「先日はイフリート事件の解決、お疲れ様でした」
集まった灼滅者達へと五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は礼を告げる。
別府温泉の鶴見岳から出現し、日本各地で事件を起こしたイフリートは、灼滅者達の活躍により灼滅する事が出来たのだ。
「皆さんが頑張って下さった結果を踏まえて、鶴見岳の調査と、その原因解決を行うべく準備を進めていたのです。しかし……」
姫子の表情が曇る。
今の所鶴見岳の調査は出来ていない。何故なら横やりが入ったのだ。
鶴見岳には、現在、ソロモンの悪魔の一派が率いる軍勢が集結しているのだという。
彼らは先日の灼滅者達のイフリート事件解決により、戦力を減らしたイフリート達を滅ぼそうとしているのだ。
ソロモンの悪魔は一体何を企んでいるのか?
それについては姫子から解説が入った。
「ソロモンの悪魔の目的は、イフリート達が集めた力を横取りし自分達の邪悪な目的の為に使用する事だろうと目されています」
鶴見岳周辺に集ったソロモンの悪魔の軍勢には今までとは比較にならない程に強化された一般人の姿もあるらしい。
「……ダークネスに匹敵する程の力を持つ彼らは、ソロモンの悪魔から『デモノイド』と呼ばれています」
デモノイド達はソロモンの悪魔の軍勢の主力となっている。
しかしながら、ソロモンの悪魔とイフリートの抗争なら放置しても良いのでは? と思う者も居るかもしれない。
姫子はそれに首を振る。
「いえ、学園が介入しなかった場合、この戦いはソロモンの悪魔の勝利に終わります。彼らは鶴見岳の力を得て更に強力な軍勢となっていく事でしょう」
それだけではない、と彼女は語る。
「……敗走したイフリート達は一点突破で包囲を破り、鶴見岳から姿を消す事となると思われます」
ソロモンの悪魔達は鶴見岳の力さえ奪えればイフリートと正面から戦う必要は無いと判断したのか、逃走するイフリートに対しては、ほとんど攻撃を仕掛けない。
「つまり、イフリートもかなりの戦力を残す事になるのです」
放置しておけば、ソロモンの悪魔の一派が強大な力を得た上、イフリート達も戦力を殆ど失わずに逃走するという最悪の結果となるのだ。
「しかし、現在の武蔵坂学園には2つのダークネス組織と正面から戦うような力はありません。ですから、2つのダークネス組織の争いを利用しつつ、最善の結果を引き出せるように、介入を行って欲しいのです」
姫子はそう語ったのだ。
「さて、今回の作戦、介入ポイントとして3つの選択肢があります」
まず、最初の選択肢は、鶴見岳に攻め寄せるソロモンの悪魔の軍勢を後背から攻撃する事。鶴見岳を守るイフリート達と共に、ソロモンの悪魔の軍勢を挟撃するかたちになるので、有利に戦う事が可能だ。
「ですが、これには難点があります。別府温泉のイフリートを灼滅してきた灼滅者も、イフリートにとっては憎むべき敵である為、イフリートと戦場で出会ってしまうと、三つ巴の戦いになってしまうでしょう」
とはいえ、ソロモンの悪魔の軍勢を壊滅させれば、イフリート達は灼滅者達との連戦を避けて鶴見岳からの脱出を行う。
つまり、鶴見岳のソロモンの悪魔の軍勢を壊滅させる事ができれば、ソロモンの悪魔に鶴見岳の力を奪われるのを阻止する事が出来るのだ。
そして2つめの選択肢。
これは、鶴見岳のふもとにある『ソロモンの悪魔の司令部』を急襲するというもの。
司令部には、ソロモンの悪魔の姿が多数あるため、戦力はかなり高いと予想される。しかし、普段は表に出てこないソロモンの悪魔と直接戦うチャンスとなり得るかもしれない。
姫子は告げる。
「ですが、鶴見岳の作戦さえ成功させれば、司令部のソロモンの悪魔達は戦わずに撤退します。無理に戦う必要はありません。それに、司令部を壊滅しても、鶴見岳をソロモンの悪魔の軍勢が制圧した場合、鶴見岳の力の一部はソロモンの悪魔に奪われてしまうでしょう」
