鶴見岳の激突~刃に映るは紅蓮

    作者:夏河まなせ

    「皆さん、全国各地でのイフリート討伐、お疲れさまでした」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が切り出した。
    「皆さんの作戦が素晴らしかったのですね。ほとんどのイフリートが、集めたサイキックエナジーを鶴見岳に持ち帰ることができず、その結果『ガイオウガ』の復活を食い止めることができました。本当にお疲れさまでした」
     姫子はおっとりと微笑んだ。しかし、すぐにその表情は引き締まる。
    「事態が大きく動いています。イフリートたちの動きは、他のダークネス組織の知るところになりました。大規模な活動ゆえにバベルの鎖に察知されたのでしょう」
     姫子はそこで一度言葉を切った。集まった灼滅者全員が次の言葉を待つ。
    「ソロモンの悪魔が討って出てきます」

     武蔵坂学園では、鶴見岳の調査と、その原因解決を行うべく準備を進めていた。そこに思わぬ横槍が入ったのだ。
    「現在、鶴見岳周辺に、ソロモンの悪魔の一派が率いる、軍勢が集結しています」
     軍勢? 灼滅者のひとりが聞き返すと姫子はうなずいた。
    「ええ、軍勢です。そしてその中には、今まで相手にしてきた強化一般人よりさらに厄介な者たちの姿があります。ソロモンの悪魔たちからは『デモノイド』と呼ばれているようです」
     デモノイド。それは、確か――。
     灼滅者たちは、大晦日の夜、バベルの鎖が告げた漠然としたイメージを思い出す。
    「『デモノイド』たちは、今までの配下たちよりずっと強力です。ダークネスに匹敵するほどの力を与えられています。ソロモンの悪魔の一派はこの軍勢を鶴見岳に攻め込ませ、イフリートたちが集めた力の横取りを目論んでいます」
     もちろん、自分達の邪悪な目的のために決まっている。灼滅者の幾人かは、これまで目の当たりにしてきた彼らのおぞましい所業を思い出しただろう。
    「このまま事態が進めば、ソロモンの悪魔の一派が勝利し、敗北したイフリートたちは、一点突破で包囲を破り、鶴見岳から姿を消すでしょう」
     ソロモンの悪魔たちの目的はあくまで鶴見岳の力で、イフリートたちに追い撃ちをかけることはほとんどないようだ。その結果、多くのイフリートが無事に落ち延びていくことが予想される。
    「つまり、ソロモンの悪魔の一派が強大な力を得る上に、イフリートたちも結局は戦力の大半を残したまま、ということになります。あまり、楽しい未来予測ではありませんね。……残念ながら現在の武蔵坂学園には、ソロモンの悪魔とイフリートたち、双方と正面からぶつかる力は、ありません。ですが、このまま待っていれば事態は悪化するばかり。皆さんにお願いしたいのは、この争いに正面からではなく、横から介入することです。争いを利用しつつ、最善の結果を引き出せるように、介入を行ってください」

    「私たちエクスブレインが皆さんに提示できる選択肢は、三つあります」

     まず一つ目は、鶴見岳に攻め寄せるソロモンの悪魔の軍勢を後背から攻撃するというもの。
    「イフリートと挟撃するような形なので、戦いは有利に進むでしょう。ただし、イフリート側と戦場で遭遇すれば、あちらはこちらに恨み骨髄のはず。三つ巴の戦いになってしまうでしょうね」

     二つ目の選択肢は、イフリートと直接交戦している軍団ではなく、鶴見岳のふもとにある『ソロモンの悪魔の司令部』を急襲するという手。
    「ソロモンの悪魔が多数いる司令部の戦力はかなり高いことが予想されますが、今までほとんど姿を見せなかった彼らと直接戦い、倒すことができるかもしれません」
     ただ、司令部を潰しても、制圧そのものを阻止できなければ力は持っていかれてしまう。
    「下手をすれば、鶴見岳の力も奪われ、悪魔たちの多くも無事なまま取り逃がす、ということもありえます。ですが、首尾よく多くの悪魔を討ち取れれば、一派を弱体化させることができますね」

