ざっぱーん! と書き文字を加えたくなる大海原。
それを見ながらその男はしみじみと呟いた。
「……海か。でかくていいな。そして、ここにいるんだなぁ、アイツも」
男はそう大海原の大きさに感動しながら、言った。
「――鮫。強いんだろうなぁ、うん」
男はアンブレイカブルであり、事の起こりはたまたまTVで見た鮫の特集であった。
まさに海の覇者。暴虐の限りを尽くす暴力的存在――男は欲したのである、鮫との戦いを!
……言葉にするとものすごく間の抜けた状況だが、男は大真面目である。ホクホク顔で港へと近付いていく。
「まずは、鮫に会うために船を確保しないとな!」
船を操るのはこの大海原に挑む海の男だと言うではないか――ならば、その強さを味わうのも一興だろう。
「うん、まさに一石二鳥だな」
男はそう満面の笑みで埠頭を歩き出した……。
「……冗談になってないんすよ」
湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)はツッコミが間に合わない、という疲れた表情で言葉を続けた。
今回、翠織が察知したのはダークネス、アンブレイカブルの行動だ。
TVで見た鮫の特集を見てアンブレイカブルは思ったのだと言う――戦いたい、と。
「もう根本から噛み合わないと言うか……」
翠織はこめかみを抑えつつ唸る。しかも状況は雪崩式に悪化していき、鮫を探すために船を確保しよう、から、そのついでに海の男の強さも味わってみよう――そんな流れになってしまうのだ。
「もちろん、漁師さんで勝てる相手じゃないっすから。放置すれば犠牲者が出てしまうのが困りどこっす……」
ええ、止めてくださいっす、と翠織は念を押した。
アンブレイカブルは早朝の埠頭に姿を現す。漁師達は漁から帰って来る最中だ、このタイミングを利用するのだ。翠織は埠頭の地図、その一つを指差した。
「とにかく、倉庫街のこの普段は使ってない倉庫に挑発しておびき出して欲しいっす。ここなら、周囲にも被害は出ないっすから」
今のアンブレイカブルはノリノリだ、少し挑発すればオードブルだと言わんばかりに乗ってくるだろう。倉庫自体は今はまったく使われておらず、戦う分には申し分ない環境だ。思い切り戦って欲しい。
ただし、アンブレイカブルはこんなノリでも実力はある。アンブレイカブルのサイキックに加え龍砕斧のサイキックも使いこなす。油断すれば本当にオードブルにされかねないだろう。
「きちんと戦術を練って、対処に当たって欲しいっす。漁師さんもこんなヤツのこんなノリで犠牲になるなんて浮かばれない事この上ないっすからね」
頑張ってくださいっす、と翠織は真剣な表情でそう締めくくった。
参加者 | |
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千菊・心(中学生殺人鬼・d00172) |
鹿野・小太郎(バンビーノ・d00795) |
犬神・夕(黑百合・d01568) |
苑・バサラ(金剛夜叉・d02157) |
ライラ・ドットハック(サイレントロックシューター・d04068) |
汐崎・和泉(翡翠の焔・d09685) |
下総・水無(フェノメノン・d11060) |
レスティール・アルファルナ(くろねこ・d13482) |
●
(「まったく、自分の楽しみのために周囲に被害を与えるなんて、迷惑極まりない話ですね」)
まだ夜の気配が残る夜空を見上げ、千菊・心(中学生殺人鬼・d00172)が心の中で呟く。倉庫の物陰に身を潜めていた心はレスティール・アルファルナ(くろねこ・d13482)が言うのを聞いた。
「来たですよ」
その言葉に早朝、冬の冷たい潮風の中を一人の男が歩いていく。
だが、寒さに震えた様子は一切ない。むしろ、人を拒むようなその寒さこそ心地いい――そんな表情だ。何故ならそれは、寒さにさえ抗える事の証明だからだ。
埠頭を歩く男が不意に足を止める。雄大な海原を一望しようとしていたはずの男が、だ。
「なァそこのヒト。オレらとちょっと手合わせしてみねぇ?」
「こんな朝っぱらから随分とおっかねえ殺気じゃんか」
埠頭に立ついくつかの人影、その中でガトリングガンをこれ見よがしに担いで自信に満ちた笑みを浮かべ汐崎・和泉(翡翠の焔・d09685)が言い捨て、苑・バサラ(金剛夜叉・d02157)も真っ直ぐに言い放った。
