鶴見岳の激突～炎と血の交錯の果てに

■リプレイ

●炎の山
　大分県別府市・鶴見岳──。
　先日のイフリート達による作戦の失敗を知ったソロモンの悪魔の一派が、少なからざる損害を受けたイフリート達を攻め滅ぼし、鶴見岳に眠る力を横取りしようと企て、軍勢を率いて集結していた。
　だが、それと同時にソロモンの悪魔達の企てを阻止しようと、密かに動いている者達がいた──。

「やれやれ、灼滅者としての初陣がこんな厳しい局面とはね」
　ソロモンの悪魔やイフリート達に見つからぬよう、正規の山道を避けて足場の悪い木立の間を抜けながら、既にスレイヤーカードの封印を解除している出雲・淳志（魔縁薙・d09853）が溜め息を吐く。
「何を弱気な事を言うのだ、兄さま」
　それを聞いた淳志の妹である出雲・八奈（赤瞳・d09854）が情けないというように言うと、
「いや、もちろんしっかり乗り切っていこうとは思ってますけど」
　流石に妹の前で情けない所を見せるわけにはいかないと思ってか、即座に答える淳志。
「そんな消極的な事でどうするの。戦うからには１体でも多くのソロモンの悪魔を倒すのよ！」
　それとは対照的に風音・瑠璃羽（散華・d01204）が大いに意気込む。
「別府温泉のご当地スイーツといえば地獄蒸しプリンよね。さっさとイフリートや悪魔には退場願って、堪能するんだ──」
　続いて小川・晴美（ハニーホワイト・d09777）がそう言って顔を緩ませる。
「こら！　戦いの前に雑念を入れるな！」
　生真面目に咎める八奈に、
「まあまあ、モチベーションの持ち方は人それぞれだろ？」
　そう楪・奎悟（不死の炎・d09165）が間に入り、
「そうだよ。要は最善を尽くしさえすれば良いのさ」
　水無瀬・旭（晨風・d12324）も穏やかな口調で言う。
「……ソロモンの悪魔の思惑通りに事が運べば、一般人にも被害が及ぶものね」
　そう付け加えて旭が言うと、八奈も押し黙らざるを得ないようだった。
　その後、ほとんど無言で一行が進むと、目の前に登山客とは思えない一団──ラフである事以外、服装に統一感がなく、全員が目出し帽やフルフェイスのヘルメットなどで顔を隠しているのが１０人ほど、登山道を進んでいるのを見つける。
「強化一般人かしら？」
　向こうに見つからないよう、注意深く木の陰から様子を伺いながら神薙・法子（きらきら星・d04230）が呟く。事が事だけに間違いでは済まされないので、灼滅者達が慎重に構えていると、間もなく山道の向こうから怒号や激しい物音が聞こえてくる。
「ソロモンとイフリートの戦いが、始まった──」
　音の方を振り向き、スヴェンニーナ・アウル（キャットウォーク・d10364）が表情を強張らせる。直後、一団が戦いのある方へ向かって駆け出していく。
「間違いない。あいつらはソロモンの悪魔の手下よ！」
　そう断定すると、瑠璃羽は得物の日本刀──黒龍雷刃剣を鞘から抜き払う。
「こっちも行こう！」
　続いて法子も言って、ポケットから薄手の手袋を取り出すと、戦いの前の儀式のようにそれを付けるのだった。

●号砲
「行くよ！」
　クラッシャーとして先陣を切るべく瑠璃羽は木の陰から強化一般人達の後方、少し離れた所に飛び出すと、そう自分と仲間達に気合を入れて黒龍雷刃剣を振りかぶる。
　彼女の攻撃に先んじて、スナイパーの旭が強化一般人の１人に導眠符を放つと、効いているらしく頭を振る。それをチャンスと瑠璃羽はギルティクロスの標的をそれに決定すると、赤い逆十字に切り裂かれた敵はあっさりと倒れる。
「おや、混乱するより先に倒しちゃった？」
　いささか残念そうに旭は呟く。
「別府に眠る力よ、今だけ力を貸して！」
　時間の都合で観光する余裕がなく、ガイアチャージはできなかったが、晴美はそう鶴見岳に呼びかけ、同じクラッシャーとして瑠璃羽に負けまいと、２人目の敵をソニックビートで攻撃する。続けてディフェンダーの奎悟が契約の指輪からペトロカースを放つと、当たった箇所から敵の身体が徐々に石化していく。
「私は出雲のやなだ。戦の号砲は鳴らされた。さぁ、戦場に立つ者みな、己が生命を声高らかに謳え！　ここは戦場、生を語るに相応しき生と死の境界ぞ！！」
　高らかに名乗りを上げる八奈に対して、淳志は妹にディフェンダーを任せて自分は後ろでメディックに立つ事に後ろめたさを覚えつつ、それでも自分の役割を精一杯果たそうと、まずは石化していく敵を導眠符で催眠状態にする。そこへ八奈がマジックミサイルを飛ばすと、清水のようにきらめく魔法の矢に胸を貫かれてまた１人敵が倒れる。
「さて──」
　キャスターのスヴェンニーナが予言者の瞳を発動させると、強化一般人達を睨む目が、更に鋭く輝く。メディックの法子も防護符で八奈を強化してからぼそりと呟く。
「──戦いは、これからよ」

