矍鑠たるかな、お爺様

    作者:旅望かなた

     道場・武士(みちば・もののふ)。
     それが、この街の名物爺様の名前である。
     朝4時に起きた武士爺様は、向こう三軒両隣の前まで道路を掃き清め、6時から始まる道場にて師範として剣道と居合道を教える。練習は本気で全国を目指す少年少女から健康体操代わりのおばあちゃままで、怒りはしないが厳しくて、けれど師範代の大学生の孫息子がフォローが絶妙で雰囲気は結構いいらしい。
     昼過ぎにはちょっとうっかりものでのんびりやな婆様と、散歩を兼ねて商店街でお買い物。料理担当は同居の嫁さんだが、時には爺様も自ら愛用の刺身包丁を振るう。
     嫁さんや爺様の息子である旦那さんとの家族仲も良好で、全員揃って7時頃に夕食を取り、嫁に行った孫娘が時々曾孫を連れて帰ってきたら、てれびげぇむとやらで対戦して小学校に入ったばかりの曾孫にめっためたにされる。悔しいらしくて最近は、道場の小学生に頭を下げて教えを乞う日々だとも言うが、一向に上達する様子がないとは彼らからの情報だ。
     ――それが、一瞬にして破壊される。
     家族を守ろうと、最後まで秘蔵の日本刀を手に立ち向かおうとした爺様も、結局は一般人。超常の存在は――爺様の鍛錬も、生活も、人生も、一瞬にして否定して。
     爺様がいくら抗おうとも、死体が動いたとしか思えぬ男達が銃の引き金を引くだけで、あっという間に大切な家族が死んでいく。
     そして一際巨体の男の張り手一つで、爺様の命すらも消し飛ばされ――爺様と家族の死体を担いで、ゾンビ達は住宅街の闇へと消えた。
     
    「でもこれはあくまで未来予知。今なら、変えれる」
     嵯峨・伊智子(高校生エクスブレイン・dn0063)が珍しく、ひどく真剣な顔で唇を噛んでから、そう告げた。
    「道場・武士っていうお爺さんがね、ノーライフキングの配下のゾンビに家族もろとも殺されて、連れ去られちゃうんだけど。どこから現れるかわかんないし、ノーライフキングの元に攻め込む事も出来ないけど、今回は家族の命、助けれっからさ。お願いしちゃうね」
     敵の戦力はゾンビ8体。ガトリングガンとガンナイフを持つ者が半々で、小細工なしに玄関から侵入する。それなりに立派な門構えがあるからそこでの待ち伏せか、もしくは家の中に入っての待ち伏せか。それが、確実。
     家族を先に避難させるのは難しいし、バベルの鎖に予知されれば避難場所が襲撃されてしまう――ならば、襲撃される場所が決まっている方が守りやすいだろう。
     けれどどちらにせよ、道場一家に事情を説明することが必要であろう。
     一般人相手とあれば、武士爺様は後れを取らぬと言える程度には強い。けれど、サイキックを使う存在相手では、一撃すらも耐えられるはずがない。
    「だから、説明して納得してもらうの、けっこーむずかしーと思うんだけどさ。サイキックとかのこと説明するにしても、隠すにしても。……あたしより、実際にサイキック使うみんなに任せた方が、絶対いい説明できるしお任せしちゃうね」
     幸いと言うべきか、武士爺様さえ説得すれば、家族は「まあ爺様の言うことだしね」と納得してくれるらしいので――説得の行方は、爺様次第。
     
     灼滅者達が道場家に着いてから、ゾンビ達が来襲するまでは2時間ほどの猶予がある。
     基本的に道場家の家族以外であれば、道路を一般人が通りかかろうと、他の犠牲が出ることはないだろうと伊智子は語る。あくまで目的は、武士爺様の死体みたいだね、と。
    「あとゾンビ達は、『周りの危険を完全排除』するまで撤退しないよ。よーするに、みんなが撤退するか、全員戦闘不能になるか……だね」
     もちろんその場合、道場一家の命は失われる。
    「逆に言うと、ゾンビ達も無理してみんなを倒す前に、道場さん一家を攻撃したりはしないってこと。もちろん、見える場所にいたりしたら別だと思うけど」
     ある程度戦いに専念できるだろうと、伊智子は告げて。
    「なんかさ、街の名物爺ちゃんでさ、もう83歳とかなんだけどすっごい健康でさ、剣道強くてさ……だからゾンビに目を付けられちゃったんだろうけど……あ、ごめんあたしこういう話ちょっと涙でそう。ん、だから、お願いします助けたげて、ね」
     そう言って、伊智子はぺこりと一礼し、灼滅者達を送り出した。


