ただ踊りたくて

    作者:天木一

     賑やかな駅前広場。週末の深夜にはいつも多くの若者が集まり、そのエネルギーを発散させている。
     アップテンポのリズムに乗って、そのしなやかな体を躍動させる。
     それぞれが音楽に乗せて自分を表現し、激しく踊る。
     そんな中、二人の女性ダンサーが中央に立つ。
     一人は動きやすいピンクのTシャツに、デニムのハーフパンツを着た、ショートの女子。
     もう一人はぴたりと張り付く白いシャツに、黒のスパッツにチェックのミニスカートを着た、セミロングの女子。
     一人目のショートの子が踊り出す。曲に乗って激しく踊る。跳ね、回り、時には静止して、緩急をつけたダンスは目を惹く。
     リズムが変わる、すぐさまセミロングの子が踊り出す。打って変わってゆったりと始まり、徐々にテンポが上がっていく。情熱的に激しく、一瞬も留まることなく舞が終わる。
     見蕩れていた観客が沸く。その反応から勝敗は決まった。セミロングの子の勝利だった。
    「そんな……」
     愕然とするショートの子は項垂れる。
    「ほら先輩、これがアンタの実力よ。約束分かってる?」
    「知らないわよ! どうしてお前なんかにッ」
     ショートの子が詰め寄ろうとすると、周囲にいたセミロングの子のファンが取り押さえる。そのまま頭を地面に押し付けた。
     同じ人とは思えないほど強い力に全く抵抗ができない。
    「ほら、待ってるんだけど?」
     悔しさと理不尽さに涙を流しながら声を出す。
    「うぅ……い、今まで偉そうに命令して……ごめん」
    「ごめんじゃないだろ、スミマセンだろうが!」
     セミロングの子が蹴りを入れる。
    「すみません、すみませんでした!」
    「最初ッからそう言ってればいいのよ先輩」
     その姿に満足そうに笑う。
    「じゃあ、もういいわ。連れてって」
    「待って、許して!」
     懇願も虚しく、ファンの男達に引きずられていく。遠く悲鳴が続いた。
    「アタシが一番よ。他は誰もいらないわ」
     少女の顔に蠱惑的な笑みが浮かんだ。
     
    「皆さん、一人の普通の少女が闇落ちしてしまいました」
     灼滅者達を前に五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が説明を開始する。
    「通常なら闇落ちすればすぐにダークネスになるはずです、ですが今回は人の意識が消えていないようなんです」
     理由は不明だが、少女はダークネスの力を持ちながら、意識を残しているようなのだ。
    「つまり、まだダークネスに成りきっていないということです。今なら助けることができるかも知れません」
     灼滅者としての素養があれば、助ける事が出来るかもしれない。無理ならば……。
    「もしできなければ、灼滅してもらうことになります」
     姫子は視線を下げて言った。
    「少女はダンスに強い執着を持っています。そのダンスで敗北させる事ができれば助けられる可能性があります」
     ダンスバトルで少女の心に敗北の気持ちを与えれば、増大したダークネスの力を弱める事が出来る。
    「彼女の名は相楽・伶。中学1年の子です。踊るのが好きでダンス部に入部しましたが、元々プレッシャーに弱く。本番で上手く踊れずに先輩達からバカにされ、練習からも外されて、最後には家来のように扱われていたそうです」
     それが力を手にしたことにより、身体能力が上昇したことで自信が生まれ、今では逆に奴隷のように先輩達を扱っているのだという。
    「ちょうどダンスバトル後に接触することができます。そこで上手く挑発してダンスバトルに持ち込んでください」
     身体能力なら灼滅者達も負けてはいない。十分に勝負になるだろう。誰か一人でも勝利すればいいのだ。
    「ですがダンスバトルで勝利しても、相手は殺してしまってなかったことしようと襲ってきます」
     少女とファンの強化された人間4人。戦闘力はそれほど高くなく、灼滅するのは難しくないだろう。
    「今回はダンスバトルという、特殊な戦いになります。大変でしょうけれど、彼女を闇落ちから助けてあげてください。皆さんならきっとできるはずです」
     姫子は信じきった瞳で見つめると、頭を下げた。


