鶴見岳の激突~炎と悪魔とチカラの行方

    作者:黒柴好人

    「まずは灼滅者の皆に礼を言いたい。今回の全国各地に出現したイフリートの灼滅、お疲れさまだ。作戦は大成功と言っていいだろう!」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は笑顔で灼滅者たちを迎え、そして賛辞を送った。
     しかしそれも束の間。ヤマトは表情を引き締めると、新たな状況の説明をはじめる。
    「作戦は成功したが、どうにもまた厄介な事が起きようと……いや、起き始めていると言うべきか」
     武蔵坂学園はイフリートが各地で他のダークネスらを襲った原因や目的を探るために鶴見岳の調査を行おうと準備を整えていたのだが、そう簡単に問屋は卸してくれないようだ。
     なんと、鶴見岳にはソロモンの悪魔の一派が集結している様子なのだ。
    「奴らは俺たちに壊滅的なダメージを与えられたイフリートにここぞとばかりに襲いかかるつもりらしい。まったく、美味しいところを狙ってくるもんだ」
     その上でイフリートが集めた力を奪い、自分たちのものにしようとするだろう。
     そうなれば彼らは禍々しく邪悪な目的を果たすためにそれを使う事は火を見るより明らかだ。
    「鶴見岳に集まっているソロモンの悪魔一派には強化一般人の姿も多数ある」
     が、それはこれまでに確認されている強化一般人より更に強力な戦闘能力を持ったもののようだ。
    「それを奴らは『デモノイド』と呼称しているらしい」
     ダークネスに近い力を持ち、その戦力も高いデモノイドたちは主戦力として投入されるだろう。
     弱っているとはいえ、イフリートにとっても大きな脅威となる可能性がある。
    「勝手に潰し合ってくれればいいが……残念ながらそうはならない」
     ヤマトは手にしたルービックキューブを机の上に置くと、最悪のシナリオを話した。
    「俺たちが何もせず傍観を貫いた場合、ソロモンの悪魔は棚からぼた餅とばかりに強大な力を手に入れ、イフリートはほぼその勢力を維持したまま山から消えていく……。つまり、ソロモンの悪魔がほぼ無条件にパワーアップし、イフリートはまたどこかで再起を図って力を蓄えるだろう」
     お互いこの状況では積極的な衝突は避ける傾向にあるらしく、『予定通り』に進めば双方のリスクは最小限に、しかし最大のメリットを手に入れてしまう。
    「だが……お前たちが介入すればどうなるだろうな」
     これはまだ確定した未来ではない。
     灼滅者には介入の余地がある。
     
    「今、俺たちにソロモンの悪魔とイフリート……双方と真正面からぶつかり合う力はない」
     どちらも強力なダークネス組織であり、まだ練度や能力の低い武蔵坂学園にそれだけの戦力は揃っていない。
     しかし状況をうまく利用すれば勝機が見えてくるとヤマトは言う。
    「方法は3つある。ソロモンの悪魔に後ろから奇襲をかける。鶴見岳のふもとにあるソロモンの悪魔の『司令部』を強襲する。そして、イフリートに引導を渡す」
     その3つだと指折り灼滅者たちに示した。
     最初の選択の場合、うまくイフリートと挟み撃ちにできれば戦いは有利に進める事が可能だ。
     しかし灼滅者がイフリートに見つかった場合、イフリートたちは灼滅者に対しても攻撃行動を取るのは明らかであるため、慎重な立ち回りが必要になる。
     もうひとつの選択、司令部の強襲。
     これは司令部だけあって強力な個体が多く揃っているために攻略は困難だと予測される。
     逆に言えば強力な個体……あまりお目にかかれないソロモンの悪魔と対峙する事ができるとも言えるが。
     そして3つ目はイフリートの灼滅。
     ソロモンの悪魔の攻撃を受け、撤退するイフリートの退路を封じてその全てを撃破するというもの。
     イフリートによる更なる事件を防ぐには最適な選択になる。
     ソロモンの悪夢との戦闘で消耗しているところを狙えば、それほど難しい話でもない。
    「これらの選択を基に鶴見岳でどう動くか……全員で話し合い、その上でお前たちが決めて欲しい」
     ヤマトは置いていたルービックキューブを拾い上げると、あっという間に完成させた。
    「この介入作戦はとてつもない危険が伴う……。だが、俺は信じている。お前たちが最善の手を考え、困難を乗り越え、無事に帰ってくるとな!」


