我は……ケーニヒ・イチジクジョニー!!

    作者:灰紫黄

     丸々とした赤い果実を模したバトルスーツの男がいた。しかもちょっと金のパワーアップパーツ付き。
     京都府城陽市。日本有数のイチジクの生産地である。しかし、メジャーじゃない気がしていたのだ。彼には、やっぱり。よって、彼は人々を教育し、城陽のイチジクを広める尖兵にしようとしていた。そしてゆくゆくは世界征服を。
    「食べよ! 食べよ! イチジクを食べよ!」
     偉そうな口調で道行く人々にイチジクを食べさせるジョニー。途端に人々はイチジク頭の戦闘員へと変貌する。こちらも金色パーツ付きの豪華版。
    「お前、何者だ!?」
     精悍な青年が叫んだ。日曜朝だったらメカメカしいバックルしてそうなイケメンだった。けど当然のごとく一般人。
    「この身はあの方のお力で蘇った。わりゃっ」
     噛んだ。
    「……コホン。我は……ケーニヒ・イチジク・ジョニー!!」
     男は(マスクの中で)鼻息荒く答えた。

     教室に入ると、黒板に『無花果』と大きく書いてあった。『いちじく』とふり仮名付き。
    「集まっていただきありがとうございます。妙なご当地怪人を察知しました」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は小さく頭を下げた。何か事情があるのだろう、笑うのを我慢している表情だった。
    「怪人が現れたのは京都府城陽市です。同市はイチジクの生産が盛んで、怪人はイチジクを広めるため、スーパーに現れました」
     怪人は平日昼のスーパーを襲撃。客にむりやりイチジクを食べさせて戦闘員にしている。
     そこまで説明して、姫子の表情がさらに複雑なものになる。笑いたくても笑えない。必死に笑いをこらえているようだった。
    「もしかしたらご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが……このパターンはかつて登場した怪人と同じなのです。何か裏があるのかも……ぷっ」
     結局、笑いをこらえ切れなくなって吹き出す姫子さん。もちろん可愛いのでノープレブレム。
    「怪人はケーニヒ・イチジクジョニーと名乗っています。姿はイチジク型の頭部と、金色のパーツの付いたバトルスーツです……ぷっ」
     再度吹き出す姫子さん。いちいち可愛いなぁ。
     戦闘員にされた客は十二人。ジョニーのスーツの簡易版のような姿で、赤いビームを撃ってくる。倒せば元に戻るが、手加減して戦う必要はない。
     肝心のジョニーの能力だが、イチジク型ハンマー、バトルオーラを使う上、追い詰められると何人も巻き込める散弾攻撃をしてくる。これはダメージが高いだけでなく追撃の効果があるので、下手に当たれば大打撃になってしまうかもしれない。
    「戦闘になれば屋上へ移動するので一般人の避難や保護は考えなくても大丈夫です。強敵ですので、準備はぬかりなく」
     最後にもう一度、ぷっと吹き出す姫子さん。可愛いなぁもう。


    参加者
    蒔絵・智(黒葬舞華・d00227)
    ソルデス・ルクス(不浄なる光・d00596)
    葛城・百花(花浜匙・d02633)
    司城・銀河(タイニーミルキーウェイ・d02950)
    ケーニッヒ・クロウフィル(アサシンズヒーロー・d05719)
    南波・柚葉(偽心坦懐・d08773)
    神木・璃音(アルキバ・d08970)
    有馬・臣(ディスカバリー・d10326)

