失恋ガーリー風決闘ダンス

    作者:水上ケイ

     麗は小学5年の地味な女子だった。顔立ちは整っているが目立たない。
     ところがある日。
    「どうしちゃったの、うららん?」
     うららだから、あだ名はうららん。
     いつもは気のいい彼女なのに。
     その日友人はついっと麗に無視された。それだけじゃなくて、何だか雰囲気が違う。普段の麗はダンス部の熱血地味子ちゃん。顔のつくりは良いし、熱血にダンスは練習するけどなぜか花がなかった。
     でも本日は。
     目立たないぱっつん頭はふわふわ風に遊んでいるし、お肌もちもち、瞳はうるうる、出てるオーラが普段と逆のハデハデばびゅーん。
     放課後、校庭で同じダンス部の、モテモテ美衣ちゃんを呼び出してダンス勝負を挑んだ。
    「美衣ちゃん! どっちが凄いダンスを踊れるか勝負だよっ!」
     麗は取り巻きの少年二人を連れて凄む。いつの間にか観客だっていた。
    「エエ……麗ちゃんは練習したんでしょ、ずるい!」
    「ずるくないよ! この前は美衣ちゃんも同じ条件で学習発表会の主役とったよね? そして本番でま……まー君と踊った!」
    「だってあの時は麗ちゃんインフルエンザだったでしょう? あ、も、もしかして麗ちゃんはまー君好きだったの? 転校しちゃう前にはっきり言えばよかったのに……」
    「うっさいよっ。誰でも美衣ちゃんみたいに積極的にはでられないんだよ! もしこの勝負で私が勝ったら美衣ちゃんは、スカートのまま逆立ちで校庭一周ねっ。ほら、見てるみんなの応援とか拍手をたくさん集めた方が勝ちだよ!」
    「ええええ……?!」
     淫魔の力を得た麗は、ライバルどころか先生だって目じゃない凄いのダンスの腕前を披露し、拍手喝采をほしいままにした。それはもう誰がみても麗の圧勝だったのである。
     

    「某小学校でこの、麗ちゃんって子は闇堕ちしてダークネスになりそうなの」
     鞠夜・杏菜(中学生エクスブレイン・dn0031)はむむむ、と表情を引き締めながら皆に話した。
     淫魔、とちょろんと付け加えて杏菜は続けた。
    「普通は、闇堕ちしたダークネスからすぐに人間としての意識は消えちゃうものなんだけど、麗ちゃんはまだ元の人間としての意識を残してるのよね」
     ダークネスの力を持ちながらも、ダークネスになりきっていない状態、なのだ。
    「それで、もし麗ちゃんが灼滅者の素質を持つならば助けて欲しいの。または完全に堕ちてしまうなら、その時は灼滅して下さい……」
     いわば麗は、ダークネスに変化する途中段階といっても良い。
    「ほうっておくと、必ず完全なダークネスになってしまうわ。だから、皆お願いなのよ!」
     
     それから杏菜は今回の状況について説明を始める。
    「今度のケースなんだけど、麗ちゃんを救うためには一つ特殊な条件があるの」
     それは、『ダンスバトルで、麗に敗北を認めさせなければ助け出す事はできない』、というもの。
     その上で、戦闘に持ち込み……というか、負けた麗が殴りかかってくるので、倒してほしいと杏菜は話した。
    「KOすれば、ダークネスなら灼滅され、灼滅者の素質があるなら生き残るわ。と、いう事で……」

     まず、大切なのは名乗りをあげるタイミング。
     麗が美衣を負かすまでは介入してはならない。勝利すると麗は「逆立ち!」と美衣に詰め寄ろうとするだろう。
    「それからが皆の出番よ!」

     場所は放課後の小学校の校庭だが、児童や教師、近所のおばちゃん達などが集まって見物している。この観客からたくさん拍手や応援をもらったチームが勝ち、と麗は言っている。
     衣装で勝負、生演奏や演出で勝負、動きで勝負……何でもあり。とにかく踊って拍手喝采をもらえば勝ち。
    「灼滅者さんなら色々凄いのいけると思うわ。考えてみて」
     杏菜はにこにこと皆を見る。
    「ダンスはどんな形式でも自由よ。複数人が挑んだり、ペアダンスなどでもOKだけど、一人1回だけよ。工夫すれば勝機は十分あると思うので頑張って下さい」
     そして、ダンス勝負で負かすと麗は怒って襲ってくる。
    「校庭がそのまま戦場になるわね。敵は麗ちゃんと取り巻き少年二人。全員にサウンドソルジャーっぽいサイキックを使ってくるわ」
     少年たちは力を与えられているが、大して強くない。また、麗を倒せば正気に戻る。
    「麗ちゃんなんだけど……」
     杏菜はメモをみながら少し麗のことを付け加えた。
     麗には、真琴君という好きな男子がいたが告白できないままに転校してしまった。最後の学習発表会、ペアダンスでこの男の子の相手は美衣に決まった。
    「インフルエンザで練習できないままオーディションでおっこっちゃったとか、勇気がなかったとか……ずっと胸にしまって明るくふるまってた様だけど、ダークネスになって吐き出したみたいね」
     ダンスで勝つことが必須、そのあとに戦ってKOしてあげる。
     その合間に、何かかける言葉があれば、試してみてもいいかもしれない。

