復活! ぽんぽこ怪人・ナハトタヌキング!

    作者:階アトリ

     化けだぬき民話の多く残る、四国は徳島県。
     たぬきに化かされる、なんて現代の世ではもちろん誰も信じていないけれど。
     市街地にて、事件が起きていた。
     時刻は夜。
    「フハハ! 食らえ、万畳敷ダークネス!!」
    「キャア!?」
     水銀灯の明かりの下でウォーキングをしていた女性の頭に、背後から何者かが、がっぽりと、ふかふかした布袋を被せた。
     当然、女性は驚き、悲鳴を上げる。
     ふはははは!と笑ったのは頭にたぬき耳カチューシャ、尻にはたぬき尻尾をつけた中年男。太鼓腹ボディを包むのは全身タイツっぽいぴったりとしたスーツ……。
    「どうだ!! 目の前が真っ暗だろう!?」
     突然のことに女性は混乱し、なかなか被せられた布袋を脱ぐことができない。
    「てやっ!」
    「キャアア!?」
     女性がもぞもぞともがいている間に、男は女性の足元をキックで払い、女性に尻餅をつかせて。
    「フハハハハ! 我こそは、ゲルマンシャーク様の力で蘇った、その名もぽんぽこ怪人・ナハトタヌキング! この名をその心に刻むが良い!」
     高笑いを残し、怪人ナハトタヌキングは駆け去ってゆく――。
     
    「ご当地怪人が現れたよ!」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が、教室を訪れた灼滅者たちを迎え入れた。
    「場所は、四国の徳島県。
     ご当地に残るたぬき伝説にちなんだ怪人みたい。
     見た目は、全身タイツっぽいピタっとしたスーツに身を包んだ太鼓腹のおじさんで、たぬき耳のカチューシャとふかふかのたぬき尻尾をつけて、たぬき怪人っぽさをアピールしてるよ!
     今は、化けだぬきの民話にちなんだいたずらで済んでるけど、ご当地怪人はみんな、ご当地で様々な悪事を企て、そっから何やかんやあって最終的には世界征服を達成するっていう、壮大な計画を目論んでるからね!
     この先、いたずらをどんな悪事に発展させていくかわからないよ!
     それに、今はまだ転んでちょっと怪我をするくらいの被害で済んでるけど、転び方が悪ければ大怪我するかもしれない。
     だから今のうちに、灼滅してほしいんだ」
     と、ここまで説明したところで、まりんは溜息を吐いた。
    「ん? どうしたんだよ、らしくねえな」
     元気がないというか、うんざりしているようなまりんの様子に、斑鳩・慧斗(中学生ファイアブラッド・dn0011)が首を傾げた。
    「実は、似たような怪人が前にもいたんだよ……無事に灼滅できたはずなんだけどなあ……。
     ゲルマンシャークに復活させてもらったとかなんとか言ってるみたい」
     まりんは「うーん」とうなった。
    「復活しちゃったものはしょうがないよね! ダークネスは一般人に仇なす、灼滅者の宿敵! 灼滅できそうなものは灼滅したほうがいいに決まってるよね!」
     まりんは気を取り直し、解説を続けることにしたようだ。
    「たぬき怪人は、名前が前とはちょっぴり違って、ぽんぽこ怪人ナハトタヌキングって名乗ってるよ。
     ナハトはドイツ語で夜っていう意味みたいだね。
     ……夜に出没するからかな?
     まずは接触方法からいくよ!
     最近の健康志向で、ウォーキングやマラソンをしてる人って結構多いよね。
     ナハトタヌキングは、夜、徳島市内の市街地に出没して、散歩やマラソンをしている人の背後から頭に布袋を被せて、脚をひっかけて転ばせる……っていう、前と同じいたずらをしているんだ。
     布袋がふかふかのぬいぐるみ生地のものになったのが、前とちょっぴり違うところかな?
     だからこっちも、前と同じように囮を立てて、囮役の頭にナハトタヌキングが背後から袋を被せたところで、皆で囲んで戦闘開始するのがいいと思う。
     市街地とはいえ、田舎だから現場に人気はないんだけど、一般人の人がいると、怪人がそっちに布袋被せにいっちゃったりするかもだし、戦闘が始まった時に巻き込んじゃうのも心配だから、囮作戦を開始する前に通行人が来ないよう、軽く人払いしておくといいよ。
     人払いの具体的な方法はみんなに任せるね」
     まりんは地図を出し、灼滅者たちに手渡した。蛍光ペンで印がつけてある道がある。
    「ここの、この道を囮役が1人でウロウロ歩いてると出会えそうだよ。
     ちょうど、植え込みとか空き家とかポストとか自動販売機とか色々あって隠れやすい道だし、他のみんなは囮役の人が見える場所に隠れて、ナハトタヌキングが現れたら飛び出してね」
     道の幅は広く戦闘に支障はないし、住宅は少ないので通行人さえこないようにしておけば一般人が戦闘に巻き込まれることはないだろう。
    「ナハトタヌキングの戦闘能力は、前より少し増してるみたい。
     ダークネスだし、皆が全力でかからないと勝てない相手だよ!
     技は、まず『たぬキック』! 近接攻撃だね!
     次に『ぽんぽこビーム』! 太鼓みたいにでっぱったおなかをポコポコ叩いくと、おへそのところからビームが照射されるんだ!
     そして最後に『万畳敷ダイナミック』! 相手を高く持ち上げた後地面に叩きつけ、大爆発させる荒業だよ! 地味に千から万に桁が上がってるよ!!
     どれも、効果自体はご当地ヒーローのサイキックと同じなんだけど……見た目がね、えっと、民話に出てくるようなたぬき、ってことだから。
     激しくナハトタヌキングが動くたび、以前と同じく、しっぽじゃないものが、ぶらぶらするんだよね……。何が、かはあんまり考えたくないものが」
    「ぶらぶら……」
    「うん。たぬきだからね……」
     慧斗に「具体的には言えないけど察して欲しい」と目で訴えるまりん。
    「復活にあたって、ぶらぶらの素材がふかふかになったらしいよ……」
     遠い目をするまりん。
    「特に女の子には目の毒だとは思うんだけど、だからこそ、ちゃっちゃと灼滅して欲しいの!」
    「お、おう」
     まりんに、慧斗が頷く。
    「みんながナハトタヌキングをやっつけて無事に帰ってくること、信じてるから!
     あ、そうそう、外は寒いし折角だから、ご当地名物のラーメンでも食べて来たらいいよ!」
     まりんは明るい未来を信じる笑顔で、灼滅者たちを送り出したのだった。


