鶴見岳の激突~ホロロギウム・デモン

    作者:遊悠

    ●鶴見岳、動乱
    「やっほぅーみんな! 今日も集まってくれたかな。葉子さんだよ!」
     汀・葉子(中学生エクスブレイン・dn0042)は両手に沢山の荷物を携え、灼滅者達の前へと姿を現した。そのうちの一つ、紙袋から謎の小さな腕のようなものが見え隠れしている。
    「鶴見岳での事件で、頑張ってくれた人もいるかな? その事件はみんなの活躍で武蔵坂学園の大勝利に終わったわ! イフリート達も勢力を弱めて、ガイオウガちゃん……で良かったっけ? その子の復活も、一先ずはお流れになったみたいね」
     葉子は表情を綻ばせ、皆を労い、満足気に頷く。しかし。
    「本当なら、大祝勝会って事で、葉子さんも腕によりをかけて手料理振舞ってあげたい処なんだけど。どうやらそうも言ってられないようなんだわさ」
     葉子が言うには――今回の事件を受け武蔵坂学園は、鶴見岳の念入りな調査と、その原因の解決を行うべく準備を進めていた。だがとある勢力から想定外の横槍を受け、計画に支障が出始めているというのだ。
     その勢力の名は――。
    「ソロモンの悪魔ッ!」
     魔法使い達にとっての怨敵、ソロモンの悪魔達。悪魔達は現在、鶴見岳周辺に大挙を成して集結し始めている。軍勢の主力は今までとは比べ物にならないほどに強化された一般人達、悪魔の傀儡『デモノイド』が荷っているようだ。そしてその目的は『鶴見岳に眠る力の強奪』にある――そう葉子は告げた。
    「本来なら、ダークネス達の勢力争いなわけだし、葉子たち武蔵坂学園が危険を冒してまで関わるにはリスクが大きいんだけど、この事件を放置しておくわけにもいかないの。その場合ソロモンの悪魔達の勝利に終わって、鶴見岳の力を邪まな目的の為に使用し、更に強力な勢力となるわ。敗北したイフリート達も、一点突破の逃走を計って多くの戦力を温存できる事になるわ。悪魔達もとりあえず鶴見岳の力を手に入れれば、事を交える必要もないみたいだからね――それが葉子の視た未来。灼滅者のみんなにとっては、あまり良くない未来だわね」
     放置しても碌な事にはならない。それが葉子の、延いては武蔵坂学園の結論のようだった。
    「今の学園には、多勢力のダークネス達と同時に、正面から戦う力は無いけど――」
     葉子は集まった灼滅者達を指差し、ポーズを決める。
    「窮地は、転じれば好機にもなるわ! この勢力争いを逆手に取って、みんなにとっての最善の結果になるよう、介入を行って欲しいのさッ!」
     檄を飛ばし終えた葉子は、忙しなく何事かの準備をし始めた。ホワイトボードなどを用意し、鶴見岳周辺の地図とそれに関する註釈を書き込んでいる。
     次に、マグネットが背面についた人形――先ほど見えた謎の腕の正体だろう――を各所に貼り付けた。人形はそれぞれ、ソロモンの悪魔、イフリート、灼滅者達を模している……ものと思われる。
     というのもその手製らしき人形は、何処か歪で陳腐。言われなければ赤い羊だとか、スケアクロウもどきにしか見えない。葉子に小物作製の才が無い事を伺わせる。
     その後やや唖然としている灼滅者達に、小冊子が配られた。表題には『介入のしおり』と書かれている。
    「今回の作戦でみんなには、主に3つの任務が存在するわ。全部をこなすんじゃなくて、班毎に1つの任務に専念する形ね。それじゃ今から説明するから、改めて手元のしおりを御覧下さーい」


    ●介入のしおり1『悪魔への挟撃』
     葉子はホワイトボードの人形を動かす。イフリートと争うソロモンの悪魔の背後から奇襲を仕掛け、更にそれが挟み撃ちとなる形だ。
    「先ずは、こう。ソロモンの悪魔の主力部隊に奇襲を仕掛けて、イフリート勢力を利用した挟撃の形に持っていく任務ね。主力部隊の戦力を削ぎ落すのだから、当然悪魔達の計画の妨害にも繋がるわ。ただ、動き方には細心の注意が必要よ。イフリートだって敵だもの、敵の敵は味方――みたいに都合よくは行かないのね。最悪三つ巴になり兼ねないから、上手くイフリートの動向を利用しましょう! 悪魔を倒せば彼ら? も無用な連戦は避けるはずだわ」
     しおりには想定される敵の事が記されていた。デモノイド『ホロロギウム』――とけい座を冠する悪魔の傀儡だ。更にイフリートの情報が記されている。

