鶴見岳の激突~炎魔相打ちて

    作者:聖山葵

    「お疲れさま。日本各地で事件を起こしていたイフリート達はみんなの活躍で灼滅することが出来たみたい。まずお礼を言わせて貰うね?」
     エクスブレインの少女は頭を下げると、この結果を受けて『鶴見岳の調査とその原因解決を行うべく準備を進めていた』ことを明かした。
    「ここまでは良かったんだけど、思わぬ横やりが入っちゃって」
     ツインテールを揺らしつつ語る少女によると、現在、鶴見岳周辺にはソロモンの悪魔の一派が率いる軍勢が集結しているとのこと。
    「ソロモンの悪魔達は作戦の失敗で数を減らしたイフリート達を攻め滅ぼそうとしてるみたいなんだよね」
     もっとも、ソロモンの悪魔達の目的はイフリートの殲滅とは別の所にある。
    「本当の目的はイフリート達が集めた力を横取りし、自分達の邪悪な目的の為に使用する事だと思うんだ」
     尚、ソロモンの悪魔の軍勢には今までとは比較にならないほど強化された一般人の姿もあるとか。
    「ダークネスに匹敵する力を持ち、ソロモンの悪魔達からは『デモノイド』って呼ばれてるみたい」
     このデモノイドがソロモンの悪魔の軍勢が率いる主戦力という訳だ。
    「もしこの戦いに武蔵坂学園が介入しなかった場合、戦いはソロモンの悪魔側の勝利に終わるよ」
     勝利したソロモンの悪魔達は鶴見岳の力を得て更に強大な勢力になっていくだろう。
    「負けたイフリート達は一点突破を図って落ち延びるかな」
     ソロモンの悪魔達は鶴見岳の力さえ奪えればそれで良いと思うのか逃げるイフリート達へ積極的な攻撃はしかけず、結果的にイフリート勢もかなりの戦力を残すことになってしまう。
    「うん。放置した場合、ソロモンの悪魔の一派が強大な力を手に入れる上、イフリート勢も戦力を殆ど減らさず逃げ出すってことになっちゃうんだよね」
     何というか、最悪の結果だ。
    「今の武蔵坂学園にダークネス組織二つと真っ正面から戦うような力はないけど、このままにはしておけないから」
     両者の争いを利用しつつ最善の結果を引き出せるように、漁夫の利を得られるような介入を行って欲しい――というのが今回の依頼であるらしかった。

    「それで、みんながとれる選択肢は大きく分けると三つ」
     一つめは、鶴見岳に攻め寄せるソロモンの悪魔の軍勢を後背から攻撃するというもの。
    「ソロモンの悪魔達の正面にはイフリートがいるから向こうからすれば挟撃される形になるよね」
     ただし、イフリートにとっても灼滅者達は仲間を倒した憎むべき敵に他ならず、イフリートと出くわしてしまえば戦いは三つ巴となってしまうことだろう。
    「二つめは、鶴見岳のふもとにある『ソロモンの悪魔の司令部』を急襲するというもの」
     司令部にはソロモンの悪魔の姿が多数ある為、戦力はかなり高いと思われるが普段表に出てこないソロモンの悪魔と直接戦えるチャンスと見ることも出来るのだ。
    「ただ、、鶴見岳の作戦さえ成功しちゃえば司令部にいるソロモンの悪魔達は戦わずに撤退するから無理に戦う必要はないんだよね」
     また、司令部が壊滅したとしても、鶴見岳をソロモンの悪魔の軍勢が制圧した場合、鶴見岳の力の一部はソロモンの悪魔に奪われてしまう。
    「もちろん、ソロモンの悪魔を多く討ち取っていれば組織自体を弱体化させられるからこっちが間違いだ何て事は無いんだけど」
     そして、三つめの選択肢はイフリートの脱出を阻止して灼滅するというもの。
    「うん、逃げ出したイフリートが大人しくしてるなんて事はないだろうからね」
     災いの芽をここで摘んでおくという意味で、イフリートの脱出阻止も重要な仕事になることだろう。
    「イフリート達はソロモンの悪魔との戦いで疲弊してると思うから、千載一遇のチャンスかもしれないし」
     どちらにしても敵対する二つの勢力がぶつかるのだ、この期を逃す手はない。
    「どの選択肢を選ぶかはみんな次第、危険な作戦になると思うけど――」
     危険だからこそだろう、真顔を作った少女は豊かな胸の前で祈るように手を組むと、そのまま頭を下げた。
     