    参加者
    神楽・慧瑠(戦迅の藍晶石・d02616)
    黒咬・翼(黒い牙・d02688)
    病葉・眠兎(年中夢休・d03104)
    北町・颯太(不憫なる青き焔・d08358)
    神藤・暁(無慈悲なる白銀・d11253)
    木嶋・央(美麗刹那・d11342)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    緋金・藍璃(全力全開絶好調・d13378)

    ■リプレイ

    「面識はありませんが、きっと昔気質の良いお爺さんなのですねー」
     わくわく、病葉・眠兎(年中夢休・d03104)は目を細めて微笑む。
    「その名の通り、昔気質の立派な御仁なのだろうな」
     なら尚更、長生きして欲しいというのは余計なお世話だろうか。
     黒咬・翼(黒い牙・d02688)はそう馳せた思いから抜けるように首を振り、「兎に角。俺には俺のやらなければならないことをやるだけだ」と唇を引き締める。
    「巻き込んでしまうのは本意ではございませんが、既にその運命にあるのは残念でございます」
     出来ることなら。
     超常などには巻き込まれず、生涯を幸せに過ごす。それが、神楽・慧瑠(戦迅の藍晶石・d02616)の願いであったけれど。もはやそれは、叶わぬこと。
    「出来ることなら」
     だから、その中で、出来ることを慧瑠は探して。
    「そのお人柄のままずっとお元気でいてほしいところ」
     そんな仲間達の姿を、木嶋・央(美麗刹那・d11342)はただ静かに見つめていた。
    (「家族、か。俺とは無縁の日常だな」)
     小さく唇を動かしただけの呟きは、風に吹かれ消えていく。けれど隣の北町・颯太(不憫なる青き焔・d08358)には、僅かにその言葉が聞こえて。
    「初依頼やな」
     深呼吸とともに颯太は、ぎゅ、と拳を握りしめた。
     シャドウの悪夢によって発狂させられた両親の死。その日劇は、繰り返す訳にはいかない。
    「気ぃ引き締めていかんと。……ダークネスに家族皆殺しなんて、させへんで」
     その言葉に、白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)は深く頷いた。己の為に闇と戦い相討ちになった母を、思い。
     小さく音を立てて、慧瑠が扇子を畳み、正面へと目を据える。
    「せめて、全力でお守り致しましょう……」
     玄関の呼び鈴を、鳴らす音とともに。
    「あら、お客さん」と女性の声、続けて「おい香子さん儂が出るぞ」と老いながら張りのある声がして、がらりと正面の扉が開いた。
    「お晩で御座います」
     即座に慧瑠が優雅なる一礼。それにこんばんは、と続いた灼滅者達に、おおこれはこんばんは、と現れたる老人は挨拶を返して。
    「すみません……。道場・武士さんはご在宅でしょうか?」
    「む、儂だが……うむ、武生のお友達ではなく、儂に御用なのか?」
     あ、やっぱり、と眠兎は頷く。予想通りの、お人であった。
    「まだ小さい子もいるし、よほどの用でなければお帰り、親御さんが心配するぞ」
     初対面故か口調は柔らかで、けれど余所の子とて注意するにも躊躇せぬ様子の武士に、神藤・暁(無慈悲なる白銀・d11253)は(「うっわー、うちの爺みてぇ」)と心の中で呟いて、さてどうやって説得しようかと頭を巡らせる。
     その隣で緋金・藍璃(全力全開絶好調・d13378)は、戦ってみたいなぁと目を輝かせて。
    「夜分遅くに見ず知らずの者が大勢で申し訳ない。だが、どうしても聞いていただきたい話があって足を運ばせてもらった次第」
    「……突然の訪問、失礼します。本日は道場さんにお話ししたいことがあり、こちらを訪ねさせて頂きました……」
     翼と眠兎が重ねて口を開けば、む、と唸って武士の片眉が釣り上がる。
     ――しばしの間、沈黙が続いた。その間に武士が、灼滅者達一人一人の顔をじっと見つめて。
    「……道場で、よろしいか」
     子どもに対するものから、対等なものへと態度と口調を変えて、武士は灼滅者達に尋ねる。
     その申し出は、灼滅者達にとっても本意であった。

