鶴見岳の激突～君ノ采配～

■リプレイ

●作戦開始
　身を隠しながら戦闘を進んでいたヴェイグ・アインザッツ（壊れるほどに復讐鬼・d10837）が最前戦近くで歩を止めた。イフリートと遭遇しないためにも、これ以上は先に進まない方がいいと判断したからだった。
　振り向いて止まることを伝える。作戦開始前にも思ったが、見事に自分以外は女の子。もちろんそれぞれしっかりして強いこともわかっている。けれど、男一人ともなればしっかりしなければと思ってしまう。
「何て数のダークネス……でもソロモンの悪魔の好きにはさせないよ」
　身を隠しながら最前線の方を見たリリアナ・エイジスタ（オーロラカーテン・d07305）が、その数に驚きながらも意志の強い瞳で見据える。
「うわぁ……。本当にいっぱいいますねダークネス」
　リリアナの言葉にそっと戦場になる場所を覗き見た穂都伽・菫（泣き虫花・d12259）も驚き、この人数相手にまともに戦えるのか不安に思ってしまう。けれど自分のそばにいる仲間を見渡してその不安が消えて行く。
　自分は一人じゃない、皆がいれば大丈夫だと……。それを察したのか、無意識か……。実は自慢の仄かに桜色がかった飴色に近い金糸の髪を揺らして玖継・彬（月喰の華・d12430）が微笑む。
「厳しい戦いになるのは必至ですわね」
　それでも一緒に学園に帰れるよう尽力しようと。ダークネスの数は多いが、この作戦に参戦する仲間の数も多い。言い渡された作戦通り、戦闘開始三分後に攻撃を仕掛ければ優位に戦えるだろう。
　イフリートとソロモンの悪魔の戦い。大変そうな話に黄色・紬（エソラゴト・d02177）が微かに首を振る。しかしどちらが勝つか負けるかに興味はない。
　身を隠す灼滅者たちの耳に、攻撃の音と獣の咆哮が響き渡る。イフリートとソロモンの悪魔の戦いが始まった。双眼鏡で戦場を見つめながらも、裏方・クロエ（魔装者・d02109）は三分を測る。
「ソロモンの悪魔ですか……」
　強化一般人たちが最前線に向かっていくのを見て華宮・紅緋（クリムゾンハートビート・d01389）が呟いた。自分たちが相手にするのは悪魔に操られた木偶人形ではあるが、本物を見てみたいという気持ちがある。
　もうすぐ時間だと告げるクロエに、そんな考えを紅緋が振り払う。いつかは本物と戦うのだから、今気にすることではないというように。
　双眼鏡をいつの間にか外したクロエが小さく呟く。
「想起。黒衣の射手！」
　構えて作戦開始を待つクロエを見て、もうすぐ目の前の戦場に立つのだと思った波織・志歩乃（夢見る幸せの鳥・d05812）が小さく身震いする。
　強いダークネスどうしの戦いに近付くのに微かな恐怖を感じる。でもここでしっかりやるしかないんだと意を決する。
　横でそっと彬が右手のブレスレットを見つめる。そして親友の形見であるそのブレスレットに祈る。わたくしを守ってくださいましと……。
「これより、灼滅を開始します」
　紅緋が呟くのと同時にクロエの魔法の矢が強化一般人を貫く。そしてトランプのマーク、ハートを胸元に具現化させ攻撃力を紅緋が高めつつ、余計な雑念をそぎ落とす。その時には、微かに今までと違った戦場音が追加されていく。作戦が開始された。
「未来を紡ぐために数を減らさせていただきますですよ」
　ふわりと隠れていたところから飛び出した紬が魔法の弾でクロエが攻撃した強化一般人を追撃する。
「何だ！？」
　突然の奇襲に標的たちが慌てたところにリリアナの異形巨大化した腕が飛び出し、止めを刺す。ざっと見渡したリリアナが呟く。
「残りは九人……」