     もしダンス勝負で負けた場合は、彼女は助けられない。
    「その時は麗ちゃんは勝ち誇って去るので、戦闘を挑んで灼滅してください……」
     
    「皆をあっと言わせるようなダンス、お願いね。それにできたら、麗さんを学園に誘ってあげるといいかもしれないわ。その辺は皆にお任せしますね」
     宜しくお願いします、と杏菜はぺこり頭を下げた。


    参加者
    蓮華・優希(かなでるもの・d01003)
    レオノール・アンプレティカ(ダンデライオン・d02043)
    一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)
    一橋・聖(空っぽの仮面・d02156)
    クラリーベル・ローゼン(青き血と薔薇・d02377)
    海堂・月子(ディープブラッド・d06929)
    繊月・緋桐(フラクタルシンフォニー・d07596)
    ウィクター・バックフィード(モノクロの殺刃貴・d10276)

    ■リプレイ

    ●放課後の校庭で
    (「淫魔のダンスバトルか。次から次へと色々あるね……」)
     一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)は観客に混じって事の成り行きを見守り、介入のタイミングを計っていた。
     美衣に続いて淫魔の麗が小学生とは思えない凄いダンスを踊る。
     観客の拍手喝采、そして麗が勝ちを宣言した――その瞬間。
    (「いま、かな?」)
     暦はさっと歩み出て、麗に挑戦した。
    「今度は、私達と勝負だ」
     もちろん、彼女は一人ではない。
    「――今度は私と踊ってくれない?」
     海堂・月子(ディープブラッド・d06929)が悪戯っぽく笑って。蓮華・優希(かなでるもの・d01003)が静かに月子の傍に立つ。
     一橋・聖(空っぽの仮面・d02156)はやる気満々、レオノール・アンプレティカ(ダンデライオン・d02043)と一緒だ。一歩下がってウィクター・バックフィード(モノクロの殺刃貴・d10276)は温かく麗と美衣を見守っている。
     そして事前打ち合わせでもしていたのか、クラリーベル・ローゼン(青き血と薔薇・d02377)と繊月・緋桐(フラクタルシンフォニー・d07596)が最後に登場した。
     麗はさすがに驚いていたが、不敵な笑顔で受けて立った。
    「いいよ。私に挑戦するなんてどんな人達か興味あるよ。拍手が一番多かった人が勝ちだからね?」
     まずは麗が踊った。ポップな曲に合わせて、小柄な身体がマジックみたいに動く。観客の拍手は大きく、麗は余裕たっぷりに次の踊り手を指名した。
    「そこの忍者みたいなお兄ちゃん!」
     指差されたウィクターはニッと口の端を上げて。
    「一番ですか? 大トリのつもりだったんですが……緊張してきましたね」
    「ニンジャ~どんなのかな~?」
    「はい。――忍者ですが、なにか?」
     淫魔の挑発に余裕の真顔で応え。
     ウィクターは曲に合わせて動き始めた。手にするのは彼の殲滅道具『Denial of light and the dark』、披露するのは剣舞である。
     彼はネットの動画を参考に練習し、動きは様になっていた。剣をとれば、思い浮かべるのは今まで戦ってきた都市伝説やダークネス。それをまさしく切り伏せるように、ウィクターは動く。
     観客は普通に拍手をくれたが。
    (「やはり、これだけではインパクトが足りませんよね」)
     ウィクターには奥の手があった。
     掛け声と共に跳ぶ。
    「ハッ!」
     観客がどよめいた。
     電光石火、ウィクターは三階建ての校舎の壁を疾走する。剣を手に舞い、跳ね、考え付く限り、アクロバティックな動きをやって見せた。
     再びフィールドに立って一礼した時には大きな拍手が彼を包んだ。
     その反応は麗の時と比べても遜色がない。
    「うーん、本当にお兄ちゃんニンジャ? でもダンスじゃ麗だと思うんだよね……面白くなってきたよ。次は誰かな?」
     麗の目は輝いていた。
    「私がやるよ」
     暦がフィールドに立つ。ちなみに音楽はダンス部が引き受けてくれた。
    (「観客へのパフォーマンスだけど、まず自分が楽しまないとね」)
     暦はストリート系のダンス、ヒップホップやブレイクダンスを中心に勝負をかけた。事前の調査、練習は当然やってきた。
     暦が目指したのはスタイリッシュなダンス。曲に合わせ、決めるところはきっちりと決めて抜くところは抜く。
    (「素人なりに真剣勝負だよ」)
     そして、暦にも切り札があった。
     音にのって飛ぶ。速いリズムにのせて空中でもう一度、暦は高く空を翔けた。ダブルジャンプである。ESPをふんだんに取り入れたダンスで暦は観客の目と心を奪った。