     三つ目は、イフリートたちの脱出を阻止して灼滅するというもの。
    「ソロモンの悪魔の軍勢との戦いで疲弊している今がチャンスといえるかもしれません。鶴見岳から脱出に成功したイフリートたちが、いずれまた動き出し何らかの事件を起こすことは明白です。それを防ぐためにも、脱出阻止は重要な仕事になります」
    「ソロモンの悪魔たちの強大化を、許すわけにはいきません。イフリートたちをこれ以上暴れさせるわけにもいきません。皆さん、鶴見岳に向かってください」
     そう凛とした声で告げると、しかしすぐに姫子は目を伏せた。
    「ダークネス同士の戦場に介入するのです。あまりにも、危険な作戦ですね。私たちエクスブレインは皆さんを、危険と知っていて送り出すことしかできない……」
     そして、再び顔を上げると、灼滅者たちに頭を下げた。
    「先ほど説明した三つのルートの提示、それが私たちの精一杯です。皆さん……どうか、無事で帰ってきてください。お願いします」


    参加者
    リズリット・モルゲンシュタイン(シスター・ザ・リッパー・d00401)
    両月・葵絲(黒紅のファラーシャ・d02549)
    領史・洵哉(一陽来復・d02690)
    桜吹雪・月夜(花天月地の歌詠み鳥・d06758)
    天神・ウルル(ヒュポクリシス・d08820)
    静野・奈津姫(金髪隻眼の暗殺者・d10424)
    ベル・リッチモンド(マクガフィン・d10631)
    十朱・薇羽(舞い散る雪と積もらぬ刹那・d11021)

    ■リプレイ

     ゲームやファンタジー映画の合戦シーンのようだった。
     頂上へ向かう斜面に、無数の人々が集結し、手に手に武器を携え、上へと進軍していく。その先に陣を構え待ち受けているのは、全身に炎を纏う巨獣の群れだ。
     画面越しに見るのであれば、CG処理を施した映像作品のワンシーンと思えただろう。しかしこれはまぎれもなく、彼らの現実なのだった。

     ソロモンの悪魔勢のさらに後方、木立や岩陰に隠れながら、彼らは機を待っていた。
    「イフリートの他にソロモンの悪魔までやって来るなんて……」
     そう口にしたのは領史・洵哉(一陽来復・d02690)。
    「この地に集められた力が余程欲しいのでしょうね。何とか食い止めたいものです」
    「デモノイドってどれだけ強いんですかねぇ、楽しみですねぇ」
     洵哉が決意を述べる一方で、天神・ウルル(ヒュポクリシス・d08820)は強敵との戦いの予感に高揚している。にへっと笑った。
    「でも、近くにいるのは普通の強化一般人みたいよ?」
     リズリット・モルゲンシュタイン(シスター・ザ・リッパー・d00401)が疑問を口にした。確かに軍勢の最後方には、今まで何度か遭遇してきた、強化された一般人たちしか見当たらない。
    「前の方、何か居て?」
     リズリットは、双眼鏡を持参したベル・リッチモンド(マクガフィン・d10631)に声をかける。
     ベルは悪魔軍の先頭付近を観察していたが、見えたものに思わず声を漏らした。
    「……何だ、アレは」
    「ベル?」
     問いかけられて、ベルは双眼鏡を隣の静野・奈津姫(金髪隻眼の暗殺者・d10424)に渡した。同じものを見て、奈津姫の表情も変わる。
    「何があるの? こっちにも貸して」
     と、桜吹雪・月夜(花天月地の歌詠み鳥・d06758)が求めた。一同は双眼鏡を次々に回した。全員が「それ」を見た。
    「……アレが『デモノイド』?」
    「そう判断するのが妥当でしょうね……」
     月夜と洵哉が眉を顰める。
     レンズの中に見えたのは、醜悪な怪物だった。
     全身が青い。地上の哺乳類にはあり得ない色だ。身体の表面には皮膚ではなく、異様に肥大した筋肉らしき繊維が露出している。隠れているのか退化したのか、レンズ越しに見える頭部には目が見当たらず、むき出しの牙がびっしりと並んだ口だけが目立つ。二足歩行の体こそなしているが、両腕(むしろ前肢というべきか)が全身のバランスを崩しそうなほどに大きい。
     様々なダークネスやその眷属と遭遇してきた灼滅者たちである。異形は見慣れているが、それでも慄然とせざるを得ないのは、すでに彼らが知っているからかもしれない。
    「元は人間だったはずだよね……」
     大晦日にバベルの鎖がもたらしたイメージが真実であるならば、十朱・薇羽(舞い散る雪と積もらぬ刹那・d11021)が口にしたとおり、デモノイドはソロモンの悪魔の儀式によって、人から創られた存在だ。
    「…………」
     両月・葵絲(黒紅のファラーシャ・d02549)が、借りた双眼鏡を握りしめた。
    (「ソロモンの悪魔……その心が、わたしの中にもある……?」)
     葵絲は魔法使いのルーツを持つ。魔法使いにとってソロモンの悪魔は、歪んだ鏡に映る『もしも』の世界の自分だった。
    (「でも、そうだとしても……」)
    「大丈夫?」
     一同の中でぽつんと年少の葵絲を気遣うように、月夜が顔を覗き込む。
    (「悪いことはだめ。……そうよね?」)
     無言のまま葵絲はうなずいた。
    「アレと戦うにはちょっと、遠いですねぇ」
     ウルルが言った。デモノイドが配置されているのは両軍勢の対峙する最前線なので、彼らとの間には大勢の強化一般人が居る。
    「まあ、イフリートと喰い合ってくれるって考えれば、いいんですけどお」
    「そうですね。力を渡さないのが一番大事ですし」
     鶴見岳の制圧を阻止できれば、ソロモンの悪魔たちは力を手に入れることはできない。エクスブレインの示した三つの案のうち、この場に投入された人数が一番多いのも、それが第一目標という認識ゆえだろう。
    (「……あ」)
     葵絲から受け取った双眼鏡をベルに返そうとして、月夜は目の前の様子に思わず微笑む。ベルが奈津姫の頭に手を置いた形で、二人が視線を交わしている。言葉こそないが、奈津姫の頬はほんのりと染まっていた。
     きっと二人の間にしか通じないやり取りがあったのだろう。バレンタインはもうちょっと先だよとからかってやろうとした矢先。
     鬨の声、そしてイフリートたちの咆哮が轟いた。二つの軍勢が遂に衝突したのだ。

