鶴見岳の激突~炎獣と悪魔の集う地で

    作者:西灰三


    「イフリートの襲撃事件、みんなお疲れ様!」
     有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)が集まった灼滅者達に礼を言う。もっともエクスブレインである彼女が彼らを集めたのはただそれだけと言うことはない。
    「みんなの活躍のお陰で鶴見岳の調査と、今回の事件の原因をどうにかするためにいろいろしてたんだけど……」
    「灼滅者達を呼ぶ事態が起きた?」
    「うん。ありていに言うと横入り。ソロモンの悪魔の一派がね」
     クロエは続けて説明をしていく。
    「今回みんなにボッコボコにしてもらったイフリートにトドメを刺そうと集まってるみたい。その目的はイフリート達が集めた力を横取りしようってコトなんだろうね」
     イフリート達は確かにダークネスやその配下、あるいは都市伝説を狩って力を集めていた。それをダークネスらしく邪悪な目的で使おうということだろう。
    「それでソロモンの悪魔の軍勢の中には『デモノイド』って呼ばれてる超強化された一般人がいて、それが主力になってるの。もう能力的にはダークネスと変わらないみたいだよ」
     で。と彼女は続ける。
    「そのままにしておけば共倒れ。なんて都合の良い展開、にはもちろんならないよ」
     クロエはあっさりと言い切る。
    「そのままにしておけばソロモンの悪魔の軍勢があっさり勝っちゃって、もっと強くなるだろうね。イフリートの方はさくっと全滅する前に尻尾を巻いて鶴見岳から逃げちゃう。こっちもこっちで逃げに全力をそそぐから戦力そのものは殆ど残ったまま」
    「それで自分達を」
    「そう。そのままだとソロモンの悪魔達が強くなっちゃうだけで、イフリート達は無傷。そんな展開はマズイよね。でも今の武蔵坂学園には同時に2つのダークネス組織と戦う力はないから。この戦いに上手く介入して最善の結果を引き出して欲しいの」
     クロエはそこまで言ってから、一旦深呼吸をする。
    「それで具体的には3つの選択肢があるんだ。長くなるけどよく聞いてね」
     彼女は前置きしてから話し始める。
    「まず1つ目。鶴見岳に侵攻するソロモンの悪魔達を後ろから攻撃しちゃう作戦。相手はイフリートと皆に挟み撃ちにされる形になるから有利に戦えるはずだよ。ただ戦っている最中にイフリートと出会っちゃうと三つ巴の戦いになっちゃうから気をつけてね。この戦いでソロモンの悪魔達を壊滅させればイフリートも撤退して、ソロモンの悪魔に力を奪われずに済むよ」
     クロエは手にした資料のページをめくり、次の説明をする。
    「2つ目は鶴見岳のふもとにある『ソロモンの悪魔の司令部』を襲う作戦。もちろん本部だからソロモンの悪魔の数は多くて戦力も高いはずだよ。普段は表に出てこないソロモンの悪魔を攻撃できるチャンスかもね。ただ鶴見岳の作戦を成功させればここの戦力は撤退するから無理に、とは言わないけど。逆にここを制圧しても鶴見岳の方を失敗していたら、鶴見岳の力の一部は持っていかれちゃうけど……。その時はソロモンの悪魔自体の数が減っているからどっちもどっちだね。これについては今後のことを踏まえてよく考えてみてね」
     彼女は最後にまだ話の出ていないイフリートの事について説明する。
    「最後はイフリート達の脱出を阻止して灼滅する作戦。逃げたイフリート達はそれぞれ色んな所に行っちゃうんだけど……そこで事件を起こしちゃうのは予想できちゃうよね。そうさせないためにこの作戦も重要になるよ。イフリート達はソロモンの悪魔との戦いで弱っているから、今がチャンスかも」
     クロエは資料を収めると灼滅者達を見る。
    「今回はダークネス同士の大きな戦いに介入する危ない仕事になると思う。色々考えて最善を尽くして……無事に帰って来てね。それじゃみんな、行ってらっしゃい」


    参加者
    因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)
    ラムゥフェル・ノスフェラトゥ(欠落せし生存者・d01484)
    烏丸・奏(宵鴉・d01500)
    峰・清香(中学生ファイアブラッド・d01705)
    白鐘・衛(白銀の翼・d02693)
    真田・涼子(高校生魔法使い・d03742)
    斎藤・斎(夜の虹・d04820)
    高峯・いずみ(ジャッジメントガンナー・d11659)

