鶴見岳の激突～最善を、君達の手と力で

■リプレイ

●現れた獣
　鶴見岳。頂上からふもとへと降りる山道の一つに、八人の灼滅者は待機していた。
　道脇の木陰や背の高い草に姿を隠し、敵が来るのを待ちうけているのだ。
　夕永・緋織（風晶琳・d02007）は携帯電話を見ながらも、耳を澄ませていた。そして気づく。
「上から来るわっ！　数は三……ううん、四体！」
　彼女の言葉を聞き、残りの七人も迎撃する為、持ち場に着き準備を整えた。
　やがて上方から獣四体が姿を現す。土煙をあげ、落ちた枝や石を踏みつぶしながら。
　彼らはイフリート。皆、顔や胴体に傷を負っている。それでも、体から発せられる炎と殺気は、強大。
　イフリートの前に立ちはだかるのは、三人。
　うち二人、ミネット・シャノワ（白き森の黒猫・d02757）と望崎・今日子（ファイアフラット・d00051）は、肌に汗を浮かべていた。
「ここまでだ。お前達を逃がす訳にはいかなくてね」
　今日子は愛用の縛霊手を嵌めた腕、その手を強く握る。そして、腕を振った。
　近づいてくる獣の一体――虎の形をしたそいつの顔面へ、雷を宿した拳を叩きつける！
「ソロモンの悪魔のやり方は気にいりませんが……それでも、確実に灼滅いたします！」
　ミネットは道を駆ける。三角帽子と黒髪を揺らしながら、虎型イフリートの側面に回り込む。
　ミネットは杖を繰り出す。虎型の胴を突く。杖の先が胴に触れた瞬間に魔力を流し、敵の内部を傷つける！
「レドは、レドの全力を尽くすだけ」
　水縹・レド（焔奏烈華・d11263）は、無表情でいうと刀を抜く。白い鞘を投げ捨てた。
　彼女は正面から虎型の獣に挑む。上段に構えた刀を振り落とし、虎型の傷をより深くする
　三人はいずれも手ごたえを感じていた。攻撃は効いている筈。
　が、虎型は怯まない。口を開く。炎を宿した牙で、今日子を噛む。
　さらに、隣にいた一体も動いた。獅子型のそいつは炎の爪で、ミネットの胴をえぐる。
　今日子とミネットの膝が、痛みに揺れた。
　三人の苦戦を見て、他の者も隠れ場所から飛び出した。三人と違い、イフリートらの背後に陣取る。
　深見・セナ（飛翔する殺意・d06463）は敵の技の威力に、目を見張っている。
「これがイフリートの炎ですか……すぐに回復しないと。――夕永さんもおねがいしますっ」
　セナは隣にいた緋織に呼びかける。頷く緋織。
　セナが小さな光輪を生み出し操る。緋織は風の精を模した弓より、癒しの力を撃ちだした。セナと緋織の力が仲間を覆う炎と傷を消していく。
　だが――傷ついた者が体勢を立て直す、その僅かな隙に、イフリート二体が、前列の灼滅者の横を通り抜けた。
　二体はそのまま山のふもとへ走っていく。
　先ほど攻撃してきた二体、虎型と獅子型は、灼滅者と戦い続けるつもりらしい。腕をあげ鋭い爪を見せつける。
　居島・和己（は逃げだした・d03358）は遠くなっていく二体の背中を見ながら、頭を押さえて思案。そして、皆に提案する。
「多数を同時に相手取るのは、危険だし、残った二体に集中しちゃおうぜ」
　仁帝・メイテノーゼ（不死蝶・d06299）も眉を寄せ、頭の中で計算していた。そして、和己に同意。
「そうだな、先ほどの技の威力から考えれば――四体同時は確かに危険だ。深追いはやめておいたほうがいいだろう」
　残った虎型と獅子型は、前列の灼滅者を睨んでいる。和己たちに背を向けた状態だ。
　和己はにやりと口の端を釣り上げた。和己は虎型の背に弾丸を連射！
　メイテノーゼは息を止め、精神を集中。体から黒い殺意を噴出し、イフリートらへ放射する。
「がああ？！」
　虎型は悲鳴をあげる。そして、振り向いた。メイテノーゼたちを睨む。
　シルフィーゼ・フォルトゥーナ（小学生ダンピール・d03461）は、ドレスの裾をはためかせながら疾走。振り向いたばかりの虎の眼前に立つ。そして、
「残ったお主ら、かくじちゅに仕留めてみせようぞ」
　刃を虎型の額へと叩き落とす！
　額より吹き出る血。
　だが、虎型も獅子型も、未だ戦意を失っていない。体からより激しい炎を立ち上らせた。

