鶴見岳の激突~悪魔の策謀~

    作者:刀道信三


    「お疲れ様! みんなのお陰で鶴見岳から出現して、日本各地で事件を起こしていたイフリート達を無事に灼滅することができたよ」
     武蔵坂学園では早速今回の事件の原因を探るために鶴見岳周辺の調査を始めようとしていた。
     しかしそこで意外な情報が手に入る。
    「実は戦力を減らしたイフリートの隙を狙って、ソロモンの悪魔の一派が率いる軍勢が鶴見岳周辺に集結しているみたいなんだよ」
     ソロモンの悪魔の目的は、イフリート達が集めた力を横取りし、自分達の邪悪な目的の為に使用する事だろう。
    「ソロモンの悪魔の軍勢には、ソロモンの悪魔から『デモノイド』と呼ばれているダークネスに匹敵する程の力を持った強化一般人がいるみたい」
     武蔵坂学園が介入しなかった場合、この戦いは、ソロモンの悪魔の軍勢の勝利に終わり、鶴見岳の力を得て更に強大な勢力になっていくだろう。
    「ソロモンの悪魔の狙いは鶴見岳の力だから、イフリートが逃げてもほとんど追撃することはないみたいだよ」
     つまり、放置すれば、ソロモンの悪魔の一派が強大な力を得るが、イフリート勢力もその戦力を殆ど失わずに逃走するという最悪の結果になってしまうのだ。
    「残念だけど、今の私達では2つのダークネス組織と正面から戦うような力はないから、2つのダークネス組織の争いを利用しつつ、最善の選択を考えてほしいんだよ」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は一度真剣な視線で灼滅者達を見回してから説明を再開する。
    「まずみんなは鶴見岳に攻め寄るソロモンの悪魔の軍勢を後ろから攻撃することができるよ」
     鶴見岳を守るイフリート達と共に、ソロモンの悪魔の軍勢を挟撃するかたちになるので、有利に戦う事が可能だろう。
    「でもイフリート達を灼滅してきたみんなも、イフリートは目の敵にしているから、イフリートと戦場で遭ってしまうと、三つ巴の戦いなってしまうかもしれないね」
     ソロモンの悪魔の軍勢を壊滅させた場合も、イフリート達は灼滅者達との連戦を避けて、鶴見岳からの脱出するらしい。
    「鶴見岳のソロモンの軍勢を壊滅させる事ができれば、ソロモンの悪魔に鶴見岳の力を奪われるのを阻止する事が出来るよ」
     2つ目の選択肢は、鶴見岳のふもとにある『ソロモンの悪魔の司令部』を急襲する選択だ。
     司令部には、ソロモンの悪魔の姿が多数あるため、戦力はかなり高いと想定されるが、普段は表に出てこないソロモンの悪魔を灼滅できるチャンスになるかもしれない。
    「ただ司令部を壊滅しても、鶴見岳をソロモンの悪魔の軍勢が制圧したら、鶴見岳の力の一部はソロモンの悪魔に奪われてしまうし、制圧に成功すれば司令部のソロモンの悪魔達は撤退してしまうから、無理に戦う必要はないよ」
     一方で多くのソロモンの悪魔を討ち取ることができれば、ソロモンの悪魔の組織を弱体化させることができるだろう。
    「そして最後の選択肢としては、イフリートの脱出を阻止して灼滅するということもできるよ」
     鶴見岳から敗走したイフリートは、各地で事件を起こすだろう事は想像に難くない。
     その事件を未然に阻止する為にも、イフリートの脱出阻止は意味があるだろう。
    「イフリート達は、ソロモンの悪魔の軍勢との戦いで疲弊しているから、イフリート達を灼滅するには絶好の機会かもしれないね」
     複雑に絡み合った状況に、最善を選ぶことは難しいだろう。
    「でも、みんななら大丈夫って、私は信じてるよ!」


    参加者
    沢渡・乃愛(求愛のギルティ・d00495)
    椿・諒一郎(Zion・d01382)
    高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)
    更科・由良(深淵を歩む者・d03007)
    フルール・ドゥリス(解語の花・d06006)
    戸隠・朧(三流忍者・d08897)
    太治・陽己(人斬包丁・d09343)
    藤堂・瞬一郎(高校生神薙使い・d12009)

