フェチズムハント ~ソックスハンターKKの陰謀~

    作者:空白革命

    ●靴下の奥深さを知れぇい!
     薄暗い部屋の中、男は机に両肘をついていた。顔の前で手を組み、ゆるく背を丸めている。
     彼はサングラス(ミレニアムデザイン)をきらりと光らせ、低い声で言った。
    「今回の議題は、『女子の靴下を正当に手に入れる手段について』だ。提案者の九津下君」
    「はい……」
     椅子を引いて立ち上がる白覆面の男。
    「昨今、靴下が好きだと主張するだけで変質者の後ろ指を指されるようになりました。確かに我らは靴下の臭いをかぐだけで大抵の苦しみから解放されますし、女子が脱いだばかりの靴下でほほをたたかれたときの喜びは天にも昇る勢いですが……」
    「いやそれは100%おまえが変態なだけだ」
    「俺たちまで一緒にするな」
    「だがしかし、ある方法を使えば女子の脱ぎたて靴下をゲットすることも不可能ではありません。むろん、後に攻められる心配をゼロにして!」
    「なにっ、それを早く言え!」
    「興味深い、続けたまえ!」
    「はっ!」
     びしっと敬礼する白覆面。
    「まずクリスマスイブにサンタクロースの格好をしてバイト帰りや学校帰りを待ち伏せます。このときあえて靴下ははきません。女子が自分の姿を発見したところで、こちらから『プレゼントを入れる靴下がないのですぐに用意してくれ』と提案するのです。今すぐに出さなければプレゼントは没収だと!」
    「うむ、よし、九津下君」
    「はいっ、渡された靴下には感謝の気持ちとして一万円ほど入れて返し、その後さりげなく靴下だけを懐に入れれば……!」
    「帰れ」

     がらがらぴっしゃん。
     部屋から放り出された白覆面の後ろで、扉が無情に閉まった。
     地面に突っ伏す白覆面。
    「くうっ、なぜだ! なぜみんな紳士ぶるんだ! みんな女子の靴下がほしくて仕方ないはずなのに……! こうなったら私だけでも……私だけでもこの作戦を実行して……!」
     顔を上げる白覆面。
     両目がギラーンと輝き着ていた服がフルパージされムタンガだけを装着しなおすと四つん這いの姿勢のままシャラーァとか言いながらどこかへと掛けだした。
    「待っていてください、私のマイハニーソックスたち! 一つ残らず頬張ってあげますからねぇェェェェイッヒイイイイ!」
     
    ●女の子のセクシーなシーンだけ書いていれば安泰ではないのか?
    「足袋と靴下ってどう違うんじゃろうか……おんなじじゃろか?」
     お行儀悪くも机の上に腰掛け、半体育座りをする薬王寺・詞乃(高校生魔法使い・d07236)。
     肩ははだけるわ裾はないも同然だわでイラスト化するにも描く角度によっては公開できないような有様であった。
     こういう人が割と横行しているのが武蔵坂学園なのだが……それはさておき。
    「そういえばこの前のう、地面からちょっと浮いた感じで疾走する小悪魔ファッションの男を見かけて、もしやと思って調べてもらったんじゃけど……どうじゃった?」
    「はあ、まあ、お察しの通りといいますか残念ながらといいますか、淫魔でしたね」
     眼鏡をかけた男性エクスブレインが堅い態度で応じる。
    「靴司田蕪郎、闇堕ち下ばかりの一般人です。靴下が好きすぎて闇堕ちしたそうです」
    「好きすぎてて……」
     一緒に話を聞いていた灼滅者たちもポカーンである。
    「とはいえ、このまま放っておけば完全な淫魔になってしまうでしょう。そうなる前に彼を倒さねばなりません」
     
