新世界への招待

    作者:春風わかな

     そこはとても小さな村だった。
     豊かな自然、優しい村民、文明の機器はないけれども彼女にとって『当たり前』の世界。
    「お嬢、最近めっぽう寒くなったから足が痛くて敵わん。撫でてくれんか」
    「ここのところなんだか肩が痛くて……」
     ある者は足の痛みを訴え、またある者は腹が痛いと言う。
     彼女の元には毎日村人たちが『癒し』を求めてやってくる。
     そして彼女に求められることはただ村人達が痛むという患部をそっと撫でるだけ。
     毎日ずっと同じことの繰り返し。でも不満なんてこれっぽっちもなかった。
     ――これが自分の役目だと思っていたから。

     ある日、村に民俗学を学んでいるという大学生達が訪れた。
     彼らと話をして彼女は知った。村の外には自分の知らない世界があるということを。
     ――村の外ってどんなところだろう? 何があるのだろう?
     想像をするだけでワクワクする。
     いても立ってもいられなくなり、村長に外界へ出る許可を求めた。
    「婆様。私、村の外に出たい。知らない世界へ行ってみたい」
    「……ダメじゃ。お嬢がこの村から出ることは許さぬ」
    「なんで!? どうしてダメなの?」
     どんなに彼女が訴えても村長から許可を得ることはできず。あげく反省しろと言われ村外れにある蔵に閉じ込められてしまった。
    (「いいわ! 私の邪魔をするなら力ずくでもこの村を出てやる……!」)
     一人決意を固める彼女の額には黒曜石の角が覗いていた。

    「闇堕ちしかけてる人が、いる」
     教室に集まった灼滅者達を前に久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)がぽつりと呟いた。
    「もし、彼女が灼滅者の素質を持つなら闇堕ちから救い出して。でも――」
     そうでないなら、灼滅して。
     來未の話によると、彼女の名前は真神・蝶子(まがみ・ちょうこ)。山奥の小さな村で暮らす9歳の少女だ。
     村で蝶子は『癒しの子』と呼ばれ、大切な存在として扱われている。蝶子が患部に触れると痛みが消えると近隣の村々では大評判の存在だった。
     幼い頃から『癒しの子』として暮らしてきた蝶子だったが、偶然村を訪れた大学生達から話を聞き、外界に興味を持ってしまった。
     ――遊園地、映画館、プール、そして学校。
     自分が見たことも聞いたこともないもので溢れている世界に飛び込んでみたいと蝶子は強く願った。
     しかし幼く可愛い蝶子は村の大人達にとって大切な宝。彼女に外界でもしものことがあったら……と考える村長が許すことはなかった。
     もしも蝶子が完全に闇堕ちしたら村人を全員殺して村から出ていこうとするだろう。
     だから、そうなる前に彼女を止めてほしい。
    「夜になったら、彼女は蔵を壊して、抜け出す」
     そして異音に気付いて蔵の様子を見に来た見回り中の村人達を殺してしまうので、まずそれを阻止してほしいと來未は言う。
     今から急いで向かったとしてどんなに早くても村への到着は夕方になる。
     蝶子が蔵を出るのは22時頃。それよりも前に見回り中の村人達が蔵に近づかないように手を打たなければならない。
     蔵に着き、蝶子と接触したら人間の心に呼びかけてあげてほしい。
     彼女を闇堕ちから救うポイントは大きく2つ。
     『蝶子自身が村の外で何をしたいか明確なビジョンを持つこと』、そして
     『婆様から村の外へ出ても良いという許可を貰うこと』だ。
     なお、蝶子が蔵を壊して出てきた場合、気が立っており説得に応じない恐れがある。彼女が蔵から出てくる前に灼滅者達が扉を開け中へ入って話をする方が良いだろう。
     灼滅者達が蔵へ到着してから約15分前後で、村長が蝶子の様子を見るために蔵へやってくる。その時に蝶子が改めて村の外へ出るための許可を願うので、皆も一緒に村長を説得してもらいたい。
     以上の2つのポイントをクリアすると蝶子の中にいるダークネスが表面化し戦闘になる。戦闘時、蝶子は神薙使いと同じサイキックを使用する。配下はいないが、その分強いので油断は禁物だ。
     また、戦闘開始時は村長も一緒にいる。村長が戦闘に巻き込まれないように上手く立ち回ってほしい。
    「――私が見たのは、これで全部」
     語り終えた來未は表情を変えることなく無言で灼滅者達を見送った。