    参加者
    神坂・鈴音(記者を目指す少女・d01042)
    アルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160)
    楠木・刹那(鬼神の如き荒ぶもの・d02869)
    芹澤・龍治(愛に生きる男・d05256)
    九十九・緒々子(回山倒海の見習いヒーロー・d06988)
    薬王寺・詞乃(高校生魔法使い・d07236)
    マリー・レヴィレイナ(千星一月・d11223)
    双葉・清香(焔血鋼爵・d12101)

    ■リプレイ

    ●山中の行軍
    「まったく、また九州を狙うとかいい迷惑!」
     鶴見岳の山中を軽快かつ慎重に進む九十九・緒々子(回山倒海の見習いヒーロー・d06988)は怒りが口に出ていた。
    「九十九さんは宮崎のご当地ヒーローだったわね。ここから近いし、気になるのは仕方がないわね」
    「あ、つい九州愛が溢れ出てしまいましてー……」
    「ううん。でも確かにどうしてこの場所なのかとか、取材はしてみたいわね」
     まずはこの場をどうにかするのが先決だと神坂・鈴音(記者を目指す少女・d01042)は自分を戒める。
    「静か、デスネ」
     ふと、マリー・レヴィレイナ(千星一月・d11223)が呟いた。
    「あまりに後方への警戒が薄いように思えるのぅ」
     薬王寺・詞乃(高校生魔法使い・d07236)はマリーの意を汲み取ったのか、そう口にする。
     どう考えてもソロモンの悪魔側の警戒網は穴だらけに感じられるのだ。
    「イフリートが後ろに回り込んで攻撃してくるような余裕もないと判断してるのかもな」
     どちらにせよ自分たちにとっては良い事だと芹澤・龍治(愛に生きる男・d05256)は細く息を吐く。
    「嵐の前の静けさ、というものでしょうね」
    「嵐ですか。こんな大規模な戦いは生まれて初めてです。わくわくしますね!」
     周囲を隙なく窺うアルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160)の傍ら、楠木・刹那(鬼神の如き荒ぶもの・d02869)は天気が悪くなるとはしゃぎ出す子供のように瞳を輝かせていた。
    「ただ、『イフリートもソロモンも皆殺しだー!』と言えない自分の実力不足が歯がゆいです」
    「自分の実力をちゃんと理解してるってのはいいんじゃねーの、楠木。無理して護れるモンも護れなくなったらしゃーねーしな」
     ややぶっきらぼうながらも刹那に声をかける双葉・清香(焔血鋼爵・d12101)。
    「しっかしさ、漁夫の利狙いとかソロモンの悪魔も大概だよなー」
    「しかも最前線で戦わせるのは自分ではなく手下というのが実に小物っぽいのじゃ」
     詞乃が頷きながら同意する。
    「人を道具の様に使って、自分達は戦わないばかりか姿を見せもしない……」
     闇堕ちし、ダークネスと化そうとしていたところを救われた魔法使いのマリーにとって、ソロモンの悪魔は最も忌むべき敵。
    「イフリートも人をたくさん殺すケド、悪魔はその心まで踏みにじる……許せマセン」
     そうして平穏に森を進む事しばらく。
    「待って下さい」
     小さく制止したアルヴァレスはジェスチャーで「この先を見てみろ」と促した。
    「強化一般人、だな」
     まだ少し距離はあるが、数人の強化一般人と思しき姿を視認できた。
     木の影になっていて正確な人数は分からないが、皆一様に灼滅者たちに背を向け、統率の取れたような動きはしていない。
    「デモノイドらしき姿は……確認できないわね」
    「きっと、このさらに奥……イフリートに近い位置にいると思いマス」
     鈴音の呟きにマリーが予測を立てる。
     デモノイドは恐らく戦闘の要。ならば最前線で運用し、効果的にイフリートを殲滅するに違いない。
    「つまりデモノイドと戦うには、まず前座の強化一般人を相手にしないといけないわけじゃな」
    「仕方がない……ですね……」
     作戦に参加する全てのチームの行動方針をもとに決めた事があった。
     それは、攻撃開始のタイミング。
     双方を消耗させ、かつどちらかが全滅しないタイミングで灼滅者が割り込み奇襲を掛ける。
     そのタイミングを開戦から3分としたのだ。
    「射程圏内ギリギリまで移動しておいた方がいいわね」
     彼女らは遠距離を主軸とした攻撃を展開しながら侵攻する方針のため、武蔵坂学園のチームとしては中衛になる。
    「さて行くか。皆、宜しく頼むぜ」
     龍治の言葉に頷きを返すと、一行はそれぞれの定位置へと身を潜めた。