●獣たちの炎
　虎型の背から何かが生えた。己らの傷を癒す炎の翼だ。
「きじゅを癒しゅなら、それ以上のきじゅを与えりゅまでじゃ！」
　回復する虎の前で、シルフィーゼは刀を鞘におさめ、再び抜刀。目に見えぬ速度で刃を閃かす！
　ミネットは金の眼で敵を見つめていた。
　ミネットの視線の先で、イフリートはシルフィーゼに斬られ、痛みに首をそらした。その瞬間を狙い、ミネットは呪文を詠唱。
「イフリートさん、お釣りはいりませんので……ぜんぶ持っていってくださいっ！」
　ミネットは無数の矢を召喚。イフリートの体を刺し、腕を貫く。
「へっへっへ、俺も行くぜ！　覚悟しなっ！」
　和己はギターを大きく振り上げた。敵に投げると見せかけ――ギターを地に叩きつける。激しい音を溢れださせる。ソニックビートで、相手の鼓膜をゆすぶった。
　矢と音波がもたらす苦痛に、虎型イフリートは喘ぐ。よだれが垂れた。
　その後も灼滅者は次々にイフリートに攻撃を当てていく。だがイフリートもまた、自分達が受けた以上のダメージを灼滅者たちに与えてくるのだ。
　前列の四人、ミネット、シルフィーゼ、レド、今日子。彼らはいずれも無傷ではない。
　それを支えるのは、メディックの二人、セナと緋織
「やはり、強力な相手です……気を抜けば、即地獄行き……」
「だからこそ、私たちがしっかりしなくちゃね。でもきっと大丈夫かな、だってみんな頑張ってるもの」
　顔を険しくさせるセナ。敵の脅威を認めつつも、皆を励ます緋織。
　彼女らの視線の先で、レドが機敏に動いていた。
　シルフィーゼを狙おうとしていた獅子型の爪、炎を帯びた爪を、レドは己の体で受け止めた。
「レドが護る……！」
「ガアアアアアっ！」
　己の攻撃を止められ、獅子型は激昂。再び前脚を振り上げたが――。
「私が相手になろう」
　獅子型の側面から、今日子が獅子型の腕を、がしりと掴んだ。
　今日子はレーヴァンテインを行使する。炎が今日子の手から獅子型の脚に燃え移り、さらに獅子型の全身を包む。
「……炎の獣が、燃えている……」
　メイテノーゼは眉をよせて呟きながら、ハンマーを振り落とし――地面を大きく震わせた。
　炎と大地の揺れに、獅子型は僅かの間ながら翻弄される。
　その隙をつき、セナと緋織が治癒の力を実行。シールドリンクと癒しの矢でレドを支援。
　癒されたレドは再び動き出す。刀にレーヴァテインの力を付与。渾身の力で、近くにいた虎型を突く！

●倒し、倒され
　数分が経過した。灼滅者は己や仲間の傷を癒しつつ、戦いつづける。だが、それでも傷は増えていく。
　今、最も傷が深いのは、仲間を庇うことに積極的だった、レドだ。
　レドは己の体を見降ろす。傷は多いが、まだ戦えると判断。
　己に迫る虎型イフリートを、再びの雲耀剣で、切り裂いた！
　彼女の刀は直撃し、イフリートを戦闘不能直前まで追い詰めていた。
「あと、一撃……！」
　止めを刺そうと腕を動かすレド。
　彼女の目の前で、瀕死の虎型が踏ん張り、地面を蹴った。飛びかかってくる。
　獅子型も虎型に呼応した。
　虎型の放つレーヴァテイン、獅子型の放つバニシングフレア――二種の炎が、レドを焼く。
　レドはその熱に耐えきれなかった。
「後は……お願い」
　意識を失い、どさり。うつ伏せに倒れる。
「お願いは確かに聞いたよ、水縹さん。ひきうけよう」
「ああ。だから、後は休んでくれて構わない」
　レドの言葉に答えたのは、今日子とメイテノーゼ。二人はイフリートへ向きなおる。
　今日子はあくまで、落ち着いた様子を崩さない。
　今日子は虎型の前で姿勢を低くし、そして、拳を上に突きあげる。抗雷撃で敵の顎を撃ち抜いた！
　打撃の威力に、虎型の体が宙に浮かんだ。バランスを崩して着地。メイテノーゼは爪先で地面を、コンと叩いた。その途端影が動き出す。
　メイテノーゼの影は、虎型の体に巻きつき、締めつける！　虎型は影を振り解けない。締めつけられる痛みに絶叫し、息絶えた。
　残された獅子型は一瞬、顔を山のふもとへ向けた。
「逃げるつもりか？　でも、逃がさないよ～っと♪」
　和己は実に楽しそうな声で獅子型に話しかける。
　和己は獅子型の首に向けて、銃を連射。雨の如く大量の弾丸が、獅子型の体力を削っていく。
　獅子型は怒り吠える。炎をあふれさせる。その炎が和己たち後衛に飛んだ。
　緋織も炎に焼かれ、片膝をつく。
「わあ……やっぱり熱い……。でも、勝つのは私たちよ！」
　緋織は清めの風で自分達を癒し、立ち上がった。