    ●介入のしおり2『司令部強襲』
     次に葉子は、鶴見岳のふもと近辺を指差した。そこには何やら不気味な道化師の人形が置かれている。
    「次はここ。ソロモンの悪魔の司令部。悪魔達はここを拠点に司令を発しているみたい。ソロモンの悪魔の姿も確認されているから、危険度も戦力も当然高いわ。ただ、その分普段は隠れてばっかりな悪魔本体を叩けるチャンスでもあるんだけど……無理に狙う事はないわね。目論みが失敗したら逃げちゃうみたいだもん」
     しおりには、何も書かれてはいなかった。想定される敵は不明――不気味さだけが感じられた。

    ●介入のしおり3『イフリートの掃討』
     最後に葉子は赤い毛むくじゃらが、鶴見岳から離れるように人形を動かした。
    「最後は撤退を行うイフリート達を掃討する事だわよ。逃走したイフリートは疲れを癒し次第、色んなところで悪さをするだろうしね。見逃すわけには行かないわね。幸い悪魔達との戦闘で疲弊しているはずだから、より多くのイフリートを灼滅できるチャンスでもあるわ!」
     しおりには、へろへろヨレヨレなイフリートの図が描き込まれていた。だが疲弊しているとは言え、複数を相手取るには危険が伴う。油断できない相手だ。


    「――以上3つが、みんなにお願いしたい任務よ。この中から一つ、専念する任務を決めて行って欲しいの」
     説明を終え、葉子は静かにしおりを閉じる。そして集まった灼滅者達を見渡した。
    「厳しい任務かも知れないけど、この介入が成功すれば勢力図は大きく変わるはずだわ。だから、やっちゃえ! 灼滅者ッ! 闇なんて殴り飛ばしちゃえ!」


    参加者
    一橋・智巳(強き『魂』を求めし者・d01340)
    橘・蒼朱(アンバランス・d02079)
    四季咲・青竜(句芒のフェーガト・d02940)
    遊城・律(炎の大和魂・d03218)
    泉・星流(箒好き魔法使い・d03734)
    永瀬・京介(孤独の旅人・d06101)
    支守・みこと(うたかたびと・d06599)
    ネアル・ミューデルタ(漢字を勉強中・d13184)

    ■リプレイ

    ●挟撃開始!
     鶴見岳――ソロモンの悪魔達とイフリート達との戦いの火蓋は、切って落された。同時に掣肘を目論む一橋・智巳(強き『魂』を求めし者・d01340)を初めとした灼滅者達の一団も、颯爽と動き始める。
     悪魔の主戦力と炎獣達の対峙する戦場は、既に混迷を極めており、あらゆる場所から怒号が聞こえ、火の手が煌々と輝いている。
    「敵の数もさることながら、正に死地だね。強敵達の雰囲気が漂っているね――何時も通り、行こうか相棒」
     仲間達と山岳のふもとを駆ける橘・蒼朱(アンバランス・d02079)は静かにその闘志を湛え、ビハインド『ノウン』と共に戦闘態勢を整える。
    「ハハッ、誰であろうが関係ねェや。強敵、上等! 喧嘩は派手な方が、魂も震えるってもんだぜェ――カカカッ」
     蒼朱の言葉に、智巳は酷く楽しげに嗤った――脳裏を過るは、先日合間見えたイフリート。螺旋の炎と共に塵と化した巨躯。今回の『喧嘩相手』はそれすらをも上回るかも知れない――この感情が歓喜と言われれば、彼は決して否定をしないだろう。
    「……それに、しても……」
     先行する皆々に一歩退いて、静かな呟きをネアル・ミューデルタ(漢字を勉強中・d13184)は行う。
    「周りは、騒がしい……ネアは、これが、初任務……何時も、こう……?」
    「ううん、わたしもここまでの混雑は――強敵と戦うのは初めて――燃えちゃうね」
    「燃え……?」
     お気楽のんびりな口調ながらも、力強い色めきを放つ四季咲・青竜(句芒のフェーガト・d02940)の言葉に、ネアは小首を傾げて見せた。
    「気合充分って事さ☆ さ、そろそろ敵の本陣だね。イフリート達と直接鉢合わせしないように、行こう!」
     魔法使いらしく、空飛ぶ箒に乗った泉・星流(箒好き魔法使い・d03734)が視線の先に、ソロモンの悪魔の集団を確認する。
     灼滅者達を出迎えたのは、ソロモンの悪魔によって強化された一般人たちだった。だが彼らは既にイフリートとの戦いでの消耗によって青色吐息であり、前々へと突き進む一行の前には、鎧袖一触に等しいものだった。
     同じく敵の主力部隊を背後から叩く事任務を荷った、武蔵坂学園の仲間達の中には、既に戦闘を開始しているグループも見られた。
     鶴見岳の戦場には、その痕が痛々しい程に刻まれ、大地には地に臥す敗北者達の姿も少なからず存在している――。
    「――ウゥウン――」
     その時、何かが哭いた。
    「――何、だよ。アレ」
     慟哭の主を目にした遊城・律(炎の大和魂・d03218)は思わず戦慄の唸りをあげた。
     『それ』は人間の成れの果て――生皮を全て剥がされ、表皮の代わりに蠢く青黒い筋肉繊維と血管が浮き出ている。その上から数々の拘束具を身につけたその姿は、人体模型を一瞥した時のような嫌悪感と恐怖を齎した。
     醜く改造された口元からは、灰白色の涎飛沫を滴らせ、カチカチカチと雀蜂が獲物を前に威嚇を行うような音を絶え間なく垂れ流している。
     巨大な体躯の異形の姿。これこそがデモノイド! 邪悪な力が肥大化し、力の解放と全ての崩壊を望んでいるかのようだった。
    「これが……デモノイド……」
     支守・みこと(うたかたびと・d06599)はそれ以上の言葉を失う。この異形は嘗ては人間だったのだ。ただのありふれた人間、そのものだった。その過程は、恐らくは悪魔の所業と呼ぶに相応しい、狂気に満ち満ちているのだろう。
    「……さあ、旅の始まりだ――だが、どうにも。その先に凶事は避けられないようだな」
     永瀬・京介(孤独の旅人・d06101)は一種の覚悟を決め、自らのスレイヤーカードを起動させた。

