バレンタインデー~お花のチョコに想いを込めて~

    作者:日向環

     2月14日は、一大イベントの日である。
     元来、主に女の子の為のイベントであった気もするのだが、武蔵坂学園に関して言えば、男女の差はあまり関係がないようである。

    「男の子が女の子に贈ったって、別に構わないんだよねー。女の子同士、交換し合ってもいいし、男の子が男の子にあげるのも、それはそれでありだと思うのよね」
     ブツブツと大きな独り言を呟きながら、校内をチョロチョロと歩き回るツインテールの女の子。エクスブレインの木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)である。
     先日、武蔵坂学園に転校してきたばかりで、勝手がよく分かってはいないが、だからこそ、何かを企画したいと考えていたところ、タイミング良くバレンタインの時期と相成ったわけである。
    「親戚のお姉ちゃんが、学生の頃にみんなでやった企画らしいんだけどね」
     取り敢えず、近くにいた学生達を呼び集めて、自分の企画を打ち明ける。
    「お花にも食べられるお花があるって知ってるかな? そのお花をね、チョコでコーティングするんだって。お花には花言葉があるから、意中の人にチョコと一緒に花言葉を添えるって感じで、素敵だと思うんだけどな」
     食べられる花――所謂、 食用花。エディブルフラワーというやつである。
    「もちろん。手先の器用な人は、お花を模したチョコを作っちゃうのも、有りだと思うのよー」
     かなり手の込んだ作品になりそうだが、それだけに作り手の想いが込められているとも言える。
    「家庭科室を借りる手筈を整えるから、みんなでお花チョコを作らない?」
     みもざは同志を募るべく、プラカードを掲げて校内を徘徊し始めるのだった。


    ■リプレイ

    「花をチョコレートでコーティングですか。チョコレート作りも初めてなのに難しそうですね…」
     テーブルの上に並べられた材料を眺め、羽坂・智恵美はふむと小さく唸る。
    「お花のチョコレート、初めて作るのです~♪」
     普段からお菓子作りをしている天城・優希那も、花を使うのは初挑戦。
    「エディブルフラワー? バラやチューリップって食べられるのですねい?」
     摘まみ上げたチューリップを、マジマジと眺める護宮・サクラコ。
     クラブ【†―星葬剣―†】のメンバー3人は、楽しそうにチョコ作りを始める。
    「えへへ~楽しいですねぇ♪」
     バラをチョコでコーティングしていた優希那達に、
    「そういえば、優希那さんサクラコさんは、誰かあげる人いらっしゃるんですか?」
     智恵美がそう尋ねると、
    「ふへ!? お、おおお送りたい方ですか!?」
     優希那があわあわし始めた。
    「送りたい人? あはは、いるわけないでいす」
     サクラコはきっぱりと宣言。ふと隣に目を向けると、挙動が怪しい優希那が。
    「私より年下なんだしそんな人いる訳…。ええ!? 顔真っ赤っか!?」
     顔を真っ赤にしてモジモジしている年下の少女を見詰め、智恵美はがっくりと肩を落とした。
    「えとえと、他の方には秘密にしてくださいね?」
     ごにょごにょ…。ふむふむ。
    「えー?!」
    「さ、サクラコ様、絶対言っちゃダメなのですよ?」
    「言いません言いません」
     首をぶるんぶるんと振るサクラコ。
    「はー…」
     優希那の熱が写ってしまい、智恵美も顔を赤らめる。寮の皆にプレゼントするつもりで作ったチョコの中には、隠し味としてビオラの花弁。花言葉は信頼、誠実な愛、そして、少女の恋。
    「私もいつか素敵な恋ができますように」

    「ひとまずだ。私は向日葵のチョコレートが作りたい。美しい造形にしたいので、モデルが必要だ。だが、この時季、向日葵は入手困難…だから、そこに座っていて」
     神代・凛が目の前の椅子を指し示すと、向日葵がひょろひょろと移動してきた。ヘアバンドで向日葵を頭に固定した妙な仮面を被った生き物が、椅子に落ち着く。
    「ふむふむ。いいだろう、俺…ゲフンゲフン、俺の向日葵をとくと見て、最高のチョコレートを作るがいいっ!」
     あ、しゃべった。
     目の前の向日葵を見本にして、凛はチョコで形作っていく。一人でチョコ作りに参加する勇気はなかったが、贈る相手の目の前でチョコを作る勇気はあるらしい。
     カービングナイフを片手に、厚手の板チョコを器用にカッティングしてゆく。
     夢中で作業をしているので、手や顔にチョコが付いてしまっていることにも気付かない。
     その間、向日葵…じゃないカイル・マイスターは大人しく見守る。
     だが、ぼーっと見てるのも飽きてきたので、それとなくアドバイス入れてみたりと、さりげなく世話を焼く。
     やがて、凛はきれいな向日葵を完成させると、
    「どうだ、上手だろう?」
     自慢げに見せびらかした。
    「うむ。いい出来だ。で、食べていい?」
     じゅるりと涎を飲み込むカイル。
    「――今はだめ、バレンタインデーに渡さないとっ」
     わたわたと、凛は完成品を仕舞い込む。
    「エディブルフラワー…つくって、食べるか?」
     カイルが残念そうにしているので、仕方が無いからもう一品作ることにする。
    「食べる食べる! って、アレ…共食いになるのか? いいのかこれ? ま、いいか!」
     気にしたら負けである。

