ハブマングース男・ツヴァイ! ~沖縄伝統破壊計画~

    作者:空白革命

    ●愛なきご当地怪人
    「ハーブハブハブハブ! 今からこのお土産屋さんは破壊するハブ! そしていやらしいおじさんたちにバカ受けな秘宝館を建ててやるグース!」
     両腕をハブ型に、頭をマングース型にかたどった男が機関銃を両脇に構えて乱射していた。
     無論、腕も頭もあくまで怪人スーツ。体には沖縄は石垣島特産ミンサー織りによるかりゆし(沖縄製アロハシャツだと思っていい)が装着されている。
     うひーといいながら頭を引っ込める店員さんたち。
     が、その中の一人がはっとして顔を上げた。
    「おまえが手に持っているのはグロスフスMG42機関銃!? なぜそんな武器を……ボディはしっかりと沖縄愛が感じられるのに!」
    「ククク、そんなに不思議か? ならば冥土の土産に教えてやろう。かつて灼滅者に倒されたハブマングース男だが……ゲルマンシャーク様のお力によりこうして復活したのだ! さあ戦闘員ハブマンたちよ、奴らのマブイを取り上げ、この建物もぶちこわしてしまうのだ!」
    「「ハブゥー!」」
     ウォーハンマーを担いだ全身タイツの戦闘員たちが屋内になだれ込み、シーサーの置物やおいしいちんすこうなどを片っ端から破壊してしまう。
     どころか店員さんやお客さんを張り倒し、お店の水槽にぶち込んで遊ぶという残虐さまで見せていた。
     そう、沖縄の独特で新鮮な魚介類をよりおいしく観光客の皆様に食べていただくための水槽に、人をぶち込んだのだ! なんという悪行か!
    「ハーブハブハブハブ! 貴様たちは墓場から見ているがいい、この沖縄がいかがわしいものだらけになり、汚れた金でいっぱいになっていくさまをなあ!」
     
    ●沖縄の風土をばかにするな!
    「ゆ……許せねえ! 大地と共に眠り風に歌って生きる、自然を愛する沖縄のご当地怪人がこんな所行をするとは……!」
     強く歯を食いしばる神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)。
     しかし今注目すべき問題はもう少し別にある。
    「今回活動を察知したご当地怪人『ハブマングース男・ツヴァイ』……この怪人はたしか過去に倒したはずだが、復活してしまったようだ」
     ダークネス・ご当地怪人。
     彼らが復活するという話を聞いたことはない。
    「何かが動いている……ということなのかもしれないな。だが、今はこいつを倒さなくては、沖縄のお土産屋さんが破壊されてしまう」
     
     ハブマングース男ツヴァイは強力なダークネスだ。
     5人程度の全身タイツ型眷属『ハブマン』を従え、強力な機関銃射撃や格闘技を使ってくるだろう。
    「必要な流れとしては……お土産屋さんの店員や客を避難させること、戦闘員たちを倒して破壊をやめさせること、そしてハブマングース男を倒してこの活動自体をやめさせることだ」
     決して楽なことではない。
     だが……。
    「沖縄県民の愛のため、自然と共に生きる彼らのマブイ(魂)のため、どうか力を貸してやってくれ!」


    参加者
    霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)
    椎那・紗里亜(魔法使いの中学生・d02051)
    逢坂・兎紀(依存症の殺人兎・d02461)
    久織・想司(妄刃領域・d03466)
    黒咲・瑞穂(黒猟犬・d05998)
    名越・真一(千色の鎮魂歌・d08420)
    獅子堂・かなめ(牙猫・d13332)
    諫早・伊織(艶麗孤影・d13509)