    参加者
    ビスカーチャ・スカルチノフ(しべりあんぶりざーど?・d00542)
    水島・ユーキ(ディザストロス・d01566)
    結島・静菜(高校生神薙使い・d02781)
    白岐・明日香(炎を操る女子中学生・d02868)
    朧木・クロト(ヘリオライトセレネ・d03057)
    黒沢・焦(ゴースト・d08129)
    上名木・敦真(高校生シャドウハンター・d10188)
    紅月・リオン(灰の中より生まれいずるもの・d12654)

    ■リプレイ

    ●時を待ちて
    「この山を確保できればサイキックエナジーをたくさん手に入れられるんデショーカ?」
     霊犬の八丸を傍らに、ビスカーチャ・スカルチノフ(しべりあんぶりざーど?・d00542)は視線を山頂の方角へと向けた。
    「ソロモンの悪魔達が力を得たら、どんな陰謀を巡らせるかわかりませんからね。ここは絶対に阻止したいところです」
     呟く上名木・敦真(高校生シャドウハンター・d10188)は木々の影から双眼鏡を目に当て前方を見やるが、何かが戦っているような光景は見えない。遠すぎるのか、あるいはまだ激突が始まっていないのか。
    「横取りも悪事に使うことも許しません」
     敦真の言に同意しつつ結島・静菜(高校生神薙使い・d02781)が手に畳んで持っていた地図をしまい込む。暗くなってしまえば明かり無しに地図を見るのは厳しいだろうし、ここまで来てしまえば不要だった――少なくとも為すべき事を終わらせて帰路に着くまでは。
    「時間は解る?」
    「17時、前……。あと、数分、で、17時」
     時刻を尋ねた黒沢・焦(ゴースト・d08129)は、水島・ユーキ(ディザストロス・d01566)の返す答えに礼の言葉へ続けて「そう」とだけ漏らすと、遠くを眺めて呟く。
    「風が心地良いな。さ、今日もがんばろ」
     これから何が起こるのかを灼滅者達は知っている。全てではないが、少なくとも二つの軍勢がぶつかり合うことだけは確実に。
    「情報が何もないから、もしかすると新しい能力とか持ってるかもしれん。十分警戒していくか」
     朧木・クロト(ヘリオライトセレネ・d03057)は、ソロモンの悪魔側の主戦力であると言うまだ見ぬデモノイドに言及しつつ、視線を巡らせ。
    (「イフリートが動き出してソロモンの悪夢も出てくるなんて、大変な事になってきたわね」)
     胸中で「でも」と続けた白岐・明日香(炎を操る女子中学生・d02868)は、眼鏡の奥の瞳にこれから戦場と化すであろう前方を見やる。
    (「私たちが来たからにはどちらの好きにもさせないわ」)
     あとは、ただ、時を待つのみ。
    「迷彩柄は有効でございましょうか?」
     と自分なりに姿を隠す工夫を施していた紅月・リオン(灰の中より生まれいずるもの・d12654)は、木立の影に佇む。まるで主の側に侍る執事のように。
    「誰も見つかっていない以上、ここまでは順調ですね」
     ダークネス同士の衝突さえ始まっていないのだ、打ち合わせでイフリートが撤退するまでは隠れて様子見すると決めていた一行の出番は想定通り行くようならまだ先の筈で。
    「あ」
     動きがあったのは、焦が時間を問うた数分後。双眼鏡でかろうじて捉えられたチラチラ揺れる炎が動き出し、手前で動いた何かが炎の方へと突っ込んで行くのを静菜達は見た。
    「後は双方が消耗してイフリートが撤退する直前にしかけるだけですね」
     敦真だけでなく二手に分かれていた灼滅者達は誰もが戦闘を暫く見守るつもりだった、だが。
    「え?」
     まずここで一つ、灼滅者達の思惑は外れることとなる。