勿論、多くのソロモンの悪魔を討ち取っていれば、ソロモンの悪魔の組織を弱体化させることは出来る為、どちらが良いという事は無いと思われる。
そして最後の選択肢は、イフリートの脱出を阻止して灼滅する、というもの。
「鶴見岳から敗走したイフリートが、各地で事件を起こすだろう事は想像に難くありません。その事件を未然に阻止する為にも、イフリートの脱出阻止は重要な仕事になるでしょう」
姫子はそう語った。
イフリート達は、ソロモンの悪魔の軍勢との戦いで疲弊しているため、千載一遇のチャンスともいえるかもしれない。
3つの選択肢、どれを選ぶかは灼滅者達次第。
「……ダークネス同士の大規模戦闘に介入する、というのは極めて危険な事です。命に関わる可能性も高いでしょう。ですが、皆さんなら良い結果を出せると信じています」
どうか無事に戻ってきてください、と姫子は祈るように灼滅者達へと告げた。
参加者 | |
---|---|
犬神・寧々(中学生神薙使い・d00041) |
レナ・フォルトゥス(森羅万象爆裂魔人・d01124) |
殿辻・尚都(極悪ロマネスク・d01744) |
九重・風貴(緋風の奏者・d02883) |
月見里・无凱(深淵ノ舞う銀翼の風・d03837) |
新妻・譲(高校生新妻・d07817) |
月日・九十三(時を欺く観測者・d08976) |
賢濱・和希(札付き魔女・d09408) |
●戦いの始まり
次第に日は落ちていく。
曇った空の下では暗くなるのは殊更に早い。
灼滅者達は息を殺し、そっとその場に潜む。
月見里・无凱(深淵ノ舞う銀翼の風・d03837)と月日・九十三(時を欺く観測者・d08976)は望遠鏡や双眼鏡を手に、遠方を見やる。
ソロモンの悪魔軍の動きや、これから発生する戦いの趨勢を見測るのが目的らしい。そして賢濱・和希(札付き魔女・d09408)も箒へとまたがりつつ、カチューシャで長い白の髪を抑え、風に靡かないようにと抑える。
そのまま箒ごと彼女はふわりと浮き、木々の合間に隠れるようにして、様子をうかがう。
「何とかと煙は高い所が好きだよね」
山頂の方を見つつ呟いた言葉の意図は、果たして。
「ソロモンの悪魔とイフリートが両方共倒れしてくれるとありがたいのですが、やはり事は上手くいかないようですね」
犬神・寧々(中学生神薙使い・d00041)は草木に隠れ乍ら小さく呟く。
予知によれば放置した場合はソロモンの悪魔一派が強大な力を得た上、イフリート達も戦力を失わないという。
今回、灼滅者達はソロモンの悪魔軍を後背から攻撃する事と決めた。
「相手は強化された一般人、ね」
新妻・譲(高校生新妻・d07817)の表情は、苦い。
強化されているとはいえ、ダークネスではない人間と戦うというのは。
彼とて、いつの日か一般人と戦う日がくる事は来るだろうと思ってはいた。
一度考えれば複雑な想いは彼の胸中で増殖していく。
軽く頭を振り、彼は躊躇いを振り払う。今やるべき事は判っている。
「……まァ。今は考えるのが仕事じゃねーわな」
「ま、三つ巴覚悟っても気負わず、手玉に取る感じで、な!」
九十三はそんな彼へとニッ笑って見せた。人生のどんな事態でも楽しもうとする彼の笑顔は、心強い。
極力三つ巴は避けたい。しかし、全員、最悪そうなった場合でも戦い抜く覚悟は出来ている。
息を詰める彼らの前方、暫しして戦いは始まった――。
●介入せよ、そして
武器を手にした強化一般人達と、イフリート達の戦い。
その後方へと灼滅者達はそっと忍び寄る。
戦場特有の、武器と武器をぶつけあう鋭い音、そしてサイキックが他者を破壊する音が響き始める。それから三分程。
「頃合い、だな……行くぜ、みんな!」
九十三の声を合図に灼滅者達は戦場へと飛び出した!