    「私は濃いめのピンクのバラを使おうかな、かわいいから」
     花を物色していた風音・瑠璃羽は、うろちょろしている木佐貫・みもざに一緒に作ろうと声を掛ける。
    「うん。作ろ、作ろ♪」
     ツインテールを揺らし、弾けるような笑顔で飛び跳ねる。
    「わたしは、チョコでメッセージカード作って、それに添えるんだ」
    「とっても可愛いと思う!」
     ピンクのバラを手にしている瑠璃羽に、みもざはうんうんと肯いた。
     板状のチョコにハートや星の形のカラーチョコやチョコペン、アラザンでデコレーションをする。四隅は薔薇の花でデコレーション。真ん中に、チョコペンでメッセージを書くと出来上がりだ。
    「チョコのメッセージカード、みもざさんはできた?」
    「うん!」
     作ったメッセージカードを掲げて、みもざはニッコリ。
    「んー…ノリと勢いで作ったけど…大丈夫、かな?」
     作ったものの、さてどうしたものかと、瑠璃羽はチョコのメッセージカードと睨めっこ。
     記したメッセージは『with all my heart』。
    「大丈夫だよね?」

    「チョコは良いものだー!」
     花を物色中のミカエラ・アプリコット。
    「食べられるお花ってあるんだね。どれどれ」
     取り敢えず目に付いた素材を摘まんで、口に放り込む。
    「んー、香りがあって、面白いや」
     ゆっくりと咀嚼しながら素材を味わう。
    「これ、チョコにしちゃえば楽しそうだね!」
    「これなんかどうでやす、旦那?」
     ぬうっと背後から迫ってきたのは、みもざだ。手には殻付きの胡桃が握られている。
    「あたいはヒマワリが好きなんだ。小さいヒマワリは、お花食べられるんだって!」
     みもざの意見は、取り敢えず聞き流す。
    「これを、そのままチョコにどぼん!」
    「おお~。スプラッシュ~!」
     ドロドロのチョコが周囲に飛び散る。
     直ぐに引き上げて冷やすと、チョコでできたヒマワリが完成。
    「みもざにも、ひとつあげる! あ、手で持ったら、べとべとになるよー♪」
    「大丈夫。もう手遅れだし」
     そこには、チョコでコーティングされたみもざがいた。

     ピンクの小さな薔薇とパンジー、ビオラを手に、悪戦苦闘しているのは桃之瀬・潤子だ。机の上には、色々考えてきたメモのノートが広げられていた。
     かっぽう着と三角巾を付け準備万端。
     ノートを見返し作業開始。作るのはチョコのシフォンケーキだ。
    「クラブのみんなは、喜んでくれるかな~♪」
     みんなの笑顔を想像しつつ、湯せんでチョコを溶かす。その間、オーブンで生地を焼く。
     ふんわりと焼き上がった生地にチョコを付け、冷めるのを待つ。
    「可愛く出来た♪」
     丁寧に1つずつ乗せた花は、チョコを利用してくっつけており、まるで花の冠の様だ。
     2個作るのは大変だったが、どうやら失敗しないですんだようだ。
     後は、プレゼント用にラッピングして完成である。
     潤子は満足そうに、にっこりと笑んだ。