    ●デモノイドとの戦い
    「流石にちょっとグロい……強化一般人というよりは、改造人間だな」
     星流は僅かに眉を潜めて、先陣の一撃を放った。デモノイドは唸るばかりで心ここに在らず――まるで何かを夢見て、まどろんでいるようにも見えた。
    「カハハッ、ナンだァ!? 図体ばかりの木偶の棒かよッ! それじゃ響かねェぞッ!」
     智巳は竜の力をその身に宿し、戦闘体勢を取ると一気に間合いを詰めては、異形の巨躯に覇撃を放つ。
     ギュルリッ。
     そんな音がして、デモノイドの頭らしき部位が智巳へと向けられた。
    「――ッ」
     智巳が背筋を舐め上げるような寒気を感じたと同時に、デモノイドの身体がメキメキと音を立て、変貌していく。身体の全体から刃が噴出するような錯覚――それと共に、智巳は鮮血に染まった。
    「ガッ……ハ、ハッ、カ、ハァッ!」
     『何だこりゃ。大したことねェぜ!』そう叫びたかった智巳だったが、出血のため意識を持っていかれそうになり、挑発も侭ならない。
    「大丈夫ですか……!? い、今回復をしますっ……!」
     すぐさまみことは智巳の手当てを行い、同じくネアもそれに続いた。
    「……厄介。あれ、化物、怪物、鬼畜生。でも大丈夫、ネアは、仲間を死なせたりは、しない……」
     何処と無く拙い日本語と共に、ネアも集中して治療を行うが、智巳の逸りはそれすらもまどろっこしく感じられていた。
    「グッ……カ、カハハッ、早いとこ頼むわァ……もう一度、行ってくるからよォッ……早くッ……早くだッ!」
    「智巳、怪我人は、絶対安静……」
    「いっでェ」
     ぺちりこ。ネアの軽やかな制止で智巳は僅かながらも沈黙した。
    「しかし、身体をある程度自由に変貌できる攻撃は、厄介だね……これはノウンの言うようにワクワクはしてられないかな……!」
     蒼朱は制約の弾丸を放ち、デモノイドの行動を阻害せんと布石を行う。だが、異形の周りを、靄のような瘴気めいたものが取り囲み攻撃を防いだ。
    「――ソロモンの悪魔の、眷属かッ! やっぱり速攻勝負とはさせてくれないかな……!」
     律は炎の剣を以って、亡霊のように姿を現した眷属達を祓わんとする。だが堅固な眷属の護りを超えて、蛇腹剣のように伸びた異形の触腕が律を捉える。
    「しまッ――」
    「安心しろ、血反吐ぶちまけてでも護ってやるッ! 俺に構う事無く、思う存分化物をぶちのめせッ!」
     致命の一撃から律を護ったのは京介だ。だが、身を挺した守護では生ける盾も無事では済まない。護りに使用した腕ごと吹き飛ばされたのではないかと思うほどの衝撃と共に、京介は弾き飛ばされる。
    「くッ……! あんたも元は人間だったんだろうッ! アンタはアンタの意志で戦ってんのかよ!」
     二度目は受けきれない――そう感じた京介は続け様の追撃を、少しでも防ぐ為のささやかな時間稼ぎを試みる。
    「けらけら」「けらけら」「けけけけ」「きききき」
     その言葉に嘲笑を以って応えたのは、四体の眷属達だった。
     
