●清浄なる……?
笛の音と太鼓の音に合わせて舞手が舞う。
榊や鈴、扇や笹など依代を手にしてなめらかに動く。
ゆったりとした動きながら、頭の先から足の先まで神経を張り巡らせて、意識を集中させて舞わねばならぬのは、どの舞とも同じ。
「なっ……黎花さんあなたっ、ついこないだまでのカクカクした動きと、すぐに転ぶ鈍くさい動きはっ……!」
「……今までの私と思わないことね……。ほら、いまはあなた達バイトより上手に踊れるの……」
黎花は知っている。バイトの巫女達が、神社の娘なのに神楽を上手く踊れない黎花をバカにしていたことを。特に神楽を任されている二人が、中心となって黎花の練習風景を面白おかしく語っていたのだ。
「だから、……私に負けた、あなた達なんて……要らないっ!」
ジャキンッ!
黎花がいつの間にか手にしていた鋏で、袴を切り裂く。そして相手の長い髪を掴みあげ……ジャキン。
「うふ……うふふふふ……」
邪悪に笑うその姿。黎花の笑みは、とても神に舞を捧げる巫女にふさわしいものとは思えないほどになっていた。
●
「よく集まってくれたね」
神童・瀞真(高校生エクスブレイン・dn0069)はファイルの中の書類を繰る手を止めて、集った灼滅者達に向き直った。彼が動くとほんのりとマリン系の香りがした。
「淫魔へ闇堕ちしそうになっている少女の元へと向かって欲しいんだ。彼女が灼滅者の素質を持つならば、闇堕ちから救い出してくれ。だが、完全なダークネスとなってしまうようならば……わかっているね?」
その場合は、灼滅するしかない。
「彼女の名は桜庭・黎花(さくらば・れいか)。高校1年生の女の子だ」
通常ならば闇堕ちしたダークネスからはすぐさま人間の意識は掻き消える。しかし彼女は元の人間としての意識を残したままで、ダークネスの力を持ちながらダークネスには成りきっていないのだ。
「彼女は神社の娘で、巫女としてよく家を手伝っていたんだけど、その……少しのんびりしているというか、おっとりしているというか」
瀞真は遠回しに言っているが、つまり鈍くさいのだろう。
「神楽舞の練習も人一倍しているのだけど、どれだけ練習しても上達しなくてね。アルバイトとして雇った巫女たちのほうが上達が早いんだ」
バイト達の舞を見る彼女がどれだけ悔しさを噛み締めていたかは想像に難くない。
「それが突然、踊れるようになったらしいよ。誰よりも、上手に」
バイトの舞手達に勝負を挑んで勝った黎花は、それまで散々馬鹿にしてきた巫女の袴と髪の毛を切り裂いた。
「そのバイトの子はショックを受けてやめてしまってね……急なことだったから、代理に黎花君が舞うことになった。その舞は素晴らしくて、清浄さを感じさせると共にどこか妖艶らしい」
神楽舞のゆったりとした動きに流し目……元々『ドジっ子巫女さん』として隠れファンはついていたようだが、今度は違う方向からのファンが付いて。
「とうとう……手下に各地の神社から舞手をつれてこさせて、巫女さんにバトルを挑むようになったんだ」
どちらが神様に捧げる舞にふさわしいか……ではなくどちらが衆目の気を引けるかが黎花の判断基準らしい。
「本末転倒な気もするけれど、それまで上手く踊れずに苦汁を飲んできた黎花君は、沢山の人から評価されたいのだろうね」
そんな彼女は自分のファンの強化一般人を使って他の神社から舞手を連れてこさせ、バトルを挑む。勝敗の基準は黎花の中にあり、観客から声援を沢山もらえる方が勿論いい。相手が一つでもミスをしたりすれば、黎花は勝ち誇るだろう。
バトルで勝利を続けていくごとに、彼女は淫魔としての素質を開花させていき、最終的には完全に闇堕ちしてしまう。
「接触タイミングとしては、黎花君がバトル相手の巫女とのバトルに勝利した後だ。これより前に接触しようとすると、バベルの鎖の影響で察知されてしまうよ」
ただ今回は……と瀞真は一旦言葉を切ってから続ける。
「黎花君を助けるなら、舞のバトルを挑んで、彼女に勝利する必要がある」
バトルを挑まない場合、負けた場合は灼滅するしかないだろう。
ただし勝敗は黎花の気持ち次第であるため、ハッタリやその他で彼女を動揺させてミスを誘うのも有効だ。勿論正々堂々と神楽舞で決着をつけても良い。彼女が「自分より凄い」と思ってしまえば、灼滅者達の勝ちとなる。
「ただ、君達が勝った場合は黎花君は、君達を倒せば負けはなかったことになるといって襲いかかってくるだろう。問答無用で戦闘になるよ」