    ■リプレイ

    ●山野を駈ける
     日が落ち、山の緑が闇色に染まる。温暖な地域の山と言えども少しばかりは雪が残っていそうなものだがただあるのはぬかるみだけ。それを蹴って進むのは灼滅者達
    「準備しておいたのは正解だったか」
     真新しい登山靴が泥で汚れるのを見ながら烏丸・奏(宵鴉・d01500)が呟く。だがそれの意味する所は。
    「イフリート達がこの辺りにいた、ということかの」
     ラムゥフェル・ノスフェラトゥ(欠落せし生存者・d01484)が見定める。イフリート達の体躯は常に炎に包まれている。故に雪もそのままの形を保てないのだろう。
    「イフリート達も必死みたいだね」
     踏み荒らされた地面を見ながら進む真田・涼子(高校生魔法使い・d03742)はこの先で行われているであろう戦いを想像する。追うものと追われるもの、その戦いが今もう少し行った先で行われているはずだ。
    「イフリートの次はソロモンの悪魔ね、楽しいわね」
    「退屈はしなさそうだな」
     高峯・いずみ(ジャッジメントガンナー・d11659)に峰・清香(中学生ファイアブラッド・d01705)薄く笑みを口元に浮かべて同意する。
    「………」
     斎藤・斎(夜の虹・d04820)が真一文字に唇を閉じて二人のやり取りを聞いている。そこに秘める意図は、この先の先の事。
    「……あれだね、もう少し森の中に」
     進軍するソロモンの悪魔の軍勢を認めた因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)が周りの仲間達にそう伝える。その陣容には多くの影があり良くは見えない、殆どは強化一般人のようだが、全容はもう少し近づく必要があるだろう。
    「……敵のケツからってのは、あんまり好きじゃねえが、しゃーねえなっと」
     白鐘・衛(白銀の翼・d02693)が肩をすくめる。戦力差を見る限り真正面からの殴り合いはすり潰されるのが落ちだろう。そのタイミングを図る機会まで灼滅者達はジリジリと近づき時を待つ。
    「ところで……ここにいるのは雑魚だけか?」
     彼らの目に映るのは山道を行く強化一般人のみ。すぐに強敵と戦えると考えていた清香の声に不満の色が混じる。
    「たぶん、この先の一番前に。イフリートと真正面で戦うために」
     斎が小さく答える。イフリートはダークネスである。ならばそれと対抗しうる力を持つのはやはりダークネスか、それに比肩する実力のある存在でなければ難しいだろう。
    「お楽しみはもうちょっと後って事ね」
     いずみの腕にある銃器が小さく金属音を立てる。これが盛大に鳴り、しばらくしてから本命に出会えるのだろう。
    「……よくもまぁこんなに集まったものだ」
     ラムゥフェルの言うとおり今この山には三つの組織の、多数の戦力が集っている。一つの大きな動きは波紋のように広がり、そして反響する。その結果の一つが今回の戦いなのだろう。
    「……動き始めたようだぜ」
     奏が遠くで立ち上る炎と騒ぎに気づき、立ち上がろうとする。それを制したのは衛。
    「もう少し待とうぜ。せっかく削り合ってくれるんだ、やれることは全部しようぜ」
    「美味しいところを持っていくためにね!」
     涼子も同意し、しばし待つ。山のそこかしこから戦いの様子が伝わってくる。何かが破裂するような音、砕けるような音が夜闇に響き、その闇夜は炎に照らされる。衛は亜理栖を始め灼滅者達に頃合いと合図をする。
    「さって♪ 戦いの時間だわね♪」
     いずみを始め、灼滅者達もまた戦場へと飛び込んだ。


     近づいて相対する強化一般人達はいわゆる雑兵と言っても差し支えない陣容だった。ただ数だけはやたらに多く、それを武器としてイフリートとの戦いに活かそうとしていたのだろう。もっともそれは灼滅者達の乱入により立ちいかなくなってしまったのだが。
     強化一般人達は突如現れた敵勢力にあわてて攻撃を仕掛け始める。
    「……あんまりイフリートの真似しても意味無さそうな相手なんだけど」
     亜理栖がレーヴァテインを放って強化一般人を軽く打ち倒す。イフリートの真似をして撹乱をとの考えだったが、そもそも相手の面子がそれほど冴えた相手には見えない。今のもただのチンピラ崩れのようだった。もっとも、同じサイキックだからといっても威力は大きく違い、似た見た目の全く別のサイキックという可能性も無いとは言い切れない。サイキックの効果での撹乱は効果が薄いだろう。
    「しかしこいつら……完全にアレなのかね」
     ガンナイフで格闘を仕掛ける衞が相手の様子に訝しげな表情をする。強化一般人の動きには躊躇することが無く、おそらくは完全にソロモンの悪魔の支配下にあるのだろう。助けられる事はなそうだ。
    「一般人を手駒にするなんて許せないよ!」
     エクスブレインの言によれば、目の前の彼らだけではなくデモノイドと言う存在もまた一般人を元にしたものらしい。悔しさをにじませた表情で涼子は影を操り強化一般人達を相手取る。
    「まさか悪魔が卑怯とは言うまいよ。……助ける必要がないのは朗報だ。気にすることなく蜂の巣にできる」
     ラムゥフェルがそれだけを返して銃弾の嵐を敵に向ける。戦力としては弱い相手に灼滅者達が遅れを取ることはない。
    「手応えがなさすぎるな……」
     奏が守りを固めつつ、カウンター気味に殴り返す。お互いの攻撃は当たるもののWOKシールド越しには殆どダメージらしいダメージにはなっていない。逆に相手に与えた攻撃はいとも簡単に相手の体をなぎ払っていく。
    「回復は……まだ大丈夫、みたいですね」
     怨嗟の糸を手繰る斎が周りを把握しつつ攻撃に加わっている。もちろん回復の必要な時はそれなりに動いてはいるがそうでは無い時間の方が多い。相手はこちらとイフリートの相手に同時に戦力を避けねばならず、それに加えて奇襲での混乱が影響している。全体的に灼滅者達が優位に事を進めていた。
    「ほんっと沢山いるわねえ……」
     それでも一山いくらと言わんばかり現れる敵にいずみはうんざりした口調で呟く。手応えはない数だけはいる。些か前振りが長すぎる気がしなくもない。
    「……まだ出てこないのか」
     同じように強敵が出てこない事に苛ついていた清香が雑魚を振り払いながら先を見る。強化一般人達の数が減り開けた視界の先にイフリートとデモノイドらしき影が交戦しているのを見つける。
    「……あれか」
     清香の視線の先にあるものを気付いた奏が口元を笑みの形に歪める。それは清香のそれと同じ意味を持っていた。
    「じゃあ目障りなのを片付けてから行きましょうか♪」
     いずみが楽しそうにトリガーを引いた。