●我等奇襲ニ成功セリ
「何だ何だ！？」
「後ろから来たぞ！」
「やっちまえ！」
　灼滅者達の奇襲に動揺する強化一般人達だが、灼滅者達の姿を見つけるや、手に手に金属バットや特殊警棒を持って向かってくる。
「何と、迷わず反撃に出たぞ」
　イフリートとソロモンの悪魔達が戦火を交えている主戦場から離れた後方である事を差し引いても、切り替えの早さに八奈が声を上げる。
「これがちゃんとした決断の上なのか、それともただの反射なのか……」
　はてさてと淳志も呟くが、
「そんなの、戦ってみれば分かるよ！」
　迷いのない口調で瑠璃羽は言うと、最初に突っ込んできた敵に向かって雲耀剣で斬り付ける。敵が振り下ろしてきた特殊警棒は寸足らずになって空を切り、一瞬遅れて胸板が一文字に切り裂かれて血を吹き出す。だが、攻撃直後の一瞬の隙を突くようにもう１人の敵が金属バットで殴りかかる。
「危ない！」
　とっさに法子がシールドリングを飛ばし、瑠璃羽の頭上で金属バットと衝突する。が、シールドリングの端であったために完全には防ぎきれず、金属バットは瑠璃羽の額を捉え、血を流させる。
　更に畳み掛けてこようともう２人が襲ってくるが、そこへ奎悟が割って入り、身体を張って攻撃を受け止める。
「こんなの平気！　皆を守れるならね♪」
　瑠璃羽の傷は決して浅いものではなかったが、それでも仲間に心配掛けさせまいと、弱音一つ吐かずにニヤリと笑ってみせる。
　残る敵４人も八奈と晴美に２人ずつ襲いかかり、どちらも１人の攻撃はかわすか防ぐかするが、もう１人の攻撃はかわせない。
「やったな、ハニーホワイトクラッシュ！」
　晴美は鉄パイプで殴ってきた敵をマテリアルロッドで殴り返すと、更にそれを通して魔力を流し込む。
「あばっ！」
　間抜けな声を上げて、敵はフォースブレイクによって爆発する。
「オラァッ！」
　奎悟も瑠璃羽が斬ってまだ立っている敵を、振り向きざまにレーヴァテインの炎を宿した縛霊手で殴りつける。炎に包まれて飛ばされた敵は、地面に倒れたまま動かなくなる。
「嵐の眷属此処に在れ！」
　八奈もナイフで斬り付けてきた敵に対して抗雷撃で反撃するが、相手は腹を殴られて身体を折り曲げるもまだ立っている。
「済まない八奈、向こうが優先だ！」
　瑠璃羽に防護符を飛ばしつつ、援護できない事を詫びる淳志。
「言われるまでもない、兄さま」
　大丈夫だというように八奈は答える。
　そんな仲間の状況を見ていたスヴェンニーナは、敵側に視線を移して一言。
「凍りつけ」
　直後、スヴェンニーナのフリージングデスが、強化一般人達の服や身体が瞬く間に凍り付かせる。敵は慌てて氷を振り払うが、
「行くよ、相棒」
　氷が確実に体温と体力を奪っているのを確信して、旭はロケットハンマーを頭上で回転させながら、一番弱っている、八奈が殴った敵に向かい、回転の勢いを利用して黒死斬の要領で殴りつける。ロケットハンマーは相手の首で鈍い音を立て、相手は吹き飛ぶと倒れたまま動かなくなる。
　それから法子に２枚目の防護符を受けて瑠璃羽の出血が止まると、お返しとばかりに雲耀剣を繰り出し、相手が掲げる金属バットを棒きれのように真っ二つにして袈裟懸けに斬り捨てる。
「舐めんなコラァァッ！」
　仲間の敵討ちか個人的な怒りか、今や半数以下に減った敵が叫びながら再度攻撃してくるが、最初と同じ相手に、同じように力任せに振り回す攻撃だったので、奎悟、八奈、晴美の３人ともしっかり見切ってかわすか防ぐ事ができた。
「同じ攻撃を、二度も食らうかよ！」
　敵の攻撃を受け止めた縛霊手で振り払い、奎悟はそう相手を挑発さえする。
「もう１回、ハニーホワイトクラッシュ！」
　晴美も相手の攻撃をかわしざま、フォースブレイクでカウンターを掛けて爆発させる。
　続いて旭が奎悟を襲った敵２人のうち片方を、ロケットハンマー版ティアーズリッパーでヘルメットを叩き割り、素顔が見える前に奎悟がレーヴァテインでとどめを刺す。
「さて、流れはもう決まったかな」
　そう独りごちて、淳志は日本刀を抜くと、妹を襲った敵に踏み込み雲耀剣で斬り付ける。
「ひっ──ぎゃぁぁぁぁっ！！」
　切先から炎が吹き出さんばかりに速い斬撃で鉄パイプを片腕ごと切り落とされ、パニックに陥る敵に、
「いぃいいやぁあ！！」
　裂帛の気合と共に八奈が愛用の無敵斬艦刀・赤蛇の剣を大上段から振り下ろし、戦艦斬りで真っ二つにされて敵は沈黙する。
　最後に残った敵もスヴェンニーナが契約の指輪から放った制約の弾丸で動きを封じられ、
「これで、おしまいっ！」
　瑠璃羽が上段から振り下ろす雲耀剣で敵は倒れる。一拍置いてヘルメットが真っ二つに割れて地面に転がり、敵の素顔が露わになると、瑠璃羽は思わず声を上げた。
「何、このチンピラみたいな顔──！？」

