そのミュージカル劇団のオーディションはドラマチックな事で有名だ。
現役の団員と、応募の一般人が同じ土俵でオーディションを受け、審査される。
結果によって、初めて受けた一般人がいきなりトップスターに躍り出る事もあったし、それまでのトップが端役に転落することもあった。
だが今回のオーディションでは、看板女優、華矢・佳世(はなや・かよ)の右に出るものはいないだろうという予想だった。
華矢佳世が審査員の前で披露したのは、有名ミュージカルの一幕、女囚人のタンゴだ。
男性ダンサーを相方に妖艶なステップを踏み、悪女の心情を歌い上げる。
そのパフォーマンスは最高だった。歌唱、ダンス、演技力のどれをとっても。
しかし、波乱は起きた。
『わたしは勝利者になる!』
高らかなビブラートとともに電撃のようなステップを決めたのは、詠依・照莉(うたい・てり)。
それまでパッとせず、脇役に甘んじていた女の子だ。
ダンスも平凡。歌唱も平凡。ただミュージカルが好きという気持ちだけで、コーラスのはじっこに存在していた劇団員。16歳。
その詠依照莉が。
輝くような歌声とダンス、そして若さに似合わぬ色気と迫力で審査員を圧倒した。
パフォーマンスが終わると、厳しさで知られる監督と演出家が、照莉の演技にのまれたように盛大な拍手を送った。
一躍、トップスター。そう、照莉は主役の座を手に入れたのだ。
「詠依照莉。いままで私にペコペコするだけだった内気な小娘が! なぜ!」
舞台裏で、主演女優から転落した華矢佳世が悔しさに身を震わせていた。
そこに、バックダンサーを従えた照莉が通りかかった。
「あなたの時代は終わったのよ、オバサン」
見違えるように髪も顔も艶やかさを増した照莉が、見下した目で負け犬をあざ笑った……。
「ようみんな。ミュージカルは好きか?」
昼間の公園に灼滅者たちを呼び出し、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が切り出した。
「とあるミュージカル劇団の劇団員が闇堕ちするという予知がなされたぜ。
名前は詠依・照莉。それまでパッとしない劇団員だったのが、淫魔の力で急にキレイになっちゃって、おまけにダンスと歌も上達。三日後のオーディションでトップスターに踊り出るらしい」
だが、闇堕ちしつつも、照莉はかすかに人間としての意識を保っている。ミュージカルを愛する心が、彼女をあと一歩のところで押しとどめているのだ。
「普通の人間ならすでにダークネスと化しているだろう。照莉には灼滅者の素質があるのがもしれねえな。それなら、完全なダークネスになる前に彼女を助けてやってくれ。
闇堕ちを止めるには、灼滅者の力で彼女と戦闘し倒す事が必要だ。灼滅者の素質があるなら生き残るだろうぜ」
それでな、とマコトは指を立てた。
「今回はオーディションで照莉に勝つ必要がある。彼女に負けを認めさせなければ、闇堕ちから救えないぜ。ミュージカルを愛する照莉の心に響くパフォーマンスをしてくれよ!
時は3日後! 場所は劇場だ! 舞台の上でミュージカルの一幕を演じてもらうが、歌詞はオリジナルで頼むぜ! なぜかって? 大人の事情ってやつさ!!
審査されるのはダンスの技だけでなく、歌唱力、表現力だ!
