鶴見岳の激突~幻獣VS悪魔に介入せよ灼滅者!

    作者:旅望かなた

    「やべーじゃんっ! 別府温泉から出てきたイフリート、めっちゃ全部倒しちゃった的な!」
     感激の面持ちで、嵯峨・伊智子(高校生エクスブレイン・dn0063)はぶんぶんとスマートフォンを振り回す。
    「おかげで鶴見岳の調査とか、原因解決とかそーゆーとこまで手なんか出せちゃったんですけど!」
     ぶんぶんぶん。
    「……あ、でもなんかそーてーがいのよこやり? が入っちゃって?」
     いきなりぶんぶんが止んだ。ぎゅっと拳を握り、伊智子が真剣な顔になる。
    「よーしじゃあ重要だからよく聞いてね! 鶴見岳の周りにね、ソロモンの悪魔の一派が軍勢率いて集結してます! でもって作戦失敗でぎゃおーんなことになって仲間が減っちゃったイフリート達を攻め滅ぼす準備してます!」
     途中で変な擬音が入ったりもしたが、要するに概ねエライ事態であった。
    「ソロモンの悪魔はね、イフリート達が集めた力を横取りして自分達のいやーんなことに使うんだよマジ鬼! 悪魔!」
    「嵯峨、嵯峨。鬼は羅刹」
    「あ、そうだったじゃあ悪魔!」
     なお、ソロモンの悪魔の軍勢には、今までとは比較にならないくらい強化された一般人の姿もあるらしい。
    「なんかダークネスと同レベルやばいパワー持ってるらしいよ! えっとねーなんだっけーソロモンの悪魔からねー……でも……での……あ、『デモノイド』! そうそう『デモノイド』って呼ばれてるんだって! 主力戦力だって!」
    「一般人じゃないよねもう」
    「本当だよねもう! というわけで武蔵坂学園がどーにかしないと、この戦いはソロモンの悪魔が勝利して、鶴見岳の力を得てパワーアップしちゃうのだ! そして負けたイフリート達は頑張って包囲を破ってみんなで逃げ出すんだけど、ソロモンの悪魔は鶴見岳の力をゲットしちゃえば逃げるイフリートなんか超絶放置的な!」
     つまり放置すると、ソロモンの悪魔の一派が強大な力を得て、イフリート勢力はほとんど勢力を失わずに逃走してしまうのだ。
    「まっ、今の武蔵坂学園に、二つのダークネス組織と真っ向から戦う力なんかぶっちゃけないよ!」
     そう、ダークネスの戦闘力は灼滅者の10倍とかだし。
    「だから二つの組織の争いを利用して、最善の結果を目指して介入します! うへへあたしこーゆーせこいの結構好き!」
     そう嬉しそうに笑って、伊智子は詳しい説明へと入る。
     
    「というわけで! イフリートとソロモンの悪魔の決戦に首突っ込もう作戦! とりあえず3つほど選択肢があるからちゃんと聞いてね!」
     というわけで伊智子は用意してきたらしいフリップを取り出した!
     
    「その1! 鶴見岳に攻め寄せるソロモンの悪魔軍勢を後ろから殴るぞー!」
     ソロモンの悪魔軍勢をイフリートと挟撃する感じなので、有利に戦えるぞ!
     ただし、別府温泉のイフリートたくさん灼滅したから憎まれてて、うっかりイフリートと戦場で逢うとその瞬間三つ巴のバトル決定だぞ!
     ちなみにソロモンの悪魔の軍勢を壊滅させても、イフリート達は灼滅者達と連戦したくないから鶴見岳を離脱しちゃうぞ!
     
    「その2! 鶴見岳のふもとにある『ソロモンの悪魔司令部』を急襲しちゃうぞー!」
     司令部にはソロモンの悪魔がたくさんいるので、戦力はかなり高いぞ!
     普段は表に出てこないソロモンの悪魔と直接対決なんかできちゃうぞ!
     でも鶴見岳の作戦さえ成功させればこいつらはとっとと撤退しちゃうから、無理に戦わなくてもいいぞ!
     その上司令部が壊滅しても、鶴見岳をソロモンの悪魔の軍勢が制圧したら、力の一部はソロモンの悪魔に奪われちゃう!
     でもソロモンの悪魔をばっちり倒しまくってれば、ソロモンの悪魔の組織は弱体化! つまりこれもアリアリってことだね!
     