    「食べられるお花ってすごいの!」
     色とりどりの花を前に、壬風音・ゆすらは目を輝かせる。
     初めてのチョコ作りなのだが、大好きな人達の為に頑張って作ろうと、ぐっと拳握りしめ、ばしっとエプロンを華麗に装備。
    「みもざちゃん、色々教えてくれる?」
    「はいはーい♪」
     呼ばれたみもざが、ダッシュで駆け寄ってきた。盛大にチョコ塗れだが、敢えて突っ込まないことにする。
     花は撫子を使うことにした。チョコはホワイト、ストロベリー、ミルクチョコと複数使うことにより、見た目の華やかさを狙う。
     シュークリームの生地を土台にホイップクリームをたっぷりと盛り、撫子の花びらチョコで丁寧に飾り付けを行う。
     ちょんと乗せたラズベリーやブルーベリー、ミントの葉が彩りを添える。
    「ちょ、ちょっと傾いちゃった気がする、けどっ。料理は愛情だもん! らぶはいっぱいなのよ!」
    「愛嬌があって良いと思うもん」
     みもざも太鼓判。
    「こっちは後でみんなで食べる分ね」
     贈る分は、箱に大事に入れて可愛らしくラッピングだ。

    「華やかやのに簡単で、いい企画やんなぁ」
    「チョコかけるだけなら私でもできると思うんだ!」
     作業に熱中している周囲を眺め見て、黄嶋・深隼が零した言葉に、この企画に彼を誘った茶之木・百花が応じる。
     料理があまり得意でない百花だが、料理上手な深隼がいるから安心だ。
     パティシエ志望の本領発揮だとばかりに、深隼は巧みに百花を誘導し、作業を進めていく。
    「大好きな白百合ちゃんにプレゼントっていう気持ちが、一番大事やで!」
     四苦八苦している百花の様子を見て、深隼が声を掛ける。
    「むむ、思ったよりむずかしい…」
     ピンクのバラをミルクチョコでコーティングしながら唸っていた百花だが、深隼の助言を受けて贈る相手の喜ぶ顔を思い浮かべる。
    「…できた! できたよ深隼くん!」
     晴れやかな笑顔を深隼に向けた百花の目に飛び込んできたのは、ホワイト・ミルク・ビターの各種チョコを使った花にペンタスを混ぜた花束。
    「これは百花ちゃんに。逆チョコで友チョコ? っていうんかなー」
     百花ちゃんも大事な友達やしと、照れくさそうに小さな声で付け加える。
    「えへへ、ありがとう! 綺麗だなぁ、おうちに飾るね!」
     驚いていた百花の顔に、嬉しげな笑みが差す。食べちゃうの、もったいないなぁと、呟く彼女の耳に、深隼の照れくさそうに付け加えた言葉が届いたのかどうかは分からない。
    「白百合ちゃんも、喜んでくれたらいいなぁ!」
     デンファレを混ぜた花束を見詰め、深隼は言った。
    「うん、きっと喜んでくれるよね!」
     きっと喜んでくれるはずと、百花は大きく肯いた。

     恋人同士で参加しているのは、オリヴィア・ルイスと雨宮・蒼埜だ。
    「食べられるお花…聞いたことはあるけど、実際に使うのは初めて。どんな味がするのかな…ちょっとワクワクしちゃうな」
     小さなバラを手に取り、蒼埜は柔らかい笑みを浮かべた。
     オリヴィアが手に取ったのは、ノースポールと淡いピンク色のナデシコ。蒼埜はバラを使うようだ。
     蒼埜は赤、青、緑、黄色、黒で色付けしたホワイトチョコで、バラの花のコーティングを始めた。
     所属しているクラブ【魔法少女喫茶ぷりずむ☆くいんてっと】のみんなにもプレゼントしたいので、5色の色分けを行った。そんな想いはオリヴィアも同じらしく、ノースポールを使ったチョコはクラブの少女達への贈り物らしい。
     このナデシコは…と、オリヴィアはちらりと隣に視線を向ける。蒼埜は自分の視線に気付かずに、熱心にチョコレート作りをしていた。そんな彼女の様子を見たオリヴィアは思わず微笑む。
    「――ああ、蒼埜、チョコレートが頬についているよ」
     指で掬い取ったチョコレートをぺろりと舐めて、甘いねと笑顔を向ける。
    「え、チョコなんて付いてた――っ!?」
     不意打ちに、蒼埜は頬を赤らめた。彼女が手にしている緑と青のバラのチョコのセット。誰に贈る為のチョコなのかは、当日までは秘密だ。
     そして、オリヴィアのココアをふるった生チョコの上に飾ってあるナデシコ。ナデシコのように可憐な愛しい恋人への贈り物。花言葉は、まだ内緒である。

