●憧れと現実
――正義の味方に憧れた。
具体的なイメージがあるわけじゃない。ただ、弱きを助け強きを挫く。そんな姿に憧れた。
彼が拳を握った理由はそんなものだ。自らの心の赴くままに、その腕を振りぬいた。
そこに意味や意義などはない。何かがあったわけでも、誰かが居たわけでもない。
或いは。誰かの叫び声を聞いたというのならば。誰かの涙を見たというのであれば。もう少し別の結末が訪れていたかもしれないけれど。
でもそうはならなかった。だからきっと、それはそういうことなのだろう。
握ったままの拳では、誰かに手を差し伸べることは出来ない。きつく固めたその手では、助けを求めて伸ばされた手を掴むことは出来ないから。
だがそれも当然だ。誰かを助けようと思ったのではなく、ただ目指すもののために握られたその拳が、誰かに届くわけがないのである。
だから彼に出来たのは、その拳を振るうことだけだ。
そうして。気が付けば、彼の周りには誰もいなくなっていた。
それでもよかった。むしろそれがよかった。
だって正義の味方とはそういうものだ。誰からの理解も得られず、孤独に戦っていくものだ。
だから、それでいい。
呟いた言葉は、まるで自分に言い聞かせているようでもあった。
●その果てに至る前に
「みんなは正義の味方っていったら何を思い浮かべるかな? 戦隊ヒーロー? それとも変身ヒーロー? 色々あると思うけど、今回闇堕ちしてダークネスになっちゃったのはそんな正義の味方に憧れていた少年なの」
須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)はその場に集まった灼滅者たちの顔を見渡しながら、今回の依頼の発端となった少年のことを話し始めた。
名前は神埼・真吾(かんざき・しんご)。中学二年生の、何処にでもいそうな普通の少年である。
違ったところがあるとすれば一つ。それが、正義の味方に憧れていたというところだ。
「ただの憧れで済んでたらよかったんだけどね……それを本当に目指して、そのために手に入れようとしたものを間違えちゃったんだ」
真吾が正義の味方になるために求めたのは、力だ。
それ自体が間違いというわけではない。理想を語るだけでどうにかなるのならば、とっくの昔に争いなどというものはこの世から消えてなくなっているだろう。
だが。
「彼は力だけを求めすぎちゃったんだね」
そして結果、堕ちた。通常ならばすぐさまダークネスとしての意識を持ち人間の意識はかき消えてしまうが、どうやら彼はギリギリのところで元の人間としての意識を遺しているようである。
だがダークネスの力を持っていることに変わりはなく、一般人にとってそれは暴力ですらない。
一応相手は選んでいるらしいが、暴走族などはともかく、ちょっと不良っぽい格好をしてたり果てには喧嘩染みた言い合いをしているだけで殴りかかってくるというのだから相当だ。別に暴走族だから殴られてもいいというわけではないけれど、やりすぎなのは確実である。
そして何にせよ、このままでは人間としての意識が消えてしまうのも時間の問題だろう。
「だから、そうなる前に止めてあげて欲しいの」
灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちからの救出を。それが難しく、完全なダークネスへとなってしまうのであれば。
「……せめてそうなる前に、灼滅してあげて」
接触するのは難しくない。
「最近彼は夜中に出歩いて悪い人がいないか探してるみたいだし、不自然なほどに周囲をきょろきょろと眺めてるから、きっとすぐに分かると思うよ?」
それから喧嘩をする振りなりゴミのポイ捨てなどをすれば簡単に釣れる。後は適当な路地裏にでも誘き寄せればいいだろう。
時間が時間なので、余計な人目などを気にする必要もない。
「戦いを始める前に話をした方がいいかもね。本当は彼だって自分が間違っていることは分かってるだろうから、説得の言葉は通じるはずだよ」
何も正義とは何ぞやなどという小難しい話をする必要はない。ただ、語ればいい。自分の知っている正義の味方の姿を。その力を振るうべき、本当の意味を。
