●
「ふっっっかあああああつっっっ!!」
落差10メートルの滝の中から、熟れた赤色の全身を持つ男性が、勢いよく飛び出してきた。
頭部はイチゴそのもの。頭に乗っかっている萼片(がくへん)は、河童の皿のようにも見える。そう、この男こそ――。
「生産量は、日本いちーっ! 栃木のイチゴ。とちおとメン・エ-アトベ-レ・オルカーン!!」
可愛い鮫のイラストが描かれたマントが、大きく靡いた。
「よい子のみんな、ランゲ ニヒトゥ ゲゼーエン」
なんでドイツ語?
「見ていてくださいゲルマンシャーク様! あなた様より頂きしこの命で『とちおとめ』を世界中に広めてお目にかけましょう。イチゴによる夢の世界『ディ ヴェルト アイナー エ-アトベ-レ』の為に!!」
天に向かって拳を突き立てた。
「とちおとメン・エ-アトベ-レ・オルカーン様。そろそろお時間です」
「おお5人衆。よくぞ来てくれた」
とちおとメン・エ-アトベ-レ・オルカーン(な、長い…)は、満足そうに肯く。彼の目の前には、全身を赤一色に包んだ5人の美女――「赤色乙女誤認衆(誤字に非ず)」が畏まっていた。因みに、「あかいろおとめごにんしゅう」と発音するらしい。
「それでは向かうとしよう。我らがイチゴの調理場へ!! ゲルマン魂を見せつけてやるのだ!」
とちおとメン・エ-アトベ-レ・オルカーンは、5人の美女達を引き連れて、悠々とどこぞへと向かっていった。
●
「これはイチゴへの反逆行為だと思う!」
憤懣やるかたないといった様子の荒城・夜月(茨を纏う月虹・d01005)が、拳を握り締める。
「イチゴをこよなく愛する人たちへの挑戦だね」
栃木とイチゴを愛する者よ、今こそ立ち上がれと、夜月は握り締めた拳を天へと突き上げる。
「ハイル・イッチゴー!」
「荒城さん。ちょっと落ち着こう」
眉間に刻んだ盾皺に人差し指を当て、エクスブレインの少年は小さく息を吐き出した。
彼の隣にいる見慣れないツインテールの女の子が、キョトンとした顔で成り行きを見ている。
「……あ、この子のことは気にしないでいいよ。まだ見習い期間中のエクスブレインなんだ」
早く雰囲気に慣れてもらいたいから連れてきたと、エクスブレインの少年は言った。
「さて、本題に移ろうか」
エクスブレインの少年は姿勢を正す。イチゴについて熱く語っていた夜月も、真顔になって彼の横に並んだ。
「荒城さんが情報を掴んできてくれたお陰で、未来を予測することができた。敵はあの『とちおとメン』だ」
とちおとメンとは、栃木県に出現するご当地怪人である。那須塩原市の乙女の滝にて最初のとちおとメンを撃破。その後、小山市乙女に現れたとちおとメン女を葬った。
第三のとちおとメンが現れたというのであろうか。
「いや、そうじゃないんだ」
教室に集まっている灼滅者達の懸念に、エクスブレインの少年はすぐさま答える。
「最初のとちおとメンが復活したんだ!」
「るーるー?」
「キミは黙ってて」
何か訳の分からない言葉を発したツインテールの少女を窘め、エクスブレインの少年は驚愕の予知を口にする。
「この怪人の復活劇の背景には、どうやらゲルマンシャークなる幹部怪人が影響を及ぼしているらしい」
まだ噂レベルの情報だが、ゲルマンシャークなる幹部怪人が秘かに日本上陸を果たしたという。どうやら、とちおとメンの復活は、そのご当地幹部の力によるもののようだ。
「復活したとちおとメンは、とちおとメン・エ-アトベ-レ・オルカーンと長ったらしい名前を名乗っているらしい}
「イチゴを使ったドイツ料理を栃木中に広めようとしているんだよっ。由々しき事態だよねっ」
「このままでは、よく分からないドイツ料理に侵食されて、栃木のご当地料理が滅亡してしまうかもしれないんだ!」
そしてゆくゆくは、世界に進出していく計画らしいとのことだった。
