喫茶怪人キッサアインツ

    作者:光次朗

    ●ヤツふたたび
    「行った?」
    「行った行ったー! もう超辛い、モーニング麻婆豆腐!」
     子どもを送り届けた幼稚園の前で、奥様方が談笑している。
     その手にはスマホ、開かれているのは名古屋限定のグルメサイトだ。
     名古屋のモーニングサービスは、充実している。
     コーヒーを注文すれば、トーストやゆで卵が出てくるのはもはや普通、好きなメニューを選べたり、豪華な定食がついてきたりもする。
    「あたしあそこ行きたいんだよね、前日のパンが食べ放題になるとこ」
    「食べ放題ならさ、モーニングバイキングもいいよねー。ケーキの種類すごいらしいよ」
     おかわり自由、食べ放題というのも人気だ。このたまらないオトク感。
     しかし、その風潮を否とする者が、再び現れていた。
    「……あら? なにかしら?」
    「なにかのイベント? 音楽が……」
     奥様方が、顔を見合わせる。
     どこからともなく、音楽が響いてきていた。
     軽快なサウンドに合わせて、高らかな口上とともに紳士が降ってくる。
    「──それはどうかな喫茶ツェン、それはダメだろ喫茶ツェン、これぞ正しい喫茶ツェン! NOTツェン、BUTアインツ! 喫茶怪人、キッサアインツ!」
    「喫茶怪人……?」
    「キッサアインツっ?」
     シルクハットに燕尾服、片眼鏡をかけた紳士は、どっしりと着地した。作詞作曲を手がけたテーマソング、『アイツは喫茶アインツ』を首から提げたプレイヤーから流しつつ、ポーズをとってマントを広げる。
    「正しいモーニングは、コーヒー、トースト、ゆで卵、そしてソーセージ! ゲルマンシャーク様の力で蘇った我こそが、真の喫茶ツェンに他ならぬ! そう、我が名は、キッサアインツ! いぃらっしゃいませ──っ!」
     腹の上から、ソーセージ爆弾が飛び出した。

    ●ワンじゃなくてアインツ
    「ヤツが再び、名古屋で暴れている」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、そう口を開いた。
    「以前殲滅したはずの喫茶怪人キッサワン──今回は、喫茶怪人キッサアインツと名乗っているが──ヤツが復活したようだ。起こしている事件はまったく同じで、正しいモーニングサービスはトーストとゆで卵という主張も変わらない。ただそこに、ソーセージが加わったようだな。ヤツ基準で正しくないモーニングサービスを駆逐し、全世界を同じ朝食に統一……からの、世界征服を企んでいる」
     ちなみに、ドイツ語で10はツェン、1はアインツ。キッサワンもキッサアインツも、いいたいことは同じだろう。
    「放っておけば、世界の朝食がすべてヤツ色に染められてしまう。そんな恐ろしいことは、なんとしても阻止しなければならない」
     正月の残りの餅を焼いて食べることもままならないんだぜ──ヤマトの口調は苦々しさに満ちていた。
    「ヤツを倒すには、まずヤツをおびき出さなければならない。そこでおまえたちには、名古屋で開催される料理イベントに参加してもらう。これだ」
     ヤマトは広告を広げた。『身近で新しいフルコース~個性的なフルコースをお待ちしております~』──ポップな文字が躍っている。
    「テーマは見ての通り、フルコース料理。つまりモーニングじゃないんだが、そこで作り上げたフルコースをモーニングメニューだと宣伝すれば、ヤツは現れるはずだ。イベント参加は店単位だから、架空の店を名乗ってチームとして出場することになるな」
     もちろん観客もそれなりに集まるので、何人かは観客に混ざることも可能だ。
    「一般人を客にした、屋外でのイベントだ。フルコースと銘打ってはいるが、料理自体も体裁にこだわる必要はない。会場の敷地も広いし、演出次第では、戦闘もイベントの一環ってことでいけるだろう。イベントに出場し、そこで個性的なモーニングフルコースを提案、その後に現れたキッサアインツを殲滅──そういう流れになるな」
     会場には調理場が設置される。食材や調味料等はすべて持ち込みとのこと。
    「スピードが遅く、攻撃力と攻撃に対する耐久性が高いのも、前回と同じだ。大幅にパワーアップしているということはないようだが、油断は禁物……というのは、いうまでもないな」
     ヤマトは広告と会場までの地図を差し出した。
    「世界の朝食を守ってくれ。健闘を祈る!」