歌ったり踊ったりが難しいと思う奴は、客席で仲間を応援したり、薀蓄を言ったりしてるといい。
勝負に負けたら照莉は逆上して襲い掛かってくるだろうからな。客席から審査員や一般人を逃がす役も必要だろう。
敵は照莉一人だけじゃなく、淫魔の力に魅入られた強化一般人が4人いるぜ!」
マコトはそこまで一息で言った。
戦闘になる前に、オーディションで照莉に勝つのは必須条件だ。
しかし淫魔の力を手に入れた彼女に勝つのは一筋縄ではいかないだろう。
だから。
マコトはすうぅぅぅ……と息を吸って、吼えた。
「さあお前ら、猛特訓だぜ! この公園で!」
「ええっ?! ココで?!」
声を上げる灼滅者たち。真昼間の公園には人々が行きかい、子どもを連れたママ友集団などが笑い声をあげている。ここでミュージカルの練習をしろというのか。
戸惑う灼滅者に対して、マコトは叫ぶ。
「馬鹿野郎! 恥ずかしがってて舞台に立てるか! 舞台度胸をつけるためにも人前に慣れておけ! 熱くなれ熱くなれよ!! そして手に入れるぞ! スターの座を!」
参加者 | |
---|---|
巴里・飴(舐めるな危険・d00471) |
ベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617) |
草那岐・勇介(舞台風・d02601) |
海老塚・藍(エターナルエイティーン・d02826) |
西園寺・奏(闇宿す忌み子・d06871) |
高峰・紫姫(銀髪赤眼の異端者・d09272) |
水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774) |
経津主・屍姫(無常の刹鬼・d10025) |
●幕が上がる
劇場内は興奮を含んだざわめきに満たされていた。
新たなスターの誕生に立ち会ったという空気がその場を包んでいるのだ。
おそらく詠依・照莉の一位は間違いないだろう。この後行われる、一般応募者のオーディション参加者が気の毒なくらいだった。
そのざわめきの中、一般応募者のオーディションが始まった。
暗闇に沈んだ舞台に、ライトが灯る。中央に海老塚・藍(エターナルエイティーン・d02826)が立っていた。
ちょっぴり背伸びした大胆なレオタード。その小柄な姿は落ち着き払っていた。
『どんなに苦しくても、舞台に立てば大丈夫……』
美しく澄んだ声。パーカッションに合わせて床に倒れ伏す。
『涙が出ても』
花が咲くような動作で立ち上がる。
『悔しい涙でステージを濡らして、優しい笑顔で全部受け止めて』
所狭しと舞台を踊りまわりながら、藍の歌声は少しもブレなかった。
『――いつかは自分の番だって』
それは、ミュージカルが大好きな女の子が、輝けるトップスターになるまでの愛と感動の物語だった。
「詠依照莉ちゃんのことをモデルにしたストーリーか」
客席でベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)が呟く。彼女は観客席で仲間の応援に回っていた。
『奏でちゃうよ、私の大革命! 輝く星になってキラキラと』
踊りながら、さりげなくラブフェロモンで審査員を魅了する藍。
『――Come on, let us try conclusions!』
最後の高音の伸びは、毎日厳しいレッスンに耐えている者にしか出せないものだった。
「素晴らしい……」
「詠依照莉の後でこれだけの演技ができるとは」
審査員たちが互いの顔を見交わす。
「あの激しい動きであの歌声の安定感! 藍、恐ろしい子っ!」
そして審査員の後ろで、ベルタが白目を剥くあの表情でオーホッホッホッ!と高笑いするのだった。
意外な対抗者の出現に、舞台袖の照莉は動揺を隠せないでいた。
「まさか! あの子にもスターの風格が?!」
拳をわななかせていると、そこに息を弾ませた藍が通りかかった。
一瞬目を合わせる藍と照莉。ギッと藍を睨んだものの、目をそらしたのは照莉のほうだった。
控え室で汗を拭きながら、藍は息をつく。
「あの歌、照莉ちゃんの事だって気付くかな。ボクからのメッセージだって気付くかな……」
優しい彼が思うのは敵の照莉のことだった。
●飴と紫
「藍ちゃんすごかった! 私もがんばろう!」
舞台裏で緊張を抑えているのは、巴里・飴(舐めるな危険・d00471)だ。
次の出番は自分。
「あめんぼあかいなあいうえおー!」
飴は発声練習で気合を入れて、無人の舞台に踏み出した。
飴は、普段の服装とはうって変わって、可愛らしい赤い服を着ていた。
『お外に散歩に行きましょう』
くるくると元気に踊る飴。
『今日はとってもいい天気♪ あ、お花が咲いています♪』
「あ、飴ちゃんカワイイでぇ……」
飛び跳ねながらお花を摘む動作をする飴を見て、ベルタが客席でぷるぷる萌えていた。
『あら、あなたはだあれ?』
ワルツのように踊りながら、飴が歌う。
『見かけない顔ですね、どこの人ですか?』
見えない相手との緊迫したやりとりを演じる飴。ダンスのテンポが徐々に増していた。
『なぜ角が生えているんですか? ……はっ、さてはあなた、巷で噂の怪物!』
相手の正体に気付いた飴。
『平和のために、逃がしはしません!!』
途端、赤ずきんの体にバトルオーラが燃え上がる!