    ■リプレイ

    ●敗走するイフリートの群
    「思ったより逃げて来るイフリート達の数が多いですね……」
     鶴見岳を脱出しようとしているイフリート達の集団を岩陰から覗いていたフルール・ドゥリス(解語の花・d06006)がそう呟いた。
    「あまり大きく消耗しているようには見えないッスね」
     近くに潜んでいた高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)がフルールにそう返す。
    「これは哨戒してくれている更科頼りになりそうだな。これだけ多いとここからじゃ狙う獲物を探すのも難しそうだ」
     椿・諒一郎(Zion・d01382)はイフリート達の様子を確認してから、静かに目を伏せつつそう判じた。
    「そうなると十分距離を取っているとはいえ、更科さんが心配でござりゅんな……」
     初めての依頼で目にするには大迫力なダークネスの大軍勢を見て、戸隠・朧(三流忍者・d08897)は一人で空から索敵哨戒を行っている更科・由良(深淵を歩む者・d03007)を心配する。
    「しかしイフリートがこれだけ集まると、さすがに暑っいわね。雪まで溶けてるじゃない。下に夏物着てきて良かったわ」
     一方で沢渡・乃愛(求愛のギルティ・d00495)は落ち着いたもので、上着を脱ぐために一旦抱いていたナノナノのイーラを地面に降ろした。
     大群のイフリートが山を降って行く様子はまるで溶岩流のようで、体感的には真夏かサウナのように暑い。
    「やれやれ、これはちと骨が折れそうじゃな……む?」
     箒で空を飛び、木の陰に隠れながら双眼鏡でイフリート達の逃走ルートを俯瞰していた由良の目に1体のイフリートが留まる。
     鶴見岳を脱出しようとするイフリート達の最後尾付近、負傷のためか他のイフリート達より逃走速度がやや遅く、集団から少し離されている固体がいた。
    「狙うとしたらアレかのう……さて、そうと決まれば他の者達に報告じゃ」
     早速仲間達と合流した由良の誘導で灼滅者達は、そのイフリートの逃走ルートから待ち伏せを仕掛けられると目算を立てたポイントへと素早く移動する。
    「……さあ、始めるとするか」
     ターゲットのイフリートを視界に捉えたところで太治・陽己(人斬包丁・d09343)が日本刀を抜き、その鞘を投げ捨てた。
     覚悟は不退転、脱出するイフリートすべてを討つことは叶わないが、自分達で削げる戦力は必ず灼滅するという強い意志を持って戦闘態勢に入る。

    ●状況開始
    「者共、かかるのじゃ!」
     由良が掛け声をかけると同時に放ったマジックミサイルが、ターゲットにしていたイフリートの足許に横合いから炸裂し、転倒させる。
     後続の転倒によって起きた轟音に、先行していた1体のイフリートが足を止めるが、更に前方に距離の離れたイフリート達は、脱出を優先して振り返ることすらなく去って行った。
    「構うな、確実に1体づつ仕留めるぞ!」
     倒れたイフリートの死角になっている背に素早く回り込みながら、陽己はティアーズリッパーで深々とイフリートを斬りつける。
    「俺は自分の役割を確実に果たすまでだ」
     そして陽己とは逆にイフリートの眼前に躍り出た諒一郎は、シールドバッシュをイフリートの鼻面に思い切り叩き込む。
    「いつも痛い思いさせてごめんな。帰ったらゆっくり愛し合おうぜ」
     藤堂・瞬一郎(高校生神薙使い・d12009)は前線に向かうビハインドのとし子さんの指先に軽く口付けてから送り出し、彼女の露払いをするように影業の刃を繰り出した。
     瞬一郎の斬影刃が刻んだ傷跡に寸分違わずとし子さんが霊撃を合わせて命中させる。
    「コケてくれるなんてラッキーじゃね? もらい!」
     木の枝に登って高度をつけた琥太郎が、飛び降りる勢いを乗せた螺穿槍でイフリートの脚を貫いて地面に縫いつけた。
    「見えた! そこね!」
     イーラのしゃぼん玉が道標となって乃愛の目に狙うべきイフリートの急所が映る。
     乃愛は狙いをつける時の癖で口許に当てていた指輪をしている方の手に持っていた導眠符を、イフリートに向かって素早く投げた。
     導眠符はしゃぼん玉の間を縫って一直線に飛び、突き刺さるようにイフリートに命中する。
    「あははは! コワイわぁ! 怖すぎて逃げ出したいわぁ! いひひひっ!!」
     戦闘が開始すると同時にマスクを外した朧がテンパり過ぎて妙なテンションになっていた。
     震える手で制約の弾丸を放つが、転んで動かない大きな的であるイフリートには、なんとか外すことなくビスビスと当たっている。
    「悪しき者へ裁きの光を。ジャッジメントレイ!」
     フルールのマテリアルロッドが指し示す先から放たれた光条がイフリートを貫き、生命力の尽きたイフリートは炎が散らされるように消滅した。
    「よっしゃ、やったぜ!」
    「油断するな、まだ1体来るぞ!」
     瞬一郎が琥太郎に声を掛けた直後に、イフリートから放たれた炎が灼滅者達の視界を焼いた。

