炎の獣の群れが山に集まっている。それはイフリートの軍勢。先の戦いで減ったとはいえまだ戦力は残っていた。
その軍勢に向けられる殺意。悪魔と人の群れが成す集団。それはソロモンの悪魔の軍勢。
両軍は睨み合う。守るイフリートは明らかに数が少ない。対して、攻めるソロモンの悪魔の準備は万端、攻め落とすに必要な戦力を揃えての出陣だった。
ここ大分県別府市、鶴見岳を舞台にダークネス同士の戦いが、今始まる。
「皆さん、各地に出現したイフリート達の灼滅、お疲れ様でした」
五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が灼滅者達に頭を下げる。
「多数のイフリートが消えたことにより、手薄になった鶴見岳の調査が行なわれる予定でした……」
姫子はそこで言葉を区切る。そう予定だったのだ。
「ですが、事は予想外の事態に進展しています。鶴見岳に第3の勢力、ソロモンの悪魔の軍勢が集まっているんです」
ソロモンの軍勢はイフリートを攻撃するために集結している。弱体化したイフリートの軍勢を駆逐するつもりなのだ。
「ソロモンの悪魔の目的は、恐らくイフリート達が鶴見岳に集めた力を奪い取り、自分達が利用しようとしているのでしょう」
一体どんな目的に使用されるのか、碌な事ではないのは確かだろう。
「ソロモンの悪魔は本体のみならず、今まで出会った強化された人間よりも、さらに強力な存在も確認されています。彼等は『デモノイド』と呼ばれていて、ソロモンの軍勢の主力となっているようです」
ソロモンの悪魔が本気でイフリートを攻め落とす気なのは、この布陣からよく分かるだろう。
「このまま放置しておけば、悪魔の軍勢に包囲されたイフリート達は一点突破で包囲を破り、そのまま逃走してしまいます」
ソロモンの悪魔の目的は集められた力を手にすること、無理にイフリートを追わずに矛を収めてしまう。結果、二つの勢力が温存して残ってしまうことになる。
「そこで、私達が介入することにより、ダークネス達の戦いを長引かせ、少しでも敵の力を削いでおきたいのです」
といっても、敵の軍勢は強い。真正面から戦えば敗北するのはこちらだろう。上手く状況を利用しなければならない。
「今回、私達が行なえる作戦は三通りあります」
姫子が地図を指差しながら説明を始める。
「1つ目は、イフリートを攻めるソロモンの悪魔の軍勢を背後から攻撃すること」
ソロモンの悪魔を挟撃出来るため、優位に戦えるだろう、だがイフリートと接触すれば三つ巴となってしまう危険もある。このソロモンの軍勢を壊滅させれば、疲弊したイフリートも撤退を開始する。
「2つ目は、鶴見岳のふもと、そこに布陣するソロモンの司令部を急襲すること」
ここにはソロモンの悪魔本体が多数存在する司令部だ。直接ソロモンの悪魔と戦うチャンスでもあるが、戦力は高い。前線の配下が敗北すれば撤退するし、勝利すればこちらの勝敗に関係なくイフリートの力は奪われる。だがソロモンの悪魔を多く灼滅できれば、組織を弱体化させることができるだろう。
「最後の3つ目は、鶴見岳から敗走して逃げるイフリートを襲撃し灼滅すること」
ソロモンの軍勢から攻撃を受け、疲弊し戦意を下げたイフリートを相手に優位に戦う事ができ、多くの敵を灼滅出来る可能性がある。イフリートが逃げれば、また各地で事件を起こすことになるだろう。
「この中から、皆さんが判断して作戦に従事してもらうことになります。戦力が少ない場所は激戦になるでしょう」
姫子は真剣な目で、灼滅者達を見つめる。
「激しい戦いになると思います。でも……皆さんならやり遂げることができると信じています。だから無事に帰ってきてください」
そう姫子は祈るように言葉を紡いだ。
参加者 | |
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稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450) |