    「武士さん、私と手合わせをして頂きたい。若輩でありますが、私は貴方相手に自分の技術が何処まで及ぶか知りたい」
     暁の申し出に、武士は何か感じる所があったのだろう。
    「どちらが試す、試される、そのような形は無しにしようではないか。純粋に、刀を合わせてみぬか」
     そう言って武士と暁は、いざ尋常にと向かい合い。
    「「お願いします」」
     腹の底からの声が重なり合い、空気が張り詰める。
    (「やっぱこの爺さん、強ぇわ」)
     灼滅者としての鍛錬を積んだ力と、人としての鍛錬を積んだ力。二つの間に純然なる強さの差はあれど、尊きに差はないのだと。
    「始め!」
     藍璃が合図の声を張り上げれば、二人がほぼ同時に動いた。
     踏み込んだのは武士が先。けれどそれを受け面すりあげ面で即座に決めようとした竹刀が、素早く返し斜めに掲げた刀によって、武士の頭上で受け止められたのだ。
     もちろんその力は灼滅者の正面からの面打ちには及ばず、掲げた竹刀ごと暁の竹刀に面を打たれたのだけれど、それでも五秒以内に決めると考えていた暁が数える所、ちょうど八秒。残心を取り、ゆっくりと暁は竹刀を下ろす。
    「――成程」
     ふ、と面の奥、武士が笑う声がした。「やはり胸など貸して恥をかかず良かったわ」とからから笑ってから、「しかし今の面の力、速度、人に出せるとは思えぬ」と呟く。そこに藍璃が、はいはいっ、と手を上げた。
    「次、俺にも戦わせてくれ!」
    「うむ。儂ももう少し、お主らと戦ってみたい」
     普段使っている日本刀と同じくらいの長さの竹刀を借り、藍璃は楽しげに床を蹴った。サイキックの力こそ乗せていないが、死角を狙うスタイルは変わらぬ。通常の剣道では見られぬ動きに「ほう!」と武士は楽しそうだが、しかし十数秒であえなく一本を食らう。
    「なるほど、お主達凄まじく強いのう! それも……稽古よりは実戦、そして身体能力が、儂の若い頃とすら段違い……お主達、戦争に行ったわけはなかろうぞ? なぜ、このような剣が使えるのだ?」
    「……俺達は、灼滅者。要するに、一種の超能力者だ」
     ふむ、と武士は、あっさりと央の言葉に頷いた。手合わせにより、完全なる力の違いを理解していたが故か。世界の力と闇、そして灼滅者の説明を、武士は一言も聞き漏らすまいと熱心に聞き入る。
    「爺さん、俺を『本気で』切りつけてくれないか?」
    「む。……どういうことだね?」
    「灼滅者は、通常の攻撃では傷はつくけれど、絶対に致命的にはならない。それを、証明したい」
    「ふむ……本当に、素人ではあるまいな?」
     央とは手合せしていないが故に、武士も慎重だ。万一殺してしまう訳には、社会的にも剣道の道に従ってもいかぬのだかr。
     大丈夫、と央は頷く。武士が「すまぬがこれで許してくれ」と木刀を握って立つ。
     交錯。
     常人であれば頭を割る気で打たれた一撃は、実際には痛みを伴わぬこぶ一つで済んでしまう。
    「……もし、私たちを真剣で切りつけたとしても、かすり傷にしかなりません」
     見た目上は、傷を負ったように見えますが、と眠兎はどことなく自嘲的に告げる。
    「これが俺達と一般人の違いだ」