    参加者
    向井・アロア(晴れ女だよ・d00565)
    東雲・軍(まっさらな空・d01182)
    鉄・獅子(ガンメタリックライオンハート・d01244)
    美泉・文乃(幻想の一頁・d01260)
    二神・雪紗(ノークエスチョンズ・ビフォー・d01780)
    三芳・籐花(トラグディ・d02380)
    倉科・慎悟朗(昼行燈の体現者・d04007)
    遠吠・はがね(棺桶より産まれし者・d04466)

    ■リプレイ

    ●モーニングフルコース
     名古屋の街で、身近で新しく、かつ個性的なフルコースメニューを提案する料理イベントが開催されていた。
     幸い天候にも恵まれ、屋外の会場にはたくさんの一般客が集まってきている。並ぶのは屋台ではないものの、雰囲気としては祭りに近い。客が自由に料理を食べ、投票していく形式だ。一応は賞も存在するが、基本的には提案すること自体に意味がある。
     そんな中、とある店が注目を集めていた。いろんな意味で。
     その名も、喫茶店『紅茶派・武蔵』。テーマは、モーニングなフルコース。
    「いらっしゃいませ。紅茶派・武蔵のフルコース、最初はこちら──名付けて小倉紅茶トーストだ」
     知的な笑みを見せ、二神・雪紗(ノークエスチョンズ・ビフォー・d01780)が奥様二人組に皿を運んだ。
     店名にふさわしい一品目は、紅茶ジャムの塗られたトースト、あんこ添え。食パンの生地には紅茶の葉を練りこむというこだわり派だ。
    「おいしい……!」
    「紅茶とあんこって、合うのねえ!」
     奥様方、大絶賛。
    「二品目、私はシンプルに湯豆腐を用意しました」
     トーストと並んでオードブル、倉科・慎悟朗(昼行燈の体現者・d04007)が当然のようにしれっと湯豆腐を置いた。ダシは昆布のみ。
     果たしてこれはアリなのかナシなのか。奥様方にかすかな動揺がはしる。
    「わ、和風なのかしらね」
    「小倉も和といえば和だものね」
     好意的解釈。
     とはいえ、二品目の時点でうっすらと見え隠れする、統一感のなさ。
     実は八人は、それぞれが考案したメニューを当日ぶっつけ本番でお披露目、それらをまとめてフルコースということにしていた。
     いま試される、彼らのセンスと結束力!
     だいたいオチは見えている。
    「三品目は、味噌汁です。千葉県央は落花生だけじゃないんですよ」
     オードブルに続くスープ枠、鉄・獅子(ガンメタリックライオンハート・d01244)は、名産の味噌で味噌汁を作り上げていた。具材はわかめ、大根、豆腐。
     ただよう味噌の香り。和風モーニングというより、朝ご飯といったほうがしっくりくる。
    「僕は朝食はごはん派です」
     譲れないこだわりだ。
    「和食なのね……」
    「和食なんだわ」
     奥様方の中で定まりつつある、紅茶派・武蔵の方向性。
    「続いてメインです。まずは緑黄色野菜たっぷりの、あんかけスパゲティ」
     四品目、ボリュームから考えてメイン枠、三芳・籐花(トラグディ・d02380)はあんかけスパゲティを用意した。
     とろーりあんかけスパゲティは名古屋の文化。太めの麺に絡むあんが絶品だ。
    「野菜は朝に摂取するのがよい、とされています。麺より野菜の方が多いのは些細な問題です」
     麺は野菜に埋もれていた。しかし、健康志向な奥様方的にはグッジョブ。
    「美容に良さそうね」
    「おいしいわ」
     和食からは遠ざかったが、おいしいので問題なし。
    「メイン二品目は、これだ。朝からパワー出そうだろ?」
     五品目、東雲・軍(まっさらな空・d01182)が堂々と出したのは、カレーそうめんだ。ここへきての麺推し。 
     愛知出身のメジャーリーガーにあやかって朝カレーという発想だったが、最近は素麺にしたんだっけという記憶もあり、結果、素麺にレトルトカレーをかけるという着地点。
    (「そうめん茹でて、レトルトカレー温めるだけだから、俺でも余裕!」)
     それをフルコースに出しちゃうのかというツッコミはしない方向で。
    「なんだか……このカレー、覚えがあるわ」
    「ていうかレトルト?」
     奥様方、なんだかんだいいつつも食べている。
    「メイン三品目ね! 私のメニューはすき焼き! 高級和牛で朝から贅を尽くすよ」
     これ激ウマなんだけど! とかいいながら、ちゃっかり各店のつまみ食いを楽しんでいた向井・アロア(晴れ女だよ・d00565)は、どどんとすき焼き鍋を出した。
     朝から贅沢、というよりも朝からこれは重い。
    「こ、高級和牛!」
    「高級和牛だわ!」
     奥様方はタッパーを取り出した。別の意味でハートをわしづかみだ。
    「続いて、デザートだな。俺が用意したのは、ケーキた」
     遠吠・はがね(棺桶より産まれし者・d04466)はオトコマエな物腰で、ホイップクリームやドライフルーツで飾り付けられたホールケーキを切り分けていった。それほど料理が得意というわけではないので、スポンジケーキは既製品だ。それでもそれなりのものにできあがっている。
    「あら、ステキ」
    「おいしいわね」
     奥様方、甘いものは当然のように別腹で。
    「ラスト、八品目。ケーキといっしょにどうぞ」
     美泉・文乃(幻想の一頁・d01260)はふわりと微笑んで、ミックスジュースを差し出した。包丁など握ったことがないので、健康そうなものをミキサーに入れてゴリゴリしたという一品。
    「意外と健康志向ね」
    「これもなかなか」
     ミックスジュースは、健康という魔法の言葉で味が二の次になる不思議。何が入っているかはナゾながらも、奥様方はごくごく飲んでいく。
    「以上だ」
    「当店のオススメする、モーニングサービスのフルコースメニューです。いかがでしたか?」
     雪紗がそっと投票用紙をテーブルに載せ、籐花が営業スマイルを見せる。
     奥様方は、投票用紙に改めてまとめられた、紅茶派・武蔵のフルコースメニューを確認した。