    「ウゥウウウゥウウウゥゥウウウゥゥウウウウ――――ッ」
    「無理ッ!」「無駄ッ!」「無残ッ!」「ずゥァァァァんねんでしたァァァァァァ――ッ!」
    「「「「ウッケッヒャッヒャァヒャァア!」」」」
     ゼンマイ仕掛けが壊れたかのように、眷属達は狂ったように笑い出す。
    「一発必中一撃必殺ッ!!」
     嘲笑を掻き消すかのように、星流のマジックミサイルが眷属達へと向けて乱射される。嘲笑は木霊に変わって、眷属達は金切り声のような悲鳴をあげた。
    「そういう笑い声、ちょっと癇に障るんだよね……以前遭った悪魔を思い出しちゃってさ」
    「耳障り、ネアもとっても、耳障り……」
     ネアも京介に防護符を施しながら、僅かな不快感を眉間に表した。
    「最期の言葉も遺せない――憐れに想う。だが」
     京介の援護を受けて、青竜が突撃をする。
    「ま、とりあえずばらばらにしちゃうよ。そんな話を聞いたら、尚更負けられないもの!」
     ティアーズリッパー。誰かの涙を断ち切る刃。そんな名前の技が忌まわしき眷属達を切り裂いていく。勿論、青竜の瞳に涙は浮かんではおらず、平静で、平易な口調だったが、迸る剣閃は涙雫のように飛び散った。
     勿論、眷属達はその身とデモノイドを嗾けて、反撃に打って出る。眷属達の戦闘力は然程ではなかったが、やはり悲しき異形の破壊力は灼滅者達を大いに苦しめた。
    「悲しい話――それに、とっても恐ろしい話。でもだからこそ、私達は……あなた達の存在を許すわけには行かないんですっ……!」
     デモノイドの火力を押し返しているのは、祈りにも似たみことの歌声だった。清涼なる響きは、灼滅者達を鼓舞するように、傷を癒していく。
     やがて邪なる眷属達は、霧散するようにその力を失っていく。だがそれでもデモノイドの猛威は揺らぐ事がない。
    「――ウゥゥウン――」
     みことの歌声を掻き消すような、戦慄きの唸りは何処と無く悲しみの音色を湛えて、戦場に響き始めていた。

    ●腐り、果つ!
     暴風雨のように、暴れ狂うデモノイド。あふれ出すエネルギーは無尽蔵であるのかと見紛う如く、その動きは一向に衰える事は無い。
     その荒れ狂う風雨に、青竜は黒刃を以って悠然と突入する。無論、デモノイドの反撃も同時に行われる。異形に変形した凶刃が青竜を切り裂くのと、青竜の黒刃がデモノイドの大腿部に斬撃を加えたのはほぼ同時だった。
    「うっ……今のは痛かったな……でも……」
     唇に跳ね返った、自らの血飛沫を青竜はちろりと舐める。
    「――止めたよ。動いちゃ、ダメ」
     その好機を、灼滅者が見逃さなかった。
    「カ、ハッ! いいぜェ、今度こそ本当に木偶の坊になったわけだな! このまま一気に沈めてやらァッ!」
     先ほどの雪辱を晴らさんと、智巳は強烈な一撃をお見舞いする。揺らぐデモノイドに智巳は歪んだ哄笑を以って応える。
    「まだやらせてくれるってかァッ!」
     智巳の動きに呼応するように、蒼朱も『ノウス』と動きをあわせ、デモノイドを翻弄するような連携を披露する。
    「この動き――解るかな? 解った時にはもう遅い――かもね!」
     ノウスと、更には仲間達の動きを縫うように放たれる弾幕の嵐。鋼鉄のようだったデモノイドの肉皮が削られ、封じ込められていた体液が放出される。
    「もう、少し。一気に……みこと……合体、攻撃……GO……」
    「が、合体攻撃……ですか!? が、頑張ってみますっ……!」
     後衛に下がっていたみこととネアも、攻撃へと転じて一気にデモノイドを追い詰めた。
    「ウッ――ウウウウウッ――ンッ」
    「これも、オマケさ☆」
     機を伺っていた星流のマジックミサイルが、異形の頭部を撃ち貫いた。
     すると、青黒い異形の身体に明らかな異変が置き始めた。肉の腐ったような、咽返る腐敗衆と共に、膨張していた筋皮がボコボコと内部から煮え滾っていくように腐り始めた。
    「ウッ、ウウゥゥ――バアアアアアアアッ」
     押さえ込んでいたものを全て解放するように、断末魔染みた悲鳴をあげるデモノイド。異形は最早、グズグズに腐り落ちる肉の塊へと変貌しつつあった。
    「苦しいだろうな。――せめて、その苦しみが続かないようにしてやる……!」
     京介は迸る体液をものともせず、嘗ては人間であった同胞の為に、最期の一撃を放った。
     ――――。
     デモノイドは、そのまま物言わず大地に還った。無事灼滅は行われたのだ。
    「グ、ジュルルル……」
     だから、重く鳴り響いたその声はデモノイドのものでは無かった。