    参加者
    九鬼・宿名(両面宿儺・d01406)
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    志賀神・磯良(竜殿・d05091)
    櫓木・悠太郎(半壊パズル・d05893)
    古町・お銀(アマニタメソッド・d09470)
    霧渡・ラルフ(奇劇の殺陣厄者・d09884)
    村本・寛子(可憐なる桜の舞姫・d12998)
    結城・麻琴(陽烏の娘・d13716)

    ■リプレイ


    「時代劇の様な趣きがある村だな……」
     古町・お銀(アマニタメソッド・d09470)はぐるりと村内を見回した。見慣れた都会とは異なる景色を懐中電灯の灯りが映し出す。侍に憧れる身にはなかなか心惹かれる風景。高揚する気持ちを抑え彼女は懐中電灯を足元に向ける。
    「よい……しょ、と。これで良し」
     灯りを頼りに櫓木・悠太郎(半壊パズル・d05893)が眠りこんだ見回り役の村人を木の陰に運び込んでいた。蔵の鍵を持っていないかと探したがそれらしきものは見つからない。悠太郎は立ち上がり傍らのお銀に声をかけた。
    「さて、皆さんのところに向かいますか」
     二人は仲間の元へと向かって走り出した。

     同刻。
     九鬼・宿名(両面宿儺・d01406)の『魂鎮めの風』に逆らうことはできずもう一人の見回り中の村人も糸が切れた人形のようにどさりと崩れ落ちた。
     すかさず志賀神・磯良(竜殿・d05091)が霊犬の阿曇と協力して村人を建物の陰へと運び込む。
    「ごめんなぁ。ちょっと眠っててな」
     宿名は申し訳なさそうに手を合わせ運ばれていく村人を見送っているとカラン、と何かが落ちた音がする。慌てて駆け寄り拾い上げるとそれは木札の付いた鍵。宿名は無意識のうちに鍵をぎゅっと握りしめた。
     村人を他人から見えにくい位置に寝かせると磯良は上着を脱いでそっとかけてやる。怪訝そうに主を見上げる阿曇に扇を口元で隠してふふ、と微笑んだ。
    「風邪をひいてはいけないからね」
     目的を果たした二人は仲間が待つ蔵へ急ぐ。

    「あ、来た! こっちよ!」
     懐中電灯の灯りに気付いた結城・麻琴(陽烏の娘・d13716)が建物の陰からひょこっと顔を出す。そして、ひらひらと手を振り駆け寄る宿名と磯良に合図を送る。
     灼滅者全員が蔵の前に揃ったことを確認し、宿名が蔵の鍵を扉のカギ穴にそっと差し込みくるりと回す。
     ――カチリ。
     静かな音を立て鍵が外れた。
    「それじゃ開けるね」
     仲間達を見回し、村本・寛子(可憐なる桜の舞姫・d12998)が扉に体重をかける。
     ギィィィ。
     重く大きな扉がゆっくりと音を立てて動き始めた。

     扉を開けると一人の少女が床に座り込んでいた。
     きょとんとした顔で灼滅者達を見上げている。彼女が真神蝶子だろう。
     四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)はゆっくりと蝶子に近づくと自分の上着を蝶子の肩にかけ、襟巻を巻いてやる。
    「その恰好じゃ寒いよね。土蔵は冷えるからね」
    「誰……?」
     事態を把握できず混乱気味の蝶子にいろはは持参したココアをカップに淹れ差し出した。
    「甘くて温かいチョコレートココアをどうぞだよ」
     礼を言って蝶子はココアを受け取り一口飲むとぱっと顔を輝かせる。
    「美味しい! おしるこみたいに甘いね」
    「そう? 気に入ってくれて良かった。おかわりもあるよ」
     空になったカップに気付き、いろはが早速おかわりを注ぐ。
     ココアを飲む蝶子に霧渡・ラルフ(奇劇の殺陣厄者・d09884)も近づいた。
     人好きのする笑顔を浮かべた彼はシルクハットを取り優雅にお辞儀をするとよく見ていてくださいネと声をかけ。
    「タネも仕掛けもございません!」
     ポン! とラルフの手に花が現れた。
    「すっごーい……!」
    「お近づきの印にドウゾ!」
     ラルフが恭しく差し出した花を受け取り蝶子は満面の笑みを浮かべた。初めて目の前で見る手品に蝶子は興味津々。もう一度! とせがみ、ちゃっかり二つ目の花も貰う。
     彼女が突然の来訪者を受け入れていることに磯良は気が付いていた。頃合いを見はかり蝶子に優しく声をかける。
    「はじめまして。私達はキミと同じ力を持つ者。キミを外の世界に連れ出しに来たんだ」