    「その3! イフリートの脱出を阻止して灼滅しちゃうぞー!」
     鶴見岳からイフリートが逃走したら、各地で事件を起こしちゃうぞ多分!
     その事件を未然に阻止するためにも、イフリートの脱出阻止は重要な仕事だぞ!
     イフリート達はソロモンの悪魔と戦ってボロボロなので超チャンスかもしれないぞ!
     
    「いじょー! どれを選ぶかとか詳細作戦は任せた!」
     伊智子は凄まじい勢いで灼滅者達に選択を丸投げて。
     そしてちょっと、真剣な顔になる。
    「ぶっちゃけるとかなり危険な作戦です。だって自分より強いのがいっぱい戦争してるところに飛び込むみたいな感じだからね。だから……めっちゃ気を付けて! ちゃんと帰ってきてちょ!」
     そう言って、伊智子は深く、深く頭を下げた。


    参加者
    永瀬・刹那(清楚風武闘派おねーちゃん・d00787)
    御簾森・陽鶯(微睡みの陽光・d01601)
    行野・セイ(ジェットフレイク・d02746)
    ツェツィーリア・マカロワ(ロックンロードロコケストラ・d03888)
    城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)
    禪杜・フュルヒテゴット(ハウンドアッシュ・d08961)
    木下・里美(高校生魔法使い・d09849)
    細野・真白(ベイビーブルー・d12127)