    ■リプレイ

    ●イチジク怪人、再び!
     京都府城陽市。京都府内でもわりと地味めのそこに、奴は現れた。赤いマスクに、金の飾り。ケーニヒ・イチジクジョニーその(怪)人である。
    「ふははははは! 我らがイチジクロードは不滅!」
     できたてほやほやの戦闘員を使い、さらに戦闘員を増やしていく。平和なはずのスーパーマーケットは恐怖と混乱に包まれていた。
    「そこまでです」
     ソルデス・ルクス(不浄なる光・d00596)を先頭に、八人の少年少女が現れる。これ以上、ジョニーの悪行を許すわけにはいかない。
    「またもやイチジクロードの障害となるか、灼滅者ども!」
     偉そうな口ぶりで、ジョニーが叫ぶ。だがどこか楽しそうだ。一度辛酸を舐めさせられた相手にリベンジできるとでも思っているのだろう。
    「前回のようにはいかんぞ、鈴木!」
    「鈴木じゃないっす。日本人イコール鈴木じゃないんで」
     神木・璃音(アルキバ・d08970)は以前イチジクジョニーと戦った灼滅者だが、名前は憶えていなかったらしい。ジョニーはびしりと彼を指差したまま固まる。
    「どうしてくれる、いらん恥をかいたではないか!」
    「いや、そっちの自爆だから」
     迷いのない責任転嫁にすかさずツッコミをいれる蒔絵・智(黒葬舞華・d00227)。だがジョニーは聞く耳を持たず、勝手にヒートアップする。怒りでみるみるイチジクマスクが赤く光り出す。
    「貴様らと話していても時間の無駄無駄無駄ぁ! ここであったが百年目。今こそ雪辱を果たそうぞ!」
     一方的に叫び、金色のハンマーを掲げる。途端に灼滅者の視界が暗転し、体が宙に浮く感覚に襲われる。次の瞬間にはスーパーの屋上駐車場に立っていた。ジョニーの周りには情報通り、12人の戦闘員もいる。
    「向こうも準備はできているようですね」
     有馬・臣(ディスカバリー・d10326)は眼鏡の奥から鋭い視線を投げかける。容姿こそ間抜けだが、相手はダークネス。油断はできない。ここで敗北するようなことがあれば、城陽市はイチジク戦闘員で埋め尽くされるかもしれない。いろいろ恐ろしいと言わざるを得ない。
    「無理やり食べさせるのはよくないよ!」
    「そだね。あたしは見るのも初めてだけど」
     元気に手を跳ね上げる司城・銀河(タイニーミルキーウェイ・d02950)。彼女の言葉に頷きつつも、南波・柚葉(偽心坦懐・d08773)はジョニーの頭から目が離せない。イチジクを食べたことも見たこともないので、専ら観察中だ。
    「早く片付けてしまいましょう」
     葛城・百花(花浜匙・d02633)の足元から影が滲む。殺意の牙は待ちきれないとでもいうように、その鋭さを増していく。冷徹な言葉遣いとは裏腹に、心中は戦意に満ちていた。
    「よし! 俺の出番だな」
     名前、出自ともに因縁を持つケーニッヒ・クロウフィル(アサシンズヒーロー・d05719)。バキバキと拳を鳴らし、不敵な笑みを浮かべる。燃える心を写しとり、その身にまとうオーラがごうと燃え盛る。
    「ふん、やる気だけは一人前だな。イチジクロードを邪魔することはできんじょっ」
     大事なところで台詞を噛むジョニー。ふるふる震えていたので、戦闘員達が心配そうにジョニーに駆け寄る。
    「……うん。大丈夫だから。ボク頑張るから。……では改めて。イチジクロードの邪魔はできんぞっ!」
     ここに、イチジクの未来を占う戦いの幕が再び切って落とされた!