「素人さんに手を出すくらいなら、私たちと遊びませんか?」
その横に立つ下総・水無(フェノメノン・d11060)はそう言うと身長よりも大きな槍と杖を手にそのホワイトホークのオーラを翼を広げるように展開する。
「こちらは手練れが複数人です。きっと楽しいですよ」
「へぇ……」
男が笑う、その笑みにバサラが総毛立った。もしも人間の殺意がスイッチ一つでオンオフが出来るのならばまさにこれの事だろう――カチリ、という男が聞こえそうなほど明確に男の殺気が増したのだ。
「……わたし達は鮫より強い、よ。試してみる?」
「別に構わないぜ? 肩慣らしには丁度よさそうだ」
ライラ・ドットハック(サイレントロックシューター・d04068)がその蒼空の闘気と共に言う男――アンブレイカブルはあっさりと言い捨てる。
「で? ここでやんのか?」
「そこに空き倉庫がある、そこで存分にやろうぜ?」
食いついた、と和泉が親指でその方向を指し示せば、アンブレイカブルは迷わず歩き出した。
その倉庫はもう数年間使われていなかったのだろう、埃の舞う濁った空気をしていた。しかし、その空気もすっかりと入れ替わっている――その中心で屈伸運動していた犬神・夕(黑百合・d01568)が振り返った。
「来ましたか」
言い捨て、夕が吐き捨てる。その身が黄金に染まり、その瞳が獰猛な獣の戦意を抱くのを見て、アンブレイカブルは肩をすくめた。
「お邪魔しますよ、っと」
鹿野・小太郎(バンビーノ・d00795)がフードの下で笑みを浮かべ、言い捨てる。アンブレイカブルが倉庫へ入った直後、心やレスティールと共に倉庫へと飛び込んで来たのだ。
「漁師さんは魚を採ってくるいい人達だから犠牲にするわけにはいかないのです」
レスティールがキッと睨み付け、そのドス黒い殺気をアンブレイカブルへと放った。その鏖殺領域を真正面から受けながら――アンブレイカブルがその瞳に歓喜を漲らせた。
「――先に言えよ、こういうのはよ」
その殺気をアンブレイカブルは手刀で切り刻む。そして、その両手を広げた。
西洋の竜がその両翼を広げたのかのごとく――駆けたアンブレイカブルが素手による龍翼飛翔によって灼滅者達を切り裂いた。
「八人と一体か、いいぜ――これだけ揃って初めて、噛み砕き甲斐があるッ!」
高らかに笑うアンブレイカブルへ、灼滅者達は挑みかかっていった。
●
「ハッ!」
切り裂かれた、その事実に笑みがこぼれるのを止められずバサラが踏み出した。
「面白い!」
小細工はない、真正面から踏み込んだバサラの鍛え上げられた拳が繰り出される。アンブレイカブルも真正面から迎え撃つ――鈍い打撃音が倉庫内へと響き渡った。
アンブレイカブルが前へと踏み込み、バサラの鋼鉄拳をその額で受け止めたのだ。ズサァッ! とアンブレイカブルの踏ん張った靴底がコンクリートの上に黒い焦げ跡を残す――バサラは悟る、振り抜けないその拳の意味を。
「踏み込み、体重の乗せ方、打撃点の見極め、どれを取っても文句のねぇ拳だぜ? 小僧」
そう褒めるアンブレイカブルへ心が動く。
「では、灼滅を始めましょう」
自身に言い聞かせるようにそう告げた心がガンナイフの銃口を向け、引き金を引いた。アンブレイカブルが足場を蹴った瞬間、その弾道が曲がる。
「……Gae Dearg on」
ライラはその呟きと共にゲイ・ジャルグを手にした。心のホーミングバレットの銃弾を素手で受け止めたアンブレイカブルへとライラはゲイ・ジャルグの切っ先を向け、その魔法の矢を射出する。
アンブレイカブルへとその魔法の矢が突き刺さる――そこへ和泉が駆け込んだ。
「さぁ、オレと楽しいこと、しようぜ!」
その胴部へ和泉がマテリアルロッドを振り払う。アンブレイカブルはその拳に雷を宿し、そのまま振り上げた。
マテリアルロッドの衝撃と拳が相殺し、互いに後方へ跳ぶ。だが、和泉の攻撃はまだ終わっていない。
「―――ハル!」
その呼びかけと同時、霊犬のハルの六文銭がアンブレイカブルの脇腹を穿つ。一人と一体のコンビネーションにアンブレイカブルが苦笑すると、水無はウッドペッカーを手にアンブレイカブルへ間合いを詰めた。
その槍が唸りを上げて回転する――水無の螺穿槍とアンブレイカブルの正拳突きが真っ向から激突した。