     盛大な拍手に包まれてダンスを終えると麗がじっと見つめていた。
    「お姉ちゃん、ダンスが好き? ダンス部に勧誘したいくらいだよ。でもやっぱりダンスは麗が……」
     麗は口をつぐんだ。観客の反応で勝敗を決めると言った事を覚えているのだろう。
    「と、とにかく後の人達のも見せてもらおっか」
     そんな麗を、きりっと見つめる視線。
    (「ダンサーとして、負けるわけにはいかないよね。何より楽しんで踊ってない娘になんて特には、だよ」)
     聖、颯爽の登場だ。ペアのお相手はレオノールで彼としても気持ちは同じだ。
    (「麗さんの気持ちも分かりますが負けられませんね」)
     彼等が選んだのは最近流行の一曲。傾向としては麗が踊ったものと似ているが。
    (「あえてそこなんだよ……」)
     聖が元気に可愛らしく踊りだす。普段の学生服で、幼く見える外見を最大限に利用し、見てるとわくわく楽しくなる。
     レオノールは正直ポップティーンダンスなど余り経験がなかった。
    (「あちらは相当の実力者、此方だって負けません……」)
     レオノールは麗にダンスを楽しむ心を思い出して欲しかった。
     いつの間にか観客から手拍子が起こる。みんなが二人のダンスを応援してくれる。
     しかし、さらに聖にはダメ押しの秘策があった。
    「さぁ、いっくよ~~っ!」
     翻るスレイヤーカード。
     服装チェンジ、エイティーン発動!
     まーそんな理解をしたのはレオノールはじめ灼滅者達だけで。
     一体何のマジックか、観客がみたのはキラキラ輝く、眩しい光に包まれる聖の姿である。再び光の繭を脱ぎ去ると彼女はガラっとイメージチェンジを果たし、ガーリッシュながらも、大人っぽいアイドル系ステージ衣装で観客に投げキッス。その姿は最早妖艶とさえ言えた。レオノールが聖と仲の良さを見せ付けるようにステップを踏んで盛り上げる。
     聖は曲のラスト、サビの部分に合わせてこの演出をとりいれたので、会場は物凄い盛り上がりを見せた。
     やがて聖とレオノールが仲良く退場すれば、麗が悔しがった。
    「何なの! それってひ、ひ……」
    「卑怯? 褒めてくれてありがとう!」
     聖はにっこり微笑みさえした。対して少しずつ、麗の態度に余裕がなくなってきたが、それでも全員のダンスがみたいって気持ちは抑えられないようで。
     やけくそ気味に麗は言った。
    「んもお、次の人!」
     ……ってことで、次はクラリーベル、緋桐組が優雅に登場する。
     緋桐はマフラーとウィザードハットをはずし、靴と髪飾りは派手目なものを選んできた。もちろん、クラリーベルを引き立てるように気遣いは忘れない。
     クラリーベルがスタッフに曲をお願いし、準備が整うと執事服の緋桐がすっかりその気で言った。
    「お嬢様」
     パートナーに応えるように、クラリーベルはスッと背を伸ばす。
    「それでは華を魅せつけようか」
     観客からわあっと拍手が湧いた。
     それもそのはず、登場と同時にクラリーベルはプリンセスモードを発動し、観客の視線を一身に集めたのだ。
     そして、ワルツが始まる。
    (「貴族の家に生まれたゆえ教養として修めていたが、まさかスレイヤーとしての戦いに使う事となるとは。正に『備えあれば憂いなし』だな!」)
     クラリーベルはそんな事を思いながら、容易に緋桐にかしずかれる姫君になりきった。衣装は青、クラリーベルが大好きな色をふんだんに使った豪華なドレスだ。
    「(リードはみどもに任せてくれ。ついてきてくれれば大丈夫だ)」
     緋桐に囁くと、彼は恭しくそれに従った。踊りながらも土くれで衣装が少しでも汚れようものなら、さっとクリーニング。
     ダンスの中で緋桐は時に自分の役を愉しく演じ、クラリーベルを引き立ててパートナーに徹する。
    (「今この瞬間は、王子様とお姫様のように。夢を魅せよう。そうすればきっとこの勝負、勝てる」)
     観客の憧れのまなざしを感じる。特に小さな女の子達の。
    (「小学校の放課後であるし、やはり観客は小学生が多いはず。それならば王子様と姫という雰囲気を出せるワルツは、小学生の特に女子からの支持をまず確実に得られると思うのだ……」)
     クラリーベルの思惑どおり、二人は盛大な拍手をもらい、低学年の女の子達は寄ってこようとさえした。どうもドレスに触りたかったらしいが、母親やダンス部のスタッフに止められていた……。
     麗は悔しさに羨ましさが混ざった視線で二人を射た。
    「次は私と踊りませんか、麗お嬢様」
    「ドレス持ってないッ!」
     大真面目に緋桐が揺さぶりをかけると、新米淫魔の鋭い一瞥が返ってくる。
    「……こうなったら、全員分見届けさせてもらうよ」
     まだあと一組残っている。彼等はそちらに目を向けた。