    ●嘲笑、そして
    「……しぶといね、まだこの世にしがみ付いているだなんて」
     律はその音の先に視線を向ける。それは倒したはずの眷属だった。一体のみ瀕死の状態でまだこの場に存在していたようだった。
    「フェッ、フォッ、フィィィ――ッ、お前、おま、お前達――」
    「何か言いたいのかな?」
     みことの回復を受けながら、青竜は血糊を拭っては舐める。眷属の今際の際の言葉に、耳を傾ける。
    「お前達――の――」
     その言葉と共に、背後から京介が吹き飛ばされた。
    「なッ……!?」
     灼滅者達の前に現れたのは、イフリートの獣頭!
     ありったけの嘲笑と同時に、炎を纏って突如として現れたイフリートが吼える!――……だがその咆哮は何処かで耳にしたものだった。
    「――ウゥウウンッ――」
    「二体目の、デモノイド――!?」
     目の前に現れたのは、イフリートの業炎に焼かれる新たなデモノイドだった。
     横っ面から奇襲を受け、手負いの青竜とノウスが同時に薙ぎ払われる。一時の勝利の余韻は、修羅場と塗り替えられた。
     ネアとみことはすぐさま援護の態勢に移るが、予期せぬ奇襲を立て直す事は容易ではなかった。
     このままでは――。
     全滅の二文字が、頭を過る。
    「(全滅をするくらいなら――)」
    「(孤独の旅、それも悪くはない――か)」
     京介と青竜の脳裏に同じ単語が思い浮かぶ。
     『闇堕ち』――確かにその手段をとるならば、この状況も容易く打破できるだろう。闇に捉われたとしても、仲間達を護る為ならば――。
    「――カハッ!」
     だが、嗤う者がいた。
    「窮地だってのに――魂が震えて仕方ねェッ! これだ、これッ! ゾクゾクするバトル! もっと、もっとだ! オレを響かせてみろやァッ!」
     智巳は歓喜に震え、デモノイドへと突撃する。――諦める、という行為よりも狂喜が己が身を奮い立たせた。
    「気が合うね、センパイ……僕も、この燃える魂をこの一閃の煌きに乗せて――!」
    「うん……悪魔の定めた運命なんてね☆ 否定しなきゃ、ウソだよ。僕は――魔法使いだからねッ!」
     絶望に組み臥され、諦めるものはいなかった。律が、星流が、蒼朱が、ネアが、みことが、デモノイドに最後の力を振り絞る。
     彼らにとって幸いだったのは、新たなデモノイドが既にイフリートとの死闘で消耗し、かなりの手傷を負っていた事だった。
    「――孤独の旅は、せずに清みそうだな……」
     灼滅者達の燃え滾る魂が、悪魔の嘲笑によって定められた運命を否定するのに、然程の時は要さなかった。し、かなりの手傷を負っていた事だった。
    「――孤独の旅は、せずに清みそうだな……」
     灼滅者達の燃え滾る魂が、悪魔の嘲笑によって定められた運命を否定するのに、然程の時は要さなかった。し、かなりの手傷を負っていた事だった。
    「――孤独の旅は、せずに清みそうだな……」
     灼滅者達の燃え滾る魂が、悪魔の嘲笑によって定められた運命を否定するのに、然程の時は要さなかった。

    作者:遊悠 重傷:四季咲・青竜(句芒のフェーガト・d02940) 永瀬・京介(孤独の旅人・d06101) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月5日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