    ■リプレイ

     怖いです、と御簾森・陽鶯(微睡みの陽光・d01601)の声の終わりが震えた。
    「初めての、大きな戦い。何かが大きく変わろうとする戦い……」
    「各陣営とも思惑が見え隠れするやな展開ね」
     木下・里美(高校生魔法使い・d09849)が小さく呟く。
     ――その陣営の一つに、武蔵坂学園はなろうというのだ。
     でも、退く訳にいかないのです。
     そう言って、陽鶯は拳を握る。マテリアルロッドと、青梅雨の名を持つガンナイフを両手に構えて。
    「守りたいって思うものがあるから……絶対、勝ちます!」
    「ハン、守りてぇものか」
     青いな、とツェツィーリア・マカロワ(ロックンロードロコケストラ・d03888)は笑う。挑発するような口調は、けれどどこか優しくて。
    「戦う力になんなら、何でもいいぜ?」
     片手にはガトリング、もう片手には無敵斬艦刀。
     ライドキャリバーのリーリヤにすぐ飛び乗れるよう引き寄せ、ニィとその唇は笑みを形作る。彼女の場合は戦いに高揚する心自体が、戦う力。
     くすと禪杜・フュルヒテゴット(ハウンドアッシュ・d08961)がその様子に笑みを浮かべる。自分から殴りかかりにはいかないけれど、彼も燃える血が表すように、好戦的な性格で。
     だから、大きな戦いへの介入に、胸が高鳴り血が沸くのを感じる。
     籠手の如き縛霊手に桜色のオーラがふわりと纏わりつく。永瀬・刹那(清楚風武闘派おねーちゃん・d00787)は静かに戦場を見つめ、介入のタイミングを図る。
     このパーティではイフリートの消耗を狙うという意見で一致していたが、戦場全体の趨勢は、戦端が開かれてから数分後の奇襲に傾いていた。さればやや戦闘開始のタイミングを早めなければなるまいと、身を隠した茂みの中で密やかに話し合い、灼滅者達は頷き合う。
     行野・セイ(ジェットフレイク・d02746)の隣で、そのビハインドであるナツが胸の前で両拳を握り、小さく頷く。
     面を被った少女の姿である彼女の、頑張りますという意思表示であろう。そう思い、セイは静かに頷きかけた。
    「イフリートと悪魔の中に飛び込むの。怖くないって言ったら嘘だけど」
     小さな体いっぱいに、細野・真白(ベイビーブルー・d12127)は息を吸い込み、そっと吐く。
    「なにもしないほうがもっと怖い」
     弱い私になりたくないから、前に一歩踏み出して。皆さんといっしょにがんばります、と、真白は静かに両手を握った。金属の冷たさが、両手に沁み渡る。
     手の中には、確かな重み。陽鶯が「役に立てて」と貸した銃は、ずっしりと重く冷たいけれど、それががんばれ、と伝えてくれているように思う。
     そして、そっと隣の城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)へと、視線を移す。頼れるお姉さんと、彼女は敬愛を以って千波耶を見つめて。
    (「イフリートとソロモンの悪魔とデモノイド。今回は不安の種が多すぎるわ……」)
     心の中でそう思いながらも、千波耶は真白の視線に応え、にこと笑って頷いて見せた。
    (「でも不安を出しちゃ駄目ね。後ろが震えてちゃ、前で皆が戦えない!」)
     そしてきっと前を見据える。既にイフリートとソロモンの悪魔軍勢の戦端は開かれ、あとは灼滅者達の介入を待つばかりであった。
    「ソロモンの悪魔やデモノイドはいないみたいね……」
     里美がそっと目を細め、仲間達に伝えるように呟く。確かに灼滅者達のすぐ前――イフリートとソロモンの悪魔の戦線から見れば後方を固めるのは、強化されたと思しき一般人達であった。
    「最前線に投入されている可能性も高いな」
     セイが普段とは打って変わって強い口調で呟いた――その瞬間。
     空気が、動いた。そして、周りの灼滅者達も。
     僅かにタイミングをずらし、真っ先にツェツィーリアがリーリアに飛び乗る。「あの続きを、読み進めましょう」と差し出した陽鶯のカードから、「歌おう、エバミノンダス」と弾いた千波耶のカードから、力が解放される。次々に灼滅者達が立ち上がり、走り出す。
    「ヒャッハァ! 先に灼滅されたいのはどこのどいつだ!?」
     嬉しそうに唇を吊り上げたツェツィーリアが、リーリアのキャリバー突撃と共にガトリングガンから一気に弾丸を撒き散らす。その後に続いたフュルヒテゴットが、くらいやがれ、と静かに言って、それとは裏腹に乱暴にアッパーカットを叩き付け、雷を身にまとう。
    「げぇっ、後ろから来やがった! しかも獣どもじゃねぇのかよ!」
     浮足立った強化一般人達――明らかに不良じみた者達や、やつれた者がほとんど――の中で、古式ゆかしきリーゼントに髪をまとめ、頬に傷を持つ青年が「構わねぇ、やっちまうぞてめぇら!」と叫び、チェーンソーを両手で引っ掴み果敢に灼滅者達の中に突っ込んだ。後衛にまで届くかと思うほどの突撃を、陽鶯が必死に食い止める。まだ動けぬ強化一般人達に、セイがバトルオーラを砲撃と化して解き放ち、それにナツが霊障波を重ね、刹那が殺気を一気に漆黒に変えて己の妨害の力を高める。――軍勢の頭を倒せば生き残るか、それとももはや共に死ぬしかない者達か。いずれにせよ、やらなければならないことは同じだ。