     最後の組が踊るのはフラメンコだった。
     優希と月子の登場に観客は拍手を送り、次いで訪れる期待をこめた静寂、緊張の間合い……その一瞬に音が生まれた。
    (「孤独の音に乗せてカンテ開始……」)
     歌声が校庭に響き、聞く者の心に深く音が沈んでゆく。
    (「カンテからバイレに」)
     歌から踊りに。
     優希はさっと月子の手をとった。
     それは同時に、孤独から喜びの表現へと彼等のパフォーマンスが変化する瞬間だったが、ここで二人は一気にESPを発動した。
     月子がラブフェロモンを、優希はスタイリッシュモードを。情熱的な二人のペアダンスに物凄い声援が飛ぶ。
     月子への愛に溢れ、優希の衣装に感銘して、拍手歓声が渦巻いた。
     月子が爪先と踵で小気味のいいリズムを刻む。片手のカスタネットと優希の衣装につけた鈴の音が、調和し熱く思いを伝える。
    (「二人の呼吸を合わせて一体感を作り出す。それは一人では出来ない事なのだから……」)
     月子の舞踏にこめた思いを。
    (「信頼、安心感、二人だからできる踊りを……」)
     優希にも目指す舞踏があった。
     刻まれる音と共に踊りながら優希には、それが確かに今、二人の間に存在するように思われた。
     月子がふと囁く。
    「アナタとは不思議と初対面の気がしないの、何故かしら?」
    「ボクもそんな気がする」
     やがて二人のダンスは最高潮に達した。
     優希がブラッソ(手の動き)で観客に掛け声を煽る。月子もさりげなくアピールした。
     会場は再び沸いた。
     熱狂する人々の中でただ一人、彼等を凝視する顔がある。
     優希は麗にも、舞踏を通して訴えかけようとした。
    (「人と人の繋がりの喜びを、闇に堕ちかける心に自分自身であり続けるためのブラッソを。強く自分の心を持つための心からの声援を――」)
     麗の瞳に浮かぶ負の感情に気づいた灼滅者もいた。悔しさ、怒り、妬み、寂しさ……それらは麗の闇堕ちに深く関わった感情かもしれない。
     これまでの成果をみても、灼滅者達の勝利はもう明らかだった。
     最後の舞踏が終わった時、麗はただ一人拍手をしなかった。ただ一人だけ笑顔がなかった。取り巻きの少年二人もだが、彼等は心がないも同じ事。麗の『配下』なのだから。