    参加者
    神條・エルザ(高校生サウンドソルジャー・d01676)
    佐伯・真一(若者のすべて・d02068)
    伊奈波・白兎(キャノンボールビューティー・d03856)
    フレナディア・ヘブンズハート(煉獄の舞姫・d03883)
    リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから!・d04213)
    飛田・球児(和製ランディ・d05549)
    布都・迦月(獄炎の剣を繰る者・d07478)
    エインヘリアル・ルーシャ(白銀の氷姫・d13420)

    ■リプレイ

    ●路上のステージ
     夜の静寂を切り裂くように、スピーカーから大音量の音が吐き出される。
     音に合わせ、リズミカルに躍動するダンサー達。駅前広場は若者達のステージと化している。
     その中央ではメインイベントとのダンスバトルが行なわれていた。
    「出来れば、踊らずに済ませたいな……」
     その競演を見ながら、神條・エルザ(高校生サウンドソルジャー・d01676)は複雑な思いで一人呟く。かつての熱い情熱は胸にしまい込んだまま。罪の意識から今は歌も純粋に楽しむ事は出来ない。
    「ダンスバトル……ね」
     伊奈波・白兎(キャノンボールビューティー・d03856)は皮肉気に笑う。思い出すのは闇堕ちしていた過去。誰かを傷つけた行為が、今では誰かを救う為の武器になる。皮肉なものだと笑みがこぼれたのだ。
    (「彼女も以前は純粋にダンスを楽しんでいたはず、だから灼滅なんて悲しい事はしなくない……」)
     佐伯・真一(若者のすべて・d02068)は必ず救ってみせると固く拳を握る。
     一際大きな歓声が巻き起こる。中央で行なわれていた、二人の女子のダンスバトルに決着が着いたのだ。
     激しく競い合った二人は、圧倒的差で相楽・伶の勝利に終わる。
     その熱の冷めぬ舞台に突然飛び込む人影。その人物は自ら歌い、直前に踊った相楽のダンスを見よう見まねで踊り出す。歌が場を支配する。
    (「私はパパとママの娘だもの、伝えたい思いは芸で語ってみせる……!」)
     その人物はリュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから!・d04213)だった。踊りの技術は拙い、だがその小さな身体から発する熱は見る者を惹き付ける。そこにはダンスを楽しむ純粋な喜びがあった。
     静かに舞い終わる。懸命なダンスに周囲から優しい歓声が沸いた。汗を流しリュシールは穏やかに微笑む。
     機材を持ち込み、音楽を鳴らす準備をしていた飛田・球児(和製ランディ・d05549)が良うやったと、親指を立てた。
    「何アンタ、もしかしてケンカ売ってんの?」
     相楽が取り巻きを連れてリュシールに詰め寄ろうとするところに、横から割り込む影。
    「面白い勝負をしてるじゃない、アタシも混ぜて貰おうかしら?」
     挑発的な笑みを浮べて前に出たのは、フレナディア・ヘブンズハート(煉獄の舞姫・d03883)だった。
    「そんなダンスが本物とは思えないな、俺が本物を見せてやる」
    「随分楽しくなさそうに踊るわね、私たちが本当のダンスを見せてあげるわ」
     布都・迦月(獄炎の剣を繰る者・d07478)は普段と変わらぬ表情で淡々と喋る。だがその内には誰にも負けない熱があった。
     同じようにエインヘリアル・ルーシャ(白銀の氷姫・d13420)もまた、自信のある態度で相手を見る。
    「Hey kitty! そんな低レベルな勝負で満足しちゃうのかい? ナンバーワンを名乗るならせめてあたし達ぐらいは倒してもらわないとねぇ!」
     ヘッドライトが相楽を照らす。ライドキャリバーに乗った白兎がエンジンを吹かし、威嚇する。
     それらの行動を見た観客は、新しい挑戦者の登場に沸く。その反応を見た相楽は挑戦者達に向き直った。
    「へぇ……いいわ、そんなにアタシとバトルしたいなら受けてあげるわ。ただし、負けたらアタシの下についてもらうからね。それでもいいならかかって来な」
     灼滅者達は頷く。その目には決して負けないと、強い意思の光が籠もっていた。
    「ほんならいくで、ミュージックスタートや!」
     仲間の用意しておいた曲を球児が流す。熱く激しいダンスバトルが始まった。