     灼滅者達が強化一般人の集団を突破したところで、イフリートとデモノイドの戦いにも決着がついていた。灼滅者がたどり着いた頃に立っていたのはデモノイドの方であった。
    「これがダークネス同士の戦いか……、さすがにすげえなあ」
     衞が周りに残っている戦いの痕跡を見て呟く、強大な力同士がぶつかったせいで周りは荒れていた。
    「なんとか救い出したいけど……なんとかならないかなあ……」
     改めて確認するデモノイドの姿はイフリートに負けず劣らずの巨体であり、肌は不気味な青に染まっている。片腕は刃のようになっており、これを戦闘に使用するのだろう。体のあちこちには金属製の部品らしきものが嵌められているがそれが何かはわからない。
    「……攻撃してこない?」
     亜理栖がふと気付く、ここまで肉薄しているのにもかかわらず目の前のデモノイドは彼らを気にせずに歩いて行く。
    「……我々と強化一般人との区別が付いていないのでは」
     ラムゥフェルがそう推察する。もし、それが正しいとするのなら今は別の相手を探している最中なのかもしれない。
    「どちらにせよチャンス、ですよね」
     斎が呟く。同時に奏がデモノイドの前に立つ。彼はようやく戦える強敵に対して嬉しそうな表情を見せる。たとえ卑怯な戦い方としても、強敵相手には違いない。
    「アンタの相手は俺達だ」
    「それじゃあ狩ったり狩られたりしようか」
    「おもいっきりぶん殴る!」
     清香が思い切り刃を奮って戦いの開始を相手に知らせる、彼女に続き衞を始め灼滅者達も一斉にデモノイドに攻撃を行う。突然攻撃されたデモノイドは周りを囲む人間たちを敵としてやっと認識し、腕にある刃で襲い掛かってくる。それを思い切り体で受けた衞の体には大きく裂傷が生じる。
    「いっつー! 流石に油断できねぇなぁ……」
     先程までイフリートと戦っていた相手である。たとえイフリートとの戦いで消耗をしていて、不意打ちを灼滅者から受けたとしてもその戦闘能力はダークネスに等しい。衞はその身で改めて相手が強力な相手だと確認する。
    「大丈夫、ですか? ……すぐに治しますね」
     すぐさまに斎がジャッジメントレイで衞を治療する。その間にも灼滅者達はひたすらにデモノイドに攻撃を畳み掛けていく。
    「何処を撃ちぬいて欲しいの? 頭? 腕? 足?」
     いずみの問いかけは答えを求めていない、同時に放たれるのは無数の銃弾。それらが彼女の言ったその場所に無慈悲に着弾していく。これまでの戦いの傷もあるのだろうデモノイドは大きく呻き声を上げて、倒されまいと腕を振り回す。
    「ここまで来たんだ、やるならやり切るよ!」
     亜理栖が相手の豪腕を掻い潜る。剣を大きく振りかぶり、そして振り下ろす。その彼の姿は今までに無い程に真剣なものであった。微塵のぶれもない彼の一撃はデモノイドの体を真っ二つにし、打ち倒した。


    「これで終わったの?」
     涼子が溶けるように崩れていくデモノイドの体を見て呟く。その場に残されたのは静寂ぐらいだ。何か手掛かりは無いかと衞は物色を始める。
    「これで力は渡さずにすんだかな」
     亜理栖の疑問にラムゥフェルが頷く。この場には自分達以外にいない以上、ダークネスの目論見を阻止したと言えるだろう。
    「思いのほかできるものだ」
    「覚悟は決めていたんだけど、大丈夫だったね」
    「はぁ~、満足な戦いには程遠いけど、楽しかったわね」
     胸を撫で下ろす涼子。いずみは安堵と言うよりは満足の方が勝っているようだ。それぞれが落ち着いてから一同は撤収を始める。
    「……皆は無事かしら」
     いずみのちょっとした不安は誰に聞こえることもなく。彼らは作戦を成功させ山を下りるのであった。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月5日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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