     ダンスが全て終了すると、人々はさっさと帰ってゆく。麗は二人の少年を従えて、8人と対峙した。
    「……ま、……負、けた」
     麗は自分の課したルールに照らして、負けを認めるしかなかった。ぎゅっと拳を握り、まだ小学生の小柄な身体が震えた。
    「でも、私…………」
     言葉が続かない。揺れる視線が優希と出逢う。
    「かつての君は弱かった。でも、今の君は勇気をもって輝けているじゃない」
     優希は堕ちかけの淫魔の少女に静かに話した。
    「自分を心の闇に明け渡さないで? 強く、その場に立てるよう、ボク達が手伝う」
    「あ、あの…………」
     瞳に迷いを浮かべ、麗は灼滅者達を見た。一人ひとりが心をこめて、工夫を凝らして、踊ったダンスは麗の心に何かを贈り届けることができたのだろうか。
     だが、次の瞬間。
     麗はさっと間合いを取った。瞳は既に爛々と輝いている。
    「違ーう! なんか今変なキモチになったけど。負けても、みんなを倒せば私の勝ちなんだよ。歌って踊ってエッチもできるスーパー淫魔アイドル、ラブリンスター様のためにッ、死んでよねッ!」

    ●愛鈴星?!
     なんだそれは、と一瞬灼滅者達は思ったがここで死んであげるつもりはなかった。
    「溺れる夜を始めましょう?」
     月子がしなやかに受けて立つ。くすりと笑って手をかざすと影が花弁のように舞い上がった。花びらはそのまま麗の身体に絡み、縛り上げる。
    「私がアナタを縛って上げる!」
    「いやーッ!」
     淫魔はダン、とステップを踏むと同時に影業を払い、熱いダンスで仕掛けてきた。
    「善悪無き殲滅(ヴァイス・シュバルツ)」
     解除コードと共に暦の影が動き出す。それは幾重ものチェーンとなって少年の一人に襲いかかった。レオノールは光輪の盾で暦を護る。
     そしてウィクターは、目にも留まらぬ速さで日本刀を抜き、居合いと共に少年を斬り伏せた。
    「手加減付き、居合!」
     灼滅者達が少年二人を無力化するまでに時間はかからない。

     一方、麗とのダンスバトルはここにきて真剣勝負になった。
    (「踊るからには戦闘でも最後まで踊ってみせましょう」)
     Keep your dignity――緋桐が解除コードと共に決心した様に。
     灼滅者達の多くが、麗に熱く舞闘を挑んだ。
     クラリーベルは炎を青薔薇とよぶ殲滅道具の、細身の刀身に宿して。
    「ソウル・ペテルちゃんはディフェンダーね」
     聖はビハインドと連れ舞う如くダンシング・クイーンをかざし光の刃を撃ち。
     そして月子は麗に呼びかけた。
    「アナタの踊りとても素敵だったわ。今からでも遅くないんじゃない? 想いの彼に連絡とかね」
     はっと動きを止める淫魔に麗の表情がうつろう。
    「闇に染まれば恋もそれでおしまいよ?」
     踊るようにステップを刻み、悪戯っぽくウインクをしながら。
    「オーレ!」
     月子は再び優希と見事な呼吸を見せた。
     熱く踊りながら優希が挑発する。
    「本気の踊りを見せて?」
     果たして麗の心を残す淫魔に渾身のダンスは踊れたのだろうか。
     結局、手下二人を早々に倒されて、成り立て淫魔は灼滅者8人に勝てなかった。
     暦が足がもつれる淫魔に縛霊手を振り上げ、引導を渡す。
    「この勝負、私たちの勝ちでいいね?」

    ●学園への誘い
    「死んではいないな、良かった」
     緋桐が倒れた麗の傍に膝をついた。失恋の痛手を和らげる魔法があればと彼は思ったが、闇から救えたからには、きっと彼女が自分で越えてゆくに違いない。
     再び麗が目を開けると、ウィクターが声をかけた。
    「あなたには光るものがあります。どうです、私たちのところで磨いてみませんか?」
    「お兄ちゃん達の所……? 負けたのに?」
     レオノールが急いで声をかける。
    「勝つ事も時には必要かもしれない、けれども楽しむ心は忘れないで下さい。勝ち負け、結果が全てでは無いんです」
    「そうだ……ね」
     麗は頷き、そして初めて気づいた様に問いかけた。
    「それで、みんなは一体誰なの?」
     そこで暦が説明する。
     自分達の事、武蔵坂学園の事、灼滅者の事。
     それから一つ聞いた。
    「さっき言ってた、らぶりんって誰?」
     麗は思い出す様に少し首を傾げる。
    「あのね、何か変な声が聞こえて力がわいてきたんだー。でもよくわかんない。ご免ね」
     暦は頷き……もう一度麗に問いかけた。
    「で、学園に来ない?」
     今度は笑顔が返ってくる。
    「ダンス部あるかな?」

    作者:水上ケイ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 16
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