舞台には、やんちゃすぎる少女と怪物の戦いを演じる飴がいた。
オーラをまとって駆け、蹴り、パンチし、大立ち回りを見せるが、苦戦して転倒する飴。
仰向けに倒れこんだと見せかけ、バックスピンから足のみで立ち上がると、客席からどよめきが沸いた。
赤い服を翻して宙返りし、怪物に止めをさす。勝利のポーズを取ると、
「いいぞー!」
観客から声援が飛んだ。
飴は息を切らしながらも深々とお辞儀をして、出番を締めくくった。
「飴ちゃん良かったでー! 最高やー!」
ベルタをはじめ、客席はやんやの喝采だった。
「あの子、観客を味方につけている……?」
舞台裏の照莉はうろたえていた。これでは自分の存在感が薄れてしまうではないか。
飴はやりきった気分で控え室に戻った。
すると、自分の席の上に、お弁当と一緒に紫色の百合(造花)があった。びっくりした飴は手紙を開く。
「巴里・飴さま。いつも応援しています。紫の百合の人より」
飴はぎゅっと大きな花束を抱いた。
「ベルタちゃん……ありがとう……ありがとう、私のファン……!」
なんと言う幸福。涙が出るほど、友の応援が嬉しかった。
●五つ星
最後の審査は、5人一組での応募だった。
「憧れのミュージカルの舞台。ちょっと緊張してますけど、頑張ります!」
舞台裏で、自分を奮い立たせているのは水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)だ。
「楽しみましょう。誰かを楽しませたいと思うのなら、まず自分が楽しくなくては」
高峰・紫姫(銀髪赤眼の異端者・d09272)が微笑んだ。
この一幕はオリジナル。ならず者の「ユースケ」が犯罪を犯し、愛する幼馴染をさらって逃亡しようとするが、兄の「シキ」に阻まれる。幼馴染の「カナデ」は、ユースケとシキとの間で揺れるというストーリーだ。
「……ただ、役の中で生きろ。ブレーキを壊し、こみ上げる想いをあるがまま解き放て、自分」
イントロが流れる中を、ユースケ役の草那岐・勇介(舞台風・d02601)が自分に念じていた。
やがて、ギターの音とともに舞台に飛び出す。
勇介が、早めのビートで犯罪を犯した自分の事、幼馴染への想いを語る。
次にヒロインのカナデを演じる西園寺・奏(闇宿す忌み子・d06871)が、優美なステップで舞台に現れた。
『どうして、変わってしまったの? もう昔みたいに戻れないの?』
カナデが切なく歌う。
『オレはここから逃げる。一緒に来い、カナデ!』
荒々しくカナデを引き寄せるユースケ。
『ごめん、私いけないよ』
優しく可憐な花の如く、カナデは首を振る。
『待てっユースケ! カナデを離すんだ!』
そこに、シキ役に扮する経津主・屍姫(無常の刹鬼・d10025)が現れた。
『シキ兄、まだ俺の邪魔をすんのかっ!』
『お前はそんな奴じゃなかった…!』
そこからはシキとユースケ兄弟の、歌とダンスの応酬だった。
シキが舞台を大きく使ってユースケを追い掛けながら、弟を諭す内容のテンポの速い歌を歌えば、ユースケは兄に抱えていた劣等感、これまでカナデに素直に伝えられなかった恋心、鬱屈していた感情を嵐のように歌い上げた。
ユースケが体の限界を無視した全力のダンスで挑む。彼が片手側転で大道具から飛び降りると、シキのほうは宙に浮いているかと思えるタップを決める。2人が同時に髪をかき上げて互いを指差すと、客席から黄色い歓声があがった。
『やめて、2人とも』
曲が転調し、カナデが少女の心境を歌う。
『もう戻ることもできない、あの日々』
悲哀を込めて歌い、哀情を盛り上げるコーラスとともに狂おしく踊るカナデ。
『もういいのよ、皆で一緒に帰ろうよ』