    「私、村の外へ行けるの? 外の世界にはこの村にないものがいっぱいあるんでしょ?」
     きらきらと目を輝かせる蝶子に例えば……と口を開いたのは悠太郎。
    「動物園に行けば珍しい動物に会えますよ。アルパカとか」
    「アルカパ?」
     違いますよ、と訂正しつつ悠太郎はポケットからスマートフォンを取り出し手早く画像を表示する。
    「これがアルパカです」
    「撫でたら気持ちよさそう!」
     蝶子は悠太郎が見せる珍しい動物の画像を食い入るように見つめていたが、ふと首を傾げてスマホを指差した。
    「ねぇ、その機械は何?」
    「これはね『スマートフォン』っていうんだよ!」
    「スマート、フォン?」
    「電話したりメールしたりできるの!」
    「こんなので電話できるの!?」
     蝶子のために寛子が用意したスマホを受け取りしげしげと見つめる蝶子。寛子が使い方を説明すると恐る恐るタッチパネルに手を伸ばす。
    「そうそう、そうやって画面をスライドさせてね……」
     手取り足取り寛子が教えてやり一緒に操作をすることでなんとなく使い方がわかってきたらしい。嬉々としてゲームで遊んでいる。
     そろそろ本題に入ろうと灼滅者達はこっそり視線を交わす。最初に麻琴が切り出した。
    「ね、あなたが聞いた通り、外の世界には色んな楽しいことがたくさんあるわ」
     でもね、と麻琴は言葉を選ぶ。
    「怖いこともたくさんある。蝶子ちゃんみたいな可愛い子が一人で外に出たら、悪い人に襲われちゃうわよ?」
     ゲームの手を止め蝶子が不安そうな表情で麻琴を見つめる。
     彼女の心情を察した麻琴が蝶子の髪を優しく撫でてにこりと微笑んだ。
    「だからあたしたちと一緒に来ない? 武蔵坂学園へ」
    「武蔵坂……学園って、何?」
    「蝶子ちゃんの特別な力をもっとうまく使えるようになる学校だよ!」
    「学校……?」
    「学校ではね、同じぐらいの歳頃のみんなと集まってお勉強したり遊んだり……いろいろするの!」
     授業のこと、学園行事のこと、寮のこと。
     寛子を始め、皆が一生懸命に説明をする。
    「僕らも蝶子ちゃんみたいな不思議な力を持ってて、その力を正しく使うために皆一緒に武蔵坂学園でいろんなことを学んでいるんよ」
     宿名が柔和な笑みを浮かべ言葉を紡ぐ。
    「僕ら、蝶子ちゃんの力のことを聞いて友達になりにきたんよ。いろんなこと見たり聞いたりするのも一人よりみんなでの方がきっとええよ」
    「……友達?」
     馴染みのない単語に蝶子はまたも首を傾げた。
     友達とは何か。いろはは手短に説明しつつ気になっていたことを問う。
    「……家族は居ても、友達はいないんじゃないかな?」
     いろはの問いに迷いつつもこくりと蝶子は頷いた。
     じゃぁ、友達をたくさん作ろう、といろはは事も無げに言った。
    「友達が沢山居れば今までに話した楽しい事は倍以上に……辛い事も半分以下になるよ」
     いろはの言葉にお銀も同意する。
    「学園生活を通じた友人はきっと君に新たな世界を与える」
     二人の言葉に蝶子は真剣な眼差しを向ける。
     ただ外界に憧れていただけの少女の瞳に一つの意思が見え始めたことに気付いたお銀はさて、と切り出した。
    「君が本気で外に出たいのならば、外界に出て何をしたいのか明確な展望を持つ事だ。さもなくば村の者も安心出来ぬ」
     ――外界に出たい理由を説明できるか?
    「私……」
     躊躇いながら蝶子が口を開いた時。
     ギィィィィ。
     再びゆっくりと蔵の扉が動き始めた。