「よし、行っくぜー!」
殿辻・尚都(極悪ロマネスク・d01744)が叫び、九重・風貴(緋風の奏者・d02883)が「女神様のご加護を、ってね」と小さく呟き、彼はwith youと刻印された鞣革のブレスレットへと唇を落とす。愛する人へ、無事に帰るという誓いも込めて。
ようやくソロモンの悪魔軍――強化一般人達がこちらに気付くも、灼滅者達の奇襲の方が早い。
「ソロモンの悪魔ねぇ……何か面白い事になってるじゃないか。さて、大暴れして奴らの鼻っ柱へし折ってやるとしようか」
風貴は口の端をつり上げ楽しそうに笑う。愉しい戦いの時間だとでも言わんばかりに。
无凱は胸元に己のスートを具現化。
本当は仲間への防御ももっと固めておきたかった所だが、手持ちのサイキックでは致し方ない。
攻撃ももちろん手を抜かない。
「悪いが一気に畳ませて貰う!」
九十三と譲の解放したドス黒い殺気が、完全に動揺した状態の強化一般人達を呑み込む。
凄まじい殺意は物理的な衝撃を伴った攻撃となり彼らを痛め付けていく。
あちこちから聞こえる苦悶に満ちたうめき声は譲をはじめ灼滅者達の心も痛めつける。
それでも、だ。
「コイツらのさばったことで、親泣かすとか親いなくなるとか……そういうヤツを増やしたくねぇ。それだけでぶっ飛ばす理由は十分だけどな!」
譲の身からひときわ強く発される殺気。早速頽れる1人の強化一般人。
少しだが、彼は即座に目を逸らす。
事切れる瞬間の、仮にも人間と目を合わせたくないというジレンマ、かもしれない。
レナ・フォルトゥス(森羅万象爆裂魔人・d01124)は他のメンバーとは違う敵を1人攻撃する。
「イフリートも悪魔も倒すべき相手ですわ……ですが、まぁ、今回はあんたたちを倒すってことで」
巨大な刃を振りかぶり、彼女はそれを振り下ろす。
超弩級の一撃は敵の腕を容赦なく破砕する。
「派手に燃えてよ?」
風貴の体内から吹きだした炎が、サイキックソードへとまとわりつく。剣そのものが燃えているかのような状態のそれを、彼は左手で振り上げ、そして叩きつけた。
武器から炎が敵へと燃え移り、延焼する。
攻撃に転じようとする敵へと寧々がガンナイフを構え銃撃を繰り出す。弾丸が敵の足元を穿ち、攻撃の出鼻を挫く。
「ヨコドリとか、そーゆーのキラーイ。正々堂々、正面から勝負しようぜー」
ソロモンの悪魔軍にむかって尚都は頬を膨らませる。
しかし、だ。かく言う彼女自身はそんなソロモンの悪魔軍に横やり入れちゃうのである。
出来る事を出来るだけ、せーいっぱい頑張るよ、と尚都は自身のリングスラッシャーから分裂させた小光輪を放ち、ディフェンダーの護りを更に固めていく。
和希は箒から降り空から華麗に落下。
スタン、と軽快な音を立て戦場へと降り立ち、即座に彼女は自身の瞳へとバベルの鎖を集中させた。
●討ち滅ぼせ、敵を
強化一般人達との戦いは、それなりに灼滅者達に有利であった。
メンバーによっては齟齬や、若干ミスがあったりもしたものの、初手を取れた事も大きかったようだ。
少しずつ、強化一般人達は倒れていく。
そして注意して一同ともに立ち回った事もありイフリートとの三つどもえの戦いは避ける事が出来ている。更に言えば薄々とではあるが灼滅者達も目前の敵たちがあまり知的ではないという事に気付きつつある。策をしっかりと練り戦う以上、灼滅者達の負ける可能性は非常に少ない。
尚都もメディックとしてかなりの頑張りを見せた。他メンバーの体力面の管理がかなり丁寧に行われていたのだ。
懸命に仲間を癒す寧々だったが、それでも敵はひたすらに攻撃を繰り出してくる。
どんどん削られる体力。しかし幸いだったのは敵がさほど頭を使った攻撃をしてくる事が無かったという事実。
2体の強化一般人が、槍を振るう。そこから放たれた冷気のつららが、尚都と寧々をそれぞれ狙う。
寧々はそれまでに若干ながら自分の体力と敵の攻撃力を見誤っていた。
思った以上に削られる。そのままに彼女の意識がブラックアウトする。
そして尚都は。
「ひゃっ!?」
小心者ゆえ出た微妙な悲鳴に九十三が動いた。
幾万もの真言の刻まれた杖を手に、敵の攻撃の前に己の身を晒す。
ディフェンダーとして、何よりも大切な仲間の為に。
「ナイトってのは柄じゃーないが、絶対守ってやる」