    参加者
    佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597)
    天衣・恵(無縫・d01159)
    伊月・阿州佳(徳島ヒーロー子ダヌキ系・d02785)
    神宮時・蒼(幻想綺想曲・d03337)
    辻村・崇(真実の物語を探求する者・d04362)
    閃光院・クリスティーナ(閃光淑女メイデンフラッシュ・d07122)
    天城・優希那(の鬼神変は肉球ぱんち・d07243)
    神楽・紫桜(紅紫万華・d12837)

    ■リプレイ

    ●開戦! 狸合戦
     まずはESPを使って現場の人払いを済ませ、念のために立ち入り禁止の札を立てておく。人数がいるので作業は早い。
    「タヌキングさん、退治したのに~。ご冥福をお祈りしたのに~」
     天城・優希那(の鬼神変は肉球ぱんち・d07243)がしょんぼり呟く。ふわふわもふもふした白狐のきぐるみの耳と尻尾もしょんぼりしている。
    「準備おっけーい。ところで、どんな怪人なのかな」
     天衣・恵(無縫・d01159)が訊ねると、優希那はゆらりと振り向いた。
    「あんなのタヌタヌさんじゃないのです~」
    「変態さん……です……か……」
     神宮時・蒼(幻想綺想曲・d03337)は優希那の声と表情、そしてエクスブレインからの情報を総合し、結論を出す。
    「変態……想像つかないなー」
     恵は首を傾げつつも、会えばわかるかと楽天的だ。
    「変態はあかんです! 狸は徳島のマスコットとして皆に愛される存在……地元徳島のヒーローとして放っとけへんですっ」
    「ええ。ご当地怪人の陰謀を挫くはご当地ヒーローの責務です。お手伝いしますわ」
     伊月・阿州佳(徳島ヒーロー子ダヌキ系・d02785)に、閃光院・クリスティーナ(閃光淑女メイデンフラッシュ・d07122)が大きく頷く。ご当地ヒーロー同士、目と目で通じ合う心。
     準備が整ったところで、囮役の蒼が出てゆく。
     残りの皆は様子がうかがえる場所に隠れた。タヌタリオン着ぐるみ応援団を名乗る動物きぐるみ集団が、隠れるために散ってゆく様子は愛らしく、かつ、シュールだった。
    「うめー」
     神楽・紫桜(紅紫万華・d12837)は缶コーヒーで暖を取りつつ、蒼がてくてくぴこぴこ歩く後姿を見守っている。
    「……しかし今回、絵的に完全にただの変質者だよな……」
    「ああ……タヌキングに他意は、多分ないんだろうけどな……」
     紫桜の呟きに、慧斗は「夜道を行く女の子を襲うおっさん」を想像して頷く。
     その光景はすぐに現実となった。
    「食らえ、万畳敷ダークネス!!」
    「きゃ! です!?」
     水銀灯の下、タヌキっぽい全身タイツ姿のおっさんが、蒼の背後から駆け寄り、振りかぶった布袋を被せた。おっさんの、ガニ股になったその後姿、尻尾以外にぶらぶらしているものが蒼以外の全員に見えた……。
    「引っかかったな! 行くぜ!」
    「たぬ王、いやタヌキングと名乗っていいのは狸の着ぐるみを愛し人に愛されるタヌキたぬよ」
     佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597)と辻村・崇(真実の物語を探求する者・d04362)が、勢い良く飛び出していった。

