●炎魔岐路
「皆さんのおかげで、日本各地で事件を起こしていたイフリートの多くを、灼滅することができました」
集まった灼滅者達に向けて、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、深々と頭を下げる。
この大勝利ともいえる成功を受け、さっそく鶴見岳周辺の調査と、その原因解決を行うべく準備を進めていた、というのだが……。
「その前に、サイキックアブソーバーが、新たな動きを感知したのです」
──想定外の、横槍。
神妙に告げた姫子の顔に陰りが差し、言葉も重いものに変わっていく。
「『楔を喰らう炎獣』の事件は、他ダークネス組織のバベルの鎖にも察知される規模でした」
そのため、鶴見岳に集まった力を手に入れようと、動き出したダークネス組織があったという。
「現在の鶴見岳周辺には、ソロモンの悪魔の一派が率いる軍勢が集結しています」
「「──!」」
場の空気が、瞬時に張り詰める。
武蔵坂学園によって戦力が減少したイフリート達を、攻め滅ぼす絶好の機会と思ったのだろうか。
口元を強く結んだまま姫子は頷き、さらに詳細を付け加えようと口を開いた。
「おそらく、ソロモンの悪魔の目的は……イフリート達が鶴見岳に集めた『力』を、横取りすることだと思います」
ソロモンの悪魔達が『力』を手に入れた場合、彼らが自分達の利益のために使うのは実に明白で。
──より陰湿で、邪悪な、目的のために。
「ソロモンの悪魔の軍勢には、今までとは比較にならない程に強化された、一般人の姿も見受けられているそうです」
一般人といえど、ダークネスに匹敵する程の力を持つ彼らは、ソロモンの悪魔から『デモノイド』と呼ばれており、軍勢の主力となっているという。
2つのダークネス組織がそのまま抗争に発展すれば、力を消耗しているイフリート側は劣勢に陥り、ソロモンの悪魔側の勝利に終わるだろう。
「鶴見岳の『力』を得たソロモンの悪魔は、更に強大な勢力になっていくであろう、というのが、サイキックアブソーバーの解析の結果でした」
敗北したイフリート側は、一点突破で包囲を破り、鶴見岳から離れていく。
ソロモンの悪魔側は、鶴見岳の『力』さえ奪えれば、イフリート側と正面きって戦う気はないとのこと。
そのため、逃走するイフリート側に対しては、ほとんど攻撃を仕掛けないようで、この場合イフリート側もかなりの戦力を残すことになる。
「つまり、武蔵坂学園が介入せずに、放置した場合……」
1人の灼滅者が、口火を開く。
一点に集まる視線。沸々と湧き出ようとする皆の心の内を代弁するように、姫子が言葉を紡いだ。
「ソロモンの悪魔側は強大な力を手に入れ、イフリート達も戦力の殆どを失わずに逃走することになるのは明白ですね」
最悪の結果ともいえる解析結果に、姫子の表情が曇るのも、無理はない。
なぜなら、現在の武蔵坂学園には……2つのダークネス組織と正面から戦う力は、ないのだから。
けれど、姫子は不安を払うかのように首を横に振ると、灼滅者達に向けて小さく微笑む。
「2つのダークネス勢力が前面衝突する規模であったため、幸いにも私達は早くにこの事態を察知することができました」
自分達にできるのは、この2つのダークネス組織の争いを利用して、最善の結果を引き出すこと。
そう告げた姫子は「私達が他に選べる選択肢は、3つ」と、指を3本立てた。
●(1)ソロモンの悪魔の軍勢を後背から攻撃する
「1つめの選択肢は、鶴見岳に攻め寄せるソロモンの悪魔達を後背から攻撃することです」
鶴見岳を守るイフリート側と共に、ソロモンの悪魔の軍勢を挟撃するかたちになるので、有利に戦うことが可能になる。
ただし、別府温泉のイフリートを灼滅してきた灼滅者も、イフリートにとっては憎むべき敵であるということは、忘れてはならない。
「彼らがイフリートと戦場で出会ってしまった場合、三つ巴の戦いになってしまうかもしれません」
ソロモンの悪魔の軍勢を壊滅させた場合、イフリート側は新たな敵──灼滅者との連戦を避けて、鶴見岳からの逃走を最優先するという。
無事、鶴見岳のソロモンの軍勢を壊滅させることができた場合、ソロモンの悪魔に鶴見岳の『力』を奪われるのを阻止することが可能になるだろう。