ゆまと紫姫のコーラスは、兄弟を愛し、幸せだった頃に戻りたいカナデの真情を、聴く者の心に訴えかけた。それは星が輝きを散らす、その星屑のような歌声だった。
美しいコーラスに、シキとユースケの声が最初は小さく、だが次第にはっきりと重なった。
ダンスも緩やかになり、3人の動きが重なる。少女の気持ちが伝わり、兄弟が和解したのだ。
そこから、全員の合唱に入った。3人で過ごした小さい頃の思い出を感情を込めてしっとりと歌い上げる。クライマックスだ。
(ああ、楽しいです)
紫姫は歌いながら思った。途中までテレパスを使い、審査員の思考を探っていたが、今はもうその必要はない。テレパスがなくてもわかる。今この場は、感動に包まれている。
奏の歌う主旋律に、ゆまのソプラノが絶妙に寄り添い、紫姫のアルトがハーモニーを生み出す。
勇介の情熱的なテノールを、屍姫のファルセットが包む。
舞台上の5人は円舞を踊る。それぞれの個性をステップに刻みながら。
舞台の最後は、奏のソロパートで締めくくられた。その可憐だが力強い歌声の余韻が消えると、会場は万雷の拍手に包まれた。誰もが立ち上がって手を叩いていた。
前列の審査員席から監督が舞台に駆け上がってきた。涙に頬を濡らした監督は、奏の手をとって叫んだ。
「おめでとう、新しき星! 西園寺奏くん、君こそスターだ!」
スポットライトを浴びながら、奏はぽかんとしていた。
「おめでとう奏ちゃん! 最後の歌、感動した!」
思わず舞台袖から飛び出し、駆け寄って奏に抱きついたのは、藍だ。
藍の体を受け止めながら、まだ奏は呆然としていた。
「……ううん、私、藍みたいには歌えない。てっきり藍が一番だと……」
段々と事態を飲み込みながら、奏は仲間達を見回した。
「自分でやって思った。一人がいくら凄くても駄目。皆で物語を演じるから……見ている人たちを引き込むことができる」
拍手の中、奏を囲む仲間たちは皆、笑顔で輝いていた。
「みんなが、私を照らしてくれた……ありがとう」
●ドラムロール
不意に、舞台裏で重い音が響いた。
「そのスポットライトを浴びるのは私だったはずなのに!」
逆上した照莉が、手下を従えて舞台に乗り込んできたのだ。
「許さない!」
照莉の空気を裂くディーヴァズメロディが、監督を襲う!
「こっちに逃げて!」
屍姫が監督を横抱きにし、攻撃をかわした。そのまま舞台を飛び降りると、前列の客を促して避難させる。
紫姫が、照莉と客席の間に立ちはだかった。
「ただ勝者になるためだけに淫魔に堕ちるのは間違っています。本当の勝者は、ミュージカルの主役じゃない。ミュージカルそのものを楽しんだ人が本当の勝者です」
紫姫は槍を身体ごと回転させ、手下の男たちを薙ぎ払う。怒った男達は彼女を攻撃するが、傷を負っても紫姫は動じなかった。
「みんな、こっちへおいで!」
紫姫が敵をひきつけている間、ベルタが非常口に観客や審査員を誘った。一般人達はベルタに従って避難し始める。
ゆまが殺界を形成して、舞台裏のスタッフも近づけないようにした。飴が大声で誘導しながらも、舞台に駆け上がる。
「改心してください!」
照莉に洗脳され操られている手下を捕まえ、飴は強烈な地獄投げを放った! 飴の投げをくらった手下は床に沈んだ。
仲間の戦いぶりを見ながら、勇介は動けないでいた。彼は現実の戦いに恐怖があるのだ。
彼は見た。奏が照莉の攻撃を受けて、血飛沫を上げる瞬間を。奏に嫉妬した照莉が、奏を狙ったのだ。勇介の身体に震えが走る。戦うのは怖い。
「でも、誰かの命がかかってる、そんなの言ってられるもんかっ!」
勇介はサイキックソードを振るった。剣舞のように激しく旋回し、手下をひとり、切り伏せた。
「貴女はこのままでいいの? それで見ている人を感動させられると思う?」
奏が憂いをこめて照莉に語りかけ、自身の深い傷を回復する。