もしも灼滅者側がバトルに負けた場合、黎花は勝ち誇って去って行こうとするので、こちらから戦いを挑まなければ戦闘にならないだろう。
「神楽とか日舞とか、基本的な動きはそれに近いものがいいかもしれないけれど、アレンジを入れる分には構わないと思うね。あまりかけ離れていないものであれば、彼女を圧倒させることもできるだろう」
瀞真はふう、と息をついた。
「やっと踊れるようになって、認められて、求められて、嬉しいのだろうね。けれどもそれは淫魔としての力だ。彼女の実力ではないんだよ」
かわいそうだけどね、つぶやいた瀞真は続ける。
「努力が実ったと思っている彼女には悪いけれど……そうではないことを教えてあげてくれるかな?」
さみしげに、微笑んだ。
参加者 | |
---|---|
茅森・妃菜(クラルスの星謠・d00087) |
レイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763) |
刻野・渡里(高校生殺人鬼・d02814) |
エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163) |
風祭・爆(武蔵野の魔神・d05984) |
春原・雪花(中学生神薙使い・d06010) |
己斐之原・百舌鳥(空鳴き・d10148) |
香佑守・伊近(イコン・d12266) |
●舞勝負
境内では今まさに、勝敗が決しようとしていた。ゆったりとした動きではあるが、ゆったりとした動きだからといって決して手を抜いているわけではない。緊張感を保ちながら舞うのはそれなりの精神力も体力も必要とするのだ。
本来なら静謐な雰囲気で舞うはずの神楽が、今は雑音にまみれていた。黎花の手下の一般人が観客の一部をなしていて、声援を送る。反対に対戦相手の巫女にはブーイングを送る始末。突然連れて来られて舞勝負だなんていわれて舞わされている巫女としては、動揺が先立つのも無理は無い。バイトの巫女だかそうでないのかはわからないが、通常にない場で舞を強要されているのだから。
「あっ」
相手の巫女がバランスを崩した。すかさず観衆からブーイングの嵐が巻き起こる。それでとうとう気力も尽きたのか、その巫女は神楽鈴を抱くようにしてうずくまってしまった。
「負けを認めたわね。私の勝ち」
黎花がさも愉しそうに笑むと、周囲から歓声が上がる。「黎花ちゃーん」とかけられた太い声に彼女は嬉しそうに手を振った。
「さっさと連れて行って。新しい対戦相……」
「堕ちた巫女だと? けしからん、実にけしからんなァ。このオレさまが神に成り代わって成敗してくれるぜ! グァーッハッハッハッハァ!!」
「……な、何?」
風祭・爆(武蔵野の魔神・d05984)の大音声に一瞬、黎花が怯えた表情を見せた。それに続いてエウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)が注目を集めるように足を鳴らし、ラブフェロモンを振りまく。
「舞でのお祭り騒ぎとあっては黙ってはおれぬ、わらわも混ぜよ! どちらの舞がより神に捧ぐに相応しいか、勝負じゃ!」
「……私と勝負? いいわよ。何人でも一緒にどうぞ?」
その挑戦的な言葉に春原・雪花(中学生神薙使い・d06010)、刻野・渡里(高校生殺人鬼・d02814)、茅森・妃菜(クラルスの星謠・d00087)が黎花の前へと歩み出る。
爆は観客達が彼を自然に避けてできた最前列に大股開きで座り込み、ドカ弁を取り出す。レイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763)は渡里から預かったポータブルディスクと小和太鼓を手にして準備。己斐之原・百舌鳥(空鳴き・d10148)と香佑守・伊近(イコン・d12266)はさり気なく観客へと紛れ込んでいた。
「同じ巫女として、舞手として負けるわけには参りません」
負けられないと意思を強く持つ雪花。だが雪花の舞はあくまで神様に捧げるものという位置からずれない。それが舞から伝わればいいと彼女は思っている。
果たして黎花は自分が道を見誤っているということに気がつけるのだろうか。
●緩やかに
まずは雪花と妃菜が前に進みでた。レインは太鼓を手にし、一呼吸。太鼓の練習期間は短かった。その分、叩く毎に祈りを刻む。彼女が助かりますように、と。