     薇羽はじっと山頂方向を見上げていた。距離ゆえに細かい状況は見えないが、イフリートたちの燃える巨体は十分視認可能だ。
    (「この前はイフリートに借りができた。けど」)
     スレイヤーカードを取り出すと、解除コードを唱えた。
    「『Burn and exhaust』」
    (「今は大切な友のために目の前の敵に集中する」)
     薇羽のポテンシャルと引き換えに存在する、親友の化身であるビハインドが顕現し、薇羽を守るように前に立つ。
    「じゃあわたしも『イッツ・ショータァーーイムッ!』」
     カードを高く掲げて月夜が宣言する。一瞬にして華やかな衣装がその身を包み、掲げた腕には愛用のギター。
     他の灼滅者たちもそれぞれに武装を整え、少しずつ距離を詰めていった。
     その間に前線では一部、お互いが入り乱れての肉弾戦が始まっている。
     最後方は足並みが多少乱れ始めた。大急ぎで登っていく一団もあれば、いくつかのグループはまだ残っている。その中に、十人ほどの集団があった。
    「チンタラしてんじゃねえ! こんなビリっけつで何も出来ねえだろ!」
    「ちったあ落ち着け。どの道、上が詰まってんだからよ」
     近県のチームの野球帽をかぶった男がわめきちらし、革ジャンの男がなだめている。他はおろおろしながら待っているだけだ。
     彼らのやりとりに、灼滅者たちはその内情を察した。かなり血の気の多い野球帽と、それよりはまあ冷静に見える革ジャンの二人がリーダー格で、あとは完全にこの二人に依存した下っ端だ。
     となれば――。
    「あれぇ。皆さん、ソロモンの悪魔の人ですかあ?」
     わざと聞かせるように、ウルルが後ろから声をかけた。彼らはそこで初めて、追跡に気づいた様子だ。
    「デモノイドと戦えると思って来たんですけどぉ、皆さんじゃあ、ちょーっと期待はずれですねえ」
     そして挑発する。野球帽の男が激昂しそうになるのを革ジャンの男が抑えようとする。
    「でも、少しは楽しませてくださいねぇ」
     にへっと笑いながら、ウルルは革ジャンの男にご当地ビームを放った。
     強制的に怒りに囚われて、男が目を血走らせた。醜く表情を歪ませて叫ぶ。
    「やっちまえ!」
    「てめえ、ガキども! ぶっ殺すぜオラア!」
     リーダー格の両方が頭に血が上った状態で、戦いを制止する者はいない。号令とも言えない罵声に、男たちがわっと駆け出した。武器はナイフや木刀、鉄パイプなどだが、サイキックエナジーで殲術道具と同様になっているようだ。
    「イフリートに引き続いて、ここであなたたちの勢力も削いでおきます!」
     洵哉がシールドの力場を解放し、自分と前衛陣を強化する。そこへ男たちが突っ込んだ。前衛陣がそれぞれの武器で迎え撃ち、葵絲がフリージングデスで、男たちを一気に四人巻き込んだ。ぎゃああ、という悲鳴が上がる。
     その中の一人、木刀を持った男が炎に包まれた。薇羽がレーヴァテインを発動したのだ。超自然の炎が渦を巻く。
    「え、こいつイフリートなのか?」
    「馬鹿、イフリートはあれだろ、でっかい獣」
    「どうでもいいだろそんなこたぁ! 敵だよて――」
     うろたえる男の声を断ち切ったのはベルのガンナイフの刃だ。斬撃のひとつであっけなく倒れる。
    「手ごたえがないな」
    「……同意」
     騒いでいた男のもう一人を、同じようにあっさり斬り伏せた奈津姫が短く答えた。二人ともクラッシャーなので一撃は確かに重いが、それにしても脆い。派手な技の一つで驚くあたりも、まともな兵士とは思えない。
    「うわああああぁぁッ!!」
     レーヴァテインを受けた男が絶叫した。身体にまとわりつく炎を必死に振り払おうとしてかなわず、パニックに陥り、木刀を振り回して元凶である薇羽に向かってくる。
     その進路を遮ったのはビハインドの実風。視界を覆った背中に薇羽は目を見開く。
    (「実風……!」)
     ビハインドは打ち下ろされた木刀を腕で受け止め、そのまま男に向き直った。その背中越し、薇羽の視線の先で、男の顔が恐怖に歪む。晒された顔を見たのだ。
     その隙を見逃さず、薇羽は実風の横をすり抜けた。すり抜けざまに預けていた日本刀を受け取り、さらに一歩踏み出すと同時に抜刀し、斬り捨てた。男は血に沈む。
    「ち、しょうがねえ」
     部下たちの醜態に、革ジャンの男が舌打ちした。マジックミサイルを放つ。ターゲットはひとり年若く体も小さい葵絲だ。作り出された魔弾は、しかし彼女に届く前に洵哉がその身で引き受けた。
    「ディフェンダーとなった僕の粘りと意地、お見せしますよ」
     衝撃に耐えきり、洵哉は男を正面から見据えた。
    「畜生!」
    「妨害と攻撃は頼みます」
    「……ん」
     洵哉はそのままシールドの力場ごと男に体当たりする。続けざま、葵絲の指輪から解き放たれた呪いが、さらに男を戒めた。
    「まだ大丈夫かな? 攻撃しちゃうよ」
     月夜がひときわ高く絃を弾き、衝撃を飛ばした。吹っ飛ばされた男にすかさずウルルが拳の一撃でとどめを刺す。
    「ちょっと、私だって攻撃したいのに」
     夜霧隠れで前衛陣に早めの回復を送っていたリズリットが抗議した。普段は日本刀でぶった斬る系の彼女である。月夜が笑いながら返した。
    「ごめんごめん、次は交替、ね」
    「ああもう、何で私、後ろに行くことにしたのかしら?」
     軽口を叩き合う間にも戦いは続く。振り下ろされた鉄パイプを、奈津姫は最小限の動きでかわした。大振りの動きは隙だらけだ。急所にひと突き入れ、一気に斬り裂けば声も上げずに相手は倒れた。
     リーダー格二人がディフェンダー陣とやりあっているあいだに、他の強化一般人は次々と片付けられていく。負傷は月夜と、攻撃したいと言いながらも自分の役目を果たすリズリットが連携をとって回復させる。それでも足りない分は集気法や闇の契約が補った。
     再度男たちを葵絲が生み出した冷気の渦が襲う。
     一人はそれで力尽き、かろうじて立っていた二人のうち片方は薇羽のレーヴァテインとビハインド実風の斬撃になすすべもなく倒れた。もう片方は一瞬にして肉薄したベルの刃に切り裂かれ絶命する。
    「さっきはわたしが撃っちゃったし、攻撃どうぞー?」
     最後に残った野球帽と革ジャンにも、前・中衛陣の集中攻撃が叩き込まれる。月夜がリズリットにとどめを譲った。
    「じゃあ、遠慮なく。――十字に裁かれろやゴルァ!!」
     攻撃できないことがよほどストレスだったのだろう、日本刀で素早く十字を描いてのセイクリッドクロスは見事に決まり、野球帽の男は撃沈した。
     革ジャンの方も、葵絲のマジックミサイルで倒れ伏している。
    「皆、まだやれるよね?」
    「……うん」
    「平気ですよお。まだまだ戦い足りないですねぇ」
    「俺もまだいける。……実風も」
     素早く互いの負傷状況を確認する。引き上げるにはまだ早い。灼滅者たちは頂上を目指した。