    ■リプレイ

    ●風土の愛よどこへゆく
     がたごとと揺れるバスの中。
     諫早・伊織(艶麗孤影・d13509)は窓淵に肘をついて、車窓に流れる光景をぼうっと眺めていた。
    「こないな理由で沖縄来るとはなぁ……」
    「はあ、初めてなんですか?」
    「あー、そりゃあ……」
     どちらともつかない返事をする伊織だったが、問いかけた方の久織・想司(妄刃領域・d03466)も無表情に眼鏡を押し、『はあ、そうですか』と言うばかりです。無為な会話もあったものだ。
     その様子を霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)は黙って見ていた。ちらりと視線を移す。
     椎那・紗里亜(魔法使いの中学生・d02051)が腕組みをしていた。
     彼女の手には前回……つまり沖縄ハブマングース男が倒されたときの記録があった。
    「ご当地怪人がわざわざご当地を汚すなんて考えにくいです。以前はやり方こそ違えど沖縄を救おうとしていたはずなのに……」
    「ええと、今度はツヴァイでしたっけ? ドイツ成分が混じってわけがわかりませんねえ」
     ふわふわとあくびをする黒咲・瑞穂(黒猟犬・d05998)。
     その横で、名越・真一(千色の鎮魂歌・d08420)が菓子箱を畳みながらつぶやいた。
    「復活怪人ネタって終盤になってからやるって、誰かが言ってた……」
    「なー、マジでメーワクだよな。もう復活できねーように切り刻んで!」
     椅子の上で前後逆に膝立ちしてみる逢坂・兎紀(依存症の殺人兎・d02461)。ウサギ耳のフードがひゅるんと後部の座席へ垂れた。
    「ん……」
     帽子で表情が隠れていた獅子堂・かなめ(牙猫・d13332)だが、彼の話を振られて顔を上げた。若干人工的な表情をして、にっこりと笑った。
    「だね、殺しちゃっていいよね。終わったらお土産買って帰ろ、よっしやる気出てきたぞ!」
    「な、だな! サクッと消し炭にして観光しようぜ!」
    「んっ」
     無邪気に、と言って良いかはわからないが、少なくとも邪気のない表情で彼らは笑った。
     一部始終を見ていた竜姫は静かに瞑目した。
     そんな彼女に連動するように伊織もまた目を閉じる。
     何かあるのは間違いない。
     何かはある。
     あるはずだが……。

    ●堕ちたご当地怪人
     グロスフスの絶え間ない銃声が鳴り響き、人々は頭を抱えて逃げ惑う。
     それが今日の集合型お土産屋さん『ちゅらさ』での光景であった。
    「ハーブハブハブハブ! 逃げ惑え愚民どもよ、その方が仕事もやりがいがあるというものよ!」
     機関銃を天に向けて乱射するこの男、ハブとマングースをかたどったスーツを着込んだご当地怪人……彼がハブマングース男ツヴァイである。
     お土産屋の店員さんが地面に伏せたまま涙をこぼした。
    「い、いったいなぜこんなことを……」
    「ククク聞きたいか、それは」
    「一般人にメーワクかけんなこのやろーっ!」
     突如、どこからともなく現れたウサギ耳の少年が(というか兎紀が)ハブマングース男にドロップキックを叩き込んだ。
     左右を固めていた戦闘員ごと『ぐわー』といって転倒する。