「宇都宮の餃子もやばい?」
「かもね」
「小山のいもフライも?」
「たぶん」
このままでは佐野ラーメンにイチゴが浮かび、かんぴょう巻きのかんぴょうの代わりにイチゴが使われ、湯葉もイチゴ味になってしまうかもしれない。しかもドイツ風味という、訳の分からん状態になってしまう虞がある。
「栃木発祥のイチゴを使った奇怪なドイツ料理が世界に蔓延する事態だけは、何としても防がなければならない!」
「とちおとメン・エ-アトベ-レ・オルカーンを灼滅するのを手伝って欲しいんだよ」
エクスブレインの少年と夜月は、揃って拳を握り締めた。横のツインテールの少女は、相変わらずキョトンとしている。
「とちおとメン・エ-アトベ-レ・オルカーンは、かつての大田原城跡――現在の龍城公園に現れる。園内に設置した仮設会場で、イチゴを使ったドイツ料理の料理対決を行う。審査員は彼の配下の5人の美女が行う為、参加者がどんな美味しい料理を作っても、勝利するのはとちおとメン・エ-アトベ-レ・オルカーンと決まっている」
つまりは出来レースだ。
「敗北した参加者達は、無理矢理に謎の巨大イチゴを食べさせられてしまう。その結果――」
「どろどろに溶けてイチゴジャム化しちゃうんだ」
若干アレンジが加えられているが、結局のところ、人間イチゴジャムを作り、売りさばいて自分達の活動資金にするつもりらしいのは、復活する前と同じ計画である。
「怪しまれずに彼らと接触する為には、全員でこの料理対決に参加する必要がある。参加者として接近すれば、連中に予測されることはない」
行方不明者続出の謎の料理対決ということもあり、現在は全く参加者が集まらない状況らしい。
「なので、参加者はかなり歓迎される」
そんな状況ということもあり、龍城公園に訪れる一般人も激減していた。そもそも、桜の咲く時期でもないかぎりは、公園は閑散としているということだった。
「そういうわけだから、戦闘になったとしても一般人が巻き込まれる状況は、あまり想定しなくても大丈夫だと思う」
とちおとメン・エ-アトベ-レ・オルカーンに料理対決を挑み、頃合いを見て攻撃を仕掛け、これを灼滅することが今回の任務というわけだ。
「とちおとメン・エ-アトベ-レ・オルカーンの戦闘能力を説明する」
従来の粒々防壁、セックシーダンスに加え、今回は新技のエ-アトベ-レ・オルカーンを使ってくるという。
「簡単に言うとイチゴのハリケーンだ。熟れたイチゴがハリケーンのように襲い掛かり、複数の者が全身イチゴ塗れにされてしまう。パラライズの効果とずぶ濡れの効果があるようだ」
配下の5人衆も健在で、今回は美女の5人組らしい。「赤色乙女誤認衆」と呼ばれているようだ。相も変わらず、イチゴの着ぐるみを強引に着せてくるということだ。
「ちょっと気になるのは、今回いたってまともな男の人だってことなんだ」
そう言われてみれば、最初のとちおとメンは所謂「お姉系」の男性だった。
「まあ復活したってことで、気持ちを入れ替えたのかもしれないけどね」
何か心境の変化があったのかもしれない。
「厄介な相手だけど、よろしく頼むよ」
「栃木と、そしてイチゴの平和を守ろうね!」
エクスブレインの少年の言葉続き、夜月はそう言ってその場を締めくくった。
参加者 | |
---|---|
加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151) |
八重葎・あき(栃木のぎょうざ好きゲーマー・d01863) |
香月・赤兎(赤い月・d02686) |
ゼノビア・ハーストレイリア(ピースメイカー・d08218) |
月日・九十三(時を欺く観測者・d08976) |
梓川・黒斗(抑圧された蒼犬・d10141) |