     小倉トースト
     湯豆腐
     味噌汁
     あんかけスパゲティ
     カレーそうめん
     すき焼き
     ケーキ
     ミックスジュース

    「新しい……!」
    「斬新だわ……!」
     息を飲む奥様方。
     この統一性のなさが、最先端。
    「思ったよりもまとまりましたね」
    「八品全部がメインという可能性もあったわけですからね」
     慎悟朗と獅子が、満足げにフルコースを眺める。味噌汁もありデザートもありと、なかなか立派にまとまった。
    「これ、朝に良さそうに仕上がったと思うんだけれど。イクくん、味見してみる?」
    「いや……うーん」
     写真部の先輩後輩である文乃と軍は仲良さげだ。とはいえ、なにが入っているかわからないジュースを、軍は丁重にお断り。
    「まあ、それなりにまとまったとはいえ、そもそもモーニングにフルコースだからな。ヤツは現れるだろう」
    「ていうか、人の朝食にあれこれ言うヤツとかマジでウザいんだけど」
     はがねがそれとなく周囲を警戒するものの、アロアはあくまでマイペースにネイルチェック中。
    「あの、またすぐお客さん来ますよ。話題性はあるみたいですから、用意しとかないと」
     籐花はてきぱきと皿を片付けていた。それぞれが腰をあげ、引き続き料理に取りかかる。
    「──来たね」
     淡々と、雪紗がつぶやいた。
     キタ……! 絡み合う視線。うなずき合い、声を合わせる。
    「いらっしゃいませー!」
    「違うよ」
     否定するまでもない。
     どこからともなく、響き出すミュージック。ノリノリの重低音が響き、口上が降ってくる。
    「──それはどうかな喫茶ツェン、それはダメだろ喫茶ツェン、これぞ正しい喫茶ツェン!」
     喫茶ツェンのツェン部分は、ツ、ェーンと妙に発音良く。どうやら調理場の上から見ていたらしいタキシード姿の怪人が、紅茶派・武蔵のスペース前にどっしりと着地する。
    「NOTツェン、BUTアインツ! 喫茶怪人、キッサアインツ!」
     じゃじゃーん。
     自作の音楽に合わせて、キッサアインツはポーズを決めた。