    ●攻撃開始
    「流石にこれはじっと待ってる訳にはいかないデスネ」
     前方でイフリートとソロモンの悪魔の軍勢がぶつかり始めて数分も経たぬうちに、介入が行われたのだ。
    「この状況で待っていても奇襲の意味は半減ですし」
     戦う味方を見物しつつ当初の予定通りに襲撃したとしても、これは戦力の逐次投入にしかならない。
    「が、今なら間に合うな」
     さあ開幕と呟いて焦は足を一歩前に踏み出し。
    「敵、も、すごい、数……」
     ユーキもスレイヤーカードを手に歩き出す。
    「でも、上手く、やれ、ば、きっと、勝て、る『Get ready……Go!』」
     言葉に反して足が止まらないのは続きがあったから。
    「ですね、最寄りの敵は気づいていないようですから」
     明日香は眼鏡の端を持つと不敵な笑みを浮かべ。
    「全ての罪は我にあり。されどその罪を乗り越える力は己が内にあり」
     仲間達がカードの封印を解くのに倣いリオンもまたカードの封印を解くとシールドを広げながら前方へ躍り出る。
    「っ、なんだてめぇ?! いったいど――」
     驚愕を顔に貼り付けたチンピラ風の男が言葉を最後まで紡げなかったのは、焦の放ったどす黒い殺気に言葉を中断させられたから。
    「ターゲットロック」
     獲物を押し潰さんと殺気が前方の敵へのしかかる中、リオンの耳に聞こえた呟きは後方からの物で。
    「ビスカーチャ・スカルチノフ、狙い撃つゼーッ!!」
     続く叫びと共に魔法の光線は撃ち出された。
    「うぐ、ばっ」
     苦痛に歪んだ男の顔が貼り付いた頭ごとビームで吹き飛び。
    「ひっ、敵襲、て」
    「得物はナイフ……それがあなたをデモノイドにしたものですか?」
     怯えた顔で叫ぼうとした浮浪者っぽい外見の男は巨大化した静菜の腕に潰され、そのまま消滅した。
    「それ、デモノイド、違うと、思う」
     まぁ、ダークネスに匹敵すると言われた力の持ち主なら奇襲とはいえこうもあっさり倒されたりはしないだろう。
    「ただの強化一般人かな。主力をわざわざ後方に置いておくなんて思えないし」
     少なくとも静菜達に倒された男二人がデモノイドでないことだけは間違いない。
    「強化一般人ね……ってかこいつら元一般人なんだろ、なんでここまでして戦うのか理由とか聞いてみてーな」
    「がっ」
     捻りを加えた突きを放ちながらクロトは思わぬ奇襲で半ばパニックになっている男達を見た。
    「や、やってくれたのぅ。お前らただで済まぎゃぁぁっ」
     浮浪者やヤクザにチンピラといった風体の強化一般人達は殆ど一方的に討たれ、襲撃した敵部隊はこの時点で約半数まで数を減じている。このまま攻撃を続ければ全滅するのも時間の問題だった。
    「でしたら手加減しますか?」
    「いーや、見たところ素直に話してくれそうもねーし」
     敦真の申し出に頭を振ったのは、実際話を聞きたかったのが普通の強化一般人ではなくデモノイドについてだったこともある。ただの強化一般人に関しての対処法は決めていなかった訳で、なおかつ戦いはまだ始まったばかりなのだ。
    「とりあえず、戦闘を終わらせましょう。最後尾の一部隊に過ぎないでしょうし」
    「それでよろしいかと」
     掌から炎の奔流を放ち敵を焼き焦がす明日香へ、WOKシールドで敵を殴り飛ばしたリオンが優雅に一礼し。
    「わうっ」
    「ぐぎゃぁぁぁっ」
     シールドバッシュで殴り飛ばされた男が八丸の撃ち出した六文銭に撃ち抜かれて絶命する。
    「く、どうすりゃ……畜生ッ、やったうげべっ、があっ」
     狼狽しつつも自棄になったのか突っ込んできた男は、詠唱圧縮された矢に胴を撃ち抜かれたたらを踏んで数歩後ずさったところを明日香の撃ち出したつららに貫かれ、仰向けに地面へ倒れ込んだ。
    「思っていたより弱いデスネ」
    「主戦力の配備されていない最後尾の部隊ですし」
     ろくな反撃も出来ないままに男達の数は減り続け。
    「ぐあぁぁぁぁ! ぞんな……お、おべば……」
    「さて、どうする?」
     最後の一人を倒したところで灼滅者達は決断を迫られる。最初に想定した方針に従ってイフリートが撤退する直前まで傍観するか、予定を変更してこのまま戦うか。
    「このタイミングで戦端が開かれたと言うことは」
    「待機していたところで私達の戦力が温存されるだけですね」
     そもそも、この場の面々同様の選択肢を選んだ他の面々がここで足を止めるとは思いがたい。想定外の形で戦端が開かれたことを踏まえても。
    「ここで、足、止める……戦力、減って、味方、苦労」
     ユーキの言うように待機には大きなデメリットがあることだけは確かで。
    「では仕方ないデスネ」
     結局の所、選択肢は一つしかなかったように思われた。
    「そうですね、行きましょう」
     だから、灼滅者達は歩き出す。次の戦場へと向けて。