    ●駒
     離れた位置から怒号と爆発音、それに何かが破壊されるような音が聞こえてきたのはそれから間もなくだった。
     ソロモンの悪魔勢とイフリートがついに激突したのだろう。
     目視できる範囲の強化一般人も慌ただしく動き出した。
     それからの3分は短いようで、しかし一時も気を抜くことが出来なかった。
     ――そして。
    「……あ? 新しいお仲間か? って、そんな話は上から聞いちゃいないんだが……」
     ふとした瞬間に振り返った強化一般人は背後に立っていた人影をぼんやり眺め――。
    「ぐふぉあぎゃっ!?」
     一瞬の内に爆炎の中に消え去った。
    「な、なんだァ!?」
    「後ろにもイフリートが!?」
    「馬鹿言え、ンな話聞いてねーよ!」
     突然の背後からの攻撃に狼狽える強化一般人たち。
     そこへ凛とした少女の声が、
    「なんがソロモンの悪魔ね! あんたたちはバカモンの悪魔で充分じゃが!」
     凛というか宮崎の方言が響き渡った。
    「貴様等を殲滅する……詫びる積もりは無い……!」
    「そういうこと。覚悟してもらうわよ!」
     それを皮切りに、バスタービームの幾条の光が木々の間を貫き、的確に強化一般人を仕留めていく。
     長射程からの、しかも不意な一斉砲撃に、相手はまさに為す術なし。
     と思いきや機転の効く者もいたようだ。
    「チッ、ウラからとはな……。だけどよ、それなら俺だってそのウラに回り込めば……ククク」
     細身に黒衣を纏った身軽そうな強化一般人は、茂みや起伏を利用して灼滅者の側面、いや、さらに背後を目指して駆け抜ける。
     駆け抜けていた。
    「オラァ! 死ねやァァァ!」
    「しまった!」
     回り込まれた事に気付き、焦りの表情を浮かべながら叫ぶ清香。
    「……なんてな」
    「は?」
     それも一瞬だった。
     口元を吊り上げ笑う清香の意図は、
    「死ぬのはお前の方だったな」
    「!?」
     数秒も経たない内に知る事になった。
     蛇変身をして身を潜めていた刹那が黒衣の行動に気付き、その背後を狙っていたのだった。
     導眠符を投げつけられ、結局何の活躍もないまま機転の効いた強化一般人は崩れ落ちた。
    「悪いけど、どんどん行かせてもらうぜ」
    「デモノイドと一緒にいる強化一般人も少しは骨があるかと思ったけど、そうでもねーな」
     遠距離攻撃を潜り抜け、迫ってくる敵を龍治と清香がはたき落としていく。
     この場にいる強化一般人は、見るからにごろつきと呼ぶに相応しいような風体の者ばかりのようだ。
    「それに、さっきから命令がどうとかって言っているからよっぽどアドリブ力がないのか、命令に従順なのかって感じよね」
     ソロモンの悪魔軍の連絡網も混乱しているのかもしれないと、鈴音は自称記者としての観察眼を活かして考察する。
     数こそそれなりにいるが、個々の戦力を見るとそれほどでもない事から、捨て駒として利用されている可能性もある。
    「やはり……人を道具としか認識していない、デスネ」
    「としても大規模じゃな。よほど鶴見岳には良いものが埋まっているのかのぅ?」
     マリーの呟きに、詞乃は顎に手を置き思案顔になる。
    「ソロモンの悪魔に説教するなり力とやらの正体も気になって楽しみじゃが、それもこいつらを倒してからじゃの」
    「そう、デスネ」