    ●もふもふぶらぶら
    「お待ちなさい!」
     クリスティーナの可憐にして凛々しい声に、蒼を転ばせようとしていた動きを止め振り向くタヌキング。
    「ナチュラルエネルギーキック!」
    「ふごっ!?」
    「ご当地の平和を乱す者はこのメイデンフラッシュが許しませんわ!」
     バトルオーラの光の尾を引くローリングソバットを食らわせた後、ポーズを決めるクリスティーナ。セーラーコスチュームからちらりと覗いたおへそがキュートでセクシーな、閃光ヒロイン大・見・参!
    「何者だキサマら! 背後からとは卑怯だぞ!!」
     振り向いて喚いたタヌキング。背後からいたいけな少女に襲い掛かったおっさんが何を言うかとばかりに、ゆらりと振りかぶられる崇のマテリアルロッド。
    「おいらは、タヌタリオン。着ぐるみをこよなく愛する使徒たぬよ。くらえ、ぽんぽこぱーんち!」
    「ぐおっ!?」
    「か弱い女性を苛めるなんて同じタヌキとして許せないたぬ!」
     崇のフォースブレイクの追撃がガツガツ入っている間に、蒼が頭に被せられた布袋を脱いだ。
    「ぷはっ。……なまあったかかったのです……!」
    「悪かったな神宮時」
     司が、蒼が後衛へ下がれるよう愛用の縛霊手で庇うようにしながら、右手ではソニックビートを放つ。
    「……徳島魂の籠ったビート、叩き付けさせてもらうよっ!」
     阿州佳が、情熱的に奏でられるギター音をBGMに、阿波踊りのリズムでパッショネイトダンスを踊った。
    「ぶげげげげっ」
     ダメージにビクビクと震えたナハトタヌキングだったが、すぐに立ち直り腹を叩いた。
    「なるほどキサマらは我ら怪人の天敵、ヒーローというわけだな! 喰らえ、ぽんぽこビーム!」
     臍から放たれた光が阿州佳を襲った。タヌキング入魂のビームの威力は高かったが、大丈夫。
    「壮麗なる白の、旋律……」
     蒼が、エンジェリックボイスですかさず癒す。
     それに続くようにして、紫桜が広げたワイドガードが、癒しの力と共に前衛を包み込んでBS耐性を与えていった。
    「正義の味方参上! とか一回やってみたかったんだよなー」
     紫桜は次は我が身をソーサルガーダーに包み込んで、デュフェンダーの本領を発揮しつつ皆をサポートしてゆく姿勢だ。アルティメットモードで最終決戦モードに変身した彼の姿は、怪人を歯噛みさせた。
    「くっ、かっこいいな畜生! しかしこのナハトタヌキングにも、ゲルマンシャーク様から頂いた華麗なるドイツ要素がある!」
    「そのドイツとのテキトーな融合が許せません。ドイツ語+日本語+英語ってなんですの!?」
     クリスティーナが身構えながら突っ込めば、おっさん狸が胸を張った。
    「テキトーではない! このぶらぶらに使用されたるふかふか生地は、ドイツより舶来した高級モヘアなのだ!!」
     それはどうなんだろ?タヌキ愛好家も思わず呟いてしまうそのドイツ要素。
    「努力は認めよう、だけどそれは無いわー」
     恵が、爆笑しながらシールドリングから小光輪を飛ばし、阿州佳を回復した。
    「無くはない! 見よ、この見事な毛艶を!!」
     ぶらぶらぶらぶらぶら。
    「やっぱりあんなのタヌタヌさんじゃないのです~。可愛くないのです~」
    「あああ、あれは絶対に小学生の目に入れてはいけないのですっっ」
     泣きついてきた優希那を、心配でついてきた智恵美がしっかり受け止めた。
    「タヌタヌさんにはあんな変なブラブラ付いてないのです~うわぁぁんっ」
     優希那は智恵美のワイドガードに包まれながら、指の八重紅枝垂をきらめかせ、制約の弾丸をガンガン撃つ。
    「グロウ! 見苦しいものはさくさくやってしまってくださいな!」
     メイド服姿のビハインドが、クリスティーナの命を受けて、ジャマーの立ち位置からナイフでさくさくと切り裂いてゆく。
     しかしまだまだ元気なナハトタヌキング。
    「現実を見るのだ! 民話におけるタヌキのイメージとはこんなものだ!!」
     ぶらぶらぽこぽこ、ぽんぽこぽん。
     激しく腹を打ちビームを乱射するナハトタヌキング。優希那の悲鳴。
    「いくらモフモフでも、そりゃねーだろよ! 燃やしつくしたるわ! ほら、斑鳩もやったれ!」
    「おーよ!」
     司と慧斗が、ビームの合間を縫って肉迫し、レーヴァテインを叩き込む。
    「お前がタヌキングとは臍で茶が湧く位笑っちゃうたぬな」
     崇の「荒ぶるタヌキのポーズ!」からのフォースブレイクを回避しナハトタヌキングは高笑いする。
    「私こそが真のタヌキングだ! だからこそ蘇った!」
    「やられてから復活するのは味方になるか再び負けるフラグっしょ! あんたはどー見ても後者!」