雪花は神楽鈴を手にして深呼吸。精神を集中させて忘我の境地に達して足と手をそっと出す。
「……」
動きはゆったりと、滑らかに。決して派手さはないが、その静謐さが美しさを作り出している。
彼女が舞うのは実家の神社で奉納されていた神楽。捧げる相手は神様。シャラン……鈴の音が魂を洗うように。
(「わたしの舞の内に神が宿れば……きっと、彼女の目も覚める、はず」)
願い、全霊をとして舞いゆく。
「……」
妃菜はレインの太鼓の音にあわせて舞っていた。トン、トン、トン、音に合わせて無機質さを感じさせる動き。他の舞やダンスでは感情を込めた動きが推奨されることだろう。だが今の妃菜の舞は不思議な神秘的さを伴っている。
(「……しかしこの音は、まるで、心音のようだな。舞と音とを合わせて見聞きすると、なんだか落ち着くような気がするよ」)
小太鼓で同じリズムを刻み続けながら、レインは思う。まるで舞に命を吹き込むような不思議な感覚がしていた。
規則的な妃菜の舞が終わり、黎花の手下達がなにか言い出す前に伊近は大きく手を叩いた。
「よかったよ。な?」
後半は隣にいる人達への確認を込めて。すると促された人達も口々によかった、素晴らしかったと舞った二人を褒めて。その賞賛の輪は段々と観客達の間に広がっていく。すると手下達も無碍に悪口を言い出せる雰囲気ではなくなって。黎花にひと睨みされて野次を飛ばすも、逆に周りの人から睨まれて小さくなる始末だ。
続いてすっと歩み出たのは渡里だ。白拍子姿の彼はしゃんと背筋を伸ばして黎花を見つめる。
「神楽は神の為の舞。それを忘れた舞は神楽ではない。君は、人に褒められるためだけに神楽を舞っているのか?」
「っ……!」
レインの手により録音された楽の音が流れる。黎花からの返事がある前に渡里はすっと手を動かす。ただただ無心に、足の先手の先、髪の毛の一本にまで神経を注ぐように。こめるのは神への祈りと感謝。
「……素晴らしい」
観客の誰かが呟いた。百舌鳥は「ああ、そうだな」と周囲に聞こえるように同意を示し、それを聞いた他の観客が頷くのを見ていた。テレパスで周囲の心境を探れば、渡里の舞を称賛する思いは段々と広がっているようだった。
チラリ、黎花を見れば悔しそうに唇を噛んでいる。百舌鳥はその様子を見て少し複雑ではあった。人から評価されたいという気持ちはわかるし、親近感も覚えるからだ。
渡里の舞が終わると、エウロペアが歩み出る。水着の上から巫女装束と千早を纏ったその姿で目指すのは、清浄さと妖艶さの融合。
「わらわが目指すのはこの国で言えば古代の舞巫女、アメノウズメの舞であるな。だがそれは神を笑わせ、楽しませる事をモットーとしたものじゃ。神への祈りは胸にあるか? 舞を純粋に楽しんでおるか?」
先に舞った三人と同様にゆったりとした足運びで舞うエウロペア。だがその動きは途中でテンポアップしていく。手足の動きは神楽を踏襲しているものの、軽やかさは中国舞踊のようで、腰や尻の動きは円を描いてベリーダンスのごとく妖艶だ。ラブフェロモンの効果も相まって、観客達の声が一際大きく上がる。
「わらわはな……舞えるだけで楽しいぞ! もう心の底から笑顔で、幸せじゃぞ!」
清楚な巫女姿ゆえのギャップもあり、不思議な背徳感が振りまかれる。
「こんなの……こんなの神楽じゃないわ!」
と、叫んだのは黎花だった。エウロペアは動きを止め、彼女をじっと見つめる。
「ならばおぬしが舞ってみよ」
「……言われなくとも!」
ずんずんと前に出た黎花は榊を手にし、手下達に楽の音を奏でさせる。
その動きは舞った四人に負けず劣らず滑らかなものだった。だが清浄だと言いがたいのはやはり彼女の内面が神楽の本質を見誤っているからだろうか。
(「彼女の舞も素晴らしいんだが、な」)
客席で見ている百舌鳥は心の中で苦笑して。それが神へ捧げられたものではなくても、動きだけ見れば黎花の舞も美しいと言えた。恐らく神楽の本質を理解していないだろうファン達は、上辺だけで彼女の舞を評しているのだろう。
「ゲフウッ!」
「!?」
最前列でドカ弁をかっこんでいた爆が盛大なゲップをする。続いて大あくび。爆の巨体は最前列ということもあって嫌でも視界に入る。黎花がピクッと反応したのが誰の目にも明らかだった。それでも彼女はファン達の激励を受けて舞を続ける。
ギコギコギシギシ……ばふうっ!