    ●守れ、朝ごはん!
    「来ましたね!」
     キッサアインツがわざわざポーズをとったことは、イベントに見せかけるには好都合だった。攻撃に移ろうとするキッサアインツを遮るように、籐花は前に出る。
     オーバーリアクションで縛霊手を大きく掲げ、叫んだ。
    「モーニングの多様性は、我々が守ります!」
     でもさすがにフルコースは多様性がどうこうの問題ではないですよねーという本音は心にそっと秘め、ポーズとセリフはノリノリだ。
    「俺は……紅茶派だ!」
     どーんと前に出て、はがねは宣言した。
     その言葉に、なんだなんだと遠巻きに見ていた一般客が、はっと察する。
     紅茶派・武蔵──あのむちゃくちゃなフルコースは、つまりはイベントの一環だったのか!
     な~るほどと納得。灼滅者たちはバベルの鎖に守られているのだ!
    「イクくん、ほら、ポーズでも決めようか」
     前に出るべきか否かと逡巡する軍に、文乃が小声で話しかけた。
    「はい、カンペ」
     事前用意のカンペをそっと渡し、自分は一応声を張り上げておく。
    「自由な朝食を邪魔する不届き者め、皆が退治してくれるから覚悟してね」
     ノってるんだかノってないんだか、微妙なラインだ。ほらイクくんの番と、ぐいぐい軍を前に押し出す。
    「え、ちょっ……ふみふみ! なんで俺がっ?」
     軍は困惑したが、すでにギャラリーの注目は集まっていた。ぐっと堪え、出されたカンペを読み上げる。やるからには完璧に、ポーズをつけて。
    「朝食の自由は俺が守る! 人呼んでモルゲン騎士、見参! とう!」
     ジャンプして、着地した。
     ぼがーん。ナイスなタイミングで、慎悟朗が背後で焚いたカラフル煙幕が飛び出す。効果音付きだ。
    「グーテンモルゲン!」
     そして、まさかの決めゼリフ。
     煙幕の音とは別に、何かが壊れる音が聞こえた。それは軍の心の中で。大切な何かを……喪ってしまった、音、だ。パキーン。
    「ふ、ふははははは! 片腹痛い! なんなら両腹痛いぞモルゲン騎士よ! グーテンモルゲン!」
     キッサアインツは高笑いをぶちかまし、右手を挙げて律儀に挨拶を返した。あ、どーも、と一瞬流れる和やかな空気。
    「朝はコーヒーと決まっている。そしてモーニングといえば、トースト、ゆで卵、ソーセージ! 貴様らのメニュー、食させてもらったが、まったく片腹痛かった!」
     そういって叩いた腹はちょっと膨らんでいた。
    「あ、ない! なくなってますよ!」
    「っあー! 高級和牛! マジありえないんだけど!」
     獅子が気づき、アロアも声をあげる。いつのまにか、キッサアインツは紅茶派・武蔵のメニューを美味しくいただいたらしい。
    「まったくどれもこれも、モーニングにはふさわしくなかった。貴様らに、モルゲン騎士を名乗る資格はない!」
    「モルゲン騎士を……名乗る資格!」
     軍は衝撃を受けた。
    「どうする?」
    「ど、……っ、どうでもいい……!」
     文乃に問われるも、そうとしかいいようがない。
    「なんだ? ドイツのモーニングといえばホールケーキだろう? 奴から聞いてないのか?」
     ごく当たり前のように、はがねがいう。はがね以外の全員──一般客の皆様方も、目を見開いた。
     え、そうなの? な空気。
    「ドイツの…………モーニングなんて、知らんわー! 我が守るは名古屋のモーニング! 喰らえ、ソーセージ爆弾!」
    「ハナちゃん、前衛に展開! 射撃態勢が整うまで待機!」
     すかさず獅子が叫び、ライドキャリバーを前に出す。自身は高速演算モード。
    「やれやれ、傍迷惑なのが復活したものだよ」
     雪紗もまた、高速演算モードだ。それぞれが長期戦を見据え、初手を打っていく。
    「文化の停滞はよいことではありません。覚悟してください、キッサアインツ!」
     イベントであることを意識して声を張り上げつつ、籐花はシールドバッシュを放つ。キッサアインツは大きく眉を跳ね上げた。
    「なにを生意気な! 朝食は我の手に! 喰らえぇぇえ!」
    「交渉は決裂だな。ならば貴様を悪とみなし……斬る!」
     はがねはキッサアインツの背後に回り込み、ティアーズリッパーで切り裂いた。大層なタキシードが破れ、キッサアインツの腹が露わになる。どこからともなく聞こえる気がする、あは~んな効果音。
    「く……っ」
    「く……っ」
     キッサアインツもはがねも、どっちもくっとなった。
    「…………」
     小さくため息をつき、慎悟朗は戦闘に不要な感情と理性を隔離していた。目を細め、ワイドガードで守りを固める。
    「あのさー、再生してくるとかマジで勘弁。もう二度と起きて来ないでよねっ!」
     アロアの閃光百裂拳が炸裂する。ナノナノのむむたんは、ディフェンダーとして活躍だ。
    「ソーセージ爆弾! ふはははははっ!」
     攻撃はほぼすべて命中していたが、キッサアインツの動きは鈍ることはなかった。むしろ正面から攻撃を受け、それを自らの勢いに変えたかのように攻撃を繰り出してくる。
    「やっぱり、攻撃力は馬鹿にできないね」
     文乃は早めの回復に専念したが、それでも徐々にダメージは蓄積していった。慎悟朗も回復に回り、サポートしていく。
    「遅ぇよ!」
     螺穿槍で攻撃力を上げた軍が次々と仕掛けていく。背後は仲間たちに任せていた。攻撃に専念し、キッサアインツの体力を削っていく。
     懸念していたとおり、戦闘は長引いた。しかし、観客の応援もありテンションを上げた八人は、連携を取りつつ、確実にダメージを与えていく。
     最終的には裸同然となったキッサアインツと対峙する八人。彼らはそれぞれの武器を構え、クライマックスよろしく飛び上がる。
    「あなたの敗因、それは……ザワークラウトを付けなかったことだ!」
     トドメは獅子のご当地ビーム。
    「ぐ、ぐ、ぐ……ぐわあああああああああああ! ま、またのお越しを──!」
     ぼがーん。自前なのかなんなのか、カラフル煙幕に負けないぐらいの煙をまとって、キッサアインツは爆散した。 

