鶴見岳の激突~決断の三叉路

    作者:小茄

    「別府温泉から出現し、日本各地で事件を起こしたイフリート達は、灼滅者達の活躍によって無事撃退できましたわ。まずは、祝着ですわね」
     笑顔で祝辞を述べる有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)。
     しかし全て順調とは言えない様だ。
     鶴見岳周辺と原因解明の調査を進めていたのだが、思わぬ横やりが入ったと言う。
    「現在、鶴見岳周辺にはソロモンの悪魔一派が率いる軍勢が集結し、弱体化したイフリート達を攻め滅ぼそうとしている様ですわ」
     ソロモンの悪魔の目的は、イフリート達が集めた力を横取りする事にある。これを許せば、悪魔達の邪悪な目的の為に使用されてしまうだろう。
     また、軍勢の中には今までとは比較にならないくらい強化された一般人の姿もあると言う。
    「ダークネスに匹敵するほどの力を持った彼らは、ソロモンの悪魔から『デモノイド』と呼ばれており、軍勢の主力を担っている様ですわね」
     もし学園がこの戦いに介入しなかった場合、ソロモンの悪魔は勝利し、鶴見岳の力を得て更に強大化するだろう。
     敗北したイフリート達は包囲網を抜け、鶴見岳から姿を消す事になりそうだ。
     悪魔の軍勢もまた、鶴見岳の力が目的である為、逃げるイフリートを追撃する意思は薄いと思われる。
    「と言う事は、負けたイフリートもほぼ勢力を保ったまま逃走する……まぁ、私たちからすれば最悪の結果と言って良いでしょうね」
     現在の武蔵坂学園に、これらの相手に二正面作戦を取る程の力はない。
     どうにか両者の争いを利用しつつ、最善の結果を引き出せるよう介入すると言うのが今回の作戦だ。
     
    「差し当って考えられる選択肢は、こんな所でしょうね」
     1つ目は、鶴見岳に押し寄せる悪魔の軍勢を、背後から攻撃すると言うもの。
     鶴見岳を守るイフリート達と共に、悪魔の軍勢を挟撃する形になって有利だが、イフリートもまた灼滅者を激しく憎悪しており、戦場で出会えば三つ巴の戦いになるだろう。
     しかしソロモンの悪魔の軍勢が敗退した場合、疲弊したイフリート達は灼滅者との連戦を避けて山を去ると予想される。そうなれば、我々の勝利だ。
    「2つめの選択肢は……」
     鶴見岳の麓にある「ソロモンの悪魔の司令部」を急襲すると言うもの。
     司令部にはソロモンの悪魔が多数存在し、戦力はかなり高いと予想される。普段は表に出てこない悪魔との直接戦闘が望めるかもしれない。
     ただ、鶴見岳の作戦が成功すれば、これらの悪魔達も戦わずに撤退する為、無理に倒す必要もないといえる。
     司令部を破壊しても、鶴見岳を悪魔の軍勢に制圧された場合、力の一部は悪魔に奪われてしまう。
    「ただ、ソロモンの悪魔を討ち取れば、彼らの戦力を削ぐ事になるから……一概にどちらが良いとは判断しにくいですわね」
     そして最後の選択肢。
    「イフリートの脱出を阻止し、灼滅する事ですわ」
     鶴見岳から敗走したイフリート達は、恐らく各地で事件を引き起こすだろう。
     その事件を未然に防ぐ為にも、敗走するイフリートをここで叩く事が出来れば、非常に有意義だろう。
     無論、戦いで疲弊しており、戦いはこちらの有利に運ぶことも疑いない。
     
    「どの様な行動を取るかは、皆にお任せしますわ。ダークネス同士の大規模戦闘に介入する訳だから、危険には違いありませんわ。くれぐれも気をつけてね」
     説明を終えた絵梨佳は、最後にそう付け加えた。