納得に足る言葉や内容があれば、自然とその力は弱まるだろう。
もっともそれでも戦闘は避けられない。どちらにせよ、力ずくで止めることが必要だ。
「その結果どうなるかは分からないけど……でも、どっちにしろ彼にとっては救いになるはずだよ」
少なくとも、それ以上道を踏み外さずに済むのだから。
そしてその攻撃方法であるが、特に奇抜なものはない。
「みんなにとっても馴染みのあるストリートファイターが使うものと基本は一緒だね」
しかし技が一緒なだけでその威力は桁違いだ。一対一で戦おうものならば自殺行為でしかない。皆で協力して戦っても、下手に油断などをすれば怪我では済まないだろう。
だが逆に言えば、各々の役割をきちんと果たせば負けることはないということだ。
「それじゃあ頑張って。みんななら、ちゃんと彼を救って無事に帰ってきてくれるって信じてるよ?」
そう言って笑顔を浮かべながら、まりんは灼滅者たちを送り出したのだった。
参加者 | |
---|---|
紫乃崎・謡(紫鬼・d02208) |
九条・都香(凪の騎士・d02695) |
鶫之澤・火夜(花よりほかに知る人もなし・d02832) |
風波・杏(陣風・d03610) |
双樹・道理(諸行無常・d05457) |
リヒト・シュテルンヒンメル(星空のミンストレル・d07590) |
エリ・セブンスター(今だけちょびっとヒーロー・d10366) |
志那都・達人(風吹き澄ます者・d10457) |
●
夜の街は意外なほどに静かだった。確かに平日の、それも夜中と言えるような時間帯である。しかしその分を差し引いて考えても、街はあまりに静か過ぎた。
その原因は明白だろう。
(「力なき正義は無力とはよく言ったものだけれども……」)
そんな街の様子を眺めながら、九条・都香(凪の騎士・d02695)が心の中で呟く。
振るわれた力は、本当に正義だったのか。その答えはきっと、人それぞれではあるのだろうけれど。
とにかく、止めなくては。
そんなことを考えている都香の横を歩くのは紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)だ。普通に見える演技をと心がけているためか、そこに不自然な様子は見受けられない。おそらくは誰が見ても、友人同士が談笑をしているようにしか見えないだろう。
件の人物は既に見つけている。というかあまりにもその挙動が怪しすぎて探す前に見つかった、というのが正しい。今は前方十数メートルのところを、不自然なまでに周囲を見渡しながら歩いている。
あとは、タイミングを合わせるだけだ。
そんな二人の様子を後方から眺めているものがいた。鶫之澤・火夜(花よりほかに知る人もなし・d02832)とエリ・セブンスター(今だけちょびっとヒーロー・d10366)である。
火夜の身体が少々緊張で硬くなってるのは仕方のないことだろう。初依頼ともなれば、大体がそんなものである。
細心の注意を払いながら、しかしその意識は視線とは別のところへと向けられていた。
向けられているのは二人のさらに先だ。態度には出していないものの、火夜の心境はその瞳が全て物語っている。
――絶対に救いたい。
心境としてはエリも似たようなものだ。多少余裕を持って周囲を見渡すことが出来ているのは、火夜と比べて依頼に慣れているからだろう。
そして、都香の手より空き缶が放り投げられた。それが地面につくのと、どちらが早かったか。
「おい!」
目ざとくそれに気付いた真吾の声が飛ぶ。それとほぼ同時に、足が前に出ていた。その形相といい握られている拳といい、穏便に済ます気が欠片もないことが一目で分かる。
しかし都香と謡はその時には既に身を翻し、すぐ傍の細い路地に駆け込んでいた。そのまま走り去る二人の後を、真吾が叫びながら追っていく。
火夜とエリは顔を見合わせると、一つ頷くと共に走り出した。既に向かうべき路地裏の場所は知らされている。後は空き缶を拾い、合流するだけだ。
●
「……なるほど、誘き寄せられたってことか」
真吾はその場に立ち止まると、目の前にいる者達のことを睨み付けた。その数は六。都香達である。