●奇襲成功
「何するかは知らねーけど人様に迷惑かけんじゃねーっての……」
　ガトリングガンを構えたヴェイグが自らに絶対不敗の暗示をかける。
「よーし……テンションあげてくか！」
　にやっと笑ったヴェイグの後ろから、彬の神秘的な歌声が響き渡る。その瞳は前をしっかりと見据えている。必ず無事に帰るのだと固く誓い、気を引き締める。
　ビハインドのリーアが攻撃を仕掛けるのと同時に、菫は癒しの力を込めた矢を紅緋に放つ。
「援護します!」
　味方が優位に戦えるよう、そして誰一人欠けぬよう、菫は援護に徹底する。そして最後に気合を入れ直すように帽子をきゅっとかぶり直した志歩乃が飛び出す。まずはシールド与え、自らの守りを固める。
　突然現れた灼滅者たちに慌てた強化一般人の部隊は何が起こったのか把握するのに時間がかかる。そのままさらに灼熱者たちが攻める。
　ヴェイグのガトリングが連射され、強化一般人から悲鳴が上がる。追撃するように、仲間が攻撃を重ねる。奇襲が成功したこともあって、敵が攻撃してくる頃には、残りも六人になっていた。
「終わりだよう！」
　紅緋の異形巨大化した腕に殴りつけられた敵がまた一人消える。遠距離攻撃が得意なサイキックに対して、紅緋はこれでもかと言うほど懐に突撃して行く。
　攻撃を高めたクロエのガトリングの連射に合わせて、紬の鋼糸が高速に舞い、敵を斬り裂いた。
「くそ！」
　仲間が消されていくことを罵り、紅緋を魔法の矢が貫く。
「っ！」
　痛みに顔をしかめた紅緋にすぐ菫が回復する。隊列のバランスが良かったおかげか、大きな傷も負うことなく、程なくして強化一般人の部隊を壊滅させる。
「これならまだ行けそうだなぁ」
　付近に敵がいないのを確認して、呟いたヴェイグに志歩乃が頷く。
「まだまだ怖いけど、仲間がいるから大丈夫！」
　やる気と勇気はしっかりあるよー！　と元気よく言った直後に志歩乃が止まった。その視界には青い獣が映る。ソロモンの悪魔のデモノイドだった。
　イフリートと戦っていたのか、傷を負ってはいるがまだまだ戦えるのは見てわかる。強化一般人と誤認しているのか襲ってくる気配はない。
「どうしましょうか？」
　初めて見るデモノイドに菫の声が微かに震えた。誤認されているのであれば、攻撃を仕掛けなければ撤退することも可能だった。
「行けますか？」
　戦況の状況などを考えながら聞いた紅緋に全員が頷いた。このまま見逃して他の仲間が攻撃される場合も考えたら、この場で灼滅してしまいたい。
　敵を殺すことに何の躊躇も感じない紬だが、自分対しては非常に生き汚く何が何でも生きて帰ろうと誓う。
「ワタシが帰らなければ、泣いてしまうヒトがいるのです」
　そのために全力で戦おうと。
「ワタシはあの人の喜色を、未来を紡ぐのです」
　しっかりと武器を構え直した。それぞれがそれぞれの大事なもの、大切なものを想い、紬の様に構え直した。