「なっ……」
パイプ椅子が壊れんばかりにギシギシと揺らした爆は、トドメに大放屁。さすがの黎花もそのマナーの悪さに戸惑うように動きを止めた。
「おおっと! まァ気にしねェで続けてくれやグヒヒ!」
気にしないでくれと言われても明らかに集中力を削がれてしまう。いや、観客の一挙手一投足が気になってしまう時点で、舞に集中ができていない時点で彼女はその未熟さを露呈しているのだ。
思い返せば彼女の集中力は最初から乱れかけていた。それは最初に見せられた四人の舞が素晴らしく、本質に沿ったものだったからだろう。それが彼女の心を揺さぶったのだ。
「……私が負けるなんて、そんなこと」
続けて舞うのをやめた黎花は、榊を足元に投げつけて。
「……そうよね、あなた達さえいなくなれば、私は負けてなんていないことになる。……そうよ、私のほうが絶対うまく舞えるのよ!」
黎花の様子が明らかに変わった。百舌鳥は一般人をその場から離れさせるべく殺界形成を発動させる。
「こっちだ!」
「向こうへ」
プラチナチケットを使って観客に紛れたレインと伊近は混乱に湧く一般人を安全な場所へと誘導する。その間に爆が黎花と手下達の前に立ちはだかった。
「そう来なくっちゃな! こちとら退屈で死にそうだったぜ!」
握っていた胡椒を黎花の顔めがけて投げつける。ダーティな戦法を好む爆は卑怯な手をも厭わない。
手下達が黎花を庇うように立ちはだかる。まずは彼らの数を減らすことからだ。
●戦舞
「神楽は本来神様に奉納するもの。今の貴方の舞は穢れています。……きっと以前の舞の方が神様は喜んでくれていたと思いますよ?」
最初に動いたのは雪花だ。普段は優しく穏やかな彼女が厳しいことを口にするのは、境遇を聞いて黎花を心配しているからで。雪花の情熱のこもった踊りと攻撃が、手下二人を狙う。
「オラ、喰らえ!」
続いた爆は使命感や正義感ではなく、破壊と暴力を楽しむために雷に変換した闘気を宿した拳を振り上げる。ゴガァッと鈍い音をさせながら手下の一人が吹き飛んだ。
エウロペアの片腕が異形巨大化する。その手に乗せられた凄まじい力で殴られた手下は、そのまま倒れ伏す。
「ははっ! 天よ人よご照覧あれ! これがわらわじゃ! 余す所無きわらわじゃ!」
鋼の糸が傷を負っている手下に巻き付く。渡里は操る糸で手下の動きを阻害しつつ、黎花を見やった。
「やっていることは君を馬鹿にしていた子らと、まったく一緒だな。自分のために踊るその舞は、神楽じゃない。神楽だというなら、お前のそれは形だけだ」
「そんなことっ……」
「ないといえるか?」
渡里の追撃に黎花は口を閉ざした。そんなことないと言い切れない、だからこそこうして自分の負けをなかったことにしようとしているのだから。霊犬のサファイアが追いかけて攻撃を加えた。
「……あなたの舞、綺麗じゃない」
ゆったりとした動きな分、些細な心の乱れが所作にわかりやすく出る。黎花の雑念を感じ取った妃菜は黎花に告げた後、手下に槍を突き出して。
「何よ、私は上手く……誰よりも上手く舞えるようになったのに!」
黎花が情熱的なステップで前衛を狙う。それほど威力は高く感じられなかったが、複数人が傷を負ってしまうった。残っている手下達も黎花に倣うようにしてステップを踏む。塵も積もればなんとやら。手下の攻撃ではあるが数が嵩めば傷はそれなりに深くなった。
と、一般人の避難誘導にあたっていた三人が戻ってきた。レインが先ほどの勝負を思い出し、口を開く。
「私は、踊れない。だから音で支援をした。弱点を見つめて、そこから何ができるかを考えた。拘ると、視界が狭くなる……もっと自由に舞えばいい」
炎を宿したレインの攻撃に、手下が一人崩れ落ちる。伊近が『鸚哥』で奏でるのは立ち上がる力をもたらす響き。
「神楽って神への捧げもんであり誰かの為の祈りだろ。桜庭、見世物道具にしたかったのか?」