しかし真吾は特に怯む様子を見せなかった。むしろ、こういうのもらしいか、などと言いつつさらにやる気を増している。
顔には笑みすら張り付かせ、真吾が一歩前に出る。
その直前。
「待った」
謡の声に従う形になったのは、本来の性根故か。その動きが再開される前に、続けて言葉が重ねられる。
「先程の行為は、貴方と話をする為にやったことだ。ボクらの本意ではないよ」
「何を」
「大丈夫、ゴミはちゃんと拾っておいたから安心して。話がしたくてキミを呼んだんだ」
自らの言葉に被さる形で聞こえた声に、真吾は勢いよく後ろを振り返った。いつの間にか数メートル離れた場所に、二人――火夜とエリが立っている。エリの片手には缶が握られ、それを示すように前に突き出されていた。
そのまま仲間の下へと合流しようとする二人に、真吾は何もしようとはしなかった。警戒こそ解かなかったが、それを黙って見過ごす。
問答無用で来ないのは、一応話の筋が通っているからか。とりあえず話をすることは出来そうだと、胸を撫で下ろす八人。
が、そうして話の場は出来たものの、一体誰から何を話すべきか。何となく牽制じみた空気の流れ始める中、不意に一歩前へ踏み出したのはリヒト・シュテルンヒンメル(星空のミンストレル・d07590)だった。
「『正義の味方』に憧れる気持ち……僕も分かります」
リヒトの目に敵意はない。当たり前だ。
今日は神埼真吾という一人の人間と友達になるために来ただけなのだから、そんなものあるわけがない。
だが。
「ですが……自分の力を抑えきれずに暴力をふるう存在。……それがあなたの目指した『正義の味方』なんですか?」
その前に、やらなければならないことがある。
「俺は報いを与えてるだけだ!」
「自分が正義だから暴力をふるってもいい、というのは悪役の考え方ですよ」
その力の使い方は間違っていると、教えなければならない。
「今の貴方は、憂さ晴らしがしたい不良と大差ない。そんな独身的な正義で、果たして満足なのかな。ボクの識る正義は、弱気を助けんが為行動するものだよ」
続く言葉は謡のものだ。謡の興味の比重は戦いに傾いているものの、誰かが堕ちるのを良しとしているわけでもない。その言葉が手助けになるのであれば、惜しむつもりはない。
「俺は、何をもって正義の味方とするかは分からないけれど……」
力を誰かのために使いたい。そういう思いは、風波・杏(陣風・d03610)にとっても覚えのあるものだ。
正義に絶対の正解はないんだろう。けれど、少しでも良い方へ進めるように。
「少なくとも力は条件じゃなくあくまで手段で、何を思い、なんのために動くか。それが大切なんじゃないかな」
そう思うからこそ、杏は言葉を紡いだ。
「正義の味方が戦うのはさ、悪い人を倒すためにじゃなくて、誰かを守るためにじゃないのかな」
憧れた気持ちは、志那都・達人(風吹き澄ます者・d10457)にも分かる。
でも……いや、だからこそ。
「誰にも泣いてほしくないから。皆に笑っててほしいから。拳を振るうんじゃないのかな」
できるなら。
「例えそれが、暴力だってわかってても」
本当の正義の味方になって欲しい。
「わかっていると思いますが貴方には力があります」
火夜がそこに立っていられるのは、導いてくれる存在がいたからだ。
「しかし思うがままにそれを振るっていくのなら、正義からは程遠い……ただ誰かを傷つけるだけの存在です」
自分が同じように出来るとは限らない。でも、その道を示すぐらいならば出来るはずである。
「それは、今まで叩きのめしてきた貴方の言う『悪』と違うのですか?」
「違う! 俺は……!」
「力は更なる力によって駆逐される。それが正義か悪かに関わらずな。必ず、何処かで破綻する」
双樹・道理(諸行無常・d05457)が告げるのはただの事実だ。力はただの力でしかないが故に、それを上回る力で簡単に潰されてしまう。
だからこそ、それ以外の明確な何かが必要なのだ。正義などという漠然としすぎるものではない、何かが。
そもそも、残念ながら現実は物語みたいに正義と悪に明確に二分出来る事だけではない。
それに。