稲畑・穂(穂の家庭菜園・d12052) |
宇都木・日羽(中学生ご当地ヒーロー・d13067) |
●
かの有名な那須与一の墓がことで知られ、松尾芭蕉の「奥の細道」と縁の深い地としても有名な栃木県大田原市。
今回の目的地である龍城公園こと大田原城跡は、JR西那須野駅からバスに揺られること20分余り。案内役は、栃木の生んだ地元っ子ヒーローの八重葎・あき(栃木のぎょうざ好きゲーマー・d01863)だ。
彼女の事前の下調べのお陰で、一同は大した混乱もなく、龍城公園に辿り着く事ができた。
ところが、ちょっと元気のないあき。
「浜松に負けるなんて…」
餃子の話である。餃子大好き少女としては、ショッキングな事件である。
「量より質だって!」
以前、あきと共に事件を解決に導いた加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)が、彼女の気持ちを慮って、慰めている。
(「一度灼滅したご当地怪人が復活する…か。何か裏がある気がするね」)
梓川・黒斗(抑圧された蒼犬・d10141)は、大田原城跡を見上げた。
今回の敵は、かつて蝶胡蘭やあき達の手によって倒されたはずの、栃木ご当地怪人・とちおとメンなのである。彼、いや彼女、いや今回は彼か、が、ゲルマンシャークの手によって復活を遂げたというのだ。
「いやあ、やっと着いたべ」
稲畑・穂(穂の家庭菜園・d12052)が、大きく背伸びをした。
大田原城本丸跡が広場になっており、そこが龍城公園として整備されている。周囲を取り囲むように盛られた土塁が今でも残っていた。その土塁に沿うようにして、桜の木が植えられており、春ともなれば花見客で賑わうことになるのだが、冬の寒い時期にわざわざこの公園に足を運ぶ者は、決して多くはない。
広場の一角に、ちょっとしたステージが設けられていた。そのステージの上に仮設のキッチンが作られており、ステージの前のテーブルは、恐らく審査員用だろう。
土塁の脇から首を伸ばして様子を探ってみると、ステージに上で暇そうにしている6人の集団が見えた。とちおとメン・エ-アトベ-レ・オルカーンと配下の誤認衆らしい。
よく見ると、公園の入り口に「料理対決会会場」という豪華な看板が設置されていた。
「どうする?」
どうするもこうするもないのだが、宇都木・日羽(中学生ご当地ヒーロー・d13067)が皆に尋ねた。料理対決に参加しなければならないのだが、ちょっと声をかけ辛い雰囲気なのだ。
「やる気なさそうだよね、あの人達」
香月・赤兎(赤い月・d02686)が答えた。参加者がぜんぜんいないので、完全にだらけてしまっているようだ。
「おい! そういえば、ゼノビアどこいった?」
きょろきょろと周囲を見回し、月日・九十三(時を欺く観測者・d08976)が慌てている。少し前まで一緒だった気がするが、いつの間にかいなくなっている。
「もしかして迷子になったとか?」
黒斗も辺りを見回す。一緒に行動していたのに迷子になるとは考えにくかったが、迷子になることに関して天賦の才能を持っている御仁も存在するのも事実。
「あすこにいるべ!」
土塁の上から辺りを探っていた穂が、一方を指差した。公園の反対の入り口から、とことこと歩いてくる小さな影を発見した。
『まったくなってないよな、あの人ら。ああいうのを給料泥棒っていうんだろ?』
「給料さん…もらってるのかな」
ゼノビア・ハーストレイリア(ピースメイカー・d08218)は、黒ヤギ人形ヴェロ君の言葉に、軽くツッコミを入れている。前方に見えるステージ付近には、だらけきっている大人達の姿がある。
『給料じゃなければワイロだな、きっと』
「…違うと思う」
「お嬢ちゃん、どうしたのかしら? ご両親は?」