痛みを堪えて九十三が薄く笑う。
「九十三先輩……」
「でないと、クラブで……戦闘不能にされちゃうぜ……」
笑顔は絶やすことなく、彼は攻撃に転じる。
「一気に片付けましょう」
告げた无凱が高速で敵の背後へと回り込む。ゆらゆらと揺らめいていた无凱の影が、一瞬だけ死神の如き姿をとった。死角へ回った彼の影がその状態から鎌を振るう。
ずぱり、と敵の身が装備ごと斬れた。
そこに九十三が妖の槍を螺旋を思わせる捻りを加えて突く。貫かれた敵はそのまま地へとつっぷした。
「悪魔の野望は阻止するのみよ」
レナは武器へと炎を纏わせ叩きつける……も、延々これを繰り出していた事もありそろそろ見切られかけている。
だが彼女の攻撃を回避した、と余裕を見せた強化一般人は真っ黒な影へと絡め取られる事となる。
「残念、こっちだよ」
風貴の放った影縛りが、ぎしりと敵を締め上げた。そのままに強化一般人は絶命する。
それが、最後の1人だった。
●蒼の怪物
幸いにして寧々の傷は命に関わるようなものではなかったらしい。
イフリートの撤退を見逃し、彼女を連れて灼滅者達は戦場を後にしようとする。
「今はみっともなく逃げればいいさ……次は残らず狩ってやる」
本当は今すぐにでも手負いのイフリートを倒してしまいたい。自らを踊らせようとする憎悪の感情を理性で押し込め、風貴は呟いた。
あとは撤退のみ。
「家に帰るまでは遠足って言うよね?」
和希はそう言い警戒を緩めない。
念のため、とイフリートを警戒していたレナは「それ」を目にした。
彼らが目にしたものは、青い巨体の怪物だった。
「デモノイド……」
灼滅者の誰かが喘ぐように呟く。
ねじくれ、溶けかけたかのような肉体を持つソレには、所々に金属が埋め込まれている。
そして特徴的だったのは――左腕だ。
刃のように変形した腕。身体はかなり傷だらけ。イフリートと戦って受けた傷なのか、それとも。
武器を向けてようやくそいつは灼滅者達を「敵」と認識したらしい。
だが敵が認識をする迄に灼滅者達は既に先手を打っている。
炎を纏った一撃を繰り出す譲。そこに尚都も続く。高純度に詠唱圧縮された魔法の矢が降り注ぎ、和希の放った鋭い裁きの光が敵の肉体を灼く。
そしてデモノイドがようやく動いた。
巨腕を振るい、戦いの傷が大分残っていたレナを殴打する。凄まじい衝撃にレナの細身の身体がみしり、と嫌な音を立て、吹き飛び、さらにどしゃりと音を立てて地へと叩きつけられた。
デモノイドの破壊力はかなりのもの。しかしこれもまた力任せの攻撃。
しかしその身の傷も多い。
「……まだいけます。敵は一体。十分倒せる範囲です」
眼鏡を押し上げ无凱がそう判じ、もう大分弱った状態の敵を見て九十三は笑む。
「さーて、大将……ココらでお互い、お開きといこうぜ?」
槍を再び槍に捻りを加えて突く。ごうと空気を切る音とともにデモノイドの肉体が貫かれた。足掻くように蠢く敵を、更に風貴の影業が敵を呑みこむ。
そこに无凱が接敵した。
「――終わりです」
彼は素早く敵の死角へと回り込む。大型な敵の分小回りは効きづらい。
完全に死角に入ったと直感した瞬間、彼の影がずぱり、と敵を切り裂いた。
一撃が決まった直後、デモノイドの肉体は崩れ落ち、どろどろと溶け青の液体へと姿を変えていく。
それが、彼らと相対したデモノイドの最期だった。
「正直気持ち悪かったなー」
尚都はレナへと肩を貸しつつそう呟いた。レナの傷も命に別状は無い程度。
彼女が告げるのはデモノイドの最期の事だろう。
尤も、もしかしたら強化されているとはいえ敵が一般人だった事も含むかもしれないが。
怪我人は出たものの、無事戦いは勝利を収めた。他の戦場については未だどうなっているかはわからない。
それでも彼らはやるべき仕事は果たした。
あとは、少しでも学園が有利になるような成果が出ている事を祈るのみだった。
作者:高橋一希 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年2月5日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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