     エクスブレインの説明を要約するとこうだ。
     元々のぶっ飛び具合があったせいか、淫魔のパワーはなかなかのもので、普通にバトると結構苦労しそうな相手らしい。
     しかしその力は靴下への熱い思いから来ているものなので、やりようによってはパワーダウンも見込める……かも、しれないとのこと。
    「靴下を地面に並べて籠罠仕込むとか、そういうのかのう」
    「いえ……フェチズムを舐めてはいけません。ただ靴下をくれてやればいいというものではないのです。グルメが『とにかく食えればいい』とは絶対に言わないように、彼もまた靴下に並々ならぬ思い入れがあるはずです。それ故に、アプローチの仕方も単純にはいかないでしょう」
    「どうしてそこまでフェチズムに詳しいのかは……さておいてじゃ」
     箱を右から左へ移すジェスチャーをする詞乃。
    「とにかくやっつけてやればいいと?」
    「まあそういうことですね」
     そういうことらしい


    参加者
    艶川・寵子(慾・d00025)
    脇坂・朱里(胡蝶の館の女主人・d00235)
    薬王寺・詞乃(高校生魔法使い・d07236)
    咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)
    高峰・緋月(頭から突撃娘・d09865)
    凸囗・凹(ハピネスウォーター・d11705)
    天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)
    星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)

    ■リプレイ

    ●心理学的にみて、靴下フェチの根底にあるのは強い闘争心。
    「私の推理が正しければ、件(くだん)の変態もとい靴司田蕪郎さんは……」
     ハンチング帽をかぶった星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)が、帽子のつばを摘まみながら振り返った。
    「あなたですね!?」
    「ちがいます」
     五十を過ぎたかというはげたおっさんがンなことをいいながら通り過ぎていく。
     フッと笑う綾。
    「ではあなたですね!?」
    「ひっ、ちがいますけど……」
     街角で辻ふっかけを続ける綾であった。
     さておき。
    「淫魔か……ヤツらのことは知っているつもりでいたが」
     ポケットに片手を入れ、ふわっと前髪をかき上げる天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)。
    「愛を向ける先が靴下か、突き抜けてるな。俺の知らないタイプだ」
     憎き宿敵のはずなのに全くその気が起きん、とつぶやいてみる。
     咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)は腕組みをして首をならした。
    「とゆーか、男の子ってふだんそういうこと考えとるん?」
    「少なくとも俺は考えてない」
    「私は考えてるわ」
    「わらわも似たようなことは」
     重ね絵細工のように後ろからすすっとスライドして現れる艶川・寵子(慾・d00025)と薬王寺・詞乃(高校生魔法使い・d07236)。背筋を伸ばす千尋。
    「素敵ね、フェチズム。ピンポイントでハイピュアな愛なんてゾクゾクしちゃう」
    「わらわ的には脚まで含めないとのう。靴下はあくまで足を魅力的に見せるためのものであっていわば刺身のツマじゃ」
    「そのツマをおいしくもぐもぐできてこそのラブじゃないの」
    「ほう、語るではないか……」
    「やめて、そっちの論争に持って行くのやめて」
     間に割って入る高峰・緋月(頭から突撃娘・d09865)。
    「学園にはエッチな人ばかりじゃないって言おうとしたしその通りだと思うけど、なんだろう……もう三割くらいは占めてる気がしてきたよ……」
    「まあ、元気を出してください。今回の事件だってきっと、その割合をわずかに上げることになるんですし」
    「いわないで」
     ナチュラルに話に入ったはいいが、慰めてるんだか追い打ちかけてるんだかちょっとわからない脇坂・朱里(胡蝶の館の女主人・d00235)である。
    「今回のケースは本当に靴下だけなんですよね。きっと女性自体への興味はないんでしょうね」
    「女性自体? はっきり女体と言ったらどうじゃ!?」
    「そこ食いつくところ!?」
    「わー、ちょうちょー……」
     カオスになりかけた彼らの後ろで別世界を作る凸囗・凹(ハピネスウォーター・d11705)。
     そんなときふと、凹は足を止めた。
    「…………」
    「…………」
     ブリッジの姿勢で振り返るムタンガの男、靴司田蕪郎。
     ほぼ半裸で振り返る素足ローブと仮面だけ(本当にそれだけ)の娘、凸囗凹。
     出会ってはいけない二人が、出会った瞬間であった。