    参加者
    小鳥遊・結実(らけしす・d00647)
    山城・竹緒(ゆるふわ高校生・d00763)
    九湖・奏(たぬたん戦士・d00804)
    古樋山・弥彦(高校生殺人鬼・d01322)
    篠原・小鳩(ピジョンブラッド・d01768)
    竜胆・山吹(緋牡丹・d08810)
    崎守・紫臣(激甘党・d09334)
    君津・シズク(積木崩し・d11222)

    ■リプレイ

    ●隠密進軍
     日本各地に出現したイフリートらを撃退した灼滅者だったが、イフリートの弱体化に付け入る別の集団が現れた。
     彼らは鶴見岳に残るイフリートを倒し、その力を横取りせんと目論んでいると言う。
    「ソロモンの悪魔が力を奪って何をするつもりかわからねぇけど、ろくでもねぇことには違いねぇだろ。ぶっ潰さなきゃいけねぇな」
     古樋山・弥彦(高校生殺人鬼・d01322)は握り拳で掌をパシンと打ちつつ、小さく呟く。
    「あぁ、鶴見岳の力は絶対にどちらにも渡さねぇ。よっし、いっちょやるか、なぁ皆!」
     崎守・紫臣(激甘党・d09334)の鼓舞に頷いた一同は、イフリートとソロモンの悪魔が、今まさに雌雄を決さんとする鶴見岳へと足を踏み入れる。
    (「ダークネス同士がどう潰しあっても興味ないわ。だけど忌々しい連中の鼻を明かして戦力を削げるならこの上ない上策ね」)
     竜胆・山吹(緋牡丹・d08810)は山頂方向を見上げながら、きりっと唇を結ぶ。
     この戦いを静観すれば、ソロモンの悪魔は勝利し強大な力を得てしまうだろう。灼滅者達は、この2大勢力の戦いに上手く介入し、今後の戦いを有利にしなければならない。無関心では居られないのだ。
     灼滅者は8人程度の小集団を数十隊組織し、それぞれに最善と思しき介入方法を採ると言うのが今回の作戦の大まかなところだ。
    「それでは山城さん、そろそろお願いします」
    「うん、それにしても……いつの間にこんなに沢山のダークネスがやって来てたのかな」
     今回回復の要、メディックを担当する小鳥遊・結実(らけしす・d00647)の言葉に応えて、サウンドシャッターを展開するのは山城・竹緒(ゆるふわ高校生・d00763)。
     彼女達8名が採る作戦は、イフリート達が敗走してしまう前に、ソロモンの悪魔の軍勢を後方から攻撃すると言うもの。上手く行けば、イフリートと共に悪魔の軍勢を挟撃する形になるだろう。
     その為にも、隠密行動が何よりも重要となる。
    「(……アイツもこの戦場の何処かにいるんだよな。気をつけろよ)」
     この作戦に参加している妹の無事を祈る九湖・奏(たぬたん戦士・d00804)も、迷彩柄の上下を身に纏い、姿勢を低くしながら山道を歩む。
    「ダークネス同士の大規模戦闘……ですか。ん、緊張します、ね……」
     篠原・小鳩(ピジョンブラッド・d01768)も、先ほどから周囲をきょろきょろと見回し、不測の事態に備える。
     しかし、こうした状況では何が起きても不思議は無い。慎重になりすぎて困る事はないだろう。
     ――ウォォォォーッ……!
     それからほどなくして、山頂方向から響く怒号。どうやら、イフリートとソロモンの悪魔の軍勢が本格的な戦闘を開始したらしい。
    「始まったみたいね、急ぎましょ」
    「できるだけ敵同士で消耗してくれるといいのですがー……」
     他の部隊も、移動を早め始めた様だ。君津・シズク(積木崩し・d11222)は隠された森の小路を通って、仲間を先導する。
     鶴見岳における三つ巴の戦いが、間もなく始まろうとしていた。

