鶴見岳の激突~Trident Attack

    作者:宮橋輝


     教室に灼滅者たちが揃ったのを見て、伊縫・功紀(小学生エクスブレイン・dn0051)は軽く頭を下げた。
    「別府温泉、そして全国各地で事件を起こしていたイフリート達は、皆のおかげで多くを灼滅することができたよ。――ありがとう、お疲れ様」
     労いを込めて礼の言葉を述べた後、功紀は少し申し訳なさそうな表情を見せる。
    「……と、ここで話が終われば良かったんだけど。そういうわけにもいかないんだよね」

     武蔵坂学園はこの結果を受けて鶴見岳の調査を行い、原因解決の準備を進めていたのだが――。
     ここに来て、想定外の横槍が入ってしまったのだという。
    「今、鶴見岳の周りには『ソロモンの悪魔』の軍勢が集まって、イフリートを攻め滅ぼすために準備を整えているんだ」
     ソロモンの悪魔の目的は、イフリートが蓄えた力を奪い、邪悪な企みのために利用することだろう。
    「そして、軍勢の中には、今までとは比べものにならないくらい強化された一般人がいる。ソロモンの悪魔は、『デモノイド』って呼んでるみたいだけど」
     ソロモンの悪魔の軍勢の主力を担う彼らは、ダークネスに匹敵するほどの力を持つ。
     鶴見岳を守るイフリート達も充分に強力なダークネスだが、戦力を削がれている今、攻勢を凌ぎきることはできないだろう。
    「ダークネス同士の戦いなんて、放っておけばいいと思うかもしれないけど。実は、これは武蔵坂学園にとっても都合の悪い話なんだよね」
     仮に、武蔵坂学園が介入しなかった場合。
     戦いに勝利を収めたソロモンの悪魔の軍勢は、鶴見岳の力を得てさらに勢力を伸ばす筈だ。
     そして、敗れたイフリートは包囲を破って戦場から姿を消す。ソロモンの悪魔たちの目的は鶴見岳に蓄えられた力であって敵の殲滅ではないから、彼らは逃げるイフリートに対して手出しはしない。
     つまり、ソロモンの悪魔が強大な力を得る一方で、イフリートも殆ど数を減らすことなく逃走する――という、最悪の結果になってしまうのだ。

    「残念だけど、今の武蔵坂学園に二つのダークネス組織と正面から戦う力はない。ソロモンの悪魔とイフリートの争いを利用して、そこから最善の結果を引き出せるように介入して欲しいんだ」
     功紀はここでいったん言葉を区切り、灼滅者たちの顔を見る。
     その後、彼は黒板に向かい、チョークで介入時のポイントを書き始めた。
    「選択肢は三つ。一つ目は、鶴見岳を攻めるソロモンの悪魔の軍勢の背中を攻撃すること」
     ソロモンの悪魔の軍勢を壊滅に追い込めば、鶴見岳の力を奪われるのは阻止できる。
     この選択ではイフリートと挟撃する形になるため、ソロモンの悪魔の軍勢を潰すには効率がいい。
     ただ、イフリートにとっては灼滅者たちも憎むべき敵だ。戦場で出会えば激突は避けられず、三つ巴の乱戦になる可能性は高い。
    「二つ目は、鶴見岳の麓にあるソロモンの悪魔の司令部を攻めること」
     戦力はかなり高いと推測されるが、普段は表舞台に出てこないソロモンの悪魔と戦うチャンスでもある。
     しかし、司令部を制圧したとしても、鶴見岳の戦いに敗れた場合は力を奪われてしまう。
     この場合でも、ソロモンの悪魔を多く討ち取れば組織は弱体化するため、どちらが良いとは言い切れないが。
    「三つ目は、鶴見岳から逃げるイフリートを倒すこと」
     脱出を果たしたイフリートは、いずれ各地で事件を引き起こす。ソロモンの悪魔の軍勢と戦い、疲弊している今が、彼らを灼滅する好機だろう。
     一通り説明を終えた後、功紀はチョークの粉を払いながら振り返った。
    「どこを選んでも、危ない戦いになるのは間違いないと思う。……どうか、無事に帰ってきてね」