     恵が、ぽんぽこビームで傷ついた仲間たちにシールドリングを忙しく飛ばしながらツッコミを入れた。
    「それに、こっちにゃたぬきヒーローがいるんだ。ヒーローは負けない。そういうもんだろ?」
    「そーそ! 怪人は負けるべくして負ける!」
     司に頷き、紫桜は柄を握り身を沈めた。次の瞬間、抜き放たれた小烏丸が美しく弧を描き、強烈な刺突が狸腹に決まる。
    「おっさんよかめんこいヒロインのが視聴率も取れるってな!」
     司の斬影刃が茶色いぴっちりスーツを切り裂き、タヌキングの茶色い悲鳴が上がった。
     際どいところが破れて、思わずそこを手で押さえたタヌキングに、がばりと巻きつく白い腕。
    「ナチュラルエネルギーダイナミック!!」
     クリスティーナがスイングDDTで華麗に投げ飛ばせば、アスファルトに叩きつけられたタヌキングのスーツの破れ目がぼろりとめくれた。
     別に何がはみ出たというわけでもない。ないけれど、服破りを喰らったタヌキスーツのおっさんが、水銀灯の下でM字開脚という絵はとても辛い。
    「……あ、……う……、……や……っ!」
     蒼は、とりあえず全力で攻撃をぶちかます。
    「絡め捕れ……、封じよ! ……切り刻め……、神の、刃……!」
     空を彩る星のように光を弾く鋼糸が夜の闇に踊り、縛り、風の刃が渦巻いた。
    「負けぬ! タヌとうっ!」
     奇怪な動作で飛び起きたタヌキングが放ったビームが、ちゅいんと優希那の白狐耳を掠る。
    「ああああああああああらぶるゆきなのぽーず!」
     ダメージよりも、ビジュアルの破壊力に優希那はあらぶり、もふもふと肉球手を振り振り、タヌキングを禿げ散らかす勢いで頭部を狙ってマジックミサイルを放つのだった。
    「気持ちはわかるけど落ち着いてー!」
     恵が優希那に駆け寄り、癒しの力に変換したオーラを纏った腕で抱き止める。
     ナハトタヌキングは元気に暴れまくった。しかし所詮は孤立無援。
    「寄らば斬る」
    「真のタヌキングはこんな怪人なんかに負けたりしないんだよ!」
    「立て、立つんだ! あいつを倒し、立派なタヌキングになるんじゃないのか!」
    「たぁぬぅぱぅわぁぁ!」
     反対に灼滅者たちのほうはというと、サポート役たちからの応援も充分で、メディックの恵もよく見てバランスよく回復に努めている。
    「おお、皆の愛がおいらを支えるたぬよ!」
     崇が立ち上がる。
     あとはもう、攻撃で押してゆくだけ。
     タヌキングが、最後の力を込めて、跳ぶ。
    「くそう、喰らえたぬキィック!」
    「たぬキック同士の戦い……負ける訳にはいかへんですっ」
     木の葉のヘアピン煌めかせ、阿州佳が跳ぶ。
     阿州佳にタヌキングの蹴りのほうが先に届くかと思いきや!!
    「タヌキオーンミサイル!」
     崇の放ったマジックミサイルが、阿州佳を追い抜いて着弾した。
    「どぐおっ!?」
     空中でモロに喰らったタヌキングの体勢が崩れる。阿州佳の瞳が輝く。そして力いっぱい、脚を突き出した。
    「金長たぬキーック!!」
    「あ、あれは?! 阿州佳の必殺ご当地ヒーロー技『たぬキック』を、より一層の気合を込めて放つもの!!」
     阿州佳が高らかに叫んだ技名を、恵が解説し、そして。
    「どぐぁー!?」
     ナハトタヌキングは、強烈な蹴りをその出っ腹に喰らい、ぼろくずとなって落ちた。
    「ゲルマンシャークについて全て話して貰うたぬよ!」
     崇が情報を得ようと駆け寄って行ったが、倒されれば散るのが怪人の宿命。
    「わが野望は費えたが……ゲルマンシャーク様……万歳……!」
     ナハトタヌキングは爆散した。
     もうもうとした爆煙の中に、立ち上がった1匹のタヌキの影。
    「しつこすぎ! 裂けろ裂けろ!」
     タヌキングが立ち上がったのかと、恵が勢いで斬影刃を放つ。
     誤解をした者が他にもいたようで、煙の中の影に向かって次々と攻撃が飛んだ。
    「あれ崇! 狸だけど別のだ!」
     聞こえてくるかすかな声に、気付いた丞が叫ぶ。
    「崇さん!」
    「おいらが倒れてもまた第二、第三のタヌキが……」
     桐香が駆け寄ると、その腕にがくっと崇は倒れた。
    「おのれタヌキング!」
     恵が責任転嫁もはなはだしく、ナハトタヌキングの散った水銀灯の下を振り返る。
    「これは……」
     クリスティーナは何か残っていないかとその場所を観察し、ふわふわのモヘア生地で出来た何かを発見した。
    「袋……だな」
     司も一緒にそれを見下ろし、微妙な表情。
     ゴミだが拾って帰るのも嫌だ。幸いというべきか、爆散の炎が燃え移っていたので、それはあっという間に燃え尽きて消えた。