    ●相まみえるは
    「ひぇぇぇっ、こっちにもい゛っ」
    「何だか……出遅れた感がすんな」
     どこかから逃げてきたらしい強化一般人をマジックミサイルで射倒すと、地に伏した骸には目もくれずクロトは遠方を見やる。
    「まあ、もともともっと後に介入する予定だったからねー」
     焦達が先程討ったのは、おそらく最前線に向かった味方に蹴散らされた部隊の生き残りか何かだったのだろう。
    「どの辺りで戦うかも決めておくべきでしたね。あ、あれがデモノイドですか?」
     はぐれた敵や落ち延びてきた敵を倒しては次の敵を探すを繰り返し、再び索敵に戻った静菜が双眼鏡を目に当てたまま動きを止める。
    「どれですか? あぁ、確かに」
     応じた敦真も静菜が見ているモノを見つけたらしく、頷き。
    「と言うか、これなら強化一般人との差は一目瞭」
    「あ」
    「どうかしました?」
     続けた言葉が途中で途切れた。同時に声を上げた静菜に問えば、デモノイドらしきものがイフリートに倒されたという旨の答えが返ってくる。
    「写真取り損ねたー」
     デモノイドの姿を記録したかった明日香は落胆を隠せず。
    「気を落とされてるところ申し訳ないのですが、あちらをご覧いただけますか?」
     事実申し訳なさそうな表情で一礼したリオンはそんな明日香に声をかけて右手前方を示す。
    「前線に向かおうとする部隊のようデスネ」
    「わう」
     示された先にいたのは、最初に奇襲で壊滅させたのと同じ規模の強化一般人による敵部隊。
    「くおっ?!」
    (「相手に不足なしでございますね」)
    「悪魔に魂を売るのはお薦めしません、あなたにも大切な人がいるのではないですか?」
     飛び退くことで切り裂くように出現させた逆十字から身をかわした男を見てそう結論づけたリオンの横で男に声をかけたのは、静菜だった。
    「っ、何だこいつらは? 聞いてねーぞ」
    「知るか! こっちが聞きてーよ。おい、あのお方から――」
     だが、男達はそれどころではない様で。
    「見たとこあいつらはまともに作戦も立てられねーみてーだな」
     取り乱す様を観察してクロトは呟いた。予想外の事態に直面して上からの、ソロモンの悪魔からの指示を求めているように見える状況からすれば、目の前の敵はただ上からの指示を愚直に遂行しているだけのようにも思える。
    (「それがこんなにパニックになっているってことは、本陣に向かった味方が上手くやったのかね」)
     ただ、敵と対面しているクロトに確認する術はない。
    「うぐっ、何だこの紙……っ、うおおっ」
    「馬鹿! よせっ! どっちに攻撃してやがるっ!」
     放った符によって催眠状態に陥った強化一般人が同士討ちを始め。
    「やめ――」
    「見切れるかな?」
     仲間の攻撃に気が逸れた男へ焦の影は忍び寄る。
    「ぐがっ」
     刃と化した影の先端は無慈悲に強化一般人の一人を切り裂き。
    「ちっ、ええぃ、こうなりゃてめぇら道連れにしてやるぜよ」
    「そうは参りません」
     獲物を振り回し突っ込んできた男の前にリオンが飛び出し、赤い血が舞った。
    「私は盾にございます。攻撃手の皆様を如何に攻撃に集中させられるかが私の役目」
     己が身体を盾にしリオンは味方を庇ったのだ。
    「はっ、だったら貴様からやってやらぁ」
     だが、敵は一人ではなく攻撃はまだ終わらない。
    「うぐおっ」
    「おらおらおらぁっ!」
     たとえWOKシールドを叩き付けて一人をはじき飛ばしたところで別の強化一般人が飛びかかってきて――。
    「うりゃっ……あ?」
    「無理、しない、で」