     クラブ【手芸倶楽部】に所属している小学1年生4組は、仲良くチョコ作りに没頭していた。
    「かんなは何のお花さんにしようかなぁ?」
     材料の花を選びつつ、そのままでも食べられるなんてしらなかったと、朱逢・環那は呟く。
    「このお花たべられるの? すごーい」
     両月・華絲は、目をまん丸にして驚いている。
    「薔薇も綺麗だし、チューリップも可愛いのね」
    「バレンタインの贈り物にチョコレート、っていうのはすっごく商売の匂いがするけど! まぁ、こうして集まって遊びに行くきっかけとしては悪くないわ」
     目を輝かせて花を選んでいる環那の横で、マルティナ・アーレンスが、どこか冷めたような口振りで呟いた。彼女の手には容器に入った桜の塩漬けが。おはぎとか、お団子用にとお婆ちゃんが作り置きしていたものを分けてもらったらしい。
    「…チョコには合うのかしら?」
    「…いい香りね」
     材料の花々に目を輝かせていた両月・葵絲が、ふんわりと漂ってくる桜の香りに興味を惹かれる。
    「桜いれちゃうなんて、ちょっと早い春みたいね、マルちゃん」
     春を先取りだと、華絲の表情も自然と緩む。
    「ケイちゃんはお花、何にするの?」
    「ケイはねー。いちごと、みかんと、りんご」
     キィちゃんの薔薇もとってもきれいと、双子の姉妹は材料を見せっこ中。姉妹一緒に、大好きなお兄ちゃんにプレゼントするのだ。
    「ね! なんだか、お花畑さんみたいっ」
     満足いく出来映えに、環那は思わず歓声をあげた。結局ぜんぶの花を使うことにした環那は、マルティナからも桜の塩漬けをお裾分けしてもらっていた。
    「みんなは、誰にあげるの?」
    「恋とか愛とかホレタハレタの縁なんてまだまだないけど」
     環那からの問い掛けに、マルティナは小さく肩を竦めた。
    「かんなはねー、ちかちゃんです! 将来のおよめさんとして、お料理もお菓子作りも目下、しゅぎょーちゅうなのよ!」
     頬を赤らめる環那の横で、葵絲が容器から怪しげな物体を摘まみ出した。
    「かわいいと、思わない?」
     そっと取り出したのは、なめこだ。無表情だが、妙にわくわくしている。
    「じゃあこの上に飾って仕上げ!」
     たっぷりと1分間程、葵絲の掌の上でぷるぷるしているなめこを見詰めていた華絲だったが、
    「えへへ、かわいー!」
     チョコの上に乗せた。

     こちらはクラブ【無銘草紙】の男子4人組。
    「…さ、桜だって! ちょっと歪んでっけど!」
     桜の花が上手く見付けられなかったので、サクランボの実を切って代用することにした桜倉・南守は、チョコ作りは人生初だ。
     桜の花をイメージしてサクランボの実を並べてみたものの、ちょっと歪んでしまっている。仲間達からのフォローも有り、自信が出てきた南守だったが、やっぱり気になるのは他人のチョコ。
    「本命がいない寂しいヤツとか言うなよー? よし、南守にはセロリとかブロッコリーの変わり種詰めをプレゼントしてやろう」
     とってもいい笑顔を向けてくる咲宮・響。
    「…いや待った、そのセロリは勘弁っ!」
    「要は気持ちだろ、気持ち」
     本当にセロリを手にしているから怖い。
     そんな響だったが、ビターチョコに付けたノースポールは既に完成している。
    「花が好きなんですよね、僕自身の名前もそうだし…」
     響に花言葉とか得意そうだと振られた楯縫・梗花は、一口サイズのチョコレートの上にビオラの花弁を丁寧に置きながら答えた。
    「…気に入ってもらえると良いんだけどな」
     赤いチューリップの花の裏側だけをコーティングしながら、七篠・神夜がボソリと呟く。
    「あれは何か脈ありか? …邪魔しないでやるか」
     黙々と作業をしている神夜を見て、響は微笑む。
     梗花も嬉しそうに笑んでいた。
    「ん?」
     神夜がふと気付くと、視線が自分に集中していた。思わず笑顔で誤魔化そうとするが、
    「やー、幸せそうだなって」
     南守がにやにや。残念、誤魔化しきれなかったらしい。
    「どんな感じか、お兄さんに見せてごらんなさい。 …なんてな?」
     苦し紛れに、仲間達の作品を鑑賞する。
    「貰える当ては無いけど、今年はいいバレンタインを過ごせそうだよ」
     並べられた皆の作品を眺めて、南守は言った。机の上は、まるでチョコの花畑だ。
    「皆の笑顔が咲く、そんな日になるといいな」
     梗花が肯いた。

     それぞれの想いが交差するバレンタインデーは、明日へと迫っていた。

    作者:日向環 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月13日
    難度:簡単
    参加:21人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 9
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