     戦い。
     ヴァンパイアの力をこめた霧が、一気に後衛の仲間達を包み込んだ。祈るように真白が、手の中のガトリングガンを握りオーラを輝かせる。千波耶がブレイクを狙いオーラキャノンを飛ばし、里美が神薙の刃を飛ばす。
    「漁夫の利を狙うのはあまり好きじゃないけれど、仕方ないわね」
     正面からなら勝てないから。だとしても、灼滅者達に介入しないという選択肢はない。
    「飛んでくる火の粉を払わないほどお人好しじゃない」
     介入しない事で喜ぶのは、ダークネスだけなのだから。
    「てめぇら、こういう時のためのもらっといた力だろ!」
     チェーンソーの男が、それを振り回しながら叫ぶ。それによって不意打ちされたばかりの驚愕から、徐々に一般人達が回復していく。
    「こ、琴谷さん、どうすりゃええんで……」
    「っせーな、好きにしろ! わからん奴はとりあえずあの氷の力あるだろ、前の方とかからまとめて凍らしちまえ!」
     ――この男、頭は悪くない。セイはそう判断した。
     ただし、さして良いとも言えまい。今回は前衛多しといえど大半はディフェンダーで、威力の低い範囲攻撃とは相性が良くない。
     けれどもし、この男が後衛を狙うだけの判断力があれば――セイはリングスラッシャーを回せて押し寄せる冷気に耐えながら、けれど一般人達の様子を見てそっと息を吐く。
     もしこの男にそれだけの判断力があれば、こんな場所にはいなかっただろう。この場所を任されているのは、単なる力にものを言わせるタイプか、特に頭脳や美貌といった能力を持たぬ者ばかりだ。
     その中でいくら輝いたとしても――セイが唇を引き締めリングスラッシャーを放出すれば、背後からナツの霊障波が重なるのがわかる。
     陽鶯が体ごと杖を回転させるようにぶち当て、衝撃波を叩き込む。膝を折りかけた一人に、フュルヒテゴットが影を伸ばして大きく喰らいつく。
     凍らされた傷跡から、轟と炎が燃えた。ひ、と息を呑む音があちこちで聞こえ、「あの獣の化け物と同じだ!」と誰かが叫ぶ。
    「てめぇもあの獣の仲間かよ!」
    「んー、そうとも言えるし、そやないとも言えるなぁ……」
     そっとフュルヒテゴットは男――琴谷の言葉に首を傾げてから、クスと笑って。
    「でも、好きやねん……綺麗な炎やろ……やけどもお前等は燃えへんねんなぁ……」
     ぬらりとエネルギーの盾を、覆うように焔が伝った。ついと腕を横に薙げば、焔がさっと走り抜ける。
     うっとりと、「うち、柄にもなく熱くなる……かも」と呟いたフュルヒテゴットに、琴谷が「気楽に言いやがって」と舌打ちをする。
     けれど彼がチェーンソーを振りかぶった所に、飛び込んだのはキャリバーに跨った一つの影。
    「ははっ、燃えなくたって血は流れるんだぜ!?」
     キャリバーが僅かな段差を利用して跳び上がり、無敵斬艦刀を引っ掴んだツェツィーリアが、落ちてくる。真っ向から叩き斬られ、血が躍るように跳ねた。
     顔面を真っ赤に染めた琴谷が、再び舌打ちしチェーンソーを思いっきりツェツァーリアに向ける。振るう。けれど彼女の笑みは止む事を知らない。
    「結界で動きを止めます! 邪魔しないで!」
     刹那が縛霊手に内蔵された祭壇を、一気に展開する。桜色のオーラが祈りと共に輝き、敵の動きを縛り上げる。ジャマーの力と殺気の力が重なり、何重にも何重にも。
     小さな体で大きな銃を支え、真白が一気に引き金を引く。きっと前を見据え、けれど背後に感じた気配は己が仲間達に伝えると決意して。
     ――幸いにして、強大なる気配はない。ソロモンの悪魔のものも、イフリートのものも。
     千波耶がすらりとギターに指を這わせ、復活のビートを刻む。氷漬けになりかけた仲間達の傷を、氷を、振り払う明るい歌を響かせる。
    (「怪我しても良いから、とにかく全員で帰るのが目標よ。でないとメディック的に負けだわ」)
     それが彼女の信条。信念。――誰一人、死なせない。闇堕ちだってさせない!
    「癒しの風よ、仲間に力を!」
     そしてその歌を、里美の風が仲間達に届ける。一気に立て直された陣営に動揺する敵に、里美は「縁の下の力持ちを侮らない事ね」と言いながら符を抜く。
     使われた者の心を惑わす、導眠の符を。
    「だったら……」
     ウィン、とチェーンソーの唸りが増した。それを振りかぶった琴谷が、一気に振り下ろす――目標は、セイ!
     ナツがはっと、叫ぶように手を伸ばす。霊障波が解き放たれる。けれど、男の動きを止めるには至らない――けれど。
     陽鶯の小さな体が、鶯色の輝石を抱く金の杖が、黒い蔦の如き影業に咲く金色の花のオーラが、全身で、全ての武器で、全力でその一撃を受け止める。かは、と息が零れた。
     金色のオーラが、必死に主の体を癒していく。「ち、ガキを叩き斬るのは楽しかねぇぜ」と眉を顰め、琴谷がチェーンソーを引く。
     ナツが、ほっとしたように腕を下ろした。セイがそれに頷きかけ、陽鶯にありがたいと一言だけ言ってオーラの砲撃を解き放つ。それは琴谷を迂回し、一般人の一人を打ち倒す。隣の人間が絶命する様子にひぃ、と息を呑んだ男が、一気にマジックミサイルを乱射する。