また、当初の目的だった鶴見岳周辺の調査と、その原因解決の作戦を、後日行うことも出来るかもしれない。
●(2)ソロモンの悪魔の司令部を奇襲する
「2つ目の選択肢は、鶴見岳のふもとにある『ソロモンの悪魔の司令部』を急襲する選択です」
鶴見岳のふもとに置かれた司令部には、ソロモンの悪魔の姿が多数あるため、戦力はかなり高いと想定される。
「ソロモンの悪魔にとっても大きな作戦ですから、普段は表に出てこない彼等と、直接戦うことが出来るチャンスともいえます」
ただし、鶴見岳の作戦さえ成功させれば、司令部のソロモンの悪魔達は戦わず撤退するため、無理に戦う必要はないともいえる。
また、司令部を壊滅したとしても、鶴見岳をソロモンの悪魔の軍勢が制圧した場合は、鶴見岳の『力』の一部は、ソロモンの悪魔側に奪われてしまう。
「ですが、ここで多くのソロモンの悪魔を討ち取ることができた場合、彼らの組織を一気に弱体化させることも可能だとは思います」
──果たして、吉と出るか凶と出るか。
どちらが良いということはないので、よく相談して決めてほしいと、姫子は付け加えた。
●(3)イフリートの脱出を阻止して灼滅する
「最後の選択肢は、イフリートの脱出を阻止することに専念し、灼滅することです」
鶴見岳から敗走したイフリートが徐々に力を蓄え、後に各地で事件を起こすのは想像に難くはない。
「その事件を未然に阻止するためにも、イフリートの脱出阻止は重要な仕事になると思います」
現在のイフリート側は、先の武蔵坂学園の介入に置いて、その戦力は著しく激減している。
そして、さらにソロモンの悪魔側との戦いで疲弊しているため、千載一遇のチャンスともいえた。
「これで、全部ですね……」
指を3つ折り終えた姫子は少し疲れたのだろう、すぅと軽く息を整えて。
「今回は、2つのダークネス同士の大規模戦闘に介入する、危険な作戦です」
──どういう立場に立って、どう事件に介入するのか。
自分達の介入によって、2つのダークネス組織の勢力は傾くことになるだろう。
そして、それによって、自分達にも危険が及ぶ可能性も、忘れてはならない。
そう、──闇堕ちのことだ。
「どうか、お気をつけて」
最悪、多くの戦友らが闇堕ちしてしまう、作戦。
そのことを胸に抱きながら相談を始めた彼等に、姫子は真摯な面持ちでもう一度頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
伝皇・雪華(冰雷獣・d01036) |
宗原・かまち(徒手錬磨・d01410) |
時渡・竜雅(ドラゴンブレス・d01753) |
八絡・リコ(火眼幼虎の葬刃爪牙・d02738) |
音鳴・昴(ダウンビート・d03592) |
海藤・俊輔(べひもす・d07111) |
セーメ・ヴェルデ(煌めきのペリドット・d09369) |
高野・ひふみ(殺人鬼・d11437) |
●戦端、開く
──その刻は、17時。
山頂にひしめく炎獣の一群に、蒼き怪物を先陣にソロモンの悪魔の軍勢が激突したのは!
「あの、蒼色の怪物が『デモノイド』か?」
そこには、ポジションやサイキックなど関係なく、ただ炎と力がぶつかり合う光景に、宗原・かまち(徒手錬磨・d01410)の緩めの双眸も、険しいものに変わって行く。
両者の凄まじい気迫と破壊力は、上手く悪魔側の後背に回ることに成功し、茂みに身を隠して静かに時を待っていた高野・ひふみ(殺人鬼・d11437)達の肌にも、ビリっと伝わってくるほどで……。
「ほな、しっかりやろか」
顔に施された朱色の紋様にそっと触れ、伝皇・雪華(冰雷獣・d01036)もまた、口元を強く結ぶ。
青き怪物の後方に配置された強化一般人達も周囲の状況など眼中にあらず、怒りで目を爛々と輝かせる炎獣に向かって、臆することなく突っ込んでいく。
「それにしても、ここまで後背が無警戒っていうのは、どうなのかなー?」
「……今は……戦いに集中するように、指示されているのかも……」
周囲の茂みや木々にも多くの仲間が潜伏している様子を感じながら、海藤・俊輔(べひもす・d07111)は、注意深く戦場を見回す。
両者の疲弊状況を遠目から観察していたセーメ・ヴェルデ(煌めきのペリドット・d09369)も、神妙に頷きながら、視線を最前線へ戻した。