    ●怒れるイチジク怪人
    「ゆくのだ! イチジクロードの使者達よ!」
    「イチー!!」
     号令に従い、戦闘員が攻撃を仕掛ける。赤いビームが灼滅者を襲う。
    「さ、不浄と光の力をお見せしましょうか」
     ソルデスは掲げたカードから指輪と禍々しい形状の大鎌を呼び出す。鎌を一閃すれば、黒い軌跡がビームを打ち払う。
    「あーもう面倒くさいね、まとめて捌くよ。リリース!」
     ナイフを握り、智が駆け出す。次の瞬間には戦闘員の背後に現れ、その背中を袈裟切りにする。
     柚葉の拳から光の盾が展開する。盾を構え、ジョニーに突撃。両者の視線が間近で交差する。たまらず柚葉はぷっと吹き出す。
    「わ、笑うなぁ!」
    「だって、ケーニヒ・イチジク……ぷっ」
     演技か本心か、柚葉の笑いは止まらない。ジョニーの顔に青筋がくっきりと浮かぶ。それだけではおさまらず、さらに頭が赤く点滅し始めた。
    「……なんでドイツ風なんでしょ」
     弓を自らに引き絞り、攻撃の精度を高める璃音。呟いた疑問は当然のことであったが、それに答える者はいない。当のジョニー本人は怒り心頭、柚葉以外はアウトオブ眼中だった。
    「我を、そしてイチジクロードを侮辱した報い、受けてもらうぞ!」
     イチジクハンマーが火を噴く。ロケット噴射の勢いそのままに柚葉の体を殴りつける。いかに防御を固めていても、ダークネスの一撃は相当に重い。
    「今回復します、辛抱してくださいね」
     すかさず臣はリングを飛ばし、柚葉の周りに展開する。光が傷を癒すのと同時に守りを構築する。
    「ごめんなさい!」
     六枚の羽が輝き、バスターライフルから極太のビームが吐き出される。小さな体には不釣り合いの巨大な砲身は確実に戦闘員を焼き払う。銀河のビームがひとり、戦闘員を人間に戻した。戦闘員は数こそ多いものの、一体一体は脅威ではなかった。
    「『ご当地怪人』で『ケーニヒ』、『ドイツ』とくれば、『ご当地怪人』で『ケーニッヒ』『ドイツ人』の俺しかいないだろ!」
     ケーニッヒは戦闘員を掴んで地面に叩きつける。同時に赤レンガが砕けて飛び散るのは、横浜のご当地ヒーローゆえだ。そう、ケーニッヒは横浜のご当地ヒーローなのだ!
    「矢と弾の嵐よ。耐えられるものならたえてみなさい」
     主の言葉通り、ガトリングガンが高速回転。無数の弾丸は戦闘員を襲い、人間に戻す。
     灼滅者達は容赦ない攻撃で戦闘員を殲滅していく。しかしそれはジョニーも同じこと。繰り返される強力な攻撃は柚葉を苦しめる。
    「くはは! 我を怒らせたこと、後悔するのだな!」
     戦闘員が全滅するころには柚葉の防具はほぼ破壊され、満身創痍に陥っていた。怒りで我を忘れたジョニーは戦闘員が倒されたことなど気付きもしなかったが。
     イチジクの未来を巡る戦いは激しさを増し、次のステージへと移っていく

    ●イチジク怪人の執念
     灼滅者が戦闘員を確実に排除する一方で、柚葉はほとんど一人でジョニーの攻撃を受け続けていた。臣の回復が支えてはいるが、消耗は激しい。
     ジョニーの攻撃を阻むべく、ソルデスは動きを縛る魔弾を発射する。対するジョニーは気を集め、体力と状態異常を回復する。
    「もしかしたら、あなたはただの囮に過ぎないのかも知れませんよ? えっと、ゲルマンシャークでしたっけ? 彼は、イチジクが嫌いですから、あなたを私達にぶつけて、共倒れを狙っているかも知れませんよ?」
     怒りがようやく回復したのだろう、ジョニーの顔の点滅が消える。それどころか、ソルデスの言葉に恐れをなして青ざめていく。
    「……いや、そんな、まさか。でもよく考えたらボク、ゲルマンシャーク様にお会いしたことないし。……ならば、こんなところで争っているバヤイではない! グーテンもるもる!」
     最後のセリフまで噛んで、逃走を図るジョニー。イチジクロードの覇者たる勇猛さはどこへ行ったのだろうか。
    「待て、逃がすかよ!」
     逃げる背中に組みつき、赤レンガダイナミックをくらわすケーニッヒ。個人的な因縁もあるうえ、逃がせば悪事を重ねるのは間違いない。逃がすわけにはいかなかった。
    「ボクが囮ならボクと戦う必要ないじゃないか! さては騙したな。ええぃ許さんぞ! 我を辱めた罪、その命であがなわせてやろう! ゆくのだ、戦闘員! ……あれ?」
     気弱な感じから一転、途中から偉そうな口調に戻る。マスクが怒りで再び点滅する。ただ、戦闘員の全滅にやっと気付いたようで途端におろおろし始める。
    「復活してこれじゃあ情けないっすよ」
     日本刀が西日を反射し、眩い光をまとう。目にもとまらぬ速さで振われた刃はジョニーの足に深い傷を残した。さすがのジョニーも悲鳴を上げ、その場に膝を折る。
    「よくもやってくれたな。だがここまでだ。我の本気を見せてやろう!」
     叫び、ジョニーは虚空に手をかざす。すると、巨大な金色イチジクが現れる。まるまるとした果実は、色さえまともなら美味しそうだ。あぁ、色さえまともなら。
    「これぞ我が切り札、ケーニヒ・イチジクラスターだ!」
     アメフトの要領で投げられたイチジクは空中で爆発、破片をばらまく。しかもその破片そのものも爆発力を秘めている。当たり所が悪ければそれだけで致命傷になり得る攻撃だ。
    「ふははは! 我を敵に回したことを後悔するのだな。もひとつふはははは! あれ!?」
     屋上駐車場が爆風に満たされ、ご満悦のジョニー。だが、灼滅者達はそれらの攻撃をものともしない。爆風の中から立ち上がり、反撃を繰り出す。多くの敵を巻き込もうと散弾を前衛に放ったが、対象が多すぎて攻撃が拡散してしまったのであった。
    「やれやれね」
     百花の足元から影が伸び、ジョニーを包み込む。トラウマを植えつけられたジョニーは何もない空間にごめんなさいを言い続ける。
     イチジクの未来を賭けた戦いはイチジク怪人を惨めなまでに追い詰め、最終局面に突入する!