    ●ダンスバトル
     最初に流れたのはコケティッシュなメロディ。それはかつて白兎の率いていたダンスグループの曲。
    「権力なんてくだらないね! あたしの踊りを見ろ~!」
     白兎は扇情的に踊り出す。その妖しい動きに男達の目が惹き付けられる。そして激しい動きへと移る。静と動、色気と躍動に唾を飲む音が聴こる。魅入る観衆。
     踊り終わると大きな歓声。この挑戦者達は只者ではないと、周囲の見る目が変わる。パンチの効いた最初の演技で観衆の目を引く事に成功した。
     次の曲が始まる。リズムに乗ったボーカルが流れ始める。
    「行くわよ」
     踊りだしたのはエインヘリアル。スタイリッシュなメロディに合わせてクールな振り付け。技術的には高いものではないが、個性的でダンスを楽しんでいるのが伝わってくる。
     周囲の拍手と共に曲は終わる。それは誰に向けてのダンスだったか。相楽は憎憎しげに睨み付けるように見ていた。
     そして3曲目。始まると同時に飛び出したのは真一。
    『イッツ ア ショータイム!』
     自らが作曲したオリジナル曲。誰よりも曲のことを理解している故に、誰よりもその曲に合わせられる。
     専門外とはいえ、必死に踊るその動きは滑らかだ。曲は訴えかける、ダンスの、音楽の素晴らしさを。堕ちた深い場所から引き上げるように力強く。リズムに観衆が乗る。
    「本物を見せてやる」
     次に舞台に立つのは迦月。音が流れ始める。それはミュージカルで使われる曲。今までとは違うテンポで観衆を飽きさせない。
     静かにステップを踏む、それはワルツの如き華麗さ。盛り上がりに向けだんだんと情熱的になる。一人で踊っているのに、まるで相手が居るように見えた。
     曲が終わる。こんなダンスもあるのかと、目新しいものを見たように観衆は盛り上がる。流れはこちらに来ていた。
     5曲目に差し掛かる時、被せるように音楽が鳴り始める。
     舞台に出たのは相楽。ここで流れを変える気なのだ。対決に観衆が一気に盛り上がる。
    「そこまでだよ、さあ、アタシを見な!」
     流れる曲はブラックミュージック。抑圧から解放されるようなヒップホップに乗って激しい踊りが始まる。
     圧倒的に、打ち負かすように、リズムを支配する女王の貫禄だった。周囲全てを威圧して、踊りは終わる。
     熱狂的な歓声。相楽は場の流れを一気に取り戻す。慣れたホームの強みだった。
    「こりゃまずい、はよ次いくで!」
     球児がタイミングを見て、曲を用意する。
     流れを取り戻すべく、フレナディアが前に出た。すると着ていたコートを脱ぐ、その下に現れたのは露出の高い扇情的な衣装。周囲のはやし立てるような口笛。
    「綺麗な子はいるかしらね?」
     淫魔だった時の癖で美形を物色してしまう。一人、二人と目ぼしい相手をチェックする。だがそれも曲が始まるまでだ。
     穏やかな始まり、そして激しさを増していく。際どい衣装からこぼれる肌が周囲の観衆を魅了する。
     ダンス中は鬼気迫るように、全身がただダンスの喜びを表現しようと躍動する。そこにあるのはただダンスが楽しいという事だけ。
     終われば一瞬の静寂と、激しい歓声の渦。流れを引き戻した。
    「この調子で続けるで!」
     ここで一気に流れを決めるんやと、球児が舞台に出る。オリジナル曲に合わせ、熱く、激しく踊る。
     そこには可憐さや美しさは無い。だが迸るパッションは見ている者を熱くさせる。手に汗握り、踊りたいと身体を疼かせる魂のダンスだった。
     そのダンスを苛立ちながら見る相楽に、エルザが声を掛ける。
    「誰かを負かしたり踏み躙るための踊りが、楽しいか?」
     心に鋭く言葉の刃が突きつけられる。相楽は苦悶し、睨み返す。
    「うるさい! 踊らない奴がアタシに説教たれるな!」
     その反論に、エルザは明確な答えを返す。舞台に出るという行動によって。
     アップテンポの曲が流れ始める。流れるような足捌きで踊り始める。淀みなく動く身体。だが激しいだけでなく、どこか艶のある演技だった。露出の無いぴたりと肌に合った服が、ラインを美しく見せる。
     終われば音を消すような大歓声。勝敗は決した。全員の力を合わせ、灼滅者達はダンスバトルに勝利したのだ。