日辻・迪琉(迷える恋羊・d00819) |
神無月・晶(3015個の飴玉・d03015) |
風花・蓬(上天の花・d04821) |
水無瀬・楸(黒の片翼・d05569) |
斎賀・芥(常闇の底で・d10320) |
森山・楓(高校生魔法使い・d10862) |
雛本・裕介(早熟の雛・d12706) |
●炎獣の群れ
鶴見岳の麓に煌々と輝く道が出来る。それは炎纏う獣の群れ。
「これは、拙いわね……」
赤いリングコスチュームに身を包む稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)は、想定外の事態に思わず言葉を洩らす。
灼滅者達はイフリートの逃走経路に待ち伏せしていた。そして予想通りにイフリート達が逃げてくる。だがその数が多すぎた。何よりイフリート討伐に動いた部隊が少ない。
「思ったより手負いの奴が少ないのう」
イフリートの群れを観察して雛本・裕介(早熟の雛・d12706)が呟く。
「どうやら前線ではソロモンの悪魔の軍勢のみを叩いたみたいだね」
息を潜め、森山・楓(高校生魔法使い・d10862)が状況を推測する。
「まともにぶつかるのは危険だ、弱っている個体は足も遅い、不意を突いて一体でも多く仕留めよう」
「そうそう、それがいいね。それじゃ行こっか芥ちゃん」
斎賀・芥(常闇の底で・d10320)の意見に、その頭をぽんと軽く叩きながら賛同した水無瀬・楸(黒の片翼・d05569)が、すぐに動けるように腰を上げた。
「待って! あ、あそこを見て」
足の速いイフリートの群れが過ぎ、弱った個体に仕掛けようとした矢先、日辻・迪琉(迷える恋羊・d00819)が驚きの声をあげる。
「みちの見間違いじゃないよ、ね?」
迪琉の確認の声に、ごくりと唾を飲む音が響いた。皆の視線の先、森の陰から現れたのは、それぞれ右と左に角の生えた狼型のイフリートが二体。そして、それを左右に従える少女の姿。だが、ただの少女ではない、頭部に二本の角を生やし、腕は獣のそれ。巨大な斧を持ち、焔を纏った少女。この群れの首魁と目される存在だった。
「数が多いわけだね、これはイフリートの本陣だよ」
険しい表情で神無月・晶(3015個の飴玉・d03015)は遠目に少女を見る。
少女は頻繁に後ろを気にしながら駆けている。一体でも多くの同胞を逃がそうと殿を務めているようだ。
どうするか、灼滅者達は悩む。少女の様子からすると、弱った個体に攻撃を仕掛ければ妨害してくるだろう。
「これは千載一遇の好機だと思います。恐らく私達しか敵将に接触する機会は無いでしょう」
風花・蓬(上天の花・d04821)は刀袋から刀を取り出し戦に備える。
この場所は自分達の管轄、近くに他の部隊は居ない。救援を望むことも出来ない。
「行くわよ。……きっとここが今日のメインイベントよ」
晴香の言葉に皆が顔を合わせ頷く。大将首を狙う非常に危険な戦いだ。だが元よりこの場に集まったのは戦う覚悟の出来ている者だけ。ならばやる事は一つ。
●焔の少女
息を潜め、近づく少女に気取られぬよう、じっと待つ。一呼吸、二呼吸、音が近づく。息を止める……来た。
最初に飛び出したのは晴香と蓬。
「!? キサマラハ!」
驚く少女。その隙に二人が迫る。その前に体を盾として滑り込ませたのは右角の炎狼。予定通りの動きに、蓬は踏み込み死角から炎狼の足を斬る。刃は骨をも断ち斬り、右の前足を切断する。
「邪魔よ!」
そこに晴香が勢いのまま、雷を宿した腕で炎狼の腹にエルボーを打ち込み、吹き飛ばす。少女への射線が開いた。もう一体の炎狼が動こうとするのを、裕介が光条を放って牽制する。
「今だ!」
芥と楓がタイミングを合わせ魔力の弾丸を撃つ。そしてその弾丸を追うように楸と迪琉が突撃する。周囲には晶の展開した霧が立ち込め、二人の体を強化していく。