「どちらにせよ、めんどくせー状況に変わりねぇ……」
……文句言われない程度に終わらせて、さっさと帰りたい。
ソロモンの悪魔側を主に観察していた音鳴・昴(ダウンビート・d03592)は、面倒くさそうに溜息を洩らすけれど、傍らについた霊犬のましろは、そんな主人の秘した意図を含みとり、仲間を護るように周囲を警戒している。
「やってるやってる……そろそろ時間じゃないかな?」
最前線で激しく衝突しあう、赤と青。
猫化を解いた八絡・リコ(火眼幼虎の葬刃爪牙・d02738)は、微妙に高めなテンションで、少しだけ茂みから身を乗り出して。
炎獣と直接相対しているのは主にデモノイド。その後に強化一般人の軍勢がなだれ込むように押し寄せている。共通しているのは周囲の警戒や戦況など垣間みず、ただ真正面から炎獣とぶつかっていくことだけだろう……。
「戦端が開かれてから3分、それが奇襲の合図だったな」
時渡・竜雅(ドラゴンブレス・d01753)は、さっと仲間に視線を交わすと、身の丈ほどもある斬艦刀を構え直す。
真冬の鶴見岳の凍えるまでの冷気は今は戦場の熱気を帯びて不気味な温かさを帯びている。それを少しだけ吸い込んだ竜雅は、号令に変えて静寂を破った。
「ここからは、俺達の戦場だ!」
●炎戟の袂へ
「さて、お仕事です」
颯爽と飛び出したひふみが封印を解除すると同時に現れたのは、彼女の相棒であり家族のライドキャリバーの、よいつ。
竜雅の号令と共に足並みを揃えて駆け出したひふみとよいつは、一丸となってソロモンの悪魔側の後背へ距離を狭めてゆく。
『な、新手だとッ!!』
『後方から、て、敵襲ッ!!』
一斉に大勢の灼滅者達に背後を突かれたソロモンの悪魔側に、大きな動揺が走った!
「あははっ、初めまして? そして、さようならー」
長い漆黒の髪を戦場に靡かせながら、リコの緋色の瞳は嬉々と輝いていて。
体を軸にするように超長柄のハンマーに力を乗せ、全身を使うように振り回す。
強烈な殴打を受けたヤクザ風の男が苦悶の表情で両膝をつくや否や、畳み掛けるように竜雅が巨大な鉄塊の如き刀を上段から降り下ろした。
(「彼女の代わりに……僕が、裁く」)
眼前に迫るのは、自分や友達の日常と家族を奪った宿敵の眷属達……。
直接の宿敵ではなくても、セーメの金色の双眸から物静かさが薄れ、静かな殺意が徐々に浸食した──その時だった。同じポジションの昴が「大丈夫か?」と、声を掛けたのは。
「やべぇなら下がれよ」
「……僕は大丈夫、ありがとう」
昴の呼び掛けにセーメは直ぐに返事を返し、確かな理性で怒りを鎮めてみせて。
仲間の守備に徹する、かまちに注視したセーメは、魔力が封じられたロッドを天に掲げ、ゆらりと揺らす。
俊輔に治癒を施した昴も、イフリートに対してソロモンの悪魔側を盾に出来るポジションを探さんと、戦場を広く見渡した。
「敵はんの数、多いなぁ」
魔法使いとしての戦い以外は喧嘩等での独学であった雪華は、戦場の威圧に息を飲む。
未熟な部分は気合いで補わんと軽く呼吸を整え、漆黒の瞳にバベルの鎖を集めていく。
「なんか、この前社会で先生が言ってた、昔の戦争みたいな感じだなー」
これほどまで大きく動いたら、他のダークネス達に気付かれるのではないだろうか。
けれど、それを考えるのは、この戦いの結果次第ともいえる……。
今は、間近の敵に集中しようと敵の懐に深く潜り込んだ俊輔は、拳に雷の闘気を乗せて飛び上がる。強烈なアッパーカットで態勢を崩したその脇腹を、雪華の鍛えぬかれた超硬度の拳が打ち捉えた。
「せっかく上手く挟撃できたし、ボク達は作戦通りに迎撃していこう」
強化一般人達は数は多いものの、回復役や状態異常を仕掛ける知的なタイプは何処にも見受けられない。
けれど、炎獣に迂闊に近づくのは危険だと告げるリコに、ひふみも頷き、淡々と言葉を紡いでゆく。
「最前線へ向かうグループもいるようですし、ここは1つ」
自分達の作戦は『イフリートの間にソロモンの悪魔を挟んで狙い撃つ』こと。
──ならば、やることは、1つだけ。
「後背は俺達が抑える、最前線へ赴くグループは、その隙に突破してくれ!」
「その分、デモノイドの能力等の偵察……しっかり頼むぜ」
──先に行け!!!