    ●舞い戦う
    「納得できるか! アタシが負けるわけない!」
     その判定に相楽は逆上する。
    「アンタたちさえ居なければ……そう、アンタたちが居なくなればいいのよ」
     ファンの取り巻きが、獲物を手に相楽を守るように前に立つ。それを見た迦月が全身から殺気を周囲に放つ。
    「さあ、これからが本番のショータイムだ」
     その殺気に当てられ、観衆たちは訳も分からず逃げ出した。
    「許さない、アタシは一番じゃないとダメなのよ!」
     向かってくるファンの男達に真一が呼びかける。
    「相楽くんのファンの諸君、そこを退きたまえ。退かないのであれば、僕達が相手になる!」
     ガトリングガンを構えた男に向かい歌う。その歌声は響く、周りの騒音を無視して男に届く。男は聴き入るように足を止めた。
    「本当にファンならどいてて……相楽さんのダンスを取返すんだからっ!」
     手にしたエネルギーの障壁を、体当たりするように叩き付ける。ガトリングを持った男はギターの男の方へと吹き飛ばされた。
    「凍えて……」
     エインヘリアルの視線が届く。ガトリングとギターを持った男が急に苦悶の表情を浮べる。不可視の魔法に熱を奪われ、一瞬にして凍り付いたのだ。
    「食らわしたるで!」
     そこに球児が手に集めたエネルギーを剣に変え、飛び込む。迎撃しようとしたオーラとハンマーの男の一撃を、リュシールと迦月が防ぐ。球児がガトリングの男を斬り裂いた。男は仰向けに倒れ伏す。
     キターの男が球児に音波を放つ。それを剣で受け止める。そこにオーラの男が追い討ちを仕掛けてきた。その一撃を受ける直前、オーラの男に光輪が飛び込む。フレナディアが舞うように放った一撃に、オーラの男は体勢を崩す。
    「どけーーーー!」
     白兎が槍を振り回して突っ込むと、回転の勢いでオーラとハンマーの男を吹き飛ばす。
    「さっさと消えてよ!」
     相楽の叫びが白兎を襲う。リュシールが前に立って攻撃を受ける。苦痛に耐え、優しい笑みを浮べると可憐な声で歌い出す。
    「ね、踊りましょ……!」
    「くっ」
     相楽はその攻撃を踊るように避ける。更に白兎のライドキャリバーが機銃を撃ち追い詰める。そこに起き上がったオーラの男が守るように立つ。だが男に横から雷が襲う。それは拳に雷を宿した迦月。一撃は男の脇腹を抉り、口から泡を吹いて昏倒させる。
    「目を覚ませ、相楽伶。その闇を撃ち貫く」
     エルザから放たれた光が相楽を撃ち抜く。焼けるような痛みに苦悶の声をあげて飛び退く。
     ハンマーが振りかぶられる。その一撃はエルザを襲う。ぎりぎりで迦月が間に合い、槍で受けそのまま力で押しのける。手を放し、刀を抜く。刃文がまるで炎のよう、刀身が禍々しい炎に包まれ、男の腕を斬り燃やす。
     追い討ちにエインヘリアルから魔力の弾丸が撃ち込まれ、動きが鈍ったところをフレナディアの光輪が斬り裂いた。
    「ごめんなさい、あなた好みじゃないの」
     妖艶な笑みを浮べ、戻る光輪を手にした。
     残るは相楽とギターの男。まずはギターの男と、球児が駆ける。だが相楽がさせじと舞いながら波動を放つ。全力で走っている球児は避けられない。しかし、飛んで来た波動は宙で打ち消された。現れたのは光の十字架。相楽の様子を窺っていたエルザが動きを読んで妨害したのだ。
    「好きなものなら、自分から汚すんじゃない」
     厳しい言葉を投げる。それは相手と共に自らも傷つく言葉。だからこそ言わずにはいられなかった。
    「うるさい、黙れぇええ!」
     爆発的に周囲に衝撃が飛ぶ。前衛の動きが一瞬止まる。そこに男がギターでエインヘリアルを殴りつける。腕に受け、骨が折れるような衝撃が奔る。
    「奏でよう、癒しの歌を」
     真一は歌う。天使の如き歌声はみるみるうちに腕の傷を治す。
     ギターの男に白兎が槍を突く、それは螺旋に捻じれ、穿つ。腹を貫かれ、ギターの男はくの字に倒れた。