    ●イチジク怪人は倒れた
     切り札のケーニヒ・イチジクラスターも破られ、ジョニーはこれでもかというほど追い詰められていた。重ねられたバッドステータスはその体を蝕み、行動を阻害する。それでも一矢報いようと、傷付いた柚葉をビームで狙う。
    「もう諦めなって」
     璃音が間に割り込む。日本刀でダメージを削り、削りきれなかった分は自信の体で受け止める。
    「おのれ、おのれおのれおのれおのれぇッ!」
    「年貢の納め時だぜ! 横浜の魂にかけてお前は倒す!」
     懐に潜り込み、拳の連打を叩き込む。ぐらりと姿勢が傾けば、さらに銀河がそこにロックオンマークを重ねる。放たれたビームはジョニーのマスクをこんがり焼き、辺りには甘い匂いが漂う。
    「焼きイチジクって美味しいらしいね? 食べたことないけど」
    「無論だ! ってたべたことないのかよ!」
     ぶすぶす焦げながらもノリツッコミを返す。だが灼滅者は容赦しない。ダークネスと灼滅者は似て非なるもの。そして、決して相容れぬものなのだから。
    「さあ、ご自慢の金ぴかスーツをボロ雑巾にしてやるよ」
     智の目に暗い色が宿る。内に眠る殺人衝動が殺戮経路を導き出す。殺せ、殺せ、こいつを殺せ。内なる声は刃に宿り、バトルスーツをズタズタに切り裂く。金色パーツが破壊され、スーツはオリジナルの姿に近付く。だが、以前の姿とは似つかぬほどそのシルエットは貧弱だった。
    「あたし、果物は蜜柑派なんだよね」
     腕にまとう薄紫のオーラが吸血鬼を連想させる深紅の刃へと変わる。刃はジョニーを断ち切り、返り血で柚葉の傷を癒す。ジョニーにはダメージより彼女の言葉が衝撃だった。
    「それでも、それでもボクは……っ」
    「もうお終いですね」
     ジョニーの限界を悟り、今まで回復に徹していた臣はギターを掻き鳴らす。激しいサウンドがボディを貫き、その体を崩壊させる。どさ、と大きな音を立てジョニーが倒れた。
    「それでも、ボクはイチジクが好きなんだぁっーー!!!」
     絶叫を残し、ジョニーの体が爆散する。以前に比べればヘタレな奴だったが、恐ろしい敵には違いなかった、はず。
     ジョニーの体が赤い煙になって散るのを見届け、灼滅者達は帰り支度を始める。
    「正直、私はあまりイチジクは好きではないのですよね」
     涼しい顔で呟くソルデス。視線の先には意識を取り戻した元戦闘員達がいた。苦手なものを無理やり食べさせられたらと思うとあまりいい気分ではなかった。
    「よっと。大丈夫?」
    「ムリしちゃダメだよ」
     傷付いた柚葉を智と銀河が支える。休めばじきに傷は癒えるだろうが、屋上は休憩するには寒すぎた。みんなでスーパーの店内に下りていく。
     ちょうどいい、と百花は商品売り場へと足を向ける。
    「イチジク、いくつか買って帰りましょ。ものは試しってね」
    「オレも行くぜ。腹減ったしな」
    「あ、僕も興味あります」
     同じくケーニッヒ、臣も続く。ミカンやリンゴといった定番の果物に比べれば、手に取る機会のないイチジク。気になったときはすぐに手に取ってほしいものである。
    (「ゲルマンシャークか。面倒なことになりそうっすね」)
     今日の危機は去った。だが、ジョニーの反応から考えれば、ゲルマンシャークの実在は確実だろう。新たな戦いの予感を覚えるざるを得なかった。

    作者:灰紫黄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