     ――学園で、待ってるから。


    参加者
    ユッカ・ヒベルティア(銀色の陽・d02207)
    敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)
    月原・煌介(月暈の焔・d07908)
    西明・叡(石蕗之媛・d08775)
    犬蓼・蕨(白狼快活・d09580)
    テン・カルガヤ(機槍マイスター・d10334)
    ンソ・ロロ(引きこもり型戦士・d11748)

    ■リプレイ


     灰色に曇った空の下、山の空気は戦の気配を孕んでいた。
     道中、雪が積もっている場所も見られたが、イフリート達の炎で溶かされてしまったのか、ここ山頂付近では地肌が露出しているところが多い。少なくとも、雪に足を取られる心配だけは無さそうだ。
     登山用の装備に身を固めた灼滅者たちは、敵に気取られないよう慎重に進む。
     普段は専用に改造を施したドラム缶の中に篭っているンソ・ロロ(引きこもり型戦士・d11748)も、今回は自分の足で歩いていた。ダークネスの二勢力がひしめく山中を、ビハインドの『ビッグ・チーフ』に運んでもらうわけにはいかない。
     山頂に攻め上ろうとするソロモンの悪魔の軍勢――その最後尾から一定の距離を置き、姿勢を低くして木陰に身を隠す。『デモノイド』と強化一般人からなるソロモンの悪魔の軍勢の後背を突き、これを壊滅させるのが自分達の役目だ。
     幸いと言うべきか、敵はこちらに気付いていない。様子を窺いつつ、エルディアス・ディーティアム(金色の月・d02128)が声を潜めて囁く。
    「あれがソロモンの軍勢……」
     長身を屈めた敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)が、小さく舌打ちした。
    「……ったく、次から次へとご苦労さんだな」
     隣には、迷彩服を着た壮年のビハインド『紫電』の姿。かつてイフリートに殺害された、雷歌の父親である。
     宿敵たる炎の幻獣は、視界に映っていない。悪魔の軍勢において主戦力とされる『デモノイド』と思しき者も、ここからは見えなかった。もしかしたら、イフリートとの戦いに備えて最前線に集められているのかもしれない。
     それを少しだけ残念に思いながら、犬蓼・蕨(白狼快活・d09580)は頭をすっぽりと覆うキャスケット帽を被り直す。
     この機会に、噂の『デモノイド』やイフリートを見てみたかったのだが、三つ巴の戦いを避けるというチームの方針上、迂闊に突っ込むことはできない。
    「緊張してきたな……」
     ユッカ・ヒベルティア(銀色の陽・d02207)が、眼鏡のレンズ越しに前方を見据える。
     大切な人と共に依頼に赴くのは、今回が初めてだ。前衛を務める彼女の背を、メディックの一人として支えてみせなければ。
     そんな彼の気負いを感じ取ったのか、エルディアスがそっと声をかける。
    「ユッカさま、あまり無理はしないでくださいね」
     自分を心配する彼女の声に、ユッカは穏やかな微笑みを返した。
    「ありがとう。――エルディアスさんこそ、気をつけて戦うんですよ」
     仲睦まじいやり取りを背中で聞き、月原・煌介(月暈の焔・d07908)が腕時計に視線を落とす。日時計を模したアンティーク調の文字盤は、現在の時刻が17時近くであることを示していた。
     顔を上げ、煌介は期せずして『悪魔』と『炎』が揃った戦場を黙って見詰める。
     仲間と力を合わせ、己に潜む闇と対峙すること。それが、真実を掴む足掛かりとなるだろうか。
    「――俺はどっちにも因縁は無えがな」
     足元に伏せた霊犬『菊之助』の背を軽く撫で、西明・叡(石蕗之媛・d08775)が呟く。
     戦いに臨む気合がそうさせるのか、平素の女言葉はなりを潜めていた。
    「放っとく事が巡り巡って仲間の危機を招くなら、止めねえ理由は無え」
     灼滅者が介入しなければ、ソロモンの悪魔は鶴見岳に蓄えられた力を得て勢力を伸ばし、イフリートは余力を残したまま戦場を去る。それが後に大きな災いの種になるのは、火を見るよりも明らかだ。
     銀の双眸に決意を湛え、煌介が頷きを返す。
     二つのダークネス組織を同時に相手取り、正面から叩き潰す力は今の武蔵坂学園には無い。
     示された三つの選択肢を吟味した結果、彼らは『ソロモンの悪魔の軍勢を叩き、鶴見岳の力を奪わせない』ことを優先したのだった。
     他のチームも含めると、全体の過半数を超える人数がこの山頂付近に集まっている。
     戦力としては充分だが、それでも油断は禁物だろう。

     ――オオオ……ッ!