●デモノイド
　頷いた彬が歌い始めるのと同時に、一斉に灼滅者が動く。紅緋とリリアナの異形巨大化した腕がデモノイドを殴りつける。そしてリーアが攻撃を仕掛ける。不気味な咆哮に思わず動きが止まりそうになった志歩乃が無意識に帽子をきゅっとかぶり直す。
「強いとかいっても、ジャマしちゃえばいいもんねー！」
　輝ける十字架を降臨させ、内部から無数の光線が放たれる。爆炎の魔力を込めた大量の弾丸をヴェイグが連射する。
　紬が魔法の弾を撃つの同時に、クロエが魔法の矢でデモノイドを貫く。
「これは……強いですね」
　イフリートも半分獣の癖に撤退とかと思っていたクロエだが、考えを改めるしかなかった。デモノイドはイフリートと同等の強さを持っているのだろう。
　もともと傷を負っている状態だったにも関わらず、まだ十分に戦える様子に戦闘が長引くことを考えて周りにもさらに注意を払う。気づいたら囲まれていましたでは、シャレにならない。
　菫が癒しの力を込めた矢を放つのと同時に、デモノイドが攻撃を仕掛けてくる。青い腕が刃の形に変形し、リリアナを襲う。避けることが出来ず、刃で斬り裂かれる瞬間を思って歯を食いしばる。
「させるかよ！」
　リリアナが予想した衝撃はヴェイグを襲った。代わりに攻撃を受けて転がるように後ろに倒れこむ。
　一撃の重さを分からせるには充分な攻撃だった。すぐに菫が回復するも、回復量が足りない。
「玖継さん！」
　菫の泣きそうな声に、すぐに彬が天使を思わせる天上の歌声を響かせる。痛みに顔をしかめながらもヴェイグが起き上がる。
「ありがとな！　それじゃ……盾として使命を全うしますかぁ！」
　お礼を言いつつも、すぐに体勢を立て直すべくヴェイグが前に出る。横に戻って来たヴェイグにリリアナがお礼を言い、すぐに攻撃を仕掛ける。
「ボクの全力、持ってけーっ！」
　武器に宿した炎を、リリアナが思い切り叩きつける。それに合わせて紅緋が漆黒の弾丸を撃ち、さらに紬が追撃を仕掛ける。
　戦場に歌声を響かせながら、彬はそっと左でブレスレットを覆う。厳しい戦いではある。けれどきっと、親友が自分をみんなを守ってくれると信じて。
　声が枯れることも構わず、彬がまっすぐ前を見る。艶然と笑みをもって、誇りをもって歌を紡ぐ。

●作戦完了まで……
　再びリリアナを襲ったデモノイドの攻撃は、直撃こそ免れたが苦痛の声を上げさせる。
「……この程度の傷じゃボクの盾は壊れないぞ」
　痛みを堪えるリリアナに菫が護符を放つ。
「頑張ってください！」
　戦況は苦しく見えても、全体で見れば灼滅者たちに優位に運んでいる。ただ、デモノイドの一撃が強力なことが灼滅者たちを苦しめる。
「ここらで決めますかぁ！」
　みんなを鼓舞するように声を上げたヴェイグがガトリングガンを連射する。
「了解よ！」
　軽やかに地を蹴った紅緋が異形巨大化した腕でデモノイドを殴りつける。大きな体が横に傾いた瞬間に、追い討ちをかけるようにリーアが攻撃する。体勢を立て直そうとするデモノイドをクロエの魔法の矢が貫く。
「的は逃がさない……それが仕事です！」
　苦痛の咆哮を上げるデモノイドを、紬の魔法の弾が撃ち抜いた。
「未来を紡ぐために灼滅させてもらうのです！」
　怒り狂うように志歩乃に突進して来たデモノイドが途中で悲鳴を上げる。
「守って、星の結界よー！」
　自らの周囲に五芒星型の符を放った志歩乃が一斉に符を発動させたのだった。その悲鳴に美しい歌声が重なる。これが最後と言うように力を増す歌声と同時に、リリアナが地を蹴る。
「これで終わりだよ！」
　異形巨大化した腕がデモノイドを殴りつける。高い悲痛な咆哮を上げた後、デモノイドの体がどんどん溶け出していく。グズグズに溶けた体は元に戻ることなく、息絶えた。
「これでおしまーい！」
　デモノイドが溶けたところを見て、紅緋が喜びの声を上げる。同時に、みんなを心配して傷を見ていた菫の顔にも笑顔が広がる。重傷者もいないようだ。
　しかしまだ作戦は終わっていない。
「帰る前に、また別府温泉で疲れを取っていきましょうか」
　この作戦が完了したらと紅緋がみんなの方を見る。
「これぐらいの傷なら大丈夫ー！」
　志歩乃の元気な声に思わずみんなが笑顔になる。
「でも、デモノイドともう一戦はきついかなぁ」
　ヴェイグの言葉に全員が頷いた。自分たちの状況と、戦況を見極めて前線から逃げてくる強化一般人を灼滅することに決める。
　双眼鏡で周りを見るクロエの話では戦力的に灼滅者たちが優勢だ。
「それじゃあ、参りましょうか？」
　戦場に歌声を響かせるため彬が構え直した。その視線の先には前線から離れてくる強化一般人がいた。

作者：奏蛍	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年2月5日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 13／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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