竜雅が巨剣を頭上に掲げると同時に金髪が燃えるように揺らめき、肉体を活性化させる。
「燃えるか殴られるかどっちがいいよ?」
デモノイドの視察から、かまちも抑えに回ろうと手薄の陣へ深く身を沈みこませる。
飛び上がると同時に雷を帯びた縛霊手を叩き付けると、俊輔と雪華も駆け出して──。
「「せーの!!」」
クラッシャーとディフェンダーの強烈な集中攻撃に、ドミノ倒しに崩れる強化一般人達。
その隙に、最も熾烈な最前線を目指すグループが一斉に駆け出した!
「御武運を」
最前線へ赴く者の背を見送る間もなく、ひふみは一旦障害物で身を隠そうとする、が。
「あぶない……!」
戦場はまさに混戦。しかも1度攻撃を仕掛けてしまえば、身を隠すのは不可能に等しい。
セーメの悲鳴に似た短い警告が辺りに響き渡る。長ドスを持った強化一般人の横薙ぎの一閃が、ひふみの胴を断ち切らんとする……が、その切先を2人の間に割って入った、よいつのボディが受け止めた。
「攻撃は通さねぇ……」
大振りの動きで僅かな隙が生まれた、リコをフォローするように、かまちも動く。
守りのシールドをリコに、そして俊輔の順に施そうとした瞬間、重く鈍い衝撃が奔った。
「悪いが此処で死ぬつもりは、ねぇんだわ」
振われた敵の手斧を咄嗟に手甲の盾で受け止めた、かまちの口元が僅かにゆがむ。
──楽しそうに。
『テ、テメエ、正気か!?』
渾身の一撃を受け流された強化一般人の目が見開いた、その刹那!
「言ったろ、俺ぁ盾役だ。……誰も通さねぇ」
手斧を振った強化一般人の背から、燃え盛る巨獣のような縛霊手が華開き、爆ぜる。
炎を纏った縛霊手。零距離から貫かれた強化一般人は、灰塵と化して崩れ落ちていった。
「おい、前出過ぎんなよ」
嬉々と仲間の盾に徹するかまちに、昴が一瞬唖然となりかけたのは、言うまでもない。
口と態度は悪くても、8人の中では、彼が1番仲間を心配していたのだから……。
「僕の神、その威光で彼の者を護って」
セーメが掲げたロッドから、淡く煌めく光が溢れ、かまちの傷を瞬時に癒してゆく。
昴も疲労が蓄積していた雪華に癒しを届けようと、黒塗りの和弓の弦を引き絞った。
●優勢の陣
「いくぜ、一刀両断!」
斬艦刀を地面に引き擦るように走り、竜雅が大きく跳躍する。
大上段から地面ごと叩き割る勢いで斬撃を繰り出し、迫りくる敵を両断していく。
この作戦に投入された戦力は多く、奇襲の成功もあり、戦況は灼滅者優勢で傾いている。
「にしても、どっちも随分派手なことやってるよね」
戦力的には充分!