    ●ただ純粋に
    「どうして、どうしてよ! アタシが一番になったのにどうして邪魔するのよ!」
     逃げようとしたところをライドキャリバーが機銃を撃って足止めする。
    「さっさと目ぇ覚ましな!」
     白兎が飛び込み拳を放つ。踊るように避けようとする相楽、だがあまりの手数に次々と被弾してしまう。
    「痛い痛いよぉ」
     苦痛に喚く。もう戦う気力も失い始めたのか、背を向けて逃げようとするばかり。
    「このくらいで逃げるの? アンタのダンスに対する思いはその程度なのかしら」
     フレナディアは歌うように挑発して、舞う。放たれる力に相楽は吹き飛ばされる。
    「人に嫌な事されたってな、やってもええことにはならへんのやで」
     球児が剣を振るい光の刃を飛ばす。閃光は相楽を打ち据えた。
    「ようやく誰にも邪魔されずに踊れるようになったのに、酷いよ、どうしてアタシばっかり……」
     逃げ切れぬと悟ったのか、相楽は最後の力で踊る。周囲に力が放たれる。
    「そんな紛い物じゃない、本当のダンスを見せてくれ」
    「そうです、本当のあなたはそんなものじゃないんでしょう?」
     迦月が冷気のつららを撃ち、エインヘリアルが雷を放つ。その攻撃が相楽の力を相殺すると共に、言葉が胸を打つ。
    「まだ戻れます。ただダンスが好きだった気持ちを思い出せばいいんです」
     リュシールが真剣な表情で訴える。歌声は相楽の心へと届く。
    「まだ引き返す事の出来る人間が、闇の声に耳を奪われるんじゃない」
    「そうだよ、闇の底から光の世界へ戻るんだ……!」
     エルザと真一の心からの言葉に、相楽は涙を流すと、力尽きるように崩れ落ちた。

    「アタシ……」
     気失っていた相楽がゆっくりと目覚める。
    「気がついたみたいだな、大丈夫か?」
    「目ぇ覚めたか、やりすぎたかと思うたで」
     エルザと球児が心配そうに顔を覗く。
    「アタシいっぱい酷いことしちゃったよ」
     周囲を見渡し、相楽は暗い顔で俯く。
    「やっちゃったものはどうしようもないわ、これからの事を考えなさい」
     フレナディアは厳しくも励ます言葉をかける。
    「よ、おかえりっ。……で、思い出した? 踊る楽しさってやつをさ」
     白兎の問いに相楽は黙って頷く。だがその顔は踊っていた時とは違い、気弱で曇ったまま。
     真一は膝をつき、目線を合わせて話しかける。
    「相楽くん。僕もプレッシャーに弱くて、アイドル志望なんて馬鹿みたいって言われていたんだ。それでも、好きだから諦められないんだ。君もそうなら、また踊って欲しい」
    「一緒にもう一度踊ってきませんか? 見て欲しいんです……あなた達が馬鹿にしてしまったのが、どんなに大切な気持ちだったか」
     リュシールの差し伸べられた手に、相楽は迷いながらも、貰った勇気に背を押され、ゆっくりと握り返した。
    「今ならきっと楽しんで踊れるはずよ、相楽さんの本当のダンス、是非見てみたいわ」
     踊ろうとする二人を見ながら、エインヘリアルは微笑む。
    「自分の力で、踊りで見返してやれ。……好きなんだろう?」
     迦月の言葉に力強く頷くと、相楽はポーズを取った。
    「いくで、ミュージックスタートや!」
     音楽に合わせてダンスが始まる。見ている側も思わず笑顔になってしまう、それは今日の最高のステージだった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 6/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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