     前方で、鬨の声が上がる。
     隕鉄を鍛えた魔槍を手に、テン・カルガヤ(機槍マイスター・d10334)が口を開いた。
    「……始まったか」
     二勢力の間に戦端が開かれたようだが、今はまだ仕掛ける時ではない。
     ソロモンの悪魔の軍勢が、イフリートとの戦いに集中したタイミング――そこを奇襲するのが、灼滅者たちの作戦だった。


     戦場を包む喧騒が、灼滅者たちの心をざわりと波立たせる。
     逸る気持ちを抑えつつ、彼らは辛抱強く機を待ち続けた。

     ――時間にしておよそ三分。そろそろ頃合だろうか。

     煌介が、全員に向かって合図を送る。立ち上がったエルディアスが、愛刀の柄に手をかけた。
    「では、参ります!」
     仲間達と足並みを揃え、最後方に位置する一部隊に狙いを定める。
     十名ほどの強化一般人で構成されたその部隊は、どこか粗暴な雰囲気を漂わせていた。
     煌介の白い指が、惑わしの符を敵の頭上に投じる。すかさず雷歌が両手を突き出し、そこに全身のオーラを集めた。
    「これ以上は行かせねえ。弱ったとこ叩いて楽なんてできると思うなよ?」
     燃え盛る炎のようなオーラの砲撃が敵を貫いた瞬間、紫電が毒の衝撃波で追い撃ちを加える。
     浮き足立つ強化一般人に向けて、叡が白金に輝く光輪の刃を放った。
     槍にも見紛う巨大な長薙刀――『転蓋地角』を構えた蕨が、敵陣に切り込む。
    「わう!!」
     白狼を名乗る少女は仔犬のように吠えると、素早く地を蹴って得物を繰り出した。
     その後に続いたテンが、アンテナの如く飛び出した二本の前髪を風にそよがせて走る。
     彼女が手に携えるは、『天震わせるモノ』の異名持つ降魔の槍。
    「此度の任務は簡単ではない……が、信念を持ってこれに当たるのみ」
     臆することなく大胆に踏み込み、螺旋の刺突で敵を穿つ。ようやく状況を理解したらしい強化一般人たちの何人かが、慌てて反撃に出た。
    「ま、まずはこいつらからだ! 撃て撃て!」
     飛来する魔法の矢を、ビッグ・チーフが己の身で受け止める。金属製の仮面で顔を隠したンソが、神秘の歌声を戦場に響かせた。
     かつては淫魔の奴隷として奏で続けた音楽の力をもって、敵を催眠状態に陥れる。
     抜刀したエルディアスが、肩越しにユッカを振り返った。
    「ユッカさま、援護お願いしますね」
     頷く彼に微笑み、近接距離に迫った敵の腕を目掛けて鋭い斬撃を浴びせる。ユッカの呼びかけに応えて降臨したプリズムの十字架が、輝ける無数の光条を放って敵の攻め手をさらに封じた。