    ●鎧袖一触
    「シッ、軍勢を見つけたよ……このまま身を潜めてチャンスを伺おうね」
     山城・竹緒(ゆるふわ高校生・d00763)は、小声で後続の仲間達へ伝える。
     戦の咆吼が響き初めてから数分、灼滅者達は悪魔の軍勢の最後尾と思しき集団の背後を取っていた。
    「それにしても、随分無警戒ね」
     木陰から様子を窺う山吹は、小首を傾げる。
     最後尾に位置する強化一般人達は、これといった警戒態勢を敷くことも無く、手持ちぶさたにそこに居るばかり。よく見れば、浮浪者やチンピラ、どこかで強制労働を強いられていたのではないかと思えるボロボロの労働者等々、余り見栄えが良くない。
    「皆さん、そろそろみたいです」
     他の灼滅者部隊が、逐次奇襲を開始した様だ。結実の言葉を聞いて一同も、臨戦態勢を取る。
    「行くぞ、響!」
     奏の声に、霊犬の響も一つ吠えて応える。
    「ここで頑張らなきゃですよね! いきますよー」
     シールドリングに守られながら、意を決して間合いへ飛び込む小鳩。
     ――ゴォッ!
     螺旋状に風を切り、繰り出される妖の槍。
    「ガッ――!?」
     軍勢の兵士は、無警戒の背中を貫かれて全身を硬直させる。
    「な、なんだ!」
    「今更気づくとか遅いんじゃねぇの?」
     弥彦の足下から伸びた影は、身構える兵士の身体に絡みついてその動きを封じる。
    「私は機嫌が悪いのよ。だからあなた達、滅びてね」
     ――バシィッ!!
     山吹の拳に、闘気が宿り――次の瞬間、青白く輝く雷を纏わせた拳が、敵兵の顔面を強かに打ち据える。
    「な、なんで敵がこんな所に……!」
    「前回は不参加だったからよ、その分も暴れさせてもらうぜ!」
     螺旋の唸りを加え、妖の槍を繰り出す紫臣。
     背後を全く警戒していなかった悪魔の軍勢は各所で大混乱を来たし、満足に反撃も出来ていない様だ。
    「後から現れて横取りしようだなんて、貴方達ちょっとせこいのよ!」
     紫電を帯びたシズクの拳が、うろたえるばかりの敵を殴り飛ばす。
    「ど、どうすりゃいいんだ……おい!」「命令はないのか!」
    「大混乱ですね。きっと、本陣に向かった皆さんも成功されたのかも」
    「えぇ、恐らくこいつらはソロモンの悪魔からの指示に従うだけの存在……雑兵と言った所ね」
     余裕を持って周囲を見回す結実と、敵集団の様子からその位置づけを推理する山吹。
    「く、くそっ……とにかく戦うしかねぇ!」
     とは言え、敵もただの木偶ではない。得物を手に、ようやく灼滅者達と戦う以外に道が無い事を悟った様だ。
    「……だいぶ動きが鈍ったか。攻め時だな、今なら楽に当てられる」
     影の触手を放ち、次々に敵の動きを鈍らせてゆく弥彦。
     ようやく戦う事を決断した敵だが、灼滅者達の優位は揺るがない。
    「うらぁぁっ!」
    「あまり殺伐としたことは得意じゃないんですが……」
     ――キィン!
     振り下ろされた鉄パイプを、チェーンソー剣で受け止める小鳩。
     ――ブンッ!!
     そしてそのまま水車の如く槍を回転させると、敵陣へ切り込んでゆく。
    「こ、このガキがぁ……!」「たたんじまえ!」
     勇猛果敢な小鳩に、一斉に襲い懸かる敵兵達。
     突き出されるドスやサバイバルナイフを必死に受け流すが、怒濤の攻撃が時折小鳩を掠める。
    「そうはいきませんよ。回復の真髄を極めて見せましょう♪」
     待ってましたとばかりに、天上の歌声を響かせ傷を癒やす結実。
    「崎守さん、これを!」「俺からもだ」
    「おう。篠原一人に頑張らせるわけにいかねぇな!」
     ――ゴォッ!!
     竹緒から防護符、奏からシールドリングで援護を受けた紫臣は、金剛夜叉刃を渾身の力で振り下ろす。
     超弩級の一撃は、汚れた雑兵を容易く吹き飛ばす。
    「グハァァッ!!」
     灼滅者達の集中攻撃を受け、1人、また1人と崩れ落ちる雑兵達。
    「挟み撃ちとは汚ねぇぞ、てめぇら……こんな所で、やられてたまる――かっ!?」
    「あなた達に拒否権はないわ。拒否しても滅ぼすから」
     山吹の手刀が、瀕死の雑兵の言葉を終わらせる。
    「と、とにかく持ちこたえるんだ……きっと本陣から命令が……それに増援も!」
    「ルーレットが最終的に赤と黒のどちらに止まるか、それは判らない……でも確かな事が一つだけあるわ。貴方達ソロモンの悪魔は、このルーレットの0じゃない」
     最上段に振り上げられたシズクのロケットハンマーが、唸りを上げて振り下ろされる。