●傀儡
　血塗れでさらされた強化一般人の顔は、茶髪にピアスをした、良くあるチンピラの容貌で、他の灼滅者達も比較的損傷の少ない他の死体から目出し帽などを取っていく。
「どれもこれも、町をふらついてたチンピラやホームレスという感じの奴ばかりね」
　怪訝そうに法子が言うと、
「リーダーっぽいのもいないし」
　続けて八奈もそう感想を述べると、強化一般人達の死体がみるみる消滅していく。
「とりあえず、みんなまだ余裕はありそうだし、他の敵を探そうか？」
　旭がそう提案すると、全員が賛成して、灼滅者達は次の敵を探しに入った。

　だが、その後も出会う敵は皆、最初と似たり寄ったりの印象で、加えて前線で傷付いて逃げてきたり、仲間とはぐれた強化一般人ばかりで、倒すのはさして難しくなかった。
「またこんなのかよ。攻撃も馬鹿の一つ覚えみたいに力と勢いに任せて突っ込むだけでよ」
　何度目かの敵を倒して、流石に奎悟が愚痴を漏らすと、スヴェンニーナも複雑な表情で頷く。
「自分達だけで作戦を立てる事もできないようだしね」
　淳志がそう推測を口にする。つまり、本陣にいるソロモンの悪魔からの命令だけで動いていたので、灼滅者という想定外の事態にも『敵がいるから戦う』という行動しかできなかったのだろう。
「この状況で、新しい命令が彼らに来ていない、と言う事は──」
　淳志がそう言いかけて、
「本陣に向かった人達が、うまくやったんだね！」
　彼の言わんとする所を察した晴美が、嬉しそうに声を上げる。
「じゃあ、ソロモンの悪魔を倒したのか、兄さま？」
　八奈も感情を抑えられない様子で尋ねるが、
「さあ、それは詳しい情報が入らないと」
　そう言って淳志は首を振る。
「ともかく、今は残っている敵を倒そう。それが今、私達にできることだから」
　瑠璃羽がそう話を締めると、「そうだね」「そうだな」と他の灼滅者達も頷き、一斉に叫んで気勢を上げるのだった。

作者：たかいわ勇樹	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年2月5日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 6
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