     扉が開いた先に立っていたのは一人の老婆だった。
    「婆様……!」
     慌てて蝶子が居ずまいを正すのにつられて灼滅者達も姿勢を正す。
    「かような不躾な振る舞い、心よりお詫びいたす」
     自分達が何者なのか、また何のためにこの村へ来たのか。
     お銀が一通りの説明を終えるとゆっくりと磯良が口を開いた。彼は蝶子と同じような境遇で育ってきた身の上を語る。
     自らの過去、自由の無い生の辛さを思い返し磯良からいつもの笑顔が消えた。表情を曇らせる主を見てそっと阿曇が側に寄り添う。
     村で一生を過ごすことが不幸だと言うつもりは磯良にはない。だが、外へ出ることで得られるものはとても多いことを彼はよく知っていた。
    「同年代の友達、彼女と同じ力を持つ仲間と知り合えることは、彼女にとって掛け替えのない、一生の宝となるでしょう」
     自分は掛け替えのない大切な宝を得ることが出来たと磯良は断言できる。
     それは長く似た状況にいた悠太郎も同じ。
     他人が口を出すような問題ではないと重々承知しているが、少し前の自分と重なることが多く他人事に思えなかった。
    「彼女が大事だとしても、外界を知ることなくずっとこの村に閉じ込められるということは果たして彼女のためになるのでしょうか」
     少なくとも、蝶子自身は外に出ることを望んでいる。
     己の感情を表に出すことはせず、ただ淡々と悠太郎は問いかけた。
    「――蝶子をずっとこの村に閉じ込めておくつもりは、ない」
     静かに村長は答えた。
    「だったら、武蔵坂学園で蝶子ちゃんに人生を自分で選択するための勉強をさせてあげることはできへんやろか」
     蝶子の助けになりたい一心で宿名は村長に頼み込む。
    「蝶子ちゃんに、人生を決める材料をあげて欲しいんやよ」
    「少なくとも真神嬢が独りになることはないでショウ。どうか我々と、真神嬢を信じていただけませんカ?」
     大切な孫娘を想う気持ちはわかる。だから何も心配するなとラルフには言えない。だが、外の世界を見ることは幼い蝶子にとってきっとプラスになる。そう強く信じ、ラルフは村長の不安を和らげようと武蔵坂学園の話を始めた。いろはも口添えをする。
     「お婆様も安心していいよ。我が武蔵坂学園には信頼出来る寮や下宿先もあるし、通信手段の確保は約束するよ」
     それに、といろはは静かに、だがきっぱりと言った。
    「彼女が本当に帰るべき場所自体は此処で変わらないから心配ないよ」
    「あの、色んなものに触れて、人は人として成長すると思うの。それは蝶子ちゃんも同じじゃないかしら?」
     遠慮がちに切り出した麻琴だったが、村長の目を見つめ、しっかりと力強く迷いのない心で断言した。
    「彼女のこと、絶対に守るから。あたしの命にかけても守るから!」
     この者たちを信じても良いだろうか……。
     村長の心には迷いが生じているのが見てとれた。
    「もしも彼女を想うなら、どうか意向を叶えてあげて欲しい」
     黙って皆の話を聞いていたお銀がゆっくりと口を開く。
    「善しも悪しも全てが彼女の糧となり村に更なる恩恵をもたらす筈です」
     そして、お銀は傍らの蝶子に視線を向けた。
    「自分の言葉で、思っていることをきちんと告げるが良い」
    「私は――」
     逡巡する蝶子を見て寛子は自分が上京した時のことを思い出す。真剣にアイドルになりたいと思っていることを知ったら両親は快諾し、夢を応援してくれた。だから、きっと蝶子ちゃんの婆様もわかってくれるはず。
    (「蝶子ちゃん、頑張って……!」)
     寛子の視線に気づき、大丈夫というように一つ頷くと蝶子は思いを言葉にのせる。
    「友達と一緒に学校でいっぱい勉強してもっといろんなことを知りたい。癒しの力のことも学んで村のみんなをもっと助けたい」
     そして蝶子は村長に向かって深々と頭を下げた。
    「だから、私を武蔵坂学園に行かせてください」
    「いつまでも子供だと思っておったが……」
     寂しげに村長はぽつりと呟き灼滅者達に向かって丁寧に頭を下げた。
    「世間に疎い子ゆえ迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願い申し上げます」
    (「良かった……!」)
     灼滅者達がほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。いち早く事態に気付いたいろはの目配せを受け、磯良が村長を眠らせて抱きかかえるのと蝶子が異形と化したのはほぼ同時。
     磯良が村長を外へ運び出したことを確認し、ラルフが蝶子へと向き直る。
    「ワタクシ達が相手ですヨ。Frön einem Betrug!」