間合いに入った。楸と迪琉はそれぞれ攻撃を仕掛ける。刃が届く、その瞬間。爆発。二人は訳も分からず吹き飛ばされ、地を転がる。
土煙が収まり、見ればそこには巨大な穴。そして戦斧を振り下ろした格好の少女の姿。奇襲は完璧だった。だがたったの一撃により粉砕されてしまった。その一撃の破壊力に灼滅者達に戦慄が走る。
少女は小さな鼻をひくつかせると、唸り声の如き声を響かせる。
「コノニオイ……オマエタチ、カクチデワレラガドウホウヲオソッテコロシタヤツラダナ!」
巨大な戦斧を片手で持ち上げ、突き付ける。
「キサマラノセイデ、ガイオウガハフタタビネムリニツイテシマッタ……」
少女は無念そうに顔を顰める。
「ガイオウガの為に集めた力はどうしたの?」
楓の問いに少女は笑みを浮べる。
「ザンネンダッタナ。キサマラガアクマドモトタタカッテイルアイダニ、ガイオウガハチカラヲトキハナッタ。キサマラニナドワタスモノカ!」
「力は誰の手にも渡らなかった、という事だね」
少女の言葉に、晶は僅かに安堵の表情を見せる。
「最大の目的は達成したということじゃな。ならば後は……」
裕介の言葉に灼熱者達は武器を構える。
「コレイジョウ、キサマラニドウホウヲコロサセハシナイ!」
少女はそう叫ぶと、全身を炎に包む。炎の中から現れたのは獣。その姿はどのイフリートよりも雄々しく、力強い。二つの角と炎に揺らめく体毛を靡かせた炎獣が牙を剥く。
●幻獣
『グオオォォォォォ!!』
炎獣の跳躍。一直線にその爪で灼滅者達を襲う。
「僕が相手だ!」
晶が前に立ち、エネルギー障壁を張ってその爪を受け止める。だが炎の宿った爪は易々と盾を貫き、腕を斬り裂く。更に反対の足で攻撃しようとした時、楓の影の刃が側面から斬り掛かり、皮膚を斬り裂く。
「浅いか」
「儂が少しでも長く戦える様に癒してやるからのう」
裕介の放つ光が優しく晶を包み、腕の傷を癒す。
「まずは1体を何とか仕留めないとなー」
楸は軽い口調ながらも、油断無く傷ついた右角の炎狼を狙う。すれ違うように駆け、死角から鉄塊の如き刃を振るう。刃は皮膚を斬り裂き、血と炎が散る。駆け抜ける楸の背後に忍び寄る影。
「ファルコン!」
飛び掛かる左角の炎狼に、芥のライドキャリバーが体当たりで邪魔をする。炎狼は邪魔だとばかりに角でファルコンを貫き吹き飛ばす。
「ナイスタイミング!」
楸は続けて右角の足を斬り付ける。だが角で防がれた。右角の顔を影が覆う。その頭上には巨大な鉄塊、それが真っ直ぐ上から振り下ろされる。
「まずは一匹、ここで眠ってもらうよう!」
迪琉の大上段からの一撃。自分の身長よりも大きな剣が唸りをあげる。甲高い音。横から割り込んだ左角が受け止めていた。しかし勢いを殺しきれず血が流れ、その身に刃の痕を残す。
「悪いけど、ガチ勝負だから手加減できないわよ」
晴香が右角の顔に掌底を叩き込む、鋼のような手は鈍い音と共に炎狼の顔にめり込む。
右角は反撃とばかりに、晴香の腕に喰らい付こうと大きく口を開けて襲い掛かった。
「疾ッ!」
蓬の刀が奔る。牙を斬り、衝撃で顔を押す。向きのずれた牙は甲高い音を立てて宙を噛む。
『グゥオォォォァ!』
刃を放った一瞬の隙、そこに炎獣の牙が横から迫る。
「させない!」
晶が庇うようにその牙に向かい拳を放つ、次々と放たれる連打に炎獣の勢いが止まる。だが開かれた口の奥で焔が散った。高熱の吐息、吐き出される火炎を晶は避けようとするが間に合わない。右腕が一瞬にして黒く炭化した。
「っ……あつっ」
痛みを堪え、乱れる呼吸を何とか調息して治癒を施す。裕介もすぐさま治癒を手伝うが、傷が深く右腕の感覚が戻らない。
「好きにはさせん!」
もう一度火炎を放とうとする炎獣に、芥が蜘蛛の糸の如き鋼糸を放つ。幾重にも編まれたそれは炎獣に絡みつき、その自由を奪おうとする。ファルコンも合わせて機銃を撃ち牽制する。炎獣は爪で鋼糸を切り裂く。その一足の間に晶は地に転がり、一瞬後に吹き抜けた炎の息吹を避る事が出来た。