「力に頼らない解決手段を諦めるのが早過ぎる。まだガキなんだし、理想に燃えてる位でちょうど良いんだよ」
愛用の中折れハット帽を指で回しながら、道理は思う。
人は思ったことしか実現出来ない。だから諦める前に、好きなだけ足掻けばいい。
「誰かに笑ってもらえた? 喜んでもらえた?」
エリはただ問いかける。そこに果たして、どんな意味があったのかを。
「……そんなもの必要ない。そんなものがなくても戦うのが、正義の味方だ」
「うん、そうかもね……でも、正義の味方はね、自分の正義に味方しちゃダメなんだと思う。戦えない誰かの為に力を貸すのが、正義の味方なんじゃないかな」
「……うるさい」
「このままじゃあキミは罪の無い人達の敵……悪者になってしまう」
「うるさい! そんなこと――」
――そんなこと、きっと最初から知っていた。
しかしその思いを、意味のない叫びが塗り潰す。抑圧されていた想いが弾けるように、その身体は前方へと飛び出した。
それは彼本来の動きからすれば大分鈍い。やはり言葉が通じ、迷いが出ているためだろう。
だがそれでもその能力は灼滅者数人分の能力を有している。特にその身は最強の武を求めるもの、アンブレイカブル。幾らそれを宿敵に持つとはいえ、説得に集中していたエリには反応することが出来ない。
嫌な現実を叩き壊すように、真吾の拳がエリへと振り下ろされた。
襲ってくるだろう痛みに、反射的に目を閉じる。だが予想していたそれは、いつまで経ってもこなかった。
恐る恐る瞼を開けたエリの視界に飛び込んできたのは、都香の背中。
咄嗟にスレイヤーカードを解放したその姿は、既に戦闘用のそれだ。しかしその両腕で拳を受けながら、都香の視線はただ真っ直ぐに真吾の目を見詰めていた。
「正義なき力はただの暴力、貴方の力はただ周りに破壊をもたらすだけだわ。貴方が本当になりたかったのは、今の姿なの?」
それは問いかけの言葉だ。真吾自身が自分の今の姿を顧みるための言葉。
「……っ!」
言葉に答えることなく、真吾は大きく距離を取った。着地と同時に、完全な戦闘態勢へと移る。
もう言葉は不要……というよりは、要するに逃げただけである。図星を突かれて癇癪を起こした子供と変わりない。
なら後は単純だ。言葉が通じないのならば、とりあえずぶっ飛ばす。それもまた、正義を示す道の一つだ。
都香を除く七人が、一斉にスレイヤーカードを構える。解放されると同時、達人の身体を風のようなバトルオーラが覆った。他の皆も、それぞれ自分の武器を手に取る。
それが、戦闘開始の合図となった。
●
先制したのは謡だ。獣じみた動きで夜闇を駆けたその身体が、瞬時に死角へと移動する。
その手に持つのは月映し。白銀に煌くそれを振り下ろすと同時、流し込まれた魔力が真吾の体内で爆ぜた。
「がっ……!」
そこに走りこむのは都香である。そよ吹く南からの季節風の如きバトルオーラ、南風を拳に纏わせ、先ほどの礼とばかりにその拳を構える。
そして。
「貴方のその破壊(はえ)、灼滅させてもらうわ……行くわよ、魂(まぶい)打ち!」
そのままその身体へとぶち込んだ。
身体の内へと向けられた二つの攻撃。たまらず身体を折り曲げた真吾に、主の意図を汲んだハートレスレッドがその足元に機銃を打ち込む。
自然真吾の意識は一瞬そこへと向かう。生まれた隙に、杏が飛び込んだ。
誰かの味方になることは誰かの敵になることだ。
「それなら俺は、誰かを助けるためにこそ力を使いたい!」
螺旋の如き捻りを加えられた槍が、その身体を穿った。
「貴方がなりたかった正義の味方の姿とはどんなものでしたか?」
思い出せるはずだ。嘗て思い描いた、その姿を。分からなくなったのならば、一緒に探し考えよう。
だから。
火夜より放たれた無数の光線が、真吾の身体を貫いた。
「俺、は……!」
攻撃と言葉。生じた揺らぎは、その意識に確かな断絶を起こす。
その隙をつくのは殺人鬼。手には構太刀。
言葉はない。その意思を代弁するかのように、見えざる刃が真吾の身体を切り裂いた。
「っ……! まだ、まだぁ……!」
それでも真吾が動き続けるのは、能力から来るタフさ故か、或いはその身に宿る譲れぬ何かか。