     獣の咆哮がひときわ大きく響いた。戦場を離脱していくイフリートと、追撃に回った灼滅者たちとの戦闘であろうか。
     強化一般人の殴打をシールドでいなし、返す一撃で叩き伏せながら洵哉は隣に立つ仲間に言った。
    「どうも、ここには上等な兵士はいないようですね」
     ソロモンの悪魔の配下たちに遭遇するたびに倒していったが、どれも最初に殲滅させたグループと似たり寄ったりのごろつき、ヤクザ崩れのような者たちばかりだ。
    「そうだな。頭数だけは多いが暴れるだけだ」
     ベルが応えた。会話をしながらも戦いは忘れていない。イフリートから逃げて来たのか、服を焦がした男が転がるように走ってくるのに向け、ガンナイフのトリガーを引く。着弾と同時に、タイミングを合わせた薇羽の炎が、男を完全に呑みこんだ。
    「統制も、乱れている」
    「司令部がうまく動いてない、ってことよね」
     奈津姫が指摘し、続けるのはリズリット。もちろん灼滅者たちも負傷がないわけではないが、今となっては回復役もかなりの頻度で攻撃に回る余裕ができている。聖なる十字を喰らった相手に、奈津姫が素早く飛びかかり斬り捨てた。
     その横では、葵絲の魔弾に打ち据えられた別の一人が、月夜の奏でる調べでとどめを刺されて倒れている。
    「じゃあ、司令部に向かった人たちもうまくやったってことかな?」
    「そうだと、いいと思う」
     ふもとの様子はわからないが、この期に及んでも態勢を立て直す動きがないところをみると、少なくとも、司令部機能を奪うことには成功しているのだろう。
     もともと指示を受けること前提の力押しだけの軍勢でしかないところに大規模な奇襲を受け、対処するための指示も届かないのでなすがままに蹂躙されている、といったところだろうか。灼滅者たちはそう結論付けた。
     実際、頂上に近づくほど敵が弱ってきていた。最初は頂上を目指す強化一般人たちに追いついて倒すことが多かったが、上っていくにつれ、負傷して隊列から脱落した者や、やられて逃げて来たらしい手負いの者が目立つようになった。
     彼らが頂上――イフリートたちが陣を構えていたあたりに到着したころには、すでに戦いの結果は明らかだった。