声を掛けられた。
顔を上げると、目の前にステージがあった。5人の綺麗なお姉さんが、ゼノビアの顔を覗き込んでいる。
『俺っち達は調理対決にきたんだ!』
「ゼノビア…イチゴさんすき…」
「何とも可愛らしい挑戦者だな」
ステージ上で居眠りをしていたとちおとメン・エ-アトベ-レ・オルカーン(長いので、以後はとちおとメンEOと略すことにする)が、がばりと勢い良く体を起こした。
「オレ達も参加するぜ!」
九十三を先頭に、大慌てで面々が駆け寄ってきた。
『みんな、迷子になっちゃ駄目だろ』
「いや、どっちが迷子になったんだよ…」
迷子になった本人は、得てして自覚がないものである。
●
「それじゃ、料理対決開始よ☆」
どこぞで聞いたことがあるようなクッキングテーマを合図に、イチゴを使ったドイツ料理対決が開始された。
蝶胡蘭が作るのは、ドイツソーセージのヴルストと玉葱、ピクルス、チーズを使ったサラダ。
綺麗に盛り付けを行い、仕上げとばかりに謎の赤い液体が入ったビンを取り出す。
「苺ドレッシングーーー!」
蝶胡蘭がビンを掲げると、気のせいかどこからかファンファーレが聞こえてきたような気がした。
因みに材料は、イチゴの他、オリーブオイルに、塩、こしょう。アクセントとしてバルサミコ酢を加えてもいいし、オリーブオイルの代わりにワインビネガーとサラダ油で作るのも有りだ。
とちおとめをふんだんに使った蝶胡蘭お手製の自慢の一品だ。
「ところで、何でサングラスを掛けてますの?」
審査員席から、お姉さんが尋ねてきた。
「ファッションだ」
言い切った。見るからに怪しいサングラスなのだが、言い切ってしまえば勝ちである。
「お隣のお嬢ちゃんも?」
あきのことである。
「わたしは謎の餃子マスターなの」
パスタ生地をこねこねしながら、あきが答えた。以前のとちおとメンと戦った彼女達は、軽く変装しているのである。
今のところとちおとメンは自分達に気づいていない。そればかりか「餃子」という単語にも反応を示さなかった。
「下拵え終わったよ」
あきの指示で料理の下拵えを行っていた黒斗が、準備完了を報告した。2人が作るのは、とちおとめ入りのマウルタッシェだ。パスタ生地の中にひき肉やほうれん草、パン粉、たまねぎ等を詰めた料理である。言わば、ドイツ版の餃子だ。コンソメスープを加えればマウルタッシェンズッペとなり、水餃子風の食べ方もある。
「黒斗先輩、最高のぎょうざを作ろっ!」
「もちろんだ」
お互いの腕と腕をガシッとクロスさせる2人。
「出来レースって分かってるのに、真面目に作る気しないなー…」
と赤兎がボソリ。苺のヘタをぷちぷちと摘み、ビンに詰めていく。ぷちっと音がする度に、とちおとメンEOがぴくっと反応するので、見ているとけっこう面白い。自分が毟られている錯覚に陥っていると思われる。
面白かったので、ついつい多めに毟ってしまった。ついでに、塩も大量にビンの中に投入してしまった。
「まいっか。知ーらない♪」
隠し味に白ワインを少々加え、適当にシェイクしてザワークラウトもどきの完成だ。本来ならキャベツを使うのだが、今回は苺のヘタで代用だ。美味しいかどうかは知らない。
レシピは九十三が用意したものだ。かなり詳細に書かれたメモを見ながら、九十三と赤兎が手際良く調理を進める。
「…キャベツ? 知らないね」
審査員席からツッコミを受けたが、九十三はおどけたように肩を竦めてみせた。
あれを食べるのかと、お姉さん達がちょっと嫌そうな顔をしている。
だが、2人の調理はこれで終わりではなかった。炒めたベーコン、苺と一緒にザワークラウトもどきをパンで挟む。見た目だけはとっても美味しそうだ。味は保障しないが。
余った赤い果実の方は、自分達のお口へ。お姉さん達が食べたそうにしているが、もちろんあげる気など毛頭ない。