     なんか火が出ていた気がするが、そこを気にする店員さんではない。なんといっても緊急時である。
    「これは……?」
     困惑する店員さんに向け、あえて周囲の人にも聞こえるように声を上げる紗里亜。
    「申し訳ございません、映画の撮影中なので店外へ移動してもらってもよろしいでしょうか?」
    「え、映画? 聞いてないですよそんな」
    「そうなん? でもオレらこーゆーモンやから……」
     プラチナチケットをふりふりする伊織。ここでいう『こーゆーモン』は相手の認識に依存するというか、まあこちら側から詳細に設定するのが割と難しいものなのだが、ここはこれ、ノリというやつである。
     それでも聞かなければ……。
    「え、でも……」
    「早くしてください。邪魔です」
     かなめが殺界形成を発動して店員をにらんだ。
     ここまでされて逆らえる人間もそうはいない。尻に火がついたかのように飛び出していった。
    「もうっ、本当、先に言ってくださいよ!」
     文句を言いながらもお客さんたちを外へ誘導していく店員さんたち。
     一般人の避難を見届けてから、竜姫はファイティングボーズをとった。
    「この不自然な手際の良さ……ただの灼滅者ではないハブ?」
    「どうでしょうね。やって、ドラグシルバー」
     名前の通りというべきか、竜をかたどった銀色のライドキャリバーが店外より飛び込み、まるで火を吐く竜のごとく機銃射撃を開始した。『ハブー』とかいいながら身を守る戦闘員たちを駆け抜け、ハブマングース男へ詰め寄る竜姫。
    「む、早い……!」
     スウェーバックした彼の鼻先に、虹色の拳が突きつけられた。それも一発ではない、連続で繰り出される拳を、ハブマングース男は容姿に似合わぬ俊敏さでよけ続ける。
    「じゅうぶん引きつけられてる。それじゃ、戦闘員はこっちで片付けちゃおうか」
    「はいはい……」
     同時にスレイヤーカードをかざす真一と瑞穂。すかさず飛びかかったつもりの戦闘員たちだが、彼らがはねのけられるのはほんの数十秒のことである。
    「ほらほら、僕と一緒に踊ろ?」
     真一が彼らの間を華麗に駆け回って蹴倒し、しぶとく生き残ったやつには瑞穂が縛霊手というなのネックハンキングツリーという、実にわかりやすい絵面で戦闘員たちは倒されていった。
    「ていうかヨ、もうご当地怪人でもなんでもネェ、キメラ怪人だろあれ。それも捨て駒的な」
    「それ以前に、お土産屋をめちゃくちゃにされるわけにはいきません。お土産買って帰れないじゃないですか」
     想司は目を覆うようにして眼鏡を直すと、片腕だけの連続パンチで戦闘員をボコボコにした。
     膝から崩れ落ちる戦闘員を見下ろしつつ、じんわりとオーラを変形させていく。
    「む、ハブマンどもが……いつのまに!」
     戦闘員があらかた倒された頃になって、ハブマングース男はついに牙をむき出しにした。
    「おのれ、調子に乗るんじゃないぞ!」
     機関銃を乱射するハブマングース男。竜姫たちをはねのけ、シーサーの置物を踏みつぶしつつ仁王立ちした。
     帽子のつばを軽くつまむかなめ。
    「殺すのって久しぶりだから、上手にできなかったらごめんね」
    「何だと?」
     かなめは棒付きキャンディを口にくわえると、片目を隠すようにカードを掲げた。
    「『命がけのお遊戯を始めよう』って、言ったんだ」