     同じように戦いながら山を登ってきた灼滅者たちの姿が見えた。何人かはこちらに気づいて、手を振ったり親指を立てて見せたりしている。
    「司令部襲撃部隊や追撃部隊との合流はまだですが……まずは一安心ですね」
     周囲の様子を見回し、敵の姿がもはや見えないことを確認しながら、洵哉が口にした。
    「デモノイド、もういませんねぇ。やっぱりちょっとくらいは戦ってみたかったですねぇ。残念です」
     ウルルが笑って見せた。デモノイドを自分の眼で見られなかったことには、葵絲も軽い落胆を覚えている。もし直接対峙したならば、何かわかることがあったかもと思う。とはいえ、実際に戦った灼滅者から話を聞くことなどは可能だろう。
     見れば、他の灼滅者グループの中にはだいぶ痛めつけられた様子の者も見受けられた。負傷者の介抱に大わらわのグループもある。
    「手伝うこと、ありそう」
    「そうだな」
     少女の言葉に、他の者も同意した。
     ゲームならここでステージクリアで画面が切り替わるところだが、灼滅者たちにはまだやることが残っているようだ。
     救護や搬送の手伝いはもちろんのこと、おそらくはまだ残党狩りの最中、というグループもあるだろうから、助太刀もできるかもしれない。八人は互いに視線を交わすと、学園の仲間たちの元へ向かって行った。

    作者:夏河まなせ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月5日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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