「はい。ゼノビアも食べる?」
「…食べる」
隣で可愛らしいトルテを作っているゼノビアに、赤兎はイチゴを分ける。
「はい。ヴェロくんにも」
ヴェロのお口にもイチゴをぽいっ。
『気が利いてるっすね』
気分を良くしたのか、
『ボールにバターを入れ混ぜて~、砂糖を2・3回に分けて加えて~、オーブンで生地つくり~』
妙な節を付けて、ヴェロが歌うようにレシピを口にする。
「ちゃんと本さん読んで勉強してきたから平気」
ちゃんと作れるもんと、ゼノビアはイチゴは大きめにカットしている。
ヨーグルトとサワークリーム、砂糖と温めたレモン汁を、ゼラチンに加えて生地の上に投下すれば、アートベーレトルテの完成だ。
「…できた」
ゼノビアは満足げだ。2種類存在するのは、審査員用と自分達用がある為である。
日羽は真剣そのものだ。愛する大事ないちご達を、わざわざおかしな味に調理することなんて自分にはできない。
彼女が作っているのはローテグリュッツェだ。ドイツの代表的なデザートである。色々なベリー類を煮詰めた物にバニラソースをかけたり、アイスを乗せて食べたりと、地方によってバリエーションが豊富なのも特徴だ。
ラズベリーやさくらんぼも用意してきているが、もちろんメインはイチゴである。
採れたての新鮮な香り高い苺をじっくり煮詰めた後、深めのグラスに盛りつけて、バニラアイスを乗せる。仕上げに、アイスの上にも特性のいちごソース、ミントの葉、小粒の苺を飾りに乗せる。
「出来た!」
見事なイチゴのローテグリュッツェの完成だ。
穂は一人で、全員のフォローに回っていた。
で、とちおとメンEOはいえば、茹でたじゃがいもの上に、とちおとめで作ったイチゴジャムをべっとりと掛けている。添えてあるのはヴルストだ。こちらも、イチゴジャムを付けて戴くらしい。
「どう見ても、旨そうに見えねぇ」
「…だな」
九十三と黒斗が囁き合う。あれを食べなければならない赤色乙女誤認衆が哀れでならない。
●
いざ、審査開始である。
一番手は、蝶胡蘭のヴルストサラダだ。
「ああ、ちなみにヴルストも私の手作りだぞ」
そんじゃそこらのヴルストとはわけが違うと、蝶胡蘭が胸を張る。
「いやあ、のびのびと育った野生の豚(ヌシ)、…強かったなあ」
しみじみと語る蝶胡蘭。
食しているお姉さん達が、あれやこれやと感想を述べていらっしゃる。思わずイラッときた蝶胡蘭は、
「ほお、味が物足りないとおっしゃるか。ならばこちらのスペシャル苺ドレッシングをご賞味いただこう」
パパパッと赤い液体を振りかける。
「ひぎゃーーーっ」
お姉さんが悲鳴をあげた。蝶胡蘭が心を込めて作った、ハバネロをたっぷりときかせた特製苺ドレッシングの威力は凄まじいものだったらしい。
二番手は赤兎と九十三の合作、苺の萼を使ったザワークラウトだ。
「ぱくり。…だーーーっ」
吐いた。
その涙目が全てを物語っていた。
「…さんばん謎の餃子マスター」
あきと黒斗のマウルタッシェだ。
「ほむ。イチゴの程良い酸味が…うぼっ」
あ、吹いた。
あきが作ったマウルタッシェには、辛みが強くて有名な「栃木三鷹」と呼ばれている大田原産の唐辛子が、ふんだんに使用されていたのだ。
『次は俺っち達だぜ』
続いてはゼノビアのアートベーレトルテだ。
「ばくっ。んごーーー!!」
盛大に吹いた。要の味付けとして使用したハバネロパウダーの攻撃に耐えきれなかったらしい。
赤色乙女誤認衆、戦わずして1人離脱。
死にそうな目に遭っていたお姉さん達だったが、日羽のローテグリュッツェを食べた時は涙を流して味わっていた。
最後はとちおとメンEOの「じゃがいもとヴルストのイチゴジャム添え」だ。とっても不味そうに食べていたが、取り敢えずは食べきった。