    ●さらば、ナハトタヌキング
     皆で片付ければ、あっという間に現場は元通り。
    「サンキューな、あったかかった。でもちょっと動くと暑いなー、着ぐるみ」
     慧斗が、借りていたたぬき着ぐるみを脱いで返した。
    「ほんっと、嫌な感じの怪人だったね」
    「……見てない、見てない……。ボクは、見て、いない、のです……!」
     恵に慰められながら、蒼はふるふると頭を振った。
    「とりあえずラーメン食ってから考えるか!」
    「あ、うちがええ店案内します」
     司に、藍染バンダナを結んだ手が挙がった。阿州佳だ。
    「楽しみですわ!」
     クリスティーナも瞳を輝かせる。
    「ちょっと観光とかもしてから帰りたいなー。あ、クラブのみんなに土産買って帰りたいし~」
    「それもうちがええとこ知ってます! ……怪人はあんなでしたけど徳島はええとこですよー?」
     紫桜にも、阿州佳はご当地のいいところを伝えるべく拳を握るのだった。
    「しっかしあんなん再生ってどういう事なのか……時間稼ぎか?」
     ぞろぞろと立ち去り際、司は思い出して溜息を吐く。
    「安らかにお眠り下さい。もう出てきちゃヤなのですよ?」
     優希那は長い睫をそっと伏せ、爆散したタヌキングに向けて祈る。
    「……もう、変態さんは、やー……です」
     蒼も、冷たい冬の夜風の中、ゲルマンシャーク打倒を心に誓った。
     不明な点は多いが、とりあえずご当地の平和は守られたのだ。さあ、この地の良さを楽しんでから、帰ろう。
     まずは熱々のラーメンだ!

    作者:階アトリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 18
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