「これは手強いっていうか、今までで一番の強敵かもねー」
右角を狙う楸を遮るよう左角が牙を剥く。その一撃を避けながら鋼糸を巻きつけ動きを封じる。その間に右角へ向かおうとすると背後から衝撃。見れば炎狼は鋼糸に体を切り裂かれながらも爪を振るっていた。背中に4本の傷が走る。更に追い討ちを仕掛けようとしたところに魔力の弾丸が撃ち込まれ、炎狼は動きに制限を受ける。
「少しでも動きを鈍らせないとね……」
楓は続けて幾つもの符を周囲に打つ、五芒星が描かれ結界となり、中に居る獣達の動きを鈍らせる。
「しばらくじっとしといてよ」
晴香は動きの鈍くなった左角の後ろをとり、両腕で抱え上げると、そのまま後ろにバックドロップで投げ飛ばした。
「このくらいの傷なら一瞬じゃ!」
裕介は急ぎ楸の背の治療にあたる。
「がんばって! 1体倒せば、流れが変わるはずだよう!」
迪琉は右角に向かおうとするが、進路を塞ぐように目の前に炎獣が着地した。地響き、そして爪が襲う。爪は肉を裂き、骨に達する。だが迪琉は攻撃を受けていない。血を流したのは晶だった。
「早く行くんだ、僕が防いでる間に!」
迪琉は頷くと右角に向かって駆ける。炎狼の放つ火球に自らも炎を撃ち出して相殺すると、熱風を潜り抜け一気に剣を叩き込む。右の前足を失っている右角は避けきれず、その刃を胴体に食らう。激しい流血。口からは炎が漏れる。止めの一撃と剣を振りかぶる。
「伏せて!」
楓の鋭い警告に、迪琉は身を投げ出すように伏せる。その上を轟炎が渦を巻き吹き付ける。その熱は直撃でなくとも迪琉の髪と背を焼く。
「女の子の髪になんてことするの、もー!」
憤慨しながら振り向くと、そこには爪を振り上げた炎獣の姿があった。そして守るように立つ蓬の背中も。
「流れる風の如し」
暴風の如く叩き伏せようとする爪の一撃を、蓬は一歩踏み込むことで紙一重で避ける。そして刃を宛がうようにそっと腕の軌道上に置いた。するりと刃が通る感触。敵の力を利用し肉と腱を絶った。そのまま横を抜けようとする。だが次の瞬間、宙を飛んでいた。吹き飛ばされ木にぶつかり落下する。見れば腹部に貫かれた後。炎獣の角が血に濡れていた。
「あっ……」
「気をしっかり持つのじゃ!」
口から血を吐き、朦朧とする蓬に裕介が駆け寄る。
『グルゥオオオオォォ!!』
炎獣が唸る。全身から灼熱の轟炎が噴出す。それは炎狼をも包み込む。周囲を溶かすような熱気に近づくことが出来ない。暫くすると炎は渦を巻き消え去る。そこには先程斬られた傷が塞がっている炎獣の姿。炎狼の腹部の傷も塞がり、足も生えていた。
癒しの炎だったのだ。唸り声。これからが本当の戦いだと獣が哂った気がした。
●残り火
「これは、本当に拙い」
「そろそろ撤退を考えたほうがいいかもねー」
芥の焦りを滲ませた言葉に、楸も状況の悪さに表情に余裕をなくして返事をした。
「そうだね、退却ルートも確保しておかないと!」
周囲を見渡し、楓はいざという時に逃げる方向を視界の片隅に映す。
「来るわよ!」
晴香の叫び。三体の敵が大きく息を吸う。体内に炎が収縮しているのが分かる。
「散開するんじゃ!」
後方から裕介の悲鳴のような声、灼滅者達は一斉に散って駆け出す。それと同時に三つの顎門から地獄の業火が放たれた。
「僕が、食い止める!!」
晶が障壁を最大まで広げて、気力を振り絞り炎を防ぐ。炎の勢いを減退させるも、障壁を破られ炎に焼かれて倒れた。障壁を抜けた炎が仲間を襲う。
楸に襲い掛かる炎の渦をファルコンが身代わりに受ける。高熱にフレームが歪み、タイヤも溶けそのまま動かなくなる。
楓と芥は転がるように段差に入り、炎の直撃を避ける。
「天ツ風に……断てぬもの、なし」
蓬と裕介を襲う炎。止血を済ませただけの蓬は既に満身創痍で戦う力は無い。だが向かい来る敵意に体が自然に反応する。力なく吸い込まれるように刀を振るう。刃は炎を斬った。二つに別れた炎は左右へと吹き抜ける。蓬はそのまま意識を失い地に伏せた。裕介が急いで手当てをする。