審査結果は聞かなくても分かりきっていたことだったが、とちおとメンEOの優勝である。
●
「敗者にはおしおきタイムだ」
ばばばっとマントを翻して、とちおとメンEOは宣戦布告。
「でたな、とちおとメン・エ-アちょ…」
噛んだ。
「く…悔しいー! あんな苺男はぎったぎたのけっちょんちょんにしてやるんだもんっ!」
地団駄を踏む赤兎。
「ところで、あのマークってドコのメーカーだろ?」
「訊いてみる?」
ボソボソと九十三と赤兎が、聞こえるように内緒話。
「マントの鮫さんの本物に会いたい! どこにいるの?」
「これか? これはゲルマンシャーク様のお姿を想像して、俺が描いたご当地ゆるキャラ。その名も『ゲル鮫くん』だ!」
赤兎の質問に、とちおとメンEOは大真面目に答えた。
「行け! 赤色乙女誤認衆!」
既に4人になっている赤色乙女誤認衆を嗾けるとちおとメンEO。
取り敢えず、作戦通り赤色乙女誤認衆にボコボコにされてみる。恥ずかしいだけで、あまり痛くないけど。
苦戦して情報を探り出そうとする作戦だったが、何を訊いても惚けるだけで、とちおとメンEOから有益な情報は得られそうにない。
仕方が無いので逆襲することにする。
「ごにんね、ごにんね~♪」
変なポーズで迫ってくる赤色乙女誤認衆。
『今はもう4人じゃん』
「しにんね、しにんね~♪」
ノリの良いお姉さん達を手加減攻撃でアッと言う間にねじ伏せると、とちおとメンEOを取り囲む。
「また会ったねとちおとメン! 随分性格変わったみたいだけどその心は?」
「お久しぶりだな、…あれ、なんだキャラ替えかとちおとメン?」
バッとサングラスを外すあきと蝶胡蘭。
「…誰だっけ?」
ちょっと考え中。
「思い出した、うん、思い出したぞ。この私を、とちおとメンを一緒にするんじゃない! 我は、とちおとメン・エ-アトベ-レ・オルカーンであるぞ!」
大威張りである。
「郷土愛をドイツに売渡し、苺を弄ぶとはご当地の名折れ。だから、テメェは苺(オレ)が裁く!」
九十三がビシッとポーズをキメた。
「お前は一度、灼滅されたはずだ。それが何の対価もなしに復活できるはずがない」
「何か問題が?」
黒斗の問いに、とちおとメンEOはお惚けのポーズ。
「アンタ達みたいなやつらのせいで、地道に頑張ってるいちご農家が辛い目に合うって言うのが、まだわからないのかーー!!」
どかんと一発、日羽がご当地キックでおしおき。
「おのれ! イチゴのハリケーンを食らえ!!」
「お、お気に入りの服が…! 許さんっ! 月日くん、やっておしまいなさい!」
「仰せのままに、赤兎姫」
慇懃に一礼。
「さーて、ウチの姫にやってくれたねぇ…久々にプッツンきたぜ。オラオラオラオラ…!」
ずぶ濡れになった赤兎に白衣を投げ渡し、九十三の閃光百裂拳が炸裂する。
黒斗のティアーズリッパーが直撃し、とちおとメンEOが膝を突いた。
「今だ!」
蝶胡蘭の声を受けて、あきと日羽が飛ぶ。
ゼノビアが鬼神変を叩き込み、2人を援護する。
「栃木の誇りを失くした貴方が、私たちに勝てる道理なんてない!」
あきと日羽のダブルご当地キックが炸裂。
「お、おのれー。ゲ、ゲルマンシャーク様に栄光あれーーー!!」
断末魔の雄叫びを上げて、とちおとメンEOは爆死した。
あ、そうそう。
作ったお料理は、この後みんなで美味しく戴いたそうな。もちろん、まともに作った方を、である。
作者:日向環 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年2月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 11
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