終始優勢の流れに嬉々と乗ったリコも、勢い良くハンマーを振り回していく。
この状況にイフリート達は早々に撤退を試みていた様子が伺えたものの、しかし悪魔側の動きに変化は見られない。
「こいつらは、ソロモンの悪魔の命令が無ければ、まともに作戦もたてられないのか?」
「──?」
後衛を生かして次に狙うべき敵を見極め、本陣からの増援を警戒していた、昴の疑問。
不意に、物静かだったセーメの瞳に、刺すようなものが宿った。
「……もしかして、ソロモンの悪魔が直接赴いた、本当の理由は……」
今回の作戦に動員されている強化一般人は正面からぶつかり合うような戦いでしか役に立たないものが多く、臨機応変に立ち回れるような知的な個体は何処にもいない。
……それは、つまり。
「暴れることしかできない彼等に、戦況を分析して的確な指示を出すためでしょう」
「おお……!」
セーメとひふみの冷静な分析を前に、空気は微妙、女心は絶望的に読めない昴は、思わず感嘆の声を洩らす。
「今、この状況で新たな命令が来ていないということは……っと!」
乱戦の中、竜雅は孤立しないように立ち回りながら、敵の反撃を斬艦刀で受け流す。
長ドスが真紅の炎のをあしらった上着を掠めるけれど、雑作もない。
返す刃の如く押し返し、その勢いのまま、巨剣を降り下ろした。
「おそらく、本陣側を奇襲したグループが上手く健闘しているからだと思います」
感情を込めずスパッと結論だけを言いきったひふみの言葉には、説得力があった。
かまちも向かってくる敵だけに注視し、ひふみも己の影を刃に変えて応戦する。
「狙うのは、ソロモン側限定、特にこっちに攻撃してくるやつ優先ってことでー」
「要は、今がソロモン側を狙う絶好のチャンスって、ことやからな!」
仲間が解析した情報を活かさんと、俊輔と雪華も果敢に飛び出していく。
俊輔の斬撃を受けた強化一般人の懐に雪華が潜り込み、超硬度の拳で打ち砕いた。
「そして、ここにあるのは『それだけのもの』ってことなのかな」
──一瞬。山頂の方へ視線を移す、リコ。
その呟きが届いたのだろう、俊輔の瞳が大きく見開き、かまちもリコをみやる。
「オレも思ったー、それでもいいことがあるってことなのかなってー」
「まぁ先には行かせねぇし、目的もぶっ潰す」
他を気にするのは今ではない、考える時間は、きっとこの後に出てくるはずだから。
今は戦うことに集中するだけ。各個撃破を狙うリコに、俊輔が斬撃を、雪華が打撃を重ね、攻撃を繋いで行く。
「あと少しで勝てるっていうなら、戦闘継続でも文句いわねーよ」
「神に代わって、でも代行でなく僕の意思で、裁く」
昴の神秘的な歌声で催眠状態に陥った強化一般人には、セーメが魔槍に込められた妖気を冷気の槍に変えて、瞬時に撃ちぬいてゆく。
「ここからが攻め時や、いくで!」
拳に雷の闘気を宿した雪華が正拳突きの要領で拳を真っ直ぐ突き出そうとした、瞬間。
敵の目から雪華の姿が消えたのも一瞬、死角から強烈なアッパーカットが繰り出された。
ソロモンの悪魔本陣からの援軍はなく、戦況は更に灼滅者側に優勢になっていく。
炎が、剣戟が次第に納まっていく中、8人と2体は倒れることなく鶴見岳の夜を迎えた。
●炎戟の跡
「ここからだとイフリート達には、追い付けそうにもないな」
宿敵に、勝負を挑むことが叶わなかった……。
分かっていてもなお、竜雅は拳を強く握りしめ、背を振わせていて。
ソロモンの悪魔に戦力を注ぎ、イフリートとの交戦は可能な限り避ける全体方針により、最前線にも十分な戦力が集まったのだろう。デモノイド達は壊滅に瀕していて。
戦力差に見切りを付けたイフリート達も既に戦場には見当たらなく、鶴見岳から遠く離れていく行軍が、僅かに見えるだけ……。
「強敵は狩り尽くされちまったが、まだ仕事は終わってないぜ?」
労うように竜雅の肩に手を置いた昴の緋色の双眸は、鋭く1点を見据えている。
その先にあるのは僅かに残る敵残党。顔を上げた竜雅の赤色の瞳の奥底に、再び闘志の炎が灯された。
「イフリート達を追うみたいだね……ボク達も援護にいこっか?」
終始優勢な展開を運ぶことが出来たため、余力は充分ある。
軽々とハンマーを担ぎ上げたリコに一同は強く頷き、残敵掃討の鯉口を切った──。
「絶対に、通さない」
陽は、既に落ちていて、辺りは闇夜に包まれていたけれど、若き戦士達には陰りなく。
しつこく炎獣を狙わんとする一群にセーメが雷を撃ち出し、雪華も足取りを合わせて妨害を試みる。
「炎獣も敵だけどな……残党といえど、通す訳にはいかねぇのは一緒だ」
「連戦上等、逃がしはしないぜー」
今は、1体でも多くのソロモンの悪魔側の戦力を、削ぐまで!
逃げ出そうとした数体の前に、かまちが回り込み、至近距離の一撃を鳩尾に食い込ませる。片膝を付く間もなく死角を突いた俊輔の斬撃が、瞬時に1つを2つに両断した。
剣戟が静まり掛ける中、ひふみが傍らのよいつのボディをコンコンと叩く。
「学園に帰るまでが、お仕事です」
主人の意志を汲み取ったよいつは、闇夜にエンジン音を轟かせて。
再び足並みを揃えた8人と2体は、炎戟の戦場を切る、風となる──。
作者:御剣鋼 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年2月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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