    ●炎獣狩り
    「手負い相手に後れを取るつもりはない」
     炎の渦を強引に突き破って陽己がイフリートに肉薄する。
     防具が所々焦げているが、炎の中を突っ切ったことが目眩ましになり、イフリートの間合いに深く踏み込んだ陽己の日本刀が、イフリートの肉を抉った。
     先ほどの瀕死のイフリートに比べれば、このイフリートは十分な戦闘力を残してはいるが、一戦終えて脱出を図ろうとしているこのイフリートが、先日全国に散って暴れ回っていた強力なイフリート達に比べれば、万全でないことは確かである。
    「余所見をするなよ? 攻撃はすべて俺が引き受ける」
     陽己に続いてイフリートの懐に潜り込んだ諒一郎のシールドバッシュが、イフリートのボディを突き上げた。
    「くそ! よくもとし子さんを傷つけやがったな?」
     他の前衛達より打たれ弱いとし子さんに、瞬一郎は即座にシールドリングを飛ばして守りを固める。
     とし子さんはそんな瞬一郎の支援を受けて、イフリートに接近して霊撃を叩き込む。
    「アチイな! 倍返しにすっぞ!」
     炎を迂回した琥太郎はイフリートの側面の林から飛び出して、イフリートの脚を妖の槍の矛先で斬りつけた。
    「私が支えます。さあ、浄霊眼よ、リアン!」
     イフリートのバニッシングフレアで負傷した前衛達に、フルールは防護符、霊犬のリアンは浄霊眼で回復を施していく。
    「さあ、もう一発いくわよ!」
     乃愛の狙い澄ました導眠符が、針の穴を通すような正確さでイフリートの額に命中し、グラリとイフリートがよろめいた。
     ちなみに先ほどの炎に巻き込まれたイーラは、自分にふわふわハートを使って傷を癒している。
    「ひぁいえええ! 大きいわぁ、コワイ、実際コワイわぁ、お家に帰りたぁい!!」
     朧は相変わらずキャーキャー騒ぎながら、しかし影の刃を繰り出してイフリートに攻撃する。
     イフリートは、何か大きな声を出してる奴がいるなぁくらいの関心で、幸い特別に朧を煩わしく思っていたりはしないようだ。
     そうこうしている間に、再び灼滅者達に打撃を与えるべくイフリートの口内で炎が膨れ上がる。
    「そう易々と同じ手で攻撃をさせるものか!」
     諒一郎のシールドバッシュが、もう一度イフリートのボディーをズドンと叩いた。
     イフリートが俯いたために炎は真下である諒一郎の背後に着弾、諒一郎の背中を炙るが本来の狙いを大きく逸れる。
    「特製のマジックミサイルじゃ。たんと食らえい!」
     由良の手より開放され、魔法の矢が雨霰となって、イフリートに降り注いだ。
     マジックミサイルの弾幕に押されて、イフリートの動きが止まる。
    「俺がいるからには、そう簡単に倒れさせてはやらねえぞ!」
     瞬一郎の縛霊手から放たれた霊力の光が、炎に焼かれた諒一郎の傷を照らし癒した。
    「もう一息です。イッキに攻めましょう!」
     フルールのマテリアルロッドから放たれた轟雷が、灼滅者達の波状攻撃で足を止められていたイフリートの四肢を更に撃って地面に釘づけにする。
    「そろそろ畳ませてもらう!」
     陽己が日本刀から離した拳を固めると、鬼神変によって腕がより破壊に適した形へと異形化し、それを支える筋肉も一時的に肥大化する。
     渾身の力を込めたその一撃を叩き込まれたイフリートは、仰け反りその巨体を浮かせながら10メートル近く吹き飛んだ。
    「こいつでトドメだ。釣りは地獄まで持って行きな!」
     琥太郎は吹き飛んだイフリートの上に着地すると、高速で錐揉み回転を加えた妖の槍を至近距離からイフリートに向かって投擲、槍は灼滅されて消滅したイフリートを貫いて、そのまま地面に突き刺さった。
     2体のイフリートを灼滅し終え、鶴見岳から脱出して行ったイフリート達の地鳴りのような足音は、もう遠く聞こえない。

    ●炎獣の去った地で
    「んー、やっぱりイフリートがいなくなると普通に冬の山って感じね」
     余熱はあるものの、徐々に冷えてきたため、乃愛は上着を羽織り直してイーラを抱きかかえている。
    「イフリート2体の灼滅、これは十分な戦果と言えるのかのう?」
     なんとか2体のイフリートを灼滅することはできたものの、大部分のイフリートをここ鶴見岳から脱出させてしまった。
    「私は、私達に成し得ることを果たせたと思っていますよ」
     フルールはリアンを労うように撫でながら、そう答えた。
    「もしイフリートの脱出を阻止するのだったら、もう少し戦力が必要だったろうな」
     話題に反応して、とし子さんを見つめていた瞬一郎が会話に参加する。
    「俺達が相手にした2体はともかく、イフリート達があまり消耗してる感じでもなかったッスしね」
     琥太郎も最初にイフリートの軍勢を見た時に感じたことを述べた。
    「それを踏まえて、2体のダークネスを灼滅できたという事実は十分な成果と言えるだろう」
     そう言って諒一郎がまとめる。
    「それで、これからどうするでござりゅんか?」
     マスクを着け直して幾分落ち着いた朧がそう尋ねる。
    「とりあえず、他の仲間達と合流すべきだろうな」
     陽己の意見に異論が出ることもなく、灼滅者達は武蔵坂学園の仲間達との合流を目指して移動を始めるのだった。

    作者:刀道信三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月5日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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