     集中攻撃に晒されかけたリオンを守ったのは、ユーキだった。
    「ちぃっ、邪魔すんならおまがべっ!」
     集中攻撃を阻害された苛立ちを隠そうともせず武器を振り上げた男が敦真の撃ち出した漆黒の弾丸に貫かれて吹き飛んで。
    「今の内に回復して下さい」
    「二人とも、大丈夫?」
    「ええ」
     炎の翼を顕現させながら明日香のかけた声にディフェンダーの二人は頷きを返す。
    「うぐっ」
    「そろそろ終わりにしようか」
     吹き飛ばされた男はいつの間にか焦の伸ばした影の触手に囚われていて。
    「このまま一気に行きマショウ。急がないと次のお客さんが来そうデス」
    「フーン、意外と忙しいね」
     リングスラッシャーを飛ばしつつ敵の向こうへ視線を向けたビスカーチャの声に、クロトは妖の槍を振って串刺しになっていた男の身体を払い飛ばす。
    「何だこいつら? おい、いったいどうなって」
    「仕方ありませんね」
     やって来た男の言葉を遮る形で、敦真はガトリングガンを向けるなりトリガーを引いた。
    「がっ、げ、ぐ、あがっ」
     連続で撃ち出される弾丸が現れた男を踊らせ。
    「こちらは任せて下さい」
    「畜生っ、敵かぁっ!」
     はぐれでもしたのか一部隊にも満たない数の男達に向き直ったまま敦真は言う。
    「八丸さんは、そのままメディックでGOデス」
     バスターライフルを生き残りの強化一般人に向けたままビスカーチャは霊犬に指示を出す。
    「わうっ」
    「ぐあっ」
     八丸の鳴いた時には、焦が伸ばした影に切り裂かれた男へとバスターライフルの照準は合わせられていた。
    「とどめデス」
    「がっ」
     撃ち出される魔法の光線に大穴を穿たれ、崩れ落ちた男。
    「ひぃっ、このままでは……指示を、指ぎゃあああっ」
     別の男は放たれたオーラに飲み込まれて消え、灼滅者達に討たれた敵は数を減じて行く。
    「これなら何とかなりそうですね」
     数が減ればその分攻撃もまばらになり劣勢に拍車をかける。目の前の部隊が全滅するのはもはや時間の問題だった。
     
    ●そは勝者に許されし
    「終わりましたね」
     静菜が言葉を発した時、周囲に動くものは灼滅者達と霊犬の八丸しか無かった。
    「……あとは、他の人達の無事と成功を祈りましょう」
    「無事、だと、いい」
     こくりと頷いたユーキが見たのは鶴見岳の山頂の方角。戦いが終止優勢だったからこそ思考は戦いが終わった後の事後処理に向いていたのだ。
    (「何事、も、無け、れば、調査、できる、かも……」)
     無事であれば次の手が打てるのでは、と言う期待もあって。
    「ところで、帰りに温泉にでも行きませんか?」
     静菜の場合は他にこの場で出来ることもないと割り切ったのか、声に出して提案すると周囲を見回し。
    「――ちょっと遠いでしょうか」
     しまっていた地図を取り出して広げると、視線を落とし首を傾げた。少なくとも周囲に敵はなく、痛手を負った者も居ない。
    「デモノイドの姿を見られなかったのは残念だけど、無事勝てたんだし良しとしなくちゃね」
     ただ、幾ばくかの心残りを胸に――明日香は少し前まで二つの勢力のぶつかり合う最前線だった方へと目をやりつつ肩をすくめた。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月5日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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