     辛うじて状態異常を逃れた一人が、全てを凍てつかせる死の魔法を発動させる。
     一瞬にして体温を奪い去る氷に身を蝕まれながらも、蕨は負けじと声を張り上げた。
    「氷勝負、負けないモンね!!」
     長大な得物に込められた妖気を、鋭い氷柱に変える。撃ち出されたそれが敵の肩を深々と抉った直後、煌介が詠唱を響かせた。
    「竜巻疾く翔ける白鴉、射て」
     白き羽持つ魔法の矢が、傷ついた敵の一人を地に沈める。
     自らの翼とも言える大切な相棒――朱紐の羽飾りをあしらった箒を背に負い、煌介は隙のない視線で周囲を見回した。
     序盤の攻防において、灼滅者たちは戦いの主導権を握ることに成功している。
     イフリートとの三つ巴を避けるべく深入りを避けたため、ソロモン陣営の主力である『デモノイド』と戦わずに済んでいるのも大きいか。
     とはいえ、個々の強さはともかくとして単純な頭数では敵の方がまだ多い。
     万一の事態を考え、退路は常に確保しておくべきだろう。
     ディフェンダーとして最前線を守る雷歌が、身の丈程もある斬艦刀を力任せに振るう。烈風を孕んだ超重量の一撃が敵を捉えた瞬間、叡が『白蛇清姫』を煌かせた。
    「盾付けてやるよ、無いよりマシだろ」
     自らの尾を食らう白蛇が光輪の盾となり、雷歌の身を守護する。敵の前に立って主への射線を遮る菊之助が、浄化の視線で紫電の傷を塞いだ。
     弾丸の如く駆け、テンが敵に肉迫する。脇腹を打つ一撃とともに流し込まれた魔力が、体内で勢い良く弾けた。
     猪突猛進を自らのスタイルとする彼女も、今回は連携を重視して突出を避けている。
     殊更に命を惜しんでいるわけではない。それが、敵を倒すための最善であるからだ。
     時には、引くこともまた兵法の一つ――。
     契約の指輪から闇の力を引き出したンソが、制約を強いる魔法の弾丸で敵の動きを縛る。心の深淵に潜む暗き想念を解き放ち、エルディアスが傷ついた一人を撃ち倒した。
    「焦らずに慎重に、倒していきましょう」
     長い金髪をさらりと揺らし、残る敵へと向き直る。彼女の言葉に、ユッカがええ、と頷きを返した。
     この一部隊を殲滅しても、戦いは終わらない。まだまだ、先は長いのだ。
     今から息切れしてしまうようでは、任務を果たすことなどできないだろう。
     藍の瞳で戦場を見据え、ユッカは退魔の光を操る。
     悪しきを滅し善なるを救う審判者の輝きが、灼滅者に癒しをもたらした。


     山中に、一つ、また一つと明かりがともる。
     約十名からなる強化一般人の部隊を全滅させた灼滅者たちは、休むことなく次の戦いに向かっていた。
     本隊に合流する動きを見せる一団に目をつけ、襲撃をかける。
     イフリートと『デモノイド』がぶつかり合う最前線がどのような状況になっているかは分からないが、そこで戦っているだろう仲間達を援護するという意味でも、先に行かせるわけにはいかない。
     灼滅者たちの姿を認めた強化一般人が、魔法の矢を次々に放った。
     身を挺して後衛の盾となった雷歌の右肩に、その一本が深々と突き刺さる。
     傷口から噴き上がる炎が、同じ色をした彼の髪を煌々と照らした。
    「……馬鹿だからな、こんくらいしか出来ねえ」
     オーラを全身に巡らせ、穿たれた傷を塞ぐ。拙い技術の代わりに己の体を張る、それが雷歌の戦い方だ。
    「けどな……『護り刀』はそう簡単には折れねえぜ?」
     巨大な鉄塊にも見紛う愛刀『富嶽』を構え、鋭い眼光で敵を見据える。
     炎を映す双眸に秘めしは、決して揺らがぬ『護り』の意志。
     テンが、螺旋の突きで反撃に転じる。霊力を帯びた一打を浴びせるビッグ・チーフに続き、ンソが自らの影業を操った。
     影の刃で敵の脇腹を切り裂きつつ、仮面越しに戦場を見る。
     淫魔の奴隷として過ごした五年の歳月がそうさせたのか、ンソは自分の身を差し出す行為に対して抵抗が薄い。他人と向き合うことを恐れはしても、戦いを恐れたりはしなかった。
    「今、ケガを治しますから……少しだけ、我慢してくださいね」
     後衛で回復役を担うユッカが、闇を払う浄化の光で仲間を順番に癒す。突出を避けて数歩下がったエルディアスの足元から、蔦のような影が幾つも伸びて敵に喰らいついた。
    「う……ああああああああっ!!」
     闇に呑まれた強化一般人が、顕現した己のトラウマと相対して絶叫する。
     敵の様子を注意深く窺っていた煌介は、心の中で小さく首を傾げた。
     先程から感じていたことだが、どうにも動きが雑すぎる。今まで戦ってきたソロモンの悪魔の配下と比較しても、さしたる作戦もなく闇雲に攻撃しているだけという印象が拭えない。
     つまり、この場には強化一般人の中でも程度の低い、いわば『戦うしか能のない』者が集まっているということか。
     煌介が射た魔法の矢の後を追うようにして、蕨が冷気の氷柱を撃ち出す。
     ふと、前線の様子が気にかかった。
    「デモノイド、どんな見た目なのかの?」
     聞くところによると、彼らもまた『強化された一般人』であるらしいが――わざわざ『デモノイド』と呼ばれているからには、ただの人間ではないだろう。
     もっとも蕨の場合、新たな敵に対する危機感というよりは純粋な好奇心から来る興味なのだが。