     そう、央が言えば、成程、と武士は表情なく頷いて。
    「そして、私たちと同様の力を持つバケモノが、こちらに向かっています」
     バケモノ、と言った時、眠兎はどこか自虐的であった。
     己と闇、何が違うのか、と。
    「ヤバイのが爺さんと家族を狙ってるんだ。だから、家の中に隠れててほしい」
    「もう少ししたら、ここの家族狙いで超常のテロリストが来ます。狙撃される可能性があり、外に出たら的にされる」
     もし超常の存在と伝えねば、武士は戦いに赴こうとするかもしれぬ。
     だから、藍璃と暁はそれをさりげなく付け加え、「だから武士さんは家族を守る為に道場で、家族全員で待機してほしい」と告げる。
     黙ったまま唇を引き絞る武士に、さらに翼は言葉を重ねて。
    「……申し訳ない。荒唐無稽な話で信じてもらえないと思うが、今宵危険な存在がここに現れるのは本当なんだ」
    「……詳しく、説明してはくれんかの。お主達が特別な力を持つはわかるが、儂がなぜてろりすととやらに狙われる?」
     ゆっくりと、慧瑠が正座の膝を進めた。お話しさせていただけますか、と武士の目を見つめ。
     頷いた彼に、語るのは世界の真実。灼滅者達が知る世界も広くはないけれど、日常の裏は常に戦いである、こと。
    「で、爺さんと家族を狙ってるのはヤバイのなんだ。だから、家の中に隠れててほしい」
     藍璃の言葉に、武士はそっと瞳を伏せた。83歳にして世界が己の考えていたものと、全く違う事実に。
    「心から、お守りしたいと願っているのです――どうかその強いお心で、真実を受け止めて下さいますよう」
     三つ指をつき、慧瑠が一礼する。
    「オレ達はただ、あなたとご家族を守りたいだけなんだ。冗談でも、遊びでもない、決死の気持ちで来ている」
     そのジュンの言葉の重み、それを孫より少し年上程度の者達が日常のように語る重み。成程、と言った武士は、咀嚼するようにゆっくりと頷く。
    「だから間違えないで欲しい、あんたが力を奮う場所を。信じて欲しい、俺達はあんた達の日常を守れる存在なんだと」
     そう、央が言えば、強い口調で颯太が口を開く。
    「アンタが超常の存在に挑んだかて、勝てる見込みはない……それだけやない……アンタは家族に目の前で誰かを失う辛さを見せ付けたいんか!?」
     両親の死の場面が、蘇る。トラウマも、無力感も、消えることはない。――だから、この愛すべき爺様の家族に、そして爺様本人にも、そんな思いをさせたくない。
    「俺たちには危険な存在と戦う力がある。だが武士さん。貴方では駄目なんだ」
    「……お爺さまにもしもの事があったら、ご家族も悲しまれますから……私たちに、お任せ下さい……ね?」
     翼が懸命に武士の瞳を覗き込み、眠兎がそっと微笑みを浮かべる。
     ふ、と笑って、武士は軽やかな動作で立ち上がった。
    「この老いぼれではなく若者を戦いに送るとは、な。けれどこの年になって、己の力だけでは及ばぬ世界があり、そこで強大な闇と戦うのが若者達と知るとは。日本の将来はなかなかに安定と見えるわ!」
     豪快な笑いの後、一家の主の顔になった爺様は、丁寧に膝をつき頭を下げる。
    「儂の家族を、どうぞよろしく頼む」と。