    ●ハブマングース男とハブマングース男ツヴァイ
    「フハハハハハ! 沖縄ビーム・ツヴァアアアアイ!!」
     機関銃からまさかのビーム射撃を連射するハブマングース男ツヴァイ。
     ゲルマンシャーク様だかの力を受けたというだけあってそのパワーは無印時代を上回るものであった。
    「しっかし、なんやこの……この、なんやろう……『威力あればええんやろ感』……」
     ビームに被弾した仲間に片っ端から癒しの矢を打ち込んでいく伊織だったが、ハブマングース男の様子にはどうも違和感がぬぐえない様子だった。
     同じく仲間の回復に専念していた紗里亜が汗をぬぐいながら声を上げる。
    「ハブマングース男、美しいミンサー織りのかりゆしをきたあなたが、なぜ沖縄への愛を汚すのですか! 凜々しいマングースも、勇ましいハブも、それではただの飾りではないですか!」
    「そや、何かを大切に思うんは大事なことや。けど他人に押しつけるもんと違う!」
    「フン、愛だと? 知らんなあ!」
     紗里亜たちめがけてブレイジングバーストを仕掛けてくるハブマングース男。それによって店内に飾られていた民芸品やかりゆしがめらめらと焼け焦げていくではないか!
    「この俺にあるのは力だ。愛などという軟弱なものが、どうして力になるのだ? そんなことだからハブマングース男は灼滅者に負けるのだ!」
    「うん……?」
     眉間にしわを寄せる伊織。
    「違和感の正体、分かった気がするわ」
    「どういうことです?」
     肩を寄せ、小声でコンタクトをとる紗里亜と伊織。
    「確信ってほどやない。もう少し情報集めてみんことには……」
     顎をさする伊織。そんな彼の意思を汲んでかは知らないが、兎紀がナイフ片手にハブマングース男へと飛びかかった。
    「消し炭に、なれっ!」
     火を放ち、高速でスイングされるナイフ。ウサギ耳のフードが後を追って弧を描き、ハブマングース男は僅かにスウェーバックして身をかわした……が、兎紀の攻撃はこれで全部ではない。どこからともなく取り出した機関銃を相手の胸に押し当てると、迷わず引き金を引き絞った。
    「二段構えだと! ぐおっ!」
     炎をまとったゼロ距離射撃によたよたと後退するハブマングース男。
     そこへ、軽やかに兎紀の頭上をドラグシルバー(ライドキャリバー)が飛び越えていった。その座席に直立する竜姫。
    「必殺、お台場名物……」
     竜姫はドラグシルバーの座席からも飛び上がると、空中で軽やかに回転。キック体勢をとると、無防備なハブマングース男めがけてミサイルのごときフライングキックを繰り出した。
    「レインボーキィーック!」
    「ぐあああああああっ!!」
     謎の虹色爆発に吹き飛ばされていくハブマングース男。
     が、しかし……。
    「この程度ではやられん。無印とは違うのだ、この俺はな!」
    「なら畳みかけるまで」
     想司と真一が同時に身を乗り出し、オーラをみなぎらせる。
     ギザギザで鋭利なオーラを出す想司と、クルクルとして丸みのある真一のオーラ。どこか人格を表現したかのような二人のオーラが、ある一点を境に混じり合った。
     ギルティクロスとオーラキャノンが混じり合ってのミックスショットである。
     それもただ打ち込むだけではない。
    「伝統を壊したって意味はない。かつての君を思い起こして! かりゆしが泣いているぞ!」
    「そしてこれ……これが分かりますよね?」
     想司が突き出したのは琉球ガラス製のグラスであった。
     大阪より伝来した技術と駐留米軍のガラス製品より再生し、歪みや濁りといったものを『あるがまま』に受け入れた沖縄のガラス工芸である。そこには大地に足をつき、風を吸って生きる沖縄県民のおおらかさと愛情が息づいているのだ!
    「これを壊せますか? もしそうならご当地怪人を名乗る資格は……」
    「邪魔だ、沖縄キックツヴァアアアイ!!」
     豪快な飛び回し蹴りが炸裂し、想司は語りの途中であるにもかかわらず蹴り飛ばされた。むろん、琉球グラスは粉々に砕け散る。
    「……これは」
     ひびの入った眼鏡の奥で目を細める想司。
     隙すら見せない。思考すらしない。
     消極的に見れば工芸品を盾にとった作戦は失敗しているように思えるが、大きな視点で見ると、この事実は新たな真実の証左となるのだ。想司は……そして一部始終をくまなく観察していた伊織たちにはそれに気づくチャンスがあった。
     槍を握り、殺意をみなぎらせるかなめ。
    「一度死んだのにここにいる。なんでだろうね、でも理由なんでどうでもいいんだ。いいんだよ……」
     同じく影業をめらめらと沸き上がらせる瑞穂。
    「風情のかけらもねえ馬鹿が……殺すぞ、殺しちまっていいな、こいつ?」
    「できるものならやってみるがいい!」
     機関銃を両脇に構えるハブマングース男。
     同時に飛び出す瑞穂とかなめ。
    「吠えてろ」
    「死ねよ」
     瑞穂は右から、かなめは左から、同時にハブマングース男を切り裂く。
    「「ダークネスッ!」」
    「ぐおおおっ!?」
     機関銃をめちゃくちゃに乱射しながら、ぐらりと仰向けに倒れる。
     天井に大量の弾痕が刻まれたがしかし、彼はもう立ち上がることはなかった。
    「そうか……そうやったんか……ハブマングース男……」
     伊織はどこか納得したような顔で、自分の唇をかんだ。

    ●戦いの気配
     お土産屋さんはめちゃくちゃになってしまったが、だからといって営業が二度とできなくなるなんてことはない。
     地元根性の強い沖縄県民ならではというべきか、軽く半壊した店舗から商品を引っ張り出し、無事なものだけでも見てもらおうとお店を再開したのである。
     ならば買ってあげねばなるまいと、灼滅者たちもお土産を少し多めに買っていったのだった。その際浴びた『この人たち何なの』という視線は、とりあえず忘れておくことにする。
     帰りのバス内にて、お菓子の箱を膝に置く紗里亜。
    「きっと復活をえさに洗脳されていると思ったんですが……これって……」
    「せやな……」
     瞑目する伊織。
     もしかしたらこの先、大きな何かが待ち構えているかもしれない。
     そんな予感を感じつつ、灼滅者たちはバスに揺られた。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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