「そうや照莉、あんたが愛したミュージカル……淫魔の力でなく実力で捥ぎ取ってみぃ」
一般人を避難させ終わったベルタが、鏖殺領域を放ちながら戦線に加わる。彼女は目前の手下を封縛糸で捕らえ、落とした。その手さばきは、鮮やかな踊りのようだった。
「心の闇を照らす光をここに♪」
藍の歌が一陣の涼風を招き、前衛の傷を癒す。
「どんなに上手でも、その『役』は照莉さんには向いてないよ!」
舞台に舞い戻った屍姫が、炎をまとった弾丸を手下に向かって撃つ。手下の最後の一人が倒れた。
1人きりになった照莉は、殲滅者を攻撃し威嚇しながら、大道具の上に飛び乗って間合いを取った。
だが、大道具の上には後衛のゆまがいた。天星弓を構えたゆまと、照莉は正面から対峙した。
「私は力を手に入れたはずなのに!」
戦いで傷ついた照莉はなおも歌った。生じた真空波が、ゆまの頬を切った。
「照莉さん。スターになることは素敵なことかもしれない。でも……歌を、踊りを愛する気持ちがあるなら、自分の本当の力で、それを勝ち取る事が大事だと思います! でなければ……貴女の歌が踊りが……可哀想です……」
ゆまが天星弓を放つ。その矢は急所を外れていたが、照莉は大きくよろめいた。
照莉は落下する。高い段の上から。
次の瞬間、照莉は灼滅者たちに受け止められていた。
「舞台って素敵ね。落ちても誰かに受け止めてもらえる……」
そう言うと、照莉は気絶した。
●照らす星
「成功……しましたよ。貴方にその話をしたいです。だから……必ず戻ってください」
静寂の中、ゆまは心にそう呟いた。今は闇の中にいる仲間を思って。
彼女の目の先では、藍が照莉を膝枕し、その頭を撫でていた。
やがて、照莉が静かに目を開いた。
「私、負けたのね。淫魔の力も失って……。もう一生、スターになんかなれないんだわ」
自嘲する照莉に、ベルタが言った。
「スポットライトの当る舞台に上がれるのはほんの一握り。照莉ちゃんには闇に囚われるだけの決意があったんやろけどな。そこはそこ。こっち側へお帰りなさい、や!」
「こっち側……?」
不思議そうに問う照莉。
「照莉さんは闇堕ちから生還したんですよ」
紫姫は、自分たちの事、灼滅者のための学園があることを説明した。
照莉が、灼滅者たちの顔を見回した。
「……あなたたちの舞台を見ていて、私、とても感動したの。あの中で歌いたいって、ダンスしたいって思った」
照莉に向かって、勇介が言った。
「演じることは生きること。オレは生きてほしい、色んな舞台で、さまざまな役を、淫魔ではなく、『詠依照莉』という人に」
照莉は表情を翳らせた。
「また舞台に立てるかしら。こんな私が」
「貴女のその情熱があれば、きっと本当の力でスターになれると思います。その舞台を……是非見せて下さいね」
ゆまが微笑む。
「次は一緒にお芝居しようね」
「一緒に夢に向かって羽ばたこう!」
奏と藍が、照莉に手を差し出した。
「みんなを明るく、笑顔にするような『役』になろう! 演じるための舞台はもう、整ってる!」
屍姫が、八重歯を見せて照莉に笑いかける。
照莉が屍姫を見上げると、ライトがまばゆく目をさした。
欲しくてたまらなかった、あのスポットライトの輝き。
けれど今、照莉の中で何かが変わり始めていた。
照らされるだけでなく、照らす存在になれるだろうか。
彼らのように。
作者:桐蔭衣央 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年2月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 9
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