    ●垣間見た闇
     強化一般人の集団を全て払い除け、『最前線』に近付いていく灼滅者たち。
     彼我の距離はサイキックの限界射程。ついに視界に捉えたものは。
    「あれが……」
    「……デモノイド、でいいんだよな」
     イフリートと衝突し、組み付き、ただ力のままに腕を振るう巨体。
     真っ青な肉体には筋繊維が体表に露出したように絡まり覆っている。頭部も同様に繊維のようなもので覆われ、乱杭の如く生える鋭利な牙が覗く口からは獣のような深い吐息が漏れ出す。
     片腕は特に発達しており、筋肉か表皮か、生体的な素材で構成されているであろう腕と同化した巨大なアームブレードのような器官がその生き物の凶暴性をありのままに誇示していた。
    「どこをどう見ても、人間には見えない、ですね」
    「デモノイドって高レベル悪の灼滅者、説得不能、みたいなモンて思ってたけどさ、これじゃまるで……」
     イフリートと戦うその姿は、まるでパニック映画の中に出てくる怪物、クリーチャーのようだ。
     見るからに知性はなく、衝動のままに暴れているかのようなデモノイドに灼滅者たちは一瞬言葉を失う。
     だが。
    「トンでもねぇことになってるな……なんて、ビビッてる場合じゃねぇな」
     龍治は炎龍の名を冠した無敵斬艦刀を構え直し、デモノイドを見据えた。
    「どんな存在だろうと殲滅する」
    「先輩にも『頼む』と言われたです。だから本気であいつら刈るです」
    「だな。んじゃま、一丁ブチ抜くとしようか……!」
     アルヴァレスに緒々子、清香も得物に手を掛けその意志を示す。
     イフリートを相手に単独で挑み、周囲の木々を小枝をそうするように苦もなく圧し折りながら互角以上の戦いを繰り広げるデモノイドを冷静に観察する灼滅者。
    「……! 今だ!」
     デモノイドがイフリートを投げ飛ばし、両者の距離が開いた瞬間を龍治は見逃さなかった。
     すかさずサイキックで影を伸ばし、青い巨躯を飲み込む。
    「これ以上、この土地で暴れるんじゃねーですよ!」
     九州の美しい自然が失われていく様をこれ以上見ていられないとばかりに緒々子はブレイジングバーストを炸裂させる。
    「其処は僕の射程範囲だ……貴様を撃ち落とす!」
     間髪入れずアルヴァレスのバスタービームがデモノイドの背中を貫き、焼き尽くす。
     灼滅者たちはあらん限りの攻撃手段を集結させ、一点にぶつけたのだ。
    「……ほう、流石にまだ健在じゃな。む?」
     そうでなくては面白くないと頷く詞乃だったが、デモノイドの動きに眉をひそめた。
     一度振り返ったデモノイドだったが、新たな敵の襲来にも関わらず首は再びイフリートへと向き直したのだ。
    「あたしを無視するつもりか?」
     怒気を隠さず、追いかけるように数歩前に出た刹那が導眠符を投射する。
     新しい衝撃に動きを止めるデモノイド。
    「混乱している? 私たちを敵として認識していないの?」
    「バカなのか?」
     サンバイザーを軽く持ち上げながら行動を窺う鈴音に、清香が根も葉もない一言をさらりと言った。
     だがそう表現するのがよさそうだ。
    「今のうちにじわじわと攻撃するのが得策じゃな」
    「油断は、できないデスガ」
     詞乃やマリーの援護射撃を受けながら前衛に立つ者たちが少しずつデモノイドとの距離を詰めていく。
     その間、デモノイドは幾度かイフリートに攻撃を加えながらもようやく灼滅者を完全な敵と認識したのか、いよいよ矛先を向けてきた。
    「いくぞ、シュタールマーキス!」
     熱き炎を宿したスペードを胸に、清香が『鋼の公爵』を振るう。
     攻撃に反応したデモノイドは外骨格のように鋭利な腕部で清香の鎚を受け止める。
    「くっ、硬いなっ!」
     空いた手で掴みかかろうとするが、素早く身を引いた清香には当たらない。
     入れ替わるように懐に潜り込んだアルヴァレスはチェーンソー剣に持ち替え、胸部を斬り上げる。
    「零距離獲った……切り崩します!」
     瞬時に手首を返し、首元まで上げた切っ先を折り返すように斬り伏せた。
     その途中、金属製の何かに刃が引っ掛かった。
    「これは……。っ!」