    ●靴下フェチにとって履いてない靴下は料理の盛られていない皿に等しい。つまり観賞用としての価値があるという意味だ。
     緋月の作戦はこうだ。裏路地をうろうろしていると蕪郎さんがやってきて靴下を渡すように迫られる。恥ずかしがりながらも脱ぎ捨て、相手の口に突っ込んで窒息を狙う。
     まあダークネスに窒息も何もあったもんじゃあないが、そんな気持ちの上での攻撃である。
     さておき、そんな作戦を胸に秘めた緋月が果たして蕪郎とちゃんと接触できたのかといえば……。
     できた。
     できたが。
    「うっふん」
     棒読みトーンでそう言いながら片足でよたよたする凹。
     イラストを御覧いただくとお分かりいただけると思うが、ローブと仮面以外ははっきり言って何もつけていないしつけたこともなさそうな凹ちゃんのことである。不器用にぐらぐらとよろめきながら、片足に靴下を引っかけるようにはこうとする様はもう何かのいかがわしい企画ビデオのようではあったが、それを正座して、しかも足首から下だけを食い入るように凝視するムタンガ姿の男がいることでもはや異世界じみた光景になっていた。あとなんか後光だしてたし。
     無言で三歩半後退する緋月。
    「なぁにここ、アウターなゾーン的な……?」
    「サービスカット担当は決まったわね」
    「カメラに納めない誠実さと肉眼には焼き付ける純粋さを併せ持ったまことの変態よ……」
     仰向け状態ですすっと現れる寵子と詞乃。キャスターがついてるのかというスムーズさである。
    「ど、どうしよう。男の子がやってるなら止めなきゃいけないんだけど、このケースどうしよう……っ」
    「迷わず踏んどいてかまわんのやない?」
    「そうですね」
     左右から二人をむぎゅっと踏みつける朱里と千尋。
     それに気づいた蕪郎がキリッとした顔でこちらを振り向いた。
    「む、君たちは!」
    「おっと、お楽しみ中悪いな。タイプ違いとはいえこっちも宿敵相手の……」
    「今は高貴な時間だから後にしてくれませんか!」
    「少しはダークネスらしい反応をしろ!」
     シリアスムードを一瞬にして打ち砕かれた玲仁であった。
     ポケットに両手を入れてくるりと振り返る玲仁。
    「俺は……あれだ、今からメディックとして回復を最優先にしてエンジェリックボイスと清めの風を使用し催眠を受けた味方には率先してキュアをかける感じで行動していく。手の空いたときはフォースブレイクの予定だ」
    「なぜそんなガンビット指定を今更……」
    「今言わないと最後まで描写がなさそうな気がしてな」
    「気のせいです、といえないところが悲しいですね」
     なんだか理解ある顔で頷いてくれる朱理。
     と、斯様に混沌化した現場に星陵院綾が現れた。
    「皆さんお困りのようですね!」
     背後からスポットライトを浴びながらやや半身の構えで登場する綾。その辺の木箱に素足をちょこんと乗っけると、蕪郎へびしりと指を突きつけた。
    「あなたには私が裸足に見えますか? 愚かですね、これは……」
     唐突に入る目線カットイン。
     唐突に入る足下からのスパイラルカメラワーク。
     唐突に入る参加者全員の顔アップ。
     最後にむりくり挟まる全員カットからの綾顔アップに至るハイズーム。
    「紳士でない者には見えない靴下なのです!」
    「な……!?」
    「に……!?」
     再び挟まる全員の顔アップ。
     そして……!
    「それはつまり素足ということではありませんか?」
    「…………それは、おいといて」
     箱を右から左へ移すジェスチャーをする綾。
    「これが素足に見えるということは、あなたには愛が足りないのです。さあ目を閉じて、あなたにもわかるはず、心の目で見えるはず。そう、私が……私たちが靴下なのです!」
     蕪郎さんが言われたとおりに目をつぶっている間に靴下をよたよた履いてから再度同じポーズをとる。
     蕪郎さんはあごに手を当てて思案すると、ポンと手を叩いて言った。
    「なるほど、その理屈からすると私はあなたの靴下どころか前進にむしゃぶりついて構わないということですか?」
    「そうなるがそうならないでいただきたい!」
    「あんた本当に何で出てきたんだ?」