「ほう?」
アンブレイカブルが感嘆の声を漏らす。水無が槍を振り上げて遠心力を利用して後方へ跳んだその瞬間、その下を掻い潜り小太郎が踏み込んだのだ。
アンブレイカブルは突き出した拳を引き戻せていない――そのがら空きの胴へと鬼火に似たそのオーラの無数の輝きが人体の急所へとことごとく叩き込まれた。
最後に顎を掌打で打ち抜いた小太郎が目を丸くする。小柄ではあるが速度が乗り丁寧に体重を乗せた一撃一撃は重い――だが、その小太郎の打撃が振り抜けなかったのだ。
アンブレイカブルの蹴りを飛び上がりその蹴り足を足場に小太郎は間合いを開ける。フードの下でその鮮やかな黄緑の瞳が鋭い色を帯びた。
「うん、あれは鬼だね、本当に」
「実力に関しては折紙つきのようだ……全力で死合うとしよう」
小太郎の呟きを聞き、夕が構えと共にその竜因子を開放する。そこへアンブレイカブルが踏み込んだ。
「おう、なかなかに面白いぞ、テメェ等!」
その手刀が大上段から振り下ろされる。素手による龍骨斬りに切り裂かれながら夕は動きを止めない。そのしなやかな動きはまさに野生動物のそれだ。
「まったく、危ないやつなのです」
分裂させた小光輪を盾として飛ばし、レスティールが夕を回復させる。それを見て、アンブレイカブルは笑みを濃いものにした。
「さぁ、存分に食らいついてきやがれ! 前菜で終わるかどうかはテメェ等次第だ!」
「上等だ!」
アンブレイカブルの言葉にバサラが吼える。剛と剛――真っ向からの死闘が加速していった。
●
薄暗い倉庫の中で激しい剣戟が鳴り響く。
一人としてその足を止める者のいない目まぐるしい攻防――水無が回り込みながら言い放った。
「一撃で駄目なら百撃打ち込むまでです!」
水無の純白の輝きが薄暗闇に無数の軌道を描く。アンブレイカブルはそれを払い、流し、受け止めるが水無の手数が勝った。そして、オーラが翼のように広がり水無は後方へ跳んだ。
「――オオオオオオオオオッ!」
そこへ入れ替わりに跳びこんだ夕がその狼の牙を思わせる指を立てた両腕を振るった。その正中線五段突きがことごとく、アンブレイカブルに突き立てられるが、その動きは止められない。
「鬼さんこちら」
だが、その動きに小太郎は追随する。無骨な鉄鎚を噴射、加速させ遠心力込みでアンブレイカブルの胸部へと叩き込んだ。
「お!」
鈍い打撃音が響き、アンブレイカブルが一瞬その動きを止める。そこへ心が踏み込んだ。
「あなたの殺戮経路、見切りました」
心の振るうガンナイフが零距離で振るわれる。その間合いだからこそ出来る精妙な刃の動きでアンブレイカブルを切り裂いていった。
そして、アンブレイカブルは自身の背中に触れる手に気付く――バサラだ。
アンブレイカブルが振り返るより早く、バサラのオーラキャノンが零距離で炸裂した。アンブレイカブルは笑い声を上げながら吐き捨てる。
「おうおう、半端者もこんだけ集まればやっぱ面白れぇなぁ、おい!」
「そうかい。ンじゃア、オレらはアンタを倒して、オレらはアンタより強いって証明をしてみせるぜ?」
和泉のガトリングガンが銃弾の雨を叩き込み、ハルが六文銭を射撃する――だが、その直後、アンブレイカブルはその両方の手刀で前衛を切り裂いた。
「……だから?」
だが、ライラは迷わず突っ込む。その螺旋の軌道を描くゲイ・ジャルクがアンブレイカブルの右肩を深々と貫いた。自身が傷を受けても怯まない、だからこそ鋭いその一撃にアンブレイカブルも苦笑する。
「ったく、壊れたのやらウロチョロした猫みてぇのやら、色々いやがんな!」
「フカー!!」
そのアンブレイカブルの発言に怒ったのはレスティールだ。渾身の力で引き絞った彗星撃ちがアンブレイカブルの左肩に突き刺さる。
「猫と人の区別もつかねぇですか、脳筋」
「そういうとこが猫っぽいんじゃねぇ?」
レスティールへアンブレイカブルは言い捨て、足場を蹴る。その狂える武人の姿にバサラはしみじみと呟いた。
「流石だな……鮫よか怖ぇわ」
その表情は恐怖と楽しさが混在して笑顔になっている。目の前のこの狂える武人は強い――それは手当たり次第に食い散らかす陸の鮫を思わせた。
(「イカれた発想する人嫌いじゃないけどね」)