     真っ向から胸に突き刺さるミサイルが消えた痕から、焔が舞った。フュルヒテゴットが、ふ、と息を吐いて拳に炎を纏わせる。
    「痛いやんなぁ……」
     華奢な体が、予想もできぬ程素早く、そして予想もできぬ程乱暴に男を殴りつける。そこから舞い上がるは、やはり炎。
    「お返しや」
     端正な顔貌は、けれどふっと残酷に歪む。
    「――ええい!」
     死の恐怖を振り切るように目を閉じた琴谷が、一気にチェーンソーを振りかぶる。けれどその気概を轢き潰すように、ツェツィーリアが焔を纏った弾丸を浴びせかける。
    「お前の相手はこっちだぜ、子猫ちゃん?」
    「誰がっ……猫だ!」
     がははと笑い声。それに呼応するかのように怒号。ひどくぶつかり合っているのに、それはまるで和音のように。
     さらに細いのに響く声が、和音に高らかな響きを添える。誘惑のメロディが真白の唇から溢れ――それを真正面から浴びた女は、幸せそうに息絶えた。
     奪った命に、目を閉じる。けれど歌えば心は大きくなる。仲間達を鼓舞できる。だから響け、届け、と、真白が歌をやめることはない。
     千波耶が天使の歌声をその和音に重ねれば、神薙の刃を里美が飛ばして敵を一人穿つ。千波耶と里美が合わせた視線は、動く前に一瞬、そして動いた後に一瞬。
     それで、通じる。共にメディックを務め、共に戦えば、どちらが叩きどちらが癒すか瞬時に判断し意志を疎通できる。
     そしてそれが、琴谷を除けば最後の一人。
    「ははっ……一緒に、ここに来たのに、誰もいなくなっちまったぜ……」
    「よう雑魚め。逃げるかい?」
     自嘲するように笑った琴谷は、けれどツェツィーリアの言葉に首を振り、チェーンソーを構え灼滅者達と向かい合う。
     ただの強化一般人たる彼が、一人で灼滅者達に相対できるわけがない。けれど、もはや逃げる気もないとその男は態度で表した。
    「……こういう戦いってなんや、わくわくするなあ」
     男の心に炎を感じとり、フュルヒテゴットが笑顔を浮かべる。
    「同情はいらんやろ……覚悟しいや!」
     傷口から、武器から、拳から、一気に炎を噴き上げて、フュルヒテゴットが迫る。叫び声と共にチェーンソーが唸りを上げ――押し切られる。
    「はははいいぜ! 就活が上手く行かなくてクダ巻いてた時よりずっと楽しいぜ!」
     なのに血塗れになって、炎に包まれて、琴谷は楽しげに笑うのだ。
     その死角に入り込み、刹那がすっと脚を引き――、
    「私の蹴りは刃物なんかより切れ味良いんですよ?」
    「へっ! 切れ味いい脚は戦場よりベッドで見てぇなぁ!」
     急所を引き裂くような蹴りにも、男は笑いをやめない。真白の構えたガトリングの連撃を一身に受けながら、「ちびっ子が無茶しやがって」と男はそれでもチェーンソーで全てを受けようと試みる。
     千波耶の石化の呪いを受け止めて、身体を石に変えながら。里美の導眠の符を受けて、心を惑わせながら。
    「はっ、こんなガキどもと本気で殺り合っちまって……」
     男は、満身創痍で笑う。
    「楽しい、なぁ……」
     楽しいついでに、勝って帰って、粗末なボロ部屋でみんなで一緒に祝えれば、よかったなぁ――そんな呟きは、もはや虚空に溶けるほどの力しかなく。
    「キミは――」
     陽鶯が、小さく口を開く。思わず伸ばした手は、届かない。
    「でも俺の人生、力もらってから、意外に、楽しかった、ぜ」
     ニィと笑った瞳は、けれどもう何も映していない。
     ――この戦いは、灼滅者達の勝利に終わった。
     鶴見岳の全ての戦いも、勝利に終わりつつあった。

     逃げ出す者やイフリートとの戦いに向かう者を掃討し、息を吐けば夕方から始まった戦いは既に終息を迎え、すっかり辺りは暗い。
     フュルヒテゴットの傷口から上がる炎が、灼滅者達の顔を照らす。
    「墓標を、作りましょう」
     最初の戦場に帰って来たセイが、ふと口を開いた。仲間達が頷き、簡単に穴を掘って死体となった者達を静かに葬る。
     ――土をかければ、そこに彼らが確かにあり、戦ったという証はただ、灼滅者達の心にしか残らず。
    「彼らを大事にしていた人は、どうしているでしょうね」
     そっとセイが呟く。――彼らの死が伝播することはない。バベルの鎖が封じるから。
    「だけど」
     ツェツィーリアが、ニィと笑ってガトリングガンを頭上に構える。
    「楽しかったんだろ?」
     フィナーレ、と称して花火のように。
     轟砲が、空に鳴り響いて――消えた。

    作者:旅望かなた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月5日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 16/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