     綾が『おかしい今回は解決編のはずだ』とか意味不明の供述をしている横で、蕪郎は別方向へと正座していた。
    「女子高生靴下生着替えノーカット編集版!」
     ガッと木箱に足を乗せた寵子がタブー的な音楽に合わせてゆっくりと靴下を脱いでいた。『もうなんなのここ、歌舞伎町なの?』と言いながらもう三歩下がる緋月。
    「この靴下が欲しいの? いいのよ、人は欲望に素直になって、いいのよ」
     舐めるような手つきで靴下にパチンコ玉をじゃらじゃら詰め込むと、ブラックジャックの要領で蕪郎のほほへとがしがしたたきつけ始めるではないか。
     一方の蕪郎は。
    「アリガトウゴザイマァス!」
     正座のまま寵子の殴打に耐えていた。耐えていたっていうか堪能していた。もう五歩後退する緋月。
    「ほーれおぬしの好きな靴下じゃぞ、ほーれほれ」
     横からは詞乃がさっき脱いだばかりの靴下をぷらぷらと左右へ揺すり、蕪郎の首を右へ左へとねじらせていた。
    「欲しければくれてやるのじゃ、犬のように取ってくるがいい! そぉい!」
    「ワロォォォン!」
     四つん這いで(しかし犬のように素早く)重し入り靴下を追って飛んでいく蕪郎。
     靴下が千尋と朱里の間を抜けていった直後を見計らって、二人は交差回し蹴りを繰り出した。
    「せいっ」
    「アリガトウゴザイマァス!」
     顔面と腹に二人のかかとがヒットしているにも関わらず恍惚とした表情で崩れ落ちる蕪郎。
     千尋は無言で棺桶型の機関銃を取り出すと、どかどかと打ち込んでみる。外装(棺)に隠れてわかりにくいが、セオリーに則るならばブローニングの1919だろうか。
     さらにライドキャリバーにD・R繰り返しでめちめちと踏みつけさせるという念の入りっぷりである。
     そんな蕪郎を踏みつけつつ問いかけてみる朱里。
    「たびは靴下に入ります?」
    「草鞋がけならまだしも筒長革製になるともはや素足で履く靴ではないでしょうか? 地面に常に靴下が接しているというのも体臭派として喜ばしいとはいえませんね」
    「思った以上に細かい意見を述べてくださってありがとうございますしね」
     かかと落としを入れてみた。
     むろん喜んだ。
     緋月はさらに十歩後退した。