晴香と迪琉は逆に前へと進む。晴香が迪琉を抱えると、炎の上へと投げた。上空で木を蹴り、弾丸のように右角へ突撃する。担いだ大剣に全体重を乗せて振り下ろす。刃は背中を深く抉り骨が覗く。
「赤いリンコスは伊達じゃないっての、見せてあげるよ!」
晴香は雄々しい光を身に宿し、炎を浴びながらも前進を続けると、右角に前から組み付き、持ち上げると、そのまま後方へ投げる。ブレーンバスターが決まった。
追撃を仕掛けようとした時、炎獣の爪が横薙ぎに振るわれ、晴香は吹き飛ばされる。傷口が燃えるように熱い。
もう一度炎を溜めようと炎獣は大きく息を吸う。そうはさせまいと楸は大剣を捨て、身軽になって全力で駆け寄る。その前に立ち塞がろうとする左角に芥と楓が魔法の弾丸を撃ち込み動きを止める。楸はその体に焔の如き蒼いオーラを纏い、懐に入ると拳を放った。
「これ以上、攻撃させるわけにはいないなー」
口を閉じさせようと、目にも留まらぬ速さで次々に下から打撃で押し上げる。そのまま顎を砕こうかと拳を放つと、突然下からの衝撃に跳ね飛ばされる。炎獣が蹴り上げたのだ。宙に浮いていると、炎獣の口が開かれ、炎が上空へ吐き出される。楸の体が焼かれる。肉の焼ける匂いが漂う。受身も取れずに落下し、そのまま意識を黒く染め、倒れた。
「楸!」
芥が駆け寄り、力を分けて傷を癒す。そしてそっと寝かせると鋭い視線を炎獣に向けた。殺戮衝動に心が塗りつぶされそうになる。
「ボクも付き合うよ」
このままでは全滅する。楓は覚悟を決め、体内の魔力を高める。
だがその時。
『オオオオオォォォォン!』
遠くから獣の遠吠えが響く。
『オォォォォォン』
それに呼応するように、違う場所で次々と遠吠えが続く。
『グゥォォォォォォォォォォ!』
炎獣は一際大きな声で咆えると、その身を炎に包む。すると獣から少女の姿へと変わっていた。
「ドウホウハニゲタヨウダ。ワレワレモムカウゾ」
斧を一振り、少女は強い光を目に宿して告げる。
「カエッテナカマニツタエルガイイ! キサマラモ、アノアクマドモモ、イズレコノキバトツメデヒキサイテヤルトナ! ソノヒヲフルエテマツガイイ、ソレマデイノチヲアズケテオイテヤル!」
そう言い残すと、炎狼を従え、山を駆け下りていく。
後に残ったのは傷つき倒れ伏した灼滅者達。
「行ったか……」
「ふわー、つっかれたよう。みちたち生きてるんだよう」
敵の去る姿を見送った芥は心を鎮め、吐息を洩らす。
迪琉は巨大な剣を付きたて、へたり込むように座り込んだ。
「倒れた人は大丈夫なのかな?」
「安心するんじゃ、皆命に別状は無い」
楓の心配そうな声に、治療を施していた裕介が力強く答える。
「帰ってみんなに得た情報を伝えないと……ね」
気力だけで起き上がる晴香。まだ負けていないと、倒れそうになる体を意地で支える。
得た情報は貴重なものだ。イフリートの首魁の強さ。そして語られた言葉。皆が傷つき、倒れただけの価値があるものだろう。
支え合いこの場を後にする。ここはまだ立ち止まる場所ではない。炎のように強い意思で灼滅者達は進む。
戦いの残り火が静かに揺らめいた。
作者:天木一 |
重傷:稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450) 神無月・晶(鳳仙花・d03015) 風花・蓬(上天の花・d04821) 水無瀬・楸(蒼黒の片翼・d05569) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年2月5日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 41/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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