    「隙が見えた……当たって!」
     竹緒の放つ魔法の矢が、手負い兵の眉間を射貫く。
    「これで……あと3人です」
     引き続き、響と共に仲間の傷を癒やす結実。
     数分間の戦闘によって、8人の灼滅者が担当する敵部隊の数は半数以下へと減らされていた。
    「よし、攻撃に転じるぞ!」
    「歯ごたえがねぇな」
     燃えさかるリングスラッシャーを放つ奏と、これに呼応し光の刃を乱舞させる弥彦。
     それらは正確に敵兵を捉え、ジワジワとその体力を奪ってゆく。
    「ふうっ……」
    「大丈夫か?」
    「はい、何とか」
     一息ついて額の汗を拭う小鳩と、それを気遣う紫臣。不意を突いたとは言え、10人もの強化兵は決して容易い相手ではない。前衛を務め続けた2人の疲労もそれなりに蓄積されつつある。
    「くそ……本陣はどうなってるんだ……前線は……!」
     しかしそれ以上に、敵の疲弊は著しい。残る3人も、満身創痍と言った状態。
     周囲の灼滅者集団もほぼ同様に戦いを進めているらしく、見回せば立っているのは殆ど灼滅者だ。
    「余所見をしている場合?」
     ――グシャッ。
     敵兵の背後に回り込んだ山吹は、そのまま相手を地面に投げ落とす。
    「うっ……」
    「次は貴方よ」
     再び振るわれるロケットハンマー。
     8人の灼滅者は、早くも自らの担当する敵集団を殲滅しようとしていた。

    ●継続戦闘
    「ざっとこんな物か……?」
     奮闘し仲間を助けた響の頭を撫でてやりながら、周囲を見回す奏。
     悪魔の雑兵達は、皆地に伏して動く者は無い。
    「みんな大丈夫? 大怪我はしてない?」
    「えぇ、皆さんのお陰で大丈夫でした」
     竹緒の問いかけに笑顔で応える小鳩。
    「デモノイドはこの辺りには居なかったみたいね。皆、余力が有るようならこのまま戦い続ける?」
    「そうですね、他の皆さん達もそうするみたいですし」
     周囲の灼滅者集団も、多くは余力を残している様だ。シズクの言葉に、他の7人も頷く。
    「よっしゃ、引き続き蹴散らして行くか」
     金剛夜叉刃を肩に背負う紫臣。
    「皆さん、前方から……」
     結実の指さす――恐らく、イフリートとの戦闘が行われているであろう方向から、手負いの兵士達がやってくるのが見える。
    「敗走してくるのか、はぐれたのか……どちらにしても敵には違いないわね」
     山吹の拳に、再び闘気が宿る。
     減らせるときに敵の戦力を減らしておく事は、今後を鑑みても決して損にはならないはずだ。

     当初の目的を果たし、尚もソロモンの悪魔の戦力を漸減すべく戦いを続ける8人の灼滅者達。彼らの進む後には、数知れない敵兵の残骸が築かれる。
     そして鶴見岳における三つ巴の戦いの帰趨もまた、間もなく明らかになろうとしていた……。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月5日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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