    ●人類がいなければ靴下は成立しないが人類そのものには興味がわかないというジレンマを桃と木に例えた歴史書は非常に高尚だと思われるがたぶん嘘だ。
     緋月がどん引きしすぎて50mくらい離れきったころ、寵子と凹はロッドに脱いだばかりの靴下をかぶせていた。
    「チョっとダケよ……?」
    「ふふ、被せるといっても仮性包……」
    「おまえちょっと黙ってろ」
     これが公開できなくなっても知らんぞといいながら寵子を押しのける玲仁。
     靴下を脱ぎ、ジュンイチスタイル(素足に革靴をはくことを指す)になると、靴下を一つつまみ上げて見せた。
    「一つ聞いておく。これは靴下だが、ほしいか?」
    「む……」
     顎に手を当てる蕪郎に、やや安堵したように頷く玲仁。
    「そうだろう。見境がないのはよろしくないからな。というより、そんなに好きなら靴下職人でも目指して手作りしたものを履いてもらうというのもいいと思うが……」
    「そうですね。確かに無料(タダ)でいただくというわけにはいきません。五万でいかがですか」
    「え?」
    「え?」
     お互いを探り合うような視線が二人の間で交わされた。
    「見境がないのはよくないという話ではなかったか?」
    「はい、正しい審美眼を持つべきだと思います。ご不満でしたら六万三千円でいかがですか」
    「え?」
    「え?」
    「それでもご不満ということでしたらこの特殊繊維で作成した靴下と交換するというのはいかがでしょうか。通気性の代わりに保温性が高く冬は暖か夏は涼しいという機能性に加え、専用に足形をとらせていただければ足の形にぴったりとあった形状記憶靴下を作成することもできますが!」
    「なに……?」
    「ご安心ください。当方は工業ミシンとシリコン型を扱っておりまして万一のほつれやご不満などがありましたら返品も承っております!」
    「すこし考える時間をくれ……」
     背を向け、早足で遠ざかる玲仁。緋月と同じところまで下がってくると、彼女に小声で相談を始めた。
    「靴下って、作れるのか?」
    「え、あ、うん。服の修理屋さんとかにあるミシンで市販品クラスはいけると思うけど、たしか技術がいるんじゃなかった?」
    「知らないが……そうなのか? ちなみに工業ミシンっていくらだ」
    「安くて二十万とかかな。オーダーメイドとか受けるところのになると型情報をパソコンで打つから最低四十万とかいるはず……だったかな?」
    「そ、そうか……」
     よりよい靴下を提供して『今はいている靴下』を回収する作戦なのか……?
     情熱と欲望の力を知り、玲仁はちょっと心の寒さを感じたのだった。

     玲仁や緋月がもう完全に外野と化していたころ、蕪郎は座禅を組んでいた。
     五方向から寵子、朱里、詞乃、千尋、凹ちゃんに囲まれて靴下ロッドだの足蹴りだのをひたすら受け続けるという、苦行なんだか罰ゲームなんだかわからない状態である。
     念仏のように『アリガトウゴザイマァス!』と言い続けているのでご褒美なんだと思う。
    「あ、ところで靴下の判定ってそれ単体でできるんですか? 匂いとかで?」
    「いいえ、色形と匂いや味は基礎情報にすぎません。繊維の伸び方や湿り具合、外側と内側に付着する成分の違いなどから本人の生活形態や健康状態を把握することが可能です」
    「この男、プロだわ……」
     ごくりとつばを飲む寵子。
     無言で紅蓮ひっかきとかし続ける千尋。
    「ここまでくると逆にあっぱれじゃのう……」
     ほぼ無抵抗に殴られ続けるという(さりげに本当の意味での)非暴力主義に至った蕪郎に、詞乃は戦慄の汗を流した。
     とはいえダメージはダメージである。
    「チョコレート、ふぉー、蕪郎」
     バレンタインを意識したのか何なのかチョコ色の靴下をロッド共々振りかざす凹。
    「あじわって、タベて?」
    「ゴチソウニナリマァス!」
     顔面へと振り下ろされるロッド。
     ダークネス靴司田蕪郎は、男としてその命を全うしたのだった。

    ●そうはいってもただの変態なわけで
    「で、終わればよかったんだが」
    「……う、うん」
     緋月と玲仁は悲しい表情で空を見上げていた。
     そんな彼らをよそに。
    「はい、プレゼント」
    「アリガトウゴザイマァス!」
     脱いだばかりの両足分の靴下(さりげに人生初靴下である)を差し出され、正座して両手で受け取る男。
     サウンドソルジャー、靴司田蕪郎。
     拍手するでもブーイングするでもなく、ハイライトの消えた目で一部始終を見つめる朱里と千尋。
     寵子と詞乃は地面に這いつくばった状態でその光景を鑑賞していた。
     そんな彼らを背に、パイプ(ボールをふーふーして浮かすやつ)を銜える綾。
    「膨らみすぎた人の欲望が生んだ、なんとも恐ろしい事件でした。願わくばこのような悲劇が二度と起こらないことを祈るばかりです……」
    「よく考えたらあんた何もしてないな」
    「はは、そんなばかな」
     笑顔で振り返る綾。
     そして。
    「『くつしたかぶろういただきます』!」

     この日、武蔵坂学園にひとり変態が増えた。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 16/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 36
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