     それから一時間ほどの、後。
     既に一家は道場への避難を終えた、己も外に出るつもりはないと武士から連絡が入る。ちなみに手段は簡単携帯だ。
     そして隊列のような足音、現れたゾンビ達の道を、素早く待ち伏せた灼滅者達が塞ぐ。
    「この眷属達を通じて、こちらを見れるものならば聞きなさい! 屍王!」
     ばし、と両手を広げて立ったジュンが、高らかに宣言する。
    「たとえ世界が絶望の闇に堕ちようとも、人の心のその中に、希望の光は灯される。希望の戦士ピュア・ホワイト! 皆の心を照らします!」
     裁きの光が煌めく。それは、彼の母の決意であり、今は彼自身の決意となりつつある。
    「ここは通しません。全力で排除いたします」
     事務的に告げた慧瑠の言葉にも、動じる様子はなく。
     咄嗟に暁がライドキャリバーのラオに前進を命じ、解体ナイフに冷気を集め、横に薙ぐ。それによって生み出された霧が、灼滅者達を包みサイキックを増幅する。さらには、藍璃がゾンビの群れの中央に飛び込み、ゆっくりとどす黒い殺気とともに日本刀を抜いて。
    「まぁ、死体でもゲームよりゃ衝動も収まるか」
     ニィ、と笑って、死角に踏み込んだ刃を一気に薙ぎ払う。
     央が胸の鍵を握り締めて、数瞬。
    「形成――」
     その言葉とともに真紅の影、そこから伸びる死神を思わせる黒い鎌。
    「この人達の刹那を、壊させはしない!」
     螺旋を描いた槍の一撃が、ゾンビの一体の脇腹を縫って。
    「お前たちがこの家の敷居をまたぐことはない。ここで潰えろ」
     翼が槍をぐるりと回し、そのゾンビの反対側から一気に突き刺す。
    「却説、此処より先は通しません……!」
     眠兎の制約の弾丸が、一気に跳ねてゾンビの一体の動きを僅かに阻害する。
     超高速のビートが響き、ゾンビの一体を消滅へと追い込んだ。そしてそのまま、慧瑠は槍を手に敵陣へと飛び込んでいく。
     轟、とその背後で、蒼に刃が燃えた。日本刀のような形の、けれど確かにエネルギーの刃。風というエネルギーも彼は操り、それを刃と為す。
    「影よ、斬り裂け!」
     翼の伸ばした影が舞う。さらに暁が影を舞わせ、鋭い刃と為して斬り裂く。
     ゾンビ達のガトリングガンが一気にばら撒いた弾丸を、眠兎が一身に受け止めて。
    「……私は壁役ですので」
     そう言った眠兎の胸を白銀の矢が胸を射抜く。凛と残心を取った暁がもたらすは、傷ではなく癒しの矢。
     己の痛みより、他人の傷の方が、眠兎には恐ろしい。
     しゃん、と藍璃が刀を治め、開いた右手で風の刃を作り出し。
    「接近中は銃より近接武器の方が早ぇんだよ!」
     一気に距離を詰め、藍璃が格闘を仕掛けてきたガンナイフゾンビをものともせず、死角から一気に急所を断つ。
    「この世界に、てめぇらみたいな存在はいらねーんだよ!」
     央が素早く影を刃と為し、守りを含めて全てを切り裂く。
     マジックミサイルの追撃の嵐が、乱舞する。慧瑠のジャマーという立場は、それを効率的に使う術を突き詰めている。
     弾丸が飛び交う中、ジュンはギターに指を走らせた。癒しの、復活のメロディが、鳴り響き華麗に傷を癒す。
    「ディナータイムだ! もっとも不味そうな連中だがな!」
     翼が一気に影を伸ばし、その体をがぶりと飲み込ませる。トラウマがゾンビを侵食し――ゾンビにも、恐れる思い出はあるのだろうか。
    「もう一度朽ちて滅びろ屑共がぁぁぁ!」
     央が叫び声をあげ、傷を癒し拘束を祓う。暁の抜いた刃から犠牲者の呪いが起き上がり、ゾンビ達に傷を刻む。慧瑠が、拳を握りオーラを輝かせて。
    「自分達の目的の為なら、どんな非道も厭わないのでしょね。そのような存在は、灼滅するのがわたくしどもの使命にございます……!」
     百裂、と呼ばれる連打を、解き放つ。
    「一歩たりともここの人たちには近づけさせんで! 去ねや!」
     颯太のサイキックフラッシュが、一気にゾンビ達を巻き込んで数体を崩壊に追い込む。
    「消し飛べ、塵屑風情が!」
     鋼鉄の央の拳が、真っ向からゾンビの顔面に叩きつけられ、それを砕く。
     そして藍璃の居合切りによって、最後のゾンビが斬り捨てられた。

    「超常の力というのは、なかなかどうして号の深いものなのかも知れません」
     道場のご一家が、これからも笑顔のまま過ごして行けると良いのですが、と慧瑠は願うように家へと目を向ける。
     そっと、ジュンが道場の扉をノックしてから開けて。
    「もう心配はいりません。庭先を騒がせてしまい申し訳ありません」
     家族の顔が、そして何より武士の顔が明るいことに、安堵する。ありがとう、のシャワーを、ジュンは嬉しく受け止めて。
    「これからも剣の道を通じて、沢山の人たちに健全な肉体と強い心を育んで行ってほしいと願っています」
    「うむ。儂らは人として頑張る。お主達は――人であり、灼滅者として頑張るのであろうな」
     差し出された手を、灼滅者達は順番に握り――安堵の息をつく。
     そして。
    「家族、か。羨ましいものだ……」
     睦まじき家族の様子に憧れを抱きながらも、灼滅者達は帰っていく。戦いの、日常に。

    作者:旅望かなた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 4/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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