　獅子型のイフリートの攻撃は依然として激しい。が、敵数は既に一体。受けるダメージは実質半減した。闘いは灼滅者有利に展開する。
　シルフィーゼは、足を獅子型に噛まれてしまう。牙に灯る炎で、燃えるシルフィーゼ。
　が、シルフィーゼは獅子型を振りほどこうとしない。噛みつかれたまま、刀をふるう。相手の額へ力強い斬撃。
「ぎゃあ？！」
　獅子型は甲高い声をあげ、シルフィーゼから口を離す。一歩、二歩、後退する。
　シルフィーゼは仲間を振りかえった。
「今こそ、好機じゃ！　たのみゅ！」
「了解しました。最後まで全力でいきます」
　シルフィーゼの言葉にセナが頷いた。輝く輪を七つ、生み出す。七つの輪は空中を動き、獅子型イフリートの肌を切り裂いた。
　イフリートは激痛に耐えきれず、身をよじり横転する。
　ミネットは倒れたイフリートの傍らに立ち、ロッドの先を胴へ押し当てた。
「イフリートさん、これで終わりですっ！」
　ミネットはロッドの先から力を放出する。敵体内へ超大量の魔力を、注入！！
　次の瞬間、イフリートの体内で激しい音がした。魔力が爆発したのだ。
　イフリートは目を見開いたまま――消滅する。

●静かになった戦場で
　八人がイフリートを灼滅してから、少しの時間が経過した。
　他の戦場でも、おおむね闘いは終了したようだ。
　セナは疲労困憊、汗をぐっしょりとかいていた。それでも仲間と協力しながら、レドの手当てをしている。
「傷は浅くはありません……学園に帰ったらできるだけ、安静にしてくださいね」
　優しく言うセナに、レドは礼の言葉を口にする。
「……ありがとう」
　と、その時、今日子が戻って来た。
　今日子は、近くの様子を見にいっていたのだ。彼女は皆に報告する。
「どうやらすべてのイフリートを倒すことはできなかったようだ」
　今日子が持ち帰った情報によれば、学園の灼滅者はイフリートの幾らかを討ちとれた。だが、少なくない数のイフリートが脱出に成功し、行方をくらましてしまった。
　もし、もっとたくさんの班がイフリート討伐に向かっていれば、イフリートを殲滅できたかもしれない。
「ありゅいは小人数であれ、より良い策があったやもしれにゅ。……されど、多きゅのイフリートを退治できたことも、じじちゅ」
　今日子の報告を受け、シルフィーゼが思案顔でいうと、
「じゃあ、十分な成果って言っていいんじゃないの？　つまり俺達の勝ちだな。大勝利だ！」
　和己が楽天的に言い『やったぜ』と親指を立てる。
　一方、メイテノーゼは、先ほどまでイフリートが暴れ回っていた場所を見つめていた。イフリートの肉体は既に灼滅され、存在しない。
　メイテノーゼは何かを考えるような真剣な顔で、おもむろに口を動かす。
「……やはり、夏は自分自身の熱であついんだろうか？」
　何人かが思わず、メイテノーゼの顔をまじまじと見る。
　やがて、八人は山をおりる。別所で戦った仲間達と合流し、自分達の成果を学園に報告するために。
　ミネットと緋織は仲間に従いながら、後ろを振り返った。イフリート達が倒れた場所を見やる。
「（貴方たちは、貴方たちの思う生き方を、通したんですよね……）」
「（どうか安らかに……）」
　彼らへの想いと祈りを、声に出さず呟く。

作者：雪神あゆた	重傷：水縹・レド（焔奏カンタービレ・d11263）  死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年2月5日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 10／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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