。
ソロモンの悪魔の軍勢を壊滅させ、作戦は成功に終わったと知るのは程なくしてのことである。
作者:柚井しい奈 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年2月5日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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