     最初に動いたのは宿名だった。蝶子が目を逸らした一瞬の隙をついて死角に潜り込む。
    「さぁ、『鬼やらい』や」
     そして目にも止まらぬ速さで大鎌を振るい上げ彼女の急所を絶つ。
     しかし、蝶子も負けじと異形と化した右腕を宿名に向かって振り下ろす。寸でのところでいろはが二人の間に割って入り愛刀【月下残滓】でなんとか蝶子の一撃を食い止めた。
     すぐさまお銀が小さな光の環を呼び寄せ、いろはの前に盾を創り出した。光の環は同時にいろはの傷を癒す。
    「君の最初の試練だ! 打ち破って見せよ!」
    「寛子も故郷から離れてがんばってるんだよ、だから蝶子ちゃんも一緒にがんばろ!」
     懸命に寛子も蝶子に向かって話しかけつつ華麗にジャンプキックを繰り出す。寛子の必殺技ジンギスカンキックだ。
    「村から出たら、一緒に色んな場所に行こうよ」
     ポニーテールを揺らし、麻琴が両手に集中させたオーラを放出し蝶子の中の鬼を撃つ。
    「そぉら……早くどうにかしないと、どんどん蝕まれていきますヨ?」
     ラルフの深淵に潜む暗き想念を集め漆黒の弾丸を形成する。勢いよく撃ち出された弾丸を蝶子は避けきることができず彼女の身体を毒が蝕んでいく。
    (「もう少し――」)
     悠太郎は表情を変えることなく縛霊手で蝶子を思い切り殴りつける。網状の霊力に捕らわれもがく蝶子に向かって相棒の雷轟が全力でタックルをかます。
    「キミには婆様の愛情があって羨ましいよ」
     だからこそ、蝶子を婆様の元へ帰してやりたい。磯良が舞を踊るように優雅に糸を操り鬼を切り刻む。阿曇もまた口に銜えた斬魔刀を薙ぎ払う。
    「これで、終わりだよ」
     いろはが素早く腰の刀を抜きまっすぐに早く重い斬撃を振り下ろし、蝶子の中の闇を断ち切った。
     力なく倒れる蝶子に駆け寄り麻琴がそっと抱きしめる。
    「あなたは特別じゃなければ――独りじゃない」
     そして遊園地土産のストラップを握らせ耳元で囁いた。
    「今度、一緒に行こうね」

     蝶子がゆっくりと目を開けると心配そうに見つめる顔が8つ。
     瞬きを繰り返し、我が身に起きたことを思いだした。
    「ねぇ、早く村を出ようよ!」
     ばっと元気よく飛び起きるなり発せられた言葉に灼滅者達は顔を見合わせる。
    「もう真夜中だよ。今、外を歩くのは危ないと思うよ~」
     困惑を隠せない様子で寛子が傍らのラルフに同意を求める。
    「そうです、無理矢理飛び出すようなことをしてはいけないデス」
    「急に貴女がいなくなったら婆様は哀しむでしょうね」
     磯良の言葉に蝶子の顔色がさっと変わった。
    「婆様は!?」
    「安全なところへ避難してもらっていますよ」
     悠太郎の言葉にほっと胸を撫で下ろす蝶子。
    「蝶子ちゃん、婆様とゆっくりお話した方がええと思うよ」
     宿名の言葉に麻琴とお銀が賛成する。
    「そうね、今晩は二人水入らずで過ごしたら?」
    「明日、きちんと挨拶を済ませてから出発するとしよう」
     しばし考え、蝶子もそうだねと素直に頷く。
    「それじゃぁ、お婆様のところへ行こうか」
     蝶子と目線を合わせ、いろはが右手を差し出すと蝶子がぎゅっとその手を握りしめた。そして灼滅者達と共にゆっくりと蔵の扉に手をかける。
     ――今、その扉は開かれた。ようこそ、武蔵坂学園(しんせかい)へ。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 6/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