おそらく本人にもその答えは分からぬだろう。出来るのはただ、本能の赴くままにその拳を振るうことだけだ。
眼前に向かって突き出す。肉と肉がぶつかり、都香の身体が吹っ飛んだ。
これで連続で二回攻撃を食らったことになる。さすがにその場に膝をつく都香に、リヒトが慌てて回復の手を回した。
「今回復します!」
敵へと向ければ攻撃、味方へと向ければ癒しとなる光条が、都香の肉体を癒していく。その間敵の攻撃が届かないように、エアレーズングと空我が牽制をしつつ見張っていた。
それでも前に出ようとした真吾の前に立ちはだかったのはエリだ。
「君は自分の中の闇と戦わなくちゃいけない」
それは真吾が目を背けているものだ。それは、迷いと戸惑い。そして後悔。
だからエリはさらに一歩前へと進む。
「キミ一人でダークネスと戦えなんて言わない、私達も力を貸すから……戻ってきて、お願い」
そのために必要だというのならば――。
「ああぁぁぁああ!」
伸ばされた腕を、逆に取る。そのままその身体を掴むと、地面へと思い切り叩き付けた。
そこに差す影。すぐ傍に立つのは、腕を異形巨大化させた達人だ。
理由があれば暴力を振るっていいなんて思わない。
けれど、何の意味もない暴力で誰かに泣いて欲しくない。
だから。
「これから僕は君を殴る」
君が誰かを泣かせない為に。君自身を、泣かせない為に。
その腕を、ぶちかました。
結局のところ、力があるだけでは獣と変わらない。ならばその結末は、やはり当然のものだろう。
数度の交錯の後、真吾が動かなくなるまで、それからそう時間はかからなかった。
●
「ダークネスのおかげで力を得てダークネスと戦うなんて、ちょっと昔のヒーローっぽいよね」
倒れた真吾へと最初に声をかけたのはエリだった。その顔に笑みを浮かべながら、覗き込むようにして真吾の顔を眺めている。
何となくその顔を直視していられなくて視線を横にずらせば、そこにもまた顔。
「おめでとうございます」
火夜が、小さく笑いかける。
「ここでその闇に負けなかった貴方はきっと、素晴らしい正義の味方になれますよ」
そうなのだろうか? 真吾の思考に浮かぶのは、疑問。自分は一度間違えたのに、本当に――
「一度道を踏み外したからって、正義の味方になる資格を失うわけじゃないわ」
その瞬間、まるで心を読んだかのように、その声が聞こえた。そちらへと視線を向ければ、都香の姿。
「今度こそ貴方の目指す本当の正義の味方になればいいのよ」
やはりその顔には笑みが浮かんでいる。
「……今まで間違ってたって、そう思えたのなら」
気が付けば、目の前には達人の顔があった。
「これからなろうよ、本当の正義の味方にさ」
笑顔で、その手が差し出される。
「もう、1人で苦しまなくていいんですよ……。僕らは『あなたの』味方です……!」
感極まったのか、リヒトは唐突に真吾を抱きしめた。どうすればいいのか分からず困った顔をする真吾へと、周囲の皆は笑みを向け続ける。それは嫌なものではない。それどころか暖かさすら感じるものだ。
お人好しだと思った。先ほどまで暴れていた自分へと、優しい言葉を、優しい笑みを向けて。
そんなの……ああ、そんなの。
――まるで、正義の味方ではないか。
ふと、なりたいと思った。目の前の人たちのような、そんなものに。
「君は、何のために力を振るう?」
杏の言葉に、真吾はまだ返すべき答えを持たない。けれど遠くないうちに、きっと返せるようなるだろう。
今みたいに、皆と共に、笑うことが出来るのならば。
頭上には、輝く月。その優しい光が、皆に等しく降り注いでいた。
作者:緋月シン |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年2月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 11/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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