     灼滅者たちは互いに連携し、敵の数を着実に減らしていった。
     ンソが、伝承の歌姫もかくやという神秘的な歌声で敵を永遠の眠りに落とす。
     黒地に黄の菊文様を散らした華麗な装束を纏った叡が、江戸長唄を朗々と詠った。
     歌舞伎役者さながらに薄闇を舞う彼の声に癒され、煌介が微かに目を細めて礼を述べる。
    「……感謝、叡」
     しなやかに地を蹴った煌介の手の中で、月の輝きを鍛えた『Lune Flamme』の刀身が煌いた。
    「行け、白砂月炎」
     揺らめく炎の如く波打つ刃に、彼の生み出す焔が宿る。振るわれた斬撃が、立ち塞がる強化一般人を葬り去った。
     ほぼ同時、雷歌と紫電が父子のコンビネーションでもう一人を叩き伏せる。拳で敵の鳩尾を打ったテンが、素早く周囲に視線を走らせた。
    「かなり減ってきたな」
     残る敵を数えて、淡々と呟きを漏らす。
     もともと戦力的に優勢である上、灼滅者たちに油断はない。あとは、着実に潰していくだけだ。

    「もう少しです。頑張りましょう」
     ユッカが、WOKシールドのエネルギー障壁をもって叡のガードを固める。
     回復は充分と判断した叡は、ここで菊之助に攻撃を命じた。斬魔の刀で一撃を浴びせる愛犬と呼吸を合わせ、白蛇の光輪を繰る。
    「清姫の怖さ味わわせてやるぜ」
     どこまでも敵を追い続ける『白蛇清姫』の姿は、想い人に裏切られて怒り狂う少女のようで。
     伝説を思わせるその一撃が敵を裂いた直後、蕨がそこに踏み込んだ。
    「狼の力思い知れー!!」
     螺旋の捻りを加え、迷いなく突きを繰り出す。
     腹部を貫かれた敵が、ゆっくりとその場に崩れ落ちた。


     炎熱の気迫を込めて、雷歌が斬艦刀を横薙ぎに振るう。
     長大かつ幅広な刀身が敵の胴に打ち込まれ、重量をもってその身を断ち割った。
     最後に残った敵に向かって、テンが突進する。
    「敵を破壊するとは……こう!」
     助走の勢いを乗せた魔槍の一撃が、敵の急所を正確に捉えて止めを刺した。

     戦いの終わりを見届け、エルディアスが息を吐く。
    「なんとか……ですね。皆さま大丈夫です?」
     仲間の安否を問う彼女の視線が、ふとユッカのそれと交わった。
     互いに微笑み、この場を無事に乗り切れたことを喜ぶ。
     もはや、目の届く場所に動く敵の姿はない。周囲の戦況も、順調に収束に向かいつつあるようだ。
    「……お疲れっす」
     そっと仮面の位置を直しながら、ンソが仲間達を労う。
     蕨が、なお諦めきれないといった様子でぽつりと呟いた。
    「デモノイド、見てみたかったの」
     前線に赴いたメンバーに聞けば、どんな姿をしていたのか分かるかもしれない。
     あるいは、またいずれ相見える機会もあるだろうか。

     重傷者がいないことを確かめ、煌介の双眸に安堵の色が宿る。
     感情を表せぬ面の下に思いを秘めて、彼は月の無い空を見上げた。
     ――自らの闇にまつわる真実はさておき、今は誰も欠けなかったことを喜ぶべきだろう。
     山を吹き抜ける風に身を任せ、叡がそっと瞼を閉じる。
     学園で帰りを待っているだろう親友の顔が、ふと浮かんだ。

    作者:宮橋輝 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月5日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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