    ●喫茶店へ
     こうして、喫茶怪人キッサアインツは、灼滅者たちの手によって倒された。
     ヒーローイベントは終了ですーとお茶を濁し、八人はそのまま退散。料理イベントがその後どうなったかは知るよしもない。
    「二神先輩の作った小倉トースト、食べたかったなあ……」
     籐花はそれが心残りだった。狙っていたのに、すっかりキッサアインツに食べられてしまったのだ。
    「ん、イケたよー。紅茶とあんこ、アリだね!」
    「紅茶とあんこが合わないというのは偏見だ。まろやかに仕上がるだろう?」
     ちゃっかり食べたアロアと、まんざらでもない雪紗。
    「ドイツかぶれのご当地怪人……ご当地怪人なのに、ドイツ……それってご当地になるのか?」
     心底疲れた様子の獅子は、ご当地とドイツのコラボレーションに納得がいかないようだ。
    「折角だから珈琲でも飲んで行こうか? イクくん、今日はお兄さんが奢ってあげるよ」
    「乗った! や、さすがに登山はする勇気ねえけど」
    「山に登るんですか? え、喫茶店? 山……? マウン……」
     どうやら遭難した経験のあるらしい軍によって、登山についての講習会が開かれる。
    「では、皆で行くか。ただし、俺は紅茶派だ」
     はがねがいって、慎悟朗は肩をすくめた。
    「モーニングは好きなものを食べれば良いのです」
     もちろん、紅茶を飲んでも良いのです。

    作者:光次朗 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 7
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