鮫と戦いたい、など普通の神経では考え付かないだろう、そう小太郎は思う。ただ感じるのは、目の前のこのアンブレイカブルはただ疑問を解きたいだけなのだろう、という事だ。ただ、強い奴がいると聞いたから自分とどちらが強いか比べてみたい――そんな純粋な好奇心しかないのだ。
「オレもさ、試してみたくなったよ」
小太郎が踏み込む。アンブレイカブルが退く。試してみたいのは、自分のこの動きがどこまで通用するか、だ。
小太郎は踏み込みと同時に跳躍した。アンブレイカブルは退いた瞬間に蹴りを薙ぎ払う――その蹴りを小太郎は足場に更に高く跳躍した。
「前菜だと思った? 残念、フルコースでした」
空中でオーラキャノンを叩き込み、小太郎はその反動でバク宙して着地する。アンブレイカブルは両腕を構えてそのオーラの砲弾に耐えるが、心が言い放った。
「あなたを殺すための特注の弾です。逃がしませんよ」
銃声が鳴り響く。その銃弾はアンブレイカブルを逃さない、心の忠実な猟犬となった銃弾は獲物の肉を抉った。
「行くですよ、水無ちゃん」
「はい」
レスティールの放った彗星撃ちの矢が受け止めようとしたアンブレイカブルの腕を貫く。そして、その間隙に間合いを詰めた水無がブッポウソウを横一閃振り抜いた。
「傍若無人の輩よ、いざブッポウソウの声を聞け!」
ガードに構わず叩き込んだ水無のフォースブレイクの衝撃が、アンブレイカブルの両腕を弾き飛ばす。
その懐へライラが踏み込んだ。
「……わたしの拳は見た目ほど軽くはない、よ?」
その空を思わせる蒼のオーラが宿る両拳をライラがアンブレイカブルへと叩き込んだ。鮮烈なオーラが輝く中、アンブレイカブルが動く!
「っらああああああああああ!!」
その拳がライラへと放たれた。だが、それを夕が許さない。自らその軌道上へ飛び込み、その鋼鉄拳の一撃を受け止め宙を舞った。
そのアンブレイカブルの足を刈り、宙に浮かせたのはバサラだ。そしてバサラがその胴を素手で掴んだ瞬間、夕が着地と同時に助走をつけて疾走、アンブレイカブルの顔面をアイアンクローで掴むとバサラと同時に勢いそのまま足元へと叩きつけた。
「……貴様はそのまま寝ていろ」
「まだ、まだぁ!」
夕の言葉にアンブレイカブルが飛び起きようとする――しかし、そこには既に和泉がマテリアルロッドを振り上げ、ハルが駆け込んでいた。
「これで、終わりだ!」
振り下ろしたマテリアルロッドの合わせて落ちる一条の電光とハルの斬魔刀が同時にアンブレイカブルを捉える。それに力なく倒れたアンブレイカブルへ小太郎が言った。
「割とイケてたでしょ? オレ達」
その言葉にアンブレイカブルは遊び倒した子供のように満面の笑みを見せ、崩れ去った……。
●
「はぁ……今回はとても疲れました」
精神的にと言外に匂わせる心に同意するようにライラも深いため息をこぼす。そこにはアンブレイカブルの強さに対する感嘆が込められていた。
「……強さは本物だけど、戦う理由が単純。理念や利益のない戦闘をして何の利益があるのかな?」
強さを素直に認められたからこそ理解できない、とライラは更に深いため息を漏らした。
「胃袋がエマージェンシー。……海鮮な朝ごはん食べたい」
小太郎がお腹をさすりながらそういうとレスティールがぱんと笑みと共に手を叩く。
「今の時間なら、市場の様子を見るのも悪くないのです」
「おお! 何か期待できそう!」
何せ捕りたての魚だ、鮮度は保障付きだ。おいしそうな魚が見つかれば晩御飯に出来るですし、とレスティールも自分の思いつきにご満悦だ。
「それなら、バベルの鎖の効果があるとはいえ、あまり長居したくもありませんしいきましょうか?」
心が言うと、灼滅者達は笑みを交わして歩き出す。自分達が守り抜いたその魚の数々は、戦いの空腹を癒してくれるだろう……。
作者:波多野志郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年2月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 18/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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