前衛の傷を癒す力強い音色。伊近の言葉に「それは……」と黎花は答えられない。そんな彼女に百舌鳥は黒い瞳を向けて。
「自分に目を向けられない怖さは分かる。努力が実らない虚しさも嫌と言うほど分かる。でも、力に溺れてしまえばそれでお終いだ。誰もが君の力を見て、君自身を見てくれなくなる」
放たれるのは赤きオーラの逆十字。それは手下達を切り裂くようにして。
「それが嫌なら、抗って。僕らと一緒に」
祈るように――。
●終演
残っていた手下二体が倒れると、黎花は泣きそうに表情を歪めた。それでも引き下がることができないと感じているのか、攻撃は続けている。けれども攻撃を続けているのは灼滅者達も同じだった。狙いを手下から黎花に変えて、もう数度攻撃を与えている。
「黎花さんの心は今のままでも神様に通じてるはずです。ですから、今は……貴方の心の影はわたし達が祓います」
雪花が柏手を打つようにして魔術による雷を呼び込む。爆の放つ大量の弾丸が爆炎をもたらす。
「黎花よ、そなたに必要なのは技術ではない! そう……心じゃよっ!」
舞うように攻撃を続けていたエウロペアの奏でる旋律が黎花を蝕んでいく。
「上がいなくなったところで、お前の実力がそれ以上になりはしない」
渡里の冷静な言葉。死角に入り込んだ彼の攻撃も、言葉と同じく鋭い。サファイアは傷を負っているレインを癒す。妃菜はロッドで黎花を殴りつけると同時に魔力を流し込んだ。黎花が悲鳴を上げる。
「リヒャルト」
自らの影業に声を掛けたレインは影で作った触手を放ち、伊近は魔力の雷を呼ぶ。黎花の気持ちのベクトルはわからないでもないが、伊近自身は自分がやりたいことをやっているならその巧拙や自身の有無以前に人の評価など知らないというスタンスだ。
(「きっと目が覚める」)
祈りながら繰り出した百舌鳥のジグザグの刃による攻撃。そっと目を閉じて傾いた彼女の身体を、彼は抱きとめた。
●再演
ゆっくりと目を開けて現状を把握した黎花に、側に付き添っていた雪花は優しく声をかける。
「黎花さん、貴方は貴方のままで立派に勤めが果たせていたのですよ……?」
「私……前の時のほうが良かったのね」
呆然とした様子の黎花だったが、その表情は憑き物が落ちたような柔らかいものへと変わっている。
「うん、いい顔をしている……さっきまでよりも」
レインの言葉に彼女は小さく頷いて、微笑んだ。
「手下の一般人達も無事だ」
安否確認をしていた百舌鳥は黎花が目覚めていることを確認して、祈りが通じたことを感じる。
「黎花よ、聞きたいことがあるのじゃ」
「舞がうまくなる前に、誰かに助言やおまじないのようなものを受けなかったか?」
「誘惑のようなものもじゃ」
エウロペアと渡里の言葉に彼女は少し考えこむようにして。そして口を開いた。
「……声を聞いたのよ。ラブリンスター様の」
「ラブリンスター?」
「それはどんな?」
黎花の答えを待つように場が静まる。だが彼女は申し訳なさそうに首を振った。
「……ごめんなさい、あまり詳しくは覚えていなくて」
突然の出来事にまだ混乱のさなかにあるということもあるのだろう、はっきりとは思い出せないようだ。
「ただ、声に導かれて、私はあんな風になってしまったみたいなの」
そのラブリンスターとやらの声により闇堕ちさせられたということなのだろう。詳しいことは彼女にもわからないようだった。
1つだけ言えるのは今後、彼女の神楽は神に捧げられるという事。
作者:篁みゆ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年2月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 16
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