     振り下ろされた右腕を察知したアルヴァレスは剣の腹で受け流しながら辛くも回避。
     避けられなければ拳と胸板のサンドイッチになっていたところだ。
    「りんたろ、キュアをお願イ」
     マリーのナノナノ・りんたろうは素早く回復支援を行う。
     僅かな被弾でも積み重なれば致命傷になるため、迅速な治癒は不可欠だ。
    「私は……私のできる事を、するだけです!」
     宮崎を、九州を護りたい一心で飛び出す緒々子。
     巨躯を顔を真っ赤にしながら持ち上げ、
    「おみかんモナムーダイナミック!!」
     既に蹂躙された山肌へと叩きつけ、大爆発を引き起こす。
    「撮影するとおもったときには! 既に行動は終わっているのよ!」
     緒々子の退避を援護するため、バスタービームを照射する鈴音。
    「イフリートが……引いていくデス」
     デモノイドの隙を、そして灼滅者にこちらを攻撃する意志がない事を汲み取ったのか、イフリートは木々の奥へと消えていった。
    「今はいい。今はお前を……倒すッ!」
     ビームに怯んだデモノイドにシールドを叩き付ける龍治。
     だが、脊髄反射で「殴ったら殴り返す」と肉体が動いているかのように力強い反撃が龍治を襲う。
     刃と豪腕。大きく振るわれたそれはもし避ければ他の仲間に被害が及ぶかもしれない。ならば。
    「仲間は、俺が必ず守るッ」
     信念の基、龍治はシールドの出力を最大にしながら重い一撃を真正面から受けた。
    「……ヘッ、俺の知ってる痛みは、まだまだこんなもんじゃねぇぜ……ッ」
     腕から伝わった衝撃が内蔵を揺らし、断たれそうになる意識を必死に繋ぎ止める。
    「龍治サン! 今、防護符を使いマス。りんたろもおねがイ」
    「私も手伝います。他に回復が必要そうな人がいたら一気に回復しますよ!」
     刹那も治癒に参加し、それらが滞りなく完了するように詞乃は妨害を仕掛ける。
    「破く服がないのが残念じゃが、その肉襦袢を少しでも剥がしてやるとするかのぅ」
     細切れにせんと鋭利な影を伸ばし、外側から刻んでいく。
     本能的に危機を察したようにデモノイドは暴れ、無作為に拳を、刃を振るう。
     一撃が致命打になりかねないそれらを防御し、あるいは避け、灼滅者たちはデモノイドを追い込んでいく。
    「ブチ抜けぇっ、シュタールマーキスッ!」
     そして、清香の鎚が胸部に炸裂した瞬間、デモノイドは急に動きが鈍くなり……ついに前のめりに倒れた。
    「あんたらデモノイドが元一般人だろうと、あたしの知ったことじゃない」
     あがくように手を伸ばすデモノイドを刹那は一瞥し、
    「とっとと死ね」
     冷酷な一言が、彼の最期の言葉となった。

    「これがデモノイド……新しい道具、デスカ」
     ゲルのように溶け、消滅した存在にマリーが抱く思いはソロモンの悪魔への怒りかデモノイドへの憐憫の情か。それとも。
     しかしこのような所行を成すソロモンの悪魔とは一体。
    「姿を見たかったといえばそういうわけでもないのだけれど、写真にはおさめておきたかったわね」
    「神坂も気になるよなー。あんなモンつくりやがるソロモンの悪魔ってのがどんなヤツなのか」
     周囲に敵の気配もなく、一息をつく鈴音たち。だが、やはり気になるのはこの事件の元凶。
    「そこまでして手にしたいという鶴見岳の力と言うのはどういう物なんでしょうか?」
    「バカモンの悪魔、こんなに被害を大きくしてまで手に入れたいですか……」
     多くの一般人、そして九州の土地に損害を与えた事に緒々子は憤りを隠せない。
    「しかしこれでも被害は最小限といったところじゃろ」
    「ですね。胸を張って帰りましょう!」
     詞乃や刹那の言葉に多少落ち着いた緒々子はもう一度鶴見岳を見回した。
     この場での役目を果たした灼滅者たちは、他の仲間の無事を祈りつつ撤退するのだった。

    作者:黒柴好人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月5日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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